表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/97

第四十話 風の都市シルフィード

四十話更新。


冒険の旅に出たほのか達はドレイク達の生息していた地域。

第四都市へと向かう。

風の強い都市として有名なこの地で彼女達を待っていたのは、噂以上に強力な突風と強力なモンスターたちだった。


 『パルティナ』に存在する三大国。その一つ、『魔法共和国』には八つの精霊がいるとされる。


火の精霊『サラマンダー』

水の精霊『ヴィヴィアン』

風の精霊『シルフ』

土の精霊『ノーム』


これら四大元素を司る精霊が魔法共和国の考古学研究学会で一般的に知られており、彼等の事を古くから『四大精霊』という位置に置かれている。


しかし、地方では彼らだけでなく他にも精霊が存在する事が記されてる。

その者達が――


氷の精霊『グラキエス』

雷の精霊『ヴォルト』

光の精霊『レムルス』

闇の精霊『シャドウ』


である。

これらを含めた『八大精霊』が正確には魔法共和国の各属性を担っているとされる。


 彼等はそれぞれ司る魔力素が強い地方に存在するとされ、その力は絶大。

一度ひとたび力を使えば周囲一帯の地形や環境が一変してしまう。


 しかし、その存在を知る者は少なくノームの件の様に昔話に登場するのがほとんどで謎が多い。

第四都市『シルフィード』は風の魔力素が強い事から風の精霊『シルフ』がいると思われる。


 シルフィードは風が強く、風が止む事は一年を通して数える程度だ。地形の特性からなのか、風向きは安定する事はなく乱れやすい。

建物も強い風で倒壊しないようにするのが大前提で、風の力を緩和させる流線形で且つ横長の家が大半を占める。


そして、シルフィードで生まれる子供はその多くがシルフの恩恵を与えられるのか風属性を持っていて歴代の有名な風魔法士達は大抵が此処の出身である。

 風の妖精でもあり悪戯好きの精霊とも言われるシルフ。その容姿は幼い少女の姿で背に透明な緑色の羽を持っている。

ちなみにシルフィードでは、突風が吹いてスカートがめくれたり、洗濯物とカツラが吹っ飛ぶ事を『シルフの悪戯いたずら』と言う。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 強い風の吹き荒れる第四都市シルフィード。

初めにこの地を訪れる者達を歓迎するのは、激しい向かい風である。


「うぅ~……、にゃあっ!?」

「っと、大丈夫か皐月?」


 第四都市地方に訪れたほのか達も例外なくその激しい出迎えを受ける。

強烈な向かい風を受けて体が浮いて飛んだ彼女を後ろにいたユグドラが受け止めてくれた。


「ありがとう、ユグドラさん」

「気にするな。それにしても、っ…凄い風だな」

「こんなに強い風やったら天国まで飛んで行けそうな気がするで」


 強い風に目を細めているあかねの発言に誰もが心の中で同意する。

足を踏ん張って、姿勢を前傾にしないと先のほのかの様にふっ飛ばされそうである。



 何とか都市の中に入れた一同は一先ず風から避難する為に宿へと逃げ込む。

強烈な風の洗礼から退避して一息吐いた後、彼女達はチェックインをして荷物を置いてからロビーに集合する。


「さて、シルフィードに着いたが如何するのだ?」

「ここの人達から情報を聞こう。第四都市に住んでいたドレイクが群れで移動するなんてよっぽどの事態だし、何か分かるかも」


 第三都市に来たドレイクは此処を生息地として暮らしている。

プライドが高く、縄張り意識の強いそんな彼等が自分達の住処を捨てて逃げ出すなど余程の事態だ。


「可能性があるとしたら……」

「オーパーツ『ニーベルンゲルゲン』だね」


あらゆる願望を叶えると言われる危険な古代遺産。

フィリスがその実態を漸く思い出せたのは第三研究所に帰ってからだ。


「まずは、この宿にいる連中から聞いた方がいいかもな」

「うむ、外は生憎あいにくの荒れ模様だ。迂闊うかつに出て吹き飛ばされでもしたら大変だ」


 という訳で、ほのか達はそれぞれが幾つかのメンバーに分れて情報収集を開始した。

宿には旅行者や、この都市出身の従業員などがいる。

ほのか達は擦れ違う人に次々に声をかけては都市に起きた最近の出来事について聞いて回る。

それと同時に、バルドの目撃情報もしっかりと聞いておいた。


何人かの人は首を横に振って分からないと返答をするが、中には特徴と似た様な人物がいた事を示唆しさする者も居り、ある程度の情報を集めてから彼女達は集まって結果を話す。


 結果として分かった事は、いまこのシルフィードで吹き荒れる暴風は何時もとは大きく違うという事だった。

風の都市と言われるシルフィードだが、普段からこんな暴れうねる風が起きている訳ではない。

この暴風が起きたのは此処最近の様で、この都市に住む人々も困っているそうだ。


「従業員の話では、『シルフ渓谷』ある『風の神殿』が怪しいそうだ」

「風の神殿?」

「都市の外にある渓谷の中にある神殿で、パワースポットとかで有名な場所だ」


 聞いた事もない名前に首を傾げるほのかにサヤが説明をする。

シルフィードの領地内にある渓谷の中にある古代神殿で、ゴシップ週刊誌などでよく話題に取り上げられる所だ。

何でも神殿に近づくと急に風が強くなって、次に子供の幽霊が出て来て襲われるという話だ。


「ゆ、ゆゆ幽霊!?」

「実際に会って襲われた連中が結構いたらしいぞ。それでケガをしたのもいたな」

怨霊おんりょうの類なのか?」

「さァな。あたしは幽霊とかそんなオカルト信じてねェからな」

「……魔法も魔術も十分にオカルトの様な気がするよ」

「っていうか、お前のその異常な身体能力の方が十分にオカルトだぜ?」


そこら辺にある石ころを鋼鉄の塊に固めたり、生身の人間が落ちたら大怪我しそうな高さから落ちても平気な顔をしたり、何の強化魔法も付けないでモンスターを爪とかで吹っ飛ばす。


サヤの身体能力は本気マジで鬼かもしれない。

――――そういえば、此処に来る最中ただ一人だけ突風を前に涼しい顔して歩いてた様な気がする。


「う~~ん、サヤの体の秘密を知るには一日を観察するしかないね!!」

「変態は帰れッ!!!」

「ぷっ!?」


空気が破裂する様な音と共に飛ぶ右ストレート。

顔面にめり込み抉るような一撃の前に床に軟体動物の様に崩れ落ちるシリウス。


「……今のはシリウス君が悪いね」

「反省してます……」

「にゃははは…」


彼の傍にしゃがんで呆れた顔するあかねと顔を床にキスした状態でうつ伏せで大の字になっているシリウスの図。

口は災いの元とは言うが、言った言葉の千倍以上の一撃が返ってくるとは彼自身も思ってもいなかっただろう。


「……取り敢えず、風の神殿に行ってみるか」

「そうだな~」

「ほのかちゃん、行こう」

「うん」

「あ、待って。せめて俺がコンティニューするまで待ってちょうだいな」


もちろん誰も待ちませんでした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「それにしても、バルドって本当に何者なんだよ?」


都市の中で必要な物を買いそろえている最中にプレセアが唐突にほのかに質問を投げかけて来た。


「ふえ? どういう事?」

「いやよ。コーネリアで起きた出来事が今でも信じられなくてな……」

「それは私も思う所があるな。あれには少々驚かされた」



 コーネリアにドレイクの集団が着た時の事だ。

都市へと迫る大量のドレイク達を何とかしようとほのか達は都市の城門からこっそりと脱け出した。

如何にかしてドレイク達を追い払いたいと思ったほのかが取り出したのは、もしもの時に使えとバルドが残してくれた黒曜石の様な黒光りする球だった。


 都市にいる皆を守って、と願いを込めて放り投げると球体から眩い闇の光が溢れだして巨大な魔術陣が展開されたのだ。姿を見せたのはバルドそっくりの人影。

黒い炎が形作る人型のそれは真紅の眼で前方の敵を見据え、詠唱を唱えた。


 直後に黒い炎は姿を変える。次の瞬間、黒き巨大な龍と思わしき巨大な生物に変貌へんぼうしたのだ。

大きな裂けるのではないかといった様子で口を開いて、その中に光を集束させる。

放たれる闇の閃光。それは瞬く間に前方にいたドレイクの群れを焼き払い、空をも焼いて駆け抜けて行った……。


――――っと、シルフィードに着く前にこんな事があったのだ。


「現存する闇系魔術の中で最も強力な威力と射程を誇る上級魔術『ドラゴンロア』……。たぶん、あれはそんな名前だったと思うよ」

「そんな強力な魔術をあれだけのサイズに収めて、尚且なおかつ持ち主の有無も関係なく発動できるものなのか?」


ルチアの疑問に魔術に精通するアシュトンは首を強く振って否定する。


「そんなの聞いた事ないよ。第一、魔術をあんな風に扱えるなんて今まで誰も知らなかったと思う!」

「誰も知らない事を使える……。謎が多過ぎるぞあの男は。皐月はバルドの事をよく知るのだろう? 何か知らないのか?」

「う~ん、バルドさんの事は私も良く知らないの。バルドさんは冒険者なのは知ってるけど……」


彼が今まで自分の素性を話した事は一度もない。

ほのか自身もそんな事を今まで知ろうとは思ってなかったから聞いてはいなかった。


「まあまあ、それよりも目下の目的の方を片付けようよ」

「うぅ~……シリウス君の言うとおりですよ。ここ人が多過ぎて、怖いです。早く行きましょうよ~!」


 復帰したシリウスと人見知り全快なマルグリットに急かされ、

ほのか達もその話題を止めて道具類を揃えてシルフ神殿に向けて出発した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 風の神殿に行くにはシルフ渓谷を進まねばならない。

切り立った岩壁が左右に挟む様に立っている道を進み、登った先に神殿はある。

人が通る道として使われている通路は、元は風が通ったもので長い年月をかけて自然が生み出した天然の通路である。


 無論、今も風はその通路を吹き抜けるがその勢いは弱い。しっかりと地面を踏みしめて進めば飛ばされる心配はない程度だ。

しかし、シルフ渓谷で人の脅威となるのはなにも風だけではない。


 彼女達の前を塞ぐのは空飛ぶ人間……いやモンスターだ。腕の代わりに生えてるのは翼。

足は鳥の足をしているがそれ以外は見目麗しい女性の出で立ち。


 彼女達は『ハーピー』というれっきとしたモンスターだ。美しい姿とは裏腹に彼女達は非常に凶悪。

群れで狙った獲物を襲撃し自分達の巣に運んで捕食する。


 Dランクの風属性、そこそこ上位に位置するモンスターで第四都市近辺を生息域にしている。

風の強い中でも縦横無尽に飛べる彼女達は、風が強い日といった獲物の逃げ足が遅くなる状況下で狩りに動く。


凶暴なハーピーではあるがしかし、それだけではない。

見た目が女性なだけあって恋多きモンスターとも知られている。


 一説では山岳で迷子になった旅行者が下山するのを手助けしてくれたり、猟師の罠にかかったハーピーを助けると美しい娘の成りをして恩返しに来てそのまま人と結ばれる事もある。


昔話で『ハーピーの恩返し』という童話や『私の妻はハーピーです』という小説があるくらいに彼女達は人間界ではそこそこに有名なモンスターの一角だ。


凶暴さと慈愛の双極を持ち合わせた人に近しいモンスター。それがハーピーなのだ。


 そんな彼女たちには天敵がいる。それが、第三都市に現れた『ドレイク』達だ。

自分達よりも自由に空を飛べ、鋭い牙や鉤爪をもって遥か高くから襲ってくる彼等は非常に脅威である。

ドレイクとハーピーの縄張り争いは長きに渡って、結果的にハーピーは敗北してシルフ渓谷に逃げ込んだという。



 ほのか達の道を邪魔するハーピーの数は六体。パール色の鋭い目がほのか達を映していた。

そして、彼女達の道を邪魔するのはハーピーだけではない。地上にいるのは土の体にこけで覆われた数体の巨人。


 『ゴーレム』と呼ばれる自律する土人形のDランクモンスターだ。体長は五メートルで長い腕から繰り出される物理攻撃は驚異の一言。

ゴーレムは本来は地属性であり、第一都市にあるノーム山脈などで生息している。

しかし、此処にいるゴーレムは風属性で弱点属性が逆転している珍しいモンスターだ。


 学者が言うに、彼等が体表に付けているこけが本来弱点である風の攻撃を受け流してしまっているかららしい。

攻撃方法は通常のゴーレムと同様に己の腕力に物を言わせたパワーアタック。

一撃で岩盤すら砕く拳は、当れば大怪我だけでは済まないだろう。

 しかし、彼等の弱点は魔法系統全般だ。魔法や魔術耐性は極端に低いので、攻撃範囲外の遠距離から攻撃するのが望ましい。


そんな二種類のモンスターに道を遮られたほのか達。モンスター達は異常な殺気を放った状態で彼女達に襲いかかる。

ハーピー達は己の翼を羽ばたかせて羽を周囲にばらくと、その羽がほのか達に向かって飛んでくる。

彼女達は風の力を行使できる。そこまで強いものではないが、自身の羽を弾にして飛ばす程度なら使える。


繰り出される弾幕を前にほのか達はそこから飛んで回避する。

サヤは地上を走り、アシュトンは味方からあまり遠くに離れないで魔術の詠唱を始める。


(風が強くて上手く飛べない……!!)


一方、空中に飛んだほのかは強風に悪戦苦闘していた。強烈な向かい風は飛行する彼女達の行動を制限する。


「けどっ!!」


 飛んでくる羽の弾幕を身をひねってかわす。魔力弾を生み出し、ハーピー達に飛ばす。

ほのかの飛ばした魔力弾はハーピー達に命中し爆発を起こす。


相性で負けるハーピー達は光属性の攻撃を受けて身をよじる様子を見せる。

そこに突撃するのはルチアだ。腰にある大型スピナー『パールグラス』を展開して回転させる。


「くらえっ、シュトゥルムスピナー!!!」


ライトグリーンの魔力光を宿した刃がハーピーを直撃し、吹っ飛ばす。その場で素早く体を逆回転させて別のハーピーも弾き飛ばして撃墜する。


「ミョルニル! シュベルトゲーベル!!」


 プレセアの周囲に黄色の魔力光を纏った礫が現れてハーピーに向かって飛ぶ。

弱点属性である地属性の攻撃にハーピー達は痛みに悲鳴を上げて高度を上げて逃げる。


その間にプレセアは地上に下りるとミョルニルを地面に突き刺して引く。

魔力を纏った刃先が地面から身の丈よりも大きな岩塊を打ち上げる。


「エアーデ…ファウストーー!!」


落ちてくる岩塊の前で回転しフルスイングでミョルニルを振るう。

スコップの腹が岩塊にブチ当たり、水平方向にロケットの様に飛ぶ。


 風圧を物ともしない巨大な塊が前方にいるゴーレムを狙う。

相手は拳を作って右ストレート。プレセアの飛ばした強力な魔法を一撃の下に粉砕した。

 砕け散る岩塊。だが、伸びきったその腕に一人の人物が飛び移り駆ける。

プレセアの攻撃はおとり、目的はユグドラが相手を射程圏内にとらえれる様にする為だ。


 右手にカラドヴォルグ、左手にルーンを持って彼女は素早く駆ける。

自身の腕を駆け上がる彼女にゴーレムは左で殴りかかるがその前にユグドラが跳躍ちょうやくする。

体を反って身をひねり、左手に持つルーンに魔力を通す。朱槍が赤い魔力を宿し、炎を迸らせる。


「緋竜槍ッ、はあっ!!!」


頭上からルーンを投擲とうてきする。赤き流星が垂直に落ちて見上げていたゴーレムの脳天を貫く。

動きの止めたそれに向かって今度は彼女自身がカラドヴォルグを構えた状態で急降下する。


「終わりだ、紅蓮剣!!」


一閃、巨大なゴーレムの頭から股にかけて一直線の筋が通る。

隙間から炎が溢れて、直後に爆発を起こして弾け飛んだ。


ゆっくりとカラドヴォルグを鞘に収め、落ちて来たルーンを手に取る。

その彼女の背後に一体のハーピーが飛んで来て鋭い爪を生やした脚で襲いかかろうとする。


「土塊の猛襲、ストーンバッシュ!!」


 しかし、その鋭い爪が届く前にハーピーは下から噴き出した土塊の猛襲もうしゅうを受ける事になる。

ユグドラは落ち着いてルーンで動きの鈍ったハーピーを吹っ飛ばす。

アシュトンが後方から支援魔術をしてくれるのを分かっていたから彼女は焦っていなかったのだ。


 残り三体となったハーピーの内、二体が後ろで魔術を使うアシュトンと前に立つあかねを狙って急降下する。あかねは何時でも防御できる様に準備して、アシュトンも迎撃の準備に移る。

その二人の前にマルグリットとアイネが立って、棍と拳を引いて姿勢を落とす。


「「……はあっ!!」」


同時にジャンプして相手と交錯こうさく。ハーピー達の姿勢が崩れ、そのまま地面に落ちてノックアウト。

複数いるゴーレムの中、二体を相手に大立ち回りをするのはサヤだ。

振りまわされる剛腕の攻撃を素早い動きでかわし、下に潜り込んでその足を蹴る。


 直撃個所に亀裂が入って一体のゴーレムの足が砕けて倒れる。

すぐにその場から飛び退くと二体目のゴーレムの拳が振り下ろされた。

地面を砕く強力な攻撃を避けた彼女は駆け出してその腕を駆け上がってジャンプし、相手の頭上を飛び越える。


身をひねって相手側に向いた形で背後に着地した後に、ゆっくりと振り返るゴーレムに両手の爪を出して構える。


「紅刃爪・双連!!」


 両手を連続で二回振るう。四つの紅の斬撃が地面を抉って突き進み、ゴーレム二体のいる所で合流して炸裂、地面ごと相手を吹っ飛ばす爆発が巻き起こる。

仲間がやられて危機的状況に陥った残る一体のハーピーがその場から逃げようと翼を羽ばたかせるが残るゴーレム共々、渦巻く水流が帯となって巻き付いて拘束される。


「動きは抑えた。今だよ、ほのかっ!!」

「フォトンブレイザーーーッ!!」


彼等が最後に見たのは桜色の光。

シルフ渓谷に一筋の桜色の閃光が駆け抜けて行った。


砲撃が収まった先、ゴーレムはバラバラに崩れ落ちハーピーは気絶状態になって通路が若干広くなった光景だった。


「おいおい、道が広くなったぞ……」

「ち、ちょっと火力上げ過ぎたかも?」

「ちょっとどころじゃねェだろ」


 撃った張本人は首を傾げ、隣でサヤがあきれた顔で見下ろす。

Dランクのモンスターとしては上級に位置するゴーレムとハーピーを一撃で倒せる魔法士など早々お目に掛かれない。

それが砲撃魔法士なのだからなお珍しいと言えよう。


ともかく、道を邪魔するモンスターは倒せた。

周囲で気絶して動かないハーピー達に心の中で謝っておいてから一行は先を急いだ。


進むにつれて傾斜が高くなっていてほのかの様な子供には厳しい道のりになって来る。

しかし、進むにつれて彼女達はある事に気付いた。


「ルチア、気付いたか?」

「ああ……。戦いの痕跡あとがある」


 歴戦の騎士達が辺りを見渡してからそう呟いた。

ほのかやフィリスといった面子には分からないが、どうやら此処でつい最近まで戦闘があった様だ。

ユグドラが岩壁の方に近づいてその表面を撫でる。掌を返してみれば、僅かばかり焦げた土が一緒に付着していた。


「焦げた跡がある。火属性か雷属性の者が通った様だな」

「もしかして、バルドさんかリースリットちゃんじゃ?」


リースリットは兎も角として、バルドの名前が出て来たのにプレセアが首を傾げて疑問の声を上げる。


「バルドは闇属性じゃねえのか?」

「プレセア。バルドは闇属性だけど、使う技って火属性っぽいでしょ?」

「……あ~、そういやそうだったな」


思いだして納得した様だ。

もし、ほのかの予想が当っていればこの先にいるのはバルド達なのだろうか。

気持ちが先を急かす。


疲れが吹っ飛んでほのかは坂を駆け上がる。

続く様に仲間達も坂を駆け上って、先に見える頂上を見る。


[マスター、この先に魔力反応を感じます。注意して下さい]


 ウィルから魔力反応がある事を伝えられて益々自分の予想が当っていて欲しいと願う。

坂を登り切った彼女が最初に目にしたのは、渓谷には不釣り合いな巨大な遺跡だった。


遺跡の頂上では巨大な竜巻が巻き起こっており、地上にいても吸いこまれてしまいそうだ。

長い時間、風の強いこの場所で手入れもされずに建っていたからか周囲に整列する柱は風化でボロボロになってたり、半ばから折れていたりしている。


その間にある通路の真ん中を歩く者がいた。


「………」

「リースリットちゃん!?」


雷の魔法少女リースリットだった。

彼女の傍らにはアウルも居り、二人は歩みを止めてほのか達の方に振り返る。


「また、あなたなの……」

「ふむ、この広き世でまた出会うとは……ぬしは強きえにしに結ばれておるのかもしれないの」


彼女達の姿を認めたリースリットは目付きを鋭くさせ、アウルは持っていた扇子を広げて口元を隠す仕草をする。


「ピステールにその使い魔か」

「てめえら、何でこんな所にいるんだ!?」

「あなた達には……関係ない」

「なんだとっ!?」

「落ち着け、プレセア」


かんさわる態度を取られて身を乗り出すプレセアをルチアが肩に手を置いて抑える。

今ここで二人と争った所でなんの得もない。


「お前達が此処にいるという事は、ニーベルンゲルゲンが絡んでいる訳だな?」

「…………」

「図星か」


アイネの質問に対して無言で返すリースリット。

それにやはりとアイネが声を漏らすと、リースリットはキッとにらんで来た。


「邪魔する気なら、倒すだけ……」


 右手に剣形態のフォルテが展開され、切っ先をこちらに向ける。

その小さき身体から大きな気迫と魔力を迸らせてほのか達に敵意を見せる。


「ま、待って!! 私達は戦いたい訳じゃないの!!」


慌ててほのかは仲間から一歩前に出て両手を広げて弁解する。

彼女が此処に来た理由は、ニーベルンゲルゲンの事もそうだがもう一つ理由がある。


「私達はバルドさんを探してるの!!」

「……あの人を?」

「元ぬしの事かえ。そういえば、元ぬしはそなた達を置いて来たと言ってたが成程――そう言う事じゃな」

「バルドの事、知ってるの!?」


彼女の物言いから察したフィリスが問い詰める。

リースリットは視線だけをアウルの方に向けて責める様な顔を見せる。


「アウル……」

「おっと、口を滑らせてしまったの。申し訳ない、ぬしよ」


 顔の半分まで扇子で隠して口を閉じる姿勢を見せる。

ただ、上半分からでもその行動が意図的にやったことがうかがえる。


わざと聞こえる様に言った……。どういう考えの下でその判断を選んだのかは分からないが、ならそれに乗ってやろうと思い、彼女はほのか達へ頷き肯定の意を示した。


「また、会った……」

「どこで!?」

「中央都市……。そのあと少し一緒にいた……」


 中央都市でリースリットはあの後、バルドと再び出会った。

ほのか達を故郷に帰すという護衛任務は終わったところだったので、アウルが進路が同じなら護衛の依頼を出してもいいかと聞いた。


 それに彼は少々面倒くさそうな顔をしたが、了承してくれ、それから数日間は彼と行動を共にした。

彼との旅は終始緊張のしっ放しだった。

初めは何か裏があるんじゃないかと警戒していたけれど、彼は全くそういう素振りを見せず寧ろ戦闘での立ち回りやこの先のモンスターの情報などを教えたりと割と献身だった。


 「お前は何か危なっかしい。アウルを傍に置いて正解だったな」と言われたのはアウルにも秘密だ。

―――っと、この様に数日間の旅を経てこの第四都市に辿り着いた訳である。

ほのか達には護衛をしてもらった事だけを言って、その最中の内容だけは伏せておいた。


「バルドさんはどこにいるの!?」

「……もうここにはいない。あの人は第五都市に行った」


 彼は第四都市シルフィードに着いた時に別れた。

去り際に「そこの欠片はお前等にやるが、もし向こうで欠片があったら俺が貰う。早い者勝ちだから悪く思うなよ?」と言って頭を撫でてパーティから抜けて行った。


 報酬を渡そうとしたのだが、『特別サービス』と言って受け取らなかった。

代わりにアウルにお金を預けたらしく、これでいい宿に泊まって休めとまで伝言を残して行った。


「バルドさん、もうグラシキルの方に行っちゃったんだ……」

「ほのか、そう悲観しないで。だって、次の行き先が分かったし」

「そうだぜほのか。あのヤロウが行った方向が分かっただけいいじゃねェか」


落ち込むほのかを仲間が勇気づける。

それに彼女も何とか気持ちを切り替えて、事を前向きに考える事にした。


「さて、我々はどうするかだな」

「リースリットちゃん。うちらも手伝わせてくれへんか? 人は多い方がええやろ?」


あかねが提案を出して彼女を見る。

一瞬だけ、逡巡しゅんじゅんする様な素振りを見せたリースリットだがすぐに頭を振って拒否しようとする。


「必要な――――っ!!」


 しかし、それが紡がれようとした正にその時。周囲に濃厚な気配が漂い始めたのだ。

咄嗟とっさに身構えるリースリット。

アウルも同様にゆったりとした動作で扇子を両手に持って戦闘態勢に移行する。


ユグドラ達インペリア騎士も辺りに漂う気配に気付いたのか誰よりも早く周囲を警戒して得物を持って身構えた。


「ど、どうしたんや皆!?」

「主あかね、気を付けて下さい」

「何かいる……。なんだ、この無機質な気配は……?」


生物とは思えない気配に困惑する騎士達。

リースリット達と離れた位置では危険と判断し、ゆっくりとほのか達を促して二人のところに移動し背中合わせで警戒させる。


「……風が集まり始めたね」


 拳を作った状態で落ち着いた様子のシリウスが呟く。

彼の言葉通り、ほのか達を囲むようにして幾つもの位置に風が集まっていく。


「風の魔力素が暴走してる!! でも、乱れてる様子がない? これって、まさか!?」


 規則正しい流れで集まる風の魔力素が一つの姿を形作る。

ライトグリーンのブロック状の物体が幾つも集まって球体となり彼女達の前に現れる。


 その丁度真ん中から上下に分断し、中央に薄く緑色に輝くコアが出てくる。

そして、それ等の上面と下面の位置に当るブロックが分離して周回する様に回る。

コアを中心に風が巻き起こり、淡く光る緑色の魔力光が煌々と灯っていた。


「ウィンドエレメント!?」


浮遊する謎の物体を見てフィリスが驚いた様子で声を上げる。


「エレメントって、あのエレメント系モンスターの事!?」

「+Cクラスの無機物種に当るモンスターだよ。あれは、周囲の魔力素が不安定な状態になると出現しやすい、環境に応じて姿を見せるんだ」


エレメント族エレメント種のモンスター。

その生態は謎に包まれており、ただ目的もなく周囲にいる者を無差別に攻撃する危険なモンスターだ。


出現するのは周囲の魔力素が不安定な状態になる時が多く。

そこがどこであろうと関係なく姿を見せる非常に厄介な存在だ。


 彼等には思考というのはなく、中央にあるコアが本体でその中には膨大な魔力が収められている。

元が魔力の塊である彼等は非常に不安定な存在だ。

強い衝撃を受けると、体を構築している部分に異常が起きてそれによってコアが暴走して大爆発を起こす。接近戦で強く叩こうものなら攻撃者を巻き込んで爆発してしまう。


各属性の強い場所なら彼等は何処だろうと姿を見せ、攻撃してくる。

―――が、魔力素が安定、またはある程度離れた位置にいるとこちらから仕掛けない限りは攻撃してこない。

多くの謎を内に秘めたモンスター、それがエレメントである。


 合計で六体も現れた彼等はほのか達の周囲を囲んだ状態でその場で浮遊している。

ほのかとフィリスが『始まりの洞窟』で出会ったあのレッドロックハーミットクラブと同ランクの実力を持つ敵だ。油断は出来ない。


「主あかね、危険ですのでルチアの後ろにいて下さい」

「あの球体、そんなに危険なん? 魔力高いだけであそこから動いてへんけど?」

「いえ、向こうはこちらを観察してます」


 無機質な気配、生物からかけ離れた異様な感覚に油断無く構える。

ウィンドエレメントはそんな彼女達をしばうかがってからコアを光らせて浮遊物を高速で動かし始めたのだ。


「来るぞっ!!」


 六体同時に魔法陣を展開すると、そこから魔力弾を作り出して連射して来た。風属性の弾幕が各方向から迫る。

アウルとシリウスがそれぞれ半分ずつ防御障壁を展開して半円形のものを作り上げる。

着弾して爆発が起きるが、彼等の攻撃を障壁は耐えきる。


同時に騎士達とリースリットが足に溜めた魔力を開放し、地を蹴って飛び出す。

反撃の一撃をそれぞれに叩き込もうとしたが、周囲を浮遊していたエレメントの一部であるブロック体が正面に集結して壁になって彼女達の攻撃を防いだ。


「っ……。無機物のクセに無駄に賢いな!!」


 防御した後に彼等はブロック体を分離させ、周囲を高速で周回させながら体当たりを仕掛けて来た。

一つ一つが風の魔力を宿したブロック体が多方向から襲い来る。

堪らず彼女達は後退し、距離を取るがそこを狙ったかのように再び魔法陣を展開する。


「ぬしよ、下がれ!!」


 アウルが声を上げ彼女の肩を掴んで無理矢理下がらせる。直後に、ウィンドエレメントがコアの前に魔力を集束させる。

それがドンッという音と共に撃ち出される。魔力砲さながらの勢いで撃ち出された強力な一発がアウルに向かって飛ぶ。

彼女は扇子を広げて防御。扇子に直撃して爆発で彼女の体が隠れた。


「っ!? アウルっ」

「大丈夫じゃぬしよ! エレメントの分際で、小賢こざかしい真似をしてくれる!!」


 煙を振り払って姿を見せるアウルは返事を返してからエレメントを睨みつける。

両手の扇子を広げ、大きく振るい黒い旋風を巻き起こす。

神殿を吹き抜ける風に負けず劣らずの威力の風圧にエレメントは軽く吹っ飛ばされる。

しかし、元々が浮遊体だからかすぐに軌道修正して何事もなかったかのように飛ぶ。


戦闘を継続するアシュトンがウィンドエレメントの異常なスペックに仲間達に警戒をうながした。


「気を付けてみんな!! このエレメント達、聞いた話と何か違うみたいだ!!」

「コイツら、やけに手強いぞ!?」

「無理はするな。前に出過ぎると孤立するぞ!」


仲間をかばいながら、ほのか達は襲い来るウィンドエレメント達の応戦を開始する。

戦闘を続ける彼女達の背後にある巨大遺跡。


―――その屋上で一瞬だけ大きな何かの影が浮かび上がったのだった。


魔法共和国に存在すると言われる八大精霊ですが、実は万国共通の存在で全世界の魔力素も担っています。


ん? 昔話の題名が何かに似てるって? 気のせいですよ(棒読み)。

神殿にいたのはリースリット。そして、出現するエレメントモンスター。強力な属性攻撃を使う敵を前に彼女達は協力して打ち破れるか。


それでは今後とも宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ