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第三十五話 星はまた昇る

三十五話更新。


驚異的な能力を見せる創星の書。

その圧倒的な力は時が経つにつれて更に増大していく。


空に舞う少女達の激闘。

そして、闇の淵に眠る星は再び昇る。



「くそっ……」

[不意打ちとは言え、派手にやられたねえ相棒? ウヒャヒャヒャ!!]

[若、大丈夫ですか?]


 空中で激しく激突する四つの閃光を見上げる形でいるバルドに相棒である魔剣の二人が声を掛ける。

それに彼は少し顔をしかめ、厳しそうな表情を見せる。


「この魔法、細胞まで凍らせてやがる……。流石に、この状態だとすぐに回復できねえ……」

[厄介な魔法ばかり……。さすがはオーパーツ『創星の書』…その力、あなどれませんね]

[早いとこ回復して嬢ちゃん達の援護しねえとな?]

「んなこと、言われなくても分かってるっての」


 今でも魔力を送って氷を解かしている真っ最中だ。

だが、相手の氷結魔法が強いのだろう遅々として進んでいる様子が見えない。


「バルド!? 如何した!!」


そこに後から追いかけて来たユグドラ達が到着する。

そして、バルドの様子に驚いて慌てて駆け付け状態を確認する。


「この魔力、主あかねのか!」

「ユグドラか。丁度良い、お前の火でこれを溶かしてくれ」


 火属性の彼女なら、この氷を溶かす事が可能だ。

それを頼むと彼女は快く承諾しょうだく、すぐに凍っている個所に手を当てて赤い魔力が灯る。

徐々に氷は溶け始め、水となって地面に落ちていく。


「ユグドラはそのままそいつの氷を溶かすのを頼むぜ?」

「プレセア、アイネ気をつけろ。今の主あかねは、暴走体に乗っ取られて本来の力を開放された状態だ。どのような攻撃が来るか分からん。無理だけはするな」

「ああ、分かってる。でも、あかねは絶対にアタシが助けるんだ」


ミョルニルを強く握り、決意を宿した眼で頭上を見上げる。

頭上で行われている四つの舞踊ロンド

三人の魔法少女が、一人の強大な力に呑まれた少女を助けようと必死に応戦している。


「行くぜ、アイネ!!」

「ああ、主を助けるのは我々創星の守護騎士の務めだ!!」


ユグドラを残し、二人は飛翔。ほのか達の援護に向かって行った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ふふっ、如何した小さき戦士達よ。この程度で我に歯向かうのか?」


 空中で激突する少女達は激しく火花を散らしていた。

必死に攻勢に出るほのか達だが、彼女達の攻撃は『八大元素アハト・エレメント』によって相反する属性を張られて相殺されてしまう。


「でやあぁぁぁ!!! ギガインパクト!!!」

「っ!?」


そこに飛来する巨大な岩塊。

弾丸の様な勢いで飛んで来たそれを咄嗟ではあるが彼女は障壁を張って防御する。


勢いがあって、身体が後ろに押されていく。

魔力を込めて上に逸らし、攻撃を避けた。


攻撃をしのいだ事で一瞬の油断が生まれる。

そこに素早く回り込んでサイドを取ったアイネが足を振りかぶる。


「主、お許しください!! 幻雷脚ッ!!」


雷をまとった回し蹴りが繰りだされる。

障壁による防御が出来ないと判断し、腕を上げて防御する。


 直撃は避けたが、蹴り抜かれて吹っ飛ばされ距離が開く。

二度も攻撃してきたのが守護騎士だと分かるや、彼女は今度こそ驚いた表情を見せる。


「何故、我の邪魔をする守護騎士達よ!? 我は使い手の意志を尊重し、蔓延はびこる外敵を排除しているだけだというのに!! これを見て分からぬか!」

「こんな事、あかねは望んでなんかない!!」

「『創星の書』よ。それは、貴様が主の心に出来た隙間に潜り込んで悪意を増幅させただけだ!! もうこの様な残虐ざんぎゃくな行いを主の体を使ってするのは止めろ!! 主、目を覚まして下さい!! この様な事、主だって望んではないでしょう!?」

「ふん、無駄な事を……。既に使い手は我が闇に落ちた。貴様らの声は届きはしない」


 再び結晶剣が無数に展開されて放たれる。

飛んでくる相手の弾幕を避けて被弾を避けるために彼女達は散開する。


 魔力弾を生み出してはその形態を変え剣に変えて撃ち出して来る。

相手の挙動を見ていたフィリスはロードの攻撃が普通の魔法士と違う点があるのに気付いた。


「魔力弾を形状変形させて撃っている……。そうか、あの子の魔法属性は『変質』!! 皆、気を付けて! あかねの魔法属性は希少な変質属性だよ!!」


注意の声を聞いてほのか達は全員が驚いた。

特殊能力だけでも珍しいのに、あかねは更に希少な『変質属性』を持っていると言うのだ。


 変質属性は希少属性でも特殊なタイプで、自身の魔力を通した物体の形状を自由に変化させる事が出来る。

現在分かっているのは、魔力を通した物の形状を変える事と有利不利となる属性が存在しない事だ。

発見例が少なく情報もあまりえられない事からこの二つの特徴が変質属性の基本能力と認識されている。


「ふっ、今頃気づいたか。だが、もう遅い。それを知った所で貴様らに勝てる見込みなどない!!」


 自らの属性を看破かんぱされてもロードは全く慌てる様子はない。

周囲に展開した魔力弾を次々に結晶剣に変えては撃ち続ける。


 無数の結晶剣を掻い潜るアイネ。飛来した一発に咄嗟とっさに蹴りを入れて弾き飛ばす。

だが、その隙を逃さなかったロードが彼女へ急接近し、左手を手刀に変えて突き出す。


その一撃がアイネの胸を貫いて背中より飛び出す。


「っ!!?」

「貴様も、我が内に眠って破壊を受け入れろ……」

「き、さ…ま――っ!?」


貫かれたアイネの体が徐々に透け始める。

そして、彼女の姿が完全に消える所で――彼女の手を誰かが掴んだ。


「む?」

「アイネを離せってのーー!」


アイネの手を掴んだ者、それはお狐さんだった。

消え始める彼女を離さないように強く握る。


しかし、アイネの体が消えると同じくお狐さんもまた体が透け始めた。

それに今度は予想外の出来事だったのか、ビックリした様子で声を出す。


「あ、あり?」

「自ら取り込まれるか……。愚かな」


彼女の体が消えると同時に彼もまた姿が消えて、ロードの中に取り込まれてしまった。


「アイネーーー!!」

「と、取り込まれた……!?」

「お狐さんまで……」


仲間が一気に二人も消えてしまったのに呆然ぼうぜんとする。

二人を取り込んだ彼女はその身より一層大きな魔力を放出させて自分に挑んで来る少女達を睥睨へいげいする。


その周囲を守る様に結晶剣が並び、一定の速度で周回する。


「貴様らも、創星の力の前に散るがよい」


彼女の身体から膨大な魔力波が発せられ、それが衝撃波となってほのか達を襲う。


 始めはその場で堪えて耐えていた彼女達だったが、踏ん張り切れずに吹き飛ばされて地面に落下する。

墜落寸前で姿勢を整えて地面すれすれを水平飛行する。その後ろに次々に結晶剣が突き刺さり、結晶の花を咲かせる。


「ウィル!!」

[Over Limits,LevelⅠ!!]


 オーバーリミッツを発動してほのかは急上昇。

相手の弾幕を避けながら近距離戦を仕掛けた。それに相手も弾幕を撃つのを一時止めてドッグファイトに移る。


 近距離での弾幕戦が起きて、彼女達の周囲で魔力弾同士が相殺されて爆ぜる光景が広がる。

両者とも互いの弾幕を上手くぶつけて相殺し合っている事で被弾を避けている。


「魔法はイメージが大切……」


 その中で、ほのかは自分に言い聞かせる様に同じ言葉を呟いていた。

戦闘しながら、彼女は脳裏に新たな魔法のイメージを構築していく。


 浮かぶのは、朱の騎士ユグドラの持つ槍の様な魔力刃。

遠距離魔法しか持たない自分の為の、緊急近接突撃魔法。


自分だけの……近接用の突撃形態!!


「イメージする、イメージすれば……私にも出来る!!」

[Over Drive.魔力チャージ……!!]


ウィルに備えられている三叉みつまたの金色の突起が光る。

そこから桜色の魔力がそれぞれ鋭く突き出て、合わさりまるで槍の様になる。


柄を両手でしっかり握り、彼女は魔力を一気に開放。

背後に杖を天高く掲げる女神の紋章が出現し、新たに備えられたブースターを全開にして爆発的な加速で相手に向かって突進した。


「ホーリー、ラーーーンスッ!!!」

「なにっ!?」


 ほのかが突撃してくるとは予想していなかったのだろう。

驚愕の表情を浮かべて彼女は慌てて障壁を正面に張った。


そこに槍となったウィルの穂先が激突して激しい火花が散る。突破には至っていない。


「っ……ウィルーー!!」

[Break!! Breakッ!!!]


瞬間的にブーストして勢いを加速させる。

その勢いにロードの張った障壁にウィルの穂先ほさきが徐々にだが通り始めた。


 しかし、穂先ほさきが半ばまで進んでその進撃は停止してしまう。

自身に攻撃が届かないと分かったロードはニヤッと笑みを零したが、目の前の少女の眼にまだ光が宿っているのに気付いて眉をしかめる。


そして次の瞬間彼女の眼前、眼と鼻の先に桜色の魔法陣が障壁内で展開されたのだ。


「なにっ!?」

「ここっ!! フォトン、ブレイザーーーーッ!!」

[フォトンブレイザー、バースト!!]


集束する光が解き放たれ炸裂する。

大爆発を起こして桜色の魔力残滓ざんしが混じって宙を舞い散る。


「二段構えの攻撃!? なんて奴だ……!!」


彼女の戦闘を見ていたプレセアは、その攻撃法に驚いた表情を見せていた。


 ほのかは始めに相手の強力な防御魔法を破る為に一点集中式の突撃を仕掛けた。

それによって、張られていた防御障壁を一部貫通し貫いた先端にあらかじめ準備しておいた砲撃魔法を展開する事で相手の防御の内側から叩いたのだ。


咄嗟とっさの考えでは到底できないだろう攻撃法を、彼女は戦闘中でありながら見つけ、尚且つそれを瞬時に実行に移したのだ。


一歩間違えれば自分の身に危険が迫る状況だというのに、進んで賭けに出て成功を手繰たぐり寄せる。

ほのかの類稀たぐいまれなる才能と、それに応えるウィルの演算能力に驚かされる。


 爆発に呑まれた二人が姿を見せた。

双方とも爆発の衝撃でまとっていたマジックアーマーが一部爆ぜており、そこから白い肌が露わになっている。

双方ともダメージを相当受けたのだろう、顔には疲労の色が濃く残っていた。


「はあ、はあ……はあ……っ」

小癪こしゃくな真似を……!!」


直接的なダメージを受けなかったにしろ、相当な魔法ダメージを受けて疲労の色を見せるほのかにロードは今度は人差し指を彼女の方に指し向ける。


その指先に白色の光が集まり、氷属性の魔法が光線のごとく放たれる。

すぐにロードから離れる様に飛び退き、次いで来るその光線を身を捩じって避ける。


頭上から振って来る弾幕を同様に魔力弾を生んで飛ばして相殺する。

だが、一発仕損じて弾幕をすり抜けて迫って来た。


咄嗟にディフェンシブで受ける。障壁に突き刺さった結晶剣は爆ぜて、爆発を起こす。

その衝撃でほのかのディフェンシブも全体に亀裂が生まれて砕け散る。


「きゃあっ!?」

「貴様はもう寝ていろ!!」


落ちるほのかに向かって再び白色の光線が撃たれる。

直撃コースにいるほのかには回避の術がない。


「メロー、マジックシールド!!」

[はいっ!!]


しかし、その彼女を抱きとめたフィリスが防御魔法を展開。

水色の魔法障壁が張られて、それがロードの攻撃を受け止めるがひびが入った。


「その程度で、我の攻撃をしのぎ切れると思うな!!」

「くっ……!! メロー、オーバーリミッツ!!!」

[Over Limits,LevelⅠ!!]


フィリスの魔力が跳ね上がり、張られる障壁が一層大きくなって強固になる。

罅割れが消えて耐えしのいでる。しかし相手の出力に負けて彼女達はどんどん押されていく。


「うおおおおっ!!」

「ちっ……」


そのピンチにロードに飛び掛かるプレセア。

舌打ちしてフィリス達へ行っていた攻撃を中断し、振り下ろされたミョルニルを体をらし後ろに飛んで避ける。


 体勢を元に戻す最中に隙を埋める様に、一本の結晶剣に変えられた魔力弾が撃たれる。

それをプレセアは同じインペリア式防御魔法を正面に展開して受ける。


突き刺さり、全体にひびが入って砕け散る。

砕けた障壁向こうでプレセアはミョルニルを『ツェアシュラーゲンフォルム』に変えて身の丈よりも大きな鉄球を投げ飛ばす。


鎖が伸び、空気を震わせて飛んでくる鉄球をロードは避けるとプレセアに向けて手をかざし、捕縛魔法で彼女を拘束した。


 身動きの取れなくなった彼女が苦虫を噛み潰したような顔をする。

勝者の笑みを浮かべるロードだったが、とどめを刺そうとした所で接近する魔力に反応してその場から飛び退く。


駆け抜けたのはリースリットだった。

得意の高速移動魔法を使って広がった距離を一気に縮めて斬りかかる。

杖を水平にして受け止めて弾き、魔力弾を飛ばす。


形状を変質させる暇がなかったからか、弾丸のままの魔力弾がリースリットに直撃し爆発を起こす。


煙の中から彼女が真っ直ぐに墜落する。


(まだ、私は負けられない……!!)


閉じていた眼がカッと開いて、彼女は姿勢を変えて落下を止める。

いまの状態では何もかも足りない。


もっと速く、もっと強く……!!


速く、速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く!!

強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く!!!


イメージをふくらませる。

如何すれば、自分はより強くなれるか、より速くなれるかを……。


 眼の端に映った人物を見て、彼女は答えに至った。

彼女が見下ろす人物。それは、現在も凍った四肢と格闘中のバルドだった。


(あの人を、イメージすれば……!!)


 眼を閉じ、思い浮かぶのは短いながらも特訓で交えた彼との戦い。

その動き、その戦闘方法。それを思い返して強く脳裏に焼きつける。

まぶたの裏に浮かび上がったその光景を自分の糧にする。


イメージが固まった瞬間、彼女は閉じていたまぶたを開いた。


「フォルテーーーーッ!!!」

[Over Limits,LevelⅠ!!]


 相棒の名を叫ぶ。それに応える様に柄に填められていた金の宝石が光り輝く。

頭上へフォルテを放り投げる。


宙へと飛んだフォルテが金の光に包まれると二つに分離、光が収まるとそこにあるのは二振りの身の丈よりも大きな大剣。


頭上より落ちるそれが彼女の突き出していた手の中に収まる。


「デュアルザンバーフォームッ!!!」


二本の巨大剣を構えて、全身に雷をまとわせた彼女は頭上にいるロードに向かってロケットの様に勢いよく飛翔する。


 迎撃しようと魔力弾を結晶剣に変質させて弾幕を降らす。

それを紙一重で避け、あるいはまとっていた雷のオーラでうまく逸らして弾幕内を飛ぶ。


「せえぇっい!!」

「くぅっ!?」


振るわれる一撃を杖で受けるロードだが、その身体が後ろへ下がる。

すぐさま高速で目の前から姿を消し、サイドから突撃する。


「速い!?」


その速さは、先ほどよりも上がっていた。

一撃離脱を下に高機動で相手を翻弄ほんろうし、金の閃光は舞い踊る。


猪口才ちょこざいな……!! はあっ!!」


 周囲を飛びまわるリースリットを迎撃すべく、ロードは自身を中心に魔力を衝撃波にして放つ。

膨大な魔力があるからこそ出来る攻撃に、リースリットは剣をクロスさせてガード体勢に入る。


直後に強烈な衝撃が来て軽い身体が吹っ飛ばされる。


「っ……!! まだまだ……!!」


 彼女の背後に戦乙女の紋章が大きく展開される。より立体的なものへと変わった紋章。

リースリットの体を金色の魔力が包み込み、雷へと変化する。

それが頭上にある暗雲に変化をもたらした。とどろくく雷鳴が金に輝き、彼女の頭上を奔っていく。


「我が暗雲を制しただと!?」

「はあぁぁぁぁ!!!」


 両手のフォルテを構えて突撃する。彼女の身に雷が落ち、更に高速になる。

次々に落ちる雷はロードの動きをも制限し、そこに雷と共に突撃するリースリットが一気に距離を詰めた。


「ライトニング、ストライクーーーッ!!!」


 クロスする様に同時に繰り出される袈裟懸けさがけ斬り。同時に弾ける雷の爆発。

近距離で起きた魔法攻撃を前にロードも大きなダメージを受けた様だ。


右肩からそでまでマジックアーマーが弾け、肌が見える。

己に一撃を叩き込まれた事に激怒したロードは、敵意剥き出しの攻撃を目の前にいるリースリットへ叩き込む。


かざす右手より発せられた魔力波。

咄嗟に剣をクロスさせて防御するも防御の低い彼女では耐えきれず、大きく後方へと吹っ飛ばされてしまう。

何とか追撃されないように踏ん張って停止した。


「リースリットちゃん!!」


 クロスした剣越しに相手を見据える彼女に、復帰したほのかとフィリスとプレセアが合流する。

無尽蔵とも言える魔力を使って受けたダメージを修復し、マジックアーマーを修繕したロードが見下ろす。


「だが、四人だとしても――「いや、六人だ!!」なにっ、くうっ!?」


 突然下方より襲い来る黒き炎。それを防御すべく障壁を張ったロードがそれに呑まれ爆発に包まれる。

見慣れた攻撃にほのか達はハッとなって下を見ると、そこには凍結から回復したバルドがケルベロスを振り切った形で立っていた。


「バルドさん!!」

「わりぃ、ちょいと遅れた」

「プレセア、待たせてすまなかったな」

「いや、もう少し遅れてても大丈夫だったぜ?」


なんて強気な事を言う彼女にユグドラはフッと笑って、カラドヴォルグを爆発に包まれたロードに向けて構える。

同じ様にほのか達と並んだバルドが両手にケルベロスとバハムートを持って構え、ロードを見据える。


立ち込めていた黒煙を吹き飛ばし、彼女はほぼ無傷の状態で姿を見せた。


「例え何人集まろうが、我には届かぬ事を教えてくれる!!」

「上等だ。テメーにチームプレーってのを教えてやるよ!」


六人はロードに向かって突撃する。

それを迎え撃つように彼女は、殲滅魔法を展開して詠唱を完了するまでの時間を稼ぐ弾幕を張るのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



暗い闇の奥底に、あかねはうずくまっていた。


何も見えない、何も聞こえない。

目先のものすら見えない空間で何をするでもなく、彼女はただジッと時間が流れているのを肌で感じるだけだ。


「主ーーー!!」


 その時、自分の事を呼ぶ聞き慣れない声が聞こえた。

うずくまっていた彼女はゆっくりと顔を上げる。


先の見えない闇の中に飛来するのは七色に輝く光の玉。

それが彼女の前に到達すると、強い輝きを放ち中からアイネが姿を見せたのだ。


「主!!」

「……アイネ?」


 自分の名を呼ぶのは間違いなくアイネだった。

彼女は自身の主が反応を見せてくれたのが嬉しかったのだろう。

彼女へと駆け寄り、その小さな体を抱きしめた。


「主! よかった、まだ完全に呑まれてはいなかったんですね!」

「アイネ、喋れる様になったんか?」

「はい、主を助けたいと強く願いましたから。それよりも主、此処から早く脱出しましょう。皆、貴方の帰りを待っています!」


しかし、それにあかねは首を横に振って拒む様子を見せる。


「うちは、行けへん……」


 彼女が拒否するとは思ってもいなかったアイネは驚いた。

家族が彼女の帰りを待っているというのに、それを拒む理由は一体何のか分からなかった。


「うちは、見ていたんや。うちが、村を……全部、全部焼き払っている光景を!」

「っ!!」


 ここに来てアイネは気付いた。

あかねは、この中でロードのしている事を見ていたのだ。

村を焼く様、派遣された部隊を殲滅する光景、そして……村人達を業火で消し去る光景を……。


「うちは願ったんや。家族を守りたい、守りたいから力が欲しいって……。そしたら、こうなった!! うちは……うちは、人間やない。人に不幸を呼ぶ魔女なんや!!」


村を焼いた過去の光景がよみがえる。あの時は、その気はなく制御しきれない力に負けて起してしまった。


――――だが、今度は違う。


 今度は自分の意志でこの事態を引き起こしてしまった。

自分は人間じゃない。人に不幸を呼ぶ悪鬼、魔女なのだと彼女は自分を責める。

アイネはそれを聞いて慌てて否定する。


「ち、違います!! これは、創星の書が主を守ろうと起動した防衛プログラムの暴走で、主が悪い訳ではありません!!」

「せやけどっ!! そうなる経緯を作ったのはうちなんや!! もう、うちには止める事は出来へん」


 それに、と言って彼女は自嘲じちょうする様に笑い俯く。

色をなくした眼は何も見えない闇色の足下を見る。


 真っ黒な色をしたそれはまるで自分の心の闇の様だ。

こんなどす黒い物が自分の中にあると分かると、あぁ自分は化物なんやなと思ってしまう。


「うちみたいな、化物はこうして真っ暗な中にいた方がいいんや。その方が、アイネ達も安心やろ……。こんなうちなんか、いない方が皆、幸せに――っ」


――乾いた音が響く。


 アイネの右手が振り抜かれて、あかねの左の頬が赤く染まっていた。

引っ叩かれた事にあかねは驚いている様で、そこに手を添えて呆然ぼうぜんとした顔で彼女を見上げた。


「生きる事から―――っ!!」

「え……?」

「生きる事から、逃げないでください!!!」


 眼に涙を蓄えたアイネがそこにはいた。

彼女の両肩を掴んで面と向き合ったアイネが必死に彼女に声を掛ける。


「現実から目をらさないでください!! 生きる事を諦めないでください!! 主は、主はこの世にたった一人しかいないんですよ!? 私達の大切な、家族である神代朱音は世界でただ一人、貴方だけなんですよ!!」

「ア、イネ……」

「現実を受け入れて下さい!! 生きる事から逃げないでください!! 私達は、ずっと貴方の家族でありたいんです!!」

「っ!!?」


 ガツンと殴られたような衝撃を彼女の体は感じた。

眼を大きく見開いて、真っ直ぐに自分を見返すアイネを見つめる。

溜まった涙は滴となって落ち、弾ける。アイネの姿が歪んで、まわりも同じ様にかすんだ。


「あ、ぐっ……。っ、うあ……あ…ぁ……!! うちは、うちは……生きて、っいて、えんか……?」

「はい。主、生きて下さい。皆の為にも、そして……貴方自身の為にも」

「アイネーーッ!!!」


 あかねからアイネに抱きつく。

それをしっかりと受け止めて、アイネは彼女を負けないくらい強く抱きしめる。

声を出して大泣きする彼女は暫くの間、人の温もりを感じ、その中に包まれ泣き続けた。



 泣き止んだ彼女はもう大丈夫だという事をアイネに告げて、自らの足で立ち上がる。

そこには、もう絶望に呑まれた頃の様子は消え失せており、強き意思を瞳に宿したあかねが立っていた。


「ごめんな、アイネ。皆の親のうちが見っともない姿見せて」

「いえ……。時に支え、支え合う事が我々の役目ですから。私達には、弱い主も見せて下さい。ずっと、私達は貴方を支え続けますから」

「ありがとぉな、アイネ。さて……!! こんな湿っぽい所から早う出て、創星の書の暴走を止めないとな!!」

「はいっ!!」


彼女に力強く返事を返したアイネが同様に立ち上がる。

だが、二人が暗き闇の中から脱出しようとしたその時だった。


突然、足下から黒色の帯状のものが複数伸びて彼女達に巻きついて来たのだ。


「なっ!? ぐっ!?」

「主!! くっ!?」


体を拘束され身動きが出来なくなる。

その動けなくなった彼女達の前にゆっくりと姿を見せる者がいた。


――それは……あかねと瓜二つの姿をする少女だった。


「き、さまは……!!」

「我が内で何やら不穏な動きがあると思ってみれば……。さすがは創星の管理者とでも言えばいいか? 我が内に潜り込む為にわざと取り込まれたか……」


 その口調から察するに、目の前にいる少女は創星の書の防衛プログラムだろう。

彼女をキッと睨みつけてアイネはくやしそうな表情をする。


「『ロード・オブ・ディザスター《破壊招く創星の担い手》』………っ!!!」

「管理者よ。我が内に潜り込む件は見事な策だった。だが、詰めが甘いな…。気付かれては、もう抵抗の術はない」

「くっ……」

「あんたが、お母さんが持っていた魔導書の意志なんか?」

御初おはつにお目に掛かります、我が使い手よ。我が名は『ロード・オブ・ディザスター』。災厄を撒くこの創星の書の意志です」


 主である彼女に対して、礼儀正しくお辞儀する。そして、顔を上げて再び彼女を見た。

その眼にあるのは一切の感情もない無機質なもの。

ただ自らに課せられた義務を果たそうとする事務的なものだった。


「我が使い手よ。我はもうじき目的を完遂する。貴方の目的、家族を守る為に敵対する者を全て殲滅するという願いを叶えるために……」

「創星の書!! もうそれは終いや、攻撃を止めて!!」

「それは出来ません。我は、一つの願いを叶えるまで活動は止めません。我は、使い手の命を脅かす者を全て排除します。我が使い手よ、今一度、闇のふちにて願いが成就する時をお待ち下さい」


ずずっとあかねを捉えていた拘束魔法が闇の中に沈み始める。

気付いた彼女が身動ぎ、抵抗するが、意味を成さずに身体はどんどんと沈み始める。


「止めろロード!! これ以上、主をけがすな!!」

「管理者よ。我は使い手の命を第一とする。そして、使い手の願いは何よりも我の意志に近きもの……。我が意志は使い手のそれと同じ……誰も、邪魔などさせぬ」


アイネが拘束を解こうと身動ぎをするがビクともしない。

そんな彼女に、ロードは無駄だと視線を向ける。


「創星の書は使い手の意思に従うだけ。五つの騎士は使い手の僕、我は使い手の想いを具現化する者。故に我は破壊する。この世に蔓延はびこる数多の悪意を、この災厄の力を持ってな!!」

(あっ……そうか。そうだったんか……)


 朗々(ろうろう)と語ったロードの言葉にあかねは何かに気付いたのか、沈みながらも思考する。

そして、気付いた。ロードが何故、この様に一つの願いを叶えるために行動するのかを……。


そして、気付いた。

このやり方が少しだけ間違っている事を……。


 教えなくてはならない。止めなくてはならない。

彼女にこれ以上、悪意に満ちた行動を行わせるのを……。


でも、今の自分では出来ない。

口を塞がれてしまったあかねには、もう彼女へ言葉を伝える事が出来ない。

だから、彼女は念じた。


(誰か……誰か、うちの声が聞こえるなら……助けて!! うちの、うちのもう一人の家族を助けるために……!!)


心の中で届けと願う。

もう一人の、家族を救いたい、助けたい。だから、誰か助けてと……。


そして―――


「お呼びかい、あかね?」


――――その願いは届いた。


 自分を呼びかけに応える様にして返される返事。

同時に彼女を縛っていた拘束が破壊されて、沈みゆく体を誰かが引き上げた。


「お狐、さん……?」

「やあ、あかね。一週間ぶりだね? 皆のアイドル、お狐さんだよ♪」


 自分を抱えてくれているのは、彼女達の知り合いお狐さんだった。

狐のお面越しに聞こえる聞き慣れた声に、彼がここにいるという実感を持って円らな瞳をより大きく開いて見上げる。


彼女を降ろしてから跳躍ちょうやくし、アイネを拘束する捕縛魔法を拳を握り殴って破壊する。


「貴様、我の邪魔をするか!!」


アイネを救助し、あかねの下に降ろす。そこに邪魔する不届き者に激昂げきこうするロードの放つ砲撃。彼が青い炎の壁を作り受ける。

白色の砲撃が青き壁に激突し、衝撃が周囲に拡散する。


立ち込める蒸気が薄れていくと、その向こうに青い炎の壁は未だ健在で破壊はされていない。


「我が攻撃を受けるか……獣め!!」

「いや~、強烈だね。危うく壊れる所だったよ」


消える炎の壁の向こうからお狐さんは、相手を称賛しょうさんする様に語る。

ピシッという乾いた音が顔の位置で一回響く。


「お狐さん、大丈夫なんか!?」

「ん~? 大丈夫大丈夫。怪我はしてないよ」


 心配して前に回ったあかねになんて事はないと手を振って答える。

その時、先ほどの激突で起きた衝撃が原因か、彼の被っていたお面にひびが入ったのだ。


最初に入っていた傷の部分からそれは広がり、あっという間に端から端まで伝播でんぱする。

そして、ぱきっと乾いた音と共に砕けてしまった。


「ありゃりゃ、お面が壊れちゃった。結構、気に入ってたのにな~」


 落ちたお面に残念そうな顔を向ける彼。その素顔を見てあかねはハッと息を呑んだ。

そこにいたのは、長髪の金髪を下ろした緑色の瞳をした青年が立っていたのだ。

初めて見るお狐さんの素顔に、彼女は開いた口が塞がらなかった。


「こんにちわ、あかね。今までは名乗らなかったけど、改めて名乗らせてもらうよ。俺の名は『シリウス』っていうんだ、よろしくね」


お狐さん、いやシリウスはニコッと笑って彼女へ手を差し出す。

それに彼女はおずおずと手を出して、その大きな手を握った。


「今までお狐さんって言って偽ってたけど……。今日でそれも終わり。俺もこれでお友達!」

「あ……」


笑顔と共に言われた言葉に彼女は声を漏らす。

シリウスは彼女に反対の手を出して拳を作る。


「実は、探すのに手間取って遅れたんだよね。はいこれ」


開かれると掌の上には八つの珠があり、それぞれが鮮やかな色を放っていた。

それが何なのかあかねには分かった。


 シリウスが持つ物。あかねの持つ八大属性だ。封じられた力が解放されあかねの内に戻っていく。

内に宿る膨大な力を感じ眼を閉じる。今度は大丈夫。今度こそ、負けない。


自らの力に負けた過去の自分とはお別れだ。


 あかねの身体から光が溢れ、周囲に広がり始める。

それが徐々に強さを増して、辺り一帯の闇を吹き飛ばし始めた。

その光がなんなのか分かったのかロードは狼狽ろうばいした様子で周囲を見渡し始める。


「これは……!!」

「さあ、あかね。創星の書に君の想いを伝える為に、此処から出ようか?」

「うん。創星の書、うちは……行くよ。外にいる、貴方へうちの思いを伝える為に……!!」


 輝きは失せる事なく一層強く輝き、黒色を白一色に染めていく。

それが、世界をおおい尽くして彼女達を全員、包み込んでいった。



戦いの中で成長するほのか達。

新魔法『ホーリーランス』や新フォーム『デュアルザンバー』を習得。現段階のロードと互角の勝負を繰り広げる。


囚われのあかねのを救ったのは、自らロードに取り込まれる事で助けに来たアイネ達。

お狐さんの本当の名は『シリウス』。

二人の活躍のおかげであかねは自分のするべき事を成すべく動き出す。


では、次回も宜しくお願いします。

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