第二十四話 再来する黒蠍と軍神襲来
二十四話更新。
黒蠍のビアンカ隊再び登場。
獰猛な戦闘集団は再びほのか達へと牙を向ける。
そして、黒蠍の他に彼女達へと迫る新たな影があった。
では、本編をどうぞ!
「漸く見つけたぜ、泥棒さん達~!」
黒蠍のビアンカ。
魔術大国に存在する一つの王国『クロス王国』に所属する部隊の一角で隠密や暗殺など裏方の仕事をしているとの噂のある者たちだ。
特にビアンカと呼ばれる女性は手に持つ円月刀で数多くの人を葬っているらしく出会ったら最後、命はないとも言われている。
空中から地上へと下りたバルドはゆっくりと二人を降ろす。
そして、自分の背中に腕を回して刺さっている暗具を抜いて地面に投げ捨てた。
新たな傷が出来てそこから鮮血が滲み出て来る。
「バルドさん、血が……!!」
「これくらい平気だ」
「…………」
「お前もだリースリット。敵の俺を一々心配そうに見るな」
顔を青くして見てくる二人の少女を背に隠す様に立って、バルドはビアンカ達の方へ視線を向ける。
そんな彼女率いる部隊が何処からともなく周囲から次々に姿を見せて地上にいる彼女達を取り囲んだ。
「何だコイツら?」
「ビアンカ隊!?」
「まさか、私達をずっと追って来ていたの!?」
「見つけるのに苦労したぜ~……。なんつったけな~……アンフィスうんたらだっけか? あたし達の動きを見張ってたあれから色々と情報吐かせるのには苦労したもんさ」
深い笑みを浮かべて語った彼女の言葉にフィリスは何かに気付いたのかハッとする。
「待って!? 外でやられた仲間って……もしかしてあなた達がやった事!?」
「それじゃあ、僕達が執拗に狙われてた原因を作ったのはこの人達が!?」
「あの遺跡のモンスターが犯人かと思ってたんだが……違ったか」
アンフィスバエナは如何やら近辺をうろついていたビアンカ隊も監視していた様で、彼女達と自分達が関係があると判断したという事だろう。
だから自分達の事を要注意人物と考えて、ほのかとフィリスが縄張りに近づいた事で敵と認識されたという事だ。
「またテメーらか。面倒な奴らに目を付けられたもんだな」
「へへへ!! 逃がさないぜ~剣士さんよ~! この前の決着、此処で付けようじゃねえか!!」
「俺としては面倒だから相手したくねえし、さっさと帰りてえんだけどな」
「つれない事言うなよぉ~? あたしとお前の仲じゃんか~あははは!!」
「だから何時、俺がテメーのお友達になったんだよ」
心底うんざりした様子のバルドとは逆にビアンカは凄く嬉しそうな表情でその鋭い目でバルドを睨んでいた。
向こうに退路を断たれた状態のバルドは已むなしと思ったのかケルベロスとバハムートを手に持ち戦闘態勢に入る。同時にビアンカも手を上げて部下に指示を送り、戦闘態勢に入る。
「待ってバルドさん。戦う前に治療しないと!!」
「そんな時間はねえ。兎に角、ここから先は俺の仕事だ。お前等は大人しくここで待ってな」
「あははは!! 先ずは小手調べだ。やっちまいなお前ら!!」
「はっ!!」
彼女の部下達が一斉に動き出す。
同時にバルドも踏み込む足に力を込めて弾丸の如き速さで地を蹴って駆ける。
バルドを呼びとめる声が聞こえたが無視して彼は単独での戦闘を開始する。
ビアンカ隊の部下は大多数が動きやすさと扱いやすさを考慮したダガー系の武器の様で素早い身のこなしでバルドへ飛び掛かってくる。
「ふんっ!!」
一人目の一撃をケルベロスを水平に振って吹き飛ばす。
次に来る刺突を身を低くして避けて顎を蹴りあげて浮かせると同時にその場より左足を軸に時計回りに回る。
彼の背後から斬りかかろうとしてた一人が攻撃を避けられて顎を蹴られて浮いていた仲間とぶつかる。
その背中をバルドが回し蹴りを叩き込んで二人纏めて蹴り飛ばす。
同時に斬りかかって来た彼等に向かってバハムートを地面に叩きつけて土石を打ち上げる。
足下からの襲撃を受けて彼等は吹き飛ばされ、最後にケルベロスから衝撃波を飛ばして他を攻撃する。
「あははは!! そうこなくっちゃね~~!!」
「ちっ……」
部下達がいい様にやられても怒るどころか嬉々としてバルドに向かって飛び掛かって来た。
彼女の攻撃を受け止めて弾き、逆の手に持つバハムートで斬り返す。
が、ビアンカは軽い身のこなしでその攻撃を避けて着地と同時に円月刀を振るってくる。
「隊長!」
「お前等は今度はあっちの雑魚を殺りな。こいつはあたしの獲物さ、あははは!!」
「はっ!!」
「行かせるかよっ!!」
「残念剣士さん! お前の相手はあたしさ!!」
「くっ!?」
彼女の指示に従い、彼等はバルドからほのか達の方へと標的を切り替えて来た。
ほのか達の下へ行かせまいとしたバルドだったが、ビアンカの自身の急所を狙って放たれる鋭い攻撃を前に防がざる負えなかった。
「ほのか、来るよ!!」
「おい、アイツらも敵って事でいいのか?」
指の関節をポキポキと鳴らし隣にいるアシュトンに声をかけてくる。
それにアシュトンは頷いて杖を構える。
「そうだよ。あの人達はほのか達を狙ってるんだ! 今度もきっと二人を狙ってると思う!!」
「んじゃ、あたしの敵だな。テキトーにぶん殴るわ」
そう言って地を蹴ると彼女の姿が一瞬ぶれて直後に突撃してくるビアンカ隊の面々の前に姿を見せる。
「なっ!?」
「おらぁっ!!」
拳……というより鋭い爪による一撃が炸裂。正面にいた二人を吹き飛ばす。
呆気なく仲間が吹き飛ばされる光景を目の当たりにした彼等は慌てて散開して距離を取る。
「なんだあの娘は!?」
「気をつけろ、並みの敵じゃない!」
サヤを見て警戒の声を上げる。
すると、左側に集まっていた彼等の足下に赤い魔術陣が展開される。
「なっ、これは魔術!?」
「噴き出せ火流!! イラプション!!」
地面が赤く光り盛り上がる。爆発し噴き出すは灼熱の溶岩。
襲いかかる溶岩を浴びて燃え盛る彼等は火達磨となって悲鳴を上げて転げまわる。
「そこ! アクアインパクト!!」
隙だらけの彼等に向けてフィリスが圧縮した魔力矢を放つ。
着弾し大量の水と共に爆発を起こした。
水の力で鎮火したものの魔法攻撃をまともに受けた彼等は気絶。
フィリスを標的とした三名の隊員が地を蹴って高速で接近してくる。
応戦すべく彼女はアクアスパイクを放ち、弾幕を張る。
しかし、彼女の張る弾幕を素早い動きで縫う様に敵は避けて来るではないか。
(動きが速い!? こっちの攻撃が当らない!?)
「水属性の魔法士など、相手ではない」
「死ね、小娘!」
魔力矢の弾幕を掻い潜った三名がダガーを振りかぶる。
しかし、一陣の風が吹いたと思うと気付けば両者の間にサヤが姿を見せたのだ。
「サヤ!?」
「なっ!? バカな、あの距離を詰めたというのか!?」
「テメェらが遅過ぎんだよ」
下段より繰り出される爪、地面を抉る一撃が三名を吹き飛ばした。
直撃を受けた彼等は地面を転がり、動かなくなる。
「もう終わりかよ? 呆気ねェな」
「ありがとうサヤ。お陰で助かったよ」
「別に……。勝手に暴れてるだけだ。勘違いすんなよ?」
フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
意外と素直じゃないんだね……とフィリスは心の中で呟いて苦笑する。
その彼女達を囲む様に隊員が集まる。
「足引っ張るなよ?」
「勿論! 出来る限り援護するよ!!」
敵を爪による攻撃で撃破していくサヤをアシュトンとフィリスが援護する。
そんな彼女達とは別の隊員四名がほのかとリースリットの方へと移動して刃物を向ける。
「リースリットちゃん……逃げて」
「……え?」
自分の前に立った少女を見てリースリットは思わず声を漏らす。
少女、ほのかはウィルの柄を強く握り先を相手に向ける。
「これは私達の問題だから、リースリットちゃんは逃げてなの」
彼等の狙いは自分達の持つ赤の欠片だろう。
秘石『ニーベルンゲルゲン』の欠片を彼等はどういった目的で集めようとしてるのかは分からないが……彼等に渡してはいけないと幼いながらも理解は出来た。
(私は戦う……! バルドさんもフィリスちゃんもアシュトン君もそして、リースリットちゃん達も守る為に私は戦う!!)
守りたいという思いが彼女に再び力を与える。桜色の光が彼女の身体から溢れて全身に纏う。
背後に女神の大きな紋章が出て来て決意を宿した少女は相手を見据える。
「ぬしよ」
「……アウル」
リースリットの隣に使い魔のアウルが降り立つ。彼女は一度ほのかの方を見てから視線を戻した。
「ここは彼等を利用して撤退するとしよう。わっちらも魔力は残り少ない。ここはあの小娘の言葉を甘んじて受けるべきじゃ」
「ん……」
アウルの助言を受け納得したリースリットは小さく頷いてほのか達から少しずつ離れ、離脱の体勢に入る。
「リースリットちゃん!!」
「?」
名を呼ばれ振り返る。そこには笑顔を向ける一人の少女がいた。
「私の名前はね、ほのか!! 皐月ほのか!!」
「…………」
「私、もっと強くなるから!! 強くなって、いつかリースリットちゃんに認めてもらえるように頑張るから!! だからっ、その時は一杯お話ししよう!!」
「……………」
返事は返さずリースリットはアウルを伴って空へと飛行し戦闘エリアから撤退を始める。
逃がすまいと隊員が彼女達を狙おうと投擲武器を投げるモーションに入る。
しかし、そんな彼等をほのかが射撃魔法を飛ばして邪魔する。
「リースリットちゃんには、指一本触れさせないの!!」
「ならば死ね…」
地を駆け接近してくる四人を前にほのかは低空飛行で地上すれすれを滑る様に飛んで交戦を開始。
魔力弾を飛ばして牽制をかける。
一人が前に出て彼女の魔力弾を弾くと続けてもう一人が前に出てクナイの様な刃物を投擲する。
それを最小限の動きで避ける。
そこに左右に並走して来た二名が挟撃を仕掛けて来るではないか。
「ウィル、飛行維持をお願い!!」
[了解しました、マスター]
ウィルに飛行制御を頼み、魔法を発動するのに意識を集中する。
彼女の左右に一つずつ魔力弾が形成される。
渦巻く桃色の魔力弾からは高密度の魔力を感じ取れる。
「弾けて、光の砲弾!! ブライトキャノン!!」
同時に左右に水平発射。寸分狂う事なく圧縮された魔力弾が挟撃しようとしてきた彼等を捉えて胴体に命中。
魔力弾の推進力に負けて一緒に吹き飛び桃色の爆発に呑み込まれた。
「まだなの!! フォトン…ブレイザーーーーッ!!!」
身を翻し背後を向いてウィルを構える。
背後に杖を片手に持つ女神の紋章が浮かんでウィルの先に魔法陣が展開される。
魔力が集中し放たれる砲撃。
真っ直ぐに飛ぶそれは残る二人を包み込み地面に着弾。地面も吹き飛ばす爆発を起こした。
「ごめんなさい! でも、手加減でいないの!!」
気絶した彼等に謝っておいてからほのかはアシュトン達を助ける為に戦闘へと加わった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ほのか達がビアンカ隊と交戦を始めた丁度その頃――
小高い丘、そこに複数の影が見える。
広い高原を見渡せるそこにいるのは甲冑を着こんだ騎士団の様な出で立ちの者達だった。
全員が騎乗しており、そこから滲み出ている覇気は異様なものだった。
「バルドゥス様!! ビアンカ隊を発見しました。現在、五名の何者かと交戦中です」
「うむ、御苦労である」
一番先頭に立つ人物に向かって隊員であろう一名が頭を垂れ臣下の礼をしてから調査報告を告げる。
それに労いの言葉をかけるその人物は白髭を蓄えた老人だった。
しかし、その身は老人とは思えないほど逞しく、全身から溢れる覇気はここにいる誰よりも大きくその眼つきもまた鋭く尖っている。
身に纏う甲冑もまた使い古しなのか所々に傷があり、兜の二本角の一本は折れていた。
跨っている軍馬は上質な金毛をしており、その眼はモンスターすら竦ませれそうな気迫が宿っていた。
「何処をほっつき歩いているかと思えば……この様な場所にいたとはな。まったく、行動は密かにと言っておったのに暴れまわりおって……」
「如何致しますか?」
「閣下がお呼びだ。あの馬鹿者でも閣下の命とあれば大人しくなるだろう」
軍馬ごと振り返り部下達を睥睨する。その手に握られているのは大型のランス。
相手の得物による攻撃を受け流す様に円状になっていて手首まで覆うタイプの物だった。
「行くぞ! まずはビアンカ隊の救助! その後に敵を撃破する!! ワシに続け!!」
「おおお~~っ!!」
馬を伴って彼等は一斉に丘より下り真っ直ぐにビアンカ達の方へと向かって駆けて行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふんっ!!」
「ちぃっ!!」
重い一撃を受けてビアンカは舌打ちして力に逆らわずに後退する。
後ろへ飛んだビアンカを逃すまいとバルドは距離を詰めて追撃を仕掛ける。
「爆砕斬!!」
地面を砕く強力な一撃に大地が割れる。周囲の地面が隆起して足場が崩れる。
浮き上がった土塊を飛び交いなんとか体勢を整えようとする彼女だが、直後に闇色の光が目の前で輝く。
「これでもくらってろ!! 魔王獄炎破ッ!!」
「うがあっ!?」
闇の炎による斬撃が放たれる。
扇状に広がる一撃は目の前にある土塊という障害物を焼き尽くしながらビアンカへと迫る。
防御の体勢に入った彼女にバルドの一撃が命中。
爆発が起きて黒煙を破って彼女が地面に墜落する。
「がはっ!? ちっくしょう……!!」
「これまでだな」
起き上がろうとする彼女の喉元にケルベロスを向ける。
そんな彼を憎悪の篭った目で見上げ睨みつける。
「お前……生意気だ!! ぶっ殺す!!!」
「冗談は性格だけにしろ。お前みたいな奴に追いかけ回されるのは面倒だ。諦めて自分の故郷に帰るんだな」
「ざけんなよぉ……。テメーだけはあたしがブチ殺す! あのガキ達も殺してやるよぉ!!」
「………一つだけ言っておく。俺を殺す殺すというのは好きにしろ。けどな、うちの連れを殺すってんなら容赦はしない。あいつらに危害が及ぶならいま此処でお前を殺す」
ケルベロスを振り上げ、今までにない冷徹なまでの顔を見せバルドは彼女へ別れの言葉を述べた。
「これで終わりだ。来世はもっとまともな生き方を選びな」
しかし、それが振り下ろされるその時だった。
土煙を上げて一騎の騎兵が突撃して来たのだ。
「させんぞーーーっ!!!」
「っ!? ……くっ!!」
猛スピードで突撃を仕掛けて来たその者がランスを突き出す。
軍馬の勢いも加わった一撃を咄嗟に受けるバルドだが踏ん張りきれずに体が浮いて弾き飛ばされる。
地面を軽く跳ねるが、途中で体を捻って体勢を変えて足から着地して襲撃して来た相手を確認する。
「新手か!?」
「うちの若い衆をこれ以上はやらせんぞ」
見た目は年寄りに見えるがその眼に宿る生気は未だ衰えている素振りは見えない。
逞しい体躯にそれを乗せる金毛の軍馬。
そして、その両肩に描かれているのはクロス王国の象徴である真紅の十字架。
「クロス王国の回しもんか……」
「突然の一撃は詫びよう。だが、うちの若い衆をこれ以上やらせる訳にはいかぬ」
「バルドさん!!」
「増援!? 待っててバルド。今すぐに援護しに行くから!!」
彼の危機に気付いたほのか達が慌てて助けに行こうとする。
しかし、その彼女達を遮る様に多数の騎馬隊が現れて立ちはだかって来た。
「悪いが、バルドゥス様の邪魔はさせん!!」
「ふえっ!?」
「なんなの、あなた達は!?」
「バルドゥス……? そうか、お前があのバルドゥスか」
隊員の一人の言葉にバルドは何かを思い出したのか目を細めて武器を構える手に力を込める。
「一昔前に起きた魔術大国と魔法共和国の大戦争で幾つもの軍功を重ねた伝説の軍人。多くの化学兵器が生まれる中でただ一時も騎馬から降りる事なく軍馬と共に戦場を駆けた男……『軍神 バルドゥス』か」
―――――軍神バルドゥス。
過去に起きた魔法共和国と魔術大国がある経緯を境に一時的な戦争状態に陥った時、魔法共和国に大打撃を与えた人物だ。
その戦い神出鬼没なり。
ただ一度も馬から降りて鋼鉄の車や魔導機に乗る事はなく、軍馬と共に戦場を駆け抜け、数々の作戦を成功に導いた魔術大国の英雄と言われている。
馬上から繰り出される槍の一撃は強力の一言。多くの者がその一撃を前に命を散らし、天へと消えた。
故に彼の事を畏敬の念を込めてこう呼ばれている『軍神』と……。
そんな彼だが、噂では過去に一人の人物の前に敗走した事があるらしい。
その人物が誰なのかは分からないが、曰く『奴の性格なら今は軍人ではないだろう』と語る。
「軍を辞めて行方を眩ましたって聞いてたが……まさかクロス王国に身を置いてたとはな」
そんな彼はバルドの姿を見るとその猛禽類の様な鋭い目を更に細めて馬上より見据える。
「鮮血の様に紅い真紅の髪に月を連想させる金色の瞳。身の丈を超える二振りの大剣を軽々と持ち、闇の如き漆黒の衣を身に纏う男……。どこかで見覚えのある風体だな」
「………人違いじゃねえか。俺は、唯の冒険者だ」
ケルベロスの切っ先を向けて戦闘態勢に入る。
それにバルドゥスもまた騎手をかえて向き直る。
「お前達、ビアンカとその部下を押さえておれ。その状態ではまともに戦えぬ。下がらせておけ」
「はっ!!」
「てめっ、離せ!! そいつはあたしの獲物だ!! あたしにぶっ殺させろ!!」
両側に立つバルドゥスの部下達が彼女達を押さえ、後退する。
安全を確保した所で彼はランスを持ち直してバルドの方を睨む。
「行くぞ、黒の剣士よ!!」
[若、来ます!!]
[ボッコボコにしてやんよ~ウヒャヒャヒャ!!]
「なんで立て続けにこうも面倒な事が起きだかな……」
彼の意志を感じ取ったのか馬が嘶き、地を蹴って突進する。
その速さは予想以上に速く、あっという間に自身の攻撃の射程範囲にバルドを捉えていた。
「はぁっ!!」
「くっ!?」
馬上より繰り出された槍の一撃が喉を狙って放たれる。
それを彼は受け止めるが、受けたと同時にその身体が後ろに大きく押されたのだ。
[おおっ!?]
[バカな!? 若が力負けしたですって!?]
「伊達に長年馬上で戦った訳ではない!! この老いぼれ、そう易々と負けぬと知れ!!」
「……上等だ。なら、その馬上から叩き落としてやるよ!!」
グッと力を込めたバルドが相手のランスを押し返しすぐに逆のバハムートで反撃を繰り出す。
しかし、その攻撃を弾かれた槍を素早く回して持ち直して防いできた。
「させんっ!!」
「これに反応するか!」
「受けてみよ、騎戦槍!!」
大きく後ろに下がると同時に驚異的なダッシュで突進を仕掛ける。
バハムートで受けるが、大きく後ろに吹き飛んだ。
「バルドさん!?」
初めて見る光景にほのかが声を上げる。
彼があそこまで押し返されるのは今まで見た事がなかった。
――――このままでは、彼が危ない!!
助けに行こうと自然に思ったほのかだが、彼女の前にバルドゥス隊の隊員達が阻む様に立ち塞がる。
「バルドゥス様の邪魔はさせん!!」
「相手が女子供だろうと我々は容赦はしない。騎士たるもの、常に全力で相手を致す!!」
馬と共に突進してくる隊員がほのかを狙う。
その槍を彼女は飛行魔法を使ってギリギリ避ける。
そのまま水平に飛行して距離を取ろうとするが、その彼女に並走する様に一騎が駆けていた。
「ふえっ!?」
「受けてみよ!!」
「にゃあっ!?」
繰り出される槍の一撃。それを身を捻じって避ける。
すぐに反撃の魔力弾を撃つが、相手は減速しつつ離れる様に馬を操って魔力弾を避けていった。
同時に反対から別の一騎が並走してきてほのかに肉薄する。
「隙だらけだ!!」
「っ!?」
[ディフェンシブ!!]
避けきれないと判断したウィルが瞬時に防御魔法を発動する。
そこに刺突が当り、ほのかは弾き飛ばされて地面に落ちて転がる。
「あうっ!?」
「ほのかっ!?」
「大変だ! 急いで援護を……!!」
「その前にテメェはテメェの身を守りやがれ!」
激しい騎馬隊の攻撃の嵐を前にフィリス達は動けないでいた。
休む暇もなく立て続けに来る相手の攻撃は規則正しく、また仲間の隙を埋める様に突進してくる。
ほのかを狙うのは二名の隊員。それを相手にほのかは必死に応戦を続ける。
しかし、立て続けに起きる戦闘で彼女の体力は殆どない状態だった。
「はあ、はあ、はあ……!!」
[マスター、大丈夫ですか!?]
「だ、大丈夫なの……!! まだ、まだ戦えるの!!」
そうは言うが、彼女の顔色は悪い。
珠の様な汗が滲んでおり、息も荒い。
だが、その眼に宿る不屈の意志は燃え尽きてはいなかった。
「バルドさんに今まで守って来てもらって来た……。今度は、私が守る番なの!!」
もともとないに等しい体力に喝を入れて少しでも多く出そうと己を鼓舞する。
彼女の身体に淡く光る桜色の光が再び纏い始める。
「負けられない……。負けられないの!! だから……!!」
無くなりかけていた魔力が再び溢れ始める。
そして、周囲にある魔力素が徐々にほのかの下に集まり始めてくる。
徐々にその光は強さを増していき、はっきりと分かるくらいのものになった。
「な、なんだこれは!?」
「ぬ?」
「私は負けられない……。私は、リースリットちゃんとお話が出来る位に強くならなくちゃいけないの!!」
彼女の意志に応えるかのように彼女に大気中の魔力素が集束を始めた。
そして、次の瞬間。一瞬だけ光が辺りを照らして、濃い霧が発生する。
その中で立ちつくす彼女の前に小さな小さな小人が現れてこちらを見てニコッと笑ったのだ。
「ふえ? あなたは……」
『………!!』
その存在を認めた途端に、小人が光を放ち弾けた。
光の粒子はそのままほのかへと流れ込み身体に取り込まれていった。
すると、尽きかけていた彼女の魔力が全快まで回復したのだ。同時に霧が晴れて元の景色に戻る。
「えっ……? 魔力が、戻った……?」
「何だ!? なぜ、奴の魔力が回復している!?」
「いまの一瞬に、一体何が起きたんだ!?」
狼狽する彼等。
そんな彼等を気にせず、ほのかは先ほどの小人を思い出す。
何を言ったか分からない。
だが、彼はきっとこう言ったのだと思う――
―――『頑張れ』と……。
[魔力回復。マスター、これならいけます]
「うん。行くよウィル!! バルドさんもフィリスちゃんもアシュトン君もサヤちゃんも、皆を守るの!!」
[了解です、マイマスター]
彼女の足元に魔法陣が展開される。
背後に翼を生やす女神の紋章が出現し、杖に先に魔力が集まる。
「ホーリーシューター! シューーット!!」
周囲に魔力弾が形成されて一斉に射出される。
それを隊員達は馬を操って上手くかわすが、避けられたそれはターンして再び襲いかかって来た。
「誘導式魔法だと!?」
「小癪な!」
戻ってくる攻撃を彼等は槍で弾いて凌ぐ。
そこにほのかが飛んで来て彼等の間で真上に飛翔、頭上を取った。
「痛かったらごめんなさい!! ブライト、キャノン!!」
誘導式魔力弾に気を取られている内に先に準備していたブライトキャノンを発射。
圧縮した一発の魔力弾が撃ち出され反動で大きく杖が跳ね上がる。
頭上から落ちてくる魔力弾を前に避ける事など叶わず、炸裂する桃色の閃光の中に包まれていった。
直後に爆発が起きて、地上に桃色の光のドームが発生した。
光が消えると、そこには身に纏う鎧が損傷した状態の彼等がいた。
気絶までは至らなかったようだが、それでも大ダメージを与える事が出来た様である。
「おのれ……。これ程の一撃を放てるとは……」
「これ以上のダメージを受けたら後の行動に大きな支障をきたしてしまう。バルドゥス様、申し訳ありません撤退します!」
苦虫を噛み潰したような顔をし、馬首をかえて撤退する隊員。
仲間が追い返されたのに気付いた他の隊員達は急にほのかが復活した事に驚いている様だった。
フィリス達の下に彼女はそのまま飛行していき着地する。
「へェ、やるじゃねェか」
「魔力が回復してる……。ほのか、一体なにがあったの!?」
「私にもよく分からないの。でも、誰かが力を貸してくれたの」
「どういう事?」
「まぁ、いいじゃねェか。これでまともに戦えるんだ。そろそろ、反撃しようじゃねェか」
指の関節をポキポキと鳴らして爪を見せるサヤ。
そこには獰猛な笑みが浮かんでいた。
「よくも我らの仲間をやってくれたな! 覚悟しろ!」
「それは……こっちのセリフだァァァ!!!」
「どおぉ~~!?」
突進してきた一名を爪の一撃を突き出された槍に当て馬ごと頭上に弾き飛ばした。
予想外の出来事に受け身も取れずに彼は愛馬と共に地面に叩き落ちる。
ビックリした馬が直ぐに起き上がって混乱してるのか周囲を駆けまわる。
気絶した隊員の着ている鎧には爪の痕が残されており、堅い装甲が裂けていた。
「な、なんだ今のは!? 爪の一撃で吹き飛ばしたのか!?」
「何という力だ!? まるで……鬼じゃないか!?」
「覚悟しろよテメェら……。今度は、こっちの番だ!!」
「行こう、フィリスちゃん!!」
「うんっ! 分かったよほのか!!」
「援護は任せて三人とも!!」
初手で混乱を見せた彼等に向かってサヤが突撃する。
それに続いてほのかとフィリスも飛行魔法を使って追いかけ、アシュトンが後方で魔術の詠唱を始めた。
「ぬ!? あの娘達、なかなかやりおる!」
その様子に気付いたバルドゥスがほのか達の方を見てその眉を軽く上げて驚いた表情を見せた。
自分の鍛え上げた若い部下達が体勢を崩され始めているのが窺える。
(ぬぅ……。やはり、新兵だけを連れて来てしまったのは誤算であったか!! 一筋縄ではいかぬか魔法共和国!!)
「おい、余所見してていいのか軍神さんよ!!」
「うぬっ!?」
そこにバルドが大剣を振り下ろして来る。
咄嗟に槍で受け止めるが押し負けて初めて彼は馬ごと後ろに下がる。
「一時はどうなるかと思ったが、あいつらも少しは成長してるって事か」
[あんな姿を見せられちゃ、俺達もやる気を見せなきゃいけねえよな~相棒? ウヒャヒャヒャ!!]
[さて、若。これから如何致しますか?]
「決まってんだろ」
二振りの大剣を構えその刀身に漆黒の炎を纏わせる。
そして、不敵な笑みを浮かべその月の様に金に輝く眼に相手を映した。
「軍神さんにはそろそろご退場願おうか」
「闇色の魔力光……!? 闇属性持ちか!!」
駆けだすバルド。一気に距離を詰めて相手に超重量のバハムートによる一撃を叩き込む。
受け止めるバルドゥスだったが、その一撃の衝撃を腕に感じた途端に眉を顰めた。
(ぬぅっ!? 何だこやつの力は!? 明らかに先ほどよりも上がっている!!)
老いても尚、力比べでは若者には負けない自信があった。
だが、今の自分よりも目の前の男の力が上回っているのを感じ兜越しに表情を厳しくする。
その状況を察したのか彼の愛馬は急に馬首を下げて後ろに跳躍。
バルドの一撃がするりと抜けて地面を叩きつける。
その瞬間、彼の剣の切っ先が落ちた場所を中心に地面が大きく陥没してクレータが出来た。
(これ程の武人、久々に出会ったな。これは……油断すればあっという間に大地の肥やしになるやもしれん)
その光景を見て恐怖するどころか冷静に状況を確認して一層身を引き締める。
バルドは剣を地面から抜いて肩に担ぐようにかけて相手を見据える。
「これからが本番だ。うちの連れに手を上げる奴がどうなるか、身をもって教えてやるぜ!!」
[ヒャヒャヒャ~~!! ひっさびさに相棒がやる気になったぜ!! こりゃ面白くなってきた~~!!]
[若の実力、貴方にお見せしましょう。大国の軍神よ!!]
全身から漆黒の魔力が溢れだす。
まるで、大蛇の様にうねるそれは無数の真紅の眼を宿し、縦に裂けた大口を開けて咆える。
この世の全てを呑み込むのではないかと思わせるその禍々しい姿をした蛇。
それが彼の両手の剣に纏わり付き、バルドは二振りの魔剣を構え直し再び軍神へと向かって突撃を開始した。
ほのか達がギルドに狙われた理由、ビアンカ達の仕業だったりする。
新たなる敵『軍神 バルドゥス』登場。
鍛え上げられた騎馬の力を駆使してバルド達に襲いかかる。
二転三転する戦闘を前に、ほのか達は耐えきる事が出来るのか。
それでは、今後とも宜しくお願いします。
では(゜∀゜)ノシ!!




