第三十四話 闇に染まる創星の光
三十四話更新。
創星の光は黒き闇に染まり、破壊の力を振り撒く。
その力は、災厄と言っても過言ではなかった。
村を突如として覆い始める暗雲。
雷鳴が轟き、風が吹き荒れ暴風雨となる。
その中央に位置する地点に一人の少女が莫大な魔力を放って立っているのだ。
それが神代 朱音、いや彼女の体を乗っ取った『ロード・オブ・ディザスター《災厄招く創星の担い手》』である。
あまりにも不気味なその少女を前にして周囲にいた全ての人は困惑していた。
「な、なんだあの娘は!?」
「た、隊長!! あの者から発せられる魔力……SSクラスに匹敵してます!!」
「なんだと!? 奴め、化物か!? ええい、このまま暴れられては厄介だ。各員は攻撃を開始せよ。奴を動かすな!!!」
恐怖を覚えた隊員達が一斉に彼女に向かって魔力弾を放つ。
まるで雨の如く飛んでくる圧倒的な数の魔力弾がたった一人の少女に向かって迫った。
「……ふんっ、哀れな」
しかし、それを前にして彼女はそれを鼻で笑って一蹴した。
杖を持つ右手を前に構えると、彼女の前に古代文字の刻まれた障壁が張られた。
それに弾幕が激突。次々に爆発を起こして彼女の姿がその中に消える。
しかし、立ち込める黒煙が晴れた先には罅どころか傷一つ入っていない障壁を構えたままのあかねが立っていたのだ。
「あの弾幕を防いだ!?」
「あ、あの防御魔法は……!?」
「あたしたちインペリア式と同じ奴だ……!?」
自分達と同じ形式の魔法陣に驚きの表情を浮かべる。
SCCAの部隊の者も、自分達の総攻撃がいとも容易く防がれたのに違う意味で驚いていた。
「如何した、この程度か? ならば……今度はこちらから行こうか」
無数のひし形結晶で出来た羽が一度大きく羽ばたく。飛行魔法でゆっくりと彼女が上昇し、頭上へと飛ぶ。
そして眼下にいるSCCAの部隊を見下ろし、魔導書を開いた。
ページが自動で捲られ、本が強い輝きを放つと彼女は杖を高々と掲げ詠唱を始める。
「遍く結晶よ、剣と成りて恐怖と絶望を示せ。アハトファルブ・レーゲン《八色に煌めく雨》!!」
彼女の足下に出現する八色に染まった魔法陣。
発動すると同時に、彼女の羽から光の結晶が数十もの数で舞い散り周囲に回転しながら展開される。
それが角度によって様々な色へと変化する八色の剣へと姿を変貌させたではないか。
切っ先が地上を向いた途端、回転運動を止めて動きを止める。
そして、絶望を与える剣の雨が地上にいる部隊に降り注いだのだ。
ある者は直撃を避けようとして足を貫かれ、ある者は防御してそれごと貫通され、ある者は相殺しようとして防ぎきれずに貫かれる。
―――変化はすぐに起きた。
「な、なんだこれはっ!?」
なんと、結晶に貫かれた者たちの体がそこから急速に結晶化し始めたではないか。
悲鳴を上げその結晶化から逃れようともがく彼らだったが、それを嘲笑うかのように結晶化は進んで行く。
助けを求める様にして手を空へと向ける彼等が最後に見るのは、天空に浮かぶ、恐怖と絶望を与える堕天使の姿だった。
それを最後に、直撃を受けた彼等は全員結晶化して見るも無残な姿へと変貌してしまう。
「はははははっ!!あはははははははははははははははははっ!!!」
眼下で起きる惨状を見て愉悦の表情を浮かべて笑う少女。
暴走する彼女の攻撃は止まる事を知らず、攻撃は続く。
その内の数本がプレセア達の方にまで飛来して来たのだ。
「危ないっ!!」
ほのかが叫ぶも、あかねの豹変に呆然としていた騎士達は動けなかった。
今から飛んでも間に合わない。
しかし、その剣の軍勢を一人の人物が割って入り障壁を正面に張った。
それが、あの狐の仮面を付けた男性であったのだ。
八色に輝く剣が障壁に激突し火花を散らす。罅が入るもそれ等をなんとか耐えて防いでいた。
力尽き、粒子となって次々に消滅する剣。
しかし、最後の一本が障壁を遂に貫通。
彼の顔の脇を掠める様にして地面に突き刺さり、仮面に罅が入った。
「おい、大丈夫か!?」
自分達を守ってくれた彼に気付いてハッとなり慌てて正面に回る。
仮面に傷が入っているが取り敢えずは無事な様だ。
「いや~、やっぱ八属性の攻撃を同時に受けるのは難しいね」
などと、危うく自分も結晶化の仲間入りをするところだったのに随分と呑気な反応を見せる。
そこに更に飛んでくる一発の結晶剣を彼は飛び蹴りで弾き飛ばして着地する。
「ここは射程範囲内みたいだから、あそこにいる子達の所に行こうか?」
「あ、ああ……」
特に焦る素振りも見せない彼に戸惑いながらも彼女達は、ほのか達の場所まで移動する。
騎士達を連れてこちらへ来た彼を見て、バルドは朱音の言っていたお狐さん本人かを聞いてみる。
「お前が、あのお狐さんって奴か?」
「おや? どうして俺の名前を知ってるのかな?」
「あかねに聞いたんだよ。あんな状態になる前の、な……」
「そうなんだ~。んじゃ、自己紹介は軽くていいね? 俺の事はお狐さんと呼んでくれい!!」
「そんな事よりも、あかねは如何しちまったんだよ!! あんなの、何時ものあかねじゃねえ!!」
眼下にいるSCCAの部隊に攻撃する彼女は、何時もの優しい彼女とは全く逆の様子だった。
顔には残虐な笑みを貼り付けて、地上にいる全ての者をまるで石ころの様に蹴散らす。
「あかねちゃん、自分の事を『ロード・オブ・ディザスター』って言ってたの。でも、あれは本物のあかねちゃんじゃない」
「ほのか、どういう事?」
「よく分からないの。でも……あの時一瞬感じた魔力は、凄く……凄く寒かった」
背筋が凍りつく様な寒々しい魔力。
それはまるで底の見えない深海を覗き込む様な、先の見えない洞窟に閉じ込められた様な、そんな恐ろしい気配だった。
「では、あれはなんだと言うのだ!? 我らの主あかねではないのか!?」
「いや……。あれは、我らの主、あかねではないぞ」
その時、聞き慣れない女性の名が聞こえそちらを振り返る。
全員の視線が集まる先に立っていたのは、アイネであった。
ただ、その姿が前に見た時と違っていたのだ。
口を塞いでいた布も無くなっており、更に腕を拘束していた拘束具も外れているのだ。
彼女の出で立ちにユグドラは眼を大きく開いて驚く。
「アイネ!? お前、喋れる様に……!?」
「緊急事態により、私を封印していた魔法拘束具が解除された様だ」
「緊急事態というと、主のあの状態の事か?」
ルチアが問うと、アイネは頷いてあかねを見上げつつ答えた。
「あれは、魔導書『創星の書』に備えられた防衛システム。その暴走体だ」
「あのオーパーツの暴走!?」
「創星の書は持ち主の危機を自動で感知し、自動で防衛システムを起動させる。それが、人間が必ず持っている心の奥に巣食う悪意を開放するという危険なものだ。今の主は我々を守ろうとして、そこをプログラムが汚染したのだろう。私は、あのプログラムを見張る役目を担っていたのだけは覚えている。だから、こうして暴走と同時に拘束具も外れたのだろう」
「じゃあ、あかねは、本当のあかねはどうなってるんだ!?」
「今、表に出ているのはプログラムの本体である『ロード・オブ・ディザスター』だ。あれは、星を創る事が出来るとも言われているが、同時に世界に存在する無数の災厄を内に秘めた破壊プログラム。主は恐らく、奴の中に閉じ込められている」
魔導書が災厄を内に秘めている。
今は指定範囲殲滅魔法アハトファルブ・レーゲンによる攻撃一辺倒だが、攻撃魔法はそれだけではない。
体が馴染み始めれば、いずれは更なる殲滅魔法を行使するだろう。
「その前に、主の目を覚まさせてプログラムを鎮めねば……!!」
「けどよ、アレじゃ近づけねェぞ!? あの結晶に触れたら最後、あんな姿になるだろ!?」
サヤの言う事は尤もである。
今のあかねの発動している魔法は如何やら、結晶剣で貫いた対象を結晶化させる力を持っている様だ。
しかも、弾幕が激しいときた。
これでは、迂闊に近づこうものなら結晶の仲間入りである。
「私が、やるの!! オーバーリミッツシステムを使った砲撃を撃てば、多分相殺は出来る筈なの」
「ほのか!? 危険だよ!?」
「でも、やるしかないの!!」
「問題は、その後だな。攻撃を相殺した後、すぐに接近して叩かねえと」
「それなら……私がやる」
それに自ら志願したのはリースリットだった。
彼女が自分から申し出てくるとは思ってもいなかったバルド達は少し驚く。
そんな彼等を気にすることなく、彼女は頭上を見上げる。
表情は変わった様子が見えないが、しかし彼女は何処か悲しそうな顔をしている様に見えた。
「なら、私も行こう。ピステール、ここは挟撃という手でいってみないか?」
「ん……」
ユグドラの提案を彼女は一言で応える。作戦は決まった。後は実行するだけである。
ウィルを強く握り、頭上で暴走を続けるあかねを見ている彼女の傍らにバルドが立つ。
そのほのかとは反対側にリースリットとアウルが立つ。
「ほのか、リースリット無理はするなよ」
「バルドさん……」
「心配すんなって。面倒くせえが、全員守ってやるよ」
「うん……。信じてるの!」
「ん……」
頼りになる彼に背中を守られる。
それだけで、強い安心感と勇気が湧きあがる。
強大な力を存分に振るう暴走したプログラム体を見上げる。
強敵だが、でも自分たちなら大丈夫。
絶対にあかねちゃんを助ける!!
強い意志が彼女の力となり、桜色の魔力が身を包む。
それが一層輝いた瞬間、彼女はウィルに眠りしシステムを開放する。
「ウィル!! オーバーリミッツ!!」
「Over Limits,LevelⅠ!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
逃げ惑う魔法士達を頭上から結晶剣が降り注ぎ貫いては結晶体へと変化させる。
反撃を行う者も少なからずいたが、それは全て彼女の張っている魔法障壁を前に防がれ、一矢報いる事も出来ずに同胞と同じ末路を追う。
「雑兵風情が、抗わずに自らの死を受け入れよ」
部下が次々に消えていく様を部隊長である彼は呆然と見るしか出来なかった。
助けを求める様に隣に倒れた一人が結晶化し動かなくなる。
「残るは、貴様か……」
「う、あ……ば、化物……」
腰が抜けて地面に尻餅をつく。
怯え、思わず呟かれた言葉を聞いてニヤリと笑みを見せる。
「そうだ、我は化物だ。覚えておくがいい。我と、我が使い手に危害を加えるものは須らく破滅する事をな」
一発の八色に光る魔力弾が生み出される。
それは変化して結晶剣に変わり切っ先を部隊長の方へと向けた。そして、彼に向かって彼女は指を指し別れの言葉を告げる。
「死ね……」
弾丸の如き勢いで放たれる結晶剣。
大気を裂きながら真っ直ぐに部隊長へと飛んで行く。
「危ないっ!! ウィル、ディフェンシブ!!」
[ディフェンシブ!]
その間にほのかがギリギリ飛び込んで防御障壁を張る。
桜色の守りに結晶剣がぶつかり、結晶剣の方が砕けて爆ぜた。
助かった部隊長は、生存本能からかすぐにほうほうの体で逃げ出した。
「ほう……。まだ我に抗う者がいたか……」
「続けていくよ、ウィル!!」
[了解です、マスター!!]
防御魔法を解除して彼女はウィルを相手に向ける。
桜色の翼がサイドに生え、先端に魔法陣が展開されて中央に魔力が集束する。
「フォトン、ブレイザーーーーッ!!」
放たれる砲撃。オーバーリミッツによって更に出力の上昇した砲撃は空気を振動させながらあかねへと向かって飛んで行く。
飛来する結晶剣を次々に打ち破った砲撃は彼女の張る障壁に激突し、障壁を相殺して消えた。
「我が障壁を打ち破るか。だが、それまでのようだな……む?」
「はああっ!!」
「ふっ!!!」
咄嗟に左右に新たに障壁を張る。
直後に赤と金の閃光がそこに激突、障壁に剣による一撃を防がれる。
「ここにも、我に抗う者がいるか。そして――――」
「くっ、完全に隙を突いた筈だったのに……!!」
リースリットを一瞥してから、反対にいるユグドラを見る。
二人ともタイミングは完璧だった。
だが、それでも彼女に一撃を叩き込む事が出来なかったのだ。
「何の真似だ、ユグドラよ? 我を攻撃すると言うのであれば、貴様も対象として認定するぞ」
「主あかねの体を乗っ取るプログラムよ!! そこから出ていき、あるべき場所に帰れ!!」
「そうか。ならば、貴様も敵だ!!」
障壁に厚みが増してユグドラ達が押される。
必死に押し返そうとする二人だったが、最後に発生した魔力波を浴びて弾き飛ばされた。
リースリットの後ろにバルドが、ユグドラの後ろにお狐さんがそれぞれ回って彼女達を受け止める。
礼を言ってから今度は四人で同時に四方向から強襲を仕掛ける。
しかし、それをロードは翼を羽ばたかせて上昇する事でかわす。
「我は使い手の願いを叶えるのみ! 全てを焼き払ってくれよう!!」
魔導書が光り輝き、ページが捲られる。
彼女の足下に今度は赤色の魔法陣が展開されて、頭上遥か高くに村全体を覆う様なサイズの同じ魔法陣が出現した。
「奴め、新しい魔法を使う気か!!」
「止めるぞ、お前ら!!」
「貴様らは、我が傀儡と戯れていろ!!」
魔導書を宙に浮かべて、彼女は左手を地上に向けて翳す。
すると、地上にある魔法士達の成れの果ての結晶体が次々に形を変え始めて騎士の様な姿を形作ったではないか。
結晶の瞳が怪しく光り、その身体が動き出す。
それぞれが結晶の剣を持ち空を飛んだり、地上を駆けてほのか達に突撃して来たのだ。
「なんだコイツら!?」
「気をつけろ!! この者達は魔導書に残る、かつての古代インペリア騎士のデータを素に造られた僕だ! 奴らは当時の実力と遜色ないぞ!!」
自分に飛び掛かって来た騎士達を蹴り技で砕いて注意を促すのはアイネだった。
両手に八色に輝く魔力光を纏わせて殴って砕き、背後から来た一撃を宙返りで避けて背後に回り蹴りで胴体を粉砕する。
一部の一団が、上空にいたリースリット達にも襲いかかる。
「我等と同じ実力者か! 厄介な真似を……だがっ!!」
振り下ろされた剣を紙一重で避けた彼女が、持っていたカラドヴォルグで一閃。
横一文字に斬られた結晶騎士は崩れ落ちて地面に激突して爆ぜる。
「この私に一対一を挑むには、まだまだ足りん!!」
地上でも、ルチアとマルグリット、プレセアが結晶騎士を相手に戦っていた。
「大地の咆哮!! ガイアブレイク!!」
アシュトンが魔術を発動し、地面からエネルギーを開放する。
大量の土砂と礫が騎士達に激突して、ひび割れて砕け散る。
まだ残っているそれ等に向かって突っ込むのはサヤだ。
攻撃を姿勢を落とす事で避けて爪による一撃で相手を粉砕し、続けて上に飛んで攻撃を避けた後に上段からの踵落としで相手を砕く。
「奥義、紅刃爪……!!!」
両手を同時に振るうと、地面を抉る紅の斬撃が発生する。
地表ごと木端微塵に吹き飛ばされた結晶体の破片がキラキラと舞う。
「うええぇぇ!? プ、ププレセアちゃん、この数は無理ですよ~~!!」
「泣き言言ってねぇで腕動かせ!! あかねを助けるんだろ!!」
仲間に檄を飛ばしながら彼女はミョルニルを振るって倒して行く。
「邪魔を、すんじゃねぇーーー!!」
次々に倒していく彼女は次いで空に飛んで、上空の援護に向かう。
そこでユグドラと合流し、彼女と協力して敵を排除していった。
だが、彼女達が結晶騎士にてこずっている間にロードは次の魔法を発動する体勢に入っていた。
「来たれ、天より降りし破滅の業火、全て狂わす三角形。フラムス・メモアーレン《葬火の追悼歌》!」
魔法陣の中に三つの点が生まれる。そこにラインが奔り、綺麗な正三角形が生まれた。
それが幾つも誕生し、それぞれが回転を始める。
そして、直後にそこから火球が幾つも撃ちだされて地上に降り注いできた。
落ちてくる火球は地面に着弾し大爆発を起し、付近の民家に火を点けて燃やす。
慌てて逃げ出す者、火を消そうとする者。そんな彼等を頭上から炎が襲い爆発で呑み込む。
「燃えろ、燃えて尽き果てろ!! 貴様らが恐れて追い出した力の前に焼き尽くされるがいい。ははははははは!!!」
「貴様ーーーっ!!」
怒りを爆発させたユグドラが単身突撃する。
火球は彼女にも襲いかかって来て、それをカラドヴォルグに同じ炎を纏わせて弾き、両断しながら突っ込む。
「カラドヴォルグ、オーバーリミッツ!!」
[Je.Over Limits,LevelⅠ……]
「はああーーッ!! 紅蓮剣!!」
一気に接近して得意の斬撃を繰り出す。
正面に張られたインペリア式防御魔法に激突、激しい火花が散る。
防御壁越しに暴走体は心底疑問に思っているのか、首を傾げて彼女を見ていた。
「如何した、朱の騎士? 何をそこまで怒る?」
「この様な惨い事……許されると思うのか!!!」
「惨い? それは、地上にいる者達の事だろう?」
「なんだと……!?」
思いもよらない返答を返されてユグドラは眉を動かす。
ユグドラの一撃を耐えきれなくなった障壁が砕けると同時にロードは後方に飛んで攻撃を避ける。
逃がすまいとユグドラは後を追い、降り掛かる結晶剣を弾いて上段から振り下ろす。
杖を水平に構えて柄でそれを防御、相当力を込めている筈のユグドラとは逆に涼しい顔で受ける。
「人は、異なる者を恐れる。我が使い手は親の代わりを果たそうとして魔法を使った。我もそれに異議はなく、行使を受け入れた。だが、これはなんだ? 我が使い手は村を結果的には守ったと言うのに称賛もしなければ、労いの言葉もない」
徐々に言葉に力が篭り始めて、それに比例して彼女自身の力も増す。
拮抗していた力が傾き始めてユグドラが押し返され始めた。
「我が使い手を此処の者どもは受け入れなかった。守った事を認めなかった。我が使い手の存在を否定し、剰えその命すら奪おうとした!! 我は認めぬ、認めぬぞ!! 我が使い手は誰よりもこの村を愛し、守ろうとしたのが分からぬ石ころ共を!!!!」
「くっ……!? だとしても、主あかねがこの様な事を認める筈がない!!」
「貴様らが認めずとも、これが貴様らの主の総意なのだ。それを邪魔すると言うのなら……」
弾かれて蹴りを叩き込まれ打っ飛ばされる。落ちる彼女に向かってロードは杖を向ける。
一発の結晶剣が生み出され、切っ先が向けられる。
「一度、その身を滅ぼしてくれる。なに、心配はない。我が力をもってすれば貴様の体など再構築は容易だ。安心して殺されるがよい」
撃ちだされる結晶剣。体勢の整わぬ今の状態では受けきれない。
覚悟を決めたユグドラだったが、そこに飛来する金の閃光。
煌めく金色の刃が振るわれ、ユグドラを貫こうとしていた剣が弾かれる。
砕かれ散る破片の中に立っているのは、リースリットであった。
「む?」
「………」
「ピステールか!? すまない、助かった……!」
「ん……」
礼を言うユグドラに短い返事を返して彼女は飛ぶ。
自分に向かって肉薄してくる彼女に向かってロードは結晶剣の雨を降らす。
小さな体を活かして彼女は弾幕を避け、無理なものは弾いて進む。
そして、距離が縮んだ所で雷槍を幾つも展開し、一斉射。飛来するサンダースピアを、空中を飛んで避ける。
ある程度高度を上げて射程範囲から逃れた彼女は再びリースリットへ攻撃しようと下方にいる彼女を探す。
しかし、視界に彼女の姿はなくユグドラだけしかいないのに気付いた。
「む?」
「遅い……!!」
「っ!? 後ろか!?」
何時の間にか移動していたリースリットに驚きつつも急いで振り返る。
袈裟懸けに繰りだされる斬撃を何とか受けるが、最後まで振り抜かれて吹っ飛ばされる。
「高速移動か。小癪な真似を……っむ!?」
地上に向かって落下する勢いを止めてリースリットを睨むが、直後に自分の体を渦巻く水流の帯が幾重も巻きついて動きを封じて来た。
「ツイストカーレント、成功!! ほのか、今だよ!!」
「ありがとう、フィリスちゃん!! これで……決める!!」
下を見れば、フィリスが居り彼女が捕縛魔法をかけた様だ。そして、並ぶように立っているのはほのか。
そこには既に次射の発射態勢に入っている姿があった。
「光の一撃、貫いて!! フォトンブレイザーーーッ!!」
再び撃たれる光属性の強力な砲撃魔法。
身動きを封じられてしまっている暴走体目掛けて飛んで行き、彼女を呑み込んだ。
桜色の爆発が起き、その姿が隠される。
「やったの?」
「手応えは感じられたけど……」
煙の立ち込める空間を全員が見つめる。今ので暴走を停止させれたのか?
――そう思っていた。
「おかしい……。奴の殲滅魔法が止まっていない!! 気をつけろ、まだ奴は健在だ!!」
振り続ける火球を見て気付いたルチアが警告を促す。
煙が魔力の衝撃波で吹き飛び、中からロードの姿が露わになる。
その正面に張られている魔法障壁の色は、金色だった。
「えっ、この感じ……光属性!?」
「うそ……。さっきは火属性だった筈だよ!?」
「………フォルテ」
[はい、マスター。如何やら、あのオーパーツ……。いえ、所有者はマスターと同じでしょう。それも、マスターよりも厄介な存在です]
「無駄だ。貴様らが幾ら攻撃を撃とうが、我には届かぬ。見よ……」
防御魔法を解除してその羽を大きく広げる。
色鮮やかに輝く結晶は八色で彩られており、人を魅了する美しくもそれでいて何処か恐ろしさが備わっていた。
「ま、まさか……!?」
その羽を見ていたフィリスが気付いて顔色が悪くなる。
彼女の様子がおかしくなったのに隣にいたほのかが慌てて聞く。
「フィリスちゃん!? どうしたの!?」
「あ、あの羽から……複数の属性が感じられる。火、水、地、風……。氷に雷、それに光と闇も!!」
「気付いたか、魔法士の娘よ。そう、これこそ我が使い手の内に秘められた力!! 八つの属性を行使する特殊能力『八大元素』だ!!」
本来魔法士が持てる属性の数は一つだけ。
二つの属性を持てるには血に滲む様な努力と技術が必要で普通の魔法士では一生賭けて漸く得られる。
だが、稀に特殊能力によって二つや三つの属性を持つ魔法士も存在する。
あかねは、その特殊能力で地水火風氷雷光闇の八つの属性を持つという魔法士ではとんでもない力を秘めていたのだ。
発せられる複数の属性。それが意味するのは一人で幾人もの属性を相手にしても勝つ事が出来ると言う事だ。
だとすれば、ほのかの砲撃が防御されたのも頷ける。
光属性同士なら威力を軽減できるし、そこに更に一点に対して防御の高いインペリア式の魔法障壁を張られれば突破はほぼ不可能だ。
「我にはやらねばならぬ事がある。いま此処で貴様らを葬るのは簡単だが、後にさせてもらう」
「ま、待って!!」
「ほのか、またさっきの結晶達が来たよ!!」
ほのか達に背を向けて村の中へと向かって飛んで行った。後を追おうとした彼女達を再び結晶体が阻む。
立ち塞がれて後を追えなくなった彼女達は戦わざるおえない。
だが、そんな彼女達の前にバルドが立った。
「バルドさん?」
「ほのか、フィリス、リースリット。お前等は先に行け。ここは俺が抑える」
ケルベロスを構え闇の炎を纏わせる。
今は時間が惜しい。彼女達だけでも先に行かせるべきだ。
「ふむ、ならば元ぬしも行ってくりゃれ?」
そんな彼の前にアウルが割り込んで扇子を広げて立った。
「わっちがこの雑魚共を片付ける。元ぬしが行けば、ぬしから離れても特に心配事はない」
「……いいのか?」
「構わぬ……」
扇子で口元を隠してそう答える。扇子越しの眼は行けとしか語っていない。
そうこうしている内に敵が動き出した。
それにアウルも動き出して扇子から黒い旋風を巻き起こして結晶の騎士達を打ち払う。
「バルドさん!!」
「……分かった。行くぞお前ら!!」
「ん……」
「了解だよ、バルド!!」
アウルの作る道を四人は飛んで行って潜り抜ける。
ほのか達が抜けたのを見てフッと笑った彼女の背後に一体の騎士が剣を上段に構えて飛び掛かる。
「吹き荒ぶ風の洗礼!! ウィンドスラッシュ!!」
そこに風刃が飛んで来て騎士に直撃。
不意の攻撃を受けて怯んだ所に地上より飛んでくる一発の石。
目で追うのがやっとの速度で飛んでくる石が騎士の胸部を貫通。
穴を空ける。ギギッと動きの鈍った所を素早くアウルは閉じた扇子で殴って砕き倒す。
先ほどの攻撃を確認の為に地上を見下ろすと、そこにいたのは次の魔術を発動する準備を始めるアシュトンと手ごろな石ころを見つけて投げるモーションに入っているサヤだった。
「援護します、ア、アウルさん!!」
「テメェは気に食わねえが、今は仲間だし手伝ってやるよ」
「……ふ、余計な真似をしてくれる。だが、感謝するえ」
アシュトン達の援護を受けたアウルは敵を次々に倒す。
それに続く様にあかねの守護騎士達も周りにいる結晶騎士を倒して行く。
「プレセア、ユグドラ、アイネ!! お前達は主を追ってくれ!!」
「ルチア!? だが、しかしっ!?」
ルチアの提案にユグドラ達は戸惑う。これだけの敵の数だ。
それも、皆がかつての名のある騎士達のデータを素にされた存在。
流石に彼女達だけで捌き切れるものではない。
「いま主を止めるには人数が必要だ!! ワタシ達の事なら大丈夫だ。すぐに後を追いかける!!」
「……っ」
「早く!!」
「すまない、二人とも!! 行くぞ、プレセア、アイネ!!」
「分かった。無理はすんなよお前ら!!」
「必ず来い!! 主を悲しませぬためにも!!」
二人に後を任せてユグドラ達もあかねを追って飛んで行く。
彼女達を逃すまいと結晶達が動くも、それをルチアとマルグリットが邪魔する。
「プレセア達を追わせはしないぞ!!」
「わ、わわわたし達がお相手します!!」
彼女達を邪魔者と認識した騎士達が襲いかかる。
身構え、迎え撃とうとした彼女達だったが、突如として頭上から降り注ぐ青い炎。
炎弾となって振る弾幕が結晶体を不意を突く形で襲って爆発、炎上する。
誰の攻撃かと頭上を見上げれば、あの狐のお面を被った男性お狐さんだった。
「お、お狐さん!?」
「俺もあかねの所に行きたいから抜けるね。でも、そのまえにちょっとだけお手伝い!!」
彼が手を翳すと無数の青い炎の球が出現する。
それが狐の姿を形どり、その鋭い目を敵に向ける。
「さあ、行け!! 狐火!!」
一斉に飛び出す炎の狐。飛んでくるそれ等を回避すべく結晶体達は回避行動を取る。
しかし、それは意志を持っているかのようにその後を追い、高速で追尾し次々に体当たりして破壊する。
「さて、これくらいでいいかな? 後はこれをあげるよ」
そう言って投げて寄越してきたのは小さな球だった。
淡く青く光るそれは綺麗な水晶にも見える。
「危なくなったらそれを投げるといいよ。きっと役に立つから」
そう言い残して、彼もまた後を追って飛んで行ってしまった。
渡された水晶を見て首を傾げる。これが何の役に立つというのだろうか?
眉を曲げて思考していると、更に結晶騎士が彼女達の前に姿を見せる。
数が先よりも多い。二人だけでは厳しいだろう。
「マルグリット、これを使ってみるか?」
「な、何が起きるんでしょう?」
手の内に収められている水晶を、ルチアは放ってみる。
すると水晶から青い炎が渦巻いて出て来て、あっという間に体長五メートルはある炎の狐になったではないか。
咆哮を上げる。それには喜色の含まれたもので、宙を蹴って猛スピードで飛ぶ。
眼前にいる結晶騎士の間をすり抜ける様に駆け抜ける。
追い掛ける様にして青い炎が騎士達を呑み込み、灰塵に帰した。
「凄まじいな……」
感嘆の言葉を漏らす。危機的状況になったら使えとはこういうものだからか。
暫くは存在するのか、炎の狐は二人の傍らに従者の如く待機しており敵を見つけ次第攻撃する体勢に入っていた。
二人も己の得物を構え直し、新たに現れた結晶騎士に狐を伴って突撃を開始した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
村の上空を飛ぶあかねの体を乗っ取った魔導書の暴走体は、ある場所で停止しゆっくりと降下する。
着地した彼女の正面には複数の結晶で出来た騎士達が居り、それ等が三人の人間を囲んでいた。
ゆっくりと歩んで近づく。すると、騎士達は道を開け左右に並ぶ。
そして、彼女の正面にいる人物……この村の村長と派遣された部隊長、村で預言者とされた大ババ様がそこにいたのだ。
「我が使い手を裏切りし村の長よ。この降り頻る攻撃の中で生き延びるとは大した生存力だな?」
「こんな事をして、許されると思うのか!? ま、魔女め!!」
顔を真っ赤にして怒りを見せる村長を前に、ロードはフンッと鼻を鳴らし蔑む様に見る。
「残念だが、いまここにいるのは我が使い手ではない。幾ら言おうが知らないな」
「あぁ、恐ろしや。予言が現実となってしまった!! 恐ろしや、恐ろしや!!」
この中で一番怯えているのは、こうなる事を予言していた大ババ様だった。
彼女を見ようともせず、ただ只管に地に顔を伏せて体を震わせてるだけ。
「預言者よ。その身に余る力で未来を見たのが運の尽きだ。貴様が選択を見誤ったが故にこうなった事を理解せよ」
「な、何を言っておる!! 予言は絶対。だから変える為に……!!」
「それが間違いだと言うのだ。愚か者め」
予言は、何も未来がその通りになるという訳ではない。選択し次第では変わる事もある。
だが、大ババ様の見た未来は確かに本物となった。
そうなる運命に導いたのは他でもない――――彼らだ。
「貴様は未来を見て我が使い手が村を滅ぼすのを見たのだろう。そして、それを変える為に殺そうとした。だが、結果はどうだ? 我が使い手を貶め、追い出したが故にこうなった」
何も言えないのか、彼女は口をパクパクと水を欲する魚の様に動かすだけ。
そんな彼女を見下げ果てたかのように見下ろす。
「分からぬか? 貴様らが、恐れ迫害したからこそこの未来が実現したのだ。お前達は、お前達自身でこの結果を引き寄せたのだ。そして……」
頭上に浮かぶのは巨大な火球。それがメラメラと大気を焦がす様に燃えている。
それが何を意味するのか彼等は本能的に察した。
「貴様らは我を眠りから解放させた。感謝するぞ。お陰で、我は自由になりこうして使い手の為にこの忌々しい村とその村人を滅ぼせるのだからな」
そう言って彼女は背を向ける。
同時に結晶の騎士達が姿を変化させて檻の形となって彼等を閉じ込めた。
去ろうとする彼女に必死に延命を懇願する声が聞こえる。
「都合が悪くなれば命乞いか……。人間らしいな……」
そんな彼等にぼそりと小さく呟いてから彼女は腕を上げ、一気に下ろす。
頭上にいた火球は支えを失った様に落下を始め、檻ごと彼等を呑み込み爆発。
キノコ雲が立ち昇り、爆風で彼女の服がはためく。
遅れてほのか達が飛んで来て、彼女の前に降り立つ。
辺りで立ち昇る火が強くて息苦しい。
「もう止めて!! これ以上あかねちゃんの体で酷いことしないで!!」
「我は滅ぼす。それが我が我である事を証明する唯一の手段。我が使い手を悪しき者どもから守る絶対手段だ」
「そんなの偏見だ!! こんな事、あかねは絶対に望んでない!!」
フィリスが怒りを込めて叫ぶも、相手は一切表情を変えない。
眉一つ動かさず彼女は自分を邪魔する面々を見る。
「まあ、よい。我が使い手は家族を守る事を第一としている。それを阻むならば全て滅するのみ」
彼女の全身から膨大な魔力が溢れだす。
かつてない魔力量を肌で感じたほのか達は一様に身構え、攻撃に対して反応できる様に備えた。
しかし、相手の攻撃は正面からではなかった。攻撃はそう、彼女達の足下から突然起きたのだ。
「えっ!?」
「地面から!?」
「ちっ、お前ら退け!!」
「きゃあっ!?」
咄嗟にバルドがほのかとフィリス、リースリットを突き飛ばす。
地面から突き出たのは氷の棘だった。鋭利な先端が真っ直ぐに伸びそのまま彼の両肩と両足を貫く。
「ぐっ、あ……!?」
「バルドさん!?」
「来るなお前ら!!」
慌てて駆け寄ろうとした彼女達を怒鳴って制す。
見れば、貫かれた個所から凍り付き始めているではないか。
「こんっの……!! おらあっ!!」
痛みを堪えて力任せに棘を半ばからへし折る。
氷結は止まったが、彼の足と腕は殆どが凍ってしまっていて思わず膝をつく。
「ちくしょう、やってくれやがる……!!」
「それで満足に動けないだろう? 貴様は、この中では厄介そうなのでな少々大人しくしていてもらおう」
「バルドさんになんて事するの!!」
「許さないよ!!」
「………倒す」
仲間を傷つけられた事に対する怒りが彼女達に湧き上がる。
それを力に変えて彼女達は強大な敵に向かって突撃する。
「愚かな……。災厄の力の前に朽ちるがいい」
勇猛果敢に挑んで来る彼女達を迎え撃つ彼女は深い笑みを浮かべ、魔導書から光を溢れさせ、禍々しい気配を放っていた。
圧倒的火力を持って村を焼き払う魔導書の防衛プログラム『ロード・オブ・ディザスター』。
更にあかねが元々持っている特殊能力『八大元素』によって苦戦を強いられる。
強力な殲滅魔法を多用する彼女、ほのか達に勝算はあるのか。
それでは、次回も宜しくお願いします。




