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第四十一話 彼方より来る風

四十一話更新。


突如として現れたウィンドエレメント。

環境が不安定になると姿を見せる彼らに攻撃を受けるほのか達。

その彼女達の前に更なる敵が姿を見せる。



 空中を滑る様にして飛ぶウィンドエレメントが複数の魔力弾を作っては飛ばして来る。

飛んでくる弾幕の攻撃先にはあかねが立っていたが、それは彼女を守りし疾風の騎士ルチアの前に阻まれて消滅する。


「主、大丈夫ですか?」

「うん、ルチアありがとぉな」


 守ってくれたルチアにお礼を言う。

柔らかな笑みを見せて言葉の代わりに返事を返した後、彼女は更に飛んでくる弾幕を自身の得物のスピナー型ターミナル『パールグラス』を動かして打ち消していく。


「ごめんな。うちが皆の足を引っ張ってるんやね」

「そんな事言わないでください。ワタシ達は主が後ろで見守ってくれているからこそ、安心して前で戦えるのです」

「でも、うちかて魔法を使えるんやで……」


 仮にもあかねだって魔法少女だ。

ほのかやフィリス、リースリットは前線に出て戦っているのに自分だけ後ろで守られるだけの立場では何ともいいがたい気持ちだ。


 だが、誰にでも得意不得意はある。あかねは使う魔法がほぼ全て殲滅魔法だ。

殲滅魔法は魔法の中では断トツの威力と攻撃範囲を持つが、消費魔力と発動までの時間もまたトップ級というデメリットもある。


 今ここで使ってしまえば敵を倒せるだろう。

しかし、その後に来るだろう欠片戦で戦力にならなくなる可能性がある。

出来れば、彼女の魔法は温存しておきたいところ。


っとまあ戦士的な思考で考えるとそうなるが、実際のところルチア達はあかねを極力戦闘に参加させたくないのが心情である。

彼女の事が心配で心配で心配過ぎる騎士達の過保護精神が主な原因だったりする……。


――主(あかね(ちゃん))は自分達が守るっ!!!――


そんな過保護っぷりが闘気と一緒に溢れ出ている模様。

逆に言えば、あかねの方も家族のユグドラ達が前線で戦っている様を見てハラハラドキドキしっぱなしだ。


(あ、あぶないって!? ユグドラ後ろ後ろ!! マルグリットも右から来てるって!! あぁ、プレセア弾幕来るから気ぃつけて!!)


ユグドラ達の(自称)保護者なだけに、母親的視線で彼女達の戦闘をみて肝を冷やしている。

過保護精神がにじみでてます。


「俺も心配してほしいな~?」

「あっ、シリウス君は大丈夫そうやね」

「ショックなのだ~~!?」


目尻からキラキラ光る滴を散らしながら駆けて正面のエレメントを蹴り飛ばすシリウス。

八つ当たりは大人気ないと思う。

余裕のある者もいればそうでない者もいる。後者に当るのはアシュトンやサヤだ。


「アイツ殴っていいか!? ってか殴らせろ!!」

「ダ、ダメだよ霧島さん! エレメント系モンスターは強い衝撃を与えると爆発するって知ってるでしょ!? 此処は我慢して!?」


 魔力弾の弾幕の中を駆けながら叫ぶサヤ。彼女の攻撃は物理攻撃だ。強力な爪の一撃はモンスターですら脅威といえる破壊力を持つ。

だが、残念な事にエレメント系にそんな事をしたら何かの拍子で爆発なんて事もあり得るのでアシュトンが必死に説得している。


「チクショウ~!! 生まれて初めて魔法使いてェって思った!!」

(今まで思った事なかったんだ!?)


思わぬカミングアウトに心の中でツッコミを入れる。

悔しそうに地団駄じたんだする彼女を見てエレメントは攻撃してこないと悟ったのか攻勢に出てくる。


「娘よ、下がっておれ! ふんっ!!」


ブロック体を回転させながら体当たりを仕掛けてくる相手にアウルが正面に立って扇子から黒い旋風を起こす。

強風に煽られてエレメントは弾き飛ばされる。

すぐに持ち直した相手はブロック体を飛ばしてアウルを迎撃しようとした。


「本体ダメなら、こっちはいいだろ!!」


アウルの背後からサヤが腕を振る。爪から衝撃波が飛んで、アウルの左右を弧を描く形で地面を抉りながら奔る。

交差した攻撃が爆発を起こして正面の大地が吹っ飛ぶ。

それによって飛ばされたブロック体は見事に弾かれてしまった。


「黒き穿槍せんそう、ブラッティエッジ!」


チャンスが生まれたのを逃さずにアウルが魔術を発動する。

エレメントの足下に黒い魔術陣が生まれ、そこより闇属性の槍が飛び出してエレメントのコアを穿うがつ。


構成するブロックが波打つように動く。

そして、駆け抜ける閃光。一文字の金の線が奔った。


「一体……」


 背後に立っているのはリースリット。持っているフォルテを血を払う様に振る。

構築しているブロックが集結し、僅かに膨張した途端にウィンドエレメントは瓦解がかいを始めて弾け飛んだ。


その彼女を狙う様に離れた場所に浮遊していたエレメントが魔法を発動しようとする。


「させないっ!! 土塊の猛襲、ストーンバッシュ!!」


 見逃さなかったアシュトンが弱点の地属性魔術を使う。

大地のエネルギーを含んだ土塊が噴き出してエレメントに直撃。

身を守ろうと防御の構えを取っていたが耐えきれずに怯み、中枢のコアを剥き出しにする。


「二体目!! おらあっ!!」


 地面にミョルニルを突き刺して地面を掘り起こす。

巨大な岩塊が飛び出して、それを彼女はフルスイングで打つ。

見事にエレメントに命中して、巻き込む形で飛んで行った岩塊が岩の壁にぶつかって砂塵さじんと共に弾け飛ぶ。風で砂塵が消え去った後には何も残っていなかった。


数が減る事で形勢は一気に逆転する。

六体で戦っていたのに一気に二体も減った事で連携も取れなくなった彼等は徐々に孤立を始めて一体、また一体と撃破される。


そして、三体目が撃破されて残るのは一体のみ。

コアを輝かせてエレメントは自身の体の一部であるブロック体を高速回転させながら突進してきた。


「ここから先は通行止めさ!!」


その前にシリウスが立つ。気にする事なくエレメントはシリウスをふっ飛ばさん勢いで突っ込んで来る。

彼の側面をぶん殴ろうと飛んでくるブロック体。

 しかし、それを彼は体を僅かに傾ける程度でスッと避けると次に来る逆方向から来た逆袈裟懸ぎゃくけさがけの一撃も避けて体を伏せる。


「通りたかったらお代は……君の命で!!」


 緑色の瞳が怪しく光る。彼の上を通り過ぎる形となったエレメントを真下から蹴り上げる。

そのままエレメントを連続キックによる猛ラッシュを仕掛ける。


「無限脚!! オラオラオラオラオラッ!!!」


 残像で無数に見える足。

打ち込まれる多段攻撃にエレメントの体がボコボコにされる。

最後に蹴り上げて真上に蹴り飛ばした彼は、地面を蹴って跳躍し先に飛ばしたエレメントに追い付く。


「そしてそのまま……ゴールへ、シュウゥゥーーット!!!」


 足に青い炎をまとって鋭い回し蹴りを叩き込む。

サッカーボールの様に蹴飛ばされたエレメントは、先にあった岩壁の丁度良い隙間に見事にボッシュート。直後に散々蹴られた所為でコアが暴走を起して大爆発と共に木端微塵に消し飛んだ。


「超っ、エキサイティn――!」

「その発言はやめーーいっ!!」

「ツクダっ!?」


何処から取り出したのかシリウスの顔面に向かって振り下ろされるデカハリセン。

乾いた音が渓谷内にやけに響き渡った。


「いい、一撃だよ。あかね……」

「ツッコミはうちの専売特許や」


 うつ伏せに倒れているシリウスからくぐもった声が聞こえる。

あまりに綺麗に決まったツッコミをしたあかねは腰に手を当てて大の字に倒れる彼を見下ろしてそんな事を言う。

何やら顔付近から白い煙が上がっている様な気がするがそこは触れないでおこう。


「うわ、痛そう……」

「自業自得だけどな」


 シリウスの状態を見てアシュトンは痛そうな顔をしサヤは呆れた顔を浮かべた。

っとそんなやりとりをしている間に、リースリットがアウルを伴って一人でさっさと遺跡に向かおうとしているのが見えた。


「ま、待ってなのリースリットちゃん!」


 慌てて呼びとめると彼女は歩みを止めて振り返る。ただ、すぐにプイッと視線を戻してまた歩き始める。

このままだと折角また会えたのにお別れになってしまう。

ほのかも仲間達を連れてその後を追いかけた。


だが、ほのか達がリースリットに追い付いたその時だった。

遺跡を中心に周囲一帯に強烈な重圧プレッシャーが起きてほのか達にし掛かって来た。


「っ!? なにこれっ!?」

[強力な魔力反応を感知!! 上空から何か来ます!!]


 遺跡の頂きで巻き起こっている巨大竜巻の中から同様に巨大な影がおぼろげに現れる。

その姿がはっきりとしてくるに比例する様に風の強さが一層増して来る。


竜巻を破ってゆっくりと姿を見せるそれ。その大きさは二階建ての家を越えるのではないかと思わせる巨大な怪鳥だった。

 鋭い黄色い嘴と鷲の様な鋭利な鉤爪を持った脚。

全身を鮮やかなエメラルドグリーンの羽毛で包まれ、翼の先に行くにつれてそれは黄色に変わっている。

サファイアの様な青い眼は猛禽もうきん類を彷彿ほうふつとさせる鋭さを放っていた。


「なんだありゃ!?」

「この辺りで見た事のないモンスター!?」

「新種か!」

[いえ、あのモンスターから特定の魔力を感知。これは秘石ニーベルンゲルゲンです!!]


メローから知らされる敵の情報に一同は一斉に身構える。

翼を大きく広げた形で滞空するそれは地上で自身を見上げる少女達を睥睨へいげいして―――


[我ガ同胞ヲ討ちシ者達か……]

「え……!?」

「しゃ、しゃべった!!」


そのくちばしから発せられた声にほのか達は驚いた表情を浮かべた。

これまでの秘石の欠片は『古代インペリア語』だけだったのが、此処に来て人語を話す様になったのだ。


[轟炎魔獣……水禍の支配者……そして、硝煙モ破られタか]

「轟炎魔獣……?」

「きっと、クトゥグハの事だよ。それとノーディアスとパーフェクト・マーダーだね」

「それを知っているという事は、貴様……秘石の一部で間違いないな!」

[我ガ名は、ハスター……。彼方より来たる風なり……]


自らの真の名を口にするハスター。

その今までにない落ち着きを放つ相手にほのかは言い様のない不安を覚える。


あのハスターは今までの秘石のモンスターと何かが違う。

決定的な何かが違う、欠片を守護するガーディアンに寒気を感じる。


「シルフィードで起きている強風は、貴様が原因か!!」

[……………]


 朱槍ルーンを構えたままユグドラが問いかけるも、ハスターは口を閉ざして沈黙する。

沈黙すると言う事は是と判断して間違いないのだろう。


[同胞を討ちテコノ場に足を踏み入れるとイウ事は、我を倒すとイウ事で相違ないか?]

「当たり前だ。テメーの所為で都市の連中が迷惑してんだ!! さっさと風を止めろ!!」


ハスターの全身から魔力が溢れる。緑色に光る魔力の粒子が集まってハスターにまとう。


[愚かなり、人類ヨ。我を轟炎魔獣などト一緒に思わぬ事ダ……]


広げた翼を一度だけ大きく羽ばたかせる。

それだけで、全てを破壊する強烈な突風が打ちだされる。


 肉眼でもハッキリと見える程に密度に圧縮された一撃がほのか達のいる場所に落ちる。

周囲の地面をごっそりと持っていく風の爆発が巻き起こるが、

既に彼女達は退避しておりそれぞれが攻撃態勢に入っていた。


「アクアスパイク、シューット!!」

「シャインバレット、シューット!!」

「サンダースピア、ファイヤ!」


 三方向からの魔力弾攻撃。三つの属性がハスターへ向けて襲いかかる。

しかし、彼女達の攻撃が当るか否かの所でハスターの周囲に突如として風が巻き起こった。

彼の身体に纏わる様に吹く風はほのか達の魔力弾攻撃を弾き飛ばしてしまった。


「防がれた!?」


 三つの属性による多方向からの同時攻撃。それが風の守りの前にいとも容易く弾かれたのに驚く。

今度はユグドラが飛翔しハスターへ一気に距離を詰める。


「ならば、これでどうだ!! 緋閃槍ッ!!」


 紅蓮の炎を宿した鋭い一撃が繰り出される。

数多の敵を穿ち、倒して来た彼女の得意の一突きだ。

しかし、纏う風にぶつかった途端にルーンの勢いは一気に失速して彼女は強風にあおられて吹き飛ばされた。


「くっ!?」

[全てハ徒労に終わル……]


 落ちる彼女に代わってサヤが地面を蹴ってジャンプ。

驚異的な跳躍力で飛んだ彼女に合わせてユグドラが横に槍を伸ばすとそこに飛び乗った。


「行け、霧島!!」

「おうっ!」


 自らが回転する事でサヤを投げ飛ばす。

勢いが最大になるタイミングに合わせて彼女がルーンを蹴って弾丸となって突っ込む。


「これでどうだっ、鬼刃爪!!」


右手の爪で切りかかる。

鬼の如き圧倒的な威力を誇る彼女の一撃ならば――――!!


[………]

「なっ!?」


しかし、サヤの強力な爪による攻撃は風に押し返されてユグドラ同様に彼女の弾き飛ばされてしまった。


[ラー、アルム…トール。消えロ…コール、ガスト]


 ハスターの正面に風が集束して球体となる。両翼を力強く一振りする。

正面にあった球体より放射状に渦巻く風がサヤに向かって飛んで行った。

飛行魔法を持たない彼女に、空中で迫りくる攻撃を回避する術はない。


「サヤちゃん!!」

「チッ……!!」

「パールグラス、オーバーリミッツだ!!」

[Over Limits,LevelⅠ!!]

「霧島女史! 上手く掴め!! ブルーム・デス・ヒメルスッ!!」


 大型スピナーを合体させて一つにして飛ばす。

魔力を纏って高速回転しながら迫るパールグラスをサヤは掴み、そのまま体を捻って腹の部分に飛び乗る。

 パールグラスに乗る事で相手の攻撃範囲内から難を逃れる。突き抜ける渦巻く風が渓谷の一角に着弾して爆ぜる。

それだけでその部分が大きくえぐり取られ、不自然なへこみとなって現れる。

見るだけで今の攻撃の威力が如何いかほどのものかがうかがえるものだった。


「大地よ! 汝の怒りを具現化し、彼の者を打ち砕け!! グランドクラッシャーッ!!!」


 アシュトンが中級魔術『グランドクラッシャー』を発動。彼の右側に巨大な土で出来た右腕が生み出される。宙に浮かぶそれは拳を作ると、ロケットの様にハスターに向かって打ち出される。

しかし、それは再びハスターの発動した渦巻く風と激突し相殺されて砕けた。


「アシュトン!! 使わせてもらうぜ。おらあっ!!」


そこに姿を見せたのがプレセアだった。

スコップ形態のミョルニルをフルスイングして、砕けて宙に漂う土塊を殴り飛ばす。

つぶてになってハスターへと飛んで行く土塊。


しかし、彼の起した風の衝撃波で全てがちりに還る。


「まだだっ!! これでどうだ、エアーデファウスト!!」


 鎖付き鉄球に変えたミョルニルを回転して投擲する。

破壊力ならパーティ内でトップクラスの彼女の攻撃がハスターに迫る。

いくらあの風の鎧が頑丈だろうとプレセアのエアーデファウストは『バリア貫通ブレイク』を備えている。あれならきっと突破できる。


そう確信していた一同だったが、しかし彼女の攻撃はハスターの纏う風に阻まれて弾かれてしまったのだ。


「マジか!?」

[我が風にハ届かヌ……]


 強力な威力を誇るプレセアの一撃が届いていない事に全員が驚く。

張られている風は彼女の攻撃を受けたにも拘らずまるで何事もなかったかのようにうごめく。


「プレセアちゃんの攻撃でも突破できないなんて……!!」

[あのハスターという者の周囲で風の魔力素が超高密度で展開されているのを確認。圧縮された魔力の所為で攻撃が表面を破壊するだけに終わってます]


つまりプレセアのバリア貫通の効果が、張られる風の鎧の第一層を貫通してその効力を失い第二層で弾かれているという事だ。


[塵ちりも残さズ消し去ってくレよう……]


 対抗手段を失った彼女達を頭上から無数の風魔法攻撃が降り注ぐ。

着弾と同時に巻き起こる強力な風圧に全員が吹き飛ばされ地面を転がる。


「くっ……!! なんという奴だ!!」

「あの欠片、今まで戦ってきたのと全然違う!?」

[我は彼方より来たるもの……。あまねくものヲ風と共ニ飛ばしテくれる]


全身から緑色の魔力が溢れだす。

大きく身を膨らませるハスターの前に巨大な魔法陣が展開される。そこから感じるのは圧倒的な魔力。


「不味い!! 次の攻撃をくらったら最後だぞ!!」

「でも逃げる場所なんてどこにもねえぞ!! 如何すんだよ!?」


 渓谷の頂上に位置するこの場所では逃げ隠れる場所など何処にもない。

集束を始める光が、まるで自分達の人生のカウントダウンを示す様に圧縮されて小さくなる。


「おめェら、あとの事は自分で何とかしろよ!」


急にそう叫んだサヤが両腕を大きく上げる。

その視線の先は自分達の立っている大理石の通路。


「霧島! 一体なにを――!?」

「おらあッ!!」


 両の手を拳に変えた彼女は同時に地面に向かって振り下ろす。

叩きつけられた拳を中心に地面が砕け、足場が崩れ落ちる。先に見えるのは暗い闇の広がる世界。


「うわあっ!?」

「なっ!?」


サヤの行動に理解が追い付かなかった面々は驚きに顔を強張らせ次々に落下する。


[消え去レ……。コール、ブラスト……]


遂に高圧縮された魔法が解放される。

極小サイズにまで縮まっていた球体から光が解き放たれ、強力な風の破壊光線が放たれる。


それは、サヤの砕いて打ち上げた大理石の瓦礫がれきを次々に消し飛ばしながら飛んでくる。

その射線上にはまだ落ちていなかったサヤがいる。


「霧島さん、危ないっ!!」

「うおっ!?」


 そこに身を投げ出す形で飛び込んできたのはアシュトンだった。自らの身の危険をかえりみずに飛び抱える。

そのまま二人は一緒に先に落ちたほのか達と同様に暗闇の広がる先に姿を消して行った。

外れた砲撃は誰もいない空間を駆け抜けて渓谷の一角を消し飛ばすに終わる。


[……自ら死ヲ選ぶか。いや、逃げただけカ……]


彼女達の落ちた先に何があるのかまるで知っているかのような口ぶりで一人語る。

姿の消えた彼女達に興味を失せたのかハスターは視線を下から上に変えて見上げる。


[まあよい……。我ハ再び力を蓄えるとしよウ……。来たるべキ脅威とノ闘争の為ニ……]


 翼を広げ、大きく一度羽ばたく。羽が舞い、ハスターは再び上空高くへと舞い上がる。

遺跡の頂上で巻き起こる巨大な竜巻の周囲を旋回しながら昇る彼はその身に再び風の魔力素を蓄え始め、分厚い黒い雲の奥へと姿を消して行った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



崩れた足場の下。落ちたほのか達はなんとか無事でいた。


「みんな大丈夫?」

「な、なんとか大丈夫や」

「魔導甲冑を着てなければ危なかったがな……」


 自らの身に纏う甲冑に付いた埃を払いながら立ち上がる。

彼女達インペリア人のマジックアーマーは通称『魔導甲冑』と呼ばれていて能力はほのか達のマジックアーマーと同じだ。


「それにしても……随分と落ちたな」


見上げるユグドラにほのか達も頭上を仰ぎ見る。

空が見える大穴は遥か頭上にあって随分と小さく見える。


「ここはどこなんだろう?」

「うぅ~、暗くて怖いです……」


辺りは闇に包まれていて、三歩先はなにも見えない状況だった。

かすかかに聞こえるのは風の流れる音だ。頬を撫でる冷たい風に言い様のない不安を覚える。


「な、なにかいるの?」

「いや、モンスターの気配はない。ただの風だ」

「ふむ、こっちから流れている様じゃな」


 一緒に落ちたアウルがリースリットの傍を離れて一人で風の吹いてくる方向に歩く。

そしてその姿が見えなくなった所で重い何かを擦る音が聞こえ、直後に風が止んだ。


「風が止んだ?」

「ユグドラとやら、少しこちらに来てくれぬか?」


闇の向こうからユグドラを呼ぶ声が聞こえる。

彼女は灯火魔法を使って周囲を照らして先に進むと、アウルが突き当りで立っていた。


「その後ろにあるブロックはなんだ?」

「この後ろから風が吹いていた様でな。お誂え向きに置いてあったから動かして塞がせてもらったのじゃよ」


如何やらいま置いてある大きなブロックの後ろに風の吹き出し口がある様だ。

それが、先ほどまで自分達の間を駆け抜けていた風の正体だったらしい。


「それで、私を呼んだのは?」

「風も止んだ事じゃし、ここに燭台がある。火を付けてくりゃれ」


 風の通っていた通路の脇に金の装飾の施されている燭台が置かれている。

彼女は言われたとおりに魔力を炎に変えて燭台にべた。


 炎が燭台に灯ると、向かいにあった燭台にも勝手に火が点く。

そして、通路に沿って立っていた燭台達が次々に炎を灯し始め暗かった道が明るいものになった。

その光景を見てユグドラは納得したように一人頷く。


「なるほど……。この燭台に火を焼べれば他の燭台も火が点いて明るくなる訳か」

「先ほどまで流れていた風は、燭台に火を点けさせないトラップという訳じゃな」


 明るくなった道を戻り、ほのか達と再び合流する。

そこで顔ぶれを見まわすと……サヤとアシュトンだけ見当たらなかった。


「おい、アシュトンとサヤは何処に行ったんだよ?」

「まさか、落ちる時にはぐれたか!」

「た、大変なの!! ウィル、二人がどこにいるか分かる!?」

[近くに生体反応があります。ですが、それが二人の物なのかは判別不能です。その周囲に多数の別生体反応も感知してます!]


可能性はない訳ではない。二人がそこにいるかもしれないと分かったほのかはリースリットの方を向く。


「リースリットちゃん、お願い!! 手伝ってなの!!」

「……私には関係ない」

「それでもお願い!! 二人を助けたいの!!」


頭を下げてお願いするほのか。

その必死な姿にリースリットも若干圧されてさっきまでの強硬な姿勢は何処へやら。

戸惑った顔をしてアウルの方を見るが、彼女は素知らぬ顔をしていて彼女の方を見ようとしない。


自分で決めろ、と言っているのだろう。

こういう時に限って助言をくれないアウルに恨めがましい視線を送った。


「……ん」


そして、ほのかの方に振り返った彼女は小さくだが頷いた。

それにほのかは明るい顔になってその両手を掴んだ。


「っ///!?」

「ありがとうリースリットちゃん!!」


急に手を掴まれてビックリして顔を真っ赤にする彼女に気付かずにほのかはその両手をブンブンと上下に振る。

リースリットとアウルも加えてほのか達は先へと急いで進む。

古めかしい石材を積み上げる事で造られている通路、長年整備も何もされていない所為か痛んでいる場所もある。


先を急いでいると奥から重低音が空洞内に響き渡ってきた。

それと同じくして誰かの怒号も聞こえる。


「この先にサヤちゃん達がいるのかも!!」

「まってほのか! この先は行き止まりだよ!!」

[右の通路から迂回できますが、先に同様のトラップがある様です]

「そんなの解除している時間なんてないの!」


 時間が惜しい。向こうで何が起きてるか分からないのに、

そんなのに一々時間を食ってしまう訳にはいかない。


「こうなったら……!!」


一つの解決策を思いついたほのかがその場に停止してウィルを構える。

直後に女神の紋章が浮かびあがって、ほのかの足元に桜色の魔法陣が広がる。


「えっ、ほのか。なにする気なの!?」

「ルチアさん! 手伝ってほしいの!」

「任せろ。パールグラス、準備はいいな!!」

[Je.]


 彼女の意図を汲んだルチアがパールグラスを合体させて身を捩じって投擲体勢に入る。

排気口が開かれ、そこから深緑の魔力が噴き出す。

魔力集中を始めたルチアの背後に女性西洋騎士の紋章が出現した。


「光の一撃、貫いて!! フォトンブレイザー!!」

「この世との別れの花を!! ブルーム・デス・ヒメルスッ!!」


同時に放たれる二人の攻撃。狭い通路の中を二つの魔法は飛び、交わり一つの魔法に変化した。


「「合体魔法、星光の葬嵐花スターライト・ストリームッ!!」」


星の海に咲く花を連想させる魔法が回転しながら真っ直ぐに飛ぶ。

その先にあるのは、分厚い石材の壁。


―――それを問答無用で二人の合体した魔法がぶち抜いた。


「わあ~!? 貴重な遺跡に!?」

「そうも言ってられないだろう、アルトレーネ」


 貴重な太古の遺跡に大穴を開けた事に叫ぶフィリス。

肩に手を置いて一言言っておいて、ショックを受けている彼女を連れて開けた穴を通ってその先にある室内に飛び込む。


「いい加減にまとわり付くんじゃねェよ、テメェら!!」


そして、その先に広がっていたのは……。

骨だけのモンスターや箱から鋭い牙を生やした口を見せる謎の物体や人と同じサイズの蜘蛛を相手に大立ち回りを繰り広げているサヤがいた。


「モンスター!」

「サヤちゃん、いま助けに――!!」

「奥義、紅刃爪!!」


――っと行動に起そうとした矢先に、彼女の爪の一撃が炸裂して

襲いかかろうとしていたモンスター達が一瞬で消し飛んだ……。


「………」

「やっぱアイツ人間じゃなくて鬼だろ」

「サヤちゃん、大丈夫!?」

「あたしは大丈夫だ。けど、アシュトンの奴が…!!」


見れば彼女の傍らに蹲っているアシュトンは苦痛に顔を歪ませていた。


「アシュトン君!!」


フィリスとマルグリットが彼の傍に膝を折って診断する。

左足が骨折しており、右足の方も若干のひびが入っているのが分かった。


「あたしをかばって落ちた所為でこうなったんだ」


落ちた二人はあの後にアシュトンが彼女を抱える形で地面に両足から着地、その衝撃で両足の骨にダメージが入ったらしい。

更に左足に力が集中したらしく左足が折れたのだ。


 すぐに治療を始める二人。怪我が怪我なだけにすぐに回復出来る訳ではない。

取り敢えず、いまは申し訳程度に骨をくっ付けるくらいしか出来ない。


「ごめん、皆。迷惑かけて……」

「そんな事ないの。二人とも無事でよかったの」

「あはは、僕は骨を折っちゃったけどね」

「……アシュトン」


苦笑を浮かべるアシュトンの前にサヤが立つ。


「別にかばわなくても、あたしなら大丈夫なんだぞ。あたしは頑丈なんだしよ」

「そう、かもしれないね。でも……霧島さんは女の子だし、本当に怪我がなくて良かったよ」


笑顔を彼女へ向ける。それにサヤは顔を赤くして慌てた様に背を向けた。


「こ、この借りは千倍にして返す。……あ、ありがとよ、アシュトン/////」


 最後の方はよく聞き取れなかったが感謝はされたと思う。

丁度その時、一先ず足の骨をくっ付ける事に成功したフィリス達が息を吐く。


一人で立って歩くのは難しそうなので、一番身長の高いシリウスにアシュトンの事をお願いしてから一同は周囲の状況を確認する。


 広間の様で広々とした空間は薄暗い。先と同様のトラップがあると思って探してみると案の定、三か所にそれらしきものがあり近くにあったブロックを使って塞ぐ。

そして最後にユグドラが燭台に火を点けると、周囲の燭台も一斉に火を灯して闇を照らした。


 暗かった空間がいきなり明るくなって眩しさに目を細める。

明るさに目が慣れてくると、今度は自分達の目の前に階段があるのに気付いた。

階段の先を追うと、昇り切った先に大きな門が立っているのが見える。


「あれは……?」

「遺跡内に門か……何かありそうだな」

「行ってみよう」


気になった一同は階段を登り、その先にある大門へと向かうのだった。


緑の欠片 彼方より来る風 ハスター


欠片に宿るガーディアンで強力な風属性を使いこなす。周囲の風の魔力素を吸収し続けた結果、僅かながらの人語を語るようになる。

業炎魔獣などと、と言う風に語った事からガーディアン内に上下関係があったのではないかと思われるが真偽のほどは不明。

魔力ランクはAAAクラスかそれ以上。


 遺跡内で出現したモンスターは『スパイダー』、『スケルトン』、『ミミック』となってます。スケルトンを除いた二体は物理防御が低いので、攻撃力を上げて物理で殴ればよかろうなのだ。


それでは今後とも宜しくお願いします。

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