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第三十七話 中央都市 アルセイユ

三十七話更新。


星霊村で知らされる情報。

それを頼りにほのか達は魔法共和国の中央都市アルセイユへとたどり着く。


共和国の全ての技術が集結し発展を続けるこの地で、彼女達はオズワルドと旧知の仲の女性と出会う。



 魔法共和国の中枢をになう都市、それが中央都市『アルセイユ』だ。

ここには各地方の都市から選りすぐりの技術がつどい、発展を続ける。


 あの第一都市で完成された航行艦もまたしかり。開発したのは向こうではあるが、設計図などは全てここが作った。つまり、全ての始まりは中央都市からなのだ。


 列車、飛行機、大型船。あらゆる都市へと向かう交通機関を築き、発展させて来たのも中央都市である。

その大都市だけに、犯罪も起きやすい。

だから、中央都市には各都市以上に特別災害対策本部、通称『SCCA』の部隊が日夜監視の目を光らせ犯罪の抑止を行っている。


 また、ここにはタスクフォースというSCCAに所属する特別な組織の本部が置かれており彼等の活躍もまた貢献に関わっているのだ。

その大都市である中央都市に、星霊村を後にして数日が経ってほのか達はようやく辿り着いた。

着くとリースリットとアウルは、ほのか達の制止の声を聞かずに街中へと姿を消してしまった。


 元々、彼女達はほのか達を同業者として敵視しているからその行動は至極当然なのだが……

ほのかはそうは思っていなかったのか、彼女が居なくなると凄く寂しそうな表情を見せる。


そして、また一人駆け出そうとした少女がおりその子をバルドは襟首えりくびを掴んで止める。


「おい、フィリス何処に行く気だ?」

「離してバルド!! 局長を助けに行くんだ!」


 少女フィリスは何時もの様子とは違って物凄い剣幕で暴れている。

ここに着くまでに何度か、先を急ごうと一人飛び出してしまう事もあって抑えるのが大変だった。


「落ち着け、アルトレーネ。焦っては何も良い事はないぞ」


それをユグドラが見てたしなめる。

オズワルドとフィリスの関係を知らないあかね達には、既に話はしてある。


 彼女はその男性の助手をやっていて、その局長がいまタスクフォースに捕まっている。

それを聞いたら、確かに助けたいと急ぎ足になるのも頷ける。

ただ気持ちは分からなくはないが、焦っていては何も好転しない。

それに、いまフィリスが行こうとしたのはタスクフォースの本部の置かれている巨大な建物だ。


「だって、あそこには局長が……!! 局長がいるんだよ!!」

「だからって一人であそこに行ってどうする気だ? 局長を返せって言っても、はいどうぞって返してくれる訳ねえだろ」

「でもっ!!」


 尚も食い下がろうとする彼女を見て、バルドの眉間のしわが深くなった。

それを見て、ほのかは昔からの付き合いから次に彼がどんな事をするのか予想できた。


(あ……)

「……ていっ!!」

「いたぁっ!?」


 彼の取った行動、それはフィリスの脳天にチョップをかます事だった。

強烈な鈍痛に彼女は頭を抱えてプルプルと震えて屈む。


「~~~~っ!!」

「こんのバカたれが!! 一人で突っ込んで仲良く捕まりたいのか!」


 頭を押さえて屈んだ彼女に膝を折って目線を合わせた彼が、今度は頬を摘まんでぐにぐにと引っ張る。

頭から来る鈍痛と頬から来る鋭い痛みに何が何だか分からなくなった彼女は腕を動かしてジタバタするだけだった。


「少しは頭を冷やして考えやがれ!」

「あうっ!?」


 ようやく手を離したバルドにフィリスは頬に手を添えて擦りつつ涙目で見上げる。

あきれた様子の彼は腰に手を当てて、彼女への説教を続ける。

説教されて縮こまるフィリスを見て、ポカンとした様子で見守る新メンバーのあかね達。


「バルドさんって、何時もああなん?」

「にゃはは……。バルドさん、怒る時は手加減しないの…」

「そら恐ろしいわ……」

「……何時もしかるあかねを思い出すけどな、あたしは」

「何か言うた?」

「いいいいや、何も言ってないぜ!」


 ぼそりと呟いたプレセアに耳聡みみざとく反応するあかねに、慌てて首を振って何でもないと誤魔化した。

そうこうしている内に、説教も佳境に差し掛かったのかバルドは一息吐く様に大きなため息を吐く。


「もう無暗矢鱈やたらに単独行動しようとするのは止めろよ。いいか?」

「はい……」


いつもよりも小さく見えるフィリスが反省も込めて返事を返す。

この時、彼女は思ったそうだ。


――バルドを怒らせる事は控えよう――と……。


ようやく落ち着きを取り戻したフィリスを見て、やれやれと肩をすくめてもう一度大きく息を吐く。


「まずは中央魔導研究所って所に行くぞ。話はそれからだ」


研究所の仲間が持ってきてくれた一束の書類に入っていた手紙に書かれていた場所に向かう事にする。

手紙の内容からは、その研究所の局長に話を通せばいいらしい。



折角、中央都市に来たがこりゃ観光なんて出来そうにないなと一人バルドは新たに来た面倒事に頭を掻くのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 中央都市の都心部に位置する場所に建つのは主に重要な役割を担う部署が建ち並んでいる。

政府やこの魔法共和国を纏める王室の者が集う議事堂。

特別災害対策本部の本局、タスクフォースの本局など多くの重要な役職を持った組織の建物がある。


その中にあるのが、中央魔導研究所。魔法や魔導技術に関する研究を行う、共和国内の魔法学者にとって羨望せんぼうの眼差しが送られる魔法学の精鋭たちが集まっている研究所である。


「何の縁なんだか、また研究所か……」

[相棒の嫌いな面倒事の臭いがプンプンするぜ? ウヒャヒャヒャ!!]


 目の前にある建物を見て嫌そうな表情を見せるバルド。

隣でケラケラと笑うケルベロスを取り敢えず軽く叩いて黙らせて、ほのか達を連れて中に入った。

受け付けフロアーは沢山の人が行ったり来たりをしていて、忙しそうに動き回っている光景が広がっていた。


「うわ~……凄い人の数なの」

「ここは国内の優秀な研究員が集まる場所だからね。それだけ、ここには人が集まるんだよ」


魔法学を学ぶフィリスもここに行く事が夢で、中に入れたのが感動なのか眼を輝かせて周りを見渡していた。


「ねえ、あかね。これだけ変人がいたら面白いお面あるかな?」

「それ失礼!? 研究者の皆さんに大変失礼な発言や、訂正しい!?」


 隣にいたシリウスからの発言に思わずツッコミを入れるあかね。

ツッコミを入れられた本人は驚いた様な顔を浮かべる。


「え!? これが研究する人にとっては褒め言葉なんじゃないの!? で、お面ないのかな?」

「何処のソースから得た情報やねん!? そして、どんだけお面が好きやねん!」

「いや~、人にジロジロ見られるのが恥ずかしくて……きゃっ/////」

「シャイ過ぎ!! うちよりもシリウス君の方がシャイ過ぎや!? そして気持ち悪い!!」

「まあ、冗談なんだけどね」

「冗談かいっ!!」


 仲良く漫才まんざいを始める二人。何とも賑やかである。

その所為で、周りの人から注目の的だが……。


「おい、仲良く漫才まんざいしてないで行くぞ~」

「ほら、行くでシリウス君」

「了~解~」


遅れた二人が追い付いたのを確認し、バルドは受付に向かって歩こうとしたのだが……


――――ビーーーーッ!!


「あん?」


突然、けたたましい警報音が鳴り響く。

赤いランプが点灯して緊急事態の赤い文字が辺りに出現する。


一体何事だと思っていた彼等を次に、研究所の奥から複数の武装した魔法士が出て来て囲んで来た。


「ふえっ!? な、なんなの!?」

「あ~、面倒くせえ臭いがして来た……」


 驚いて彼の裾にしがみ付くほのかとフィリス。当のバルドはまた面倒な事に巻き込まれた気がして頭を掻く。

その武装した魔法士達の先頭に立つ者は薄い紫色の短く揃えた髪に同じく黒色の鋭い眼を持つ男性だった。


「貴様たちは既に包囲されている。武装を解除し、我らに従ってもらおうか?」

「なんだよテメーは!!」

「私はシーガル。この研究所の局長エメローネ様の助手をやらせてもらっている。貴様らは現在、オーパーツ探知機の警戒網にかかり古代遺産不正所持の容疑が掛かっている。何の目的でここに来たのかは知らないが、大人しく投降してもらおうか?」


 どきりとするほのかとフィリスとあかね。

彼女達はそれぞれオーパーツ『ニーベルンゲルゲン』の一部である赤の欠片と、オーパーツ『創星の書』を所持している。


それがバレてしまっては一体どんな仕打ちが待っているのか、良くて逮捕か、悪くても牢獄行きか……。

どちらにせよ、よろしくない展開しか待っていない。


ビクビクする彼女達をしり目に、バルドはいたって平静を保ったままシーガルという男性を見返していた。


「悪いが、お前と話す気はねえよ。此処の局長、エメローネって奴を呼びな」

「エメローネ様は現在執務中で忙しい。それと、貴様らの様な怪しい者を通すほど私は馬鹿ではない」


 両刃剣型のターミナルの切っ先をバルドに向けて、鋭い眼光で睨みつける。

敵意剥き出しの相手を見ても、彼は焦る様子もなく静かに腕を組んで見返していた。


「バスターソードか……。素人が持つには重過ぎる武器を片手で持つって事は、腕にそれなりに自身があるって事か」

「黙って我らに従ってもらおうか? エメローネ様のお膝下であるここで手荒な真似はしないと約束しよう」


包囲がわずかに狭まる。


 武器に手を掛けて警戒心高く身構えているのはあかねを守る守護騎士達。

何時飛び掛かってもおかしくない空気が漂い始めるが、それをバルドが手で制した。


「……俺はそういう高圧的な人間を何人も見て来たが、まともな奴を見た事がない」


ケルベロスを取り出し、同じく相手に切っ先を向ける。

金に光る眼は、相手に向かって鋭い殺気と共に視線を向ける。


「うちの連れも攻撃するってなら、テメーら全員を打っ潰すだけだ」

「出来ると思うか?」


一色即発の空気が漂い始める。それに周囲の研究員たちも固唾を呑んで様子を見守っていた。

いまにも戦闘が始まりそうになった正にその時だった。


「シーガル、止めなさい!!」


二階にあるテラスから身を乗り出してシーガルを咎める一人の女性によって、その危機は回避されるのだった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



魔導研究所の最上階にある局長室にほのか達は通される。

下で起きた騒動は、エメローネが『検査機の誤作動』と言ったお陰でいまは落ち着きを取り戻している。


「ごめんなさいね。私の助手が失礼な事をして…」

「あ、あの……気にしないでください」


 到着して早々に謝罪の言葉を述べるエメローネ。

それから、シーガルの方を見て少しあきれ気味に見る。


「シーガルは神経質すぎるのよ」

「エメローネ様は警戒心が薄すぎます。貴方はご自分の立場を分かってらっしゃらない」

「あら? 私は自分の立場がどんなものかちゃんと理解してます。それよりも、さっきの事をきちんと謝罪しなさい」

「………先ほどは失礼しました。ただ、この方の立場もあっての行動である事を御理解いただきたい」


エメローネに言われて渋々といった感じで頭を下げて謝罪するシーガル。

それに、よしっと頷いてから彼女は自己紹介を始める。


「自己紹介が遅れたわね。私はエメローネ・アルトワルツ、この中央魔導研究所の局長を務めております。そして、こちらにいるのが助手のシーガル・ガーランド」


紹介された彼は小さく会釈するに止まる。


「それで、私に用件とは何かしら?」


 ほのか達は道を開けて、第三研究所から来た研究員の男性を通す。

そして、彼から渡された書類と手紙を読んでやはりといった顔になる。


「先生は、タスクフォースに捕まって連行されたのね……」


予想はしていたのだろう、彼女は表情を険しくさせる。


「あの……。局長をどうして先生と呼んでるんですか?」


フィリスが気になった事を質問すると、エメローネは過去を懐かしむ様に表情を柔らかくさせて語る。


「先生は、私の小学校の頃に担当をして下さった恩師なの。あの頃から、先生にはよくしてもらったわ。いま此処にいるのも先生のお陰……」

「あのじじい、教師やってたのかよ。人は見かけによらないな」

「ふふっ、昔の先生はよくからかわれていて可愛かったわ」

「からかっていたのは特にエメローネ様とそのご友人と言ってませんでしたか?」

「シーガル、余計な事は言わないの」


 ぷくっと頬を膨らませてねるエメローネ。

まだ大人の顔つきに成りかけの童顔でありそのねた表情は非常に愛らしく思える。


こほんっと咳き込んでから彼女は表情を戻して本題に戻る。


「先生はきっと、この都市内にはいないと思うわ」

「え!?」

「……根拠はなんだ?」

「タスクフォースでいま動いてるのは二つ。第三部隊のナール・ボルジャーノン一等陸佐と第七部隊のクラスト・シームレス三等空尉なの。その内の第七部隊が第三都市に向かったのが私達の独自の調査で分かっている」

「クラフト・シームレス……。あの大富豪シームレス家の嫡男か」

「知ってるのか?」

「この国じゃ有名な家名の餓鬼だ。金持ちで、何でも金で解決したがる」


ひとえに親の財力があってこそ出来る暴れ様で、SCCA内でもその行動に難色を示す者は少なくない。

それに誇りを持つ守護騎士達は酷く険しい表情を見せる。


「なんでそんな奴がそのタスクフォースに入ってるんだよ? 追い出しちまえばいいじゃんか」

「噂だとあいつ自身そこそこ強い魔法士らしい。それに加えてタスクフォースの維持費の大部分を奴が負担しているらしい。だから、向こうも無暗に追い出せないってのが現状だろうな」

「金絡みの問題か……世知辛せちがらいな」

「まぁ、向こうはクラストを資金源として利用してるだけかもしれないけどな」


人の思惑は分からない所で働く。

真実は闇の中。複雑に絡み合った思惑は、どれが本当の事なのかを見えなくさせる。


「クラストにはもう一つの拠点があるの。それが第五都市『グラシキル』にある『氷塞ガルガンシア』……先生はそこに連れて行かれたと思うわ」

「『氷塞ガルガンシア』を管理してるのがあのシームレスか……」

「そこで、冒険者である貴方に頼みたい事があるわ。オズワルド局長を…先生を救出してほしい」


 バルドの方を見て、エメローネは頭を下げてそう申し出る。

中央都市の研究所を任されている人物から依頼されるとは思ってもみなかったのか、彼はちょっと驚いた様子だった。


「おいおい、俺は冒険者だぞ。あんた等にとっては眼のかたきみたいなもんだぞ?」

「私はそうは思わないわ。むしろ、冒険者とSCCAは手を取り合って互いを尊重すればいいと思ってるの。そうすれば、いがみ合う事なく共通の脅威を相手に戦えるのに……彼等がやってるのはただの意地の張り合いよ」

「はっ、言ってくれる。まぁ、その考えには同意するけどな」

「やってくれるかしら?」

「いいぜ。元からあのじじいを救助する予定だったしな。フィリスの恩師でもあるしよ」


ポンッと隣にいたフィリスの頭に手を乗せて少し乱暴に撫でる。


「それに……。第三都市の連中は個人的に気に入ってる。助けないって考えはないな」

「バルド……!!」

「ありがとう。向こうで私の知り合いが先に行動してると思うから、もし会ったらこの手紙を渡してあげて。協力する様にって書いておいたから」


彼にその手紙を手渡す。それをバルドは確かに受け取り、懐にしまった。


 その後、少しだけ彼女達は話を交わして局長室から出ていった。

扉が閉まるまでエメローネは笑顔を絶やさず、ほのか達に手を振り続けていた。


「……よろしかったのですか?」

「なにが、かしら?」

「彼女達は明らかにターミナルを持っていました。そして、今までの経路から推測するに恐らく彼女達がオーパーツ『ニーベルンゲルゲン』を所持してる筈です」


 本来なら危険遺物不正所持の容疑で捕まえるか、オーパーツを引き渡してもらうのが当然だろう。

だが、それを彼女は首を横に振って否定した。


「彼女達はあれを悪用する事はないわ」

「根拠となる証拠はありませんが?」

「ふふっ、証拠ならあるわ。先生があの子たちにターミナルを託した。それがその証拠よ」


くすりと笑って言うエメローネに、シーガルはよく分からないといった感じで首を傾げる。


「さて、と……。私も仕事の続きをしましょうか」

「では、何かありましたらお呼び下さい」

「ええ。ご苦労様シーガル」


 礼をしてから彼は局長室から出ていった。

シーガルが去ってから彼女は机に置かれている書類の束に手を取って眼を通す。


「……あら?」


その時、先ほど渡された書類の束にあった一つの文章に目が付いた。

気になった彼女はそこに目を通す。


そして、次の瞬間に彼女は眼を大きく見開いた。


「まさか……そんな!?」


そこに書かれていた文章に彼女は信じられないのか首を振った。

慌てた様子で彼女は目の前のモニターに共和国内の地図を開いてキーを叩く。


「ニーベルンゲルゲンの覚醒から随分と時間が経っている。そして、今までに三つの都市で欠片が覚醒、あの子たちに撃破されたと仮定すると……!!」


幾つも出てくる計算を処理していく。


「もし、彼女だったら姿を見せるのは……第五都市『グラシキル』!!」


弾きだされた答えに思わず立ち上がる。

衝撃で椅子が倒れるがそんな事は気にしていられない。


「私も、行く支度をしないといけない……!!」


 思い浮かぶのは一人の人物。

幼少の時を共に過ごし、互いに切磋琢磨して競った自分のただ一人の親友。

もし、先生の仮説が本当ならそんな事が出来るのは彼女しかいなかった。


「貴方なの……シルヴィア?」


紡がれる人物の名は静かな室内に広がり消える。その疑問に答えをくれるものは誰もいない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 中央都市には各都市に向けて走る高速機動列車が存在する。

都市間を行き来するのに普通なら数日は掛かる距離を一日で着ける優秀な車輌だ。


ただの列車と思うなかれ。


 この高速機動列車は、レールとその周囲は全てモンスター除けの魔法式が施されていてモンスターによる事故をなるべく減らす様に施されている。

燃料は雷の魔力素を媒介にして線路に混ぜた土の魔力素から生じる微弱な磁力を反発、結合を繰り返す事で前に進む。


一種のリニアトレインとも言える構造だ。


 ただ、線路が拡張されてないのと、魔力素の補充に時間が掛かる。

それに政府から使用回数を控える様に通達があって、一日に二~三回しか動かせないのが最大の難点だがそれでも乗る人はそこそこいる。


 現在の移動手段として最も使われているのは航空機なのだが、いずれは機動列車の方が時代を担うだろうというのが専門家の見解だ。

また、現在は転移魔法を応用した転移装置を開発中でこちらも時代の先頭を走るのも時間の問題だろう。


しかし、機動列車は少し前の大地震の影響で線路の幾つかが潰れてしまっており、いま動かせるのは第三都市、第六都市、第八都市の三つだけだ。


 その都市に用のある人が機動列車に乗るが車内はスカスカである。

本来は駅内も沢山の人で混雑している筈なのだが、前述にもある様に地震の影響で他の都市に行けない事で客足も減ったという訳だ。


閑古鳥かんこどりすら鳴きそうな状態の駅にほのか達はやって来ていた。


「あの列車に乗るの?」

「そうだな。あれが第三都市行きの機動列車だ」


 空気抵抗を減らす為に滑らかな流線形になっている顔を持つ列車は何処か愛嬌がある。

今日は乗る人がいないのか、寝台も通常の席も殆どが空いていると駅員が言っていたのでバルドは寝台の方を全員分買って渡す。


「ほれ、これで乗れるぞ」

「ありがとうバルド」

「ほのかちゃん達の故郷に行くんやね? うち、列車は初めてでちょっとドキドキするで」


 機動列車に乗った事のない彼女達は、話で盛り上がる。

そんな中、ほのか一人だけが黙っていてそれに気付いたバルドが声を掛ける。


「ほのか、如何した?」

「これに乗ると帰れるんだよね?」

「そうだな。親の下に帰れるぞ」

「でも、まだ欠片の……オーパーツの問題が解決してないの。それに、リースリットちゃんも……」


 オーパーツ『ニーベルンゲルゲン』の問題は未だ解決してない。

それだけでなく、リースリットの事もまだ何にも分かっていない。

それなのに、帰ってもいいのだろうかと思い悩む。うつむいていると、頭に暖かく大きな手が置かれる。


見上げると、バルドが自分の頭に手を乗せていて少し乱暴に撫でて来た。


「別に今生こんじょうの別れじゃないだろ。今は、親に無事な自分の姿を見せたいんだろ?」

「う、うん……」

「後の事はお前の判断次第だ。如何するかは自分で決めな」


そう言って手を離す。

その時、列車の発車アナウンスが駅内に響き渡る。


「そろそろ時間だな。早く乗らないと置いてかれるぞ」

「あっ、いけない! ほのか、急ごっ!!」

「うん!」


皆が車内に入っていく。第三都市から来てくれた研究員も乗って、最後に残るのはほのかとバルドとなった。

彼女はバルドが乗ってから乗り込もうとしていたのだが、その彼が全く動かない様子を見せたのに疑問を感じた。


「バルドさん、どうしたの? 早く乗らないと置いていかれちゃうの」

「ああ、そうだな。……ほのか、ちょっと手を出せ」

「ふえ?」


言われて彼女は素直に手を差し出す。

小さな掌の上に置かれたのは、黒いピンポン玉サイズの球だった。


「お守りだ。何かあった時に、それを上に放りな。きっと役立つ」


 なぜ急にこれを渡してくれたのか分からない彼女は首を傾げつつも受け取った。

それを確認して、バルドは頷いて彼女に先に列車に乗る事を促す。

先に乗る為に彼に背を向けて足を掛けた時、バルドが小さく声をらす。


「これで俺に任された依頼は完了した」

「え? それって―――――」


 どういう事? と聞こうとして振り返ろうとした彼女の背中を突然押される。

もつれつつも車内に転がりこんだ彼女が次に見たのは、バルドがドアを閉める光景だった。


それも――――――外から。


「バルドさん!?」


 慌てて彼女は起き上がってドアを開けようとボタンを押すも、開かない。

既に発進のアラームが鳴っていた為か、飛び降り防止用のシステムが作動して発車する前には一度閉まったドアは開かない様になっていた。


幾ら押してもドアは開く様子を見せない。


ほのかの慌てた様子で、ドアを叩く。

バルドが外にいるのに気付いた他のメンバーも驚いて戻って集まって来た。


「バルドさん、なにやってるの!?」

「……俺の依頼はほのかとフィリスを安全に第三都市に送り届ける事だ。それは今日、これをもって終了だ。あとの事は俺が引き受ける」

「まさか、私達を先に乗せたのは……その為!?」


ここに来て彼の意図が分かった。

バルドは、残されたオーパーツの問題とオズワルドの救出を自分一人で片づけるつもりなのだ。


だが、分かったとしてももう遅い。列車はゆっくりと動き始め、彼と距離が開き始める。


ほのかは動き出す列車の中を走る。

運動音痴の彼女にはそれはかなり苦しいが、それでも懸命に車内を走って彼から離れないように必死に駆ける。


「バルドさん!!」

「ほのか、お前は自由に生きろ。こっちは、俺達冒険者のやる事だ。もうお前は関わらないで自由に生きろ」

「バルドさん!!」

「学校にはちゃんと行けよ。残る問題も全部俺が片付けてやるからよ」

「あっ!?」


つまづいて転ぶ。息を切らしながらも慌てて起き上がって駆けるが、その先は最後尾……。

もう先には進めない。


窓にくっ付いて見たバルドは最後にフッと笑っていた。


「短い間だったがお前達との冒険はそこそこ楽しめたぜ。またな……」

「バルドさーーーーーんっ!!!」


 彼女の叫びは届かず、列車はそのまま第三都市に向けて走っていく。

走り去る高速機動列車。それが消えるまで彼はその場で立って見送っていた。


「さて、行くか」


見送った彼が身をひるがえすと、虚空から突然ケルベロスとバハムートが姿を見せた。


[おいおい、相棒。これは流石に俺でも感心出来ねえぜ?]

[若、流石に今回は酷過ぎですよ?]


待っていたのはそんな言葉だった。

だが、それに彼は特になにも思わないのか平然と答える。


「今までの旅が異常だっただけだ。子供がほとんどのパーティで冒険なんて出来るかっての」

[そ、そう言われると否定できないけどよ……]

[ですが、ほのかさん達の気持ちを考えると……!!]

「だからなんだ……?」


 スッと目付きが鋭くなり、全身から溢れるは驚異的な気配。

それは何時もよりも重く、それでいてソロ活動している時にモンスターを相手に放つ殺気だ。

ほのか達の前では絶対に見せなかった重苦しい気迫に魔剣達は息を呑む。


「あいつらにこれ以上の冒険は必要ねえ。あとの事は俺達が引き受ける。まだ未来あるあいつらに危険な旅をさせられねえだろ。何か間違ってる事を言ってるか?」

[[………]]


 理にかなった事を言われて黙らざるおえない。

確かにここから先は今以上に危険をともなう旅だ。

Dランクモンスターなど、ハッキリ言えばそこまで強くもない。


 だが、そこから先のCクラスモンスターは今のほのか達にはあまりにも危険すぎる。

あのオーパーツの欠片のモンスターに勝てたと言っても油断すれば死に至る戦いが待っている。

そんな場所に彼女達を送れるかと言われれば答えはノーだ。


(でもよ……。これじゃあ、ほのかの嬢ちゃん達は辛すぎっだろ)

(若……。それが分かっていてこの選択をしたのですね……)


 このチャンスを逃す訳にはいかない。逃せば、ほのか達が帰る機会が失われてしまう。

中央都市に来るまでに相当悩んでの苦渋の決断なのだろう。


それが分かった魔剣達はもうこれ以上はなにも言わない事にした。

一番辛いのは他の誰でもない、この選択を選んだ彼自身なのだから……。


「楽しかった旅も終りだ。ここからは少し上げていくぞ」

[……分かったぜ相棒]

[ですが、もし会った時はちゃんとほのかさん達に謝って下さいね?]

「行く先で会えたらな」


 姿を消す魔剣達。それを見てから彼は駅から外に足を踏み出す。

そして、人込みで混雑する中を彼は歩いて行ってその姿を忽然こつぜんと消した。



次なる目的地は第五都市グラシキル。そこにある氷塞ガルガンシア。

っと思いきや、バルドによってほのか達は第三都市へ強制送還させられる。


少し急ぎ足過ぎたかなと反省。

では、今後とも宜しくお願いします。

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