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第四十四話 水面下の動き その二

四十四話更新。


ほのか達が冒険を進める最中、各地方で勢力は静かに動き始めていた。



 中央都市アルセイユ都心部にあるSCCA本部。

その最上階の会議室でタスクフォースの総大将が集まって会議を行っていた。


「村一つが消えたという報告が上がってるが、それは本当か?」

「調査に向かわせたがその様だ。確か、魔女の住んでいた場所らしい」

「その件は私の耳に入っている。一個小隊を向かわせたのだが、消息が途絶えた」

「星霊村……。あそこで何があったのかの」


 五人の重役を担う人物が居並ぶ会議の中で初めに上げられたのは星霊村の出来事だった。

派遣した部隊の消息が途絶え、村人も消え去り、村自体も廃墟と化していたと後から派遣した第1202陸動部隊から届いている。


「唯一判明しているのは、事件が起きた当日にあの一帯に発生した強力な魔力反応か」


 一夜にして消滅した村とその村民。

それと同時にあの近隣から膨大な魔力反応を探知機がキャッチしていた。


「今後とも調査する必要がある。調査隊の派遣をしておくように」

「了解した」

「では、本日の会議はここまでにしよう。何か分かり次第、すぐに連絡を交わす様に」


最後にそう事を伝えてから会議を終了する。各員が去る中、最後まで残った者がいる。


「星霊村の消滅に、第三都市のドレイク襲撃。問題は山積みだな」


 少し白髪混じりの短いカットの髪型に四十代くらいの顔立ちの男性。

席の一番奥に座っていたその人物こそ、タスクフォース第一部隊総大将『カルロス・トーラス』である。

老いた見た目とは裏腹に、その眼は爛々(らんらん)と鋭い輝きを放つ。


「コーネリアに奔る光と、都市の外に現れた黒い龍……。前者は魔法士だろうな」


 ナールの報告にあったノーム遺跡近辺で入手した魔力光と酷似している。

同一人物と判断して間違いないだろう。

とすれば、ルートとして星霊村を経由している方と渓谷を通る道のどちらかを進んだ筈。そして、その先にあるのは此処…中央都市だ


「第三都市で確認出来たという事は、既に此処を通り過ぎた様だな」


 会議室から出て一人呟きながら廊下を歩く。

通り過ぎる隊員や職員が彼に敬意を示す様に敬礼や礼をする。


「第三都市、第二都市、第一都市……中央都市から再び第三都市と考えると次は第四都市か第五都市だろうな」


 見えぬ人物の動きを予測するカルロス。

その足でそのまま本部を出ると、彼は街道を進んで大きな城の様な建物へと向かう。


 『アルセイユ王室聖殿』と呼ばれる王族が住まう宮殿だ。

ここには古くからこの地を栄え、土地を守り続けて来た血脈を持つ王族が住んでいる。

 入れる者は限られており、SCCAではカルロスとそのトップである元老院。そして、政府関係者の重鎮たちだけだ。

その警備は厳重にして強固。SCCAの部隊でもカルロスが認めた実力のある者達が日夜警備を続けている。


「警備御苦労」

「はっ!!」


 門を警備している隊員に労いの言葉を掛けてから彼は身分証明の手続きを行って中へと入る。


「あらカルロス様。お久しゅうございます」

「これはこれは、シュベルト夫人。御久し振りでございます」


 中に入った彼を最初に出迎えてくれたのはシュベルト夫人と呼ばれる女性だった。

豪奢ごうしゃなドレスにウェーブの掛かった紫髪のロングヘアーと赤い目。高そうな宝石が付いた指輪など、正に王族の女性である。

陸動部隊第3番隊総隊長『鬼のシュベルト卿』の奥さんだ。


「今日はどういった御用件で此処にいらしたのですか?」

「本日は姫に御面会に来た次第です」

「まあ、あの姫に? それは御忙しい時に呼びとめてしまってごめんなさいね」

「いえ、夫人の御壮健な御姿を見れて私も嬉しいです。それでは」


 お辞儀をしてから彼は彼女の前から去り、更に奥の方へと歩いていく。

宮殿の奥には共和国を古くから支えた血脈を持った者がいる。


 その者が居る部屋の前には二人の上級魔法士が警備にあたっていた。

カルロスの姿を認めた彼等は敬礼をした後に左右に分かれて道を開ける。


「失礼します。特別災害対策本部タスクフォース一番隊総大将のカルロス・トーラスです」

「カ、カルロスさんですか!? ど、どうぞ……」


少し緊張を孕んだ声が厳重なドアの向こうから聞こえる。

入る事に断りを入れてから彼は開けて、中へと入る。


 宮殿の最奥に位置する大部屋。多数の花や植物で覆われ、味気のない建物は緑鮮やかな空間になっていた。そこには小さな動物も居り、小鳥も止まり木で休んでいる。

明るい日差しを降らす天井は、特殊な素材で作られていて外部から中の様子を見る事は出来ない。


 噴水やベンチなどが置かれる大庭園と思わせる空間の奥、大きなベッドの上に一人の少女が座っていた。

 白いノースリーブの薄いドレスを着ておりけがれを知らぬ青い瞳を持ち、艶のある綺麗なブラウンカラーの長髪を下ろしている。


 この少女こそ、偉大なる血族『テセアラ』家。その末裔である『ミラ・ラ・ピュセル・テセアラ』である。年齢は未だ十に満たず、王たる気質も見当たらないひ弱な少女だ。

彼女の前まで来たカルロスは膝を折って、深々と礼をする。


「御壮健そうでなによりです」

「カ、カルロスさんも、御壮健そうで……。あの、カルロスさんに聞いてもいいですか?」

「何でしょうか?」


おっかなびっくりといった感じで聞いてくるミラに、カルロスは微笑みを向けて返事を返す。


「あの、宮中で新型の戦艦が出来たとの噂があるのを聞いたのですが……それは本当なのですか?」

「……っと言いますと?」

「ここではあまり外の情報が入らないので、聞きたかったのです。それで、どうなのですか?」

「……全ては杞憂でございます。姫の不安になる様な事は何もございません」


ミラの問いにその様に答えるカルロス。

しかし、少女の表情は優れず不安を抱えたままの様だった。


「ですがわたくし、空を飛ぶ大きな影をよく夢で見るんです……!! それに、八つの星が交わり全てを無が呑み込む…恐ろしい夢を見る様になったんです……!!」

(『先見の瞳プロフェテス・アーキュラー』か……)


 テセアラ家が王族として高い地位を保ち続けている要因、それが『先見の瞳プロフェテス・アーキュラー』と呼ばれる、古来より受け継がれ続けるミラの持つ特殊能力ヴァリアブルスキルである。


 先見の瞳は、そのままの意味で先に起きる出来事を予見する力だ。

預言とは違い、夢で先に起きる出来事を予見したり、触れたものの持ち主及びその関係者の姿を読み取る。


 ただし、それは非常に抽象的で曖昧な形として表現されるのでミラ自身もよく分からない。

しかしその的中率は百パーセント。彼女の先代……つまり彼女の父親もこの力を持っており過去に起きた大戦を予見した事で大きな被害を最小限に抑えた事もある。


 ちなみにミラも既に何度か先見の瞳で幾つかの事件を予見している。

――が、それはカルロスは言わずに伏せている。


「それは夢なのです。夢は夢でしかないのでご安心ください」

「で、ですが……!!」

「それよりも姫。姫に見てもらいたい物があるのです」

「見て、もらいたいものですか?」


話を逸らす為にカルロスが懐から一枚の写真を見せる。それをミラは手に取って確認する。

そこには青空に奔る桜色の閃光が映し出されていた。


「これは……?」

「第三都市に発生した謎の光です。姫から見て、これは如何様いかように見えますか?」


 見つめていたミラの脳裏に光が映る。自分と同じくらいの年の子。光を司る。その周りには幾つもの人。とても暖かく、そしてその人物を中心に心地良いものを感じられた。


「とても暖かい……。この人は芯の強い心優しい人なのですね。私と同じ年の女の子・・・・・・・とは思えないくらい……」

「………」

「あの、この方がどうかしたのですか?」

「いえ、御気になさらずに。ただ、姫の心に安らぎが与えられたのなら幸いです」

「ええ。ありがとうカルロスさん。とても落ち着いた気持ちになれました」


ミラの手から写真を受け取って懐にしまう。

そして一度時計を見た後にスッと立ち上がる。


「今日の所はここまでにします。姫のお体にもさわりますので」


失礼しますと言って彼は部屋を出る。

閉じられる扉。その前に警備が再び立った。


「あまり姫の前で貴婦人達が噂を立てぬように配慮せよ。不用意に姫に外の情報を与えるな」

「はっ!!」


 重苦しい気を放ちながら警備隊に伝える。

強張った形で敬礼して返事をすると、カルロスは放っていた気を霧散させその場から去った。

通路を歩きながら彼は懐より先ほど出した写真を取り出す。


「姫と同じ年か。分かっていて来たが、やはり先見の眼は伊達ではないな……」


フッと笑みを浮かべたカルロス。

そこに含んでいるのは、一つの思惑を思いついたものだ。


「姫と同じ年の少女。登録リスト有無も関係なく、魔力適正者を全てピックアップさせてその中で最近になって動きに変化のあった者を探せばよい」


 性別も確定されている。これだけでも判別できれば、後は容易いものだ。

なんせ、女性の魔法士は全体の四分の一程度なのだから。


「これ程の逸材だ。ドレイクすら倒せる若き魔法士、そう易々と見逃す気はない」


写真をしまい、彼は通信を開く。


「私だ。至急、調査を頼みたいものがある。……そうだ大至急だ。そういうのは得意だろう? ナール陸佐」


それと……、と彼は言葉を続ける。


「政府に連絡を入れてくれ。我々SCCAはこれより国防にも勢力を拡大し、更なる治安維持を行うとな」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



魔法共和国と隣接するもう一つの国、魔術大国。

その政府『魔術大国中枢機関政府局』では現在議論が交わされていた。


「魔法共和国の大型戦艦の開発は非常に遺憾なものだ!」

「無論、我々は抗議の文を送った。だが、向こうから返信はない」

「なにを考えているのか……。まるで、戦争の準備でもしているかの様じゃないか!」

「その事について、もう一つの懸念材料が……」


大勢の官僚が揃う場で一人の閣僚が手を上げる。


「クロス王国で軍備の拡張が始まっている様です」

「なんだと!?」

「その様な通達、届いてはおらぬぞ!!」


 国内で無断での軍備拡張は禁止されている。それは世界共通の法律である。

ざわめく室内に一際大きく首相が机を叩く音が聞こえた。


「クロス王国の王はなにを考えているのだ!!」

「即刻に抗議の文を送らねば!!」

「もし、クロス王国が何らかの形で魔法共和国とぶつかってはそれこそ戦争が再び起きてしまう」

「すぐに使者を送れ、場合によっては私が自ら向かう」


 魔術大国中枢機関政府局からすぐさま使者は送られた。

大国の端、魔法共和国との国境付近に位置するクロス王国に使者は数日で辿り着いて王との面会を求める。

しかし、面会は叶わず文を受け取るだけで追い返される事となる。



「失礼します。機動騎馬隊バルドゥス軍所属副隊長の白蓮です。政府局からの文をお届けに来ました」

「入れ」


 許可が下り、王の政務室に一人の少女が入って来た。

齢十四程度だろうか。小柄でストレートの桃色の髪に澄みきった蒼眼の幼い顔立ちの少女。声もまだ幼さを残し、落ち着いた口調と合わせると少々背伸びしている娘にも見えなくはない。


だが、その身に纏うのは不釣り合いな重厚な鎧。


 両肩に龍の頭部を模した金の肩当て。フリルの付いたスカートに装甲板が備えられており頭部にも王冠に似た兜を被って、高尚な羽毛か、青い鮮やかな色彩の尾長鳥の尾羽が付けられている。

 そして、右手にあるのは小柄な体を補う鉤鎌刀こうれんとう。腰にも刀を一つ装備している。

 彼女は目の前に居る人物、自らの王へ移動し膝を折って拳礼する。そして政府局の使いから預かった文を渡す。


「御苦労。暫しその場で待機しろ」

「はっ」


 頭を垂れその体勢のままで待機する。受け取った文を読む人物、彼がクロス王国国王『アガレス・ラ・ドヴァーキン』である。黒髪に鮮血の様な赤い鎧を着こんで、その上から黒い外套を羽織っている。

全てを見通している様に思わせる鋭い黒き瞳が文の内容に合わせて動く。


「ふん」


そして、彼はまるで興味がなさそうに鼻を鳴らしてその文を握りつぶした。


「所詮は国の中枢で蓑虫みのむしの如く篭っているだけの俗物が、己の沽券こけんだけを守ろうとして国全体を見ないか」


 握りつぶした文が発火して手の中で灰となって消える。

それを見向きもしないで彼は目の前の少女へと目を向ける。


「白蓮、連絡はあるか?」

「バルドゥス将軍は再び魔法共和国へ。今回は第六都市で起きている落雷事故の隠密調査に向かってます。ビアンカ一等陸佐は政府局から共和国へと送られる抗議の文を工作兵となって奪取、共和国の政府に渡らない様にしています」

「お前も二日後にバルドゥス隊の後を追え。国の守りはマルコとアトラスだけで十分だ」

「しかし、不測の事態というのもあります。将軍は私に残れと言っておりましたが?」

「王の命令として上書きしておけ」

「了解しました」


表情を変えないで淡々と答える少女。

まるで感情を何処かに捨ててしまったかのようだ。


「………白蓮」

「なんでしょうか?」

「いや、何でもない」


言おうと思ってアガレスは止めた。前にも似た様な問答があった気がする。

首を傾げる少女に話題を変える事を決める。


「兵士達の状況はどうだ?」

「個々に差はありますが、おおむね良好です。マルコ将軍もライム空佐も高評価でした」

「常に戦える準備を怠らせないように気を配っておけ。予測では共和国は国境付近に新型艦を配備する可能性がある」

「戦争、ということですか」


白蓮の目が僅かに鋭くなる。その身から湧き出る気迫は、とても幼き少女のものとは思えない。


「その時は、お前に陣頭に立って指揮をしてもらう。努々(ゆめゆめ)忘れるな。下がれ」

「はっ!!」


再び拳礼をしてから彼女は部屋を後にする。

一人になったアガレスは目を閉じて今後の行動や各地方の動きを分析する為に瞑想に入るのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「白蓮副隊長!! 手合わせ願いまする!!」


訓練場に姿を見せた白蓮に打ち合いをしていた兵士達が気付いて集まる。

その内の一人が彼女に手合わせを願い出た。


「いいだろう。ただし、私は手加減は出来ない。敵だと思って全力で来い」


快く承諾しょうだくした彼女は己の得物、鉤鎌刀こうれんとうに布を何重にも巻き付けて相手を傷つけないようにしてから兵士と向かい合う。


「行きます。でやあぁぁぁぁあああぁぁっ!!!」


 地を蹴って勢いよく飛び出した兵士が上段の構えで白蓮に飛び掛かる。

それを前にして、彼女は一切動かないで待ち構えていた。


「ふっ!!」

「ぐへえぁっ!?」


 得物の射程内に入った瞬間に彼女は鉤鎌刀を一振り。

布を巻いた刃先が見事に兵士の胴を捉え、相手はまるで蹴られた毬のように高々と宙に飛んで行った。


「おぶっ!?」


 受け身も取れずに地面に落っこちて潰れたカエルの様な声を上げる。

その彼に心配する素振りも見せずに彼女は問題点を指摘した。


「真正面の相手に対して胴をさらけ出して飛び出すのは減点だな。斬ってくれと言っている様なものだぞ」

「す、すみません……」


 咳き込みながら泥まみれの体を起す。

だが、起き上がれずその場に尻餅をついて動けなかった。


「少し休んでいろ。少々打ち所が悪かった様だ。誰か運んでやってくれ」

「副隊長!! 次は私もお願いします!!」

「いいだろう」


先鋒せんぽうがあっさりとやられたのを見て、己の武人の魂が震えたのか周囲で闘争心が溢れ出ているのを感じ取る。


そしてまた一人、彼女へ挑戦を申し出る者が――


「ふんっ!!」

「うげえっ!?」


割とあっさりやられた。


「相手が小さいからといって油断するのは減点対象だ。むしろ小柄な相手の方が厄介だと思った方がいい」

「う、うっす……」

「白蓮副隊長、質問です! なぜ小柄な相手の方が厄介なのでありますか?」


地面に叩き落ちて痙攣する兵士に指摘をしていた時、別の兵士が質問をして来た。

それに彼女は倒れた兵士の搬送を頼んでから答える。


「相手が小柄の場合、常に下を見る形になる。下方から来る攻撃というのは人にとって恐怖心をあおる。距離感もなかなか掴めないからな」

「な、なるほど。言われてみると確かにそうですね」

「でしたら白蓮殿が居てくれれば安心ですね」

「ふっ、お前達の成長の力になれるのなら嬉しい限りだ」


 ほんの少しだけ表情が崩れ、一瞬だけ笑みが見えた。

その途端に、兵士達から急に歓声が沸き起こった。


「副隊長が笑った!!」

「この一瞬を見たい為に俺は此処まで生きて来た!!」

「コンマ一秒にも満たないけど、その笑顔が向けられただけで満足だあぁぁ!!」

「明日死んでも悔いはねえ! いや、もっと見たいからすがりついてでも生きてやる!」


 口々にそんな事をのたまう兵士達。

うお~~っと雄叫びを上げている彼等を見て、白蓮はよく分からないから首を傾げるだけだ。


「急に元気になるなんて、おかしな奴らだな」

「相変わらず精が出てるな、白蓮」


 (彼女の笑みを見て元気になる現金な)兵士達を見ていた白蓮を呼ぶ声にそちらを向く。やって来たのは銀髪のツンツンとした髪型の男性だった。

鋭い黄色の瞳、長身で白蓮との身長差は相当なもの。傍らに来た彼を彼女は見上げる様に顔を向ける。


「アトラス将軍か。何か用か?」

「いや、閣下の私室から出て来た姿を見かけたのでな。今は兵士達の調練中か?」

「ああ。いま一区切りついた所だ」

「ならば丁度いい。俺の方も鍛錬を終わらせた所だ。ここで一つ、手合わせをしないか?」


手合わせ……。

その言葉を聞いた途端に白蓮の身体から穏やかな空気が消え去り、代わりに闘気が沸々と湧きだして来た。


「アトラス将軍と手合わせか……。一つ頼んでもいいか?」

「それは此方のセリフだ」


 腰に挿してある鞘から青龍刀を抜く。

何時の間にか周囲の兵士達は下がり、ギャラリーと化している。


「では、参る!!」


 二人が同時に動き出し、直後に甲高い金属音が鳴り響いた。

鉤鎌刀と青龍刀の刃が激突し、激しい火花を散らしている。


 下段、上段、袈裟懸け、逆袈裟懸け。両者の剣戟は恐ろしく速く、そして狙いも正確だった。

しかし、互いに掠りもせずに攻撃をかわし反撃を繰り出す。

双方の刃同士がぶつかるのを頃合いに、後ろに飛び退いて呼吸を整える。


「また腕を上げたな白蓮。その動き、最早ビアンカを超えるかもしれないな」

「まだまだビアンカ隊長には遠く及ばないと、私は思っているが?」

謙遜けんそんだな。それに、一瞬の瞬発力と威力では俺をも超えている。閣下から将軍の位を受け賜るのも時間の問題だな」

「持続できないのが欠点だ。小柄な私の弱点といえる」

「この俺を相手に数秒も持続している時点で、並みの偉丈夫なら一刀で斬り伏せれる。まだ高みを求めるか?」

「私の目標はバルドゥス将軍だからな」


 それは何とも高い目標だな。

言ってからアトラスが肉薄してくる。

白蓮も一拍置いてから地を蹴って相手の動きにタイミングを合わせる。


嵐の如き刃の猛襲は続いていて、刃がぶつかる度に金属音と軽い衝撃波が周囲に広がった。要は両者の一撃がそれ程に重い事を示している。


遂には砂煙が上がり始めて二人の姿が隠れてしまう。

その中で、二人は互いの身体から発する気配を感じて得物を振るい、刃を交える。


 ギャラリーの兵士達には最早なにが起きてるのか全然見えていない。

煙が消える頃、そこにあったのは二人の刃が互いの喉、ほんの数センチの所で止まっていた光景だった。


「引き分けだな」

「その様だな」


 互いに武器を下ろして摸擬戦の終了を示す。

鞘に青龍刀をしまったアトラスは腕を組んで、白蓮の腕が上がっているのに感心する。


「いい勝負だった。有意義な時間を過ごさせてもらった」

「こちらもだ。自分の修正点を確認する事が出来た」


 また時間のある時に鍛錬をしよう。

そう言ってアトラスは背を向けて、己のデスクワークを片付けに城の中に戻って行った。


「さて、お前達も十分に休憩は取れただろう。訓練を再開しよう」

「はっ!!」


晴天の広がる空の下、彼女の訓練開始の合図に元気のよい兵士達の声が響き渡った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 場所は再び魔法共和国中央都市。

夜が深くなり時計の針が12を示した頃に眠っていたミラが飛び起きた。

その顔色は悪く、身体は冷たい水を浴びせられたかの様に震えていた。


「ゆ、夢……?」


 辺りを見渡し、何時もの景色が広がっている事に息を吐いて安堵する。

鳴り止まぬ心臓の早鐘を、荒くなった呼吸を整えて落ち着かせる。


 彼女が見た夢、それは暗き闇の中に包まれる煌めき達だった。

闇に覆われなにも見えないその世界の中で暖かく優しい輝きが無数に自分を囲んでいた。


 その光は人の姿に変わり、自分へ手を差し伸べる。

手を掴むと、笑顔を見せる。それは周囲の光も同様、自分を歓迎する様だった。


――そして、此処で気付いた。煌めく人達を包む闇が動いているのだ。

上を見る。そして恐怖が全身を駆け抜ける。


自分を見下ろす真紅の瞳。その数は数え切れないものでそれが自分達を見ている。瞳の中に黒き十字架を中心に六芒星が描かれる。

あまりにも巨大な、天を、星を容易たやすく闇に覆うその姿を見てミラはその夢から覚めたのだ。


「光を守るは星の海の彼方をも包む黒き獣、全てを呑み込む獣、小さき光の成長。輝きは進化し、世に羽ばたく。獣は世界を駆け抜け、光、道を示す」


 口が勝手に動いて吐きだされる言葉にミラは驚いた。

何時もの様に抽象的で分からない夢だったが、これだけは分かった。


 あの無数の真紅の瞳を持った黒き巨大な影は何かを守っている。

あらゆる脅威からそれを守り、成長を見守っているのだ。あまりにも強大で恐ろしい気配だったが、同時に光達を見守るその瞳には優しさが確かに宿っていたのを感じた。


 彼女の不安が周囲に伝播したのだろうか。

部屋の中に飼われているウサギといった小動物達がベッドに上って傍に来てくれた。


「起してごめんなさい。でも、もう大丈夫ですよ」


 その中から白い兎を抱き上げ、腕の中に包んだ。

何時もならすぐに自らの巣穴に戻る筈の動物達が、今日に限ってなかなか戻ろうとしない。


「もしかして、またねむれるまで傍に居てくれるのですか?」


 物言わぬ動物達はジッと自分を見つめてくるだけ。

それだけで彼女はなにを言っているのか分かって、強張っていた表情が崩れた。


「ありがとうございます。では、少しだけ一緒に居て下さい」


再び布団の中に入る彼女。その中で彼女は思考する。


(あの黒い獣は一体なんだったのでしょう? 恐ろしい感じでしたが、でもあの光を見ていた目は優しかった……)


 矛盾する二つの要素。一体、あの夢はなんだったのだろうか。

考え込む彼女だったが、動物達が傍に居てくれる安心感と精神的にきた疲労感からかまぶたが下がりもう一度眠りについた。


今度は、夢を見る事はなかった。



アルセイユ王室聖殿


古くから魔法の地を栄え、守り続けた由緒ある血統の一族が住む場所。

今となっては国の守護をSCCAが担っている所為で大部分の貴族は何もせず金を浪費して遊ぶだけの害虫となっている。


その最奥に隔離される形でいる少女が古代より国を統括していた古代王の末裔『ミラ・ラ・ピュセル・テセアラ姫』である。早くに父と母を病気で失ってからは使いこなせぬ王家の力に翻弄されるだけで、連れてこられる動物達と時間を過ごす毎日を送っている。


静かに、だが確実にほのか達に近づきつつあるカルロス。

彼女達を見つけた時、彼はどのような行動をとるのか。


では、次回も宜しくお願いします。

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