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第二十八話 オーバーリミッツシステム

二十八話更新。


正体不明の騎士たちに撃墜された少女二人。

そして、ほのか達はターミナルに眠るあるシステムの存在を知ることとなる。


では、本編をどうぞ



暗い闇の奥底に沈んでいた意識が浮上する。

まぶたがゆっくりと開かれて、ぼやけた景色が映し出された。


徐々に明瞭めいりょうになり、全てがハッキリと見える様になって見慣れぬ木造の天井だというのに気付いた。

そして、その自分を一人の少女がのぞき込む様に心配そうに見ているのにも気が付いた。


「……フィリ、スちゃん?」

「ほのか……。良かった、目が覚めたんだね」


 不安そうな表情が一気に安堵あんどのものへと変わって目尻に浮かんでいた涙を拭う。

ゆっくりと体を起すと、それをフィリスが手を貸して手伝ってくれた。


そこに来て、ほのかは自分が寝間着の恰好をしているのに驚いた。

それにフィリスが自分とサヤがやった事を伝えてくれたのでホッとする。安堵あんどしてから自分の寝かされていた室内を見渡す。


「ここは……?」

「宿屋だよ。森の中で倒れていたほのかをバルド達が運んで来てくれたんだよ」


答えられた彼女はここに来てようやく自分に起きた事を思い出した。


 村人を攻撃していた少女を止めようとして戦いを挑んだ。

相手も魔法少女なのか、スコップ型の『ターミナル』を使って多彩な攻撃を仕掛けてくる。


そして、急に怒りだして武器を変形させ――――


(そっか、私……負けたんだ)


あの少女に自身が負けた事に気付く。最後の光景が脳裏を駆け抜ける。


 スコップを鎖付きの鉄球へと変えて、全身を使って回転しフルスイングで投擲とうてき

放たれた攻撃を受け止めようとして防御魔法を張るも、あっさりと負けてしまいそこで意識が途切れたのだ。


そういえば、途切れる寸前に誰かが自分の前に降りてきた気がした。

ふと思い出したほのかがフィリスへ聞く。


「ねえ、フィリスちゃん。私以外に誰かいなかったの?」

「それなら……」


そう区切ってフィリスが隣を見る。

それにつられてほのかが視線を向けると、そこには見知った人物がいたのだった。


「リースリットちゃん!?」


 予想外の出来事に声を上げる。自分と同じ様に腕などに包帯が巻かれていて負傷しているのが分かった。

慌ててベッドから飛び起きて彼女へと駆け寄ろうとしたが、足が床につくと同時に力が抜けて前のめりに倒れそうになる。


それをフィリスがギリギリで支えてくれた。


「無茶しちゃ駄目だよほのか!! 治療したけど、それでも体に残ってるダメージは大きいんだから安静あんせいにしないと!!」

「で、でもリースリットちゃんが……!!」

「この子なら大丈夫だよ! 私がちゃんと治療したから。いまは落ち着いて眠ってるだけだから」


そうさとされてようやく納得したのか、フィリスに従ってほのかはベッドに再び横になる。

その後にフィリスがバルド達を呼びに一度部屋を出ていった。


程なくして、部屋にバルド達が入って来て横になっているほのかの傍に立つ。


「無事みたいだな」

「よかった、このまま目を覚まさないんじゃないかと思って心配したよ」

「縁起でもねェ事言うなよ」

「ご、ごめん……」


 サヤにジト目を向けられて自身の発言に対して謝罪する。

でも、それだけ心配してくれた事が分かるほのかはそれに対して気にしないでと伝える。


「にしても、あの連中はなんだったんだよ?」


 サヤの言う連中とはほのか達を撃墜した二人組の事だ。

見た事もない衣装を着こんで全身から溢れ出ていた気迫は常人のそれとはまったく違う物だった。

それにはバルドが腕を組んで険しい表情で答えた。


「あれが、この村にいたって言う魔女の呼んだ奴かもな」

「どんな人だったの?」

「なんつ~か……。口の悪そうなチビと堅物そうな騎士っぽい奴だった」


聞いて来たフィリスにサヤがそう答える。

特徴……というよりは見た目の話をされてフィリスとアシュトンは頭の上に幾つもの?マークを浮かべる。

それにバルドが補足を入れてくれたお陰でフィリス達はようやく納得する。


「その人達が魔女なのかな?」

「さあな。ただ……あいつ等はかなり強い事は間違いないな」


 刃を交えたバルドが真剣な面持ちで語る。

自身の一撃を本気ではなかったにしろ受け止めて、尚且なおかつその場から一歩も下がらなかったのは数えて数人だけだ。


その人物と同レベルとなると相当の腕を持つ実力者だろう。


「ん……んん……」


と、その時だった。

隣のベッドで寝かされていたリースリットが身動ぎを始める。まぶたが震えてゆっくりと開かれる。


「ぬし!!」


彼女の目覚めにアウルが駆け寄り傍に膝をついた。

それをぼんやりとした思考のままで首を動かして彼女を見てから反対を見る。


その視界にほのか達を捉え、彼女の思考は急速に覚醒へと向かう。


「っ!!?」


ベッドより体を起して飛び、離れた場所に着地する。

――――が、膝から力が抜けて倒れそうになりアウルが素早く移動して彼女を抱える。


「無理をするでない! 治療してもらったとはいえ、ぬしの受けたダメージは相当なものなのじゃぞ!!」

「だい、じょうぶ……。これくらい、平気……!」


 気丈きじょうにも答えてアウルの支えを退かそうとする。

しかし、足に力が入っていないのか支えている腕を離したら今にも崩れ落ちそうである。


「………そういえば、お前等に言っておかなきゃいけねえ事がある」


 そこにほのかとリースリットを交互に見てから唐突にバルドが言いだす。

虚空より何かを取り出し、てのひらに包まれた形でそこより出された物を二人に見える様に広げる。


「一応回収はしたが……、結構ヤバい状態だ」


 彼の手に収まる二つの物体。それはほのかとリースリットの相棒である『ターミナル』のウィルとフォルテだった。

待機状態になっているが、そのどちらも酷い位にひび割れ、損傷していた。


「ウィル!?」

「フォルテ!!」


自身の相棒の状態を見て声を上げる。

その二人にそれぞれの相棒をバルドは手渡し直接状態を確認させる。


「ターミナルに詳しい訳じゃないが、損傷が酷い。魔法ダメージと直接ダメージも入って限界を超えた感じだな」

「どうにか直せないの!?」

「俺でも流石にそれは直せないな。けど……ここにはそれに詳しい奴がいるじゃねえか?」


一度肩をすくめた後にそう語り、続けて彼は一人の少女を見る。


「えっ、私!?」

「お前以外に誰がいるんだよ? この中で一番ターミナルに触れているんだろ? だったら、何か知ってるだろ」


 視線の先、そこにいたフィリスにバルドは質問を投げかける。

急に言われて慌てるものの、すぐに思考を巡らせて今までの知識を広げて探す。


「う~~んと……。ターミナルは高速演算とかのサポートを独自判断で出来るのは知ってるよね。それだけじゃなくて実は自己修復やアップデートも同じなんだよ。場合によっては持ち主の魔力を媒体ばいたいにする事で同じ様な事も出来るんだ」

「それってつまり…?」

「ほのか達の魔力を送ったら、もしかしたら自己修復できるかもしれない」

「ものは試しだ。二人ともやってみろよ?」


すすめられた二人はコクッと頷いてから意識を集中して自身のターミナルに魔力を送る。

互いのターミナルがそれぞれ桜色と金色の淡い光に包まれる。


すると、ひび割れていたり、欠けていた個所がゆっくりと修復され始めて来た。損傷個所が次々に回復していく。

淡い光がゆっくりと治まると、そこには元の姿に戻ったウィルとフォルテがあった。


[自己修復完了。損傷個所チェック……問題個所なし]

[各機能の動作チェック……完了。問題なしと確認]

「ウィル! 大丈夫なの?」

[はい、お手数をお掛けして申し訳ありませんでしたマスター]


両手で包み込んでいるウィルに心配して声をかけると、赤い宝石を点滅させて返答が返って来た。

それにホッと息を吐くほのか。

同様にリースリットの方もフォルテが大丈夫だと分かった様で安堵あんどの表情を浮かべていたのが見える。


「フィリスちゃん、ありがとう!!」

「ど、どういたしまして///」


微笑ほほえみを向けられた彼女は頬を赤く染めて恥ずかしそうに顔をうつむかせる。

気恥ずかしくなった彼女は話題を変えようと思ってほのかに疑問をぶつける。


「そ、それにしてもターミナルがあんなに損傷するなんて思ってもみなかったよ。一体、何があったの?」

「それが……」


ここに来てほのかは自身に何が起こったのかを話し始めた。見た事もない衣装に身を包んだ少女。

話し合いを試みたものの失敗して戦いが始まったこと。

その手にはスコップ型の武器があって、それが鎖付きの鉄球に変化した事。

そして、その一撃を前に自分が負けた事……。


それらを隠す事無く全部話した。


[解析した結果、あの者が持っていたのは私達と同じ『ターミナル』です]

「変形するターミナルなんて、見た事がないよ!?」

「そもそも、ターミナルってのは二年前に導入されたんだろ。こんなに早く出回るのか?」

「そこも疑問なんだよ。SCCAの人なら分かるけど、違うみたいだし……」


 首を傾げて考え込む。しかし、これといった可能性が見つからなかった。

他に何か言ってなかったかを聞いてみる。


「あっ、そういえば。ターミナルを変形させた時に何か叫んでたの!! 確か……」

「……オーバーリミッツ」


 最後まで言う前にリースリットが小さな声でその名をつぶやいた。

それだ、とほのかがリースリットの発言に声を上げる。


「そう、それなのっ!!」

「オーバーリミッツだって!?」

「なんだその……オーバーリミッツって?」


分からないサヤが首を傾げて疑問符を浮かべる。

それにフィリスが慌てた様子で説明を始めた。


「所有者の能力を限界まで引き出すシステムの事だよ。正式名称『Over Limits System』……。ターミナルに搭載されている危険な力だよ」


ターミナルには未だ解明されていない点が存在する。

その内の一つがオーバーリミッツ……通称『OLS』。

持ち主の魔力を増幅させてパワーアップさせる力を持つシステムである。


製作されたターミナル、特にIPターミナルなどに時々混入している様でバグとの認識が広まっている。

システムの発動には多くの規制がある様だ。


 所有者の実力がある程度高くなければ起動せず、また個人差があるらしい。

第三研究所ではひそかにその解放条件も調べていたのだが、未だ解明できていない。


一度解放されれば、後は持ち主の任意で解放できるらしく非常に強力なシステムだ。


 しかし、強大な力を得るという事は代償もまた大きいのが世の常である。

解放後は所有者に負担が掛かるという計算結果が出たのだ。


 リミットを解放する度合いに比例してその負担量も増大する傾向がある。

また、オーバーリミッツはターミナルの許容耐久レベル限界まで出力を上げる事から破損の危険性がはらんでいるのだ。


そんな解明もされていない力を向こうが使って来たのだ。驚くのも無理はないだろう。


「それじゃあ、ウィルにもその力があるの?」

[はい。その様なシステムを私も搭載されています。現在は、プロテクトが掛かっており使用不可です]

[ちなみにフィリス。私もウィル同様にシステムを搭載してますよ?]

「えっ!? そうなの!?」

[はい。ただ、ウィルと同じくプロテクトされており使用できませんが…]

「つまり、だ……。あの連中と対等に渡り合うにはそのシステムを使いこなさないといけない訳だな」


結論を言うとそうなるだろう。

だが、解明もされていない力をどうやって使えばいいのだろうか?


「まあ、特訓するしかないよなあ……」


一人、何やら面倒くさそうな表情で呟くバルドの言葉がやけに室内に響くのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



人に囲まれている少女をジッと見つめていたリースリットは支えているアウルに指示して、その部屋からそっと足音も立てずに出ていく。


廊下に出ると、その突当たりにある窓の傍まで寄る。


「フォルテ……」

[はい、何でしょうか?]

「フォルテも、使えるの?」


小さな手を開き、その上に乗せられているひし形の宝石に語りかける。

それに彼女の相棒は点滅をする事で返答を返した。


[勿論もちろんです。あの方が作られたターミナルですから可能です]

「…………そう。…すぐに解放できる?」

[マスターの指示とあらばすぐにでも……。しかし、現状のマスターではかなりの負担が掛かるのであまりおすすめできないです]

「かまわない……。私は、こんな所で踏み止まる訳にはいかないから。分かるよね……?」

[……はい]


その言葉にの返答を返すフォルテ。

相棒からの承諾しょうだくを得たリースリットはすぐさまオーバーリミッツシステムの解放を試みようとした。


「……ぬしよ」

「……?」


 しかし、その行動はアウルが声をかけた事で中断される。振り返り見上げる。

アメジストの様な紫色の瞳が真っ直ぐに自分を見つめていた。


「無理をして力を得た所で、使いこなせる技量なければただの宝の持ちぐされじゃが?」

「……今の私じゃ、使いこなせないって言うの?」

「無理じゃな」


 意外にもハッキリと物を言うアウル。

自らの使い魔に否定された事にリースリットは彼女を目を鋭くさせてにらみつける。

そんな視線などどこ吹く風。アウルは腕を組んでそのにらみに真っ向から見返す。


「技量、体力、その他諸々……。今のぬしには足りぬ物がある。そんな状態では、満足に使いこなすことはありゃせん」


 彼女は確かに強い。しかし、アウルからしてみればそれだけである。

前までバルドの使い魔をしていたからこそ分かる。

今の彼女には足りないものが多過ぎるのだ。


それらを引き上げておかねば彼女はシステムを行使した時に満足に動けないだろう。

扇子を広げて口元を隠し、アウルは一つの案を出した。


もっとも、強き者に指導を仰げばしくは、もっと早く使えるようになるやもしれんがの……?」

「……なら、アウルがきたえてくれるの?」

「わっちよりも適任が居る」


 のう? と自身の後ろへと声をかける。すると、何時の間にいたのだろうか。

廊下の壁に寄りかかって腕を組んだ状態で立っているバルドがそこにいたのだ。


「……何時から気付いたアウル?」

「ついさっきじゃ。と、この様にわっち以上の実力者も居る。元ぬしに師事を仰ぐのも名案じゃと思うぞ?」


如何する? と目を細めて問いかける様に見つめてくる。

それに彼女はうつむいて目を逸らし、考え込む。


向こうは自分にとっては敵である。

同じニーベルンゲルゲンの欠片を探す同業者だ。

そんな者に指導してもらっていいのか?


悩む彼女に、新たに声をかけて来た者がいた。


「リースリットちゃん!」


それがほのかであった。

彼女はリースリットが部屋から出ていき、後からバルドが出ていくのを見つけたので付いて来たのだ。

そして、彼との特訓と言う案を聞いて彼女に決心を付けさせる一つの名案を思いついた。


「わ、私達もバルドさんに指導してもらう事にしたの!!」

「っ!!」

「はあっ!? おまっ、何言って―――!?」

「私、もっと強くなるから。そして、リースリットちゃんの事、すぐに追い抜いて見せるの!!」

「……そんな事させない」


 そこまで言われて彼女のプライドに火が点いた。

自分がこれまで血ににじむような努力をしてきたのに、そう簡単に追い抜かれてたまるものか。

だが、オーバーリミッツシステムは話に聞けば同等の力を持たねば対抗できない。


独学で力を手に入れるのもまた一つの考えだろう。しかし、それでは彼女に追い抜かれるかもしれない。

――――ならば、答えなど見えたも同然だ。


「……私も指導を受ける」

「はあっ!?」

(ふむ、作戦通りじゃな。クックック、面白くなってきたの)

(あ~……。あのふくろうの罠に掛かったなこりゃ)

(アウルさん、絶対に狙ってましたね……。若、心中お察しします)


 扇子に顔の半分を隠し、堪え切れない口元の深い笑みを隠すアウル。

そんな彼女を見て、二振りの魔剣はそんな事を思ったとかないとか……。


 その後、バルドの奮闘空しく彼はほのか達だけでなく何故かリースリットの指導までする羽目になった。

それに彼は『また面倒事が増えやがった……』と心底面倒くさそうな顔をして頭を抱えたという。



ちなみに、その元凶を呼んだほのかは後でバルドに頬をしばし引っ張られて説教を受ける事になるのだが、それはまた別の話である。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



夜、一人ベランダにバルドが出て来てさくに寄りかかり闇夜の広がる世界を眺め一人呟いた。


「ったく、ほのかの奴め。面倒事増やしやがって……」

[いいじゃねえかよ相棒? 面白そうだからやってやれってウヒャヒャヒャ!!]

「うっせぇぞケルベロス。……ったく、指導する相手が増えるってのはめんどいな」

[そんな事言ってはダメですよ若。ほのかさん達は強くなりたいから若を頼ってるんです。彼女達を拒まずに受け止めてあげましょう?]


めんどくさがるバルドをバハムートがさとす様に説得を試みる。

相棒からの説得を受けて彼は軽く溜息を吐いてから後頭部を掻く。


「……やるしかねえか。問題は山積みだな……」

[嬢ちゃん達の訓練に、魔術大国の不穏な動き。秘石の欠片に異常現象]

[目下の問題は、神樹の森にいるという魔女とその配下の者ですね。若は如何思いますか?]

「あの二人組の騎士の事か……」


 ほのかとリースリットを撃墜した二人組。どちらも相当の実力者の空気をかもし出していた。

そして、現在研究が進められていた筈のオーバーリミッツシステムを使える。


――――まだ解明もされていないシステムをなぜ、彼女達は使えるのか。


そして、あれ程の実力があるのに今まで何処に行ってもその名を聞いた事などないし神樹の森に住んでいたこと事態、バルドですら知らなかった。


「今のほのか達じゃ……まず勝てねえな」

[だろうね~。今の嬢ちゃん達じゃ、まともにぶつかったらあっという間に落とされるね~ウヒャヒャヒャ!!]

[あの者達の実力は相当なものです。今以上にレベルアップをしないと厳しいでしょうね]

「その訓練方法をどうすっかが悩みどころだな」


訓練内容はすでに固まっている。

ただ、彼が教えるのはチームプレーを主としたものだ。


ほのかとフィリスといった何時ものメンバーだけなら特に問題はないのだが、此処にリースリットを加えるとなるとそうとは言えなくなるのだ。


 なんせこっちは仲間の動きを見慣れているからいいものの、リースリットの事は誰も知らない。

それに、向こうもこっちを警戒している節があるから積極的に協力しては来ないだろう。


「そこを切り変えさせないと無理な風にすっかな……」

[それはつまり、若が訓練で本気になるのですか?]

[おやおや、そんな事したら嬢ちゃん達が一時間もしない内に潰れるぜ?]

「加減はする。ただ、全員が一丸とならないと勝てない程度までは上げるつもりさ」


後は彼女達の問題だ。パーフェクト・マーダーの時と同じ様に協力して戦えるのか、それともバラバラに動いて戦うのかは向こう次第だ。


 ただ、自分も少し気を付けねばならないだろう。

なんせ、ほのかとは長い付き合いだし他のメンバーも自分の戦いを間近で見ているのだ。

一寸ちょっとの油断で自分が落とされる可能性がある。


「元ぬしよ」

「……アウルか」


その時、背後から音もなく姿を見せたのはアウルだった。

彼女はいつもの様に主従関係など無視して彼に敬語なしで声を掛けてきた。


「元ぬしよ。あの森で会った者たちはどうするのかえ?」

「それについては一時保留だ。今はほのか達の事だけを考えとけ」

「あの者どもを放置しておけと……? それは無理でありんす。わっちのぬしに傷を負わせたのを放置しておくなど出来ぬ」


 静かなる殺気が背後から沸々(ふつふつ)と湧きあがるのをバルドは感じ取る。

彼女、アウルは普段はなまけ者で自分の主に悪戯する面倒な使い魔である。

しかし、その内には自らの主を命とする確固たる意志が存在し、彼女を傷つけられた事に大層ご立腹なのだ。


長年の付き合いであるバルドは、そんな彼女の心中を察した。


「……やるにしても見張るだけにしておけよ。向こうは本当に敵なのかどうかも分からないんだ。何らかの理由があるかを見極めてから行動しろ」


背後で自分をにらんでくるアウルに振り返って落ち着かせるように語る。

しばし、両者の間で緊張がただい、冷たい夜風が二人の間を通り抜けた。


「……わっちのしもべを飛ばして監視する。それだけはゆずれぬ」

「分かった。だが、深追いはするな。ただ見張るだけでいいからな」

「承知した」


要件を済ませた彼女は闇に溶けて姿を消した。

それを見送ってからバルドは再び前を向いて頭上の星空を見上げる。


満天の星々が瞬いており、黒一色の世界を彩っていた。


「星霊村……。星の彼方より来た者によって守られてきた古きより存在する村、か……」

[あくまで言い伝えです。憶測の域を越えていませんよ]

[だったとしても驚く事はないぜ~? なんせ、世の中には不思議が一杯だ。そんな話が事実だったとしてもおかしな事はないさ、ウヒャヒャヒャ!!]


彼の隣で談笑し合う魔剣達を一瞥いちべつして苦笑する。

そして、おもむろに手を前にかざして掌を上に向け闇の魔力を炎に変えて灯す。


普段よりは小さな炎が灯り、彼は目を細くする。


「闇の魔力素が少ねえな。森の奥地にある神樹が取り込んで別の属性に変換してんのか」

[ほのかさん達は大丈夫そうですが、若やアウルさんが厳しくなりますね]

「別に問題ねえよ。あってもなくても工夫すりゃ戦える」


手の中の炎を握って消す。

今はほのか達のレベルアップを集中しないといけない。

取り敢えず、訓練内容を詰めるか……と彼はベランダから背を向けて部屋に戻っていった。



その頃、ようやく全快したほのかは、フィリスとサヤと一緒の三人部屋でベッドでこの近辺のモンスターをあの分厚いモンスターの本を広げてフィリスと共に調べていた。


「D級モンスター幽乱怪蝶『ベヘモット』に孤高牙狼『サーベルヴォルフ』、呪嶺神亀『フォレストタートル』……?」

「風属性と地属性に光属性……。属性がバラバラなの?」

「神樹の森は闇以外の属性の魔力素が強く集まっているって本で呼んだ事あるけど、モンスターもその影響を受けているんだね。でも、光属性じゃないのはベヘモットとサーベルヴォルフとか他に数種くらいみたいだね」


 生息地別の索引から見つけたモンスターの属性を見てほえ~っとなる二人。

今まで一つの魔力素だけが強くなっていて反対属性が弱体化する現象しか見ていないので神樹の森特有の現象に興味津々の様だ。


その彼女達の会話に机と向き合っていたサヤが顔を向けずに混ざって来た。


「神樹の森は大気中の魔力素が乱れやすい場所で、周囲の魔力素が合流して神樹の力を受けて増幅されてるらしいぜ」

「ふえ? そうなの?」

「ああ。ただ、闇の魔力素だけは神樹に取り込まれて他属性に変換されて少ないんだとよ」

「へぇ~、だから闇の魔力素だけが少なく感じるんだ……。ってか、サヤって物知りなんだね?」


 意外に教養を持っているサヤを見て二人は驚いた表情を見せる。

それに彼女は机上の作業をいったん止めて椅子ごと振り返って違うと答えた。


「中学の地理の授業を受けた時に知っただけだ。お前等もこの時に習うさ」

「サヤちゃんは何してるの?」


ベッドから降りて二人は彼女の脇から机の上にある物をのぞき込む。

そこ広がっているのは、何て事はない。

ただのノートでそこには見た事もない数式がずらりと書かれていた。


「オ、オイ。あまり見るなって…」

「ふえ~、見た事もない数式なの~!」

「中学で習う数学だよ。テメェらもこの頃に習うさ」

「全部正解してるね? サヤって本当は頭がいいの?」

「……あたしが普段どう思われてるかが一発で分かる発言アリガトヨ」

「にゃ、にゃはは……」


 ジト目で見られて引きった笑みをして必死に誤魔化す二人。

ただ、此処で余計なツッコミを入れるとより一層深みにはまりそうな気がしたので一回、咳払いをして話題を変える事にした。


「テメーらも勉強したらどうなんだよ?」

「でも、勉強道具とか全部置いてきちゃったし……」

「小学程度なら教科書なくても大体は分かってるからダイジョウブだぜ?」

「え、全部覚えているの!?」

「まあ、大体はな」


記憶をさかのぼっているのか視線を少し斜め上に向ける。

そして、大体覚えていたのを確認し終えたのか再び視線を二人に戻す。


ほのかとしては最近勉強も出来ていないので、出来れば彼女に教わりたいなと思った。


「サヤちゃん、教えてくれるの?」

「いいぜ。その前に何処まで教わったのか教えてくれよ」

「あっ、それじゃあ私も教えて欲しいな」


二人の後輩のお願いを聞いてサヤは自分のノートを使って教鞭きょうべんを振るう。

それは、夜が深くなるまで続きしばらくの間、その部屋から明かりが消える事はなかった。




ターミナルに眠る新システム。

その名も『オーバーリミッツシステム』。


解明もされていない驚異的な能力上昇をもたらすそのシステムを使える騎士たちの正体は一体何なのか?

そして、ほのか達のターミナルにも同様のシステムが導入されている事実。


使えるようになるにはそれ相応の力をつける必要がある。

学び、そして手にせよ若き少女達よ。


それでは、今後とも宜しくお願いします。

では(゜∀゜)ノシ!!

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