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第四十七話 雪原の美女と氷河の鉄槌

第四十七話更新。


雪原に現れた褐色の美女は突如としてほのか達に襲いかかる。

黒きオーラでその身を包み、狂気の光を宿し雄たけびを上げる彼女の正体とは……。


突如として現れた褐色肌を持つうら若き女性はクラストを蹴散らした後にほのか達に襲いかかってきた。


「アアアァァァァアアアアアアァァァァ!!!」


 腰の据わった拳が打たれる。狙われたアイネが腕を上げて外に外す様にいなし防ぐ。反撃の回し蹴りを繰り出すと相手も同様に回し蹴りを放って蹴りと蹴り同士がぶつかる。


「くっ……!! 一撃が重い!」

「グオオオオォォォ!! 飛リュウ脚ッ!!」


横回転から蹴りを二回繰り出し、最後に踵落とし。腕をクロスして防御するが最後の一撃でアイネが後方に吹っ飛ぶ。


「天狐拳!!」


神威を装備したシリウスが拳を転移させて不意打ちを行う。

だが、後ろに目でもあるのかと思わせる動きで虚空より姿を見せた拳を避けた。

そのまま身を翻してシリウスへと接近。白色の魔力を宿した拳を打ち込む。


「どおっ!?」


 よもや避けられるとは思ってもいなかった彼は反応が遅れる。間一髪身を反らす事で拳を避けた後にその場で横回転し回転蹴りを入れて蹴飛ばし距離を取る。


 すぐに体勢を整えて跳躍、頭上から高速連続キック。神威の力で多方向から蹴りの雨が襲いかかる。同時に来る複数の攻撃を彼女は避ける事もなく、全身を覆う様に氷の壁を生み出して全てを受けきる。


「火槍一穿、緋閃槍っ!!」


 ルーンに炎をまとわせたユグドラが鋭い刺突を繰り出す。女性を覆っていた氷壁が砕ける。迫る穂先を足を上げて、ついで踵落としで地面に叩きつける。そこからルーンが凍り始める。


「ちっ……! はあっ!!」


 舌打ちしてユグドラはルーンを手放し、カラドヴォルグを抜き放って一閃。飛び退かれてかわされる。再びルーンを掴んで魔力を送り、炎で氷を溶かす。


 ユグドラに注意が向いている隙を狙ってリースリットが高速移動で接近、フォルテで斬りかかる。身を翻してからでは間に合わないと判断したのか、女性は地面に足を振り下ろす。地面から背後に氷の柱を出現させ、リースリットの攻撃を防いだのだ。


 防御されるとは思っていなかったのか驚きの表情を浮かべる。素早く身を翻した女性は拳を作り柱に向かって正拳突き。腰の据わった重い一撃が氷の柱を砕き、破片となった氷がリースリットへ襲いかかる。


 防御魔法を展開して防ぎ後方へ退避、すぐにその場からナイトチャージで駆ける。地面に女性の飛ばした氷柱型の魔力弾が次々に突き刺さる。振り切りってから雷槍を飛ばして牽制、飛行して滑る様に動いてかわされる。


 黒き旋風と共に女性の前に姿を見せたのはアウル。扇を広げて一薙ぎ、女性を黒い竜巻が呑み込んだ。しかし、竜巻が半ば辺りから凍り始めて爆ぜる。

 中から姿を見せた女性はアウルを見つけ一気に接近。拳と蹴りによる猛攻を仕掛ける。スレスレでかわすアウル。次に来た回し蹴りが側頭部を狙うが直撃寸前でふくろうの羽根になって姿が消える。


 再び集結した羽根の中からアウルが姿を見せ、不敵な笑みを浮かべる。扇を閉じ、回転し扇を振るう。女性も同タイミングで回転蹴りを繰り出し両者の攻撃が激突、激しい衝撃波を生む。


拮抗する両者の一撃は互いを吹っ飛ばす形で相殺。下がったアウルに変わってバルドが接近して大剣を振るうが軽やかにバク転して回避される。


「ったく、なんなんだコイツは」


 肩にケルベロスを担いで悪態を吐く。いままでの欠片のガーディアンは此処まで剥き出しの敵意を出してはいなかった。なのに、黒い禍々しいオーラをまとうこの女性からは自分以外はすべて敵だとでも言わんばかりの殺気が溢れ出ているではないか。


「元ぬし」

「アウルか。あいつはなんだ? オーパーツの欠片って事で間違いないよな」

「うむ。しかし、それにはわっちが答えるよりもぬしに答えてもらった方が早いかの」


念話でリースリットを呼んだのだろう。程なくして彼女がこちらに飛んで来た。


「あれは……オーパーツだけどオーパーツじゃない」

「……どういう事だ?」

「肉体は、精霊のもの……あの人は、氷の精霊グラキエス」


彼女から語られる事実に驚き目を見開く。自分達と敵対する女性、彼女は氷を司る精霊グラキエスなのか。

赤く光る眼光と牙を見せて憤怒の形相を浮かべている。そこからは精霊特有の清純な魔力は一切感じられない。溢れるのは黒く禍々しい気配のみ。


(どういう事だ? グラキエスから感じる魔力は澄んだものじゃない。まるで、モンスターだ)

「彼女はグラキエスじゃ。わっちが言うのじゃ間違いありんす。先までわっちとぬしは彼女と会ったが、会った時には既に彼女はああなっておった。何がどうなったのかは、わっちは分かりやせん」


兎に角、この情報をほのか達にも伝えるべきだ。すぐに彼はほのか達へと念話を繋いでリースリットから語られた情報を伝える。


「あの人が氷の精霊!?」

「シルフと全然違うぞ!! 彼女達はこんな禍々しい魔力ではなかった!」


先に出会った四姉妹とは全く異なる魔力の感覚に戸惑う。グラキエスの展開する氷柱の弾幕をかわしながらフィリスは思考を巡らせる。


(ニーベルンゲルゲンは持ち主の願望や欲望を叶える言い伝えを持つ古代遺産。欠片になった今でもその能力が残されるとしたら……!!)


ハスターとの戦いの時に、ウィンドエレメントの能力が飛躍的に上昇したのを思い出す。あの時、ハスターはエレメント達に何かを語っていた。


直後に彼等は能力を上昇させて攻撃をしてきた。

それにハスターを守ろうとして自らの身を盾にする様な知的行動を見せた。


「まさか……!!」


勘違いじゃない。欠片には対象の願望を叶える力が備わっている!

本来の能力とは大きく低下していると思うが、それでも想定するとその力は絶大なものだ。


「フィリスちゃん、どうしたの!?」

「みんな気を付けて!! いまのグラキエスは欠片に取り憑かれてる」

「マジかよ!?」

「精霊が欠片に取り憑かれるだと!? あれほどの魔力を持つ存在がそう簡単に負けるのか!?」

「もし、グラキエスの願望を基に欠片が取り付いたとしたらそこから浸食して精神を乗っ取れる! オーパーツって呼ばれるニーベルンゲルゲンだからこそ出来る!」

「グラキエスの望みってなんだよ!」

「アァアアアァァァァ!!」


 雄叫びと共にグラキエスを中心に無数の氷の棘が大地から飛び出してほのか達に襲いかかる。追尾するそれらを飛行し身を翻して魔法をぶつけて相殺する。そこに自ら飛び、アウルへと一気に接近して拳を叩き込む。扇を広げ受け止める。


「ワタシノッ、ハナバタケニ、ドソクデフミコムナアアァァァァ!!」

「花畑!? もしかして……」

「グラキエスさんは、ここを守ろうとしてる!?」

「ニーベルンゲルゲンは、その願望を利用してるの!?」


グラキエスの時折り口にする言葉。彼女は、このグラキエス氷窟の近くに咲き誇る花畑を守ろうとしている。

もしかしなくとも、欠片はその願いを利用して彼女に憑いているのだ。


「どうにかして欠片を引き剥がさないと!」

「でもっ、どうしたら……!!」

氷狼天喰吼ひょうろうてんくうこう!!」


アウルを押し返し、扇を弾いて素早く彼女の懐に潜り込むと両手を合わせて掌底を叩き込む。狼の頭部の形をした氷の闘気が放たれアウルが吹き飛ばされる。


「っ……! ええい、いい加減に目を覚まさぬかグラキエス!!」


 全身に来る鈍痛に顔を歪ませながらアウルが叱責を飛ばす。しかし、その叱責など何処吹く風。グラキエスは雄叫びをあげてアウルに再度突撃してくる。


 そこにリースリットがアクセラレートで雷光の如き速さで接近してフォルテで斬りつける。奇襲の形となった攻撃を腕をクロスして受けるが、振り抜かれ弾き飛ばされる。吹っ飛ばした彼女はすぐに次の攻撃に転じる。金の魔法陣が展開され、背後に戦乙女の紋章が浮かんだ。


「貫け、サンダースピア。ファイヤーー!!」


 無数の雷槍の弾幕が放たれる。グラキエスは弾き飛ばされた勢いに逆らわずに降下し、地面に激突寸前で身を捻って足から着地。両手を合わせ、掌の間に魔力を集束させる。白色の魔力が掌から零れる位に膨張した所で一気に前に突き出す。


白色の魔法陣が展開され、両手の間から砲撃が発射された。砲撃魔法はリースリットの放った弾幕を悉く打ち消し、彼女すら呑み込もうとする。


 眼を見開いた彼女はしかし、すぐに高速移動でその場より最速で回避行動をとる。姿の消えた彼女のいた場所を砲撃が駆け抜け、遅れて氷結が始まる。天へと伸びる氷の架け橋が出来あがり、砕け散る。



 距離を取った場所にリースリットは姿を見せ自身の左腕に来る違和感に腕を見た。腕を覆う様にして僅かばかりの氷が付着している。

魔力を流して氷を破壊、手を開いたり閉じたりして特に問題なさそうな事を確認してからフォルテを構え直す。


「とにかく、攻撃を当て続けて秘石をグラキエスから引き剥がすしかない」

「それしか方法はなさそうだな」

「精霊と戦うのか……。気は引けるがやむを得ないか!」


彼女にまとわり付く黒いオーラ……あれを剥がせば、グラキエスは元に戻る筈だ。それを目的としてほのか達も戦闘を始める。


「シャインバレット、シューット!!」


 頭上に飛んだほのかが魔力弾を一斉に飛ばしグラキエスの周囲に着弾させる。粉雪が舞いあがって視界をさえぎられる。続けてウィルの先端に魔力を集め一つの魔力弾を生み出す。


「行って、ブライトキャノン!!」


 圧縮された高密度の魔力弾を発射する。一つの魔力弾に込められた高密度の魔力は高速で急降下し煙の立ち込める中央に飛び込んで爆発する。粉雪の煙が晴れると防御体勢に入っているグラキエスの姿が見えた。腕と腕の間から見える赤い瞳は闘志を失っていない。


防御を解いて彼女が足を上げすぐに地面に振り下ろす。

すると、ほのかの真下の地面が盛り上がり次の瞬間に氷の柱が飛び出して来た。


「にゃあっ!?」


 鋭く尖った先端を持った柱をギリギリで避ける。危うく串刺しになる所だったのに肝が冷える。柱の方に注意が向いていたほのかだったが、柱の面に光の反射で一瞬だけグラキエスの姿が映った。


ハッとなりすぐに背後を向く。何時の間に回り込んだのだろうか、彼女はほのかの背後におり拳を振りかぶっていた。接近を許した彼女はディフェンシブを張る。


 拳が防御障壁ディフェンシブに激突。耐えきれずにほのかの方が障壁ごと吹っ飛ばされて背後にあった氷の柱に叩きつけられる。背中から来る痛みに苦悶の表情を浮かべ動けないでいる彼女にグラキエスが接近して柱ごと薙ぎ倒そうと蹴りを繰り出す。


しかしそれはほのかに届かず、割って入ったシリウスの腕に阻まれる。


「ほのか、一端下がって」

「ありがとう、シリウス君……」


 一時離脱するほのかに代わってシリウスがグラキエスと接近戦を交える。一撃重視の重い攻撃を仕掛ける彼女とは逆にシリウスの攻撃は数でものを言わせるタイプだ。


目にも止まらぬ速さで繰り出されるパンチの雨はグラキエスを防戦へと誘う。


「連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打!!!」

「…………」


防御して耐えているグラキエスが眼をカッと開く。突き出された右手の拳を受け止める。そのまま彼の懐に体を潜り込ませ、肩で背負う様に回す。


「およ?」


 っと言ったのも束の間、グラキエスに背負い投げされて空中から地面に叩き落とされる。シリウスの援護をしようとフィリスがアクアスパイクの弾幕を降らすがグラキエスはそんな弾幕を避けながらシリウスに接近する。


起き上がった彼に向かって正拳突き。重い一撃を持った拳が彼の胸を穿った。


「…………?」

「……なんてね」


ニヤリと笑うシリウス。グラキエスの腕を掴んで動きを封じた途端に青い炎が身体から溢れて爆発を起こした。


「アアァァアアアアァァァァ!?」

「残念それは代わり身さ」


炎を浴びて絶叫するグラキエスの頭上にいたのはシリウスだった。先ほどやられたのは彼の生み出した分身……いわば代わり身である。


「お返しだよ。狐火!!」


青い火の球が複数生み出されグラキエスに殺到する。爆発が巻き起こり一帯を煙が包み込む。

これで少しは大人しくなったかな~……などと思ったのだがグラキエスの姿がなくなっているのに気付いた。


「あれ? いなくなった?」


首を傾げ疑問符を浮かべる。その時、背後に降り立つ人の気配――


「……後ろっ!?」


背筋がゾッとした彼はその場に屈む。その上を蹴りが通り過ぎる。


「のおぉぉーー!? むこうも代わり身使った!?」


 実際は氷の壁を張ってそれを盾にして防いだ後に彼の背後に回り込んだのだが、まあ似た様なものだろう。後ろを取られたシリウスは攻撃を避けたと同時に前方に脱兎の如く逃げる。しかし、回り込まれて逃げられない。


「おおっ!?」


 繰り出される拳と蹴りの連打。それをいなしてなんとか防ぐも防戦状態。頬を掠める様に飛んでくる拳に額から汗が飛ぶ。


「シリウス!!」


 アイネが救援に駆け付け、拳を交える両者の間に飛びこむ。シリウスを狙った拳を受け止めて攻撃の手を抑える。割り込んで来たアイネに今度は狙いを変えた様でそのまま二人は交戦を始める。


(くっ、精霊とはここまで手強いのか……!!)

「オオォォォオオオオオアアアアッァァァァァ!!!」


冷気をまとった拳や蹴りが彼女の体力を削ってくる。冷気に当てられ徐々に腕に力が入らなくなってくるのがじわじわと伝わって来た。


「水棍必倒、水爆壊!!」


両者の頭上から落ちて来たマルグリットがグラキエスへ棍を叩きつける。炸裂する水と打撃によってグラキエスが地面へと叩き落とされる。


ゆらりと立ち上がるグラキエスが雄叫びを上げ、不意打ちをした不届き者に赤い目を向け飛び立とうとする。しかし、雪原の下から太い水流の帯が飛び出して彼女の身体に巻き付いて来た。


捕縛魔法ツイストカーレント。強く締め付けてグラキエスの動きを封じ込める。


「あかね、急いで! あまり長くは持たない!!」

「ごめんなグラキエス。痛くても我慢してぇな!! 来たれ、天より降りし破滅の業火、全て狂わす三角形トライアングル。葬火の追悼歌《フラムス・メモアーレン》!」


インペリア式魔法を詠唱し発動。グラキエスの頭上に魔法陣が展開され中に無数の正三角形が生み出される。そこから放たれる火球がグラキエスを襲う。


 氷属性に対して火属性は絶大なダメージを与える。グラキエスは氷の精霊。火属性への耐性は言わずとも分かるだろう。苦痛を帯びた悲鳴が上がり、その身にまとっている黒いオーラがうごめいた。


「出てくるぞ、気をつけろ!!」


 グラキエスの身体からオーラが剥がれ外へと飛び出してくる。同時に糸が切れた様にグラキエスはその場に倒れて動かなくなる。助けに行きたいところだが、目の前にいる物体から眼を離せない。


黒いもやもやとした球体の中に浮かんでいるのは白色の欠片。遂に姿を見せた秘石の欠片が輝きを増して周囲を白一色に染め上げる。

 眩しさに目を手で覆って光をさえぎる。次に彼女達の目の前に立ち塞がっていたのは、灰色の胴体を持った全長十メートル以上の巨大なワームだった。


[オルオオオォォォォ!!]


大きく口を開け雄叫びを上げる。口の奥で黄色い怪しい光が見える。それがまるで第二、第三の顔の様に映った。


「あれが秘石のガーディアンか!」

「よりによって芋虫かよ!?」

[極寒の地に現れる怪しき光……さしずめ、アフール=ザーですね]


 バハムート命名『アフール=ザー』は一つ咆えた後に頭から地面に突っ込み地中へと潜ってしまった。地鳴りが響き地面が振動する。地上にいたアシュトン、サヤ、クロウは足下から感じる大きな揺れにその場より飛び退く。


地面が盛り上がってアフール=ザーが口を大きく開けた状態で飛び出して来た。


「俺達を丸呑みにする気か」

「上等だ。打っ飛ばしてやる!!」


爪から衝撃波を飛ばし伸びきったアフール=ザーの胴体を攻撃。太い胴体に命中して炸裂するサヤの攻撃に僅かに体を震わせて動きを止める。その間にクロウが胴体を駆け上がっていく。


「裂牙斬!!」


跳躍して相手の開き切った口に目掛けて斬撃を飛ばす。口の中に吸い込まれる様に斬撃が飛び込んで口内を傷つける。

体内を攻撃されて苦悶の声を上げてのたうつ。怯んでいる内にアシュトンが魔術の詠唱を開始。赤色の魔術陣が展開される。


「地の底より這い出る大火。汝、紅蓮の魔人の吐息なり。愚かなる贄を焼き尽くせ!! イフリートブレス!!」



 上級魔術『イフリートブレス』が発動。炎が一つ、また一つと現れて円を描き縦回転を始める。赤い光の輪になると中から灼熱の火炎放射が前方に向けて放たれた。

 対象が大きければ大きいほどその効果を増すイフリートブレスは氷属性であろうアフール=ザーにとっては非常に効果的な魔術。その太い身体を高温の炎が焼き焦がし灰色から黒色に染めて行く。


「これで終わりだ! 紅蓮剣!!」


炎を刀身に宿すカラドヴォルグで上段から叩きつける。頭から地面に出ている部分までを綺麗に真っ二つに両断。一度、痙攣けいれんしてからアフール=ザーは左右に崩れ落ちた。


仕留めた手応えにユグドラは剣を鞘に収める。


(なんとも味気のない相手だったな)


思った事はそれに尽きた。図体が大きいだけで攻撃は噛み付きだけ。特別な行動を見せなければ攻撃もない。見掛け倒しか……。

まあ、倒せた事だ。あまり深く詮索しなくともよいか。


「ユグドラさん! 後ろ!!」

「っ!?」


 ほのかの声にハッとなって背後を振りむこうとした。しかし、彼女の身体に何かが巻き付き縛られる。強い力で引っ張られ、宙に持ち上げられる。

そして、彼女の前に立っているのは真っ二つになったアフール=ザーだった。


「バカな、確実に倒した筈なのに!?」


 二つに裂けたままなのに相手は生きている。その断面から伸びている管が自分に巻き付いているのだと今になって気付いた。更に断面部がボコボコとうごめき、そこから再生が始まってアフール=ザーは元の姿へと戻ったではないか。


それも、双頭となって……


「くっ、再生しただと!?」


苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるユグドラを更に強く締め付け動きを封じる。苦痛に顔を歪ませた彼女へ片方が大口を開けて呑み込もうとしてきた。


「淵王灰塵破!!」


 しかし、アフール=ザーの胴体に横一文字の線が奔る。切り口から黒い炎が噴き出し、片方の体がずり落ちた。落下するユグドラの脇を金の閃光が駆け抜けると巻き付いていた管が切れて自由の身になる。


「バルドにピステールか、すまない助かった」

「ん……」

「気にするな。……にしても、厄介な相手だな」


 切れた部分が地面に沈む。そして新たな胴体が伸び、斬られた胴体からも同様に頭が生まれる。あっという間に四頭のアフール=ザーが出来てしまった。再び一頭が体を伸ばして大きく口を開けてくる。

それをバルドがバハムートに闇の炎を纏って両断。真っ二つに斬られて戻るそれは切り口から再生し、またも二つの頭となる。


「斬れば斬るだけ数が増えるか……」

「これが、奴の能力か」


こちらが攻撃を当てれば当てるほど向こうはその頭数を増やし数で押し切るだろう。それぞれの口内に光が集束。白色の光線が放たれる。


それがユグドラ、バルド、リースリットに向かって迫る。それぞれが飛び退いて攻撃を回避。着弾すると地面に氷の花……いや氷の棘が生えた。


「砲撃まで撃てるのか!?」


身体から生える管を伸ばしてほのか達を捕まえようとし、更に隙あらば氷の砲撃で氷漬けにしようとする。


「チクショウ!! 近づけねェ!!」

「こうなったら、あたしのシュピラールフォームで……!」

「ダメだプレセア! お前のあれは左右からの攻撃に弱い。迂闊に突撃すれば多方向からの同時攻撃でやられるぞ!!」

「うええぇぇ!! 無理無理無理ですよ~!! こんなの無理ですよーー!」

「泣き言言うんじゃねえよマルグリット!! 気合と根性でなんとかすんだよ!!」


弱冠じゃっかん涙声で叫ぶマルグリットに叱責を飛ばし伸びてくる管を魔力弾で破壊して氷の砲撃を避ける。



彼女達の奮闘をオズワルドは離れた場所で見ているしかなかった。


「いかん。このままではほのか君達が危ない」


アフール=ザーの分裂再生能力に苦戦を強いられている彼女達を見て手に拳を作る。懐に手を入れてそこから取り出したのは待機形態の無名のターミナルだった。


「私に戦えと言うのか……」


ターミナルはただ無言で光の反射で光る。


「……そうか、ワシは…ワシ・・からわたし・・・に戻る時が来たのかもしれん」


何かの覚悟を決めたのか彼はターミナルを握りしめ戦いを繰り広げる前を見据えた。



 タイミングよく襲い来るアフール=ザーの噛みつき攻撃を砲撃で迎撃する。砲撃の衝撃で頭部が吹っ飛び地面に落ちる。罪悪感を感じるもそれを気にしている余裕はない。


何故なら敵は吹っ飛ばしたり斬り倒したりすればするだけ再生しその頭数を増やしていくのだから。既にその数は十は超え、回避も難しくなってきた。


「ほのか、危ない!!」


 一頭に意識を向けていた彼女に別の頭が伸びて来た。口から放たれる白色砲撃。咄嗟にウィルが自動詠唱でディフェンシブを展開し砲撃を受け止めるも耐えきれずに爆ぜた。


「きゃあっ!?」


 障壁の爆発の衝撃で吹っ飛ばされる。飛行魔法が解除されて落下するほのかを呑み込もうと体を伸ばす。その時だ、突如として地面を吹き飛ばして地中から黒い巨人が飛び出して来たのだ。


 それが大きな手を拳に変えてストレートパンチ。横っ面を殴られてアフール=ザーが吹っ飛んだ。落ちるほのかの下に手が差し出され、その上にぽてっと落ちる。


「ふえ? これって……!?」


 起き上がってその黒い巨兵を見上げ彼女はハッとする。その風貌は見た事があるものだった。シルフ渓谷で見かけた、あの土のモンスター『ゴーレム』そのものだったのだ。


「ゴーレム!? 何でこんな所に!?」

「大丈夫か、ほのか君」


その影から姿を見せたのはオズワルドだった。

彼の登場にその場にいた全員が驚く。


「局長!? それは……!?」

「ワシの……。いや、私の生み出した鉄巨人だ」


彼の魔法陣が展開される。土色の魔法陣が地面に複数展開された。


「私の使う魔法は地属性。そしてこれが使役魔法だ。立ち上がれ、地の底より出でし鉄巨人。汝、その力を持って全てを踏み潰せ!! 錬鉄招来、アイアンゴーレム!!」


 魔法陣の広がっている地面が浮き上がり、鉄へと変換される。複数浮かんだ鉄の塊が集結を始め、人の形を形成していく。最後に頭部が合体し、紫色の眼が怪しく光る。鉄巨人アイアンゴーレムは総勢七体。


「奴の動きを止める。その間に本体を叩くのだ!!」


 全ての鉄巨人が動き出しアフール=ザーの身体を捕まえる。もがき暴れる彼等をがっちりと掴んで離さないゴーレム達に冷気の砲撃を浴びせる。

しかし、元が鉄だからだろうか。彼等はまるで平気な様子でアフール=ザーを締め上げる。


「本体って何処だよ!?」

「反応が全部の頭からするのですーー!?」

「どれが本物なんだ? 間違えればまた増えるぞ!」


斬ったらまた増える事が分かっているのでなかなか踏み込めない。ニの足を踏んだままのほのかの隣にバルドが立つ。


「バルドさん、どうすればいいの?」

「……目の前にあるものがすべて真実という訳じゃない」

「ふえ?」


何の事だろうか。急に言われて首を傾げる。


「眼に映るもの、手で触れたもの、五感で感じたものが全てって訳じゃない。精神を研ぎ澄まし、意識を集中しろ。お前は感知能力が優れている。もしかすれば、僅かなほころびから答えを見つけ出せる筈だ」

「私に、出来るの?」


不安そうに見上げると、バルドはフッと笑って額を人差し指で小突いた。


「その答えは、もうとっくの昔に返した筈だ。そうだろ?」

「……うん。そうだったね。私やってみるの!!」


出来る出来ないじゃない。やってみなきゃ答えなんて分からない。


「ウィル、感知魔法を使うよ。手伝って」

[了解ですマスター]


感知魔法を発動する。自分を中心に脳に周囲一帯の情報が入ってくる。

それがアフール=ザーを捉えた。

地上に出ている頭部から感じられる秘石の欠片の反応。それは本物の欠片の反応の様に思えた。


(あれ…?)


 しかし、ほのかはそこで違和感を覚える。アフール=ザーが最初放っていた黒くて禍々しい感覚が伝わってこないのだ。あるのは膨大な魔力の反応だけ。グラキエスを覆っていた黒いオーラがなくなっている。


違う……。

あの頭部にある秘石の欠片は全部偽物なんだ。


此処に来てほのかは確信が持てた。なら、本物の欠片は何処に身を潜めたのか……。外にないなら土の中。地中にまで探査の範囲を広げてみる。


(あった……!!)


地上から五メートル下の地中でアフール=ザーの胴体だろう部分、その丁度真ん中に欠片がある事をつきとめた。


「みんな! 頭にあるのは全部偽物なの!! 本物は地面の中だよ!!」

「そうなのほのか!?」

「なら話が早いな。地中から引きずり出してやる!!」

「あたしが地面を砕いて……」

「アタシがシュピラールフォームで風穴開けてやるぜ!」


 各自やる事が見つかった事で目にやる気が満ち溢れていた。地中から本体を引き摺り出して一撃を叩き込む。全員が動き出すと同時に一頭がゴーレムの束縛から抜け出して使役するオズワルドを狙って伸びて来た。


「フォルテ、エンチャント解放……」

[イエス、マスター。エンチャント解放、属性……火!]

「ナイトチャージ!!」


雷光迸る剣に炎が宿る。両足に雷を纏い、高速で地上を駆けてオズワルドの前に移動した。


「レイジングスマッシュ!!」


両手でフォルテを持ち、全身を使って全力で振り抜く。頭部を上下に真っ二つに両断した。苦痛の鳴き声を上げてアフール=ザーがのたうつ。


「……大丈夫?」

「すまない。助かっt―――!!」


助けてくれたリースリットを見て礼を言おうとした所で、彼女を見た彼は硬直した。


「き、君はまさか……!?」

「……?」

「ぬしよ。こっちきてくりゃれ~」

「ん、分かった…」


彼の様子に首を傾げていたリースリットだが興味が失せたのかアウルに呼ばれて去っていく。


「ぬしよ。どうやら此処で一気に勝負を決めるつもりらしい。わっちらも加わろう」

「ん……」


短く返事を返してフォルテを持つ手に力を込める。

アシュトンが魔術を唱え始め、土色の魔術が展開される。


「襲い来るは足掬う大地。絡め取れ、ドラグスワンプ!!」


アフール=ザーの足下の地面が急速に沼になり沈んでいく。

重量のある巨体の所為でその沈む速度は速い。


「ココだ! 奥義、紅刃爪・双連!!」


 爪から放たれる鬼の如き衝撃波は地面を削りながら奔る。それが沼のある地点で集合し炸裂。地面が吹っ飛んでアフール=ザーの体もまた宙に打ち上げられた。


 いままで堅い地層に体を絡めていたアフール=ザーだが、アシュトンの魔術で絡める場所を失いそれによってサヤの一撃による衝撃を抑える術をなくしたのだ。


「行くぜミョルニル!! ギガァ…ドリル、ブレイクーーーー!!!」


 全身を現したアフール=ザー。それに向かってドリルを高速回転させ突撃する。十を超える首が伸びている中核の胴体に向かって飛んでくる攻撃を防ごうと首を幾重も重ね氷の魔法障壁を張る。


プレセアと障壁が激突し火花が迸った。堅い防御層にドリルの回転が弱まり始める。


「ぶち抜けええぇぇぇぇ!!」


 雄叫びを上げ魔力を更に送り込む。ミョルニルの回転速度が急上昇し障壁を削る勢いが増す。厚い防御層が遂に貫通。前方にあった首を全て巻き込み粉砕して打ち抜いた。穴の開いた胴から見える白く輝く欠片。


[オルアアアァァァァアアアアアァァァッ!?]

「ウィル! オーバーリミッツ!!」

[Over Limits LevelⅠ!!]


 立体的になった女神の紋章が背後に現れ、足下に魔法陣が展開される。

ウィルが魔力の集束を始めて桜色の光が一点に集まる。破壊された頭部が再生を行い更に頭数が増える。それらが一斉にほのかに向けて氷の光線を放つ。


「「我が敵を射抜け、天に輝く五角形ペンタゴン。凍てつく氷彗星《キュール・コメット》!!」」


 あかねとアイネが同時に殲滅魔法を発動する。二つの五角形の各頂点から放たれた光線がアフール=ザーの光線と激突し相殺し合う。


「ホーリーーーバスターーーー!!」


 数の減った砲撃に対しほのかもフォトンブレイザーよりも更に強力な砲撃を放つ。光の砲撃は相手の砲撃を打ち消し更に頭部を吹き飛ばす。再生を試みようとしたアフール=ザーをオズワルドの生み出したアイアンゴーレム達が押さえ込み邪魔をする。


「ぬしよこのチャンス、逃すでないぞ!!」

「アクセラレート……!!」


 扇子から黒風を飛ばすとリースリットも動きだす。風に包まれ飛ぶ。残っていた一頭がその彼女を呑み込むがアウルの風がそれを内から破壊して粉砕する。


雷の魔力を身に纏い、一筋の雷となったリースリットが真っ直ぐに本体目掛けて急降下する。


「レイジングスマッシュ!!」


 全力で繰り出した一撃が白き欠片に叩き込まれる。纏っていた魔力が四散し、維持する力を失ったガーディアンのアフール=ザーは断末魔の叫びを上げてその身体を崩壊していった。


氷河の鉄槌 アフール=ザー

属性 氷

危険度 S

保有魔力 +AA

 グラキエスに取り憑いていた白き欠片を守るガーディアン。今まで出会った欠片と違い言葉を持っていない。驚異的な再生能力を持っており、頭部が吹き飛んでもものの数秒で回復させてしまう。その際、首の数が増える特性も持っている為、持久戦に持ち込まれると対処が追いつかなくなるほどの頭数になる。基本攻撃は噛みつきと氷属性の砲撃型ブレス、更に体表にある管状の物体での拘束と巨体を活かした体当たりなどを行う。


 褐色肌の女性『氷の精霊 グラキエス』から白き欠片『アフール=ザー』を引き剥がすことに成功するほのか達。驚異的な再生能力を持って苦戦を強いられるもオズワルドの協力もあり、なんとか倒す事に成功する。


そして次回……かの者は彼女達の前に降り立つ。


それでは、次回も宜しくお願いします。

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