第二十三話 VS 黄の欠片 苛烈なる硝煙 パーフェクト・マーダー
二十三話更新。
欠片の力により完全体となったマーダーを相手に奮闘するほのか達。
重火器を多数搭載する強敵を前に、彼女達に勝機はあるのか。
では、本編をどうぞ。
大空高くで激しい空戦が繰り広げられている。
合体変形した秘石『ニーベルンゲルゲン』の黄の欠片を宿したマーダー、通称『パーフェクト・マーダー』はその巨体に見合わず高い機動性で彼女達と互角の戦闘を交わしていた。
「アシュトン、サヤ!! 足場は俺が作っといてやる。無理して落っこちんじゃねえぞ!!」
フィリスの治癒のお陰で傷を癒し戦闘に復帰したバルドが、闇の足場を幾つも空中に作り展開した。
その足場にサヤとアシュトンは上手く飛び乗って移動用に使う。
「鬼刃爪……!!!」
サヤが腕を振るうと爪による斬撃が飛ばされる。
その一撃を横にスライドして回避したマーダーは直ぐにミサイルによる迎撃を行う。
自分に向かってくる弾幕を彼女は跳躍してかわす。後を幾つかが追いかけて来て空中で身を捩じって避け、内一発を避けると同時に手で掴んだ。爪が刺さり、ミサイルの外装がへしゃげる。
「返すぜ……オラァ!!」
空中で体を捻って全力で投げ返す。ミサイルが撃った持ち主へ猛スピードで突撃し、着弾。
爆発を起したが黒煙の中から赤い瞳が灯る。
煙を吹き飛ばし、装甲に僅かな焦げ目を残したマーダーが姿を見せる。同時に両腕のアームを彼女へ向けて連装ガトリングガンで応戦して来た。
舌打ちをして彼女は今いる足場より飛び降り、下方にいるほのかと合流。
ほのかが魔法障壁を上に展開してサヤの足場を作ってやり、彼女はそれを蹴って別の足場に飛び移る。
「我が呼び声に応えよ、駆け抜ける獣、ストームレオパルドッ!!」
アシュトンの前に大気中の風が集まり巨大な豹が姿を見せた。
鋭い牙を見せて風の豹は咆哮し、マーダーへと飛び掛かる。
風の中級魔術に位置するアシュトンオリジナルの風魔術がマーダーへと挑む。
鋭い爪と牙で襲いかかる相手をマーダーは身体を回転させて振り払う。
空中に軽やかに着地した豹は消える事なく再び飛び掛かる。
アシュトンの使ったストームレオパルドは魔術にしては珍しい『永続系魔術』だ。
永続系は術者の魔力が尽きるか、解除されるか、破壊されない限り続く。
[撃メツ……]
執拗に飛び掛かり自身の装甲に傷を付ける豹が鬱陶しくなったマーダーが隠しブレードを展開。その刃が赤く赤熱し、熱を帯びたそれを振るう。
直撃し、ストームレオパルドが断末魔の雄叫びをあげて風となって霧散した。
[敵ヲ排除スル……]
今度は大量の魔力弾が撃ちだされ、一斉にアシュトンに向かって突撃してくる。
「させないよ!! メロー、アクアスパイク!!」
間にフィリスが滑り込み、弓を構える。一本の魔力矢が手に収まり、それを構える。
彼女の背後に弓を構える羽根帽子を被った人魚の紋章が姿を見せた。
矢を放つ。
空を飛ぶ矢は途中で無数に分かれて大量の矢となり襲い来る敵の魔力弾を次々に相殺していった。
その間に本体が接近をしてきてフィリス達にブレードで斬りかかって来た。
「俺の存在を忘れちゃ困るぜ!!」
[いらっしゃいませ~~ヒャッハーーッ!!]
割り込んできたのはバルドだった。ケルベロスで相手の振り下ろした刃を受ける。
重量のある一撃を彼は一歩も退く事もなく受け止めている。
そして、押し返して弾き上げる。
後方に僅かに下がったマーダーを次に待ち構えていたのは複数の水流だった。
「捉えたよ!! アンブッシュトーレントッ!!」
多方向から魔法陣より水流が放たれ、枝分かれして次々に着弾して爆発を起こしていく。
「わっちも加わろう。黒扇連墜!!」
黒き旋風が頭上より塊となって幾つも降り注ぐ。
マーダーの体に次々に激突し、その装甲を凹ませる。
そして、追撃を加える様にほのかとリースリットが接近する。
「レイジングスマッシュ……ッ!!」
「フォトンブレイザーーー!!!」
神速の閃光となったリースリットが高速で通り抜ける。
駆け抜けざまに雷の斬撃が決まり、続けてほのかの砲撃が直撃して爆発を起こした。
その頃になって漸く捕縛魔法を破壊して自由の身になる。
「闇の鉄槌よ、彼の者を絶望の淵へと落とせ……」
しかし、頭上に闇色の魔術陣が展開される。そこから感じるは大型の魔力。
それを詠唱しているのはバルドだった。
身の危険を感じたマーダーは急いでそこから逃れようとする。
「グラビティフォール!!」
だが、一足先にバルドが魔術を発動。
相手の頭上にある魔術陣を中心に広範囲に重力攻撃が始まった。
上から叩きつけられる強力な荷重を受けてマーダーは徐々に降下し始める。
耐えていたマーダーだったが、遂に浮上し続けられなくなり地上に向かって物凄い勢いで墜落する。
重力魔術も加わった力を前に姿勢制御も儘ならず、地面に激突して大量の砂塵を巻き上げた。
「地上に降りるぞ」
「や、やっと降りれるんだね……」
「あたしはやっぱり空より地面の方がイイぜ」
全員が地上に降りる。同時に砂塵からマーダーが姿を現し、電子音の咆哮を上げる。
両腕のアームが動き出し、ガトリングガンが鉛弾の雨を降らす。
全員が散開してバルドとほのか、リースリット、サヤが前線へと駆ける。
中衛にアウルが立ちその後方にフィリスとアシュトンが立つ。
接近してくる四人を排除すべく機銃掃射で応戦してくる。
それを上手く体を捩じってかわし、ケルベロスで弾く。
その背後からリースリットが飛び出す。同時にバルドがケルベロスを水平にすると、意図を読んだ彼女はケルベロスの腹の上に着地する。
「行って来い!!」
「ふっ……!!」
打ち出される彼女が弾幕の間を飛び抜ける。金の閃光が一筋通り抜け、背後に着地する。
遅れて斬撃と電撃が奔り、マーダーはダメージを受ける。
直ぐに背後にいるリースリットを狙おうとしたが、続けてほのかの魔力弾が着弾していき意識がそちらに向く。そこにサヤが駆けて爪による一撃を繰り出し、重い体が浮き上がる。
「淵王…灰塵破!!」
最後にバルドが接近して漆黒の炎を纏わせたケルベロスを叩きつけてマーダーを弾き飛ばす。
地面を撥ねるそれは直ぐに体勢を変えて逆関節の脚を展開して地面を削りながら止まる。
[ラー……アルム……トール……!! コール……フィアフル!!!]
搭載されていたミサイルポッドよりマイクロミサイルと魔力弾が次々に撃ち上がる。
頭上に飛んだそれらは軌道を変えて地上にいる面々に振って来た。
「にゃあっ!?」
「っ!?」
自分の周りに次々に落ちてくる攻撃を前にほのかとリースリットが身動きが取れない状態になる。
「怒涛の岩槍、ロックランス!!」
そこに二人の間から土で固められた突起が幾つも飛び出して頭上で交差する様に集まる。
まるでドームの様に展開された土の槍が盾となり、降り掛かるミサイルや魔力弾の攻撃から彼女達の身を守ってくれた。
「あ、ありがとうアシュトン君!!」
「どういたしまして!!」
遠くにいるアシュトンにお礼の声を上げる。
その彼に向かって今度はマーダーが機銃掃射を仕掛ける。
そこから横に飛んでかわし、フィリスが水の魔力矢を飛ばす。
降り注ぐ矢だが、全てその装甲の前に弾かれてしまった。
「やっぱり防御が高過ぎる……。私の魔法じゃダメージが通ってない…」
[フィリス、もっと威力の高い魔法を使わないと駄目な様です]
「そうは言われても。どうすればいいの!?」
[イメージするのです。強い一撃を放つ魔法を!! フィリスになら出来ます]
「イメージ……」
目を閉じて精神を集中させる。脳裏に自分の理想とする魔法を思い描く。
全身から魔力が溢れ、彼女の背後に羽根帽子を被った人魚の紋章が現れる。
弓を片手に持ち弦を大きく引く姿をした人魚は目付き鋭く相手に向けて矢を構えていた。
フィリスもそれに倣う様に弓となっているメローを構え矢を添える。
「打ち砕け、水圧!! アクアインパクト!! ブレイク、シューーット!!」
一本の矢が放たれる。魔力矢は徐々にその体積を増していき、猛スピードでマーダーへと飛んで行く。
水色に輝く矢が見事、ど真ん中に突き刺さり爆発を起こした。その衝撃に敵が初めて明確に怯んだ様子を見せたのだ。
「やった……!!」
[命中ですフィリス!]
「フィリスちゃんすごいの!」
「新しい魔法が使えるようになったみたいだな。お前も負けてられないんじゃないか?」
「うんっ! 私も頑張るの!!」
フィリスの奮闘する姿を見て意気込むほのか。
だが、前方にいたマーダーの動きに変化が見られた。
姿勢を僅かに落としたと思うと胸部が開き、そこから大きな筒状の物体が出て来たのだ。
その筒にエネルギーが収束を始め、不気味な光が溢れだす。
「ふえ?」
「何だアレ?」
「っ!! 不味い……全員あいつの射線上から離れろ!!」
次の瞬間、そこより強力な砲撃が放たれる。
大質量のビーム攻撃が真っ直ぐに飛んで来た。
目を見開いて驚く面々は急ぎその場から左右に飛んで避ける。
射線上からギリギリ逃れた彼女達の眼前を大型ビームが通り過ぎていく。
そして、先にあった林に突っ込んで炸裂。木々を消し飛ばす大爆発を起こしてキノコ雲が立ち昇った。
[おいおいおいおい!?]
「当ったらやばそうだな」
[冷静に分析してる場合ですか若!? どう見てもあのモンスターの持つレベルのものではありませんよ!?]
想定外の攻撃を見せた相手に魔剣も流石に驚いてる様子。
ほのか達もその攻撃を前に呆然とした様子で見ていた。
「い、一撃……!?」
「これを、さっき都市に向かって撃とうとしてたの……」
もしあの時撃たれてたら、そこに住んでいた人達が如何なっていたか想像に難くない。
向こうはまだその気がある筈だ。もし、自分達を振り切ったら真っ先に都市へ攻撃を敢行するだろう。
「そ、そんな事させないの!!」
「こんな事が許される訳ないよ!! 絶対に止める、止めて見せる!!」
[ゲキ滅……]
攻撃が外れた事を気にもせずに胸部に砲塔を戻して再び機銃やミサイルなどで攻撃を仕掛けて来た。
より一層激しさを増す攻撃を前に彼女達は近づく事が難しくなる。
[若!! 先ほどよりも攻撃が激しくなってます!!]
「向こうは完全に本気になったって訳だ。ちっ、面倒くせえ」
「バルドさん……!!」
苛烈になる攻撃の中でほのかがバルドの隣に来た。
その眼には未だ戦う意思が強く残っている。同時に彼女は何かを考えついた様な様子も見られた。
「何か策があるのか?」
「ちょっと思いついた事があるの。でも、それには……」
奮闘するリースリットとアウルの姿を見る。つまり、二人の力も必要という事なのだろう。
一方、リースリットの方も決定打に欠けている事を実感していた。
(あれを使うしかないかも……)
いままで使用を控えていたが、此処まで来ると流石に苦しくなってきた。
あれを使えば、倒す事が出来るかもしれないと考えていた。
ただ、それには先も言った様に決定打に欠けている。
「リースリットちゃん!」
そう思っていた所であの子に声を掛けられた。
一度アウルに相手を頼んで後方に下がると代わりにという風にバルドが前に出た。
擦れ違いざまに「前は任せてゆっくり話な」と言ってアウルと共にマーダーに挑んで行った。
その二人を援護する様にサヤとフィリス、アシュトンが攻撃を仕掛ける。
そんな中でほのかの下にリースリットは降り立つ。
「なに……?」
「リースリットちゃん、ここで勝負をかけてみよう!! その為には、リースリットちゃんの力も必要なの!! お願い、力を貸して!」
「…どうすればいい?」
自分の考えを汲んでくれたのかそう聞いて来た。
それにほのかは自分の思っていた事を彼女に説明し始める。
その間、バルドとサヤ、アウルが前線で相手を引き付けていた。
激しい攻撃をやり過ごし、隙を見ては反撃を仕掛けて危ない時は避け続けていた。
「バルドさん、サヤちゃん!!」
そこにほのかとリースリットが飛んでくる。
彼女と視線を交差したバルドは頷き、ケルベロスとバハムートに闇の炎を纏わせて相手の隠しブレードによる攻撃を弾く。
同時にアウルとサヤが風の塊と爪の一撃を叩き込んで吹っ飛ばす。
「作戦は決まったのか?」
「うんっ!! でも、こんなので良かったのかな……」
自分の案に不安を感じるのか俯く。
その彼女の頭に手を乗せて少し乱暴に軽く撫でた。
「心配すんな。フォローはしてやる。お前は、リースリットと一緒に協力して倒すんだ」
「……」
見上げてくるもう一人の金髪少女に、バルドは同じ様に手を乗せてやり撫でた。
「リースリット、お前も頼むぞ」
「……うん」
少し驚いた様な表情を見せていた少女は小さく頷いた。
それにバルドはよしと答えて二人から手を離す。
「さて……とっとと片付けるぞ。サヤ、アウル、アシュトン、フィリス!! 奴の動きを抑える、俺に続け!!」
「任せてバルド!!」
「任せな!」
「で、出来る限り頑張ります!」
「ふむ、了解した」
ほのかとリースリットを置いて五人が前線へと駆け出した。
バルドが最初に仕掛け、ケルベロスとバハムートを軽々と振りまわしてマーダーの隠しブレードによる攻撃を弾いて上に弾き上げる。
続いてサヤが飛び、両手の爪を振るい装甲を凹ませる。反撃のブレードを強靭な爪で腹の部分を叩いて弾いた。
援護する様にアシュトンが魔術を発動し、相手の足元から岩塊を噴き出させて足場を崩す。
その岩塊に飛び乗ってサヤが空高くジャンプして距離を取ると同時にアウルが体勢を整えようとするマーダーの頭上から闇の風による攻撃を仕掛け動きを封じる。
強力な風圧を受けて動きが若干鈍るそこに再びバルドが接近。両手の大剣に闇の炎を纏わせる。
「獄炎衝破斬!!」
高速で振るわれた斬撃が相手の両腕を肩から両断する。
切り口から大量の火花が散り、重い音を立てて両腕が地面に落ちた。
そして、彼の頭上から一つの影が落ちてくる。
「鬼鉄……!!」
アシュトンが発動した地属性魔術を利用して跳躍したサヤが頭上から拳を構えて強襲して来たのだ。重力も加わった一撃が敵へ命中し大きく後ろに吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだマーダーが両足を地面に下ろして踏ん張り急停止。
その瞬間、周囲に幾つもの水色の魔法陣が展開し、そこより大量の渦巻く水流が飛び出してきて絡み付いて来た。
「ツイストカーレント、成功!!」
仲間の動きに合わせて予め配置していた捕縛魔法が見事に成功した事に心の中でガッツポーズする。
準備は整った。
あとはあの二人が決める番だ!!
「リースリットちゃん、準備はいい?」
「ん…」
二人の魔法少女が魔力を纏う。
桜と金の魔力が彼女達に纏い、背後で女神と戦乙女が目を開き互いの武器を構えた恰好で姿を見せる。
「ブレイザーに併せてスマッシュで決まり!! 行くよ、リースリットちゃん!!」
同時に飛翔する二人。彼女達に向かってミサイルと魔力弾の弾幕が襲い来る。
地面すれすれを飛び攻撃を縫う様にして避ける。
そして、上空へと急上昇してほのかがウィルを構える。
「行くよ、ウィル!! フォトンブレイザーーーーー!!!」
[フォトンブレーザー、バーストッ!!!]
桃色の砲撃が放たれる。その流星の様に落ちる砲撃の周りを飛ぶのはリースリット。
フォルテを持ち、高速で突撃する。
「フォルテ、もう出し惜しみはしない。全力で行く……。エンチャント解放……」
[イエス、マスター。属性選択、選択完了。風属性解放!]
金に輝く雷の魔力刃に新たに風が纏い始めた。
二つの属性を宿したフォルテをしっかりと持ちリースリットが自身の最高速で突っ込む。
「レイジング、スマッシュッ!!!」
雷と風の斬撃が決まる。
そして、同時にほのかの砲撃がマーダーを直撃して爆発で包み込んだ。
[エル…エル……レム……!! エル……エル……レムゥゥゥッ!!]
立ち込める煙の中から赤い双眸が灯る。
そして、中央から青白い光が溢れだしているのが見えた。
先ほど放った砲撃をもう一度撃とうとしている。
「まだ動いてる!!」
「もう一発、強いのいくよウィル!!!」
[はいっ、マスター!!]
彼女の攻撃はまだ終わってなかった。
ウィルを未だ構えたままのほのかが魔力を迸らせる。
彼女の背後にあった紋章が一際大きく展開され、女神もまた目をしっかりと開いて翼を大きく広げていた。
彼女の足元に展開される大きな魔法陣と同じサイズの魔法陣がウィルの先端を中心に展開される。
「これが、私の新しい魔法なの!!!」
[コール…コール……アンクァァァァァ!!!]
煙を吹き飛ばすほどの質量を込めた最後の一撃が放たれる。
それを前にしても、ほのかは臆することなくウィルを構えたまま向き合う。
そして――――
「聖なる煌めき!! ホーリーバスターーーーッ!!!」
解き放たれる大質量の砲撃。
フォトンブレイザーの倍は行く巨大な砲撃がマーダーの放った砲撃と激突し大気を振動させる。
勝負は一瞬だった。
マーダーの砲撃が僅かにほのかの砲撃を押し返したが、あっという間に押し負け貫かれる爆ぜる。
勢いそのままに彼女の砲撃は真っ直ぐに落ち、巨大なマーダーを呑み込んだ。
[――――――――ッ!!?]
声にならない断末魔を上げたそれが光の中へと消えていく。
そして、周囲の地形を吹き飛ばす大爆発を起こして閃光が辺りを埋め尽くした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
激しい閃光が止んで一同は瞑っていた目を開く。
目の前には吹き飛んで、まるで小隕石でも落ちた様なクレーターが残る地面とバラバラに破損したマーダーの骸が広がっていた。
「え、なにこれ……」
「おいおい、やり過ぎだっての……」
[最終戦争もかくやって感じだね~ウヒャヒャヒャ!!]
[あの歳でこんな砲撃を撃てるとは……ほのかさんは適正が高過ぎますよ!?]
あまりにも凄い光景に唖然とする面々。
そんな彼等の隣にほのかがゆっくりと降り立った。
「バルドさん、皆! 私、出来たの♪」
「す、すごいねほのか……」
「ありがとう、フィリスちゃん♪」
引き攣った笑みを浮かべて労うフィリスに満面の笑顔を見せる。
「封印……」
そこに小さな声が聞こえてほのか達がクレーターの方を見る。
中央に浮いていた黄の欠片の前には何時の間にかリースリットがいて、その彼女が封印魔法を施していた。
力を抑え込まれた欠片が浮力を失い地面に落ちる。
それを彼女は拾い上げて掌に収めた。
「回収完了……」
手に入れたからにはここにはもう用はない。
自分達に背を向けて去ろうとするリースリットにほのかが慌てて声をかけた。
「待って、リースリットちゃん!! それを集めてどうする気なの!?」
「……あなたには、関係ない」
「関係あるの!! だって、私達もそれを集めてるから!」
その発言に少女の体がピクッと反応する。歩みを止めこちらに振り返り、見上げた。
彼女の顔を見て、ほのかは強張る。
リースリットが先以上に表情を消し、敵意むき出しの闘士を放っていたからだ。
「なら、あなた達は私の敵……」
短く答えた彼女がフォルテをほのかの方へと向けた。
そして、次の瞬間にはほのかの前に姿を見せて斬りかかって来たのだ。
「くっ!?」
反射的に体が動いて後方へ飛び退いて攻撃を避ける。
いきなり攻撃を仕掛けて来たリースリットを前にほのかは目を丸くする。
「どうして……!?」
「これを集めるというのなら、私達の敵。容赦はしない……」
さっきまでは感じられなかった敵意が彼女からひしひしと伝わってくる。
同時に背筋に冷たい感覚が奔る。
咄嗟にほのかが上空へ飛ぶと、一歩遅れてリースリットが高速移動で接近してほのかのいた空間をフォルテで斬る。
「逃がさない……」
「ほのか!? 待ってて、いま援護を――!!」
「そうはさせぬよ童よ」
「くうっ!?」
空へと飛んだほのかを追う様にリースリットが飛ぶ。
友達を助けようとフィリスが援護しようとメローを構えたがそこにアウルが扇子から風刃を飛ばしてきて攻撃を仕掛けて邪魔をして来た。
「すまぬの。ぬしの邪魔をするならば、わっちがお相手する」
「邪魔しないで!! アクアインパクト、シュート!!」
覚えたての圧縮弾を放つ。真っ直ぐに空気を裂きながら魔力矢はアウルへと飛ぶ。
その矢を、彼女は避ける事もせずただ扇子を広げてそれで受けて弾いた。
「うそっ!?」
「効かぬ。その程度ではわっちには届かぬえ」
(この人……ヤバいかも!?)
「さて、ぬしが戦いを終えるまで……倒れぬように頑張るのじゃな」
扇子を閉じ一気に接近をしてきてそれで殴りかかって来た。
その両者の間に人影が割り込んでその攻撃は受け止められた。
「ぬ?」
「年上が年下に手を上げるとか…大人気ないんじゃねェか?」
「サヤ!?」
何時の間にか割り込んで来ていたサヤにフィリスは驚きの声を上げる。
アウルの振り下ろした扇子による一撃を彼女は右手一本で掴んで抑え込んでいた。
相当力を込めているのか、両者の手が僅かに震えているのが窺える。
目の前の光景にアウルは少し驚いた様に目を見開いており、感嘆する。
「ほぉ、『アイアンタートル』の甲羅すら砕くわっちの一撃を生身で受けるか……」
「生憎と、あたしは頑丈なんでね。あたしも相手させてもらうけど、悪く思うなよ?」
「一対二は少々面倒じゃが止む負えぬかの……。いいじゃろう、わっちが相手をしてやる」
「その言葉、あとで後悔するぜ……」
「ふんっ、人生浅き童に負けるほどわっちは衰えてありんす」
その言葉を最後にアウルとサヤの姿が消えた。
そして、周囲で何かが激突する鈍い音が聞こえその度に周囲の地形が砕けたり削れたりする。
「メロー、私達も行くよ!!」
[了解です、フィリス!!]
慌ててフィリスも戦闘態勢に入り、その渦中へ飛び込んで行き黒き旋風と激突を始めた。
「やっぱこうなったか……」
[まぁ~、想定の範囲内だね~ウヒャヒャヒャ!!]
「なに呑気なこと言ってるのバルドさん!? 急いで助けに行かなきゃ!!」
仲間のピンチに駆け出そうとするアシュトン。だが、その襟首をバルドが掴んで止めた。
「待てバカ。そんな息切れした奴が参戦しても足手まといになるだけだ。お前は引っ込んでろ」
「でもっ!?」
「それにな……。これはほのかとフィリスの問題だ。俺達が首を挟む訳にはいかないんだよ」
サヤも余計だけど、今回はまあしょうがないか、と付け加える。
リースリットとの関係はあの二人の問題である。自分達は部外者でこの結末を見守る責任がある。
腕を組んでただ地上と空中で繰り広げられている戦いを静かに見つめる。
(さて、リースリット。前のほのかは弱かったかもしれないが……いまはちょいと違うぜ)
空で戦う桃色の閃光と金の閃光。
二つの光を見つめながらバルドは心の中で呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
空を舞う二人は魔力弾で激しい弾幕戦を繰り広げていた。
桃色と金色の魔力弾が激突を繰り返し、相殺されて爆発を起こす。
広がる煙を突き破って二人が飛び出し、リースリットがフォルテを片手に斬りかかる。
それをウィルの柄を持って受け止める。二人の間で魔力同士の激突で激しい火花が散る。
「っ……!! リースリットちゃん、話を聞いてなの!!」
「……」
必死に声をかけるも彼女は聞く耳などないと言っているかのように無言で腕に力を込めてくる。
それに僅かに押されるほのかだが、態と後ろに自分から下がって相手の体勢を崩してその間に距離を取る様に離れる。
逃げたほのかを追ってリースリットが追跡し、雷槍を幾つも展開して撃ち出して来た。
それを身を捩じってかわした後に、ほのかも反撃の魔力弾を飛ばす。
だが、その弾道が見えているのかリースリットは最小限の動きでその魔力弾を避けて来た。
(直線的な魔力弾じゃ避けられちゃう!? こっちの動きが分かってるの!?)
通常の魔力弾では彼女に当らない。
リースリットの飛ばして来る魔力弾を避けつつ、ほのかは必死に思考を巡らせる。
ふと脳裏を過ぎる光景。それはあの時の特訓の光景だった。
(やるしかない……!!)
悩んでる暇なんてない。出来ない事は当たり前。
大切なのはそう―――――
―――ただ、イメージを強く保つ事だ。
目を閉じ、脳内でイメージするものを描く。そして、素早く反転し魔力弾を展開。
自身の背後に女神が翼より羽根を舞い上げている紋章が展開された。
ほのかの魔力が上がり、同時に目が開いた。
「飛んで、ホーリーシューター!! シューーット!!」
一斉に放たれる桃色の光弾。それが真っ直ぐに直進するリースリットへと飛んで行く。
当然の如く、彼女は攻撃を避ける為に高度を上げた。
だが、なんとほのかの放った魔力弾は急旋回して上へと逃げたリースリットを追いかけて来たのだ。
(誘導弾……!!)
自分の後を追いかけてくる魔力弾を見て驚いた様に目を大きくする。
振り切ろうと空をジグザグに飛ぶも、彼女の後をしっかりと魔力弾は追いかけて来た。
これは不味いと判断した彼女は迎撃用の魔力弾を飛ばし相殺する。
「誘導式…」
[それも中々に精度が良いみたいですね。どなたかに手解きを受けたみたいです]
驚くリースリット、その手にあるフォルテがそう分析する。
相棒の発言を聞いてリースリットは自然と眼下に視線を向ける。
彼女の瞳には、自分達の行動を見ている真紅の髪と金の瞳をした男性バルドが映っていた。
――――あの人がやったんだ……。あの人が、あの子に何かを教えたんだ。
幼いながらもその答えに行きついてから視線を前に戻して空戦を再開する。
自分の立っている前、数メートルの位置に飛んで来たほのかへ向かってフォルテを振るう。
真っ向から突撃して来た彼女を見てほのかは驚いて手を前に翳して魔法障壁を張る。
激突し、強烈な衝撃が腕にかかってくる。それを堪えて必死に障壁の展開を維持し続ける。
「くっ……!! ウィルッ!!」
[シールドバースト!!]
ウィルの紅い宝石が光ると同時にほのかの張っていた魔法障壁が爆ぜる。
衝撃で両者は後ろに吹き飛ばされ距離を強制的に取らされる。
(自分で魔法障壁を爆発させた……!?)
予想外の行動にワンテンポ体勢の立て直しが遅れる。そこに飛んでくるのは桃色の砲撃。
身を捩じってギリギリ回避、自分の直ぐ脇を強力な砲撃が通り過ぎていった。
「外れた!?」
[僅かにタイミングを逃したみたいです。しかしマスター、大丈夫ですか?]
「にゃはは……。さっきのは思った以上の衝撃でビックリしたの」
シールドバーストは自身の障壁を自ら破壊する魔法で発生した衝撃波で相手を吹き飛ばせる。
代償として自身も爆発の衝撃を諸に浴びるという欠点があるが……。
マジックアーマーのお陰もあってダメージは最小限に抑えれるので問題はない。
「すごい。ほのか、もうあんなに動ける様になったんだ……」
その様子を地上で見ていたアシュトンが思わず口から感想を零した。
リースリットの攻撃をなんとか避けつつ反撃をして空を飛びまわる。その姿に彼は目を離すまいと動きを追っていた。
そんな彼の隣でバルドはジッと二人の戦いを見ていた。
(まだまだ動きにムラがあるな……)
《けどよ、ほのかの嬢ちゃん、いい動きしてるんじゃねか? ウヒャヒャヒャ!!》
《若の指導、それに彼女元来の呑み込みの速さもありますね。柔軟な思考に臨機応変な対応……ふふっ、将来が楽しみですね》
魔剣の二人(?)が念話を通して彼女を評価する。
いままで彼女の戦いを見て来たが、彼女は確実に成長している。
この調子なら、彼女はあのリースリットという少女を追い越せるだろう。
「ダメだな……」
しかし、そんな魔剣の考えを余所に主であるバルドがそんな事を口にした。
《おやおや相棒? なぜにそんな事を言うかね?》
《なにか、ほのかさんの動きに問題はあるんですか?》
《問題は特にねえよ。前に言った事をしっかりと守ってるし、状況に応じて自分なりに考えて動いてる。そこは褒めるべきところだ》
《じゃあ、なんでだい?》
そこまで高評価なら特に問題はない様に見える。
それならばどうして……。
《あのリースリットの方に問題があるな》
《ほうほう、あの嬢ちゃんにかい?》
《若、それは一体どういう事ですか?》
《あいつは、まだ何かを隠してやがる。さっき、マーダーって奴を倒した時のラストアタック覚えてるか?》
ほのかとの同時攻撃。その時にリースリットの持つ武器、恐らくはほのかと同じIPターミナルと思われるものの魔力刃から僅かばかりに雷以外の属性を感知していた。
そこに行きついた魔剣達は一つの答えを弾きだす。
《まさか、二属性持ち?》
《特殊能力持ちって事かい?》
《可能性は否定できない。どちらにしろ、ほのかはまだまだ油断は出来ないって事だ……ん?》
そんな会話をしていた時、バルドは目を細め周囲を見渡し始める。
警戒を強める彼は、微かにだが殺気の様なものを感じ取った。
気のせいではない。
誰かがこちらの様子を窺っている。
《若、如何しましたか?》
《誰かが監視してやがる……。警戒範囲を広げろ》
《っ!? 了解しました!!》
言われて瞬時に意図を理解したケルベロス達が索敵範囲を広げる。
その間も、バルドは上空の二人を気にしつつ同じ様に警戒を強めていく。
《いました!! 九時の方向、その木々の向こうに複数の生体反応!! この反応は人間です!!》
《相棒!! 向こうの奴ら、攻撃態勢だ!! 角度から見て上だ!!》
「狙いはほのか達か!!」
「えっ? バルドさん、どうしたんですか!?」
「説明は後だ。此処から動くなよ。いいな!?」
返事を待たずにバルドは地を蹴り上空へと飛ぶ。
そして、猛スピードで空戦を繰り広げている少女達の下へと向かって行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんな事を知る由もないほのかとリースリットは激闘を続けている。
互いに魔力弾を飛ばし合い、相殺したりかわしたりと互角の勝負に見える。
だが、実際はほのかの方が未だに押されている。
避けるので精一杯の彼女とは違い、リースリットは着実にほのかを防戦一方へと追い込んでいた。
「フォルテ、此処で勝負をかける……」
[了解です、マスター]
フォルテを構えるリースリット。
その身から溢れる魔力にほのかは違和感を感じる。
(なに……これ? 雷属性に別の何かが混じってる……!?)
その正体はすぐに現れた。
リースリットの持つターミナルの魔力刃、雷の刃に新たに深緑の風が纏い始めたのだ。
「エンチャント……解放」
「うそ……」
目の前の現象にほのかは目を見開いて動きを止める。
雷属性であるリースリットが風属性を使っている。
そんな事が有り得るのか!?
魔法士は一人一属性しか使う事が出来ない筈である。
それなのに、彼女はどうして風属性を持ち合わせているのか?
混乱するほのかを余所にリースリットが高速移動魔法で一気に距離を詰めて突撃して来た。
反応の遅れたほのかは距離を取る事も出来ず、防御魔法を展開して身を守る事しか出来なかった。
「レイジングスマッシュ……ッ!!」
「っ、くうっ!?」
振り下ろされる二つの属性を宿した一撃が魔法障壁に直撃、強烈な衝撃が伝わって来てほのかは苦しげな表情になる。
徐々にほのかの魔法がリースリットの二属性の一撃に耐えきれなくなってきたのかひび割れを起し始める。
(こ、壊れる……っ!?)
もう長くは持たない自身の防御魔法を前にほのかの眼は大きく見開かれた。
そして、彼女の障壁が今まさに砕ける瞬間だった。
―――地上から幾つかの魔力を纏わせたクナイの様な鋭利な刃物が飛んで来たのだ。
「えっ!?」
「っ!?」
不意を突かれた形で硬直する二人。回避は間に合わない。
直撃コースで思わず二人は目を瞑った。
肉を貫く音が聞こえると同時に衝撃が伝わる。それに体をビクッと震わせる。
―――が、来る筈の痛みが何時まで経っても来ない。
目を開くと、自分とリースリットを包み込む黒いコートが目に入った。
恐る恐る顔を上に上げていく。
すると――――
「バルド……さん?」
「ギリギリか……っ」
自分達を抱き寄せていたのはバルドだった。
そして、彼の背中には二本の刃物が突き刺さっているのが見え、二人は小さな悲鳴を上げ驚きの表情を浮かべる。
「そこかっ!!」
その彼女達を腕の中に収めたまま、眼下へ向けて目付きを鋭くした彼が視線の先の林の一角に向けて手を翳し、魔法陣を展開して闇の炎を放つ。
大気を燃やして放たれた攻撃は木々の生い茂る一角に着弾。大爆発を起こした。
激しく木々を燃やす黒い炎の海。
そこから幾つもの影がぼんやりと姿を見せる。
「見つけたぜ~……あはははは!!」
燃え盛る黒き炎の中より姿を見せたのは、あの黒蠍のビアンカその人であった。
強敵パーフェクト・マーダーを退けたほのか達だったが、すぐにリースリット戦開始!!
――と思ったら、新たなる乱入者出現。
前に上手いこと撒いたビアンカ隊が再び襲来する。
この後一体どうなるのか。
それでは、今後も宜しくお願いします。
では(゜∀゜)ノシ!




