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第二十一話 稼働する機兵達

二十一話更新です。


ギルドの面々を振り切って逃走に成功したほのか達。

その後の話です。


そして、遺跡では異常事態が起きていた。


では、本編をどうぞ!!




ギルド『アンフィスバエナ』から逃げのびたほのか達が宿泊先のホテルの部屋に姿を現した。


室内を見渡すも荒らされた形跡はないのを確認。

ほのか達に急いで身支度を整える様に指示を出してその間にバルドは壊れたドアを修復し、ホテルの支配人にチェックアウトの連絡を回す。


それと丁度良くほのか達が準備を終えて一行はホテルから出る。

人の往来が激しさを増し始めた時刻、その波に逆らってバルドは先頭に立って彼女達を連れて移動を開始する。

その間、ずっと一緒に転移して連れて来たサヤという少女は黙ってついてくるだけだった。


彼も黙々と歩き続け、人気の少ない手頃な路地裏を見つけて彼女達と共に一時、身を隠した。

角から僅かに顔を出して追手がいないかを確認した後、彼はほのか達の方へ向き直る。


「ひとまず、追ってはないな」


追跡がない事を伝えるとほのかとフィリス、アシュトンはホッと息を吐いて壁に背中を預けて座りこんだ。

バルドはアシュトンの方へと近づき、膝を折って座りこむ彼の目線に合わせた。


「アシュトン、よくほのか達を守ってくれた。ありがとう」

「い、いいえ。そんな事ないです。むしろ、役に立てなくてすみませんでした……」


 面と向かって礼を言われて、彼は顔を少し赤くしてそんな事ないと言った。

逆に、二人を守ると約束したのに逆に助けられた事が申し訳なく感じているくらいだ。


謙遜けんそんするアシュトンだったが、それをバルドは首を横に振って否定する。


「いいや、お前は十分に二人を守った。お陰で俺も間に合ったし全員無事だった。それ以上は何も求めてねえよ」


過程がどうであれ、全員が全員無事でいられたのだ。

それ以上に一体なにを求めようか?


そして、礼を言うべき人物はもう一人いる。


「お前にも感謝してる。え~っと、名前はなんてんだ?」

「………サヤ。霧島紗耶だ」

「サヤか。お前にも感謝してる、ありがとうな」

「ふん」


 後ろを向いて向かいの壁に背を預けて立っている少女サヤへと声をかける。

それに彼女は鼻を鳴らし、そっぽを向いただけでそれ以上は何も言わなかった。


「ねえ、バルドさん……」


その時、ほのかがバルドを呼んだ。彼女の方へ顔を向けると、

不安そうな表情で自分を見つめてくるほのかの姿があった。


「私達……こんな事されるだけの悪い事をしたの?」


彼女の疑問はそれだった。

少しだけ、ギルドの領域近くに足を踏み入れただけでこんな仕打ちを受けるのか?


 フィリスの回復魔法を受けているアシュトンを見て悲しそうな顔で唇を噛む。

自分の所為で友達のアシュトンに怪我をさせてしまった。そう思うと胸が苦しくなる。


「あまり自分を責めるな。自分を追い詰めても、事態は何も解決しないぞ」

「でもっ……!!」

「幾ら過去を悔やんでも時間は戻らねえんだ。起きちまった出来事はもうくつがえる事はねえ……。なら、前を見て事態を少しでも改善する事を考えろ」


うつむいて今にも泣きそうなほのかの頭に手を添えて軽くでながら、落ち着いた口調で諭す様に語る。時間は決して戻る事はない。


過去は過去……。

その時間軸に戻る事は出来はしない。

なら、後悔し悔み続けるよりも先を見つめて少しでも未来を好転させる事を考える方がずっとマシだ。


それを彼の眼をジッと見つめて聞いていた彼女は泣きたい気持ちをグッと堪えて目を擦り、浮かびかけた涙を拭う。

その彼女を見てバルドは優しげな笑みを見せた後に真剣な眼つきに戻った。


「ほのか、少しでも情報が欲しい。何か、奴らが言ってた事を覚えていないか?」

「う~~んっと……」


記憶を辿る様に思いだそうとする。

しかし、極度の緊張が続いた戦闘でイマイチ相手の言っていた事を思い出せない。


「……外」


その時、サヤが小さく呟いたのをバルドは聞き逃さなかった。


「外?」

「“でやられた部下の為にも”ってアイツらは言ってた。てめェら、ナニかやったんじゃねェのか?」


疑惑の眼を向けてくる彼女を見て、治療をしていたフィリスが声を上げる。


「そ、そんな事しないよ!? そもそも、私達がギルドを攻撃する理由がないよ!!」


それに、自分達がこの都市に来たのは昨日の話だ。

その道中で彼等に会った訳でもケンカをした訳でもない。

第一、組織を作れるほどの戦力を持つ彼等に攻撃をするなど無理な話である。


「じゃぁよ、アイツらはなんでてめェらを攻撃すんだよ? 理由もなしにこんな事するか?」

「そ、それは……」


問われて口ごもる。理由はない訳ではない。

直ぐに答える事の出来なかったフィリスを見て、益々疑惑の眼を向けてくる。


 互いの空気が険悪なものへとなり始める正にその時だった。

地面が小刻みに揺れたと思うと、大きな地震が発生したのだ。


「にゃっ!?」

「また地震!?」


またも発生した地震にビックリしたほのか達が飛び上がる。

大きな揺れは直ぐに収まったが、未だに地は小刻みな揺れを続ける。


揺れが徐々に弱まり始めてホッと息を吐こうとしたが――

再度、同じ大きさの揺れが都市を襲ってきた。


「ふええっ!?」

「今度も大きいよ!?」


周りでも市民が悲鳴を上げているのが聞こえてくる。震度は大体3か4くらいだろう。

それが連続で来るという事態にほのか達は動揺を隠せない。

そんな彼女に相棒のウィルが話しかけて来た。


[マスター、地震発生原付近に強力な魔力反応をキャッチしました。過去のデータと照合の結果、秘石の欠片と同様のものです]

「えっ!?」

「ちょっと待って!? それって……もしかしてこの地震もそれが原因!?」

[可能性は高いですね]


 フィリスの問いかけにメローも同意の言葉を出した。

この度重たびかさなる地震を起しているのが欠片の可能性があるという事実に驚きを隠せない。


「そうか……。もしかしたら……」


いままで黙って考え事をしていたバルドが何かに気付いたのか顔を上げた。


「バルドさん、どうかしたの?」

「行く場所が決まった。ほのか、フィリス、アシュトン。今度は一緒に行くぞ」

「どこに?」


立ち上がり路地裏から出ようとするバルドにフィリスが聞く。

それに彼は顔だけを此方に向けて答えた。


「北の山脈にある古代遺跡……『ノーム遺跡』だ」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ノーム遺跡に設置されている管理施設。そこに一本の通信が入った。

何度かコール音が室内に響いていたが、そこに一つの影が現れて受話器を取った。


『こちら第一都市管理塔特別災害対策本部。ノーム遺跡守備隊応答せよ』

「……こちら、ノーム遺跡守備隊。どうぞ……」

『先ほど中規模な地震が発生した。震源地は、またそちらに近い様だが……現状如何なっている?』

「特に異常はなし。遺跡自体も損傷は見受けられない」


淡々と受け答えをするそれ。

その後も幾つかの応答が続くが、それにしっかりと答えていく。


『了解した。再び地震が起きるかもしれない。警戒をおこたらない様に』

「……了…解」


 それを最後に通信が切れて受話器を置いた。

そして、それは床に倒れている本物の通信士・・・・・・またいで施設の外に出た。

明かりの消えた施設から出てくるそれ……機甲型モンスター『ガジェット』が外に出るとそこは燃え盛る駐屯所が広がっていた。


 遺跡の入り口は開け放たれており、そこから続々とガジェットが出てくる。

太古の昔に活動を停止していまはもう動かないとされた彼等がまるで当時のままで動いている。


地面には駐屯所に滞在していた魔法士達が負傷した状態で倒れていた。

戦闘不能状態になっている彼等に一切眼もくれずに彼等は歩いている。


そこに、燃え盛る炎を切り裂いて二つの影が施設エリアに入って来た。

一斉に彼等がその方角を見て侵入者を捉える。


金髪のツインテールに赤い澄んだ瞳。全身にまとうは黒きマジックアーマー。

手に持つのは金に輝く魔力刃を展開する剣。


『リースリット・ピステール』が静かに彼等の前に姿を見せたのだ。


「Dランクモンスター『ガジェット』を確認……」

[数は十二体ですね]

「ふむ……。古臭い機械人形がうようよおるの?」


そんな彼女の隣には成人の着物を着た女性が立っていた。

これまた黒い色を基調とした着物で、梟の羽根をあしらっている。

そして、頭には同様に梟の翼が生えていて広げた扇子せんすを口元に当てて目を細めて呟いた。


「ふんっ、油くさい臭いがするの……。わっちぁこの臭いは好きではないの」


 新たに彼女の使い魔となった『アウル』が傍らでガジェットを見て小さく鼻で笑う。

その傍らでリースリットは静かに開け放たれた遺跡の入り口をジッと見つめており、何かに気付いたのか口を開いた。


「奥で秘石の欠片が活動してる……」

「のようじゃな? 奥のエリアで大きな魔力反応が動いとる。ぬしはそこに行くのかえ?」

「ん……」


 それに短く答える彼女。

そんな二人の前に両手を鋭い刃物に変形させたガジェット達が立ちふさがる。

一様に殺気を迸らせて無機質な目で彼女達を見つめていた。


「ふん……。ぬしよ、向こうはわっちらの邪魔をしたいようじゃ。どうするのかえ?」

「………決まってる」


相棒のフォルテを構えて相手を見据える。

無表情の彼女は淡々と、使い魔たる彼女へ命を下した。


「邪魔するなら、倒すだけ……。片付けるよ、アウル」

「承知した」


命令が下されアウルは不敵な笑みを浮かべる。

そして、彼女もまた戦闘態勢に入った。


「行く……。ナイトチャージ……!」


先陣を切るのはリースリットだった。

両足に雷を纏わせ一気に加速し最高速で敵陣に突っ込む。

その速さは相手の反応速度を超えて視角から消える。


目標ターゲットが視界から消えた事にガジェット達は動きを止めてしまう。

その一瞬の間に、リースリットは相手の脇を取っていた。


「遅い……」


気付いた一体が彼女の方へ首を動かす―――が、その時には首から上が斬り飛ばされており機能停止したガジェット一体が地面に崩れ落ちる。


 仲間を倒された事に他のガジェットも気づいてリースリットを串刺しにせんと腕を伸ばす。

鋭い切っ先となった手が彼女を貫こうとしたが、その前に彼女が高速移動で回避し攻撃は外れる。


「貫け、サンダースピア」


 頭上に飛んだ彼女が雷槍を幾つも生み出し、地上にいる彼らへ放つ。

地上に着弾して次々に金色の爆発が巻き起こり砂煙が立ち込める。


それを突き破ってガジェット達が驚異的な跳躍ちょうやく力で彼女目掛けて飛ぶ。

レイピア状の手刀を突き出し一体がリースリットを攻撃。


彼女はするりと避けて距離を取るが、遅れて別の一体が最初の一体と合流。

その腕を土台にしてリースリットの方へ弾丸の様な勢いで突っ込んで来た。


身を捻じり、突撃して来た相手の一撃をかわす。

その後に続いて来たもう一体の攻撃をフォルテで受け流し隙だらけの胴体に一閃を加えて胴を両断して破壊する。


「新しいぬしも中々にアグレッシブじゃのぉ」


 大量のガジェットを相手に攻勢に出ている彼女を面白そうに見ているのはアウルだった。

そんな彼女にも別のガジェットの部隊が地を蹴って接近してくる。


先頭にいた一体が跳躍し、手刀を突き出す。

それをゆったりとした動作で閉じられたままの扇子を動かし、刃の前で振るう。

直後に、黒き旋風が巻き起こりガジェットの重い機械の体があおられて吹き飛ばされる。


「さて、わっちも動くとするかの」


言うや彼女の足元に黒き文様で描かれた魔術陣が展開される。

腕を交差させ、両手の扇子を広げると彼女は詠唱を始めた。


「暗き底より来たれ、ブラッディクロー!」


朗々と紡がれる詠唱が完了すると同時に魔術が発動。

敵の群れの両サイドより異空間から黒き刃が駆け抜ける。


 交差する様に敵を切り裂いて駆け抜けたそれは『ブラッディクロー』という魔術だ。

闇系中級魔術で相手の両脇から斜め上に向かって飛ぶ一撃を放つ。

少しばかり奥行きもあり、尚且つ空中にいる敵にも攻撃が届くという利点を持つ。


その魔術をくらったガジェット数体は何処からともなく来たその一撃を前に体を両断されて崩れ落ち、爆発を起こして散った。


「なんとも味気のないものかの……。もちっとわっちを楽しませてくりゃれ?」


 一撃で撃沈したガジェットを前に余裕の表情を見せるアウル。

その彼女に臆することなく飛び掛かる一体。その鋭い刺突を彼女は扇子を広げた状態で受ける。


ガキンッという甲高い音が響き渡る。

相手の切っ先は彼女には届かず、なんと扇子の前に阻まれていた。


「わっちのこの扇子は特別製での。ヌシ達の攻撃程度で壊れやせん」


扇子越しに笑みを浮かべ余裕の表情で語る。

彼女の言うとおり扇子も凄いが、実際のところはそれを持っている彼女の方だろう。


 なんせ、攻撃力の高い機甲型モンスターの突進を真正面から受けて微動びどうだにしていないのだ。

人間などよりも遥かに脚力も腕力も高い機甲型モンスターの恐ろしい所は、質量兵器だけでなくその突進力だ。


ガジェットですらその重量は非常に重く、一体で百は余裕で超える。

それに加えて弾丸の様な速さで突撃されてはまともな人間では歯が立たないだろう。

そんな彼等の突進を受けて微動だにしてない事を見れば、彼女が如何に実力を持っているのかがうかがい知れる。


「さて……。ヌシ達には消えてもらおうかの」


相手の攻撃を弾いた彼女は両手の扇を構える。

すると、彼女の周囲に黒い風が吹き始めて見る見るうちに勢いが増し始める。


「闇の風を受けてみよ! 黒扇封こくせんほう!!」


扇を思いっきり振るうとそこより黒き旋風つむじかぜが巻き起こり、前方にいるモンスター達へと突き進んでその中に呑み込んだ。

風の刃の嵐の中に閉じ込められたガジェット達は次々にバラバラに切り裂かれ各部位のパーツにされて地面に転がる。


「いくら鋼の体とて、いにしえより吹き抜ける風の前では無力よ」


悠久の時を駆け続ける風の前には例え鋼の体を持っていても意味はない。

受け続ければいずれはその身体は錆び、そして朽ちる。


ガジェットの属性は地属性だ。

本来地属性のモンスターは雷には強い筈だが、金属という特有の体を持つが故に帯電しやすく電子機器に異常をきたしてショートしてしまう。


同様に機甲型のモンスターは総じて大地を削り取り、ものを風化させる力――つまり、風属性に弱い。

大気を流れる風の力の前では通常のモンスターよりも倍以上のダメージを受けるのだ。


そんなアウルと、高機動で相手を翻弄するリースリットの前にDランクのモンスターである彼等は瞬く間に数を減らされていく。


 そして、最後の一体をリースリットが両断して撃破。

辺り一帯には破壊されたガジェットの骸が転がる惨状が広がっていた。


自分達の道を阻む者達を倒した後、リースリットは開け放たれた状態の遺跡の門の前に移動してその前で立ち止まる。

暗く通路の向こうからは異様な空気がただよっており、そこより大きな魔力反応も感知できた。


「フォルテ……」

[標的ターゲットはこの通路を真っ直ぐ進んだ先の広間にて停滞中。その周囲にはモンスターの反応はありません]

「そう……」


彼女の呼びかけに必要な情報を瞬時に答える。

どうやら、向こうは単独の様だ。今なら、勝機はある。


そう思ったリースリットは遺跡の中へと足を踏み入れた。


「……ふむ。なにやら誘われておる様な気がするのじゃが……?」


 そんな彼女の後姿を見てから暗い通路の奥を見て、顎に手を当てて首を傾げるアウル。

当然、呟き程度の言葉なのでリースリットには届いていない。


果して、停滞している敵は何をしているのやら……。


視線を再び小さな少女へ戻す。

前回は負けたそうだが、さて……今回はどうなる事やら。


(さて……。奥に進んで鬼が出るか蛇が出るか……。くっくっく、面白くなってきおったの)


この先で待っているだろう問題を想像して扇子で口を隠し、その奥で大きく口角を上げて笑う。

そして、彼女もリースリットの一歩後ろに侍り共に奥へと歩いていく。


二人の姿が通路の奥深くへと消えたと同時に、開いていた大門がゆっくりと音を立てて動き出し、閉じられた。


入って始めに気付いたのは遺跡内にある機器が動いていた事だった。

重厚な音を立てて周囲の大きな歯車が回っている様は当時を連想させる。


前回来た時にはこんな風に動いていなかった筈だ。

それが、今になって動き出した事にリースリットは少なくとも秘石が関係していると推測する。

哨戒しょうかいしているガジェットが数体いたが、その監視を上手くやり過ごして彼女達は秘石の欠片の待つ部屋の前に辿り着いた。


リースリットは何の躊躇ためらいもなくその部屋の門を開け放ち内部に突入する。

部屋に入った二人の正面奥にそれはいた。


[レム……レム……エル……。侵ニュウ者ヲ発見……]


 重低音を響かせながら欠片が宿った機甲型モンスターが動き出した。

眼は前回同様に赤く光っており、その挙動は幾分かおかしい。

おそらく欠片の力に浸食を受けているからだと分析する。


(今度は……負けない)


決意を胸にリースリットがフォルテを構えた。

そして、彼女が攻撃を仕掛けようとした正にその時だった。


[移動開始、イ動開シ……]


 突然、それは彼女達に背を向けて奥の通路に向かって撤退した。

虚を突かれる形となった彼女達は一瞬だけ唖然あぜんとしてその場に立ち尽くす。


そして、逸早く復帰したのはリースリットだった。


「逃がさない……!! 追うよ」

「ふむ、承知した」


敵の逃げた通路に向かって二人も飛行魔法を発動して浮遊し、その後を追いかけていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



リースリット達が遺跡の内部へ突入してから十分ほど経過した頃――

新たに五人……ほのか達がそこにやって来た。


「な、なにこれ……」


思わず目の前の惨状に呟く。燃え盛る建物に砕けた舗装された道。

そして、地面に倒れ伏しているSCCAの隊員達の姿があった。

その光景を見てほのかとフィリスは悲痛な表情を見せる。


「ひ、ひどい……」

「モンスターに襲われたか。息は…まだあるな」


倒れている一人の隊員の傍に膝をつき、生きている事を確認する。

ただ、全員が怪我を負っていて出血が見受けられた。


「バルドさん! この人達を安全な場所に運んであげよう!!」


そう提案したのはほのかだった。炎の中に彼等を取り残したままではいられない。

兎に角、火の手の届かない場所で治療してあげたいと思っての事だった。


彼の前に倒れている隊員の一人に駆け寄って運ぼうとするが、体格に差もあり尚且つ腕力のないほのかでは大の大人を運ぶ事など到底無理だった。


見かねたバルドが彼女の代わりに担いで火の手の届かない場所まで運んだ。

その後も次々に運び、アシュトンもそれに加わって全員を移した。


「あとは私がするね。癒しの抱擁、アクアリング」


 水の回復魔法が発動し、指定された範囲に水の輪が展開されてその中に彼等が囲まれる。

負傷している隊員達を複数のリングが幾重も囲み、優しい癒しの力がその傷を癒していく。


「バルドさん、アシュトン君ありがとうなの」

「僕もほのかと同じ気持ちだったからね」

「代わりにやらねえとどうせ動く気ないと思ったから代わってやっただけだ」


 お礼を言うほのかに二人はそれぞれ返事を返した。

粗方の治療を終えたフィリスが魔法を解除し、一息吐いた。


「ふぅ…。これで、もう大丈夫な筈だよ」

「流石は回復魔法を得意とする水属性魔法士だな。もう回復させたのか?」

「全快とまではいかないけど、出血を止めて傷口を塞ぐまではしただけだよ」


 というが、それでも十数人の人間の治癒を行えるなど早々出来るものではないだろう。

額から汗が伝い、呼吸に少しばかり乱れがある位で留まり倒れる様子はない。


(適正が高いって事か……)


 適正は現段階では二種類あり、魔法適正と属性適正がある。

魔法適正は、その者が魔法を使えるかまたは、魔法のレベルが何処まで高いかを判別できる。

逆に属性適正は、その者の魔法属性のレベルの高さを判別する事ができ、フィリスは如何やら水属性の適正がかなり高い様だ。


ただしその分、水属性にかたよっているという事は弱点の雷属性には一層弱いという訳で長所でもあり、短所でもある。言わば五分五分フィフティーフィフティーなのだ。


「取り敢えず、こいつ等は此処に放置だ。俺達は遺跡の方に行くぞ」

「ねえ、バルドさん。本当にここにあの欠片があるの?」

「ああ、昨日ここに来て確認済みだ」

「あの時、出ていったのはその為だったんだ?」

「まあそういう事だな。……つーかよ」


 そこで彼は彼女達から視線を外してサヤの方を見る。

気絶しているSCCAの隊員達を見ていた彼女がそれに気付いて顔を上げた。


「別にお前までついてこなくても良かったんだぞ」


そう、何故かサヤまで自分達について来ていたのだ。

気になっていた彼が問いかけると、彼女は不機嫌そうな顔で睨み返す。


「……悪いかよ?」

「いや、悪いとまでは言ってねえよ。ただ、なんで俺達について来たのか気になっただけだ」

「あたしのシマで起きてる地震がモンスターが原因だっていう話じゃねェか。だったら、そいつのツラを一度拝ませてもらわねェとな」


そんで、ついでに勝手に人のシマに手を出すヤロウをぶちのめしてェしな。


 そんな物騒な事を言って鋭い爪を見せる。

その表情は傍から見て鬼を連想させるほどに残忍なものでその身から放たれるオーラも相応に相応しいものだった。


「なら好きにしろ。言っとくが、自分の身くらい最低限自分で守れよ? ただでさえお守の必要な奴が三人もいるんだ。全員を守れるほど、万能じゃないんでね」

「言われるまでもねェよ。てめェこそ、足引っ張んなよ」

「言ってろ」

(バルドさんとサヤちゃんって、どこか似てるね?)

(うん、私もなんか似ている様な気がするよ)


二人を交互に見てからほのかとフィリスはヒソヒソと会話する。


「何か言ったか?」

「「ううん!! なんでもないの(よ)!!」」


耳聡みみざとく彼が二人の方を睨んできたので、慌てて二人は首を振った。


「まあ、いいか。取り敢えず、遺跡の中に入るぞ」


深くは考えない様にした彼は先頭に立って一同を連れて遺跡の入り口に移動する。

その間に、ほのかとフィリスは後ろにいるサヤの傍に行く。


「……なんだよ?」

「えっと、私はほのか。皐月ほのかって言うの!」

「私はフィリス。フィリス・アルトレーネだよ」

「それで、えっと……。サヤさんの事……サヤちゃんって呼んでもいいかな?」


おずおずと上目遣いで彼女に聞いてみる。

それを少しの間ジッと見下ろしていたサヤだったが、ついっと視線を外した。


「好きにしろよ。あたしも呼び捨てで呼ぶからよ」

「うんっ!!」


嬉しそうに返事を返してバルドの下に再び戻る。

目の前には見上げるほどに大きな門があり、大きな大門は固く閉じられて来る者を拒んでいる様に見えた。

その門には不思議な文字が彫られており、それに気付いたフィリスが目を輝かせて駆け寄って調べ始めた。


「この遺跡にも、大昔の魔法式が彫られてる! すごい……。幾つもの属性を組み合わせて出来た特殊な鋼材で出来てるみたいだ。普通に魔法で壊そうとしたら反射リフレクトされる様に施されてる!」


ぺたぺたと触ってはブツブツと呟く。

その眼は知らないものへの好奇心と、深い深い探究心が溢れていた。

そんな彼女の様子の変貌に初めて見るアシュトンとサヤはポカンとした顔で見ていた。


「……なんか、何時ものフィリスちゃんじゃなくなってるね?」

「にゃはは……。フィリスちゃん、遺跡とか古いものを見ると興奮しちゃうみたいなの」


苦笑いしてその光景を見ているほのかと呆れた様子で息を吐くバルド。


「あれ……?」

「ん? どうかしたか?」

「ねぇ、バルド。この門、特殊な封鎖魔法式組み込まれてるんだけど?」

「はぁ?」


調べていたフィリスが彼に声をかけてきた。

彼は彼女の隣に並びその個所に手で触れてみると途端に表情を曇らせる。


「確かにそれらしいのが確認出来るな」

「形式からして古代インペリア式だと思うよ。それも高度なものみたいだよ」

「感触からしてマルチ属性形式も入ってやがるな。くそっ、内側から解除しないと駄目なタイプか」


魔法解析をした彼が小さく舌打ちをする。

他に入れる場所はないかと辺りを見渡してみる。


門の左右には計四つの不思議な生物をモデルにした全長4メートルほどの石像が二つずつ配置されていて、左右対称に置かれているだけだった。


「……ん?」


いや、よくみると左右対称ではない。

片方の石像が一つ分奥にずれていた。


「もしかすっと……」

「ふえ?」


徐にバルドはそちらに足を向けずれている石像へと近づく。

そして、その大きな石像を押して元の位置に戻してみた。


カチッというスイッチが押された様な音が聞こえたと思うと、彼女達のいる大門から少し離れた脇の壁が音を立てて縦に割れて奥に通路が現れたのだ。


「隠し通路!?」

「変なギミックを付けやがって。昔の人間は随分と愉快な奴だったんだろうな」


それから一行はその隠し通路を通って遺跡の内部へと侵入。

古い模様の大理石で固められた壁や床の続く道を進んで行くと、一つの大きな空間に辿り着いた。


その部屋の奥、先へと続く通路があるだろう扉の前に何かが鎮座していた。


「何かいるの?」

「待ってて。今、灯火魔法で明るくするから」


 フィリスが目の前に明るく光る光球を生み出すと真上に向かって打ち上げた。

飛翔する光球は一定の高さに達したと同時に破裂して周囲一帯を明るく照らすものとなった。


闇におおわれた空間を光がはらっていく。

そして、道を塞ぐ様に置かれているその正体が肉眼ではっきりと見えた。


なんて事はない。崩れ落ちた機甲型モンスターの亡骸(?)だった。

脚部のみを残し、腰から上の部分はない。そんな骸(?)があったのだ。


「モンスターの残骸ざんがいかな?」

「こっからじゃ判断のしようがねえな。もう少し近づいてみないとな」


そう言ってバルドは徐に近づこうと足を一歩踏み出す。

だが、直後に遺跡内を揺るがす大きな地震が発生。

一同は驚いてその場で踏みとどまる。


[魔力反応を感知!!]

[前回の秘石の欠片と同様のものです! 遺跡全体にその波長が広がってます!!]


 揺れに驚いていたほのか達も肌で感じる事が出来た。

波打つような気持ちの悪い気配に身を強張らせる。


「これもそのモンスターの奴が原因かよ!?」

「ああそうだ。それと……」


揺れが中々収まらない中で、バルドが虚空からケルベロスを取り出して構えた。

その眼はより一層、鋭さを増して戦闘態勢に入っていた。


「面倒な奴も目を覚ましやがった……!!」


彼に視線が向いてる方向に一同が目を向ける。

そこには、先ほどまで唯の残骸ざんがいだと思っていた機体がその脚を動かし始めて立とうとしている光景だった。


「うそっ!? 動くの!? 確か、ノーム遺跡にある古代の機械はその殆どが機能を完全に停止してて動力も動かない筈なのに!?」


だが、現に目の前の敵は活動を始めている。

逆関節の脚とくっついている腰の部分には二つの砲塔。

脇には筒状のものを幾つも束ねて一つにした武器があり、機械特有の金属音が聞こえる。


特徴的な電子音を鳴らし腰にある双眸そうぼうの目が緑色に光る。

遂にその機体は完全に立ち上がって彼女達の前に立ちはだかった。


「マーダーか……」

「え?」


その巨大なモンスターを前にしてバルドが小さく呟いた。それに彼女達は一度彼の方を見てみる。

視線が一点に向けられていたので、次にその視線の先に目を向けた。


視線の先にはモンスターのボディがあり、その一角に塗料で『Murder』という文字が書かれていた。

どうやら、それがこの機甲型モンスターの名前、というか名称の様だ。


「お前ら気をつけろよ。こいつは、ちょいとヤバそうだ」


 警戒の声を出すバルド。それにほのか達も気を引き締めて目の前の敵を見上げる。

関節部から白い蒸気を噴き出し、排熱を行ってからそれは彼女達をその目で捉える。


そして、電子音で咆哮を上げると彼女達に向かって襲いかかって来た。



遺跡に眠っていた機兵達が次々に稼働を開始する。

そして、リースリットの相手をするマーダーの他にもう一体のマーダーが出現。

凶悪な大型機甲型モンスターが少女達に牙をむく。


ほのか達の方に現れたマーダーは欠片の浸食は受けていません。

侵入した敵を排除する事のみを遂行するモンスターです。

強力な質量兵器を有するモンスターを相手にほのか達は如何戦うのか。


それでは、次回も宜しくお願いします。

では(゜∀゜)ノシ!!


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