第十九話 鬼の娘
十九話更新。
頼れる人物が不在の中、少女達は再びトラブルに巻き込まれる。
そんな十九話です。
では、本編をどうぞ。
その日、バルドはほのか達の下に帰ってくる事はなかった。
翌日になって珍しく一足早く目が覚めたほのかが部屋を見渡した。しかし、何時も自分達の傍にいてくれる彼の姿は部屋の何処にもなかった。
(バルドさん、帰って来てないんだ……)
眠い目を擦りながら彼がいない事に少し寂しさを覚える。ベッドから起きて窓の方へと近づいてカーテンを少しだけ開ける。
眩しい光が差し込んできて思わず目を瞑る。
顔を出し始めた朝日の光が室内に広がり、残る面子も目が覚めた。
「ふぁ~……。おはよう、ほのか」
「あっ、おはようフィリスちゃん」
「二人ともおはよう」
「アシュトン君もおはようなの」
三人は朝の挨拶を交わし、その後に寝間着から普段着へと着替えて食事を摂りに一階のレストランへとエレベーターを使って降りる。
時刻は七時を回っているからか、それなりの宿泊客が同じ様に食事を摂りにレストランに入っていた。
バイキング制なのでトレイに料理を選んで幾つも載せる。
運良く三人は座れる場所を見つけてそこに座り雑談をしながら食事を始めた。
「結局、バルドさん帰ってこなかったね」
「どこに行っちゃったんだろ?」
話題は当然バルドの事だった。出て行ったきり帰ってこない彼の事が心配で気になっていた。
《ねえ、ケルベロスさん。起きてる?》
《おうよ、起きてるぜ~。如何したんだいほのかの嬢ちゃん?》
心配になったほのかは念話を使って姿を消しているケルベロスへと話しかけてみる。
《バルドさん、どこに行ったのか知ってる?》
《ん~……。知ってる事は知ってるけどね。生憎と教えられないかね~》
《どうして?》
《だって教えたら嬢ちゃん達、絶対に探しに動くだろ? そしたら、意味ないじゃん》
《あう……》
言われてみれば、自分の性格を考えると確かにその通りだ。教えて貰ったら間違いなく動いてしまうだろう。そうなるとバルドとの約束を破る事になって結果、後でお叱りを受けるの事になるのが容易に想像できた。
《相棒の事なら心配すんなって。ちゃんと生きてるからよ~ウヒャヒャヒャ!!》
《ケルベロスさん、分かるの?》
《おうよ。相棒とは長年の付き合いだしな、自然とキャッチできるって訳さ》
相棒とまで呼べる間柄だからか、ケルベロスにはバルドが如何しているかが何となくだが分かる様だ。流石は魔剣といったところか。
取り敢えず、バルドが無事である事を知ったほのかは思わず安堵の息を吐く。フィリスとアシュトンにもその後にバルドの事を伝えた。
それから暫く食事を楽しみながら談笑をして、彼女達は自分達の部屋へと戻っていくのだった。
そんな彼女達がレストランを後にするのを、椅子に座って食事をしている三名の人物が黙って視線だけを向けて見ていた。
そして、彼女達がエレベーターに昇るのを確認してから徐に食事を止めて片付ける。足早に出て行ってエレベータの前に立ち、彼女達の降りた階を確認して彼等は階段を使って移動を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
部屋に戻ったほのか達はのんびりとくつろいでバルドの帰りを待っていた。ケルベロスからの話しでバルドが無事だという事を知ってか、心配事が減って思い思いに時間を潰していた。
『此処でニュースのお時間です。多くの工学機器を開発していた第一研究所が本日、大型航行艦の完成を発表しました』
テレビを見ているとニュースが流れ、第一研究所の映像が映し出された。
次には研究所に設けられているだろうドッグの映像に切り替わって、そこには大型の戦艦が鎮座していたのだ。
『現在の技術の粋を集めたこの大型航行艦は従来の飛行能力を向上させた他に、計算上では深海を航行する事も可能とされております。主砲の『メガビームキャノン』のほか、対空対地ミサイルや対空ビーム砲など多くの兵装が施されており防御面もしっかりとした設計をされております』
全景を映す映像が流れ、完成に湧き上がる開発チームの面々が一緒にいた。
『開発の最高責任者の『ワルサー・ドルイト』氏は次の様に話しております』
『現在、我々の持つ魔科学と技術をつぎ込んだこの戦艦は私達の国の未来を守る次世代艦です。今後は同型の艦を多数開発し、国の防衛と国民の皆様を脅かすモンスターの駆逐に大いに活躍する事でしょう』
ほのか達の知るニコラス・オズワルドと同年代に見える男性が映し出されてそんな事を話している。如何やら、いま映っている男性がワルサーと呼ばれる第一研究所の責任者の様だ。
『政府はこの艦を導入し、特別災害対策本部SCCAに配属させる事で国防にも力を入れてもらおうとの見解を示してます。なお、今回の発表により周辺ヶ国に大きな緊張を与える恐れがあると専門家は語っています。次に経済ニュースへ移ります――』
「すごいね、魔法共和国は……。あんな大型の航行艦をもう作っちゃったんだ」
それを見てアシュトンが声を零した。魔術大国では大型航行艦の開発は殆ど進んでおらず、その様なニュースすら流れたのを見た事がないらしい。
自分達には難しい話なのでよく分からないが、今回の事はすごい事なのかと三人は思って話していた。
そんな時だ。部屋のドアをノックする音が聞こえたのだ。
それに彼女達は誰が来たのか首を傾げる。
「あっ、もしかして……バルドさん!?」
もしやと思ったほのかがベッドより飛び降りて扉の方へとトコトコと駆ける。そして、彼女がもう少しでドアノブに触れそうになった時だった。
[嬢ちゃん!! それ以上は近づくな!!]
「ふえっ!?」
突然、ケルベロスが彼女と扉の間に姿を見せた。
慌てて踏み止まると同時にドアの隙間から光が零れだす。
突然の事態に目を大きく見開くほのか。
[ちぃ……!! やらせっかよ!!]
舌打ちをするケルベロスがそのまま床に突き刺さり目一杯に闇色の結界を張った。直後、大爆発が起きてドアが吹き飛ぶ。結界に爆発が激突して室内に煙が広がる。
「ほのか!? ケルベロス!?」
[大丈夫だ!! 嬢ちゃん!! 通路に向かって魔力弾を叩き込め!!]
「ふえ……っ。[早く!!]う、うんっ!!」
[マスター! 前方に生体反応!! ロック完了しました!!]
「シャインバレット、シュートッ!!」
マジックアーマーをセットアップせずに彼女は直ぐに魔力弾を形成。
詠唱破棄をした魔力弾を一発、煙の立ち込めるドアの向こうに向かって全力で撃った。
「ぐあっ!?」
煙の中を切り裂くように飛んで行った魔力弾がその先にいる誰かに激突して爆ぜる。直撃を受けただろうその相手は壁に思いっきり叩きつけられたようだ。
確かな手応えを感じたケルベロスが結界を解除すると同時に三人に声を上げる。
[嬢ちゃん達! 今すぐにセットアップしてアシュトンを連れてそこから飛び降りろ!!]
「な、なにが起きてるの!?」
[説明は後だ!! いいから早くしろ!!]
「ほのか、急いで!!」
「う、うんっ!!」
フィリスに促されて彼女も急いでセットアップする。
戦闘スタイルに切り替わった彼女達は急いで窓を開け放つとアシュトンの両肩に肩を貸して宙に浮かぶ。
「え!? な、何が起きてるの!?」
「わ、分からない。……けど!!」
「いまは……逃げるの!!」
そのまま彼女達は身をホテルの最上階から身を投げ出す。重力に従って彼女達の体が地上に向かって落下を始める。
「う、うわああぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
悲鳴を上げるアシュトン。真っ逆さまに落ちる彼女達の眼前には車輌の走りまわる道路が見える。その道路に落ちる寸前で彼女達は飛行魔法を発動、一気に高度を上げて上空へと飛び上がりホテルから逃走を開始する。
彼女達が外に逃げたと同時にケルベロスもその場から虚空へと姿を消して身を隠す。その数秒後に何者かが煙を破って部屋に突入。開いている窓から身を乗り出して辺りを見渡す。
そして、視線の先にほのか達の姿を認めると急いで左耳に装着されている通信機から仲間へと連絡を回す。
「団員一名がやられた。目標が逃走!! 第三番区域に向かって現在飛行中!! 至急追尾班は追え!!」
空を飛行する彼女達はアシュトンを少し不格好な形で抱えつつ逃げる。
そんな彼女達の脳裏にケルベロスが念話を使って話しかけて来た。
《ギリギリだったって感じだな》
《ケルベロスさん。一体、なにが起きてるの!?》
《二人とも、結構厄介な連中に目を付けられたな》
《ど、どういう事?》
《言うよりもその目で確認した方がよさそうだ。後ろを見てみな》
言われて彼女達三人は背後に目をやる。
すると、建物の屋上や屋根を伝って跳躍し自分達を追う者と、飛行して追いかけてくる者達が視界に入った。
その者達の服は皆、統一されており右肩の部分に双頭の蛇の紋章が施されていた。
《あれは……っ!!》
《第一都市を拠点として活動するギルド、『アンフィスバエナ』だ》
《な、なんで私達を狙うの!? 私達、なにもしてないの!?》
昨日の記憶を探っても自分達が向こうのギルドに変な行動を見せた気は欠片も見つからなかった。しかし、そんな彼女たちの考えをケルベロスが否定する。
《残念だけどよ、如何やら向こうさんはそうは思ってないみたいだぜ? あの時、もうこっちは見張られてたって事になるな》
あの時とはきっと自分達がギルドの領土に近づこうとした時の事だろう。
だが、自分達は向こうの領土に入ってはいない筈だ。それに、こっちは向こうの領土の事を知らなかった。
《な、なら説明すれば……!!》
《ギルドの連中がそう簡単に他人を信用なんかしねえさ。例え、相手が子供だろうと敵と認識したら捕まえて独房行きだ!!》
そんな話をしていると、地上より魔力矢が一発放たれて来た。
「にゃあっ!?」
慌てて彼女達は身を捩じって回避。ギリギリの所を矢が飛び抜けていく。
「撃って来たよ!?」
「もっと速く飛ばないと追い付かれちゃう!!」
速度を上げようと必死になる二人だが、アシュトンを抱えている事もあってか思う様に速度が上がらない。
その間にも、相手が次々に此方を射程圏内に捉え始めているのか矢の他にも攻撃が増えて来た。このままだと撃墜される恐れが出て来た。
「ほのか、フィリス!! あの広場に降りて!!」
「アシュトン君?」
「早くして!!」
「う、うん!!」
何を思ったのか、アシュトンがある広場を指差して言ってくる。それに二人は戸惑いつつも降ろすと、彼は持っていた杖を構えて魔術陣を展開し詠唱を始めたではないか。
「吹き荒ぶ風の洗礼!! ウィンドスラッシュ!!」
直後に緑色の風刃が複数放たれる。刃となった風が自分達を追いかけてくるギルド隊員達に襲いかかる。相手の反撃に驚いた彼等の足が止まった。
「此処は僕が足止めする!! 二人は早く逃げて!!」
「アシュトン君!?」
「なに言ってるの!? そんなの事出来る訳ないよ!!」
「僕がいたら全員が捕まっちゃう!! 僕が飛行できないばかりにほのか達の邪魔になってるのは分かってるよ。だから、二人はこのまま逃げてバルドを呼んで来て!! それまで、僕が何とかする!!」
「そんなのダメ!! そしたら、アシュトン君が……!!」
そうこうしている内に、ギルドの隊員がアシュトンの攻撃を掻い潜って接近を始めて来た。
「くっ……!! 風よ、我が身の盾となりて吹き荒れろ!! ストームウォール!!」
中級風魔術が発動。アシュトンを中心に風刃が巻き起こる。ギルドの者達の眼前に巨大な暴風の壁が展開され彼等はその場で止めさせられる。
「ちっ……!! 風属性の魔法士か!!」
「違う、これは魔術だ!!」
「って事は、魔術側の人間か!! やはり、俺達の動きを監視してたのか!!」
吹き荒れる風の向こう側より聞こえる声。如何やら勘違いをされてしまっている様だが、今はそれを訂正させる程の時間などない。アシュトンは二人に顔だけを向けて叫ぶ。
「ほのか、フィリス。早く行って!!」
「っ…………。アシュトン君、絶対に無理はしないで!!」
「危なくなったら、逃げてよ!! 無茶したら許さないからね!!」
「約束するよ。僕なら大丈夫……だから、二人は早く行って!!」
アシュトンの方を何度も振り返りながら彼女達は沈痛な面持ちのまま走る。何度も彼の方を振り向いていた彼女達は、そのまま飛行魔法で逃走を再開した。
それと同時に魔術の効果が切れて相手が再び追跡を始めようとする。
「まだだよ!! 奏でるは焔の前奏!! ファイヤープレリュードッ!!」
再び魔術を発動する。今度は自由に荒れ狂う炎の壁。その不規則な炎の舞いを前に彼等の歩みは再び止められる事になる。
「邪魔をするな!! 魔術士!!」
「第二班!! 左から行け。そこからならいける」
「そうはさせない。我が呼び声に応えよ、駆け抜ける獣、ストームレオパルドッ!!」
風が集まって形を形成して巨大な豹の姿となって脇から通り抜けようとしたギルドの者達の前に立ち塞がって牙を見せて咆える。
アシュトンの使う魔術、その現段階で最も強力な魔術がこのストームレオパルドだ。その獣の姿をした風は先へ進ませまいと威嚇をする。
「貴方達にはほのか達を追わせないよ!!」
「如何あっても我等の邪魔をするか……魔術士!!」
足止めをする少年を前に、彼等が一斉に武器を取り出す。そして、封鎖結界を発動する。周囲の空間と隔絶され、彼は閉じ込められてしまった。それを見て恐怖を感じ、足が竦みそうになる。
本当は怖い、怖くて怖くて逃げ出したい気持ちで一杯だ。けど、自分はバルドと約束したんだ。
もしもの時は彼女達の事を頼む、と……!!
杖を強く握り、込み上げる恐怖を抑え込んで彼は表情を引き締める。
「当然だよ。だって僕は……!!」
更に別の魔術陣を展開、詠唱準備に入る。
「僕はあの二人の……先輩だから!!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ある程度、逃げたほのか達は地上に降りて走りだす。
ずっと飛行して逃げる事も出来たが、ウィルやメローから相手が自分達が使用している魔力反応から追って来ていると報せが来た。
つまり、自分達が魔法を使用すれば向こうには自分達の移動先が筒抜けの状態だという訳だ。
[このままじゃ埒が明かねえ……!! 相棒がいるエリアに行くぞ!!]
「バルドさんは、どこにいるの!?」
[この先のエリアだ。先に相棒には念話で事態を知らせておいた。こっちからも行けば直ぐに合流できる!!]
「急ごうほのか!! 早くしないとアシュトンが危ない!」
彼女の言葉にほのかは頷いて二人は先を急いだ。街の中をギルドの者に見つからない様にジグザグに駆け、ウィル達のサポートの下、彼女達は街中を走った。
ショートカットをしようとして路地裏に入り、薄暗い通路を走る。しかし、次の角を曲がろうとした時。向こうから出て来た人とほのかがぶつかった。
「きゃっ!?」
バランスを崩して尻餅をつく。ほのかの下にフィリスが駆け寄って彼女を助け起こす。
「ほのか、大丈夫!?」
「う、うん。何とか……」
「おい、嬢ちゃん達よ……人にいきなりぶつかってきて危ないんじゃないのかい?」
その声にハッとなって前を向くと、そこにはいかにも素行の悪そうな一団が彼女達を卑下た笑みを浮かべて見下ろしていた。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「飛び出しは危ないって襲わんなかったのかな~? 親の教育がなってないね~?」
何時の間にか自分達を囲む様に集まる不良の集団。
身の危険を感じた彼女達は背筋に冷たいものを感じた。
フィリスはほのかを庇う様に立って相手を牽制する様に睨みつける。だが、その足は震えておりその睨みが虚勢である事を如実に表していた。
「おいおい、人にぶつかった後はその相手を睨むとか教育がなってないねぇ? ちょいとお兄さん達が教育してやろうか」
一歩、此方へ踏み出す。
如何すればいい。魔法を使えばいいのか? だが、彼等は見たところ魔力を感じない。そんな人達に魔法を使っていいのか!?
如何すればいいのか分からない彼女達を追い詰める様に彼等がどんどんと近づいてくる。
そして、その手が彼女達へと伸びてくる。
―――――その時だった。
「オイ、そこのバカ共」
「あぁ?」
不意に聞こえる少女の声。それにその場にいた全員がそっちを向く。
路地裏の外、そこに立っていたのは一人の女の子だった。
歳は見たところ中学生辺りだろうか。青い瞳に太腿近くまで伸びた金髪。その頭には二つの角のような突起。
上着は何処にでもありそうなジャージで、下はミニスカでそこから細くて白い太腿が見えている。ジャージのポケットに手を突っ込んでマフラーを巻いた少女がそこにはいたのだ。
「んだ、テメーは!!」
「許可もなくあたしのシマで好き勝手にすんじゃねェよ……」
整った顔をした少女とは思えぬ言葉を吐く少女に不良達がほのか達から離れて囲む。そして、副リーダーと思わしき人物が彼女に近づいてガンを飛ばす。
「おいおい嬢ちゃんよぉ? 口には気を付けた方が良いぜぇ~? 此処にいるのは第一都市最強の不良、剛力のトウマ様だぜ。そんな態度を取ったらいけねぇぜ?」
「うるせェよ……。邪魔だからさっさとドコかに行け」
それに周囲が一気に殺気立つ。眉間に青筋を立てた副リーダーがデカイ態度を取るその子に向かって遂に怒りを爆発させる。
「口の利き方に気をつけろやガキッ!!!」
怒声を上げながら少女に向かって拳が打ち出される。危ないっ!! とほのか達が叫ぶ。それが、彼女の顔面に当ろうとしたその時――
「へぶッ!?」
何故か、彼女を殴ろうとしていた副リーダーの方が宙に打ち上がった。
綺麗な弧を描いて彼が飛ぶ様を周囲の不良達がポカンとした顔をして見上げる。
そして、地面に無様にその者は落下。その制服には何かで切り裂かれた様な爪痕が残っていた。一同が少女の方を向く。そこにはジャージのポケットから片手を出していて、爪を見せる様に上げる。
「…………」
その手を軽く振った。
一瞬、右側の不良達に風が吹いてそれを感じた瞬間。
圧倒的な衝撃波が吹き荒れて彼等が一斉に宙に弾き上げられた。
直後に、彼等の背後のアスファルトの壁が切り裂かれて三つの爪痕が残る。
「な、なんだコイツ!?」
「失せろ……」
「ぎゃあっ!?」
驚きにざわめく彼等に向かって逆の手が振るわれる。斬撃の様な衝撃波が起きて再び部下達は吹き飛ばされる。見えざる一撃に彼等は成す術もなく次々に吹き飛んで行く。
「調子に乗るなよ、ガキがッ!!」
リーダー格の者、恐らく剛力のトウマと呼ばれていた人物が遂に動き出し巨木の様な腕を振り下ろして来た。少女を上から叩き潰さんと落ちる拳を前に、少女は動く事なく片手を上に上げるだけ……。
しかし、たったそれだけの動作で……岩すら砕けそうな巨大な拳があっさりと受け止められたのだ。
「な、なんだとっ!?」
それに逆に男の方が驚く事になった。自分のこの一撃を何の問題もなく平然と受け止めるなんて鬼か何かでなければ――
「鬼……!? ま、まさか……!?」
顔色を変えた大男は目の前のツリ目の少女を見下ろす。彼の脳裏にはこの都市の不良達が最近になって噂する人物の話が過ぎる。
その者、鬼の如き力を持って相手を問答無用で瞬殺す。その者の前には鉄の壁すら紙の様だとか。
その前には何者も歯向かうこと許さず。正に鬼、正真正銘の鬼、マジで鬼。
頭にある突起は本物の角だとか、鉄をも切り裂く爪を持っていて喧嘩無敗の『鬼』の異名を持つ少女!
「ま、まさか……!? テメーが、『鬼のサヤ』かあぁぁぁぁ!?」
その言葉を最後に巨漢の男も、力負けして面白い位に高々と真上に弾き飛ばされた。錐揉みする体がそのまま地上に派手に落ちる。
「あたしのシマで好き勝手に暴れるんじゃねェよ」
手をポケットに突っ込んで少女が地面に転がる今は意識もない不良達に言い放つ。そして、ほのか達の方を見るとそちらへ足を動かして彼女達の前に立った。
「おめェら、大丈夫か?」
「は、はい……」
声をかけられほのか達は返事を返した後に目の前の人を見つめる。
綺麗な顔立ちに思わず見惚れる。
「早くココから出ていった方がいいぜ。こういった場所はこんな連中がウロチョロしてるしな」
そう言って地面に転がっている不良達を指差す。
そんな少女をほのか達は返事も返す事なく、ただジッと見つめる。
「な、なんだよ?」
それに気付いた彼女は怪訝な顔をする。
すると、急に二人が立ち上がって彼女に詰め寄って来たのだ。
「お、お願いします!! アシュトン君を……アシュトン君を助けて!!」
「は、はァ!? な、なんだよ急に!?」
急に助けてと言われた少女は戸惑いの表情を見せる。
「お願い!! 私達の友達なんです!! 大切な……大事な友達なの!!」
しかし、次の言葉を聞いた途端に彼女から戸惑いの表情が消える。
代わりにツリ目の瞳がより一層、細くなる。
「ダチ、か……」
友達という単語を聞いて彼女は小さく呟く。そして、少し思案する仕草を見せた後に彼女達の目線に合わせる様に膝を折る。
「場所はドコだ?」
そう返事を返してくれた。了承の意味と汲んだ二人は急いで彼女を引き連れて元来た道を戻り始めたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
広場で戦っていたアシュトンは隔絶された空間の中で追い詰められていた。もともと、魔術士は単独で戦闘するなど無謀に等しい。
術の詠唱もあれば発動後の僅かな硬直などどれもこれも致命的なものだ。
それでも彼は必死に多人数相手に食らいつき、足止めをしていた。
「ぐっ!?」
しかし、それも限界に来ていた。
最後の砦、ストームレオパルドが地属性の攻撃を受けて相殺。
その身体を崩壊させて消えてしまう。
直ぐに反撃を試みようとした彼だったが、最初から実力の差があり過ぎた。疲労も重なった事もあり、魔術を詠唱する暇もなく蹴り飛ばされ結界の端に激突する。
「ちっ……。手古摺らせやがって」
「他の班は向こうの二人を見失ったままだ」
「くそっ、早いとこ捕まえて情報を吐かなさないとこっちの情報が漏れるぞ!」
そんな事を口々に言い合う団員を前に、アシュトンがゆっくりと立ち上がる。それに気付いた彼等は、まだアシュトンが立つのに驚いていた。
「なっ……!? まだ立つ気か!?」
「はぁ……はぁ……。二人は、僕が守るんだ!」
疲労困憊、魔力も底をついてしまった。
いままで、魔力を限界まで使う事なんてなかった。
頭の奥でズキズキとした痛みを感じ、視界が僅かにぐらつく。
そんな彼に向かって団員の一人が止めを刺すべく距離を詰める。
「いい加減に……倒れやがれ!!」
持っていた棍を大きく振り上げる。その動きがスローモーションに見えた。目では、はっきりと追える光景だったが体がいう事を聞かない。
もうダメかと思ったアシュトンは目を瞑り、来るだろう一撃に備えた。
――――しかし、それは予想外の場所から阻まれる事となった。
突如、封鎖結界に亀裂が入る。そして次の瞬間、黒い鉄球が剛速球でアシュトンに向かって棍を振り下ろそうとしていた団員に飛んで来た。
「へ? ぶへぁッ!?」
横からの突然の強襲に避けれる筈もなく、黒い物体を横っ面にくらって錐揉みして吹っ飛び近くに壁に激突して撃沈する。
「な、何が起きた!? 封鎖結界が壊されただと!?」
予想外の出来事に彼等は狼狽する。封鎖結界を壊すなど、一体何処の実力者か!?
そんな彼等の視線の先、そこには三人の人物の姿があった。
「アシュトン君!!」
その内の二人……ほのかとフィリスがアシュトンの姿を認めると駆け寄り助け起こす。そんな二人を見てアシュトンは何故といった表情を浮かべ酷く困惑していた。
「ほのかちゃんにフィリスちゃん!? な、なんで……?」
「ごめんねアシュトン君。でも、やっぱり見捨てて逃げるなんて……私達には出来ないの!!」
「そうだよ。だって私達は……友達なんだから!」
二人の言葉に目を見開く。そして、その三人の前に一人の少女が立つ。
「よぉ、いいダチ持ってんじゃねェか」
「君は……あの時の!?」
忘れもしない路地裏であった少女だった。初めて会った時と同じ服装、金髪に頭には角の様な突起の様なのが二つ。
ツリ目で誰も寄せ付けない様な雰囲気を醸し出す彼女は正にアシュトンを助けてくれた少女その人だった。
驚きで呆然としている彼を見たあと、彼女はギルドの構成員たちを見る。
「ダチ公守る為にこの数相手してタイマン張るってのはイイ根性してんじゃねェか」
「貴様……!! そいつ等の仲間か!!」
「仲間じゃねェよ。ただ……」
青い瞳が鋭さを増す。ジャージのポケットに突っこまれていた手を抜いて指の関節を動かして指をポキポキと鳴らす。
「ココはあたしのシマだ。テメェらこそ好き勝手に暴れんじゃねェよ……」
「たかが一人増えた程度で……!! 総員、こうなれば面倒だ! 奴等全員を捕縛するぞ!!」
「了解!!」
団員達が動き出し、四人との距離をじりじりと詰める。それを前にしても少女は怯える事なく表情を崩さずに様子を窺っている。
その左右にほのかとフィリスが立った。
「わ、私達も手伝うの!!」
「別にあたし一人でも十分だぜ?」
「そういう訳にはいかないよ。元はといえば私達が招いたんだ。出来る限り自分達で解決したい」
「ふ~ん……」
「あの、そのえっと……お姉ちゃんの名前は?」
名前を聞かずにいた事を思い出してほのかが見上げる形で聞く。
「あたしは紗耶。霧島紗耶だ。サヤって呼んでもいい」
そんな彼女達に少女、サヤはそう名乗るのだった。
ケルベロスの心情。
サヤに出番とられた……orz
新キャラ登場。その名も霧島沙耶さんです。
前回、アシュトンを不良の人達から救ってくれた人物が今度はほのか達も助けてくれました。まあ、偶然なんでしょうけどね。
ちなみに、何で封鎖結界が壊れたのか。それは、サヤの投げた投石物だったりする。「あたしが握りゃ石でも鋼鉄よりも硬いぜ」
こわっ!?
次回は鬼が大暴れするのか!?
それでは、今後とも宜しくお願いします。
では(゜∀゜)ノシ!!




