第四十二話 風の精霊 シルフシスターズ
四十二話更新。
遺跡の内部に落ちたほのか達の前には大きな門が立っていた。
古代の住民が残したとされる遺跡の奥でほのか達を待っていた者とは……。
風の遺跡内に落ちたほのか達は、大広間にあった階段を上って巨大な門の前に辿り着いた。
「ふえ~…。大きいね」
「これも始まりの洞窟とノーム遺跡と同じ様な魔法式が組み込まれてる。でも、ちょっとだけ風属性の力が特化してるみたいだね」
風属性の強い土地なだけあってそれに準じた施しがある様だ。一体こんな場所に門が立っているのだろうかとほのかは不思議そうにその前をウロウロする。
「あれ? ねえ皆。ここに文字が書いてあるの」
「文字?」
呼ばれて一同が集まる。見れば、壁面に確かに文字が書かれている。
古代文字の様でほのか達にはチンプンカンプンだ。
そんな彼女たちに代わって考古学に詳しいフィリスが翻訳を試みる。
「まって、翻訳してみるね。……『私達は風の地に住む民なり。風と共に生き、風と共に生まれ、風と共に死ぬ』」
「シルフィードに住んでいた風の民か」
「そうみたいだね。……『私達は風より生み出される恵みを受けて繁栄を築いてきた。だが、私達は彼女達を封印した。怖かったのだ。何時までも私達と共に歩むことはないだろう彼女達に去られるのが』」
「彼女達? 誰かを此処に閉じ込めているのか?」
「続きを読むね。…『勇気を持つ者よ、希望を宿す者よ。己が力に自身があると言うのならこの門を開くよい。初めに全ての命を生んだ力、次に過酷なる環境で命を進化させた力、次に踏みしめる足を作った力、最後に悠久を駆ける力を示せ。その先に私達の残した守り手を破りしとき、そこに悠久を吹き抜ける風がいる』」
「なんだそりゃ?」
まるで意味が分からない文章にプレセアが首を傾げて難しい顔になる。
門を開けるには何かをする必要があるみたいらしく、それを示さねばならないようだ。
「古き時代に生きた先人の遺言の様なものじゃな。命を生んだ力に進化を与えた力、ふむ……」
「此処に四つの球があるな。水に風、火に土の魔力を感じるぞ」
アイネの手にある四つの球をそれぞれ見ると、確かに四大属性が込められている様だ。
門を見ていたルチアからはそれを填め込むのに適した穴が四つあるのを知らされる。
「つまり、これを填めろって事か。簡単じゃねえか」
プレセアがアイネから受け取った球をその穴に適当に填め始める。
「おい待てプレセア!? 訳も分からずに適当に填めたら――!!」
ブーっという何か外れを引いた様な音が鳴り、同時に頭上から蜘蛛型のモンスターが落ちて来た。
「うおあぁぁ!!?」
「スパイダー!? モンスタートラップだよ!?」
Eランクモンスター『スパイダー』。人と同じサイズの全長を持っている巨大蜘蛛で、口から蜘蛛の糸を吐いて獲物を捕えて鋭い牙で仕留める。
その巨体に見合わず俊敏で、そこそこ強い。―――Fランクモンスターの中では……という意味だが。特殊な行動は見せないので別段苦戦する事もない。
ただ、こういった感じで頭上から落ちてこられると精神的に参るものがあるのは当然ではある。
六つの単眼でほのか達を捉えて牙をギチギチと鳴らして彼女達へ襲いかかってきた。八つの足を動かしてこちらに向かってくる様は女性としては非常に嫌悪感を感じさせる。
「気持ち悪いんだよ!!」
「いや~~!! こっち来ないで~~!!」
――が、彼等の攻撃は届く事なくほのか達の問答無用の魔法攻撃の前に吹き飛ばされて階段から転げ落ちて行った。
割とあっさり倒されたスパイダーの群れ。
汚物は消毒ってか……。
「この填め方は違うみたいだね」
「プレセア、もう少し考えてから行動してくれ。心臓に悪過ぎる」
「わりぃ、あたしもあんなトラップがあるなんて思ってもなかった」
「そりゃ、トラップだもん。分かられたら意味ないじゃん」
御尤もなツッコミをシリウスに返されて落ち込むプレセア。
彼女のフォローをマルグリットに任せておいて、ほのか達は仕掛けの解除に頭を悩ませる。
「ヒントはこの文面だと思うの」
「初めに全ての命を生んだ力、次に過酷なる環境で命を進化させた力、次に踏みしめる足を作った力、最後に悠久を駆ける力を示せか……。何を意味してるのか分からん」
顔を突き合わせて唸る面々。名案が浮かばずに考え込む。
その時、リースリットが近づいて来て徐に球を全部手にした。
「リースリットちゃん?」
「命を生んだ力は水……。全ての生命は海から生まれた」
「え?」
その唇から紡がれる言葉に全員が彼女の方を向く。
リースリットは彼女達に背を向けて門の前に歩きながら続きを話す。
「過酷な環境で命を進化させるのは火……。海底火山が水に住む命を地上に追いやった。踏みしめる足を作ったのは地……。海に住めなくなった生物が地上で生きる為に与えられた試練。悠久を駆ける力は風……。命を遠くに飛ばして空を飛ぶ事を教えてくれた」
次々に填める四つの色を放つ球。左から順に水、火、地、風の配列に填められる。球が光を放ち始め、門が重低音を響かせて中央から左右に割れ、開き始めたではないか。
「開いた……!!」
「なるほど……。あの四つの球はそれぞれの力を意味するものだったのか」
「流石はわっちのぬし。わっちも鼻が高いの」
開かれた門の先に入ると、今度は大きな祭壇がほのか達を待っていた。
その祭壇の中腹から仄かな光が零れていて、不思議な光景に彼女達は足を止める。
「風の魔力を感じる。でもこれはなんだろう? 何重にもプロテクトが掛かってる……」
「ん~……それと、お客さんもいるね」
「ふえ?」
顎に手を当てて言うシリウスに首を傾げる。ややあって、祭壇内に響く地響き。何事かと思ってビックリするほのか達の前に姿を見せたのは、無骨な鎧を身に纏った巨大な首なし騎士だった。
「で、出たああぁぁあああああぁぁぁぁっ!!?」
まさに亡霊と呼ぶに相応しい姿。ほのかやフィリスは恐怖で悲鳴を上げて顔を真っ青にして互いに抱き付いた。
「ん~……。ねえねえ、これ触れるから亡霊じゃないんじゃない?」
―――なんという事でしょう。
怯えるほのか達を尻目にシリウスはそんな巨大なそれに近づき脛をペンペンと叩いて感触を確かめてるではないか。
「シ、シシシシシリウス君!? 何やっとるんねん!?」
「いやさ、本物の亡霊かどうか確かめようとボディチェックをね。あっ、もしかして御触り厳禁だった? そりゃないぜ大将!」
「何処のクラブの御約束やねん!! いやいやいや、そんなツッコミしてる場合とちゃうわ。シリウス君、危ないから戻りぃ!!」
慌ててあかねが彼を呼び戻そうと手招きする。
っとその時目の前の首なし騎士が動き出し、手に持つ棘付き鉄球を繋げた鎖を振りまわし始めた。
「およ?」
「動き出したーーーッ!?」
重々しい風切り音。嫌な予感がしたシリウスがギギッと錆ついたロボットの様に首を動かして背後を見る。
見上げた先にあるのは、棘付き鉄球が高速回転して放たれるのを今か今かと待っている光景だった。
「あ、あははは。…………逃げるっ!!」
乾いた笑いをした後――反転しその場から猛ダッシュ。直後に振り下ろされる鉄球。
シリウスが先ほどまでいた場所にそれが落とされ、地面が砕けた。
「どおっ!? 攻撃力高っ!!! 取り敢えず……逃げるんだよおぉぉぉおおっ!!」
「って、こっち来るんやああぁぁああない!?」
首なし巨大騎士を、某配管工事のおっさんの名前を逆さまにした主人公が引き連れる植物よろしく連れて逃げて来るシリウスにあかねが叫ぶ。
矢鱈滅多らに振りまわされる鉄球攻撃を全員逃げて避ける。
「こんなお化け嫌なのーーー!!」
[……マスター。彼は亡霊ではありませんよ?]
[そうですよフィリス。彼はお化けの類ではありませんけど]
「「え゛……?」」
「ん……モンスター」
そんな事を言って点滅する相棒に二人の声が思わずハモる。
そして二人にリースリットが普通に答え、フォルテが説明を始めた。
[あれはデュラハーン。列記とした霊体系モンスターです。ランクはC、属性は風属性です]
「亡霊じゃないの!?」
[見た目は人に近いですが、モンスターです。鎧の中には何も入ってません]
「中に誰もいないですよ!!」
「ネタ止めい!!」
「ブベシッ!!」
余計な事言ってハリセンで叩き潰されるシリウス。
兎も角、相手が亡霊ではなくモンスターだと分かるやほのか達は逃げから一変する。
「モンスターなら遠慮はいらないの!!」
「散々私達を怖がらせて……許さないんだから!」
「……ねえ、ユグドラ」
「何だシリウス」
「なんでお化けはダメなのにモンスターは大丈夫なんだろうね、あの子たち?」
「……知らん」
目の前で繰り広げられるのは、攻勢に出てデュラハンと激闘を始めるほのか達の図。
そんな彼女達の様子に首を傾げるシリウスとユグドラ。
―――全くもって彼女達の考えの基準は解し難い。
「じゃあ、俺はアシュトンの護衛に回るから」
「では、私もそうさせてもらう。前衛はアイネとマルグリットが頼むぞ」
「うえぇぇぇぇえぇぇぇ!? 無理無理無理ですよーー! あんな怖いのと戦いたくないです!」
首を振っていやいやと拒否するマルグリット。
その綺麗な瞳も若干涙目だ。
「駄々をこねるな。行くぞ」
「うわ~ん。アイネちゃん、喋れるようになった途端にお姉さんみたいなのです~!!」
だが、その彼女の襟首をアイネが掴んでズルズルと引き摺られていく。
先に前線で戦っていたほのか達と合流してアイネはマルグリットを漸く離した。
「うぅ~……。やっぱり戦うんですか?」
「戦わねば先に進めないだろう」
「それに此処に誰か閉じ込められてるみたいだし、助けようよ」
投擲される鉄球を散開して避ける。
「や、やるしかないのなら……やってみるです!!」
導師の様なコートに身を包んだ錫杖を持つ女性の紋章が出現。
彼女の足下にインペリア式魔法陣が展開される。
「駆けろ猛獣、ジェットインパルス!!」
彼女の周囲に水泡が集まる。それは瞬く間に五頭のピューマに姿を変えて、牙を見せ唸る。
「行け!!」
彼女が棍を振り下ろして合図を出すと一斉に獣たちは駆け出す。
しなやかな動きで振りまわし、飛んでくる鉄球を避けて獣たちは跳躍し次々にデュラハーンに鋭い牙で食らい付いた。
食い付いてくる獣たちを相手は力任せに振り払い、鉄球を振るって殴った。
強烈な一撃を諸にくらった獣たちは砕け散り消滅する。
そのままデュラハーンはマルグリットへ鉄球を振り下ろすが彼女は跳躍でかわす。
引き戻し再び飛ばされる鉄球を彼女は身を捩じって避ける。
そして、自分の直ぐ脇を伸びて行く鎖の連結部分にナイアスを突き刺した。
「っ……!! ええいっ!!」
全身を軸にして彼女は回転して振り抜く。その力に引っ張られて鉄球は方向転換。
Uターンして持ち主の方に帰って来た。自らが投じた鉄球が戻ってくるのは想定外だったのだろう。
諸に直撃してその巨体が体勢を崩した。
「今です!!」
「フォトンブレイザー!!」
怯んだ所にほのかが砲撃を撃つ。
防ごうとしたのか、デュラハーンは左手を突き出して彼女の砲撃を真っ向から受け止めた。
「ウィル、出力アップ!!」
[Over Limits,LevelⅠ!!]
システム解放によって砲撃の威力が上昇する。
抑え込んでいた左腕がガタガタと震え始め、弾け飛んだ。
左腕の敵とでも言わんばかりに残った右腕だけで鎖を掴んで振りまわし、鉄球を投擲する。
ほのか目掛けて放たれる鉄球だったが、彼女の影から飛び出す金の閃光。
それが鉄球を避け、螺旋を描きながら鎖の周囲を飛ぶ。
直後に鎖が細切れに両断され散る。
「アクセラレート……!!」
金の閃光……リースリットが更なる加速を行う。
自らの得物を破壊されたデュラハーンは右手を拳に変えて接近してくるリースリットへ打ち出す。
それを紙一重の所で身を捩ってかわしつつ真下を通る手にフォルテを突き刺す。
突き刺したまま彼女は肩口まで一気に駆け上がる。
「はあぁぁぁ!! レイジングスマッシュッ!!」
フォルテを最後まで振り切って上空へと舞い上がる。
切り落とされた右腕が地面に落ちる。両腕を失い攻撃手段もなくなったデュラハーンだが、しかしその動きに変化が生じた。
無くなった腕、その肩口から淡い白い炎が灯ったのだ。
それは徐々に大きくなって腕となって生えたのだ。そして同様に首の部分も白い炎が宿り、頭の形となる。鋭い赤い瞳と口が出来て雄叫びを上げる。
[デュラハーンの第二形態への移行を確認。魔力上昇、ランクがB級へと上がってます!]
「モンスターでも形態を変えるの!?」
第二形態に変わったデュラハーンはその悪魔の様な顔を悦に歪める。
そして、地面に刺さっていたニ柱を掴んで引き抜いた。
ほのか達が柱だと思っていた物……。それは巨大な剣だった。
それを両手に持った彼は動き出してこちらに向かって突っ込んで来た。
振り下ろされる一刀をかわして魔力弾を撃つ。煩わしそうに手の甲で掃うと逆の剣を横に振って来る。慌ててほのかはディフェンシブを張って防御。接触面で迸るのは、光と炎だった。
「ふえっ、炎!?」
[相手の属性の変化を確認!! 今のデュラハーンは風属性から火属性へと変化してます!]
形態が変わると持っている属性も変化するのがこのデュラハーンの特徴だ。
デュラハーンの形態変化はランダムな様でどの属性に変わるかは予測できないと言われる。
ただ、相手がどんな属性に変化するのかを見極める事は出来る。
それが噴き出る炎で、その色によって何の属性になったか判断は出来る様だ。
ちなみにデュラハーンの持つ属性は基本的な四大属性の地水火風で、レア属性は含まれないそうだ。
急な属性変化に驚かされるほのかが徐々に押され始める。
そこに飛んで来たのが青く輝く魔力矢。それがほのかを狙っている剣に激突して爆発の衝撃で弾いた。
「フィリスちゃん!」
「ほのかはやらせないよ!! アクアインパクト、シューーット!!」
弦に番えた魔力矢を放ち、デュラハーンを射抜く。
弱点となる水属性を受けて僅かに怯んだ様子を見せるが、すぐにフィリスへターゲットを絞り剣を振り下ろしてきた。無理して受けようとはせずに彼女はその場から飛んでかわし、牽制を続ける。
「我が敵を射抜け、天に輝く五角形。凍てつく氷彗星《キュール・コメット》!!」
そこにアイネがあかねと同じ魔法を発動、細胞まで凍結させる氷の光線を放った。
無数に飛ぶ誘導式射撃魔法がデュラハーンを狙うが、彼は剣に炎を纏わせると一閃で飛んで来た攻撃を打ち消した。
「その隙は逃さん!! 水閃咆虎ッ!!」
地を蹴って跳躍したアイネが相手の頭上から袈裟懸けの水を纏った飛び蹴りを繰り出す。
そのまま懐に入った彼女は両手を合わせ闘気で出来た虎を打ち出した
闘気の塊を浴びて巨体が後ろに下がる。マルグリットが足に魔力を纏って猛スピードで駆ける。
跳躍した彼女を両断せんと横に一閃される右の剣。
それを避け、逆に足場にして駆け上がり更に縦に振り下ろされた左の剣に垂直に着地して更に接近する。
「ナイアス、オーバーリミッツ!!」
[Je.Over Limits,LevelⅠ!!]
「シュレディンガーフォーム!!」
ナイアスを多節棍へと変形させて魔力を通す。彼女の狙いは――がら空きの頭部だ!!
「はあぁぁああぁっ!! 倒罪烏撲ッ!!」
華麗なる連打。多節棍による死角から死角へと繰り出される変幻自在の連続攻撃がデュラハーンの頭部に浴びせられる。
悦の表情を浮かべていた顔が、あっという間に哀の顔になり何とも情けない様になる。
最後にマルグリットは多節棍を元の一本の棍へと戻して大きく振り上げる。
「悪霊……退散ッ!!! 水棍必倒、水爆壊ッ!」
水の魔力を一点集中させた一振り。見事にデュラハーンの頭部、その丁度ド真ん中に命中して頭部が大きく凹んだ。
脳天にまともに受けた一撃に流石のデュラハーンも耐えきれなかったのか眼を渦巻き状にした途端に白い炎が消失。糸の切れた人形の様にデュラハーンはその場に膝をついて動かなくなった。
「倒したの?」
「正確には気絶したかな? どっちにしても倒せたと思うよ」
「こ、怖かったのです~……」
巨大な首なし騎士を倒せたのを心底ホッとした表情で安堵するマルグリット。
取り敢えず、祭壇を守るガーディアンの様なものは倒せた。
デュラハーンが倒れた事で祭壇の守りもその効力を失ったのか、張られていた封印魔法が解除される。
「膨大な魔力反応を確認。魔力ランク……SS!!」
「な、なんなのこれ……!!」
「なんという強大な魔力だ! 何が封印されているんだ!?」
大気中に存在する大量の風の魔力素が一点に集束を始める。
激しい光の明滅が起きてほのか達は手を翳し眼を瞑る。そして、直後に激しい突風がほのか達の間を駆け抜けて行った。
「っ……。皆、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。だが、なんだったんだ今のは……?」
「待って、祭壇の上に誰かいる!!」
一同が注視する先、祭壇の上に立っている……いや、飛んでいる複数の人影が見える。
煙が徐々に晴れて行き、その姿が少しずつだが明瞭になってきた。
その者達は、翼を持った幼き少女の成りをしていたのだ。
「私達の封印を解いてくださったのは……貴方方でしょうか?」
金の六枚の翼を羽ばたかせ先頭に立つエメラルドの髪をショートカットにした幼き少女がそこにいた。
だが、その琥珀色に輝く瞳には幼さとは裏腹に何処か成熟した大人らしさが含まれている。
肌にぴったりと合うシルクの服を着ている。
「ふーーん……。この子達が僕達の封印を解いてくれたんだね」
次に先頭の少女の右後ろにいる紫色の鮮やかな蝶の羽を生やした藍色のロングヘアーの少女が言葉を発した。勝気な顔の少女は腕を組んでいて、口調もまた男勝りな感じだった。
「うわ~い、やっと外に出られたよ~。出してくれてありがとうね~♪」
左後ろにいる桃色ウェーブ掛かった髪をした少女が今度は声を発した。一対の桃色の翼をパタパタと羽ばたかせて浮いている。のんびりとした口調の何処か天然っぽさを醸し出す子だった。
次女も三女も長女同様にシルクの服を着こんでいた。
「……眠い」
最後に先頭の後ろからひょっこり顔を出したのは銀髪をポニーテールにした少女だった。
垂れ目で凄く眠たそうな声をしており、その両手に大事に包まれているのは熊のぬいぐるみだった。
少女には翼らしきものは見当たらず、その身を質の高そうなローブで包まれていた。
「あ、あなた達は……?」
「封印を解いておいて私達を知らないのですか? ……なるほど、私達が目的で封印を解いたという訳ではない様ですね」
「ふ~~ん、面白い人間達だね」
「人の持つ魔力とは違う。この清廉なる魔力はなんだ……!?」
人の宿す魔力とはあまりにもかけ離れたものにアイネが驚いた表情を見せる。
実際、目の前の少女達の身から放たれる魔力は清純であまりにも清らかなものだった。
「では、自己紹介から始めましょう。私達は風の精霊シルフ。そして、私は長女のシルフ・ユースティアといいます」
先頭に立つエメラルドの髪をした少女が胸に手を当てて挨拶をする。
それに続いて後ろの左右に立っている二人が順に挨拶を始めた。
「僕は次女のシルフ・セレスティア。よろしくね」
「わたしは三女のシルフ・クレスティアだよ~♪」
最後に長女の後ろに隠れつつも銀髪の少女がか細い声で名乗った。
「……四女、シルフ・フォースティア」
「風の精霊!?」
「実在してたんだ……」
書物や昔話などにしか姿を見せない存在が目の前にいる。それに驚きを隠せなかった。
彼女達は非常に小柄で、その身長はパーティ内で最も身長の低いほのか達小学生組よりも小さいほどだった。
「さて、まずは私達の封印を解いて下さりありがとうございます」
「お前達は、如何して此処に封印されていたのだ?」
「それを話すと長くなります。移動しながらお答えいたしましょう」
「僕達が寝てる間に、余所者が住みついてるみたいだしね」
「出口はこっちだよ~。付いて来て」
シルフ四姉妹に先導されてほのか達は祭壇の奥にある通路に入った。
先を進むと、螺旋階段に通じており彼女達はそこを上る。
「私達は今から遥か昔にこの地に生まれ風の民と交流を交わしました。彼等は風の魔力素が強いこの地に神殿を建てて住まわせてくれました」
「そのお礼として、僕達はあいつらに風を与えてたのさ」
風の民との友好は非常に良かったようで、シルフ達の力の源である風の魔力素が集まり易いように場所を見つけては遺跡を建てて少しでも住みやすいようにしてくれたそうだ。
代わりに彼女達はこの地に吹き起こす風の力を増す事で恩恵を与え、民は発展をしていったという。
「しかし、当時の族長が病に伏した所で状況は一変しました」
「次の後継者を決める争いが起きたんだよ~。それで土地が荒れちゃって、わたし達も住処を変えなきゃいけなかったの~」
「彼等がそれを許す訳もありませんでした。ですが、そんな時に族長が私達をこの地に連れて来て封印したのです」
「権力争いに利用されるのを防ぐためか?」
話を聞いて精査したルチアが問うと、長女は然りと答える。
「それもありますが、彼は怖かったのでしょう。私達がこの地を去り、風の力が衰えるのが……」
「……いい人、だった」
「そうですね。彼は私達の数少ない人間の友人と言えましたね」
その族長はもういないだろう。既に寿命を終えて息絶え、恐らくほかの部族も争いで全滅した可能性がある。
「封印された私達は長い年月でモンスターが蔓延る危険な遺跡となったここに近づく人達を追い返す事にしました」
「まあ、偶に失敗して怪我させちゃう時あったけどね」
「もしかして、シルフィードで噂になってる亡霊って……シルフだったの?」
「話を聞くとその様だな」
風の神殿に近づくと現れる少女の亡霊。その正体はどうやらシルフ達だったようだ。
危険なモンスターの生息するシルフ神殿や渓谷にあまり近づいて欲しくない。
だから彼女達は姿を見せて人に対して攻撃をかけたようだ。
「どうやら、私達が留守にしている間にこの地によからぬ存在がやって来たようですね」
「この感じ、気に入らないね。僕達を挑発でもしてるのかな」
「でもユー姉にセー姉、かなり強そうな感じだよ?」
「……怖い」
螺旋階段の先から感じるのだろう禍々しい魔力にシルフ達も何かを感じ取った様だ。
ほのか達は彼女達にも現在シルフ神殿で起きている状況を説明した方がいいと思って、事のあらましを話した。
「古代遺産の欠片ですか」
「うん。けど、あのハスターってモンスターは凄く強かった」
「私達の魔法が弾かれちゃうの」
「風も強いし、上手く飛行できねえからいい様に手玉に取られちまった」
「ユースティアさん。何とか出来ないの?」
風の精霊である彼女達に如何にかできないか願い出る。
それにユースティアは快く承諾してくれた。
「その件については私達が何とかしましょう」
「封印を解いてくれた礼もあるしね」
話をしている間に階段は終わりに差し掛かろうとしていた。
その時、三女のクレスティアがリースリットの方に近づいて顔を覗き込んで来た。
「………なに?」
「ふえ~……。あなたには、風の加護があるみたいだね~」
「っ!!」
言われた途端にリースリットの表情が固くなった。それをほのかは見逃さなかった。
「……貴方には関係ない」
「え~。でも――」
「あまり私に関わらないで。それ以上聞くなら、精霊でも容赦しない……」
「リースリットちゃん!!」
フォルテを起動してその切っ先を向けようとした所でほのかがなんとか制した。
急に起こした彼女の行動にほのかだけでなく他の面々も驚いた。
明らかに精霊に対して失礼な発言だ。彼女達の怒りを買ってしまったか……と思ったのだが。
「クレス、やめなさい」
「でもユー姉……」
「人には触れては欲しくない事があるのです。今回は貴方に非があります」
「……ごめんなさい」
長女であるユースティアは三女のクレスティアを窘める。
一時は食い下がろうとしたクレスティアだが、諭されて素直にリースリットへ謝った。
「ごめんなさい。私の妹が迷惑をお掛けしました」
「いや、わっちのぬしも『風翔天尊子』に迷惑をかけた。ぬしの代わりといっては失礼じゃが、謝辞を述べさせてくれ」
長女が続いて頭を下げると、アウルがリースリットの代わりに同じ様に頭を下げる。
すると、長女はすぐに顔を上げて少し慌てた様子でアウルに声をかけた。
「『黒風の幽姫』が頭を下げないでください。私達の様な――」
「おっと、それ以上は言うてくれるな。わっちは既にぬしの使い魔じゃ。それ以上でもそれ以下でもない。察してくれるかえ?」
扇子を開いて口元を隠し、妖艶な笑みを扇子越しに浮かべるアウル。
それにユースティアは何かを言い掛けていた口を閉ざし、素直に頷いた。
「あの、アウルさん。なんの話をしてるの?」
「気にする事はない。ただの世間話じゃ。ほれ、もう少しで神殿の最上階じゃ。はよう行こうか」
優雅に歩いて先に行くアウルを暫くポカンとした面持ちで見ていたほのか達。
すぐにハッとなってアウルの後に付いていくシルフの後を追いかけて階段を上った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
螺旋階段を上り切ったほのか達は、風の神殿の最上階へと辿り着いた。
「ほのか、大丈夫?」
「ふにゃ~……、少し疲れたの」
元々運動神経がないほのかにとって先の螺旋階段は非常に体力を使うものだった。
軽く息切れをしており、膝に両手を当てて呼吸を整えている。
「凄まじい風だな……」
ルチアが思わず言葉を漏らす。確かに神殿の頂上には激しい風が吹き荒れていた。
渦巻いて天高く昇っていく風は、まるで竜巻の様だ。
その中心にほのか達は立っていて自分達を囲む風の壁を見て辺りを見渡す。
「ハスターは見当たらないね」
「だが油断はするな。奴の事だ、この近くにいる筈だ」
「シルフ、この風をなんとか出来ない?」
「やってみましょう」
フィリスのお願いにシルフ達は承諾して舞い上がる。互いに向き合って手を前に翳す。
四人の囲む丁度真ん中に魔力が集束を始め、深緑の光が生まれる。
それが弾けて、粒子となって飛び散った。
キラキラと煌めく魔力の残滓が大気中に消えていくと、竜巻に変化が訪れ、その勢いが徐々にだが弱まっていくではないか。
視界すらまともに確保できなかった濃い密度の風はその成りを治めて行き、頂上を包みこんでいた竜巻は消えて行った。
「これでよしっと!」
「久々のお仕事は大変だね~」
竜巻が消えた頂上で、ほのか達は周囲を見渡す。
そこには、地平線の先まで広がる絶景が広がっていたのだ。
「うわぁ~……すごく良い景色なの」
「絶景だね」
それぞれが素晴らしい景色を堪能していたその時だった。
再び、あの重苦しい重圧がほのか達に襲いかかって来た。
「っ!! この感覚は……!!」
「奴か!!」
誰よりも早くユグドラとルチアが戦闘態勢に入って頭上を見上げる。
遅れてほのか達もターミナルを構えて臨戦態勢に移る。
見上げるほのか達の頭上に、秘石ニーベルンゲルゲンの欠片ハスターがその姿を再び現したのだった。
四元剛鉄 デュラハーン
彷徨う巨大な首なき鎧武者。亡霊と思われがちだが列記としたモンスターの一種。ランクはCの風属性で、手に持つ鎖付き鉄球を振り回して相手を粉砕しようとする。
一定以上のダメージを受けると第二形態へと移行し、風属性から地、水、火属性のいずれかに変化するので魔法士も冒険者の間でも厄介視されている。
封印されし風の精霊シルフ登場。彼女達の力を借りて、ほのか達は吹き荒れる暴風を止めて再び現れたハスターへ再戦を挑む。
それでは次回も宜しくお願いします。




