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第二十九話 強くなる為に…

二十九話更新!


新年明けましておめでとうございます。

稚拙な作者ですが、今後とも宜しくお願いします。


では、本編をどうぞ!!


 星霊村からそう離れていない神樹の森の中で幾つもの影が木々の間を飛び抜ける。

その影が飛翔ひしょうする先には高速で飛行する無数のちょうの群れがあった。


 その後方を飛んでいるのは、ほのかとフィリス、そしてリースリットであった。

彼女達が追いかけているのは、この神樹の森にのみ生息する幽乱怪蝶ゆうらんかいちょう『ベヘモット』だ。


 体長は一メートルは優に超える大きさで、はね極彩色ごくさいしょくの美しい色合いをしている。

幼虫時は地上をって落ち葉や枯れ木の隙間に隠れて過ごし、葉を食べて生活する。


そして、ある程度大きく成長するとさなぎとなりちょうとなる。

蝶となったベヘモットはつがいとなる相手を探して飛びまわる。


ただ、ベヘモットは繁殖期になると凶暴性を増して人にも危害を加えてくる。

その為、神樹の森周辺にある村々は毎年その時期になると被害を受けてしまう。


かといって、こちらから攻撃を仕掛けると防衛本能で反撃してくるから手を出せない。

一種の自然災害と呼べ、ベヘモットはそこまで強くはないが特別災害モンスターとして認定されている。


合計で六体もいるベヘモットの群れは翅を羽ばたかせて木々の間を飛ぶ。


 急に身をひるがえしてはねを強く羽ばたかせると鱗紛りんぷんが舞う。

それが本体の周囲を円を描く様に旋回するキラキラと光る緑色の光弾に変化して一斉に自分達を追いかけてくるほのか達へと飛ばして来たのだ。


飛んでくる相手の光弾の弾幕を身を捻り回避する。

攻撃を避けた後にフィリスがメローを構えて魔力矢をつがえる。彼女の背に人魚の紋章が出現した。


「アクアスパイク、シューット!!」


放たれる水属性の矢。

途中で複数の魔力矢に分離して前方に広がる大量の光弾へと突撃、相殺して爆発を起こす。


「ウィル、行くよ!!」

「はい、マスター」


 続けてほのかが前に飛び出して再び放たれて来た光弾をかわしつつウィルを構える。

彼女の足元に桜色の魔法陣が展開されて、背には杖を持つ女神の紋章が姿を見せた。


「フォトン、ブレイザーーッ!!」


ウィルの先に集まっていた魔力が解放され、桜色に輝く砲撃が放たれた。

猛スピードで飛んでくる砲撃をベヘモット達はその身の軽さを活かして砲撃によって巻き起こる風圧に乗って攻撃を避ける。


「避けられた!?」


 攻撃を避けられた事に驚く。そんな彼女達へ、ベヘモットは別の攻撃を開始して来た。

頭にある二本の触角の先が光ると、そこから鮮やかな色彩の光線が発射されたのだ。


幾つもの光線が三人に襲いかかる。それを円を描く様に飛んでかわす。

そうしている内にリースリットが急に高度を上げて二人から離れてしまった。


「リースリットちゃん!? どこに行くの!?」


その声を無視してリースリットはどんどん上昇して木々の天辺てっぺんを越えて彼女は姿を見せると眼下を飛ぶベヘモット達を見下ろす。


「アクセラレート……」


 雷光のごとき速さで急降下。フォルテを手に高速でベヘモット達の下へ突っ込む。

頭上から接近してくるリースリットに気付いた時には既に射程圏内に捉えられていた。


そして金の閃光が彼等の間を駆け抜ける。

同時に繰りだされた斬撃を受けてベヘモット達は倒されてはねがひらひらと落ちていった。



「……んで、リースリットに全部撃墜されたってか?」


 戻って来た彼女達を待っていたバルドが、ほのかから話を聞いて難しそうな顔をした。

彼に聞き返された彼女はうつむいて小さく頷いて答える。


「うん……」

(協力して撃墜するって名目だったんだが……やっぱダメだったか)


今回の戦闘は三人が協力して敵を倒す事を目的とした訓練だった。

だが、彼の思惑おもわくは上手くいかなかったようで彼女はほのか達を囮にして一人で撃破してしまった様だ。


(モンスター相手だとダメみたいだな……。だとすると……)


 マーダー戦の様な協力がないとあの人物達と戦うのは危険過ぎる。

だが、普通のモンスターを相手ではリースリットは余裕が出来てしまうのか単独で倒そうとするみたいだ。


だとすると、もっと強い相手でないと協力をしないだろう。

それはつまり、残る選択肢は一つしか残されていない。


「よし、なら次の訓練をするか」

「ふえ? 次の訓練?」

「ああ、とびっきり凄い訓練をな……」


首を傾げて見上げるほのかに含みのある笑みを浮かべるのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


森の開けた場所を見つけ、バルドはそこで訓練内容を話しだす。


「さて、次の訓練内容を言うぞ。ルールは簡単だ」


彼の周囲に黒き炎が噴き出す。

それが円を描く様に広がり、消えると焼き焦げた事で一つの境界線が出来あがっていた。

半径五メートルはあるその中で彼は説明を続ける。


「俺を、この境界線から外に押し出せばいい。お前達は自由に攻撃できる。どんな手を使ってもいいから俺を此処から押し出せば勝ちだ」


ただ、と付け加えて彼はケルベロスを虚空より取り出して手に持つ。

同時に彼から漆黒の魔力が噴き出し、炎の様に揺らめく。


それをまとった彼が目を細めて不敵な笑みを浮かべる。


「此処の中にいる間、俺は少し本気になるからな。怪我だけはすんなよ?」


彼が本気になる。それを聞いただけでほのかとフィリスは体を強張こわばらせた。

今まで一緒に戦ってきた彼はまだ全力を見せていない。


その片鱗へんりんを今日、垣間見かいまみる事になるのだ。

数々のモンスターを倒して来た彼のその力はどれ程のものなのかは分からないが、これまでの戦闘よりも激しいというのは容易に予想できた。


「いくよ、フィリスちゃん!!」

「うんっ、バルドをあそこから追い出すよ!!」


 そうと決まれば先手必勝だ。二人は先に飛び出すと魔法を発動。

魔力矢と魔力弾の弾幕を彼に向かって放つ。


飛んでくる大量の魔力弾。それを、彼は一歩も動かずに剣に魔力を通して一閃するだけで全て相殺し吹き飛ばしたのだ。


「まだなのっ!! フォトン、ブレイザーー!!」


 しかし、それはおとり。本命はほのかの得意の砲撃だ。

放たれた桜色の砲撃がバルドに向かって猛スピードで飛んで行く。


だが、迫りくる高質量の砲撃を前にしても彼は一歩も動く気配はない。

その金の鋭い瞳をスッと細めると、ケルベロスに黒き闇の炎をまとわせ姿勢を落とす。


「はあっ!!」


そして、気迫のこもった声と共に振り上げ砲撃へと剣をぶつける。

激突する両者の一撃、しかしほのかの砲撃が力負けをしてあっという間に軌道をらされて空の彼方へと弾き飛ばされてしまった。


「うそっ!?」

「ほのかの砲撃を弾いた!?」

「二人だけで勝とうなんて千年早えんだよ」


そう言った後に背後にケルベロスを回す。直後に金の斬撃がそこにぶち当たり停止。

金と闇の魔力残滓ざんしが飛び散る。


 何時の間にか、彼の背後にリースリットが回り込んでおり奇襲を仕掛けて来たのだ。

その彼女に彼は顔を少し動かして彼女の方を軽く見やりながら忠告の言葉を告げる。


「お前もだリースリット。たった一人で俺を倒せると思うなよ?」

「……っ、私一人でも十分」

「……そうかい。なら、やってみな」


 挑発の言葉を投げかける。それに彼女はムッとした顔になって一度後方に退避。

直後にほのかの砲撃が飛んでくるが、彼は難なく弾いて軌道をらして防ぐ。


そして、続けざまにケルベロスを振り切る。

黒き炎が衝撃波と共に放たれてほのか達に向かって飛んで来たのだ。


「ディフェンシブ!!」

「マジックシールド!!」


咄嗟とっさに防御の選択を選んだ二人が防御魔法を発動し魔力障壁を前方に張る。

そこに彼の一撃がぶつかって爆発が起き、二人は障壁ごと後ろに吹っ飛ばされた。


「「きゃあっ!?」」


 爆風で二人の軽い身体が吹き飛んでそのまま地面に落ちて転がる。

その彼女達を助ける素振りも見せずにリースリットは高速移動で接近しフォルテで斬りかかる。


その場から動かずにケルベロスを振るって彼女の攻撃を次々にさばいていくバルドの表情は何時になく冷たい。一度離れて高度を上げると頭上に回り、雷槍を複数展開する。


「貫け、サンダースピア……!!」


 剣を振ると雷槍が一斉に降り注ぐ。金の槍がまるで天から落ちる裁きの矢の雨の様に落ちてくる。

それを彼はケルベロスに加えて新たにバハムートを虚空から取り出して高速乱舞で打ち消していく。


 その雷槍の中に混じってリースリットが一気に降下してフォルテを構えて突っ込む。

目の前の雷槍を弾くと同時にリースリットが自身の眼の前に姿を現して斬りかかってくる。


受け止めると、姿が一瞬で掻き消える。

彼は焦ることなく後ろに剣を回して、背後に回り込んでいた彼女の一撃を受ける。


防御されると再び姿を消して今度は上から落ちて上段斬りを繰り出す。

次々と高機動で動きまわって攪乱しようとする彼女だが、彼女の繰り出す攻撃はそのことごとくを弾かれて防がれてしまっていた。


そして、渾身の一撃を放ったのを受け止められる。そこに来て彼はようやく動き出した。

押し返して弾くと同時にその場で左足を軸に回転し、遠心力を加えた一撃をリースリットに繰り出す。


フォルテを前に構えて受けようとした彼女だが、強烈な衝撃が襲いかかり軽々と弾き飛ばされて木の幹にぶつかる。


 軽く何度か咳き込んだ彼女は再び立ち上がってバルドに単身突っ込もうと身構える。

そして、ほのか達も兎に角バルドを外に押し出そうと思っているのか真っ直ぐに自分しか見てない。

そんな彼女達の様子を見て、バルドは小さくため息を吐く。


「はぁ、……お前ら、本気であの騎士どもに勝つ気があるのか!!!」


そして、次の瞬間には烈破れっぱの叫びを彼女達に放ったのだ。

怒気の含まれたその声に三人は体をビクッと震わせる。


怯えを見せる彼女達に彼は続けて叱責しっせきを飛ばす。


「何のための訓練だと思ってやがる!! システムに頼って一人であいつ等に勝つ為か? 違うだろ!? 確かにこれはシステムを使えるようになる為の特訓だが、んなよく分からねえ力に頼らなくても戦えるようになる意図があんだぞ!!」


 何時になく怒りの様相を見せる彼に、彼女達は押し黙る事しか出来ない。

一通り叱責しっせきを飛ばした後、一度大きく息を吸って吐く。

頭に昇りかけた血を落ち着かせてから、ゆっくりとアドバイスを彼女達に語る。


「目の前の事に集中し過ぎだ。もっと周りをよく見ろ。自分の他にも戦う奴がいるだろ? 理想は個人で勝てる技術を身につける事だが、お前等はその前に連携を深めろ。協力も出来ない奴が個人で勝てると思うんじゃねえよ」


三人もいるんだから、そこんところはちゃんと理解しな。


さとされ、うつむいて何も言えなくなる三人。

自分達は何処かで勘違いをしていたのかもしれない。


オーバーリミッツシステムと言う未知の力に魅了みりょうされて、それを早く使いこなしたいと思って視野が狭まっていたのかも。


ほのかは思う。

いま思えば、経験も何もない自分達にそんなシステムなど使いこなせないのは明白だ。

特に自分なんかは魔法を使える様になって日も浅いし、戦いなどは縁のない所で生活していた。


その自分が一人であの騎士達を相手にできるか? 答えは否だ。

一人では勝てない。なら、如何すればいいのか?


「……フィリスちゃん、リースリットちゃん」


答えなんて分かり切ってる事じゃないか。

一番早く顔を上げたほのかが二人に呼び掛ける。それに二人が彼女を見る。


二人の顔を交互に見てから、彼女は自分の思いを二人にぶつける。


「三人で力を合わせて戦おう! 協力すれば、バルドさんにだって勝てるの!!」

「ほのか……」

「一人じゃバルドさんには勝てないけど……三人ならいける筈なの!!」


そう言われてフィリスもリースリットも決意を固めて彼を見る。

その彼女達を見て彼は漸く訓練の目的が達成できたなと確信する。


「私とフィリスちゃんで隙を作るから、リースリットちゃんは遠慮なく行って!」

「……ん、分かった」


 リースリットが再び高速移動魔法を発動。両足に雷をまとって地を蹴り飛び出す。

その後に続いてほのかとフィリスが飛び、彼女を援護する形で魔力弾による弾幕を張る。


桜色と水色の弾幕が彼女を追い越してバルドに襲いかかる。

それに彼は闇の魔力弾を作り出し、自らも斬り払う事で次々に破壊していく。

そこにリースリットが突撃し、フォルテを振り下ろす。


彼女の一撃をバハムートで受ける。両者の間で激しい火花が散り、互いの顔を照らす。

防がれたと分かると彼女はその姿を再び消す。


そして、わずかに遅れてほのかの砲撃がバルドに飛んで来たのだ。


流石に間に合わないと思った彼は横に飛んで攻撃をかわす。

此処に来て、彼女達は彼をようやく中央地点から動かす事が出来た。


「そうこなくちゃな……!」


 くやしそうにするかと思えば、逆に彼は笑みを浮かべていた。

その彼に向かってリースリットが真正面から再び突撃し、ぶつかる。


「良い突撃だ。さっきよりもずっとマシだな」

「……っ」

「どうだリースリット? 背中を誰かが守ってくれているって分かる心境はよ?」

「関係、ないっ……!!」


面と向かって聞かれた事を振り払う様に剣を振って弾く。

そして再び高速移動で姿を消し、今度はサイドから接近して上段から斬るモーションに入る……と見せかけて、下段から袈裟懸けさがけに斬る。


だが、それすら彼は反応して受け止める。


フェイントを加えたこの戦法も通じない。

自分の思い浮かぶ戦術を読まれている様な気がして彼女は少しくやしそうにむくれ、率直な感想を思わず呟いた。


「あなたは……強い」

「……まあな。伊達に長年モンスター相手に戦ってきただけじゃねえしな」

「それだけの力があったら……私だって……」

「……ん?」


一瞬だけ、彼女の表情に陰りが見え彼は怪訝けげんな顔になる。

だが、既にその陰りは消えており彼女は表情を消してバルドと対峙たいじを続ける。


始めは安定した戦闘が出来ていたのだが、彼女と刃を交えながら後方から来るほのかとフィリスの攻撃をしのぐのが難しくなってきた。

徐々に押され始めて境界線の付近まで下がり始めていた。


 一気に終わらせようとしてリースリットがナイトチャージを発動。

地を蹴って猛スピードで駆け、上段からの一撃を叩き込んできた。


それをケルベロスを水平にして受け止める。

闇と雷が周囲にはしり、地表を舐めるようにう。


「私は……負ける訳にはいかない」


自分の意志をはっきりと示すその言葉に、バルドは鋭いその眼を更に鋭くさせて問う。


「……そこまで強さを求めてどうする気だ?」

「あなたには関係ない……。強いあなたには、関係ない……!!」


グッと込められる力が強くなる。

それにわずかに姿勢が崩され始める。


あと一息……!!


そう思って更に力を込めようとした彼女だったが――


「俺は、強くなんかねえよ……」

「――え?」


彼女は目の前の男が見せた表情に目を見開く。


「強かったら、守れたんだろうな……。結局、俺も弱い存在さ……」


 目の前で小さく何かを呟く彼はとても、とても悲しげな表情を浮かべていたのだ。

それは何かをやむ様な、それでいてもう届かぬ希望を想うかのようなそんな風に見えた。


 今まで見ていた彼には似つかわしくないその表情に彼女は込めていた力をゆるめてしまった。

そこに再び表情を引き締め、気持ちを切り替えたバルドが目付きを鋭くさせて彼女の攻撃を押し返し始める。


力をゆるめてしまっていたリースリットはハッとなって急いで抑え込もうとしたが、一度崩れた状況にあらがえずに弾き飛ばされる。


「リースリットちゃん!?」

「あと少しだったのに、惜しい!!」

「そう簡単にやられてたまるかっての。冒険者なめんな」


肩に大剣を担ぎ、ニッと笑う。

弾き飛ばされたリースリットが二人の前にゆっくりと降りる。

フォルテを構え直し両手でしっかりと持って切っ先を向ける。


それに彼は二振りの大剣を同じ様に向けて迎え撃つ体勢に入る。

リースリットの左右にほのかとフィリスが並び今度は三人同時にバルドの方へと突撃を開始した。


「シャインバレット……!!」

「アクアスパイク……!!」

「サンダースピア……!!」

「「「シューーット(ファイヤッ)!!」」」


三色の魔力弾が一斉に彼に向かって放たれ鮮やかに彼の視界をおおい尽くす。

それに全てを呑み込む闇色の炎を纏わせたバハムートを振るい衝撃波と共に炎を飛ばして吹き飛ばす。


次々と爆発して消失する魔力弾。

爆発によって発生した黒煙を突き破って三人の少女が飛び出し、バルドへと突撃する。



そして―――――



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



時間は進み、再び夜が訪れる。


宿屋に明かりが灯り、暖炉には火が点いてまきを燃やす。ただ、まきの燃えている客室には今は誰もいない。

パチパチッとまきが爆ぜる音が小さく響くだけだ。


時刻は丁度お風呂の時間であった。


「はふぅ~……」

「気持ちいね~」


湯気の立ち昇る浴室……。

広々とした室内は十人以上いても問題なさそうな広さだった。

その広い空間にいるのは三人の少女だけである。ほのかとフィリス、そしてサヤが温泉に浸かりくつろぎの時間を過ごしていた。


「それにしても、あと少しでバルドに勝てたね」

「にゃはは…。やっぱりバルドさんにはかなわないの」


 あの後もしばらくの間、彼女達はバルドと訓練を続けたのだがあと一歩という所で届かずに時間切れ。

勝つ事は出来なかったが、バルドは本来の目的を果たせたのかそれでも三人をめてくれた。


められたのが嬉しくて、随分と経つのにでられた個所がまだくすぐったい気がする。


「今度こそ勝とうね!」

「うんっ!!」


 何やら自信のついた二人は次の機会には絶対に勝とうと意気込む。

そんな彼女達を体を洗っていたサヤは軽く一瞥した後にフッと柔らかい笑みを浮かべる。


「ふえ? いま、サヤちゃん笑った?」

「べ、別に……」

「え~? 絶対に笑ってたよ」

「わ、笑ってなんかいねェし」


気付いた二人に言われて慌ててそっぽを向く。

顔を赤くしているので照れているのがまるわかりだったりするのだが、彼女の方は気付いていない様子だ。

それが何だか可愛くて二人でクスクスと笑い、それにサヤがキッと睨む。


顔が赤い所為で迫力に欠けているのは本人だけが知らないだろう。

そんな風に楽しく会話を続けていたほのかはふと天井を見上げる。


(リースリットちゃんとも、一緒に入りたかったな……)


彼女と一緒に入れなかった事に残念そうな顔をするほのかだった。



そんな女湯の隣には男湯があり、そこではバルドとアシュトンが浸かっている。


「それじゃあ、バルドさん。お先に失礼します」


先にアシュトンが男湯から出ていく。

それに軽く手を上げて返事を返した彼は深く息を吐く。


「ふぅ~……今日は疲れたな」

[危うく嬢ちゃん達に押し負ける所だったもんな~ウヒャヒャヒャ!!]

「そう簡単に負けてたまるかっての」


苦笑して今日の訓練を思い出す。

始めは協力もしないから心配になったが、最後の最後でそのきざしを見せてくれた。


……まあ、ほのかとフィリスがリースリットの動きに合わせて動くという感じではあったけど。

あとはリースリットが彼女達同様に合わせた動きをしてくれると助かるのだが……。


「……ってか、何時の間にほのか達と魔女の問題を片づける話になったんだ?」

[まあ、成り行きって奴じゃね? ウヒャヒャ!!]


 はたと気付いたバルドが呟くとケルベロスはそんな事を言ってゲラゲラと笑う。

最初は自分だけで片付ける話だったのだが、気付けば彼女達も加わっていた。

どうしてこうなった……?


首を傾げて何処で間違ったのだろうかと考え込む。


――っと、その時だ。


戸の開く音が湯気の立ち昇る室内に響き、ひたひたと誰かがこちらに向かって歩いてくる音が聞こえた。


「ん? なんだ、アシュトン何か忘れものでもしたのか?」


それに気付いたバルドが首だけを動かして背後を見る。

しかし、そこにいたのは眼鏡の少年ではなかった。


「………」

「やあ、元ぬしよ?」

「ぶっ!?」


そこにいたのはアシュトンではなく、元使い魔であったアウルとその新たな主となった金の少女リースリットだった。

タオルを巻いて胸元まで隠した二人がそこにはおり、唖然あぜんとする。


「おいおい……お前ら何やってんだよ? 此処は一応男湯だぞ…」


すぐにそれはあきれへと変貌してそう語るも、本人達は特に問題なさそうな感じだった。


「ふむ、良いではないか。どうせ泊まっているのはわっちらだけなのじゃ。何処を選ぼうとわっちらの勝手よ」


そう言って何処から取り出したのか扇子を手に持ち口元を隠す。


「本音を言うと、ぬしが女湯の方にいく勇気がないと言うのでの……こっちを選んだ次第じゃな」

「……あぁ~、ほのか達がいるからか」


 それに当の本人は答える気はないのか無言で、掛け湯をしてから湯船に浸かる。

アウルもそれにならって浴びてからゆっくりと足から入って浸かりふうっと息を吐いた。


「いい湯じゃの~。疲れが取れる様じゃ」

「お前は何もしてねえだろうが……」

「ぬしを心配して疲れたのよ。それに今も元ぬしがぬしに手を出すのではないかと心配で心配で気を張り詰めているでの……」

「前にも言ったが俺はそんな特殊な性癖は持ってねえっつうの!!」

「白きやわ肌に瑞々(みずみず)しい肢体。若くも熟さず果実はなんと甘美なるものか……。そんなぬしに手を出すかえ? この変態め、クックック♪」

「………」

「リースリット、真に受けるな。そんで、引くなバカが」


自分の身を守る様に腕を回して、彼から距離を取り始めるリースリット。

あらぬ疑いが掛かってる様なので取り敢えず晴らしておく。


バルドをからかって楽しいのかアウルはクックックと笑う。

それにあきれた表情を見せ、取り敢えずその額にチョップを一発入れるバルド。

額に来た鈍痛に耐える様にアウルはプルプルと体を震わせて、何やら不気味な呻き声を出す。


「ひ、久々のチョップは堪える……!!」

「アホな事を言うからだ」


 バカやってんじゃねえよ、と彼は悶絶するアウルに言い放ってから再び体を伸ばしてくつろぎ始めた。

その彼の下に大丈夫だと思ったのかすすっとリースリットが近づいてきた。


「……なんだ?」

「あの時……強くないって言ったのは、なんで?」


問う様な瞳を向けられた。

赤い瞳が自分を真っ直ぐに捉えており、そこに自分の顔が映る。


 あの時、とはきっと彼女とぶつかり合った時に自分が思わずこぼしてしまった時の事だろう。

純粋な疑問を宿した少女の瞳を向けられ、彼は上を見上げ何処か昔を思い出しているかのような表情になる。


しかし、それは一瞬。

その表情に宿る感情をし量る前に元に戻ってしまい、知る事は出来なかった。


「昔の事だ。忘れろ……」

「でも、聞いた……」

「…………」

「…………」


敢えて視線を合わせない様に背けるバルド。

その彼の横顔をじ~~っと見つめてくるリースリット。


 沈黙の空気が漂う中で、アウルは二人の無言の押し問答をニヤニヤとやらしい笑みを浮かべて見守る。

取り敢えず、そのニヤニヤと笑っているアウルにもう一発チョップを入れてから彼は彼女に突然質問をする。


「……リースリット。お前は、強さってのはなんだと思う?」

「え?」


 顔を向けずにバルドが突然質問を投げかけて来たのに少し驚く。

その彼女を今度はバルドの方から見つめ返してきた。

金の瞳に吸い込まれそうな感覚におちいった彼女は、思っていた事を自然と口にしていた。


「誰にも、負けない強さがある事……じゃ、ないの?」

「正解だ。けど、外れでもある。お前の考えは、昔の俺と同じだな」


 湯の中から手を出して彼女へと伸ばし、その頭にポンッと乗せる。

そして、湯気で水気を帯びた彼女の綺麗な金髪をく様に撫でる。


その顔を見ると、彼は何処かさびしさをこらえる様な、そんな表情を浮かべていた。


「守りたい者すら守れない俺なんか、強くなんてねえよ……」

「え?」

「……何でもねえよ。気にすんな」


 小さく呟かれた言葉を聞き取れなかった。

もう一度聞こうとしたのだが、その前にはぐらかされてしまい聞く事が出来なかった。

その間に、先ほどまで浮かべていた悲しい表情は消えて、落ち着きのある普段の表情に戻る。


「リースリット、もう一つの答えを見つけるんだ。その時、きっとお前は今以上に強くなれる」

「それって、なんなの……?」

「俺からは教えられねえな。お前が実際に感じて理解しないとそれ見えないからな」


で続けながら語る。

その大きな手に包まれ彼女は何処か安心感を感じる。

顔を見つめ続けるのが段々と恥ずかしくなってきて頬を朱に染めてうつむく。


しばし、撫でていたバルドがその行為を止めておもむろに立ち上がる。


「さて、俺もそろそろ上がるか。ゆっくり浸かるのはいいが早めに寝ろよ。引き受けた以上、俺はお前等をとことん鍛えるつもりだ。夜更かしして眠いって言っても知らねえからな」


返事を聞かずに彼はそのまま出て行ってしまった。

残されたのは自分とアウルのみ。


彼の姿が消えてから彼女は先ほどまで撫でられていた個所に手をえる。

懐かしい記憶がよみがえる。


暖かい情景、笑う家族、頭をでてくれる優しい父、微笑ほほえみを向ける母。

何もかもが幸せだった。これが永遠に続くと思っていた。


だけど―――――


壊れゆく幸福なる世界……全てが、赤く……赤く染まっていく。

全てが、炎に包まれ、黒き空間に呑まれていく。


その燃え盛る中に佇む、一人の人物。

それが狂った笑みを浮かべて自分へと手を伸ばして来た。


「っ……!!」


体が震え、自分を抱きしめる様に腕を回す。

暖かい湯に入っているのに、身体が冷えている様な感覚に陥る。


「ぬしよ、大丈夫かえ?」


その彼女の異常に気付いたのだろう。アウルが傍により彼女の肩に手を添える。

それに首を振って大丈夫である事を伝える。


だが、彼女の震えは止まらず顔色も悪い。

そんなリースリットを見て、アウルは行動を起した。


彼女を自分へと引き寄せてその胸の中に包みこんで上げた。


「大丈夫。何があろうと、わっちが守ってやるからな」

「ア、ウル……?」

「わっちだけじゃないぞ? 元ぬしも、きっと守ってくれる。あやつは、そういう男だからの」


 胸の中で見上げる彼女にアウルは柔らかく笑い、静かに抱きしめてくれた。

それに彼女も何も言う事なく腕を背中に回して顔を押し付ける。


しばらくの間、彼女はアウルから離れようとはせず、アウル自身もリースリットが離れるまでじっとその小さな体を包みこんでいた。




強くなる事を求めて、少女達は人生の先輩の指導を受ける。

果たして、彼女達はオーバーリミッツシステムを会得できるか?


にしても、バルドが羨ましいです。

美少女と美女とのお風呂とか……。


リースリットは少しずつだと思うけど、彼に対する高感度が上がっている気がする。そんな彼女へ言えるとしたら……。

取り敢えず、ほのかとも仲良くしてください。


それでは、皆様。

今年も、宜しくお願いします!!


皆様に、幸福が沢山来る事を願っています。


では(゜∀゜)ノシ!!

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