第三十二話 古の騎士と幼き主(まじょ)
三十二話更新。
騎士達を止めた者、それはほのかと同じ年頃の少女だった。
彼女は一体何者なのか、そして騎士達との関係は何なのか?
では、本編をどうぞ。
「いや~、ごめんな。うちの子達が迷惑をかけてしもうて申し訳ない」
小鳥が囀る木漏れ日の当る場所にその家はあった。
その家は近くに綺麗な小川が流れており魚が泳いで、木には果実が実っていた。
神樹の森の奥、神樹と呼ばれる大樹の直ぐ脇に建っている一軒家にほのか達は招かれていた。
そこの家主は栗色の髪をショートカットにした少女。
独特な言葉遣いで喋るがそれが何処か合っている様にも思える。
簡素な室内にあるのは大きなテーブル一つと複数の椅子。
台所と一体になっていて、他はそれぞれの部屋と風呂やトイレだけのシンプルな佇まいだった。
居間に当るその場所にあるテーブルを挟んで一同は座っていて向かいに少女が座った。
「改めて自己紹介するで。うちは、あかね。神代 朱音や」
「え、えっとほのかです。皐月ほのか」
「フィリス・アルトレーネです」
「あ~、別に敬語じゃなくてもええで。同い年っぽいし、うちは全然大丈夫やから」
軽く手を振って答えるあかね。
特に気を遣ってという感じでなく、ごく普通に接してほしいからだと続ける。
「じゃあ……あかねちゃんって呼んでもいい?」
「ええで。うちも皆の事は普通に呼ぶから」
ニコッと微笑むあかね。取り敢えずあかね自身は全く警戒はしていない様子。
それに緊張を解いて肩の力を抜くほのか達。早速、話はユグドラ達について移る。
「ホンマにごめんな。うちの子達が迷惑かけてしもうて。余所の人に手ぇ上げたらあかんって口を酸っぱくして言うとんのやけど」
「も、申し訳ありませんでした主あかね……」
「この子達も反省しとる訳やし、許したってぇな?」
先ほど、小一時間ほどこっ酷く叱られたからだろうか。ユグドラ達はしゅんとしている様子。
背丈からしてみれば、あかねの方が妹の様な立ち位置に見えるのに何とも不思議な光景だった。
「まあ、お相子って事でいいんじゃねえか」
「ありがとぉな。あっ、そうや。お客さんにお茶ださへんと…!!」
思いたった彼女が椅子から立ち上がって台所の方へと向かう。
その彼女を追う様に拘束具を付けている銀髪の女性も立って付いていってしまった。
すると、さっきまで穏やかだった空気が一気に張りつめる。
発信源は言わずもがな、前にいる騎士達だ。
皆、一様に口を閉ざしているものの警戒心は頂点まで行っているのかこちらを警戒している。
(うぅ~…。な、なんか居ずらいの……)
(す、すごい睨まれてるよ私達……)
(………………)
(き、霧島さん!! ガン飛ばしたらもっとダメだって!?)
(ぬしよ、ここはゆっくりとお茶でも飲んでくつろいでおればよい)
(………お茶、ないよ?)
それぞれがそれぞれの反応を見せる。徐々にだが険悪な空気が漂い始める。
っと、丁度その時に台所に引っ込んでいたあかねが戻ってきた。
すると、騎士達はさっきまで出していた空気を霧散させて何事もなかった様に振る舞う。
そんな事を知らないあかねはお茶を配った後に家族の紹介を始める。
「うちの家族を紹介するで、こっちにいる子がプレセアや」
「………ふんっ」
紹介された本人は腕を組んでツンとそっぽを向いた。
それにあかねは苦笑する。
「……ちょっとツンデレさんやけどよろしく頼むで」
「ア、アタシはツンデレじゃねえ///!!」
「次に隣にいるのがユグドラや。この子達のリーダーでお姉さん的な存在で頼りになる人なんや」
「『朱の騎士』ユグドラだ。先ほどは、すまなかったな。主を守ろうと思って考えを右傾化させ過ぎた」
朱髪の綺麗な女性、ユグドラはそう言って頭を下げる。この中では先ほど放っていた敵意が最も薄かった人物だ。
ただ、それがどういった考えの下での行動なのかは分からない為、寧ろ彼女が一番警戒心が強いのかもしれない。
落ち着いた物腰で、更に容姿も整っている。十人中九人は振り返るだろう美人(残る一人は偏った性癖の持ち主かソッチ系の人だと思う)で口調も丁寧な事から非の打ちどころがない様に見える。
「ただ、ちょっと考えが固くてな。家族の中だと一番、首を縦に振ってくれへん。まあ、そこが可愛いんやけどね」
「あ、主あかね!? よ、余計な事は言わないでください!!」
言われた途端に顔を赤くして初な反応を見せた。
如何やらあまり可愛いなどと言われる事に耐性がない様だ。
「そんで、反対にいる二人がルチアとマルグリットや」
「『烈風の騎士』ルチアだ。少年、先ほどはすまなかったな。もう怪我は大丈夫か?」
「あ、は、はい。フィリスやえ~っと、マルグリットさんのお陰で何とか……」
あかねが登場して叱られた後、負傷したアシュトンをフィリスと、同じ水属性のマルグリットが治癒魔法を掛けてくれた。お陰で、今はちょっと体が軋む程度で済んでいる。
それを聞いて安心したのかフッと彼女は表情を崩した。
その表情を見てどきりとするアシュトン。
「…………」
「いっ……!?!?」
直後に足に鈍痛が奔る。
出かけた声をギリギリで呑み込む。激痛が脳に強烈な電気信号となって送られ額から脂汗が出る。
見ずとも分かる、隣にいるサヤがアシュトンの足を踵で踏んづけているのだ。
「デレデレすんなバカが……」
「ゴ、ゴゴゴメン……!!」
小さく囁かれた言葉に同じく周りに聞こえない程度に声を落として返事する。
それで漸く彼の足は鬼の踏みつけから解放され、生の実感を感じる。
「えっと……マルグリットさん、ありが―「ひえっ!?」――え?」
お礼の言葉をかけようとした途端に、マルグリットは椅子から素早く降りて隣にいたルチアの背後に隠れてしまった。
カタカタと肩を震わせてこちらを覗き込む姿は小動物さながらである。
「『波濤の騎士』マ、マママルグリットです……」
「……っとまあ、マルグリットは極度の人見知りでな。許したってや」
「う、うん……」
マルグリットの様子を見て苦笑するあかねが補足で説明をして、彼はぎこちないながらも頷いて納得する。
「ほんで、最後はこの子や。名前は『アイネ』って言うんや宜しく頼むで」
「コクコク……」
「おい、そいつは……」
アイネと呼ばれた銀髪の女性を見て、バルドが怪訝な表情を見せる。
彼の言わんとしている事が分かるのだろう。あかねもまた神妙に頷いた。
「この子は最初からこうだったんや。どうにかしたいんやけど、うちには出来へんのや」
「コクコク」
腕どころか口も動かせないから本来の名も告げられない。
だから、あかねは彼女へ自分の名前である『あかね』から真ん中の文字を一つ変えた『アイネ』という名前を付けたのだ。
「ご飯とかは、どうしてるの?」
「なんか大丈夫って頷かれたんや……」
「コクコク」
どうやってエネルギー源を確保してるのかは全くの謎である。
まあ、それはさておき……。
その後にほのか達が順々に自己紹介を行い、互いの名が分かった所で話は本題へと移る。
「さて、互いの名も知れた事だし単刀直入に聞くぞ?」
「うん?」
「お前は、村で言われている『魔女』か?」
「バルドさん!?」
向こうにしては禁句ともいえる言葉を平然とした様子で言った。
案の定、騎士達はその言葉に反応して静かなる敵意をこちらに放って来た。
「貴様……!! 主に向かって――「うん、そうや」って、主!?」
「うちが、魔女や」
弱々しくこちらを見て笑う。それにほのか達は胸が締め付けられる様に痛くなる。
彼女の表情には何処か諦めた様な様子が見え隠れしていた。
「訳は……教えてくれるか?」
「………ちょっと昔の話や」
顔を俯いて持っていた茶碗に満たされた、茶の水面に映る自分の顔を見ながら彼女はポツポツと話し始めた。
…………………………
……………………
………………
…………
……
今から数年前、というがそこまで昔ではない頃だ。あかねは星霊村で両親と共に平穏に暮らしていた。
村の人達も今とは違って優しく、彼女もそんな村の人達が大好きだった。
両親は村の守り手として優秀な魔法士だった。
父も母も村人の事が大好きだったし、彼等も両親の事を慕っていた。
このままずっとこの生活が続くのだろうと思っていた。
――――そう、あの日が来るまでは……………。
ある日、天気のいい昼下がりに両親を訪ねて数人の研究員らしき者達がやって来た。
重要な話らしく、当時のあかねにはよく分からない話だった。
覚えているとすれば、“今後の魔法士の発展の為にも協力を要請したい”とか言っていた。
両親は少し考えていたが、しばらくして承諾し明後日、身支度を整えた。
娘一人を残して行くのは不安だった両親はあかねも連れて中央都市へと出発する。
初めて見る広い世界に当時の自分は大はしゃぎだった。
都市に着いてからは研究所に行って両親は何やら仕事に没頭していた。
何をしてるのか分からなかったが、きっと多くの人達を守る為に必要な事なんだろうと思って応援していた。
だけど、それとは違って胸の内には一抹の不安も抱えていた。
思えば、この時に両親を説得して村に帰っていればよかったのかもしれない。
ある日、両親が特別に研究所の中を見学させてくれた時があった。
その日は最高責任者が不在だった為、研究はストップしているから危険がないと思っての判断だったのだろう。
初めて見る施設に驚いて見渡していた。
その時だった。
急に施設内が騒がしくなったのは……。
誰かが、勝手に研究を進めようとして実験機を動かそうとしたのだ。
気付いた者達が慌てて制止を掛けるも、その者は起動させてしまう。
始めは特に問題もなく正常に動いていた。
誰もが問題が起きなくてホッと胸を撫で下ろした。
しかし、それも束の間だった。
実験機は突如として幾つものエラーコードを発動。
施設内に警報音が鳴り響いた。そして、次の瞬間に施設を覆う激しい閃光。
実験機の暴走……。
制御の利かなくなった実験機はそれを装着していた者から魔力を吸い取り、当り構わず攻撃を始める。
「あかね!! 逃げなさい!!」
「いやや、お母さん!!」
いやいやと首を振って拒否する彼女を母は肩を強く掴んで強い意志の篭った瞳で見つめる。
そして、自身の持っていた魔導書を彼女へと渡して強く握らせる。
「いい、あかね? この本だけは絶対に手放してはダメよ。これは、貴方の将来を決める大事なもの。決して、決して離してはダメよ!!」
父の呼ぶ声に母があかねから離れて行く。
手を伸ばす彼女だが、近くで起きた爆発による閃光で気を失ってしまい、そこから先で何が起きたのかは分からない。
ただ、気がついた時には――――――
―――――両親は行方不明になっていた。
骸も見つからずに公式に死亡扱いにされ、泣いて泣いて泣き続けた。
一人、村へと送られた自分。始めは村人たちはその悲しみを分かち合ってくれた。
家族がいない寂しさをそれで紛らわせていた。
けど……それもまた崩れ去る事になった。
村にモンスターが姿を見せたのだ。
村の人達も応戦はした。けど、実戦経験も何もない。
全てがあかねの両親頼みだった彼等に対抗できる筈もなかった。
このままだと大切な人達が危ない。
そう思った彼女は母が戦闘時に魔導書を開いて戦っていたのを思い出し、受け取った魔導書を開く事にした。
見た事もない文字が綴られたそれを、何故か読む事が出来た。
それを紡いだ途端に、空から炎が降り注ぐ。制御の利かない魔法は、敵味方見境なく落ちた。
火球はモンスターを焼き、村の家々をも焼いた。
後に残ったのは村の三分の一に当る範囲で炭となった家や焼け焦げた地面だけだった。
それを境に村の人達は徐々に距離を取り始めた。
最終的に村の預言者の大ババ様に『魔女』呼ばわりされ、石を投げられた事もあった。
辛かったけど彼女は耐える事にした。
何時か、皆元に戻ってくれる日が来ると信じて……。
――――だけど、それは来る事はなかった。
ある日の晩に彼女は脳内に響く声で目を覚ました。
――逃げろ! その家から急いで逃げるんだ!!――
誰とも知らない男の声。警告に疑問を感じながらも彼女は窓の外を見た。
見えたのは無数の松明。その明かりの下に見えたのは武器を持った男衆。
命の危険を感じた彼女は慌てて家から飛び出して森の中へと逃げた。
その後を気付いたのか村の人達が追いかけてくる。
暗い森の中、道標はなく。足を何度ももつれさせた。その時、自分の前に現れた青い蝶。
暗い闇の中でもハッキリと見えるその蝶は自分を導く様に飛ぶ。
それに従って駆けて、必死に逃げに逃げ……。
辿り着いたのは墓標が居並ぶ場所、村の間では『冥園の墓地』と呼ばれる場所だった。
古の英霊たちが眠ると言う場所、そこで蝶は姿を消してしまい、村人にも追い付かれた。
囲まれて刃物を向け殺気立つ彼等に怯える。
もうダメだと諦めかけたその時、持っていた魔導書が光を放つ。
それに周囲にあった墓標が反応する様に点滅して地面から抜けて浮き上がる。
眩い閃光を放ったと思ったら、その中より彼女達は現れた……。
「ネクロノミコン『創星の書』の起動を確認……。我らはインペリア人にして創星の守護騎士。これより主を守護する刃と盾となる」
それが、ユグドラ達だった。
彼女達は村の人達を敵と認識して瞬く間に蹴散らす。
彼女達の戦いを後ろで見守るしか出来なかった彼女はこの時思った。
ああ、もう二度とあの時には戻る事が出来ない、と……。
…………………………
……………………
………………
…………
……
「せやからうちは決めたんや。あの村にはもう居られない。だから、家にある必要最低限の物だけを持ってお母さん達がよく憩いの場所として住んでいたこの家にそれからは住んでいるんや」
ふぅ~っと長い話を終えた彼女はお茶を飲んで喉を潤す。
ジッと聞いていたほのかとフィリスはその壮絶な過去の話を聞いて涙を浮かべていた。
自分と同じ歳だろう彼女は自分達が想像もしない様な過酷な人生を歩んでいた。
滲む涙を何度も拭うほのか。
その時、ガタッと音を立ててサヤが立ち上がった。
「あんのクソ野郎どもめ……!!」
「ちょ、ちょっと霧島さん!? 何処に行く気なの!?」
家から出ようとする彼女をアシュトンが慌てて止める。
それに彼女は振り返って答えた。
「決まってんだろ! あの村の連中を一発殴って来る!!」
「そんなのダメだよ!? 余計に心象が悪くなるよ!?」
「んなの関係あるか!! あたしは、曲がった事がキライなんだ。魔女って呼ばれてた奴はどう見たって普通の女子じゃねえか!! それを寄ってたかって……一瞬でも信じちまったあたしも大馬鹿野郎だ!!」
村人だけではない。一番怒りを覚えているのは自分自身の様だ。
だが、それはこの場にいる全員の思う所である。
「やめて! 村の人には手は出さんといて!!」
「なんでだよ!? こんな話聞いて、黙っていられるかよ!」
「もう、嫌なんや。誰かが誰かの所為で不幸になるのは……」
その言葉には歳に不釣り合いな重みが篭っていた。
当事者である彼女に止められて、サヤは怒りで震える拳をゆっくりと解いて再び椅子に座った。
「………全員落ち着いたか?」
「テメェは、何落ち着いてんだよ。こんな話を聞いてムカつかねえのか!?」
ただ一人、バルドは何時もの表情を崩さないで平気な顔をしている。
それがサヤには気にくわないのだろう、睨んで怒鳴る。
「怒りを辺りにぶちまける事は誰でもできる。けどな、ぶつける相手を間違えるな。肝心なのは、それを知ってどう思ってこれからを如何したいのかだ。感情に任せて暴れるのは唯の獣だ。獣になりたくないなら理性を持って考えるんだな」
全員に言い聞かせるように語るその言葉にほのか達は静かに耳を傾ける。
言いたい事を言い終えたのか、バルドはあかねの話で気になっていた事を聞いた。
「脳裏に聞こえた声ってのは誰だか分かるのか?」
「ん~……。それがうちにも分からへんのや。それにうちが一人でいると時に話しかけて来るんやけど、面白い事を言ったりして楽しませてくれるから気にはしてへん。なんか、知り合いの声に似てる気がするんやけどね……?」
「そうか。んで、母親から貰った本ってのがそれか?」
彼の視線の先、テーブルの上に置かれている厚めの本がある。
彼女は頷いて是を示し、それを大事そうに胸に抱く。
「せや、これがうちの大事な本。名前はネクロノミコン『創星の書』や」
「『創星の書』だって!?」
それを聞いて驚きの声を上げて立ち上がったのはフィリスだった。
信じられないものを見る様な目で本を見ていた。
「フィリスちゃん、どうしたの?」
「ネクロノミコン『創星の書』……。『オーパーツ』として認定されている古代遺産の一つだよ」
オーパーツとは、古代遺産を総称する名である。
先人達が作り出した超高度な技術の結晶で生み出された危険な物で、今では現代の人の手に余る力を秘めた謎の遺産の事を言う。
誰が何のために生み出し、何を目的として誕生したのか……殆どのオーパーツはその目的、用途、誕生理由などが不明だという。
その中の一つとして認定されているのが目の前にあるネクロノミコン『創星の書』である。
能力は不明とされているが、本を開けば厄災をばら撒くといわれる呪われた魔導書と言われている。
「へぇ~、この本ってそう呼ばれてるんや?」
「どうしてそれをあかねが持ってるの?」
「うちはお母さんから貰ったんや。せやから、よく分からへん」
残念ながら経緯は分からない様だ。
そして、そこに書かれている文字を読めるのも自分と母だけ。
「ただ、うちはこの本があったお陰でユグドラ達に会えたんや」
両親を失い孤独となった自分に暖かな人の温もりを与えてくれた。
それだけでも、この本には感謝したい。新たな家族を見渡し、騎士達もそれに応える様に頷く。
「もう一つ聞いてもいいか? お前の家族は何者なんだ?」
最大の疑問、ユグドラ達の正体だ。
明らかにこの時代の人とは違う雰囲気に身に纏うマジックアーマーも独特なものだった。
その質問にはユグドラが代表して答えてくれた。
「我々は古代インペリア人。古より武を誇りとして来た者達だ」
「インペリア人!?」
それにほのか達は驚いて唖然とした表情を見せた。
無理もないだろう。なんせ、その名は御伽噺で出て来る人物達だ。
それが、目の前にいる。
「古代インペリア人って、お話の中の存在じゃなかったんだ……」
「ほ、本物なの?」
「ああ、そうだ」
即答で返される。そうきっぱりと言われては信じざるおえない。
彼女達はあかねの持つ創星の書を守る守護騎士として選ばれた戦士らしく、覚醒と同時に目覚める設定をされていたという。
その身は主から供給される魔力で保たれており、主が寿命などで死なない限りは半永久的に生きる事が出来るらしい。
つまり、彼女達はあかねと運命共同体。生きるも死ぬも一緒なのだ。
「バルドさん達はこれからどうするんや?」
「そうだな……。日も暮れて来た事だし、今日は此処で休むつもりだ」
「それなら、部屋の用意をせぇへんと」
「ああ、心配すんな。野宿するから平気だ」
「あかんあかん! 客人を外で寝かせるなんて神代家の名折れや。奥に大広間があるからそこを使ってぇな」
「あっ、あかね。アタシも手伝うぜ!!」
「ありがとうな、プレセア」
待っててな、と言って奥へと引っ込む。
その後をプレセアがトコトコと付いていって姿を消した。
残された面々は暫し無言でいたが、徐にユグドラが口を開いた。
「主あかねの事を、これからも魔女と呼ぶのか?」
「そ、そんなことしないの!!」
「うん。私達はもうそんな風には呼ばないよ。だって、それっていま思えば差別だもん」
「……ん」
「ふむ、正体が一人の普通の女子と分かれば話は早い。わっちに異存はない」
「そうか。ありがとう……」
安心したのか固くなっていた表情が崩れ、柔らかな笑みを見せた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜が訪れて満天の星空が広がる。
既に家の明かりは消えて各々が就寝した頃、一人の少女が玄関からそっと出て来た。
見上げた空には宝石が散りばめられた様に星が煌めいていて、月明かりもあって大分明るく見える。
そんな中で少女、リースリットは首にかけられているひし形の宝石を見下ろす。
「ねえ、フォルテ……」
「……何でしょうか?」
「私は、いま……強くなれてるの?」
「……マスターは以前より強くなれてますよ」
「……あの人と比べて?」
その問いには答えられずに無言で返答するフォルテ。
それが意味するのは否という答えだ。
まだ、足りない。もっと、もっと強くならないといけない。だけど、如何すればいいのか分からない。
恐らく、もう個人で経験を積んでも大したレベルアップには繋がらないだろう。
いや、それは語弊か。今の自分の知識ではこれが限界なのだ。
もっと先があるのに、その先が真っ暗で何も見えていない。
手を伸ばしても届かない。そんな位置に立っているのだ。
「あれ? そこにいるのは、リースリットちゃんか?」
そんな声が聞こえて彼女は振り返る。
すると、そこには家主であるあかねが寝間着姿で立っていた。
「こんな夜遅くに起きてどないしたん?」
「……貴方こそ、まだ起きてたの?」
「あはは、ちょっと眠れへんかったから星空を見てこようと思ってね」
隣に来て膝を折って座る。それを見たリースリットも倣う様に座る。
「リースリットちゃんにお願いがあるんやけど、ええかな?」
「………なに?」
座ってすぐにあかねがお願いをしてくる。お願いとはなんだろうか?
首を傾げてキョトンとした表情を見せる。
「うちと、友達になってくれへんか?」
「……え?」
言われた言葉に彼女はちょっと驚いた様な顔になる。
なんで?という疑問を浮かべた彼女に、あかねは気恥ずかしそうにして答えた。
「実は、うち……。友達がいないんや。理由は言わなくても分かるやろうけど……」
魔女と呼ばれ始めたのは今よりも幼い歳の時だ。
周りの大人からそう呼ばれて、周囲の子たちも寄りつかなくなった。
だから、友達という存在が彼女には一人もいなかったのだ。
しかし、今日、彼女に友達が出来たのだ。
「けど……ほのかちゃんもフィリスちゃんも、アシュトン君、サヤちゃんはうちの友達になってくれるって言ってくれたんや」
友達になってほしいと言ったあかねに彼女達は快く頷いてくれた。
一気に四人も友達が出来て嬉しかった。胸の高鳴りが収まらなかった。
けど、それと同じくして眠ったら今日の出来事が夢で終わるかもしれないという不安もあるかもしれない。だから、今日は眠れなかったのだと思う。
「せやから、リースリットちゃんもうちの友達になってほしいなって思ったんやけど……ダメかな?」
「…………」
彼女の顔を覗き込む様に聞く。
それに彼女は顔を俯かせて表情を隠し、考え込み始めた。
暫しの間、静寂が訪れ風が彼女達の間を吹き抜ける。
「……それは、無理……」
返って来たのは否という返事だった。
「そか……。なんでなん?」
「答えられない……。でも、今の私にはなれない……」
首を振って返答を断る。
頑なに言われてしまってはあかねも無理と思ったのだろう素直に引き下がる事にした。
そっか……と残念そうに呟いてリースリットから視線を外して空を見上げる。
静かに自然の音を視聴していた時だった。
何処からともなく風に乗って不思議な音色が聞こえて来たのだ。
それに二人は怪訝な顔をして互いを見てから音の正体を探りに歩きだした。
その正体はすぐに分かった。
茂みの中から出た先に川辺で一人の男性が座っていた。
「バルドさんやないか?」
「ん? なんだ、お前らまだ起きてたのか」
「バルドさんこそ、なにしてるん?」
傍まで来てその手にある物を覗き込む。
彼の手にあるのは、何の変哲もないこの周辺に生えている木の葉だった。
「葉っぱ?」
「草笛って知ってるか? 草の葉っぱとかで作った笛なんだけどな。こうして葉っぱ一枚でも楽器にはなるのさ」
試しに口に当てて息を吐く。
すると、葉が振動しなんとも綺麗な音が奏でられたのだ。
「バルドさんすごいやん。うち、そんな事出来へんよ?」
「まあ、慣れだよ慣れ。暇な時にやってたら何時の間にか出来る程度の芸さ」
「でも、うちは素敵やと思うな。リースリットちゃんもそう思うやろ?」
「………うん。綺麗な音だった……」
「サンキュー」
二人の少女に褒められてフッと笑って礼を言う。
あかね達は暫しその音を堪能したいと思って傍らに座った。
そんな彼女たちに体を冷やしてはまずいと思ったバルドがコートを二人に与える。
防寒対策を整えてから彼は再び草笛による演奏を始めた。
夜空に一つの演奏が響く。すると、不思議な現象が起き始めたのだ。
音につられて、茂みの奥から無数の小動物達が姿を見せた。
川の水面には光虫と呼ばれる光起昆虫に分類される虫達が姿を見せ、その下では魚達が集まってゆらゆらと泳いでいた。
普段は見れない光景を見て二人は幻想世界にいる様な錯覚を覚えた。
その中で、普段と変わりなく草笛を奏でるバルド。
動植物たちはその奏でられる音に耳を傾け完全にリラックスしている。
暫く柔らかな音色を聞いている内に、二人も瞼が重くなるのを感じた。
そして、リースリットが先に脱落する。かくんっと力なく崩れ落ち、バルドの方に倒れる。
その彼女の頭を膝に乗せると隣であかねがふわっと笑みを見せた。
「リースリットちゃん、寝ちゃった」
「まっ、いいんじゃね? お前も寝たいなら寝ていいぞ。家に運んどいてやるからよ」
「その時はお願いするで」
「ん、了解だ。……それにしても、お前らよくこんな場所で生活できるな。食材とか何処で調達してんだ?」
草笛を止めて、彼はふと思った疑問を彼女へと投げかける。
彼女達の住んでいるのは森の奥深くである。
周囲には果実や魚などがいるが、彼女を含めて六人が養えるほどのものではない。
では、どうやって彼女達はこの数年を過ごしていたのだろうか?
「それはやね、お狐さんのお陰なんや」
「お狐さん?」
「いつも狐の面を被っているから『お狐さん』。うちが勝手に言うてるんやけどね」
なんでも、その人物は男性で彼女達が森に住み始めた時にフラッと姿を見せたのだそうだ。
とても気さくでお喋りらしく、時々あかねにちょっかいを掛けてはユグドラ達に怒られて追いかけ回されているらしい。
騎士達曰く「あいつは危険過ぎる。何時、主に毒牙をかけるか分からん」とか……。
ただ、あかねとしては外の情勢とかを教えてくれる面白い人と思っているから来てくれるのは大歓迎だったりする。
先ほど言っていた脳裏に聞こえる声が似ている人物というのが、この人だったりする。
「その人が、うちらの為に外で買い物をして持ってきてくれるんや」
「気前のいい男だな。顔は見た事ないのか?」
「一回も見た事ないんや。仮面を取ってくれへんし、軽く話をした後にフラッとどこかに消えてしまうんや」
前回は一週間前に来たから、そろそろまた来てくれるだろう。
その日が少し待ち遠しかったりする。
「面白そうな奴だな。面倒くさそうな性格だけどよ……」
「くすっ、ホンマにね。あの、バルドさん。少しお願いがあるんやけど、ええかな?」
「なんだ?」
急に頼みごとをされたので彼は怪訝そうに首を傾げる。
言いにくそうにしていた彼女だが、少し躊躇った後に意を決して頼みごとをする。
「明日うちを、村に連れて行ってほしいんや」
「………なんでだ?」
自ら敵意を向けてくる村へ向かうのは自殺行為である。
その裏にある真意を探ろうとバルドは質問を投げかける。
「忘れ物を取りに……。自分の家に置いて来てしもうた大事なものを取りにや……」
真っ直ぐに見返され、その瞳に映る固い意志を感じ取る。
「あれを取ったら、もううちはあの村には近づかへん。もう、二度と……」
「……そうか、分かった。その頼み、引き受けよう」
「ありがとうな、バルドさん」
弱々しく笑った彼女の頭を軽くポンポンと撫でてから、彼は再び草笛による演奏を再開する。
少しの間、彼女はその音を聞いていたがやがて睡魔に負けてリースリットと同じ様に深い眠りに落ちていった。
二人の安らかな寝息を聞きながら、バルドはそれから日付が変わるまで演奏を続けその後に二人を抱えて家に戻っていった。
新キャラ登場、その名も『神代 朱音』です。
神代一家の愛娘にして両親は魔法士界でも有名な実力者。
関西弁(?)を使う少女です。
両親の実力はトップクラスで神樹の森周辺にいるモンスターでは歯が立たなかったらしい。推定で二人だけでAAA級モンスターを凌げた模様。
しかし、中央都市のとある実験で起きた事故によって両親は行方不明。公式には死亡扱いにされる。
その後は、暫くは村の人に支えられて生活してたがモンスター襲撃の際に魔導書を使い制御できずに村の三分の一を巻き込んで敵を殲滅する。
その所為で魔女と呼ばれて最終的に殺されかけるもユグドラ達が目覚め、助けられる。それ以降は、余計な軋轢を生まない様に神樹の森奥で生活している。
それでは、次回も宜しくお願いします。




