第四十五話 雪原の再会
四十五話更新。
第五都市グラシキル。吹雪が激しい年中銀世界の地域で少女達は再び再開する。
第四都市シルフィードの北西に位置する第五都市『グラシキル』は極寒の地域だ。絶えず雪が振り続け、大気の気温は一ケタかマイナスをいくのが常。
その所為でやってくる他の都市の人はその寒さに時折り低体温症になって病院に搬送されたりする事がしばしばある。
場合によっては居酒屋で酒を飲み過ぎて、酔ったまま外で寝て冷凍保存で死亡するなんて事も後を絶たない。更に言えば雪の重さで家が潰れたり、雪かき最中に足を滑らせての重症や転落死などの事故が起きている。
建築能力が上がっても、大自然の力には遠く及ばないという事を教えられる。劣悪な環境下であるこの地域に、なぜ都市があるのかは古い伝記に“他国からの脅威から民を守るには、自ら過酷な環境に住み適応する必要がある”からと書かれている。
実際、共和国の歴史を見ると侵攻して来た外敵を、雪に隠れて奇襲を仕掛け退けた経歴が残されている。
そんな年中雪が振り続けるこの地域は冷凍能力に関して非常に秀でた技術を持ち、砂漠地帯でも溶けにくい氷『氷結晶』なる物を開発、販売に至った。これにより、灼熱地帯にも冷凍食品や生物を搬送する事が容易になって大いに貢献している。
その他にも冷凍能力は機械の冷却システムにも適用されたりと活躍の範囲は極めて広い。それもこれも、積り続ける雪のお陰であったりするのだから皮肉なものだ。
グラシキルには特有のモンスターが存在する。それが弾丸滑走『コンペン』というペンギンの姿をしたモンスターだ。
通常のペンギンを二倍に成長させた様な姿の可愛らしいモンスターで属性は勿論氷属性、弱点も火属性と見た目通りである。外敵や人を見かけると雪玉を投げつけたり大玉にして転がしてきたりと戦闘中でも遊んでるのではないかと思わせる攻撃行動を取る。
ただ、彼等の作る雪玉は結構堅いので運が悪いと骨が折れる事がある。更に視界が悪い時に限って、彼等は腹で滑走して死角からミサイルよろしく特攻をかます傍迷惑な一面もある。
そんな彼らだが何故か人間の子供がいると全く攻撃しなくなって代わりに子供に自らの羽毛を一枚抜き、あげて去っていく習性がある。
コンペンの羽は保温能力が非常に優秀で、ヴォルフのそれを遥かに上回る。その素材を活かしたダウンジャケットなどは人気の商品で、第五都市に住む住民に重宝されている。
この習性を利用してコンペンの羽毛を採取する時は子供を同行させる団体もおり、コンペンの群れに子供一人を行かせて大量の羽毛を手に入れようとする悪質な輩も少なくない。
勿論その様な事は法律上で厳しく罰せられる。危険な外の世界に子供一人で行動させるなど許される行為ではない。SCCAも常に目を光らせて監視しているが、ギルドまでは監視できないのが最近の問題だったりする。
重宝される素材を持つコンペンだがしかし、この特殊な行動の所為で彼らは一時期『ロリコン』や『ショタコン』などという非常に不名誉なあだ名が付けられた。
後に、とある専門家が“コンペンのこの行動は友好の印として見せる行動で、雪の上ではしゃぐ子供達が自分達と重なって見えるからであって別にそういった下心で起す行動ではない”と学会で発表があり、僅か75日で噂は消滅する事となった。
これが後に『コンペンの噂も75日』という諺の誕生となったのは歴史的にも新しい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
猛吹雪の中に建っている第五都市グラシキル。その食事処にほのか達は辿り着いて一息吐く。シルフ達に別れを告げて第五都市の方へと向かった彼女達を最初に出迎えたのは凍りつく様な寒さと吹雪だった。
寒さに関してはマジックアーマーの耐暑耐寒能力のお陰で防御は出来るが、吹雪による視界の不慮はどうにもできない。ターミナルの案内の下で第五都市を目指した。
途中でコンペンや雪上牙蟲アイススパイダー、氷翼魔女プリズムハーピーと交戦があった。どのモンスターもCランクの危険なモンスターで過酷な環境で生活しているだけに物理防御がやけに高かった。
まあ、コンペンはほのか達がいたので羽をあげて去って行ったが……。プレセアにもあげて去っていき、貰った当の本人は非常に不服そうな表情を浮かべていたのは記憶に新しい。そんなモンスターを退けながら彼女達は第五都市に着いた訳である。
「にゃふ~……、暖炉が暖かいの」
「外は寒かったからね」
暖炉に近い大きなテーブルに座ると机の上に顎を乗せて思わず口から思ってた事が出てくる。ここは集会所として使われる場所なのか、周囲にはこの地で働く職員の人や冒険者らしき人も見受けられる。
「この都市の何処かにバルドがいるのか」
彼女達がここに来た目的、それがバルドを捜索する事だ。この地の何処かにフィリスの上司となる男性、第三都市局長のニコラス・オズワルドが連行された筈なのだ。
それが氷塞ガルガンシアと呼ばれる場所で、調べたところその建物は都市から少し離れた雪山に建っているという。ガルガンシアは第五都市に配属された囚人の監獄施設と言われている。そこにオズワルドは囚われている訳だ。
「バルドが行くとしたらガルガンシアだよ」
「確かあそこにはアルトワルツの知り合いが先行して行動していると言っていたな」
もしかしたら彼は既に合流して救出活動を開始しているかもしれない。行くならば覚悟をしておかねばならない。なんせ、相手はこの国全体の犯罪を監視、警備する大組織直轄の施設なのだから。
「我々は国籍を持っていないから問題はないのだが、主あかねや皐月達は違う。一歩間違えれば共和国の敵として見られる」
「うん、分かってるの。けど、オズワルドさんを助けたいの」
「局長は何も悪い事はしてない。なのに捕まえるなんて何かおかしいよ。だから、それも調べるつもりだよ」
「うちはオズワルドさんの事はよく分からへんけど、ほのかちゃん達が信頼してる人やし助けない訳にはいかへんな」
「あかねが参加するなら俺もやるー! 大事な友達の為だしね~」
答えは一つの様だ。騎士達もそれ以上はなにも言う必要はないなとフッと笑みを零した。
――その時だ。入口の扉が勢いよく開け放たれ一人の冒険者が入って来た。
扉の開く音に気付いた他の客が振りかえり、すぐにギョッとした顔になる。
その冒険者が全身傷だらけで満身創痍の状態で立っていたからである。
「う、あ……」
安全な場所まで辿りつけたにホッとしたのか力尽きて倒れ込む。騒然となる室内。その中ですぐに行動を起したのがユグドラだった。倒れた男の首筋に手を当てて脈を測る。
「脈は動いてる。まだ助かるかもしれん。アルトレーネ、マルグリット治療を頼む!」
呼ばれた二人がすぐに治癒魔法をかける。専門的な治療が必要だと思ったユグドラが近くにいた人に声をかけて人を呼ぶ事を頼む。
出血を止めた所で救急隊が駆け付けてその人を病院へと搬送していった。心配して見送っていると、同様に見送っていた人達の一角での話が聞こえた。
「また失敗したみたいだな」
「これで四人目か……」
「……ちょっといいかな?」
その言葉を聞き逃さなかったシリウスが彼等に近寄って声をかける。初めは警戒している様子の冒険者たちだったが、シリウスが一言二言何かを話すと途端に警戒が薄れて会話を始めた。必要な情報を得たのか、シリウスが戻って来た。
「シリウス君、なにを話してたん?」
「ん~? 美少女は至宝だよねって話~♪」
「テメーは少し自重した方がいいんじゃねえか……?」
「ジョ、ジョウダンデスヨー」
ミョルニルをシュピラールフォームにし、ドリルの切っ先を喉元に押し当てるプレセアにカタコトになって返事を返す。
「で、何か分かったのか?」
「なんか氷結晶の材料になる『グラキエスの花』を採りに行こうとしたんだって」
強力な冷凍能力を持つ氷結晶。その原料となるのが『グラキエスの花』と呼ばれるこの地域のみに咲く花だ。体内に大気中に漂う氷の魔力素を蓄える習性を持ち、限界まで達するとつぼみが開いて花を咲かせる。
半透明の水晶の様な見た目とその美しさから世界一美しい花として知られている。
雪原の上に咲く星とも言われて好事家達が欲しがるが、持ち出そうとして素手で触ろうものなら極低温で手を低温火傷してしまう。仮に持ち出せたとしても、第五都市の地域から出ると瞬く間に蒸発して消えてしまう。
採取するには特殊な技術が必要で、素人が触る事は出来ない。だが、最近になって採取をする業者の一団が何者かに襲撃を受けて壊滅的被害を被ったらしい。
生き残った者の証言では『褐色肌の雪女』がいたらしく、圧倒的強さで業者達を攻撃して来たのだ。それで怯えてしまった業者の代わりに冒険者が依頼を受けて採りに行ったらしいのだが、今の様に返り討ちになって瀕死の状態で帰って来るらしい。
「その花ってどこにあるの?」
「『グラキエスの氷窟』にあるんだって」
「……ねえ、私達で採りに行こうよ」
少し考え込んでいたほのかが決断して仲間達を見まわす。
「えっ、ガルガンシアに行かないの?」
「目の前の困ってる人を見捨てられないの。それに……」
「それに?」
「バルドさんも同じ様な状況だったら、きっと同じ選択をしてるの」
彼だったら迷う事なくこっちを選択している筈だ。それに自分自身も困っている人達を無視したくない。自分に出来る事があるなら、助けたい。
「俺は別に構わないよ。ちょっと寄り道するだけなら問題ないでしょ」
誰も彼女の意見に異を唱える者はいなかった。彼女達は業者のいる場所に向かって依頼を受けてグラキエスの氷窟へと向けて都市を出発した。
グラキエスの氷窟は文字通り、氷の精霊グラキエスがいるとされる場所だ。年中マイナス十度以下を保つ氷の神殿があり、そこにグラキエスはいると言い伝えられている。
雪で遭難した人達を都市まで導いてくれる事がある様で、他の都市とは違い第五都市では精霊という存在を住民は広く認知している。
グラキエスの花は氷窟やその付近にしか生えない貴重な植物だ。花一つで、氷結晶を数千も生産可能とする。それ程にグラキエスの花は強力な冷凍能力を持っているのだ。
勿論、素手で触るのは非常に危険で低温火傷で済むならまだいいだろう。過去最悪の例では触れた指先から骨まで凍って砕け散るという事故がある。
防ぐ方法は一つ。コンペンの羽毛を特殊加工して作った特別な手袋だ。製造方法は秘伝で現在作ることのできる職人は高齢の老人一人。
ちなみに、マジックアーマーなら大丈夫かと思って触れた人がいたらしいが耐暑耐寒防御層を貫通して低温火傷を負ったらしい。
採取する本数は決まっており、今回は五本の花を必要としているそうだ。コンペンの羽は最初に必要数持っていたのでわりとあっさりとコンペンミトンを作ってもらった一行はグラキエスの氷窟に向けて吹雪の中を進む。
「霧島さん」
「あ?」
その道中でアシュトンがサヤを呼ぶ。両手に息を吹きかけていた彼女へアシュトンは手に持っていた物を渡す。彼女の手に乗せられたのはフワフワの毛糸で作られた手袋だった。
「その恰好じゃ寒いよね。これ、よかったら使って」
彼女の出で立ちはジャージの上着にミニスカート。そして首に捲いてあるマフラーだけだ。これではあまりにも寒そうだと思ったアシュトンの彼女を思っての配慮である。
「…………」
「あ、あれ? えっと……霧島さん?」
手袋を凝視した状態で固まったサヤ。それにアシュトンは機嫌を損ねたのではと思って慌てる。
「あ、ああ、わりィ。んじゃァ使わせてもらうぜ」
しかし、遅れてサヤが返事を返して手袋を填める。そしてアシュトンに背を向けて片手をギュッと包み込む。
「きゅ、急に渡すんじゃねェよ。このバカ……」
「え?」
「な、何でもねェよ。このバカッ!!」
「ええっ!? なんか怒られた!?」
取り敢えずキシャーっと牙を向いて怒って来るサヤに慌てて謝る。調子を狂わされ、話題を逸らそうとサヤはアシュトンへ質問をぶつける。
「そ、それにしてもよ。この手袋どこで買ったんだよ?」
「違うよ。それは僕が縫ったんだ」
「は?」
何処からともなく取り出したのは裁縫セット。そして物凄い速さで動く手と、完成していく手袋。
「手袋なら三秒で出来るから大丈夫だよ!」
「………」
残像が見える速さで動く手と完成していく手袋にちょっと引いたサヤだった。
小高い丘を上ると前方に明るく灯る一軒の建物がうっすらと見えた。重厚な城壁と、大量の銃火器が警備用のスポットライトの光の反射で照らされて見える。
「あれが『氷塞ガルガンシア』か」
「あそこに局長が……」
「フィリスちゃん」
「っ、大丈夫」
今度は一人で勝手な行動はしないと自分に言い聞かせて自制をかける。今やるべきことは困っている人を助ける事だ。
それまで待ってて下さい局長。そう思っていた矢先のことだった。
突如として激しい警報が鳴り響き、ガルガンシアのスポットライトが白色から赤色へと変わったではないか。次いで起きる爆発音が離れている彼女達の下にまで聞こえて来た。
「爆発!?」
「なにが起きてるんだ!?」
「見て、ガルガンシアから誰かが出て来た!!」
フィリスの指さす方を全員が眼を凝らして見る。人影は三人、真っ直ぐに雪原を走っている様子が見える。
「この魔力、バルドさんなの!!」
「局長の魔力反応だ!!」
内二人は二人の探し求めていた人だ。推測するに残る一人はエメローネの知り合いという人物だろう。
走る三人のそのすぐ後ろで城壁が吹き飛び、巨大な何かが飛び出して来た。六本の脚を器用に動かして三人を追いかけるのは巨大な蜘蛛型の機械人形だった。
「追われてる!!」
「このままだと追い付かれるぞ!!」
巨体に似合わず素早い動きで追い掛ける機械人形。その距離が徐々に狭まっているのが見える。
「バルドさーーんっ!! こっちなのーー!!」
咄嗟にほのかが彼の名を呼ぶ。激しい吹雪の中でバルドは彼女の声を聞き取ったのかこちらを見て驚いた様に目を見開く。
だがすぐに背後の状況を考えたのか、オズワルドと協力者の人にこっちの方を指さして進路を切り替えさせる。二人が先にこちらに向かって駆け出すと、バルドが急停止して背後の機械人形の方を向いた。
雪を吹き飛ばしながら突っ込んで来るそれに向かって大剣ケルベロスを構える。その勢いのままバルドへ体当たりを敢行する機械人形を真っ向から受ける。
少し引き摺られたが踏ん張って止まる。そのまま両者とも一歩も引かない押し合いが始まる。彼が足止めをしている間に、先行した二人がほのか達の下に辿り着いた。
「局長!!」
「フィリス君、君まで此処に!?」
「なんだ、おっさんの知り合いか?」
孫娘の様な存在のフィリスの姿を認めて驚くオズワルド。その傍らにいた青年が聞いて、頷いて応える。
「貴様は何者だ?」
「ああ、俺はクロウってんだ。姫さん……エメローネ・アルトワルツの傭兵さ」
「じゃあ、エメローネさんの知り合いの人なの?」
「そういう事だ」
持っていた刀を肩に担ぐように置いて答える。どうやら悪い人ではないみたいだと、警戒していた騎士達は構えを解いた。
その間に、一進一退の攻防を続ける中で機械人形が背中から砲塔を展開し、角度をつけてバルドへと照準を付ける。
[高熱源反応を感知。マスター、あの機械人形が攻撃態勢に入ってます]
「させないっ!! ウィル、ここから砲狙撃するよ!!」
[イエス、マスター!!]
魔力を集中させて照準を合わせる。強い吹雪は彼女の視界を妨げ、風は手元をブレさせる。
[照準サポートは私がします。マスターは攻撃のタイミングを…!]
時間は少ない。チャンスは一度だけだ。相手の砲塔にエネルギーがチャージされ始める。
「させない。絶対にバルドさんに攻撃なんてさせないの!!」
彼女の後ろに女神の紋章が展開される。ウィルの先に魔法陣が形成され、中央に魔力が集まる。サポートによってウィル自身がブレを補正、照準が相手と重なった!!
「いま!! フォトン、ブレイザーーーーッ!!!」
発射される桜色の砲撃。凍える大気を貫いて光輝く閃光が機械人形へと飛んで行く。まさにバルドに砲撃が放たれようとした所で彼女の砲撃が届いて、背面にあった砲塔を貫き爆発させる。
攻撃できなくなった機械人形が衝撃で僅かに鈍った。その隙を逃さずに、バルドが相手の下段から斬り上げで顎を打ち上げ上体を浮かす。流れるような動作でケルベロスに漆黒の炎を纏わせて一閃、右側の脚を全て両断した。
体を支える脚を片側失ったそれは電子音を上げながらその場に崩れ落ち、身動ぎする。機械人形を一瞥した後、もう動けないと悟った彼は身を翻して先に走った二人を追いかけほのか達のいる丘の上に辿り着いた。
「バルドさん!!」
「……言いたい事は山ほどあるが、今は逃げるぞ」
「グラキエスの氷窟へ行こう。あそこなら一先ずは安心な筈だ」
ほのかを見て険しい表情を浮かべる。そこに見え隠れするのは苛立ち。押し殺す様にして彼は彼女達を先導してグラキエスの氷窟へと安全を確保しながら進んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃、黒煙と共に燃える要塞で消火活動をしている団体の中に一人の青年がいた。
「……襲撃した奴らの顔、カメラにあるか?」
「ここに……」
プリントされた映像を渡す。それを彼は乱暴に取って確認する。映されているのは、バルドとエメローネの知り合いの男性クロウだった。
「コイツらが僕の要塞に火を点けたならず者か」
「如何致しますか?」
「決まってんじゃん」
写真を地面に落とすとそれを踏みつけてぐりぐりと擦り潰す。
「これは国家への反逆だ。問答無用で重罪に決定、即逮捕、即牢獄行きだ。コイツらを捕まえるぞ」
「はっ!」
「先に行かせた『バリエント』は如何した?」
「現在、右脚を破壊されて行動不能状態です」
「ふんっ、使えない機械め」
いくら金を積んだと思ってんだ。これだから技術新興国の機械は当てにならないな。などと悪態を吐く青年に部下は報告を続ける。
「ですが、バリエントの小型偵察ユニットが犯罪者の足取りを追ってます。バリエントが行動不能になる寸前に、長距離からの攻撃があった様で敵は複数かと……」
「そんなの関係ないよ。さっさと片付ける。予備のパーツを持っていくよ」
「はっ」
消火部隊を残し、部隊の編成を始める部下を余所に青年は何をするでもなく燃えている要塞の一角を見て苛立ちを隠さずに近くの木箱を蹴飛ばした。
「この僕の要塞にこんな事をして、ただで済むと思うなよ犯罪者め……!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
グラキエスの氷窟に入った一行は一先ず休める場所を見つけてそこで休息を取った。
「バルドさん……」
彼女は少し離れた場所で休んでいるバルドへ近寄る。しかし彼は彼女の方を見ずに、砕けて窓の様に開いている場所から外の様子を見ていた。
代わりにその身体から重い空気が出ていた。何時になく周りを気にする事なく放たれるそれに彼女は気圧される。
「……なんで戻ってきやがった」
静かに吐きだされる言葉には隠さない苛立ちが混じっていた。
「それは、その……」
「言った筈だよな? ここから先は俺に任せろって……。こっから先はお前達には危険すぎる旅だから帰れって」
漸くこちらを向いたバルド。その目つきは普段よりも鋭く、刺々しいものだった。そんな彼にほのかは俯き加減ながらも自らの気持ちを伝える。
「だって、こんな気持ちで終われないの。関わった、知った、見たの。なかった事にして終わりたくないの!」
「気持ち云々で出来るほど旅ってのは甘くねえんだよ。さっさと帰れ」
「嫌なの!!」
強く否定する。彼女の声が氷の洞窟内に響いた。
「私は絶対に帰らないよ。バルドさんの旅についていくもん!」
「お前……いい加減に――」
「最初は目的も何もない冒険だった。……けど、今度は違うの!!」
ほのかの発言に出かけた言葉をバルドは呑み込んだ。今の彼女は眼を逸らさない。視線と共に自分の想いを真っ直ぐにぶつけて来た。
「あの頃とは違う、今度は自分のしたい事をする為について行くの!!」
「…それはなんだ?」
「オーパーツを集める事、そしてリースリットちゃんと友達になる事なの!!」
ただ守られるだけの冒険じゃない。自分のしたいこと、出来る事を見つけた。それを成す為にここに来たのだ。
「それに、バルドさん言ったよね。自由に生きろって?」
「お前、まさか……」
「これが私の自由なの! 誰の意志でもない、私の私自身の意志なの!!」
[……相棒の負けだな。ウヒャヒャヒャ!!]
虚空より姿を見せたのはバルドの相棒の魔剣達だった。
[若、ほのかさんは自身の意志でここに来たんです。それに皆さんも気持ちは同じでしょう]
[まっ、今回はほのかの嬢ちゃん達の頑固勝ちってことだなウヒャヒャヒャ!!]
[若の気持ちも分かっていると思いますよ。けど、ほのかさん達はそれでもここに来た。それは若と一緒に冒険がしたい、手伝いたいと思ったからだと思います]
[そろそろ腹を括りなって。それにここまで来ちまったんだ。今更追い返すなんて出来ないぜ?]
「…………」
腕を組み眼を閉じて考え込む。その時間は一瞬だったかもしれない。しかしほのかには五分にも十分にも感じた。やがて、彼の眼が開いてほのかを見た。
「俺にとって、お前は妹みたいな存在だ。世話の掛かるトラブルを呼び込む困った菓子娘だと思っていた。だから、こんな戦いの世界から早く日常に戻そうと思ってた。」
それが彼のほのかに対するいままでの評価だったのだろう。だが…と彼は言葉を続けた。
「お前が覚悟を決めて自分の意志で此処に来たってんなら話は別だ。お前を一人の戦士として認めるべきだと思う」
「バルドさん……」
「お前が将来どうするかは分からねえが、いまだけは戦士として見る事にする。……一つ約束しろ。自分の決めた事は最後まで貫き通せ。途中で投げ出す事は許さねえ」
真剣な表情で自分を見る彼に、彼女も眼を逸らさないで見返す。
「それが果され続ける限り、俺はお前を仲間を支え続ける。どんな事があっても、守ってやるよ」
「うん。私は、逃げない。最後まで諦めないで自分の意志を貫いてみせるの!」
小指を彼の前に出す。それが意味する事を理解したバルドもまた小指を出して結ぶ。
「指切りだな」
「バルドさん見ててね。私の戦いを…」
言い切るとバルドは真剣な表情から一変して柔らかく笑う。そしてその小さな頭に大きな手を乗せてポンポンと軽く叩くように撫でる。
「ああ。傍で見させてもらうぜ」
「……ふえ」
少しして、ほのかの顔がくしゃりと歪んで目尻から涙が滲みでて来た。急に泣き顔になったほのかにバルドがビックリする。
「な、なんで泣きやがる!?」
「ち、違うの。ちょっとホッとしたからなのかな……? バルドさんにまた会えて嬉しかったから……」
「涙腺の緩い奴だな。そんなんで一々泣くなっての」
「にゃはは、ごめんなさい」
指で拭ってから今度こそ笑顔を見せる。バルドとの一件はこれで解決した。これからはほのか達と共に欠片の回収を始める。
そしてもう一つ。フィリスはオズワルドと久々に対面する。
「久しぶりだね、フィリス君」
「局長、無事でよかったです」
「うむ、迷惑をかけてしまってすまなかった」
互いの無事を確認出来た事にホッとする二人。安堵するフィリスの隣にあかねが近づいて微笑みかける。
「よかったねフィリスちゃん。知り合いが無事で」
「うん、ありがとうあかね」
「……君は!?」
その時、オズワルドがあかねの姿を見て驚愕の表情に変わった。強張る彼の様子に疑問を感じると、震える口が動き出した。
「君は……神代あかね君、か?」
「え? どうしてうちの名前を知ってるん? 初対面の筈やけど……?」
なんで自分の名前知ってるんやろ?
彼とは初めて会う筈なのに、自分の事を知っているオズワルドに疑問を感じて首を傾げる。
「……すまなかった」
「え?」
次の瞬間、彼が彼女に対して頭を下げて謝罪を始めたのだ。いきなり初対面の人に謝られた彼女は訳が分からない事態に狼狽する。
「な、なんでいきなり謝るんや!? おじさん、頭上げてぇな!」
「本当にすまなかった。私がしっかりしていれば、君の両親は……」
しかし、紡がれた言葉にあかねは口を開けたまま思考を停止した。
両親……?
しっかりしていれば?
一体何を言っているのだろうか?
まさか、自分の両親が行方不明になった事故に彼は関係しているのか!?
目の前の人物がもしかすれば、あの事故が起きた原因を知っている?
そう思った途端に、あかねの表情は険しさを醸し出し、その眼に言い表せぬ炎が宿った。
「……どういう事なんや。うちのお父さんとお母さんとなんか関係があるんか?」
「君の両親、神代 直也と神代 美花は……私が殺した様なものだ」
掠れる様な声で語られる事実にその場に居た誰もが凍りついた。
弾丸滑走 コンペン
グラシキルのみに生息するペンギン型のモンスター。雪が大好きな氷属性。
炎を見ると脱兎のごとく逃げる。火遊びいくない。人や天敵を見つけると雪玉や大玉転がしで攻撃したり、自ら腹で滑って特攻してくる。
雪上牙蟲 アイススパイダー
氷の世界に生息するスパイダー種。氷の糸や低温の牙で攻撃するのが特徴で基本的に雪に隠れて待ち伏せするのが多い。もちろん火属性には滅法弱い。
氷翼魔女 プリズムハーピー
プリズムの羽を持つ麗しき鳥女。獲物を見つけると多彩な氷属性の攻撃で相手を追い詰める。ハーピーと同じく恋多きモンスターだが、付き合ったら人付き合いには気をつけよう。女性とあまり仲良くしている所を見せると首を切り落とされて氷漬けにして持ち帰ってしまうから。
遂にバルドと再会したほのか達。オズワルドも救出出来て安心したのも束の間。何やら再び不穏な空気が漂い始めた。
それでは、次回も宜しくお願いします。




