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第三十三話 向けられる悪意

三十三話更新。


夜が明けてほのか達は再び村に戻る。

あかねを連れて戻る彼女達をそこで待っていたのは黒き悪意。

それはたった一人の幼き少女に向けられる。



翌日、ほのか達は森から村に戻って来た。

ただ、その面子めんつは一人だけ増えている。


「久しぶりの村やね……」


 麻製のフード付きのローブに身を包んでいるのはあかねであった。

フードからちょっと顔を出して懐かしい村の様子に目を細める。


「もういいか?」

「おっと、顔隠さんとバレてしまうね」


いそいそとフードを目深に被り直して顔を隠す。

今、彼女は家族を連れずにたった一人で来ているのだ。

理由としては、家族は既に顔が割れてしまっている事と麻のローブは一着しかなかったからだ。


 朝食の時間に昨夜バルドと交わした依頼を話した途端に騎士達は猛反対した。

ほのか達もその意見には賛成で最初は騎士達と同じ気持ちだった。

ただ、彼女がどうしても取りに行きたい物だと言う事を伝えられてしまいその強い気持ちを前にその意をんで了承した。


 ユグドラ達の顔は割れてしまっているし、何より彼女達は普段着を着ていても目立つ。

そこで決めたのが、あかね一人で村へとおもむいてその大事なものを取りに行くと言う事だ。

本来は、プレセアがあの時に取りに行こうとしていたのだが失敗に終わった。


だから彼女自身も行きたがっていたが、あかねは家で待つように言った。



時間は今に戻り、現在に至る。

すぐにでも彼女の自宅に向かうのかと思ったバルド達だったが、彼女はその前に寄りたい場所があると言った。


何処かと思って付いていく。

周囲にいた村人たちの視線は相変わらず冷たく、あかねに注意が向けられない様にするのに一苦労だった。


「あれ? ここって……」


 辿り着いたのはほのか達が泊まっていた宿屋だった。

そこに彼女は特に警戒する事もなくドアを開けて入ってしまった。


「へい、いらっしゃい!!……あれ?」


何時もの様に元気な挨拶をした店主は麻のローブを着た小さな客人を見て首を傾げ、次いで入口に立っていたバルド達の姿を見つける。


「ありゃ? 皆さん何処行ってたんですか? 昨日は心配しましたよ」

「すまないな。ちょいと野暮用があって戻ってこれなかった」

「そうだったんですか。…で、そちらのお客さんは?」

「懐かしいな~。この宿に来るのも……」

「え、その声は……!!!」


聞き覚えのある声を聞いてハッとする店主。

その彼にあかねは、なんとフードを取り素顔を見せたのだ。


「お久しぶりや、メッズさん」

「あかねちゃん? 本当にあかねちゃんなのかい?」

「うん、正真正銘の神代あかねや」


急に自身の正体を晒したあかねを見て驚くほのか達。

すぐに追い出されるのではないかとハラハラしていたのだが、店主の反応は全く違うものだった。


「うおーー!! あかねちゃん、久しぶり~!! 大きくなったね!!」

「おじさんは相変わらず元気一杯そうで何よりや」


 凄い嬉しそうにして彼女の傍に駆け寄る店主。

それにあかねも表情を崩して安堵あんどしている様子だ。


「二人は知り合いなのか?」

「ああ、そうだよ。あかねちゃんは俺の古くからの親友の忘れ形見さ……」

「メッズさんはうちのお父さんの親友で、うちがこの村で一人だった時によく世話をしてくれた人なんや」


思わぬ繋がりを持った人物だったのに驚いた。

この元気一杯の店主は、彼女の父親と古くからの親友で家族ぐるみで仲の良かった人だったらしい。


「でも、あかねちゃんの元気な姿が見れてホッとしたよ。そっか、この人達のお陰で戻ってこれたんだね?」

「ううん、違うんや」


 嬉しそうな顔を見せた店主に彼女は首を横に振って否定する。

そして、はかなげな笑顔を見せ店主を見上げる。


「うち、今日は忘れ物を取りに来たんや。そして、それを取ったらもうここには戻ってこないつもりや」

「え……」

「せやから、それを伝えにメッズさんに会いに来たんや」


もう二度と姿を見せる事はない。

あかねにとってこの村は大好きな場所だ。


 暖かく、優しかった村の人達。でも、その人達は自分の存在をもう認める事はないだろう。

だから、彼女は決めたのだ。大好きだからこそ、この村には今後一切近づかないと……。


人のいとなみとは時間軸のずれたあの家でひっそりと過ごしていこう。

だから、せめて『魔女』と呼ばれても親しくしてくれた父の親友にはちゃんと挨拶しよう……。


「今まで、ありがとうございました」

「あかねちゃん……」


礼儀正しく頭を下げる小さき少女。

本来なら親にまだまだ甘えている歳だと言うのにもうこんなに大人な対応を見せる。


その姿に店主は胸をえぐられる様な苦しい気持ちが溢れる。

だけど、それに何かを言う資格はない。


――――なぜなら、あの時……自分はこの子を守り切れなかったから。


別れの言葉を告げた彼女はフードを被り直してきびすを返す。

ほのか達は何も言える筈もなく、彼女が脇を通り過ぎるのを黙って見るしかなかった。


「あの子の事……頼みます。親の代わりにもなれなかった俺の代わりに……」

「……分かった」


 宿屋を後にするバルド。それにほのか達もメッズにお辞儀じぎをしてから続いた。

恐らくもうここに立ち寄る事はないと思ってまとめておいた荷物を持ってチェックアウトする。

彼女を無事に神樹の森に送り届けたら、自分達はそのまま中央都市の方へ出発する予定だ。


ほのか達はそれぞれの思いを抱えながら付いていくだけ。

何も言える事など……ない。


「着いたで。ここがうちの家や」


 小高い丘の上にある土と木材で出来た階段を上った先にあった大きな屋敷に辿り着いたほのか達。

平屋建ての大きな屋敷で大きさは村長の家に次ぐ敷地しきちを持っていた。

見たところ、壁などには落書きもなく窓ガラスも割られた形跡はない。


「皆、怖がってるんや。下手に悪戯いたずらしたらどんな厄災が起きるか分からへんから……」


この村に来てからこの方、彼女はそんな悲観的な事しか言わなくなってしまっているのにほのかは気付いた。


彼女の姿が過去の自分と重なる。

魔力があっても魔法の使えなかった時期の自分に……。


誰も自分を認めてくれなくて虐められていた当時の自分に……。

でも、暗闇しかないその世界を明るく照らしてくれる道があるのを彼女は知っている。


だから、施錠せじょうされていた鍵を開けたあかねの背中に彼女は抱きついた。


「ととっ、ほのかちゃん?」

「……大丈夫だよあかねちゃん。私達が付いてるから……」

「え……?」

「私達は絶対にあかねちゃんを否定したりしないから……。私達は、これからはずっと…ずっと友達だよ」


言われたあかねは目を見開いた形で硬直する。

ただ、その目尻にはきらりと光るしずくにじみでていた。


「あ、あれ……なんでやろ。涙出て来たで……。もう、枯れたと思ってたのに……なんでなん?」


溢れだした涙は止まる事を知らない。

頬を伝って顎先に集まってしずくとなり落ちる。


「あかねちゃんは、もう一人じゃないの。だって、私達が……友達でいるから」

「そうだよ、あかねには私達が付いている。もう、魔女なんて言わせないよ」

「僕もあかねちゃんの友達だよ。絶対に離れる事はないからね」

「あたしだってそうだぜ? あかねはもうあたしのダチ公さ。ダチ公を裏切る事は絶対にしねェよ」

「………相変わらずだなお前達は。まあ、嫌いじゃねえけどな」

「バルドさんは、どうなの?」

「……言わなくても分かるだろ?」


 そう言って彼はあかねの傍に来てその頭に手を乗せてでた。

久方ぶりに感じる頭部への温もり……。それが、彼女の涙腺るいせんを一層緩める。


「ほのかの友達なら、俺の友達でもある。仲良く行こうぜあかね」

「……うっ、ひっく……あ、っありがとう……ありがとう……っう、うあぁぁぁ……っ!!」


決壊したダムから溢れ出る様に涙が出る。

しばらくの間、彼女達はあかねが泣き止むのをジッと待っているのだった。


「…………」

「ぬしは何か言わないのかえ?」

「……私には、言う資格はないから」

「ふむ、そうか……」


ただ、リースリットは一人、胸に宿る寂しさに疑問を感じつつもそれにふたをして前の光景を感情を消した表情で見つめていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



しばらくして泣き止んだ彼女は気恥ずかしさに顔を赤くして誤魔化ごまかす様にほのか達を家の中に招き入れた。

長い間家に入っていないからか、家の中は埃やカビ臭い臭いが充満していた。


「あ~、長い間放置してたからこうなるか~」

「長居は出来そうにないな。目的の物を取ってさっさと出た方がいいな。衛生的面を考えて……」

「せやね。えっと、あれはどこやったけな~?」


家の中を物色し始めるあかね。傍から見れば泥棒である。


まあ、家主が彼女なのだから別段問題ない訳だが……。


ごそごそと箪笥たんすや引き出しをあさっているが、目的の物は見つからないのだろう。

ふぅっと小さく息を吐いた。


「う~~ん、どこにやったんやろ?」


記憶を探る様にして頭をく。

人様の家の中を勝手に漁る訳にもいかないので大人しくしているほのか達。


そんな中でバルドは辺りをキョロキョロと見回してある一つの部屋に気付いた。


「おい、あかね」

「ん? どないしたん?」

「あそこの部屋だけ、ちょっと変じゃないか?」

「へ? あそこってお父さん達の書斎しょさいやん」


 何やらドアの向こうにある部屋に違和感を感じたバルドが指を指す。

言われてその部屋を開けて入る。

すると、目の前に広がっていたのは有り得ない光景だったのだ。


「な、なんでやねん!?」

「うわ、部屋がピカピカだよ!?」


思わずツッコミが出るほどにその部屋だけ綺麗に片付いていたのだ。

ほこりどころか塵一つも見られない様な徹底して掃除された光景が広がっていた。


「ここには、自動掃除機でも置いてあるのか?」

「んな訳ないやん!? うちもビックリしてるで!?」

「す、すごいの。廊下とこの部屋の違いが一目で分かっちゃうの……」

「廊下から先の方がビフォーで、この部屋だけがアフターって感じだな」


奇妙な光景に唖然あぜんとする一同。

ただ、なにも荒らされた形跡がない確認する。


「盗っ人が入った、って訳じゃなさそうだな」

「鍵も掛かってるし、不思議だね?」


窓にはしっかりと鍵が掛かっている。

そこにバルドは手を触れる。特に弄られた様なものは感じられない。


(……ん?)


しかし、触れた時に違和感を感じた。表現しにくい感覚が鍵から感じる。


(これは、魔力か? いや違うな……。なんだこれは?)

「あったあった!!」


 思考の海に沈んでいたバルドだが、その声に引き戻される。

振り返ると、机の引き出しからアクセサリーの様な物を取り出した。


「それが、忘れ物か?」

「せや、これはお母さんが大事に持っていた物で名前は確か……『黒星の輪廻フェアルスト・ゼーレン』だったかな?」


金色の正三角形のそれを彼女は大事そうに持つ。

なんでも昔に父が母にプレゼントをしたアクセサリーの様で、神樹の森の中でこけおおわれた状態で見つかった物らしい。


「忘れ物も手に入った事だし、さっさと帰るか」

「せやね。あまり長居するとほのかちゃん達に悪いし、早く出よう」

「別に気にしなくていいよ」

「そうなの。あかねちゃん、私達は大丈夫だから」

「ダメダメ。ほこりっぽい所に長居させるのはあかん。体に悪いし、うちも大丈夫やから」


 気を遣わなくていいよと言って彼女は部屋を出ていく。それにほのか達も従って後を付いていく。

すると、先に行った筈のあかねがある部屋で立ち止まって入る。

何も置いていない簡素な部屋に一つだけ置かれている机、その引き出しを開けて中をあさり、あるものを取り出す。


ペンダントのようで、ロケット式のそれを開けると家族三人で映っている写真が収められていた。


「…………」

「あかねちゃん?」

「ん、ああ、大丈夫や。もう、うちは大丈夫……」


 まるで写真に映っている家族へ言い聞かせる様に何度も大丈夫と呟く。

そして、何時もの明るい顔に戻って最後に部屋を見渡してから―――


「ばいばい……」


そう呟いて彼女はその扉を閉めた。

後は、この村から脱出し彼女を森に送り届ければ依頼完了である。


「……止まれ、お前ら」

「ふえ?」


――――だったのだが、彼が彼女達を手で制して止める。

何があったのかと怪訝な表情を浮かべる彼女達を玄関から遠ざけて、居間へと移動させる。

そして、壁などに身を隠す様に言ってからバルドは窓からそっと外の様子をうかがっていた。


「バルドさん、どうかしたの?」

「如何やら、穏便には出させてくれなさそうだ……」

「え?」


場所をゆずり、ほのかがそこからそっと外の様子を窺う。

家の外、少し離れた場所に多数の人影が見える。


そこにいたのは見慣れた服をした者たちだった。


「特別災害対策本部の人達なの!?」

「みたいだな……。気配からして一個小隊はいる。囲まれてるな……」

「うそ……!? 特別災害対策本部がなんでこんな所に!?」


特にモンスターによる襲撃があった訳でも、天災が起きた訳でもないのに一個小隊が動くなどおかしな話である。

その時、向こうが拡声器を使ってこちらに向かって喋り始めたのだ。


「その家に住む魔女に告ぐ。村に火を放ったという罪で逮捕する。大人しく姿を見せて投降せよ!!」

「あぁ~、うちか……」


 それを聞いた途端に、あかねがスッと立ち上がった。

そこには何処かもう諦めに近い何かを浮かべている表情の少女がいた。


「繰り返す!! 魔女は速やかに家を出て投降せよ!! さもなくば、その家諸共攻撃する!!」

「きっと、大ババ様やね……。この日にうちが来る事を予測してたんやろうな……」

「預言者っつークソ野郎か!! チクショウ!!」

「ど、どどどどうするの!? このままだと、家ごと攻撃されちゃうよ!?」

「バルドさん!! あかねちゃんは、なにも悪い事はしてないの!! きっと、説明すれば分かってくれるの!!」

「向こうにその気があればな……」


恐らく、向こうはその気はないだろう。通報したのは間違いなく村の誰かだろう。

その時に、どんな虚実を話したか分からない。

場合によってSCCAはこっちの話など聞かずに問答無用で拘束に移るだろう。


「皆、いままでありがとうな」

「え? あかねちゃん?」

「どうしたの突然!?」

「うち……行くよ」


 そう言うや彼女は玄関の方へ歩き始めるではないか。

その意図を理解したほのかが慌てて彼女の肩を掴んで止めた。


「ダメだよあかねちゃん!! そんなの、絶対に駄目なの!!」

「でも、こうしないとほのかちゃんたちも危険な目にあってしまう。そないな事、うちは望んでないんや」

「プレセアちゃん達はどうするの!? 皆、帰りを待ってるんだよ!?」

「ほのかちゃんから言っといてや……。今まで一緒にいてくれてありがとうって……」

「そんなの言えないの!!」


 本当は悔しいのだろう、彼女の手は震えている。

でも、こうしないとみんなに迷惑が掛かる。それだけは、嫌だ。

だから彼女はこの選択を選んだのだ。


しかし、それはほのかも同じだ。

彼女だけが犠牲になってはい終わり、など認められる訳がない。


友達が犠牲になるなど、誰が認められようか?

何が何でも彼女を一人で外に出したくない。


その時だった。家の外がにわかに騒がしくなったのだ。


「おい、誰かいるぞ」


 窓の外を警戒していたバルドが目を細めて声を掛ける。

それにほのかとあかねは、再び居間に戻りそこから外の様子を確認した。


「あ……!!」


そして、あかねが何かに気付いた様に声を漏らす。

彼女達のいる家の前……丁度SCCAの団体がいる正面に一人の男が姿を見せたのだ。


少し高めの背に綺麗な金髪を腰近くまで下ろしている。

そして、最も目を引くのが……顔を隠す狐のお面。


「お狐さんや!!」

「あれが、か……」

「お狐さんって誰なの?」

「うちの知り合いや。いつも、うちに遊びに来てくれる人なんや」


 自分の知り合いがいるのに驚いている様で目を見開いてその姿を見つめている。

部隊長である男は突然、視界に現れたお面を被った人物に驚いた様だ。


「な、なんだ貴様は!?」

「俺かい? 名乗る程の者じゃないさ。強いて言うなら『お狐さん』とでも呼びたまえ」


 お面の奥からくぐもった声が聞こえる。

見るからに怪しいその人物にSCCAの面々は警戒心を上げて身構える。

そんな彼らなど気にもしないのか、彼は顎に手を当てて何やら独り言を始めた。


「名乗る程の者じゃない……。ちょっとひねりがないかな? やっぱ、最初はインパクトが大事かな?」


そんな事をブツブツと言って、何か思いついたのだろう。

彼は突然にテイク2--!!と言って行動を起こす。


「俺が誰だか教えてやろう!! 俺は愛と勇気と正義の味方!! 良い子の為なら、例え火の中草の中土の中、あの子のスカートの中!! 仮面戦士 お狐さんだ!!」


ビシッと華麗にポーズを決める仮面戦士(笑)。

――ただ、見ている観衆全員の反応は冷たく……若干引き気味だった。


「うわあぁぁ!? 恥ずっ!! これものスッゴイ恥ずかしい!! やって後悔するこれ!? やっぱ普通にすれば良かった~~!!」


 何やら一人でやって勝手に自滅した様子。

恥ずかしさのあまり頭を抱えて落ち込み始めた。


それに誰もツッコミを入れてくれない事も相まって、精神的ダメージが大きいのだろう。

地面にのの字を書き始めていじける。


「ぐすん、いいもんいいも~ん……。俺をなぐさめてくれるのはあの子だけだもん。あの子だけいれば俺はそれでハッピーだも~ん。今日も後でなぐさめてもらうも~ん」

「あ~~……うっ、ううんっ!! 君、そろそろそこを退いてくれないかな?」


 咳払いをして気を取り直す部隊長。例え相手が変人だろうと、普段通りに対応する。

それに彼は顔を上げ(仮面越しで分からんが)キョトンとして首を傾げる。


「え? なんでさ?」

「何故と言われてもだな……。私達は、あの家にいる者に用があるのだ」

「用って何さ?」

「あそこに魔女が住んでいるとの通報があった。なんでも、村に火を放つほどの大罪を犯す危険な人物らしい。我々はその者を捕縛ほばく、拘束に来たのだ」

「ふ~~ん、でもさ……あそこに住んでた子って俺の知り合いなんだけど? あの子が何か悪さをするとは思えないな~」

「そう見えなくとも、実際に起きた事件なのだ」

「じゃあさ、俺が後で確認を取るから今日の所は帰ってくれないかな? あの子はシャイで、こんなに大勢の人に見られると恥ずかしくて何も言えなくなるからさ?」

「その必要はない。我々が直接問い質す」

「いやいや、そんなお手数をかける事は別にいいですよ~。俺が聞きますから~」


 のらりくらりとまるで時間を稼ぐ様な喋りに、徐々に部隊長もイラつき始める。

周りは気付いていないが、彼の爪先が上がったり下がったりを繰り返している。


「今日くらい待ってよ~? こっちにだって都合があるし」

「我々にも都合がある」

「人に自分の都合を押し付けるのは良くないぞ~鏡餅三等兵?」

「私は鏡餅という名ではない!!! ノブシだ!! あと私は中尉だ!!」

「ノブシ……? あぁ~野武士ね野武士! これはこれはすみませんね野武士一般兵Aさん」

「ノ・ブ・シ・だ!! あと中尉だと言ってるだろう!!」


 徐々に怒りのパラメーターが上がり始めている様で顔が紅潮し始めている。

それを見て楽しいのかクックックとお面の男は笑い、肩を揺らす。


「さて、悪戯もここまでにしようかな。……で、お宅らはあそこにいる子を捕まえに来た訳ね」

「そうだ!! だから、そこを早く退きなさい!! さもなくば、君も公務執行妨害で逮捕するぞ!!」

「じゃあ……」


 直後にお面の彼からゾッとする気配が放たれる。

そして、地を蹴ったお面の彼は次の瞬間には中尉の前に移動して拳を構えていた。


「俺の敵って事で、オーケー?」

「なっ!?」

天狐拳てんこけんッ!!」


 素早い右ストレートが打ち出される。咄嗟とっさに防御魔法を張ってその一撃を受け止める。

威力が高いのか、叩き込まれた中尉の体が僅かに後ろに下がった。


「お狐さん!?」

「いきなり攻撃した!?」

「余計にややこしい展開にしやがったぞ、あいつ……!!」


 突然攻撃を入れた狐仮面の男性に対して驚く面々。

それは、相手側も同じ様で自分達に攻撃を仕掛けて来た彼に驚いていた。


「貴様ッ!! いきなり何を!?」

「あの子を魔女って呼ぶ奴=全員敵さ。要するに君達の事がKI・NI・I・RA・NA・I♪」

「くっ、グルだったか!! ならば話が早い、貴様も拘束する!!」

「中尉! 神樹の森方面から複数の魔力反応接近!!」

「ええい、次から次へと……!!」


部下からの報告を聞いて顔をゆがませる。

報告された通り、神樹の森から五人の騎士達が姿を見せる。


「お狐、助太刀すけだちするぞ!!」

「あかねがピンチだって報せ、知らせてくれてありがとよ!!!」

「あ、あかねちゃんは私達が守るです!!」

「ワタシ達の主は、貴様らなどに触れさせぬ!!」


 それぞれが得物を取り出してSCCAの部隊に向かって駆けだす。

彼等も武器を片手に突撃してくる騎士達を敵と認定、それぞれが魔力剣などを生み出して彼女達に挑みかかる。


「我らインペリアの騎士に一対一を挑むには……まだ早い!!」

「ぐあっ!?」


朱槍で的確に突いて相手を吹っ飛ばすのはユグドラ。

素早い槍さばきは来る敵を次々に蹴散らして行く。


「あかねは何もしてねえんだ!! それなのに、魔女呼ばわりする奴は許さねえ!!」


スコップ片手につぶてなどを飛ばして動きを封じてからそのスコップの腹で思いっきり殴り飛ばすのがプレセア。

地面に刺して岩塊を打ち上げる。それを回転してフルスイングで打ち出し、相手に叩き込む。


「あ、あかねちゃんは良い子で優しい子なのです!! それを、悪と呼ぶなら私もた、戦うです!!」


棍で相手を突いたり殴り飛ばすのがマルグリット。

まれに見る攻撃性の強い水属性は相手の意表を突いた様で、彼女を相手にする者達はたじろいていた。


「ワタシ達の主は貴様らの思っている様な者ではない!! 偽りの真実を信じると言うのなら、我々も容赦はしない!!」


スピナーを回して接近する相手を吹き飛ばして行くルチア。

その眼は怒りに燃え、彼女を敵とする者達を許さないと言外に語っていた。


「…………」

「くそっ、なんだコイツ。攻撃が当ら――ぐあっ!?」


 相手の攻撃をするりと避けて唯一拘束されていない足で蹴り飛ばすのはアイネ。

何も語らぬ彼女は目だけで相手への怒りを表しているのだろう。その蹴りには一切の容赦が感じられない。


「ええい、他にも仲間がいたか!!」

「仲間じゃなくて、家族ね。そこ間違えちゃ駄目だぞ」

「黙れ!!! こうなったら……あれを使え!!」

「はっ!!」


 狐のお面を被った彼と対峙していた部隊長が後ろにいた部下に声を掛ける。

それに素早く反応し、部隊の後方に設置されていた箱状の物体に駆け寄り、何やらキーを叩き始める。


そして、最後に赤いスイッチを押した途端に機械的な音がなり始める。

箱状の物体が展開され、中より結晶の花が出て来た。


光の屈折で鮮やかな色を放つそれが、一層強い光を放った瞬間。

辺り一帯の空気が重くなり、強烈な重力場が発生したのだ。


「ぐあっ!?」

「ぐっ!?」

「あうっ!?」

「な、何が……あぐっ!?」

「ぐえっ!?」


それの影響を受けたのはユグドラ達騎士五人とお狐さんだけだった。

地面より来る強力な荷重に動けなくなり、その場で膝をついた。


「な、なん…だ……これ、はっ!?」

「『グラビトンフラワー』という重力を生み出す花だ。主に暴動鎮圧などに使われる、我らがタスクフォースの第三部隊ナール隊長が開発した物だ」

「このっ、やろぉ……っ!!」

「動けまい。通常の重力よりも倍近い荷重をかけられては幾ら魔女の生み出した存在でも体の自由は利かないだろうな?」

「あかねを……魔女って、言うんじゃねえ……!!」


 必死に立ち上がろうとしたプレセア達だが、その背中を蹴られうつ伏せに倒れされる。

まるで地面にい付けられたかのように自由の利かない体に歯を食いしばる。



「やめてえぇぇぇ!! うちの家族をいじめないで!!!」


 その時だった。あかねが家を飛び出してプレセア達へと駆けて来たのだ。

このままだと家族やお狐さんが捕まってしまう。そう思っての反射的な行動だったのだろう。


しかし、プレセア達に届く前に重力場の効果範囲に入って彼女もまた地面に倒されてしまった。


「貴様が、魔女だな?」

「隊長、この者の持っている本から膨大な魔力反応があります。恐らく、オーパーツかと……」

「成程な。この力で村を焼いたという訳か。おい、コイツから本を回収しろ」

「はっ!!」


 危険な本と判断された創星の書に隊員の手が掛かる。

それを取られまいと、彼女はギュッとそれを抱きしめて抵抗する。


「その本を渡せ!!」

「いやや!! この本は、お母さんから渡された大事な本なんや!! 絶対に渡さへん!!」

「止めろ、テメー!! あかねに触んじゃねえ!!」

「お前達は黙ってろ!! 犯罪者の手下め!」

「ぐっ!?」

「プレセア!?」


 叫んだプレセアを誰かが蹴る。それがあかねの目に入り、彼女は目を大きく見開いた。

家族が危ないというのに、己の身を守るどころか家族すら守れない。


(皆が、皆がこんな酷い目にあってるのに……どうすればいいんや)

――ならば、全てを壊せばよい――

「え……?」



 その時、彼女の脳裏に声が聞こえた。

全ての時が止まり、彼女だけが時が進んでいるのか動ける。


辺りが何時の間にか夜になった様に真っ暗な、いやどす黒い闇におおわれる。


――家族を守りたいのだろう? ならば、壊せばいい。それを邪魔する者ども全てをな――

(全て……壊す?)

――そうだ、全てだ。敵対するものは破壊し、滅ぼし、消滅させればいい。その力を貴方は持っている。破壊の力をもってすれば、あらゆる願いは叶えられる――

(そうすれば、うちは皆を守れるんか……?)

――そうだ。守れる、永遠とわに一緒に居られる。さあ、我に身をゆだねよ。さすれば、貴方は厄災の力を持って全ての悪から家族を守れるだろう――


家族を守れる。ずっと一緒に居られる。甘美かんびなる誘いは彼女の心を闇へと染めていく。

目の前にいあるどす黒い意志に、あかねは……手を伸ばしたのだ。



あかねが家を飛び出したのを慌ててほのか達も追って家を出た。


「バルドさん!!」

「先ずはあの花を壊す!! お前等はそこで待ってろ!!」


 地を蹴って空高く飛ぶバルド。グラビトンフラワーは重力を作る危険な花だが、弱点がある。

それは、100メートル以上の高度は重力場が発生しない事だ。

その高度よりも高く飛んだバルドは花の真上を取る。


そして、闇の炎をケルベロスに宿して全力で振るう。

闇の炎は火球へと変化して直径五メートルはいく巨大なものになる。


真っすぐに落ちる火球は途中で、花が自ら発生させている重力の力も受けて勢いを増し木端微塵こっぱみじんに装置ごと花を消し飛ばした。

重力場の力が消えた事を確認し、ほのか達があかねを助けるために動き出す。


「あかねちゃんから、離れて!!!」

「ちっ、まだ仲間がいたのか!!」

「――――せよ」

「ん?」

「滅せよ……」


ほのか達を見て舌打ちする隊員。突撃してくる彼女達を迎え撃とうと武器を手にする。

 しかし、その時だ。地面に倒れ伏している少女から小さく呟かれる言葉に、再び見下ろす。

直後、彼の視界をおおったのは紅蓮の炎。全てを焼き尽くす灼熱の炎だった。


「ぐ、ぐあああああああああっ!?」

「なっ!?」

「創星の書起動……。防衛プログラムを発動……『Ich alles zerstoren《我は全てを破壊する》』」


炎に焼かれてのた打ち回る隊員は、そのまま消し炭となって骨も残さず燃え尽きる。

それを余所に彼女がゆらりと立ち上がる。ほのか達は止まって彼女の異常に気付いた。


彼女の身から溢れているのは尋常じんじょうではない魔力。

淡く光り始めた魔導書を片手にそこには何時もとは違う雰囲気をかもし出しているあかねが立っていた。

自分達を遥かに超える魔力を彼女は放っていたのだ。


「あかね、ちゃん……?」

「あかね……? 違うな、我が名は『災厄を招く創星の担い手(ロード・オブ・ディザスター)』……。全てを破壊する王だ!!」


 魔導書が強い輝きを放つ。彼女の体に赤黒い魔力がい、その身体中に古代文字が刻まれる。

その身にまとっていた服が消え、新たに黒き闇の服が身に着けられる。


そして、正三角形のあのアクセサリーが光り輝いた。

杖となり、先端には中心の空いた円に十字が入ったものが付く。


 それを手に取った彼女の背に、八色に輝く結晶の翼が生えたのだ。

その背後に、黒き巫女が恐るべき笑みを浮かべた紋章が姿を見せた。


「さあ、見せてやろう。全てを破壊し作り直す、創星の力を!!」


黒き笑みを浮かべたあかね。

いや、彼女の体を乗っ取った人物が狂気の笑みを浮かべるのだった。



悪意の中で目覚める魔導書。

悪意を払う為に、黒き意思は主を深い闇へと誘う。

あかねの体を乗っ取り、向けられる悪意に対してその恐るべき力を解放する。


それでは、次回も宜しくお願いします。

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