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第四十三話 再戦 緑の欠片 ハスター

四十三話更新。


封印から解放されたシルフ達と共に神殿の最上階に辿り着いたほのか達。その彼女達の前に立ちふさがる者ハスター。強固な防御風を張る相手に勝機はあるのか。


 風の勢いが弱まった神殿の最上階。

幾つもの大きな柱の立つ奥には神殿内に置かれていた祭壇よりも、更に大きな祭壇が置かれていた。

その遥か頭上に滞空しているのは、ハスターだった。


「貴方が私達の領域を侵す侵入者ですか?」


 眼下にいるほのか達を見下ろしていたハスターが視線を前に向ける。

同じ高さまで浮遊したシルフ四姉妹、その長女のユースティアが彼に向かって問いかけた。


[我に叶わヌとみテ、精霊の力ヲ頼るカ]

「質問に答えなさい。この風の土地は私達の領地です。如何様いかような目的でこの地を犯す?」

[……来たるベキ闘争の為ダ]

「意味不明なんだけど。もう少し分かりやすく言いなよ」


 多くを語ろうとしないハスターに次女が眉を曲げる。

三女も四女も同様の反応をしているが、長女だけはそれだけで何を言っているのか理解した様子だった。


「そうですか。ですが、それはこの世界には一切関係ありません。早々に立ち退きなさい」

[コー、ガル、タール……。それは不可、我らの行動ヲ妨げル事は出来なイ]

「ならば仕方がありません」


 後ろの姉妹に目配せする。

三人は頷いて次女が弓を、三女が身を隠す程の大盾を、四女が持っていた熊のぬいぐるみを持った。

最後に長女が身の丈を越える波打つ刀身を持つ大剣を手にした。


「立ち退かぬというのなら、斬ります!!」

[愚かな……。目覚めたバかりノ精霊風情ガ我に牙を向くカ]

「僕達の事を舐めてかかると痛い目にあうよ!!」

「皆、行きますよ!!」


 巨大剣を両手でしっかりと持ったユースティアを先頭に四姉妹はハスターへと挑みかかる。

自らの数分の一以下程度の大きさしかないシルフ達に向かって翼を羽ばたかせて暴風を起す。

しかし、シルフ達は暴風などまるで効いていないようで、その風の中を突っ切って来た。


「行きます、風刃剣!!」


 ユースティアが剣に魔力を通して風の刃にする。

その剣を大きく振りかぶって擦れ違いざまに一閃、ハスターの身体に傷が入った。


「いっけぇーーっ!! ウィンドアローッ!!」


 一度に三つの矢を番えたセレスティアが弦を離す。三つの矢は途中で自らの後方に複数の矢を生み出し、一列に並んで飛ぶ。

多段ヒットする矢の連撃がハスターに命中し、爆発でその姿が隠れる。


[ラー、アルム、トール。コール、ガスト!!]


煙が吹き飛んでハスターが強力な風攻撃を放つ。

岩壁すら一撃で粉砕した攻撃を前にクレスティアが盾を前に出す。


「クリスタルシールド~」


盾に魔力が集まって障壁が展開される。

そこにハスターの攻撃が直撃し、打ち消される。


「御加護を……。プロテクションヴェール」


 フォースティアがぬいぐるみを正面に浮かべて両手を翳す。

同様の魔法陣が彼女を含め三人にも展開され、その身を不可視のクリスタル型の障壁が包んだ。

 プロテクションヴェールは補助系魔法に分類されるSランク魔法だ。

複数の対象を同時に選ぶ事により味方の物理攻撃及び魔法攻撃に対するダメージを軽減できる。


「上級魔法をあんなに簡単に……。やっぱり精霊って凄いんだ……」

「さすが姉妹か。連携に迷いがないな」


この調子ならハスターを倒せるのではないかと思った。


[コール、コール、ナー……!! 我ガ名はハスター。彼方より来たる風ナリ!!]


 その時、ハスターの眼が怪しく光った。身を縮めて力を溜め、一つ大きく鳴いて一気に開放する。

ハスターの全長が更に巨大なものになり、唯でさえ巨大だったその身を更に巨大なものへと変貌させたのだ。


「まさか、これほどまでに力を蓄えていたなんて……!!」

[精霊よ、滅するガいい!!]


 大きく身をらした後に翼を一振り。先の攻撃の倍近い大きさと出力を持った旋風がシルフ達に襲いかかった。

風の精霊たる彼女達に風など効かない筈、だが小柄な彼女達は呆気なくその風圧を受けて吹き飛ばされたのだ。


「危ない!!」


突風を受けて吹き飛ばされるシルフ達。

その彼女達を狙ってハスターは大きく身を膨らませ、力を溜めた強力な一撃を放とうとしている。


「大地よ! 汝の怒りを具現化し、彼の者を打ち砕け!! グランドクラッシャーッ!!!」


 その時だった。負傷中のアシュトンが魔術を発動して、巨大な土の拳をハスター向けて飛ばしたのだ。

攻撃動作に入ろうとしていたハスターは避ける暇もなく直撃する。

風属性の弱点である地属性を受けて、明確な怯みを見せる。


「アシュトン君!!」


 今の彼の両脚はまだ完治できていない。杖を支えに立っている姿は非常に辛そうだった。

魔術を受けたハスターが、その彼を見つけ眼に憤怒ふんぬの炎を宿す。


「エル、エル、レム!! コール、コール、ガスト!!」


 撃ち出される強力な竜巻と化した風。攻撃目標はアシュトンだった。

だが、今の彼にそれを避ける術はない。


「アシュトーーンッ!!」


彼の危機にサヤが思わず叫んだ。しかし、彼に竜巻が届く前に、間に割り込む影があった。


「最大出力……。黒扇梟王絶風破ッ!!!」


 アシュトンの前に割って入った人物、アウルが両手の扇子を広げて一つに合わせる。二つの扇子が一つになり、大きな扇子へと早変わりする。

それを大きく振りかぶり全身を使って全力で振り切った。巻き起こるは黒き旋風の大嵐。広範囲に広がりながら伸びていく黒風がハスターの攻撃と激突。


 風属性と闇属性を兼ね備えたアウルの攻撃が上回り相手の攻撃を打ち消す。

そのまま本体へと狙って飛んで行くが、先の攻撃で威力が落ちたかハスターの再度展開された風の鎧を前に掻き消される。


「ふむ、効かぬか。わらべよ、あまり無茶をしてくれぬな。足はまだ完治しておらぬのだろう?」

「すみません、アウルさん……」

「うむ」


 扇子を元のサイズに戻して口元を隠す様に当てる。アシュトンが無事だと分かってホッとしたほのか達は

地面に落とされたシルフ達を助けるために動く。


彼女達を回収し様として続いて竜巻攻撃をハスターが繰り出して来た。

間一髪のところでシルフ達を助けてから後退し避ける。

今度は自らの鋭い鉤爪を生やした脚で掴みかかろうとして来たが、割り込んで入ったユグドラによって阻まれる。


「火槍一穿、緋閃槍ッ!!!」


紅蓮の炎を宿した槍による一撃がハスターの体を穿うがつ。

体内を焼く業火の炎に苦悶の声を上げ、ハスターは後方に飛び退いて距離を取る。


「皐月! 精霊達を下げろ。時間は私達が稼ぐ!! 行くぞ、アイネ、マルグリット、ルチア!!」


 三人をともなってユグドラが飛び出す。接近してくる四人の騎士を迎撃しようとハスターが突風を起す。

それにルチアが先頭に躍り出てパールグラスを合体させる。

排気口から緑色の魔力が放出され包み込んだ。


「ブルーム・デス・ヒメルス!!」


巨大スピナーが投擲とうてきされ、突風を縦に切り裂きながら飛ぶ。

そのまま本体であるハスターを狙うが、翼が振るわれて弾き飛ばされてしまう。


「水棍必倒!! 水爆壊ッ!!」


 影から飛び出したマルグリットがナイアスを叩き付ける。頭部に命中し、接触と同時に炸裂する水圧。

爆発の如き勢いで爆ぜた水がハスターを襲い、軽く脳を揺さぶった。

 返しの手で翼が振るわれるが後ろに飛んでかわす。

今度はナイアスを左に水平に差し出すと、その上にユグドラが着地する。


「ユグドラちゃん、頑張って!!」


 自らを軸にして回転。遠心力を加えたスイングに合わせて跳躍ちょうやくするユグドラ。

カラドヴォルグを手に持った彼女が剣に炎を纏わせ、両手で握り下段に構える。


「はあっ!!」


逆袈裟懸ぎゃくけさがけに繰り出される一撃。

だが、今度はハスターが身に纏わせた風の鎧の前に弾き飛ばされてしまう。


「まだだっ!! 殲滅魔法が主だけだと思うな!!来たれ、天より降りし破滅の業火、全て狂わす三角形トライアングル。フラムス・メモアーレン《葬火の追悼歌》!」


 アイネの足下に赤色のインペリア魔法陣が展開され、頭上に三つの煌めく星が生まれる。

それを結ぶようにラインが奔って三角形を生み出す。

回転を始めた三角形から隕石の如き勢いで火球が次々に放たれ、地上へと降り注ぐ。


 自身に振りかかろうとする火球だけを吹き飛ばし、ハスターは自らの周囲に風で出来た球体を作るとユグドラ達に向けて発射する。空中を飛び交う事で攻撃をかわし、彼女達は果敢に攻撃を続ける。


「シルフさん、大丈夫ですか!?」


柱の影に隠れたほのか達はシルフに声をかける。

ダメージを受けている様だが、彼女達は大丈夫との返事を返す。


「一度ならず二度も助けてもらいましたね。ありがとうございます」

「あのハスターって奴。急に強くなったよ。今の僕達じゃ通じないみたい」


 悔しそうな顔をするセレスティアにユースティアも神妙な面持ちで頷いた。

ほか二人の妹もハスターより放たれる力を感じ取っている様だ。


「封印から解放されたばかりとはいえ……精霊として恥ずかしい限りです」

「周りの魔力素を殆どあのハスターに取られちゃってるよ~。これじゃあ本来の力が出せないよ……」

「……眠い」

「あのハスターが周囲の魔力素を吸収してってるみたい」


 まとわれている風は己を狙って放たれる攻撃のことごとくを弾いている。

あれから感じるのは純粋な魔力素の塊。相当大量の魔力な筈だ。

多過ぎる力によって高い風魔力で他の属性をも防いでしまっている。


「まずはユグドラ達と合流しよう。このままだと押し切られるよ」

「うん、分かったの!」

「あかねとプレセアは精霊達をお願い。シリウスとサヤはアシュトンの護衛をしてて。まだ骨折は治ってないと思うから無理に動かせない」

「ほいほい」

「分かった」


役割を決めてほのかとフィリスが上空へと飛んでユグドラ達の援護に回る。

地上でその様子を見ていたリースリットもフォルテを手に握って戦いの準備に入る。


「行くのかえ?」

「ん……」

「では、行こうか我がぬし様」


 その隣にアウルも並んでから二人は空へと飛翔する。

ほのか達を攻撃しようと動作に入ったところに雷槍を飛ばす。命中して爆発が起き、リースリットへ注意が向けられる。―――が、ハスターの視界を次の瞬間に大量のふくろうがまとわり付いて封じて来た。


 くちばしや脚の爪で襲いかかってくる小賢しい小鳥ふくろうを風の鎧で吹き飛ばす。

アウルへと標的を変えて羽をばらまく。その羽一枚一枚が高速回転して円盤となってアウルに向かって飛ぶ。

 迫る弾幕を彼女はフクロウの羽根となって消える事でかわす。

外れた攻撃は何もない空間を駆け抜けるだけに終わり、再びアウルが姿を見せて扇子を広げて黒き突風を放つがハスターの身に纏う風によって打ち消される。

ほのか達も立て続けに攻撃を仕掛けるが、強力な風の前に魔法が弾かれる。


「あの風の鎧が厄介だな!!」

「こっちの攻撃が全然届いてないよ! なにか対策を考えないと!!」


 このままではジリ貧である。あの強力な守りを破らないとハスターにダメージを与えられない。

そこに新たに現れたのは遺跡入り口で戦ったウィンドエレメントだった。

ハスターが現れた所為で周囲の魔力素が不安定になったのだろう。

突如として現れたエレメント達はハスターではなく、ほのか達を敵と認識して攻撃を仕掛けて来た。


「ちぃっ!! ハスターだけでも手一杯だと言うのに!!」


 小さく舌打ちして空中を飛び交ってエレメントの攻撃を掻い潜る。

正面に回り込んで来たエレメントに向かって、ユグドラはカラドヴォルグに炎を通して擦れ違いざまに一閃。正確な一撃が相手のコアを両断。中核を失ったエレメントが爆ぜて散った。


横一列に整列したウィンドエレメントが弾幕を張る。

まるでその動きはハスターを守っているかのようである。


[我ら、あまねくク願いヲ叶える者ナリ……。汝、何ヲ願う……]


 ハスターの眼が怪しく光る。エレメントの動きが止まった。そして、その身を淡い光が纏うとコアが一層強力な光を放って、それを中心に魔法文字が円を描く様に回る。

光る文字に囲まれたエレメント。風の魔力素が集束し、五点のきらめきが出現して光線が放たれる。

 射線上から逃れるほのか達だったが、レーザーと化した魔力弾は直角に曲がり回避したほのか達の後を追尾し始める。誘導式と分かって彼女達は追い付いてきた弾幕を身を捻る事でかわし、互いにぶつけて相殺させる。


「フォトンブレイザーーー!!」


 すぐに身を翻してほのかが砲撃を撃つ。大質量の魔砲攻撃が空を駆けてハスターを狙う。

しかし、ハスターはその場から動く気配がない。

代わりに一体のウィンドエレメントがハスターをかばうかのように砲撃の前に飛び出して防御体勢に入ったのだ。


純粋な魔力の塊であるエレメントにほのかの砲撃が直撃する。

風属性をも撃ち破る光属性の閃光の中でウィンドエレメントは、魔力構成を崩しその身を瓦解させて消滅した。


 爆発の隙を突いてフィリスがアクアスパイクを放つ。

煙を切り裂いて魔力矢が無数に飛び出してくる。その前に他のエレメント達が出て来てブロックを集結させて壁を作り防ぐ。動きの止まったエレメントをリースリットは見逃さなかった。


「雷光天来ッ!! ライトニングボルテックス!!」


 彼女の足元に魔法陣が展開され、背後に剣に雷光を纏わせ振るう戦女神の紋章が姿を見せる。

頭上に同様の魔法陣が広がるとそこから複数の雷撃が撃ち出されてエレメント達のコアを射抜く。

射抜かれて中核を失ったエレメントは次々に構成を失って消滅していく。


[ラー、アルム、トール……。コール、ガスト!!]


 一振りで強力な風が巻き起こる。突撃してくる竜巻を彼女達は避けてから魔力弾を飛ばす。

しかし、彼女達の魔力弾はハスターの張っている風の鎧に防がれてしまった。


(やはりあの風の守りが厄介か……。どうにかして剥がさねば!!)


ユグドラは巻き起こる風の攻撃を避けながら思考を巡らせる。

だが、現在の魔法では突破どころか接近も難しい。


(あれを使うか? いや、ダメだ。あの魔法は、まだ使う訳にはいかない)


奥の手が脳裏を過ぎるが、彼女は頭を振ってそれを却下する。

兎に角、別の手段を考えないと……!!


「………」

「ほのかちゃん達、苦戦しとるね」


 地上で見守るあかねがポツリと呟いた。ほのか達の懸命の魔法攻撃はハスターの張る強固な守りの所為で届いていない。

逆にハスターの攻撃は直撃を受けないにしろ、じわじわとほのか達にダメージを与えてくる。このままではこちらの体力の方が尽きてしまう。


「プレセア、うちも行ってくる!!」

「あかね!? 危険だって!!」

「でもこのままやと皆が危ないんや! うちにも出来る事がある筈なんや」


結晶の翼を一つ羽ばたかせて彼女は飛ぶ。その後にシリウスが飛んで来て並走する。


「シリウス君?」

「あかねの魔法は詠唱型の範囲魔法でしょ? だったらカバー必要じゃん。その役目はこの俺にお任せ♪」

「うん、お願いねシリウス君」

「まっかせなさ~い。可愛い女の子の頼み、御兄さん何でも聞いちゃうよ~」


 何時もの軽いノリで受け答えするシリウスにくすっと笑って一定の距離に達した所でその場に滞空。

フェアルスト・ゼーレンを掲げる彼女の足元に大規模なインペリア式魔法陣が展開された。


「虚空より至りし七色のつるぎよ。我が真名しんめいの名の下に、七角形ヘプタゴンと共に降臨せよ。虹彩の宝石剣《イリス・デア・シュヴェーアト》!!」


 彼女の前方の空間に横一文字の線が出来る。それが開き、七角形を形成。

禍々しいマーブル色の空間が広がり、中から巨大な七色の剣が七本、姿を見せたのだ。

彼女が杖を振り下ろすと同時に弾丸の勢いで発射される光剣。自分に向かって放たれる攻撃に気付いたハスターが回避行動を行うが、僅かに遅れて三本が風の鎧を貫通し突き刺さる。


[オオオオオォォォオオオオォォォッ!?]

「あかねちゃん!?」

「主の攻撃が通じた!」

[エル、エル、レムゥゥゥ!!!]


 怒りの咆哮を上げ、今度は巨大な真空波をあかねに向けて飛ばす。

その前にシリウスが入り、全身から禍々しい気を放つ。


「行け、狐火」


 無数の狐の形をした青い炎が空を駆ける。それが渦を描く様に旋回を始める。その速度は徐々に速くなり、渦巻き状の大きな円盤となった。飛んで来た真空波と激突。回転の勢いでその威力を吸収していく。

シリウスが右手を前にかざし、手を開いた。


円盤が形を崩して真空波を呑み込むように覆い尽くすと急速に球体に変じて包み込んだ。

最後に彼は開いた手をギュッと閉じる。球体は一気にその体積を減らして中のもの諸共弾け飛んだ。


「あかねには指一本触れさせないよ」

「もう一発……!! 我が敵を射抜け、天に輝く五角形ペンタゴン。凍てつく氷彗星《キュール・コメット》!!」


 彼女の頭上に五つの点が現れ、そこにラインが奔り五角形の白色インペリア式魔法陣が生み出された。

その中に複数の星の煌めきの様な光が点滅すると、そこから一斉に光線が撃たれて来た。

細胞すら凍結させる誘導式射撃魔法がハスターを狙う。だが、今度は発せられる風の前に阻まれいなされる。

その彼女達を見上げるアシュトン。彼は何かを決意したのか傍にいたサヤに声を掛けた。


「霧島さん! 僕を背負って走ってくれる!? 僕も魔術で援護するから」

「はあ? アシュトン、お前なに言ってんだ。ケガしてんのにそんな無茶させられるかよ!!」


 両足を骨折してる彼の頼みを却下するサヤ。けど、アシュトンも引き下がる訳にはいかない。


「お願いだよ霧島さん!! 僕にも、僕も友達を守りたいんだ!」

「あたしだって参加してェよ。けど、お前は……」


 怪我人を動かしてまで戦いに加えるのは如何なものだろうか?

それも、怪我をする要因を作ったのは自分である。

罪を感じているサヤだったが、アシュトンは彼女の手を取って安心させる様に、励ます様に声を掛ける。


「僕の事は気にしなくていいよ! 霧島さんのやりたいように動いて」

「……いいのかよ? あたしの動き、たぶん絶叫マシンなんてメじゃねェぞ?」

「で、出来るだけ頑張ってみせるよ」


言われて少し引き攣った顔をしながらもそう返答を返す。そうまで言われて彼女も気持ちが固まったのだろう。その眼に火が灯った。


「なら、あたしも約束してやる。おめェには絶対にあのヤローの攻撃は当てさせねェ」


全身から溢れる闘気がその強さを物語っている。指を動かして関節を鳴らす様は、まるで鬼そのものだった。


「サヤ、ちょっと待てよ」

「あァ?」


アシュトンを背負って動こうとした所でプレセアが近づいてきた。何か用だろうかと彼女は立ち止って振りかえる。


「アタシに考えがある。あの風の鎧を打っ壊す方法だ」

「それ本当!?」

「どんなのだよ?」

「それにはちょっとシルフにも手伝ってもらいてえんだよ」


プレセアの方を見て互いの顔を見合わせるサヤとアシュトン。

その二人にプレセアは光明こうみょうの見える作戦を話し始めた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



プレセアの案を聞いたサヤはそれを実行すべく行動を開始する。


「行くぜ、アシュトン! しっかり掴まってろよ!!」

「う、うん!」


彼女が膝を折って両足に力を込める。


「ッ!!」


そして、一息と共に彼女は地面を蹴った。足場が弾け、爆発的な加速と共にサヤが地上を駆ける。


「土塊の猛襲、ストーンバッシュ!!」


 彼女の進行先の地面が砕けて上に打ち上がり、ハスターの方に向かって飛ぶ。

その土塊の上にサヤがアシュトンを背負ったまま着地。空を駆ける。気付いたハスターが突風を飛ばす。

次々に砕け散る土塊からサヤは跳躍ちょうやく、ハスターよりも高く飛び上がった。


「大地よ! 汝の怒りを具現化し、彼の者を打ち砕け!! グランドクラッシャーッ!!!」


 再び地属性の中級魔術を発動。巨人の腕の形をした岩塊が拳を作って発射される。

だがハスターも二度も三度も同じ様な攻撃をくらう訳もない。竜巻を起してアシュトンの魔術を粉砕する。砕けた岩塊が宙に四散する。その上にサヤが降り立つ。


 降り注ぐ風の弾丸を彼女は驚異的な速さで岩塊の上を飛び交って攻撃を避け続ける。

アシュトンもサヤから振り落とされないように必死に掴まって足に伝わる衝撃を耐えた。


[消えヨ……]


強力な竜巻が二人に向かって撃たれる。

すると、サヤはなにを考えたのか背負っていたアシュトンを降ろしたではないか。


「あたしのダチをやらせねェぞ」


 彼女の身体から揺らめく闘気が溢れる。頭の二つの突起が更に伸びた様な気がする。

指の爪がより鋭利なものに変わって、アシュトンの前に立っている少女はまるで幽鬼そのものの様だった。


「ダチ公守れなくて……ダチ公って呼べるかアァァァァ!!」


 右腕を振り上げて爪で迫る竜巻を切り裂く。爪から放たれた斬撃が竜巻を切り裂いて飛んで行く。

自ら飛ばした大質量の竜巻を裂かれる様を見て、ハスターは更にもう一発放つ。威力の減衰したサヤの攻撃が打ち消される。


「まだだッ!! 奥義、幽義紅刃爪!!」


左手に力を込めて振り抜く。先よりも巨大な斬撃をともなう衝撃波が起きてハスターの竜巻を圧倒し切り裂いた。


「今だ、頼むぜシルフ!!」

「分かりました!!」


 プレセアの合図と共にシルフ四姉妹が風となり姿を消す。

消えた彼女達はサヤ達に注意を向けて隙だらけのハスターの前に風と共に姿を見せた。


「行きますっ!!」


ユースティアが姉妹に声を掛ける。

持っている大剣を上に掲げ、風をまとって真上に相手を鎧ごと切り裂きながら一気に飛び上がる。


「いっけーーーー!!!」


 その影から弓に多数の矢を番えたセレスティアが構えていた。

放たれる矢は疾風と共に飛び出し、ユースティアによって打ち上げられたハスターに多段ヒットする。


「行くよ~~!!」


 おっとりとした声と共にセレスティアから飛び出すのはクレスティア。

大盾で身を隠しながら矢で怯んだハスターに全身を使った体当たりを行う。自身の数倍を越える巨体を持つハスターの体が吹っ飛ぶ。そして最後に姿を見せるのはセレスティアの影から飛び出すフォースティア。


「行く……」


 持っていた熊のぬいぐるみを両手で掲げる様に持ち上げる。

すると、ぬいぐるみが一瞬の内にハスターをも超える巨大な物へと変貌へんぼうしたではないか。

それを軽々と持って体を反らしてから力一杯叩き付ける。中の材質まで変化したのか、重い音と共にハスターに落ちてそのまま地上に叩き落とされた。


「ミョルニル!! これで決めっぞ!!」

[Je.My Prinzessin. Over Limits,LevelⅡ!!]


 彼女に応える様にスコップ形態のミョルニルが光る。柄が短くなっていき彼女の腕にまで巻き付く。

切っ先が捻じれ、螺旋を描き鋭い先を作り出す。


「これが、アタシの奥の手……!! シュピラールフォームだ!!」


彼女の手に装備されている物――――それはドリルだった。背後にドリルを持つ少女の紋章が立体的に出現し彼女特有の黄色の魔力がその身を包んだ。


「ドリル!?」

「プレセアの持つもう一つのフォーム『シュピラールフォーム』。彼女が、プレセアが『破城の騎士』と呼ばれる所以となった切り札だ!」


ドリルが回転を始め、特有の回転音が遺跡と大空に響き渡る。


「覚悟しやがれ、鳥野郎!! これが、アタシの全力!! ギガァ、ドリル……ブレイクゥゥゥーーーーーッ!!」


 ドリルが回転速度を上げて行き、彼女の体を遥かに超えるサイズへと変貌へんぼうする。

そのドリルと共に彼女は魔力全開で突撃、ハスターへ向けて突貫した。

地上に落とされたハスターは起き上がって突っ込んで来るプレセアに対して再び強固な風の鎧を展開。

荒れ狂う風の守りにドリルが激突。その守りを打ち砕き、ハスターに大穴を開けて通り抜けた。


[ウオオオオオォォオォオオオオォォッ!?]


胸部に大穴が出来て苦悶の咆哮を上げる。その身体から大量の風の魔力素が脱け出していく。

己が身体から抜けていく力に我を失うハスター。その眼に金の閃光が映り……


「レイジングスマッシュ……!!」


リースリットの振り下ろす一撃がハスターを縦に真っ二つにした。


[エル、エル、レム……!! エル、エル、レムーーーー!!!]


断末魔の叫びを上げてハスターの身体は光の粒となって弾け飛び、緑色の欠片だけがその場に残された。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ハスターが消滅し、欠片をリースリットが封印した途端に神殿に吹き抜けていた強風は消え、新たに肌を撫でるそよ風が吹く様になる。


「……」


 フワフワと浮かんでいる欠片をリースリットが手にする。

そして黄の欠片を手に入れた時の様にその場から去ろうとした。それをほのかが呼びとめる。


「待ってリースリットちゃん!! それを集めてどうする気なの!?」

「………あなたには関係ない」


 なにも答えようとしてくれない。

目に見えない氷の壁が彼女と自分の間に張られているかのようだった。

何者も寄せ付けたくない。そんな空気がただよっている。


「それでも知りたいの!! 私はリースリットちゃんの事、もっと知りたい!」


だとしても、ほのかは諦める気はなかった。なおも強く彼女は食い下がる。


「な…ん……で?」


 言われた本人は酷く困惑している様で振りかえった。

ほのかは自分の気持ちを素直にぶつけようと思った。口に出さないと伝わらないものがあるから。


「だって、私はリースリットちゃんの友達になりたいから!!」

「っ!!」


明確な動揺が彼女に見えた。わずかに後退りしてほのかから離れる。


「私はもっと知りたいのリースリットちゃんの事。どうしてこの欠片を集めてるのか。もしかしたら何か手伝えるかもしれない」


一歩踏み出す。一歩下がる。


「もっともっと仲良くなりたい。だから、私と友達になってほしいの」

「それは……出来ない。私には…出来ない……!!」


動揺を隠せない彼女が声を絞り出して答える。

そして彼女はほのかに背を向けて駆け出し、空に飛んで行った。


「リースリットちゃん!? ま、まっt――!!」

「それ以上は止めてもらおうか、娘よ」


後を追いかけようとしたが、その前にアウルが立ちはだかって道を遮った。


「ぬしはいま困惑しとる。あまりわっちのぬしを困らせる事をするのはひかえてくれるかえ?」

「私はただ、リースリットちゃんともっと仲良くなりたいだけなの」


自分の思いをアウルにも語るが、彼女は扇子で口を隠すだけで反応は薄いものだった。


「おぬしがどう思っているかなど、今のわっちには興味ありんす。ぬしを困らせるのであれば、相応の手段を取るまでの事……」

「我等と刃を交える気か!?」


 アウルから溢れ出る黒き旋風の渦を見て身構える騎士達。

あれ程の戦闘があったのに、まだ力を隠していると言うのか!?


 そう思っていた矢先にアウルは急に魔力の放出を止めてしまう。

そして直後に何処からともなく大量のふくろうが飛んで来て彼女を隠す様に集まり出す。


「……っと言いたいところじゃが、わっちも疲れたでありんす。ぬしの為の時間も稼げた。わっちはこれで御暇おいとまさせてもらうでありんす」


ふくろうに隠れて姿の見えないアウルの声が響く。


「シルフよ、壮健そうけんであれ」

「はい、黒風の幽姫もお元気で」

「うむ」


 含み笑いを残して梟達が羽を散らしながら飛び立つ。

鳥達の消えた先、そこにはもうアウルの姿は消えていたのだった。



シュピラールフォーム


 オーバーリミッツ レベルⅡによって解放されるプレセアの奥の手。

ドリルとなったミョルニル片手に魔力をドリル全体に収束させて一点突破の突撃をする。この形態で使える魔法『ギガドリルブレイク』は彼女の使用する魔法で最強の威力を誇り、彼女が『破城の騎士』と呼ばれる所以となった形態である。


強固な防御魔法を前に苦戦を強いられるが精霊と連携し撃破に成功する。次なる目的地は第五都市『グラシキル』。振り続ける雪の世界でほのか達を何が待っているのか。


では、今後とも宜しくお願いします。

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