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第二十六話 星霊村

二十六話更新。


第一都市の南にはとある村が存在する。

その村の奥に位置する場所に巨大な大樹を中心とする森が広がっている。


バルドゥス隊から逃れた彼女達は次なる目的地、中央都市に向かう為にその村へと訪れる。


では、本編をどうぞ。



第一都市から南に奔る道の上を竜車が駆けていた。


 竜車とは、竜族モンスターの中でも比較的大人しい草食モンスター『ライディングドラゴン』と呼ばれる緑色の鱗に覆われた二足歩行のドラゴンを使って荷物などを運ぶ車輌の事を呼ぶ総称である。


竜を操るには専門の知識が必要で扱いも難しい。


 しかし、使いこなせば通常の貨物車両などよりもモンスターからの襲撃も少なく安全性が高い。

これは、モンスター界の頂点に位置する竜族を使役しているからだと言われる。

堅い鱗に強靭な爪と牙、口からは火を吹く竜族は多くのモンスターから畏怖いふされているからだ。


故に竜車を操る業者は非常に重宝されており、重要な荷物などを運ぶ仕事を担っている。

そして、危険なモンスターを扱っての搬送だけに給料もかなり高い。


これに目の眩んだ人間は多く、この職に就く人は後を絶たず。

しかし、ぎょしきれずに怒りを買って攻撃されて大怪我するという事が多々発生したりしている。


そんな竜車は第一都市から南に十数キロ離れた場所にある村付近で一時停止する。


「旦那! 見えてきましたぜ。あれが、『星霊村』です!!」

「やっと着いたか」


後ろにある荷台に向かって声を上げる業者。

すると、その荷台のドアが開いて顔を出したのはバルドであった。


続いてひょこっと顔を出したのがほのかだった。

彼女の視線の先には一つの村が見え、その奥には森が広がっていた。

そして、その森の中から一本のあまりにも巨大な大樹がそびえ立っているのが見える。


「あれが次の目的地なの?」

「まあ、次の目的地の中継地点ってところだな」


一同は荷台より降りて此処まで乗せてくれた業者の方を振り返る。


「悪いな。乗車代は本当にいいのか?」

「乗車代を取るなんてそんな!! 恩人からお金を取るなんて出来ねえですよ!!」


そう言って手を前に突き出してブンブンと振る。

一体何があったのかを語る為に時間を少しさかのぼろう。



 第一都市に逃げたバルド達は日が暮れた事から一先ず一夜だけ泊まる宿を探した。

そして、一夜を過ごした後に早朝に第一都市より出発。徒歩で次なる目的地の中央都市へと向けて進み始めた。


 そんな一行の前に現れたのが目の前の竜車で、その時は盗賊に追われていたのだ。

いくらモンスターに畏れられている竜族モンスターでも、相手が草食で大人しい事を知っている人間には関係ない。


 盗賊に追われて今にも襲われそうになっていた彼を見つけたバルド達は救助に向かい相手を瞬く間に蹴散らし、後はバルドが秘匿回線で第一都市の支部へと通報しておいた。


そのお礼と言う訳で業者は自分の向かう場所の道中である村まで乗せてくれたのだ。


「いや~、モンスターには襲われにくい竜車だけど移動速度は貨物車両よりも遅いから盗賊とかの格好の獲物にされやすいんだよね~」

難儀なんぎな人生だな」

「まあ、スリリングがあって楽しいけどね~」


如何やらそんな状況を楽しんでいる御様子。

そんな彼を見てああそうかいと若干苦笑したままで答えた。


むしろ、旦那の方こそ凄い面々じゃないっすか? 美少女だらけ……くぅ~~、うらましいね!!」

「アホな事は寝言だけにしとけ。ほら、そろそろ行かねえと約束の時間までに着けねえぞ」

「おっといけねえ。ついつい時間を忘れちまうとこでした!!」


手綱たづなを握り直してから業者の男は彼等の方を向いて被っていた帽子を上げて礼をする。


「それじゃあ、旦那に皆さん。縁があればまた!」

「ああ、またな」

「お元気でなの!!」


 去っていく竜車に向かってほのか達は手を振る。

それに手だけを上げて業者の姿はどんどん離れて消えていった。


 姿が見えなくなった業者はこのまま険しい道を進んで別の都市へと向かうだろう。

彼の旅の無事を祈りつつも彼女達も己の旅を再開する。


「つーか、本当について来たんだなお前……」

「……悪いかよ?」


ただ、その旅には新たな仲間が増えていた。

それはあの霧島紗耶だった


どういう訳か、街に戻ってから別れた彼女は翌朝になって街の出入り口の前で自分達を待っていたのだ。

そして、彼女は驚く面々にこう言ったのだ。


「あたしも混ぜてくれよ」


と、言った彼女は結局、此処までついて来てしまったのだ。


「ってか、学校は如何したんだよ? 親にも言ったのか?」

「留学するっつって休みを貰った。親父にも許可は貰ってる。外には面白い奴らが沢山いそうだと思ってたんだよ。あんな事ありゃあ行きてェって思いたくなるのも無理はねェだろ」


 今更ながらに聞いてみたが、返ってきたのはそんな返事だった。

かと言って外は危険で一杯なのだ。

まだ、その危険をよく知らない少女が付いて来ていいものではない。


しかし、だからと言って此処までついて来てしまったのに一人帰す訳にも行かない。

選択肢が一つしかない事に、半ば諦める様にバルドは深いため息を吐いた。


「また子守りが増えたって事かよ……」

「にゃ!? それってどういう意味なの!?」

「あたしは自分の身くらい守れるっての」

「だといいがな……。言っとくが、俺だって守れる限界ってのがある。無理な時は自分で身を守れよ」

「テメェに言われなくてもそうするっての」


 背の高いバルドを見上げる形でツリ目の瞳を一層細めて睨みつける。

その挑戦的な瞳をバルドは、もう如何でもいいかのように視線を外して村のある方角を見る。


「取り敢えず村に着いたら今日の宿を探すぞ。その後に今後の道を説明する」


 バルドの先導の下にほのか達は前方に見える村に向かって歩き始める。

そんな中、ほのかがサヤの方へと近づき声をかけて来た。


「あの、サヤちゃん?」

「なんだよ?」


おずおずと聞いてくるほのかに彼女は視線を下に下ろしてそのつぶらな瞳を見つめる。


「出来れば、私とお友達になって下さい!!」

「……はァ?」


何を言ってくるのかと思っていた彼女は予想外のお願いに怪訝けげんな顔になる。

友達……? 友達と言うとあれか。仲の良い人と集まってワイワイ騒ぐあれの事か……。


(友達……。友達ね……)


その言葉を反芻はんすうしつつ、彼女は空をあおぎ見る。

ほのかからは身長の差もあって彼女の様子が分からず、急に黙ったサヤを前に唐突に言った所為で機嫌を悪くさせてしまったのかと思って心配そうな顔になる。


しかし、再び彼女がほのかへと視線を戻した時にはその心配は杞憂きゆうに終わった。


「別に、いいぜ……。あたしなんかでよければよ」

「っ! う、ううんっ!! サヤちゃんだからこそ友達になりたかったの!! ありがとう、サヤちゃん!!」


表情を明るくさせてほのかは笑顔を向ける。

その可愛らしい笑顔を向けられたサヤは照れているのか頬を赤くして、そっぽを向く。


かくして、ほのかはこの旅で新たな友達を得る事が出来たのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 『星霊村』と呼ばれるその村は古き時代よりとある一族がいた。

言い伝えでは、隕石と共にこの星に飛来し、迎え入れてくれた村へ感謝の意を示す様にこの村にいるのだという。

その一族は強大な魔力を宿し、その力を持ってその村を守り続けた。


偉大なる神職だった彼等はその村にある小高い丘の上に屋敷を建て、永き時を生き抜いて来たと言われる。

これからもこの地を守り続けていくのだろうと思われた彼らだったのだが……。

ある時に、とある研究に参加した際に事故に遭い、代々受け継いできた一族の力を持つ夫妻は死亡したと聞く。


そして、その夫妻には一人娘がいたらしいが事件後の消息は不明となっている。


代々自分達の村を守ってくれていた一族が消えてしまってどうしているかと言うと、今では彼等は自分達の身は自分で守ろうと自警団が結成されて日夜警備を行っているらしい。


そんな村にほのか達はやって来て村に足を踏み入れる。


「……………」

「…………」


しかし、そんな彼女達を誰も歓迎する事なく、逆に冷たい視線が方々から飛んで来たのだ。

その気配を感じてほのか達は思わずバルドの傍に寄った。


「バルドさん……」

「無視しろ。気にして周りをキョロキョロしてっと逆に怪しまれるぞ」

「つーかよ。何なんだよこの村の連中。感じわりィな」

「どうしたんだろうね……」


 周囲の視線を気にしつつ彼女達は村の中を歩き回る。

辺りの民家から扉をわずかに開けてこちらを覗き込んで来る者や、彼女達を見かけた途端に家に入って鍵をかける者など反応は様々だった。


そんな村人の反応を気にしないバルドが先頭に立って一同を連れて宿屋を見つけて中に入る。

すると宿屋の店主がおり、彼等を見かけた途端――


「いらっしゃいませ~~!!」


凄く歓迎された……。

今にも涙と鼻水を噴き出さんばかりの満面の笑顔。

輝く笑顔を向けられてバルドは逆に軽く引いて、他の面々はぽかんとした表情を見せた。


「な、なんだ?」

「ひっさびさの客だよ~!! 来てくれてありがとう!!」

「……取り敢えず、部屋を借りたいんだが」

「何処でも好きな場所を選んでくれ!! 幾つ使ってもいい!!」

「じゃあ……二部屋借りていいか」

「二部屋ですね!! かしこまりました!!」


 直ぐに店主は部屋の鍵を出して彼女達を案内し二つの部屋を開ける。

長い間使われていないにも拘らず、部屋は片付いておりほこりはない。


「それでは御用がある時はお呼び下さい」


部屋を後にする店主を見送ってから取り敢えず一室に集まって彼女達はこの村で感じた事を話し合う。


「スゲェ嫌な感じだったな。此処の連中は……宿屋の店主除いてよ」

「どこか余所者を警戒している感じだったよ?」

「この村になにかあったのかな?」

「かもな。けど、それに深く関わるなよ」

「ふえ、なんで?」


首を傾げて聞く。彼女の疑問にバルドは答えてくれた。


「この村の問題は此処だけの問題だ。余所者よそものの俺達が勝手に首を突っ込む必要はねえよ」

「でも……」

「いいか、絶対に首を突っ込むんじゃねえぞ。そんな事すれば、もう後戻りは出来ねえからな」


釘を刺す様に言ってからバルドはおもむろに立ち上がって部屋を出ようとする。


「バルドさん、どこに行くの?」

「食材の買い足しだよ。一人増えたし、少し足さなきゃいけねえからな」

「なら、私も手伝うの!」


買い物の手伝いをする為にほのかはバルドと共に外に出る事にした。

残りの面子めんつは宿屋で待機させて二人は外に出て食材などを売っている店に向かって歩き出す。


二人に突き刺さる冷たい視線。

バルドは周囲からの敵意に怯えているほのかを引き寄せてコートの内側に隠す。


「バルドさん?」

「心配すんなって。何があってもなんとかしてやっからよ」


 なんて事ないという様にこちらを見て安心させる様に言う。

それにほのかも小さく頷いて気持ちを少し落ちつかせる。


ややあって、二人は食材を売ってる店に辿り着く。

しかし、店頭には何も並んでおらず店主の女性は何もせずにただ新聞を見ているだけだった。


「悪いけど、売る物なんてないよ」


 バルドの姿を認めた途端にそんな事を言い放って彼女は再び新聞に目を通し始めた。

それにほのかとバルドは互いの顔を見合ってから何故かと問いかけてみた。


「品がないってのはどういう事だよ?」

「……そのまんまの意味だよ。何もない、だから帰っておくれ」

「なんかあったのか?」

「うるさいね!! 何もないったらないんだよ!! しつこい男だね!!」

「ひうっ!?」


更に問い詰めようとしたバルドに向かって逆上した店主の女性が咆えた。

その大声にビックリしてほのかは彼の後ろに隠れる。


怒鳴られた方のバルドは落ち着いた様子で、しかしその目つきを鋭くさせる。


「あんまり怒鳴るんじゃねえよ。子供の前で怒鳴ってみっともないと思わないか?」

「………帰っておくれ。さっきも言ったけど、なにも売る物なんてないよ」


 しばし睨みあう両者だったが、店主の方が視線を逸らし新聞で顔を隠した。

そこからはこれ以上話す事はないという雰囲気が醸し出されていたのでバルドはほのかを連れて帰る事にした。


「怪しいな……」

「ふえ、何が?」


帰りの道中でバルドが呟いたのに彼の方を振り向く。

あごに手を当てて考える仕草を見せるバルドは彼女を見て説明する。


「あの女店主の反応だよ。あの目つきは他人に対する疑心暗鬼ぎしんあんきだ。あいつ、物を売る気が最初っからねえな」

「でも、だったらどうしてお店をやってるの?」

「さあな……」


 それについては分からないので彼は肩をすくめるに終わる。

此処で調達出来ないとなると現地調達……狩りをしないといけない事になる。


「もし、そこの御仁よ」

「あん?」

「ふえ?」


呼ばれた気がしたので二人は歩みを止めてそちらを見る。

そこには自分達に近づく老人がいて、どうやら彼が声をかけてきたようだ。


「俺達に何か用か?」

「おぬしは、冒険者かの?」

「……だったら?」


そう答えると、老人は彼に向かって頭を下げて来た。


「頼む。魔女を倒してくれぬか?」

「……魔女?」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あやつは凶暴な存在じゃ……。わしらの村を突然焼き始めたのじゃ」


村の村長の家へと招かれた二人はその話を座って聞く事にした。


 なんでも、前にこの村には一人の強大な魔力を持った者がいたらしい。

しかし、ある時にその者は突然村に火を放ち大火事を起したそうだ。


 村の者はその者を追い出し、村の奥にある森の中にある『冥園の墓地』へ追い付めたらしい。

そこでその者を倒そうとしたのだが、なんとその者は墓地から死者をよみがえらせて自分達を攻撃したそうだ。


力でかなわなかった村人は逃げかえり、今もその魔女と言う人物は村の奥にある森に住んでいるという。


「『神樹の森』か……」

「神樹の森?」

「大昔から生きてる大樹が存在する森、だから神樹の森だ。なんでも、悪しき者は近づく事が出来ない強力な結界を大樹自身が発してるらしい。住んでるモンスターも、光属性を宿すもんが多いとかで人に危害を加えるタイプはほとんどいないって噂だ」


 次に通過するところだよ。とバルドは言葉を続ける。

中央都市にはその神樹の森を通る道と、険しい渓谷を通る道との二つが存在している。

彼はその内の片方、神樹の森を通って中央都市に向かう為にそこを使うつもりのようだ。


「村の連中は外から来る者たちを全員、魔女の手下だと思い込んでしまってな……。来る人来る人に疑惑の眼を向けるのだよ。それで此処を通る者もどんどん減ってしまってな、今ではこの有様よ」

「冒険者は他にもいるだろ? そいつ等には話したのか?」

「したとも。おぬし達の前に一組の冒険者が来てな。依頼したのじゃが……」

「負けて逃げ帰って来た、と……?」


そう言うと、村長は勢いよく頭を下げて懇願こんがんする様に頼みこんで来た。


「頼む!! あの恐るべき化け物からわし等を救ってはくれぬか!! 金なら幾らでも出す!!」

「バルドさん! 私達がなんとかしてあげよう!」

「はあっ!?」


急に言って来たほのかにバルドは頓狂とんきょうな声を上げた。


「お前、何言ってんだよ!?」

「だって、村の人はこんなに大変な思いをしてるのにそれを見なかった事にするなんて私にはできないの!!」


 出来る事なら自分達が解決してあげたい。目の前の困っている人を放っておく事なんてできない。

そんな強い正義感からほのかは真っ直ぐバルドを見て自分の意見を伝える。


「それに、村の人を苦しめてるその人を放っておけないの!!」

「そいつを見つけて如何する気なんだ?」

「これ以上、村に何もしない事を約束させるの!!」

「攻撃してくるかもしれないぞ?」

「その時は戦って止めさせるの!!」


バルドの問いに彼女はそう答える。どうあっても解決させたいようだ。


「…………」

「お願いバルドさん!!」

「ワシからも頼む!! あの恐るべき魔女をなんとか退治してくれ!!」

「だぁ~もう分かった分かった!! やればいいんだろやればっ!!」


二人からの懇願こんがんを前にバルドは根を上げてそう返事を返した。


「おおっ、やってくれるか!!」

「バルドさん、ありがとう!!」

「ちっ、なんか乗せられた気がするが……な」


後頭部をガシガシと掻いてそんな事を呟く。絶対に関わるなと言った矢先にこの様な展開が待っていようとは……。

流石の彼でも予想が出来なかった。


(余計な事に首を突っ込んで後で面倒な事にならなければいいんだがな……。こいつだけを連れて歩くのは間違いだったか…)


内心そう思って辟易へきえきする。

本当なら相手に依頼内容を全部言わせてから断る予定だったのだ。


しかし、自分が断りの意を伝えようとする前にほのかが何時もの厄介事に突っ込む精神で依頼を受けてしまった。


―――――これでもう後戻りは出来ない。


 また面倒くせえ臭いがしてきやがった……。

心の中で深い深いため息を吐く彼、その彼の手を村長は取って何度も何度も礼を言って来た。


「ありがとう!! 本当にありがとう!! なんとお礼を言えばいいのか……!!」

勘違かんちがいすんな。俺はコイツの意見を聞いてやっただけだ」


そんな村長の手を払いバルドは少し不機嫌な顔をして答える。

そして、おもむろに立ち上がると玄関の方に向かう。


「帰るぞほのか。これ以上ここにいる用事もないだろ」

「ま、待ってなのバルドさん! あっ、村長さん。失礼します!!」


礼儀正しくお辞儀をしてからほのかも彼の後を追って外に出ていく。

そんな彼女を村長は手を振って見送ったのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



村長の家を出た彼の歩調は速く、ほのかはその後ろを軽く駆け足する形でついていく。

そんな所で彼との年の差を感じつつほのかは彼の横顔を見上げて見る。


そこには少し……いや、かなり不機嫌そうな顔をしていてその足取りもわずかに怒っている様子が受け取れる。


「バルドさん……?」

「……なんだ」


恐る恐る声をかけてみると、案の定不機嫌そうな声で返事が返って来た。


「……ごめんなさい」


それに彼女は顔をうついてしゅんとなり、謝り始めた。

急に謝られたのにバルドは視線だけを彼女へ向けた。


「…なんで謝る?」

「だって、私が勝手な事を言ったからバルドさんは怒ってるんだよね?」

「……それもあるな」


 きっぱりと言われて彼女は一層体を小さくする。

あれほど首を突っ込むなと言われたのにその約束を破ってしまった。

これでは、彼が怒るのも当然だろう。


―――――しかし、次の言葉は怒りの叱責しっせきではなかった。


「けど、俺が怒っているのは別の事だ」

「ふえ……?」


別の事とはなんだろう?

分からない彼女は彼の方を見上げて首を傾げる。


 視線を戻し、バルドはほのかの歩調に合わせる様に速度を落としてくれた。

ようやく並んで歩けるようになったほのかに彼は思っていた事を口にする。


「あのじじい……。事の詳細を上手い具合にはぐらかしやがった……」

「え? どういう事なの?」

「魔女って呼ばれる奴は、如何して村に火を放ったのか……その理由が分からねえ」

「それは、悪い人だからじゃないの?」


 純粋に思った事を口にするほのか。

そんな彼女の発言を聞いて、彼は一度立ち止まる。

ほのかの方を向くと視線を彼女に合わせる様にしゃがんだ。


そして人差し指を曲げ、親指で指先を押さえる様にえて彼女の額へ向ける。


「ていっ!!」

「ふにゃあっ!?」


 ちょっと力を加えて親指を離し反動を使って人差し指を放ち額にぶつける。

所謂いわゆるデコピンと言う他者の額に攻撃するとき最も有効かつダメージを与えられる技である。


ベシッといういい音が鳴りほのかは軽く仰け反る。直ぐに額をガードして追撃から身を守る。

両手でジンジンと痛む額を守りながら涙目になった。


「うぅ……痛いの」

「アホ。物事をそんな単純に考えるんじゃねえよ」


 立ち上がりあきれた表情を作るバルド。

額を擦りながら背の高い彼を見上げ、視線だけで質問をしてみた。


「魔女だけが全部悪いのか?」

「あ……」


彼女の問いにそう答える。それに彼女はハッとなって、額から手を離して痛みを忘れて彼の言葉に耳を傾けた。


「今までこの村に住んでたのになんで急に火を放ったのか、そんな力を持っている魔女をどうして力のない村の連中が森の奥まで追い詰めれたのか。魔女に関する情報やそこに至った状況、肝心なところが全部抜けてやがる」


 いまだ周囲から来る視線に対して彼はにらみをかせつつ語る。

言われてみれば、村長が言ったのは自分達が被害を受けたとしか言っていない。

そこに至るまでの経緯を一切語っていなかったのに気付いた。


「力があるだけで悪と決め付けやがって……。これだから人間ってのは嫌いなんだよ……」


小さく呟くその言葉には少なからず怒気の色が含まれていた。


それはまるで、長年に渡って見て来たかの様に――


「ほのか、行くんだったら必ず戦う事を覚えておけ。その時は、俺が出る。これは冒険者の俺の仕事だ。話し合いが決裂けつれつした時は俺が片付ける、いいな?」

「………」


有無うむを言わせぬ言葉に彼女は黙るしかなかった。

そして話は終わりだとでもいうかのように、彼が宿に向かって一歩足を踏み出そうとした時だった。


「こ、この、魔女の手先め!!」

「ふえ?」


突然の声に二人はその方向を向いた。

そこには一人の老婆がおり、こちらに震える指を突き付けている姿があったのだ。


「ああ……見える!! 見えるぞ!! あの者達が魔女と共にこの村を焼く様が……!! 恐ろしや……恐ろしやっ!!」

「魔女の手先だって…?」

「あいつ等も……」


 その言葉が周りの空間に浸透しんとうする。

すると、疑惑の視線が徐々により一層の重さをかもし出し始め殺気となり始める。

その空気にさらされたほのかは不安になってバルドの傍によってすそにしがみ付く。


「バルドさん……」

「無視だ無視。こんなバカバカしい話に付き合わなくて――」


 しかし、彼が最後まで言う前に石ころが投げられる。それを手で受け、握る。

飛んで来た方を見れば敵意を剥き出しにしている一人の男性がいた。


「出てけっ、悪魔の手先め!!」

「そ、そうだ!! 出ていけ!!」

「出ていけ、この化物めッ!!」


一度火が点くとそれは一気に広まる。

次々に石が二人に向かって投げつけられて来た。


「きゃっ!?」

「…………」


飛んでくる投石物に小さく悲鳴を上げる。

彼女を自分の背に隠し、バルドはその眼光を鋭くさせた。


直後、ゴッという音が聞こえそうな不気味な……いや、恐ろしい気配が辺りを次の瞬間覆おおった。

村民に放たれるのは彼の殺気……。

モンスターを相手にした時に向ける濃厚な殺意のこもった瞳に彼らが投石行為を停止する。


「面倒事は避けてぇが……。連れに怪我をわせる気がそっちにあるなら俺にも考えがあるぞ……っ!!」


静かに語られる言葉にはそれを実行するに値する気迫が乗っていた。全身からあふれるのは彼の魔力。

黒くて禍々しく、それでいて光を呑み込む闇色の魔力は生きているかのようにうごめく。


その様を見て顔色を青くさせる村民は互いの顔を見合った後にバルドをにらんでからその場から一人、また一人と去り始める。


「魔女の手先め……。いずれ、裁きが下されようぞ」


最後に残った老婆が憎々しげに語って姿を消して、遂に二人の前から誰も居なくなったのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「そんな事があったの!?」


 その日の晩、宿屋の食堂で料理を囲みながら話を聞いたフィリス達は二人に起きた出来事に驚いていた。

宿に戻る最中も、ほのかとバルドは村中に広まったのだろう噂の所為で敵意を浴びて戻って来たのだ。


バルドは事の詳細を話し終えて、敵意だらけの視線を思い出したのか半ば飽き飽きしていた。


「こんな面倒くせえ展開になったのもあの野郎が変な事言いやがったからだ」

「そのババアは何なんだよ? 村長じゃねェんだろ? だったら、なんで村の連中は言うこと聞いてんだよ」

「その人はこの村の大ババ様だね」


 そんな会話をしているた時、話を聞いていたのか店主が混じって来た。

バルドが隣を空けるとお礼を言ってから座り、話し始めた。


「大ババ様はこの村じゃ『預言者』って呼ばれてるからね」

「預言者だぁ~?」

「口からデマしか言わねェバカヤロウの事か?」

「いやいや、大ババ様の予言は当たるんだよ。外す方が珍しいくらいだね」

「そんなにすごいの!?」


何でも昔から大きな災厄を予言で当てて被害を最小限に抑えて来たらしく、村長も頭が上がらない様で村人も神様の様な存在と思っているという。


「魔女の出現も大ババ様が予言してな。見事にそれが的中しちまった」


そう語る表情は昔を思い返している様で何処かさびしげな影が浮かんでいた。


「いい子だったのにな……。なんであんな事に……」

「え?」

「いやいや、気にしないでくれ。ただの独り言さ」


首を振って何でもない事を示した後、店主はパッと明るい表情に戻って勢いよく立ちあがる。


「さあさあ!! じゃんじゃんおかわりしてくれよ!! 久々の客人で気合い入れて山の様に沢山作ったからさ!!」

「コイツらの腹の限界を考えて作れよ!?」

「にゃはは……」


 食堂から沢山の料理を持ってくる店主に鋭いツッコミを入れるバルド。

それに一同は苦笑し、出来るだけ食べられるものは食べて日保ちしそうな物は容器に入れてもらった。



楽しい食事を終えて、一行は一時、一つの部屋に集まって今後の方針を決める事にした。


「まず留守番をしてもらったお前等に言っておきたいが、俺が此処の村に来た理由は簡単だ。中央都市に行く為に『神樹の森』を経由しようと思ってたからだ」

「でも神樹の森には魔女がいるんでしょ? どうやって通るんですか?」


アシュトンの疑問はもっともだ。

魔女と呼ばれる人物がすんなりと道を通してくれるとは思えない。

周囲の村人の反応を見る辺り、それが如実にょじつに感じられる。


「そこは、ほのかの考えを聞いてからだな」


そう言って彼女の方を見てくる。

自然と他の者も彼女の方を向いてほのかは視線を一身にびる形となる。


「えっと、此処の村人さん達は困ってるみたいなの。だから、魔女さんに直接会ってこれ以上悪さをしない様にお話ししようと思うの!」

「ええっ!? 魔女に直接会うの!? き、危険だよ!?」

「面白そうだな。 あたしは乗ったぜ」

「霧島さん!?」


ほのかの案を聞いて危険だとさとそうとしたフィリスだが、サヤが彼女の案に賛成する意を見せた。

それにはアシュトンがビックリして声を上げる。


「それによ。どっちにしろこの森を通るしか選択ねェだろ? なら、その魔女って奴に会った方が早いと思うぜ?」

「そ、それはそうだけど……」

「大丈夫なの!! 危ない時は私が皆を守るの!!」


そう言って意気込むほのか。そんな彼女の姿勢を見てはアシュトン達も心を決めるしかなかった。


「そ、それなら僕も頑張らないと! だって二人の先輩なんだから、僕が二人を守るよ!!」

「私はほのかの友達だよ。友達が頑張ろうとしてるのに、私だけ何もしないなんて出来ないよ」

「意見はまとまったみたいだな」


全員の考えが一致した所でバルドが声をかける。

それに全員頷いて応える。


こうして一行は明日、村から神樹の森にいるという魔女に会いに行く事を決めて今日は解散となった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



深夜、村から明かりが消えた頃に村の外にある神樹の森から一つの影がぼんやりと現れる。

それが徐々に明確なものへとなって、そこに現れたのは一人の小さな少女だった。


 桃色の髪に二つのおさげを三つ編みにしており、その上にフリルのついた可愛い帽子を被っている。

その身にはゴスロリチックな服で髪と同じ色を基調としていて、首には一つの首飾りを掛けられている。


 ただ、その服には所々に装甲板が付いていて唯のファッションとは思えない姿だった。

フリルの付いたスカートのサイドにも同様に装甲板が施されている。


「…………」


 辺りを警戒する様に見渡してから彼女は村の中へと入っていった。

静まり返る村の中は薄気味悪さをただよわせており、何処かすたれてしまった光景を連想させる。


 周囲には人の気配すら感じられず家の明かりも消えている。

その真っ暗な夜道を彼女は目的地が見えているのか真っ直ぐに進んでいた。


 しかし、その時だった。突然、周囲の火の消えた燭台が再び火を灯して闇を吹き消す。

同時に道をはさむ様にして建てられている家々から村の男衆が武器を片手に次々に飛び出して来たのだ。


「出て来たな、魔女の手先め!!!」

「今夜も来ると分かってたぞ!! 今度こそ倒してやる!!」


皆、興奮しているのか目が血走っているのが窺える。

殺気を灯す幾つもの視線を浴びる少女だが、その表情は――――


「……ちっ、退けよ。アタシは奥に用があるんだよ」


何処か鬱陶うっとうしそうな顔をしていた。

見た目とは裏腹な口の悪さで虚空に手をかざす。


空間に波紋が生まれてその中央より何かが出てくる。

その取っ手の部分を小さな手で掴み思いっきり引き抜く。


「起きろ、『ミョルニル』」

[Je,Meine Prinzessin]


 しぶめの男性の声が聞こえる。その手にあるのはスコップの形状の得物だった。

取っ手の左右に黄色の宝石が填め込まれており、匙形さじがたのそれも鋭角な三角形をしている。


 その先を地面に突き刺し、彼女は此処に来て初めて敵意を相手に向ける。

全身から黄色の魔力が溢れ彼女の背後にドリルを持つ少女が描かれた紋章が出現する。


「邪魔するってんなら……打っ飛ばす!」


スコップ……『ミョルニル』を引き抜き、村人たちに切っ先を向けてその少女は静かに、しかし内に熱い闘志を宿した目でにらみつける。


そして、ミョルニルを構え彼女は飛び掛かっていったのだった。




第一都市から旅立つほのか達に新たな仲間が加わる。

より一層賑やかになった彼女達がたどり着いたのは、余所者に対して激しい警戒心を見せる村だった。


村に火を放ったという魔女という存在。その人物とはいったい何者なのか?

結局、アンフィスバエナの誤解を解けぬままですね。今後、どうやってこのフラグを回収しよう……。それが思いつかずに頭を悩ませる事態です。


次回、新キャラ登場です!!

それでは読者の皆様、今後も宜しくお願いします!!

では(゜∀゜)ノシ!!

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