第三十九話 あの大空へ
三十九話更新。
あかね達がほのかの家族を安全な場所に連れている頃、ほのか達の方にも危機が訪れる。
その中で蟠りの中に沈んでいた少女は再び大空へと舞い上がる。
自分の意思を形とする為に。
学校の一角にある隠しシェルター。そこに生徒と教師達は避難していた。
非常用電源があるお陰で僅かに明るい室内で生徒達は互いに寄り添って恐怖に怯えていた。
今も上では時折り学校の頭上を通り過ぎるドレイクの雄叫びが聞こえる。
それがシェルターの中に響く度に泣きそうになる下級生達を上級生が励まして宥める。
そんな子達をほのかも一人一人に声をかけて励ましていた。
「ママ……ぐすっ」
「大丈夫だよ。きっとお母さんも無事だから泣かないで、ね?」
ぐずる下級生を一人一人励ましているのは同学年でほのかとマリナと舞華、ほか数人だ。
あとは同じ様に寄り添って怯えているのが殆どだ。
「校長先生、救助は?」
「今、最優先で救助をお願いしたが……上が激しいからか来るのに時間が掛かるそうだ」
そんな声がぼそりと聞こえた。けど、それに気付いてもほのかは敢えて反応しない事にした。
もし動いたら他の子たちも反応してあっという間に混乱が起きると察したからだ。
「ほのか、大丈夫?」
「マリナちゃん?」
一休みしようと他と離れた場所で膝を抱えて座るほのかにマリナと舞華がやってくる。
唐突に言われたほのかは顔を上げて二人の親友を見上げる。
「うん、大丈夫なの」
「そう。それにしても、何時もは威張ってるクセに……こういう時に限って男子って頼りないわね」
辺りを見渡して同級生の男子を見る。
何時もはほのかに意地悪をしてくる男子達は大人しくしていて、膝を抱えて固まっている。
その顔は恐怖で怯えていて、身体も若干震えている様に見える。
「肝のない奴らね。男子ならもう少ししゃんとしなさいっての」
「あれが普通の反応だと思うの……」
「そう? まあ、あんな馬鹿達の事はどうでもいいわ。……それにしてもほのか、あんた変わったわね」
「ふえ?」
急に自分の話になった事に首を傾げる。
はて? 自分は何か変わったのだろうか?
よく分からないう~~んっと考え込む。
それにマリナは変わった点を指摘する。
「前まではあたしの後ろを歩いてたのに、今じゃ一人で動く様になったわね」
「そう、かな?」
「そうよ。これも、旅をしたからなの?」
「分かんない。けど、だとしたらそうなのかも……」
これまでの旅で自分は変われたのだろうか?
だとすれば、それはきっと彼のお陰だろう。
今までずっと自分達を導いてくれた人物バルド。自分達を故郷に帰すって約束を果してくれた。
でも、彼は自分達だけを帰してあとの事を引き受けて姿を消した。
きっと今も彼はオーパーツの事と第三研究所の局長オズワルドを救出に動いてると思う。
そして、自分を変えてくれたのはもう一人いる。
リースリット・ピステール……。
あの無表情の裏に見え隠れする感情。昔の自分に重なって見える彼女ともっと話がしたい。
なんでそんな風に思っているのか、その答えがマリナ達のお陰で漸く見えた。
(そっか、私はリースリットちゃんの友達になりたかったんだ……)
あの子にもう一度会いたい。会って今度こそ伝えたい、この気持ちを……。
何かが自分の中で固まった気がする。それが明確なものになろうかという時だった。
シェルターに何かが激突する音が響き、同時に大きく振動した。
シェルターの外。その前には複数のドレイクが飛んでいた。
それの内の一頭が飛び出して、上昇。そこから旋回して急降下し全身を回転させてシェルターに向かって体当たり。鈍い音が響き、シェルターの分厚い壁が僅かに凹んだ。
並みの攻撃ではビクともしない頑丈な造りのシェルターだが、ドレイクの全体重を乗せた急降下攻撃を受けきれない様だ。
防御の高さにも定評のある竜族モンスターは己の頑丈さを活かしたゴリ押し攻撃を仕掛ける事もある。
興奮状態に陥っているドレイク達は、目の前のシェルターから感じる気配に殺気を全開にして次々に体当たりを敢行。
攻撃を防いでいる防壁が徐々に変形をしていく。
「隊長!! ドレイクの群れが学校のシェルターを!!」
「中に子供達がいる事に感づいたのか!! 総員、何としても奴らを引き剥がせ!! 子供達を守るんだ!!」
「「「「イエス、サーッ!!!」」」」
救助に駆け付けた一個小隊が己の得物を持ってドレイクの集団に向かって雄叫びをあげて突撃する。
その声に複数のドレイクが首を上げて自ら突っ込んで来る獲物に牙を見せて飛び立つ。
残ったのは一頭。それは尚もシェルターに体当たりを続けている。
既に大きく拉げた障壁には、ドレイクの攻撃を受けきるほどの耐久力は残されていない。
遂に渾身の一撃を込めた体当たりを受けてシェルターの壁が突き破られた。
甲高い金属音と何かが突っ込んで来る轟音にシェルター内にいた全員が驚いて一斉に向く。
見れば、ドレイクが上半身だけを突っ込んだ状態でいるではないか。
翼の半分が、こちら側に入っておりそれでつっかえているのだろう身動ぎをして咆える。
「いやあああっ!?」
「うわあああぁぁぁっ!?」
恐ろしいモンスターを前にして子供達がパニックに陥って悲鳴を上げる。出来るだけ遠くに逃げようと奥へと走る。
子供達を守ろうと、教師達が恐怖で震える体に喝を入れてドレイクの前に立つ。
「子供達には、ゆ、指一本触れさせるものか!!」
「仮にも魔法を教えてるんだ。守ってみせる!!」
持ちうる全てを集結させた魔力弾を放つ。
その全てが身動きの取れないドレイクに殺到し、爆発が巻き起こる。
しかし、煙が晴れた先にいるのは全くの無傷のドレイクだった。
それもそうだ。
教師達が教えるのはあくまで一般的な初級魔法。モンスター用に出来た魔法ではないのだ。
モンスターにしてみれば蚊に刺された程度の痛みしか感じないだろう。
大きく息を吸ったと思ったら、火球が吐きだされて教師達を巻き込んで爆発。
爆風で彼等は吹っ飛ばされて生徒達の前に転がる。
「先生ーー!?」
駆け寄る生徒達。いまにも抜けだしそうなドレイク。体があと僅かで自由になりかけた。
しかし、そのドレイクの体が突然止まったかと思うと今度はズズッと下がり始めたのだ。
「ふえ、なに!?」
何かに引っ張られる様に下がるドレイクの体が引き抜かれ、次に姿を見せたのは―――
「やほーーっ、ほのか」
ドレイクの尻尾を引っ掴んでいるシリウスだった。その彼は何故か白面の狐のお面を被っていた。
「どおぉぉぉっせいっ!!」
背負い投げの要領でドレイクを投げ飛ばして壁にぶつける。
瓦礫を吹き飛ばして翼を広げて怒りの篭った咆哮を上げる。
「血気盛んだね~。それも、若さ故かな~? それとも、故郷に現れた異なる者への恐怖で怯えているせいかな?」
血走った眼で自分を睨んで来る相手を見ても普段の飄々(ひょうひょう)とした態度を崩さないで余裕を見せるシリウス。
その彼に向かって羽ばたいて宙に浮くと猛スピードで突進してくる。
口を大きく開いて邪魔者を呑み込もうとしていた。
「おぉ~、怖い怖い。けど、残念……。こっちはもう……」
彼が両手を左右に広げる。その手にバチバチと雷が奔ると白い光が両手と両足を包み込んだ。
収まった時には、覆う様に装着された手甲と脛まで隠す脚甲が装着されていた。
「射程圏内さ。幻想を駆ける拳……神威!!」
腰を落とし、右手を引いて打つ体勢に入る。
距離的に見てもまず当らないだろう位置で、シリウスは何の躊躇いもなく拳を打ち出す。
「天狐拳ッ!!」
突き出される拳が一瞬だけぶれて消える。
そして、次の瞬間にドレイクの方で鈍い音が鳴ってまたも吹っ飛んだ。
地面を削って転がるドレイクは何が起こったのか分からない様子で頭を何度も振って頭部に来る鈍痛を振り払おうとしている。
「神威の拳はバ~ラバラ♪ってね!! 天連神狐拳ッ!!」
連続パンチをその場で放つ。五十メートルも離れた位置にいる相手だったが、目の前の空間が歪むとそこからシリウスの拳が飛び出してドレイクの顔面を殴る。
更に別の場所からも拳が飛び出して殴る。
高速連打がほぼ全方向から飛び出してその度に相手を打つ。
最後に、彼は力を溜めて拳に纏っていた白色光が強く発光する。
「フィニッシュ!!」
渾身の一発が放たれドレイクの身体にめり込む。
遅れて発したインパクトで吹っ飛んだドレイクは完全にダウンしたのか動かなくなった。
「うん、流石は竜種だね。堅い堅い…」
手をプラプラとさせつつ思ってもない事を言う。
そこへ突如として現れたシリウスに警戒を見せながらSCCAの部隊長が声をかけて来た。
「貴様は何者だ?」
「ん~? まあ、冒険者ってところかな? そんな事は如何でもいいから、早く子供達を避難させなって」
「………貴君の協力に感謝する」
言いたい事は色々ありそうな表情を浮かべるが、今はそれどころではない。
彼に礼を言ったあと部隊長は部下に命じてシェルター内の子供と教師達の救助を始めた。
まだいるドレイクの群れの足止めに人数が割かれているので負傷した教師達を担ぎながら子供達を先導する。
その中から、ほのかはこっそりと脱け出してシリウスへと駆け寄った。
「シリウスさん!」
「違うっ! 俺の名はお狐仮面、愛と勇気と正義の味方だ!!」
矢鱈元気な声で変なポーズを取ってそんな事をのたまう。
狐のお面を被るとテンションでも上がるというのだろうか?
「あと、俺の事をシリウスさんと呼ぶのは止めたまえ!! 呼ぶならシリウス君か呼び捨てでよろしく!!」
「さらっと正体バラしてるの!?」
(仮面越しで見えないけど)恐らくキリッとした表情で言う。
こんな状況でもボケをかます彼に思わずほのかもツッコミが出てしまう。
期待していた反応だったのだろう。クックックと仮面の奥で殺した笑い声が聞こえる。
「っとまあ、お惚けはこの位にして……間一髪だったねほのか?」
「あ、うんっ。シリウス君、ありがとうなの!!」
お面を外して何処かに消し素顔を見せるシリウスがニッと笑って彼女を見る。
それに彼女も満面の笑顔を見せてお礼を言った。
頷き返したシリウスは、頭上を飛び交うドレイク達を見上げてながら問いかけた。
「さて、ほのか。答えは見つかったかい?」
「……うん。見つけたよ、私に出来ること……。私がしたい事!!」
それに間を置かないで彼女は返事を返した。
その答えを聞いて満足したのか、シリウスは口の端を上げる。
「じゃあ、見せてよ。俺に……俺達にその答えを」
「うんっ!!」
ほのかは学校に向かって走り出す。廊下を走って、階段を上り、息を切らしながらも自分の教室に辿り着く。
そして、自分のバッグからウィルを取り出して両手で包む様に掌に置いた。
「ウィル」
[お待ちしてました、マスター。……決めたんですね?]
「うん、私はやっぱりこのままで終わりだなんて思いたくない。もっと、もっと沢山世界の事を知りたい。バルドさんともっと旅を続けたい。リースリットちゃんと友達になりたい」
[では行きましょう、マスター。その意思を形とする為に!!]
「うんっ!!」
教室を出たほのかは更に階段を上って屋上の扉を開けた。
そして、フェンスの掛けられている端に向かって走る。
[ギャアオオオオオォォォッ!!]
「ひゃあっ!?」
そこに突っ込んで来たのは一体のドレイク。大口を開けて飛んで来たのにほのかは驚いてその場に身を伏せる。
ドレイクの突進は彼女の頭上を越えて、激しい風圧を残して屋上を掠めて飛んで行きフェンスを破壊して飛び抜ける。
すぐに旋回してドレイクは再び屋上に一人いるほのかに向かって突進を始めた。
しかし、その前方に複数の水色の魔法陣が展開された。
中から複数の渦巻く水が帯となって飛び出し、ドレイクの身体に巻きついた。
身動きを封じられてその場で暴れるドレイクだが、その捕縛魔法は壊れる様子はない。
「この魔法は……!!」
「ほのかーーーーーっ!!!」
見覚えのある魔法に気付いた彼女を呼ぶ声が響く。端に駆け寄って校門の方に目を向ける。
「フィリスちゃん!!」
そこにいたのはフィリスだった。
既にマジックアーマーを展開した状態の彼女が校門の前で立って屋上にいる自分を見ている。
そして、大きく息を吸ったあとに指を天に向けて指し示し叫んだ。
「行こう!! あの大空に、あの冒険にっ!!」
大空の先には冒険が待っている。その先には彼がいる。もっと、もっと知りたい事が沢山ある。
オズワルド局長を助けたい。オーパーツを止めたい。
そして、リースリットと友達になりたい。
やりたい事が次々に浮かぶ。
全部できるか? そんな事は考えない。出来るか出来ないかなんて関係ない。
やりたいように、ただ空を飛ぶだけだ!!
「え、あそこにいるのって……ほのか!?」
学校の屋上を見たマリナが端にほのかがいる事に気付いて驚きの声を上げる。
舞華もマリナの声で気付いて、いなくなったと思ったらあんな所にいた親友にビックリしている。
「私にいま出来る事……それはっ、空を飛ぶこと!!」
[ギャアアオオオォォォォ!!!]
フィリスの捕縛魔法を破ったドレイクが咆哮を上げてほのかに向かって突進する。
それを避ける様にほのかは自ら縁から足を離して、屋上から飛び降りた。
自ら飛び降りる彼女の姿を見て、多くの人が悲鳴を上げたり眼を見開いて見ている。
迫る地面。彼女は戦う意志を力に変えてウィルを掲げた。
「ウィル!! セットアーーップ!!」
[イエス、マスター。マジックアーマー起動!!]
彼女の体を桜色の魔力光が包み込む。その身を純白のマジックアーマーが纏い、胸にはリボンが結ばれる。
ウィルが杖に変化し、その柄を手に取ると彼女の背後に女神の紋章が出現した。
飛行魔法を発動し、彼女は地面すれすれを飛行。そのまま急上昇して空高く舞い上がった。
「と、飛んだ!?」
「ほのか、本当に空を……!!」
親友が空を飛ぶ姿を目の当たりにしてマリナ達だけでなく、彼女を知る同級生達や教師も驚いてその姿を追った。
空に舞い上がった彼女をドレイクが翼を羽ばたかせて追う。
「ウィル、皆を守るよ。力を貸して!!」
[了解です、マスター]
「シャインバレット、シューーット!!」
身を翻した彼女が周囲に魔力弾を形成、一斉に放つ。直撃を受けて爆発に呑まれるドレイク。
光属性の彼女の攻撃を諸に受けて仰け反って怯んだ様子を見せる。
あらゆる属性に対して有利になれる光属性は竜族であろうと関係ない。
しかし、曲がりなりにも彼等もモンスター界最強の竜族モンスター。
魔力弾程度でやられるほど軟な存在ではない。
眼をカッと開いたドレイクは仲間を集めて一斉に彼女に向かって得意のブレスを吐いたのだ。
迫りくる灼熱の火炎を前にほのかはディフェンシブを展開。
ドレイクの火炎を防ぎきって彼女は姿を見せて、ウィルの先端に魔力を集める。
「光の砲弾、ブライトキャノン!!」
反撃の砲弾が撃ち出される。圧縮された一発の魔力弾は一体のドレイクに直撃。
その勢いのままに地面に着弾して爆発。桜色の閃光が半円状に起き、まともにくらったドレイクは戦闘不能になった。
「バルドさんの攻撃の方が、もっと凄かった!!」
今度はホーリーシューターを放つ。散開するドレイク達を魔力弾は追尾して次々に命中して相手の動きを鈍らせる。その一体に向かってほのかは突撃する。
「ウィル、オーバーリミッツ!!」
[Over Limits,LevelⅠ!!]
「ホーリーーーー、ランスッ!!!」
ウィルの先端に魔力が集まって槍になる。
ブースターを全開にして彼女は真っ直ぐに飛んでドレイクにウィルを叩き込む。
「バルドさんの特訓の方が、もっと厳しかった!!」
ゼロ距離でブライトキャノンを放つ。
押されて吹っ飛ぶドレイクが空中で爆発に呑まれ、墜落していく。
[マスター、地上にまだドレイクがいます!!]
見れば、自分の親友二人がドレイクに追われている。
誘導から逸れてしまった彼女達にあと少しでその爪が届きそうだった。
ほのかは迷う事なく全身に魔力を纏わせて急降下。
体当たりでドレイクを吹っ飛ばす。
「二人とも大丈夫!?」
「え、ええ……」
「ありがとうほのかちゃん」
助けに来てくれた親友にお礼を言ってから二人はほのかの事をまじまじと見る。
いまの彼女は自分の知ってる姿から変わっていて、驚かずにはいられない。
「あんた、本当に魔法を使えるようになったのね」
「うん、この子のお陰なの。ウィルって言うんだよ」
[はじめまして。私はウィル、マスターのサポートをしています]
ほのかの持つ杖にある赤い宝石が点滅して言葉を発する。
急に喋る宝石にビックリするが、彼女がほのかを魔法が使える様にしてくれたと納得する。
「シリウス君!」
「ほいほい、二人を隊員に連れてけばいいんでしょ? お任せ~!」
あとから来たシリウスに二人を託し、ほのかは再び飛ぼうとする。
それを二人は呼びとめた。
「ほのか!!」
「ふえ?」
「……行くのね?」
「うん。私……やっぱりこのままじゃ嫌なの。もっと、もっと沢山冒険がしたい。途中で投げ出したくない。最後まで、やり遂げたい」
「そう……。なら、行きなさいほのか!! 空高く、何処までも!!」
「ほのかちゃん、バルドさんによろしくね!」
「うんっ!!」
送り出してくれる親友に満面の笑顔を見せてから彼女はその言葉を背負って大空に再び飛翔する。
「……ほのかの事、頼んでもいいかしら?」
「ん、了解。責任持ってバルドに届けるよ」
「ありがとうございます。シリウスさん」
「ノンノン、俺の事は君か呼び捨てでよろしく。さん付けされると背中が痒くなるよ」
背中に手を伸ばして表現しつつ言う。それから彼は二人の背中を軽く押して移動を促す。
二人は親友の無事を祈りながら、シリウスに連れられて救助隊のいるところに移動を始めた。
空に舞い上がったほのかは、まだいるドレイクを追い返そうと空戦を続ける。
彼女の背後にダメージから復帰した一体が鋭い牙と爪を見せて襲いかかろうとした。
「アクアインパクト、シューット!!」
そこに飛んでくる圧縮された水色の魔力矢。ほのかを攻撃しようとしたドレイクに命中して、爆発を起こす。
まともにくらって墜落していくモンスターと入れ替わりにフィリスが飛行してほのかの下に到着した。
「フィリスちゃん! 皆を守る為に力を貸して!!」
「任せてほのか。ドレイク達の動きを封じるから、その間にお願い!!」
「うんっ!!」
フィリスもオーバーリミッツを発動して捕縛魔法を使い、密集していたドレイク達を封じ込める。
ほのかがウィルをそちらに向けて魔力を集中する。先端に集まった桜の魔力光が膨れ上がり、彼女の背後に女神の紋章が立体的になって姿を見せる。
右手に杖を持ち、翼を広げているその様は美しかった。
「光の一撃、貫いて!! フォトンブレイザーーーーッ!!」
桜色の閃光が前方にいたドレイク達を呑み込む。
都市の外まで飛び抜けた砲撃は空に一筋の桜色の線を描いて消えていった。
射線上にいたドレイク達は全身から煙を上げ、白目になって気絶状態になり墜落していった。
そのほかにいた周囲のドレイク達は仲間を倒した彼女達に怒り全開で挑みかかろうとしたが、シリウスが飛ばした青い炎で出来た狐火の特攻を受けて同じ様に墜落する。
[フィリス! 都市の外からまたドレイクの集団が接近していると、第三研究所から報せが!!]
「うそ、まだ来るの!? これ以上来たら、駐屯しているSCCAだけじゃ対処しきれないよ!?」
「……フィリスちゃん。外に行こう!!」
「何か考えがあるの?」
「これを使おうと思うの」
懐から出したのは黒曜石の様な黒い色をした球だった。
「バルドさんから、もしもの時に使えって言われてた。きっと、役立つからって……」
「バルドが?」
「シリウス君!!」
「ほいほい、この周辺のドレイクは粗方片付けたからあとは大丈夫じゃないかな」
眼下にいたシリウスを呼ぶと彼は二人に合流する。
三人は一先ず他のメンバーに会う為に街の中を飛ぶ。
暫く飛んでいると前方でユグドラ達が戦っているのが見える。
近くの地上にシェルターがあって、家族の姿が見えない事から彼女達が避難させ終えたのだろう。
「皐月達か!」
「皆、大丈夫!?」
「全然平気だぜ? もっと掛かって来てもいい位だ」
「縁起でもない事を言うな。ここは人の暮らす都市の中なのだぞ」
「うっ……わりぃ」
ルチアに窘められて素直に謝るプレセア。
ほのかは都市の外から更にドレイクの集団が来る事を皆に伝える。
「なぜドレイクはこの都市に来るのだ?」
「ドレイクってよ、この都市付近に住んでるのかよ?」
「ううん、ドレイクは普通なら第四都市の方に住んでるんだよ。こっちに来るなんて、今まで聞いた事ない」
「……ならば、その第四都市で何か起きてるかもしれないな」
聞いていたアイネが思考を巡らせて辿り着いた答えを口にする。
ドレイク達は、本来住処にしている第四都市で彼等がいままで経験した事のない種の危機がやって来て逃げて来ているのではないかとアイネは語る。
「って事は、コイツらは逃げて来たってか? 根性のねェ奴らだな」
「種の危機を感じるほどの脅威……」
「でも、竜族モンスターはプライドが高くて縄張り意識も強い筈だよ!? それが住処から逃げ出すくらいの事態って、もしかしたら!!」
「オーパーツ!?」
もしそうだとすれば、思い当たるものは一つしかない。
オーパーツ『ニーベルンゲルゲン』……。その欠片だろう。
っと言う事はである。第四都市に行けば、もしかするとバルドに会えるかもしれない!
「ほのか、次の行き先が決まったね」
「うん。第四都市『シルフィード』、あそこにバルドさんがいるかも!」
「それなら、ほのかちゃんは先にやっておく事があるね」
「そうだな。親兄弟にしっかりと挨拶はしておくのだな」
「お母さん達は?」
「シェルターの中なのです。ひ、人が一杯いて怖かったです……」
「マルグリットは人見知りやからな~」
知らない人達が沢山いた光景を思い出したのだろう。顔を若干青くして身震いする。
それにあかね達はマルグリットの重度の人見知りに苦笑する。
「ちょっと私行ってくるね」
「ドレイクの群れが来るのにまだ時間はある。ゆっくりと話をしておくんだぞ」
ルチアの気遣いにお礼を言ってからほのかは地上に向かう。
直接シェルター前でなく、敢えて少し離れた場所に下りてマジックアーマーを解除してから走ってシェルターに駆けこんだ。
「お母さん!!」
「ほのか!」
入ってすぐに家族を見つけた彼女は駆け寄る。
愛娘を抱きしめ、その存在を確かめる様にギュッとする。
「良かった。学校がモンスターに襲われたって聞いて心配してたのよ」
「うん、ちょっと怖かったけど大丈夫なの。マリナちゃんも舞華ちゃんも無事だよ」
友達も無事だと聞いてホッとする。シェルターの中を見渡してみれば、避難していたのは商店街の人など知り合いばかりだ。
知り合いも全員が無事なのにほのかは安堵の表情を浮かべる。
「取り敢えず、家族全員の無事を確認出来たな」
「心配したのよ、ほのか」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん……」
「あとは、この状況が早く収まるのを待つだけだな」
「……お母さん」
腕の中にいるほのかが身動ぎしたのに気付いて慧子は腕を解く。
ほのかは真っ直ぐに母を見つめて迷いを捨てた瞳で見つめる。
「お母さん、私……また旅に出たいの」
「えっ!? ちょっとほのか!?」
「なっ、なんだと!?」
「………どうしてかしら?」
驚く誠治達を置いて、慧子は落ち着いた様子で質問をする。
言ったら怒られるかもしれないと思った彼女は一瞬だけ答えるのに戸惑うも既に決めた決心を変える訳にはいけないと素直に答えた。
「私、もっと冒険がしたいの! 知らない世界をもっとこの眼で見たい。バルドさんと広いこの世界を見て回りたいの!」
「だ、ダメだダメだ!! 危険すぎる!? それにあいつと旅をするだって!? そんな事したら何時、あいつに夜襲われるか――」
「誠治さんは落ち着きましょうか?」
何処からともなく取り出したフライパンで後頭部を叩いて気絶させる。
毎度毎度、暴走する父をこのフライパンでド突いて気絶させてるだけあってか、こんな状況でもピンポイントで命中させるのは流石です。
気絶した誠治を兄弟に任せて、ほのかの両肩に手を乗せて見つめる。
「危険な旅なのは分かるわよね?」
「うん。でも、途中で投げ出したくないの。やるからには、最後までやり遂げたい。もう何も出来ないでいる自分とお別れしたいから……だからバルドさんの旅に付いていきたい」
「……そう」
娘の成長を目の当たりにして眩しそうに眼を細める。ほのかをもう一度抱き寄せてギュッとする。
「お母さん?」
「ほのか、行きなさい」
「え?」
「薄々は分かってたの。ほのかならきっと、きっとバルドさんの旅にまた行きたいって言うって……」
それを本人の口から出てくるまで待っていた。ほのかなら、絶対にその言葉を言うだろうと分かっていたから。
娘が旅を通して自分に出来る事、自分のやりたい事を見つけられるのなら……それを支えてあげるのが家族なのだ。
「でも、忘れないで。疲れた時は帰って来てね。何時でも帰ってくるのを待ってるから」
「お母さん……。ありがとう……!!」
強く抱きしめ返す。そして、腕から離れた後に兄弟とも抱擁を交わしてからほのかは出入り口に向かってから立ち止まり振り返る。
黙って出て行った時とは違う。今度は、ちゃんと挨拶を言って……
「お母さん、お父さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん。いってきます!!!」
「いってらっしゃい、ほのか」
「車とかに気をつけなさいよ」
「知らない奴には付いていくなよ」
「うんっ!!」
元気よく手を振って、彼女はシェルターから外へと飛び出した。
その小さな姿が視界から消えるまで、家族は眼を逸らさないで見送った。
「……行ってしまったな」
「……ええ」
何時の間にか、目を覚ましていたのだろう誠治がポツリと呟く。
それに慧子も少しばかり寂しそうな顔をして答えた。
「ほのかは、大丈夫よね?」
「大丈夫さ。今のほのかなら大丈夫。あんなにも沢山の友達がいるんだからな」
思い浮かぶほのかが旅先で出会ったという友達。彼女達がいるのなら大丈夫。
支え、支えられてきっと帰って来てくれる。
「それにしても……バルドの奴め。娘にもし手を出した時には斬る!!」
「父さんはちょっと落ち着こうか?」
「大体、バルドがそんなことする訳ないでしょう? ほのかの事を妹みたいに扱ってるんだから」
「いいやっ! 夜中にほのかが寝ている所を襲うかもしれん。そんな事になったら、私は奴をやっぱり斬る!!」
「誠治さん……?」
拳をグッと作って今ここにいないバルドに敵意剥き出しになる彼の背後に慧子が立つ。
背筋が凍った。振りかえれない。
振り向いたらそこには、何時ものニコニコ笑顔が待っている。
でも、それは普段のよりも数段上の気配を纏った状態だろう。
「少し頭を冷やしましょう?」
その言葉を最後に誠治は頭部に衝撃を受けて意識が暗転する。
シェルターの中で、フライパンで叩かれた音が嫌に響いたのだった。
ほのか復帰。そして再び始まる冒険の日々へ。
今度は目的もなにもなかった最初の冒険とは違う。
明確な目的を持っての再スタート。
それでは次回も宜しくお願いします。




