第十八話 北に眠りし古代機兵
十八話更新。
第一都市の北部に位置する山脈に『ノーム遺跡』という古代の遺跡がある。
古の機甲型モンスターたちが眠るそこに単身、乗り込む者がいた。
遅れに遅れての投稿です。
では本編をどうぞ。
第一都市の北部にそびえ立つ山脈。名を『ノーム山脈』と呼ぶ。
土の精霊の名が付いたこの山には名付けられた由来が色々とある。
御伽噺を例として挙げれば―――
昔々、今よりも技術が発展してなかった時代の頃。
炭鉱がこの山脈にある事を知ったある男性が鉱石を探しにこの山を登ったそうだ。
鉱脈は確かにあり、彼は嬉々として採掘を始めた。
そして、大量に鉱石を採掘する事のでき、それを背負って帰ろうとした。
しかし、突然の濃霧に襲われ道に迷ってしまったそうだ。
幾ら進めど帰れず、坂を下っている筈なのに終わりが見えない。
恐怖と歩き続けた事で体力を使い果たしたその者は、もう諦めそうになった。
だがその時、彼の前に小さな小さな小人が一人姿を見せたそうだ。
その大きさは自分の膝よりも身長が低かったそうでそんな人を見て驚いたそうだ。
すると、その小人は指をある方向に向けて指を指し、その者の袖を引っ張ったそうだ。
引っ張られる形で連れて行かれると、霧が止んで行き次に飛び込んで来たのは登った時に使った道だったそうだ。
驚く彼はその子を見た。
すると、小人はニコッと笑ったと思った瞬間、その姿を霧と共に消えていったそうだ。
そして、急に背中が軽くなったので振り返ると背負っていた籠に入れていた鉱石の半分が消えていたそうだ。
後に、彼は故郷で土の精霊が自分を助けてくれた事を話し回ったそうだ。
噂は一気に広まり、その小人は『地中に住まう者』―――『ノーム』と呼ばれるようになり、小人の住む山脈の事を『ノーム山脈』と呼ぶようになった。
それ以後その山脈には祠が建てられ、山へ登る際には必ず鉱物を供え祈りを捧げて採掘士達の無事を祈願してから山脈へ登る様になったそうだ。
今でも多くの町村の者達は太古より受け継がれた言い付けを守り、ノームが齎す大地の恵みに感謝の意を唱えてから山脈に上っている。
しかし、第一都市の様に近代化してきた所では一部、その様な話は迷信だと鼻で笑われる。
逸話を信じないが故にその一部の者達は無遠慮に山脈に登っては好き勝手に採掘をしている。
その所為で、幾つもの採掘場は掘り尽くされ使い物にならなくなって放棄される事もしばしばある。
そして、山脈を掘り進める内に奥地で古代遺跡が発見される事になる。
『ノーム遺跡』と呼ばれるそれは現在、調査が進められていて強力な金属モンスター……『機甲型モンスター』が数多く、稼働を止めた状態で発見されている。
専門家曰く、“動力炉が停止しているから稼働はまずあり得ない”と言っていたので現在も幾つかを回収するだけで放置されている。
それが、後に大変な事態を呼ぶ事になる事も知らずに……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
貴重な遺跡に侵入者を入れないようにとSCCAはそこに駐屯所を建設。
幾つかの分隊を駐在させ警備に当たらせている。
厳重な警備が敷かれているそのエリアに、一つの影が入る。
[目標エリアに到達。此処から先は警備網が厚くなっている様です]
「ん……」
大木の枝に立って木の葉の影より様子を窺っているのは、金髪の少女……あのリースリット・ピステールであった。
彼女の赤い瞳が見つめる先には幾つも張り巡らされた監視カメラやレーダー網、魔導式哨戒機。
古代遺跡を警備するだけあってその監視レベルは非常に高かった。
「フォルテ、ジャミング用意……」
[了解しました。しかし、このレベルとなると限界時間は三十秒です]
「問題ない……」
フォルテの言葉に彼女は短く答える。
そして、同時に両足に雷が纏う。
「十秒あれば……行ける」
木より飛び降りた彼女は、着地して真っ直ぐに目標である遺跡の入り口を見据える。
「フォルテ、いつでもいいよ」
[では五秒後にジャミングを開始します]
彼女の両足で迸る雷は勢いを増し始め、魔法陣が展開される。
それと同時にカウントダウンが始まる。
5、4、3、2、1……0!!
[「ナイトチャージ(ジャミング開始)……」]
フォルテより高レベルのジャミングが発生し、同時に彼女が駆けだした。
そして、警備網の中に彼女が飛び込みそのまま周囲にある建物の影という影を活かしながら人の眼を盗んで駆けていく。
物陰に潜んでいる監視カメラなどはフォルテの出すジャミングの影響を受けてほんの僅かな瞬間だけ映像を乱す程度で終わるが、その間には彼女は既に駆け抜けている。
そして、誰にも気づかれる事なくリースリットは古代遺跡の入り口まで辿り着きそのまま遺跡の門を開けて素早く中へと侵入した。
ここまでに掛かった時間は――――彼女の宣言通りたったの十秒だった。
上手い具合に内部へと侵入した彼女の前に広がっているのは古代の人々が築いた空間だった。
所々、風化によって崩れた個所があるがそれでもまだ遺跡自体の機能を失っている様子はない。
薄暗い内部を灯火魔法を展開して明るくする。
[ニーベルンゲルゲンの反応はこの先の様です]
「ん……」
彼女がこの遺跡へと侵入したその目的はニーベルンゲルゲンの欠片を手に入れる為だった。
此処に駐屯している者達は気付いていないがあの日、この山脈にもあの欠片は飛来した。
そして、この遺跡付近でその姿を消した。
その欠片の反応を彼女は察知してこの場所にやって来たという訳だ。
遺跡内部を歩く彼女の左右の壁には機能を失い、その活動を停止している機甲型のモンスター達の骸が当時の体勢のまま固まっていた。
「Dランク機甲型モンスター『ガジェット』……」
[動力は停止している様です。このまま放置していても問題はないかと?]
「そう……」
起立の状態で停止している人型機甲モンスター『ガジェット』の横をリースリットは素通りする。
太古の時間を過ぎても錆びる事のない身体は一体どのような鉱物で出来てるのかは分からないが、それは何処にも壊れた様子を見せずに立っていた。
それを軽く一瞥した後に、リースリットはさらに奥地へと向けて歩み始める。
だが、その時だった遺跡内が突如として振動を起したのだ。
「また地震……」
[震度は3ですね。これ位ならこの遺跡には何の被害もないかと]
「ん……」
揺れに最初は驚いたものの直ぐに平静に戻って彼女は辺りで崩れそうな場所はないか確認を取ってから先に向かって歩みを再開する。
そんな彼女の背後、停止していたガジェットがほんの僅かだがギッと動いた。
そして、次の瞬間に光りを失っていた目が開き、動力炉が起動。
[……………]
首が先に動き、左右に振られる。そして、その視界に背を見せて歩く小さな少女を捉える。
直後に両足に力を込めて弾丸の様に跳躍、右手を変形させてレイピアの様な形に変形させてその身体を穿たんと突き出した。
放たれる切っ先が彼女を捉える――
――ことはなく空を貫いた。
切っ先は何もない空間を貫いており、ガジェットの前に先ほどの少女の姿はなかった。
姿を消した彼女を探そうと首を動かそうとした。
[……………]
「遅い……」
そんな声が頭上より聞こえてガジェットは顔を上げ様としたが、金色の閃光が空間を縦に裂く様に落ちてガジェットの前に少女が姿を見せた。
動きを停止したそれの体に縦に亀裂が奔る。
そして、ずれ落ちる様にその身体は左右に裂けて崩れ落ちた。
白煙と導線から火花を出して破壊されたガジェット。
それを可能とした金色に光る雷の刃、魔力刃を展開した剣形態に移行したフォルテを彼女は軽く手の中で回してから魔力刃を消す。
「……動いた?」
[地震と同時に周囲へ特定の魔力周波数が放たれているのを感知。如何やら、奥で何かが行われている様です。急いで原因を究明した方がいいと思います]
「分かった……」
リースリットはその後もガジェットを数体破壊して奥へと進む。
そして、彼女は大きな扉の前に辿り着いた。簡易的な封印魔法が施されている様で扉が開かない様になっていた。
「この先から反応がある……」
[この土地は『地属性』の強い場所です。恐らく、敵も同属性の可能性があります。十分に警戒して下さい]
「ん……。分かった」
彼女がその封印式に手を触れる。すると、ピシッと音を立てて亀裂が入ったではないか。
それが徐々(じょじょ)に大きく広がって行って遂に爆ぜて砕け散る。
封印の解除された扉を押すとあっさりと開き、彼女は中へと足を踏み入れる。
祭壇と思わしき舞台が設置されたその中央に黄色の欠片が浮いていたのだ。
その水晶の様に透き通る欠片にリースリットの姿が映る。
すると、欠片から膨大な魔力が溢れだし激しい閃光を放ち始めたではないか。
欠片はそのまま祭壇から奥にある石像の様なものに飛んで行き、更に激しい閃光を発して辺り一帯を眩い光で包み込んだのだ。
それに彼女も思わず目を瞑り、手で光りを遮る。
光が治まると同時に、その石像に亀裂が入った。
[全機能、セイ常にサドウ……。起ドウ開シ……コードネーム『Murder』……]
石像が爆ぜて内部よりその大型機動兵器が動き出した。
両手の砲塔からは円筒型に束ねられた多数の銃身、頑丈そうな分厚い装甲で身を固め、胸部には展開式の大型砲台が出たり戻ったりを繰り返す。
ひとしきり動作チェックが行われた後に光を失っていた目が輝く。
緑色に光る二つの眼は正常に起動している証。
背部にあるスラスターから粒子状のものが噴き出しており、宙に浮いている。
脚はなく頭部と胴体だけしかないモンスターだった。
「目標を回収する……」
それを見ても彼女は全く臆する事はなく、フォルテを構えて魔力を開放。
背後に戦女神の紋章が展開された。
[マッサツ……]
両腕のアームが動き出し、円筒型に束ねられた多数の銃身……ガトリングガンが回転を始めて火を噴いた。
数多の鉛弾が一斉に少女ただ一人へと襲いかかってくる。
リースリットは持ち前の高速移動を駆使して弾幕の範囲から離脱する。
そしてフォルテの切っ先を下に向けた状態で駆けだす。
両足に雷が纏って彼女の速度がどんどんと上がっていく。
彼女を撃墜せんとモンスターが機銃掃射を仕掛ける。
最高速まで達した彼女の直ぐ背後に次々に銃弾が着弾、地面を吹き飛ばし、跳ねる。
それを背後に感じつつも彼女は恐れずに距離をゼロとして一撃を叩き込んだ。
[損ショウ……]
モンスターの身体を電気が舐めるように奔る。如何やら一時的に感電してショートした様だ。
その動きが僅かに緩慢なものになっている。
「やっぱり……機械は電気に弱い」
[この調子で叩けば倒すのも時間の問題かと思います]
やはり機械系のモンスターだけあって雷属性には弱かった。
動きの鈍った敵は彼女にとってもはや相手でもなかった。
その後も高速で飛び交って相手に何度も攻撃を叩き込みその度に電撃と斬撃によるダメージが通る。
確かな手応えを感じ、このままの調子で戦えば勝てる…と彼女だけでなく相棒であるフォルテも感じ取っていた。
だが―――
[敵勢力を排除、敵セイリョク排除…排除、排ジョ……ハイジョ………ハイジョ…………]
「……?」
突如として相手の様子がおかしくなった。
正常を意味する緑色の双眸が点滅を繰り返し、各パーツの隙間から白煙が噴き出す。
搭載されている旧式火器の開閉を繰り貸したりと明らかに異常を示していた。
そして、周囲にエラーの文字が大量に出現し、警告音が鳴り響く。
最後に体を硬直させて固まったと思うと機能を完全に停止。
次の瞬間、緑の光を放つ双眸が赤色に変貌。同時に強力な魔力反応がそれより発生する。
[大型の魔力反応を感知! マスター、気を付けて下さい!!]
フォルテより警告の言葉が発せられる。
警戒を強める彼女の正面、その機械モンスターが再び動き出す。
再び背部にあるスラスターが動き出し、宙に浮かびあがる。
[全システムノショウアク完了……。メイン武装ヲ選テイ……]
「まさか……欠片に乗っ取られてる!?」
右のアームが動き出し、リースリットに向けられる。
銃身が回転を始め、銃口から光が溢れだす。
そして次の瞬間、そこより大量の魔力弾が撃ち出されて来たのだ。
「っ!?」
突然の攻撃の変化に彼女は驚いた表情を見せる。
条件反射で飛行し、迫る弾幕の中を縫う様に飛んでかわしていく。
今度は左のアームが動き出して連射してくる。
交互に撃ち出される弾幕を前に彼女は反撃の糸口を掴めない状態だった。
[テキノ速度をケイサン。発射……]
背部が展開されてそこより多数のミサイルが発射された。
白煙を上げて空を飛ぶリースリットへ殺到してくる。
当ったらひとたまりもない。
彼女は空中を高速で飛行して逃れるが、その後をミサイルは執拗に追いかけて来た。
「誘導式……!!」
ホーミングミサイルだと気付いた彼女は振り切ろうと更に速度を上げる。
その後を次々と発射されるミサイルが追いかける。
部屋の中を縦横無尽に飛び交い、彼女は魔力弾を撃ってミサイルの群れを撃墜。
幾つもの爆発が室内を彩る。
爆発が巻き起こる中、リースリットが飛び出して機甲型モンスターへ攻撃を開始する。
「貫け、サンダースピア……ファイヤ!」
雷の槍が幾つも展開され一斉に放たれる。
降り注ぐ金の槍は真っ直ぐに対象である敵に向かって迫る。
[撃メツ……!!]
放たれる魔力弾の雨によって彼女のサンダースピアは悉く破壊されて霧散して消えてしまった。
だが、実はそれは囮。魔力弾の影を利用して彼女はその姿を相手の前から一瞬で消す。
そう、彼女の本命は――
「レイジング……スマッシュ……ッ!!!」
近距離からの斬撃だ!!
高速で相手の横を駆け抜けつつ鋭い一撃を叩き込む。
見事命中し、相手にダメージが通った筈だった。
しかし、彼女の思惑とは裏腹に相手は予想外の動きを見せた。
動きは全く鈍らず、両腕から隠しブレードが展開され、上半身だけが回転して彼女に向かって刃を振るって来たのだ。
「っ!?」
空気を裂く様に迫るブレードを前に彼女は咄嗟にフォルテを動かして受けるが体勢の整わぬ状態だった為に何の抵抗も出来ずに弾き飛ばされる。
彼女の軽い身体がそのまま壁に激突した。
「かふっ!?」
[マスター!?]
ずるずると落ちて床に手をつく。
相手は反対を向いていた下半身を回して元の位置に戻す。
様子を見るに、先ほどとは打って変わって問題なさげに動いている。
その姿に彼女はふらつきながらも立ち上がり、思考を巡らせる。
なぜ、相手はさっき以上に動けるのか?
機械系のモンスターは地属性でありながら雷属性には弱く、電撃を受ければ信号系統に異常をきたして動きが鈍る筈だった。
だというのに、今度はその様子が見受けられない。
一体、相手は何をしてその弱点を克服したというのか!?
その答えはすぐに見つかった。
浮遊する相手の胴体、その下部に二つの太いアンカーの様な棒があったのだ。
それが、地面に突き刺さっておりゆっくりと抜かれて収納される。
「対雷…装備……!?」
内部の電子機器に損害を与えない様にする為に電気を集めやすい素材のアンカーが彼女の雷を体表にある内に集めて地面へと流したのだ。
[ゲキ滅……]
その考えに至ったと同時に再び多数のミサイルが彼女に向かって襲いかかって来た。
頭上より多数のミサイルが着弾し、爆発が巻き起こる。
「ああっ!?」
爆風を諸に浴びて吹き飛んで、地面にまた転がる。
今度は直ぐに起き上がってその場から身を投げ出す様に地を蹴って飛ぶ。同時に彼女の先ほどいた場所に大量の魔力弾の雨が着弾して爆発を撒き起こす。何とか体勢を整えて、痛み身体に喝を入れてフォルテを構え直す。
赤い目になった無機質な瞳が彼女を映す。今までにない強敵を前に額から汗が伝う。
放たれる機械とは思えない殺気を受けて自然と手が震えている事に気付く。
それをグッと堪えて彼女は目の前にそびえ立つ黄色の欠片が宿った機甲型モンスターに再び挑みかかるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
遺跡内でリースリットが人知れず戦闘をしているその頃、遺跡の前では数人の隊員が見回りに来ていた。
見回りといっても、何時もと変わらない平穏な時間が流れるだけで彼等も自然とお喋りを始める。
「最近地震が多いな?」
「つっても、起きてるのはここら周辺だけだって話だぞ? 知り合いに第五都市で勤務してる奴がいるんだが、向こうじゃ地震は起きてないってさ」
「それ、ホントか?」
「そうらしいぞ? でも、代わりに例年以上に積雪が多くて雪による被害が続出していて休む暇がないとか嘆いてた」
「ほんっと、今年は色々とおかしな事が起きるな。その内、戦争でも起きるんじゃないか?」
「よせって、本当にそんな事になったら怖いって」
しかし、そう思わずにはいられない程に今年の異常現象は目を見張るものがある。
本当に如何したというものか……?
何か超常現象の起きる前触れか、それとも大戦争が起きる前兆なのか。
考えれば考えるほど、不安の種はどんどんと増える。それを止めようと頭を振って不安の念を掻き消す。
「……あれ?」
そんな話をしている最中、一人が何かに気付いた様に遺跡の方を向いた。
彼の行動に相方が怪訝な顔をして問いかける。
「如何したんだ?」
「今……何かが此処を通り過ぎた様な…?」
「俺は、何も感じなかったぞ?」
「……気のせいだったかな?」
何やら一瞬だが、魔力らしき気配を感じた気がしたのだが……別に遺跡の入り口を見ても誰も通った様な形跡は見当たらない。
見間違いか何かかな? と感じた彼は再び相方と一緒に警備を再開するのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「かはっ!?」
黄の欠片を宿す機甲型モンスターと戦闘を続けていたリースリットが再び弾き飛ばされ、地面を跳ね最後に壁に全身を強かにぶつかって漸く止まった。
全身を強打して倒れ伏す彼女を前にそれは銃火器を収納しゆっくりと浮遊したまま接近する。
相手が対雷装備を起動してから形勢は一気に逆転した。
彼女の持つ雷属性の魔法はその悉くを地面へと流されて無効化されてしまいダメージが殆ど入らない。
逆に相手は自身の安全を確保出来た事によりより一層の攻撃性を見せて彼女を追い詰めた。
うつ伏せの状態から必死に立ち上がろうとするリースリットだったが、全身を強く打った事で体が命令を受け付けず立ち上がれない。
それどころか、頭も打ったのか意識が混濁し始めていた。
徐々(じょじょ)に薄れていく意識、目の前の敵が隠しブレードを展開して振り上げる。
[マスター!!]
相棒のフォルテの声が聞こえる。同時に、彼女に向かって巨大なブレードの一撃が振り下ろされた。
轟音と共に床が爆ぜ、破片が宙に舞い上がる。
モンスターの振り下ろされた腕の先には、命を絶たれた小さな少女の姿がある筈だった。
―――しかし、砂塵の治まった先にはその姿はなかった。
「ふぅ~……。ギリギリセーフってところか……」
その声が聞こえた方向にモンスターはブレードを抜いて、身体を動かしてそちらを向く。
そこには、先ほどまでいなかった別の人物が膝をついた形でいた。
その者の腕の中に、さっきの少女が抱かれている。
目は閉じられているが、小さな胸が上下に動いて息をしている事からただ気を失っているだけの様だ。
泥まみれの顔にその者は優しく手を添える。その手から淡く光る闇色の魔力光が彼女へと送られる。
見る見るうちに負っていた傷が消えていって、泥まみれだった顔も元の綺麗な素肌へと戻った。
「これでいいな……」
彼女の顔を見て軽く息を吐く。
そんな彼の背後に音もなくモンスターが何時の間にか距離を詰め、ブレードを展開した腕をゆっくりと振り上げて――――
[ッ!!]
振り下ろして彼を少女もろとも両断し様と振り下ろそうとした。
しかし、その刃が届く寸前にその者が顔を軽く此方に向けて睨みつける。
[ッッ!!?!?]
それだけで、モンスターは腕に力を込めて急ブレーキをかけて停止。
刃はその者の鼻先数センチ手前の位置で停止する。
モンスターの眼を真っ直ぐに睨みつけるその金色の鋭い眼光。
それが徐々に真紅へと染まり始める。
「止めておけ……。自分の存在を、消したくはないだろ?」
[敵セイリョク……増大……。危険レベル急上ショウ、……オォォ……エル……エル……レム……]
真紅の瞳がモンスターの目に映る。
幾つもの異常数値を確認して、大量のエラーが大型機甲モンスターに宿る欠片にも流れ、身の危機を知らせる。
隠しブレードを収納して、その者から距離を取ってそのまま静かに遺跡の奥深く……闇の向こう側へと姿を消して行った。暫し、闇に消えたマーダーの行方を真紅の眼で睨んでいたその者は眼の色を真紅から金へと戻してゆっくりと立ち上がる。
「長居は無用だな。さっさと帰るか……」
面倒な事が起きる前に逃げる事を選択した彼はその場から闇に溶けて行って少女と共に姿を消したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……………
………
……
暖かい……。
柔らかな何かに自分が包まれている感覚。
フワフワとしたそれが暖かく、自分を優しく包みこんでくれている。
浮上し始めた意識を再び深い深い奥底へと誘ってくる。
それに従ったらどんなに気持ち良く意識を安寧の眠りへとつけるのだろうか?
そう思ったが、ふと脳裏に黄色に光る欠片が過ぎった。
「っ!!?」
ガバッと起き上がる。見知らぬ部屋が彼女の覚醒した意識に映し出される。
最初に目に入ったのは、自分を包んでた布団とベッド。
見た事もない装飾の施された部屋の中に自分が寝かされていたのに漸く気付いた。
何故、自分がこんな場所にいるのか?先ほどまで遺跡の中にいた筈である。
「よぉ、目が覚めたか?」
混乱する彼女に向かって声がかけられる。
その声にハッとなってそちらに顔を向けると、そこには闇より深い色をした黒いロングコートを羽織り、更に黒い服を身に纏う人物……バルドが椅子に座ってそこにいた。
手に持って開いていた何やら難しい本を閉じ、彼女の方に椅子ごと向いた。
「気分はどうだ?」
「……………」
そう問いかけるが、彼女は無言のままでベッドの端まですすっと逃げた。
そして、自分の体を抱きしめる様な恰好になり、バルドの方に警戒の色を持った目を向ける。
それを見て、彼女の考えが分かったのか苦笑する。
「別に寝ている間に変な事はしてねえよ。信じられねえってんなら、そこの相棒にでも聞いてみな」
「…………フォルテ?」
不安そうな声で傍の机に置かれている金に輝くひし形の結晶……待機状態の相棒のフォルテへと声をかける。
その彼女に相棒であるIPターミナルであるフォルテがチカチカと点滅して返事を返した。
[大丈夫ですマスター。この方はマスターを此処、第一都市まで運んで以降マスターの傍にいるだけで何もしていません]
相棒からの返事を聞いて、安心したのか少しだけ肩の力が抜けた。
しかし、今度は別の疑惑が湧きあがって来た。
何故、この男が此処にいるのか?
そんな疑問が出てきたが、それを聞く前にバルドの方が話しかけて来た。
「随分と無茶な事をするなお前は? 見たところ……俺の知ってるバカ二人とは違って、自分の実力が分からない訳でもないだろ?」
そんな事を言って鋭い目をより一層細めて聞いてくる。
それにリースリットはキッと睨みつけるようにして見返す。
「あなたには……関係、ない」
「まっ、それもそうか」
言い返して来るかと思っていたが、意外とあっさりと引き下がってくれた事に内心少し驚いた。
そして、ふと前に戦った二人の少女の事を思い出した。
「あの子たちは……?」
「ん? ほのかとフィリスの事か? あの二人は今も元気でバカやってるぞ」
「そう……」
彼女はあの日以来、少しだけ二人の事が気になっていた。
怪我をさせてしまっていたら如何しよう等と、内心では少しだけ不安だったのだ。
それを聞いてから、リースリットは徐に立ち上がろうとした。
しかし、立った瞬間に体から力が抜けて倒れそうになる。
――がその前にバルドが何時の間にか傍に移動していてその身体を支える。
「無理をするな。さっきの戦闘で受けたダメージはまだ完全に抜け切れてない。今は大人しく寝てろ」
そう諌めて彼女を横たえさせて布団をもう一度かけてあげる。
それから、椅子に座りなおして本を開いて読書を再開する。
少しの間、両者の間に静寂が訪れる。無音の空間に彼のページの捲る音と外で走る車の音が聞こえる。
それに耳を傾けつつ、彼女は横になった状態でバルドの様子をジッと見ていた。
「どうして……」
「ん?」
そんな彼女は小さく呟く。
それに彼は一度、読書を止めて視線を彼女へと移した。
「どうして、助けたの……?」
それは小さな問い。なんで自分を助けたのか。
仲間を傷つけた筈の自分をどうして助けたのか。
「どうして、か……。ふっ、簡単な話だ」
そんな彼女にバルドはすぐに返事を返す。
「俺がそうしたいから、そうしたまでだ」
そう言って、初めて彼は表情を和らげて笑った。その微笑みに軽く目を見開く。
そうしたかったから助けた。
たったそれだけの理由で、この人は自分を助けたのか。
不思議なものを見る様な目で見つめてくるリースリット。
その彼女へバルドは表情を戻して読書を再開、そして今度はこちらから質問をしてみた。
「ところで、一つ聞くが。お前はソロで行動してるのか?」
「……ん」
本から目を離さないで聞いて来たのに対し、彼女は短く是の言葉を返す。
「ハッキリ言ってお前の実力じゃソロ活動は危険すぎる。生傷が絶えなくなるぞ」
「それでも……いい」
短く返された返事を聞いて再び視線を彼女へと向ける。
そこには、横になった状態でこっちを見つめてくる少女の姿があった。
(……ホントに、菓子娘の言う通りかもしれないな)
その姿を見て、バルドもまたほのかの言ってた事が納得出来た。
今のリースリットは、過去の皐月ほのかとそっくりだ。
魔法が使えず、周りから虐めを受けて独りぼっちだった頃に……。
状況は違うだろうが、今の彼女は間違いなく当時のほのかの姿と被る。
誰にも頼らずにたった一人で行動する目の前の少女に、ほのかは共通するものを見たのかもしれない。
(ったく、めんどくせえ奴だ……)
そう思うと同時に彼は何時もトラブルを持ち込んで来るほのかを思い出して心の中で苦笑する。
目の前にいる少女は如何やら、自分の知ってる少女と同類なのだと分かった。
ならば、自分が何をすべきなのか……。
もう答えは見えていた。
「なら、お前にいいものをくれてやる」
「……え?」
そう言うや突然、彼は本をしまって椅子より立ち上がり魔術陣を展開。
彼の前に同様の漆黒の魔術陣が展開されてそこより光が溢れ出す。
彼女は思わず体を起し、身を乗り出してその光景を見つめる。
「我が名の下に姿を見せろ。来い、アウル!!」
床に展開された陣の中より一人の鳥の羽をあしらった黒い着物を来た女性が姿を見せた。
長く綺麗な輝く銀色の髪、頭には二つの鳥の翼の様なものが生えている。
閉じていた目が開かれると、綺麗なアメジスト色の眼が目の前にいるバルドを捉える。
「わっちを呼ぶとは……ぬしよ、何か御用かえ?」
何処か古臭い言葉を使うその女性は何処か尊大な態度で目の前のバルドに話しかけて来た。
「相変わらず、態度がでかいなアウル」
「ふん、わっちは誰が相手でもこの形は崩さぬ」
腕を組んで鼻を鳴らしてそっぽを向く。
そんな彼女を見てポカンとしているリースリットにバルドが彼女を紹介した。
「こいつの名はアウル。俺の使い魔で元の姿は梟だ」
言われてみれば確かに彼女の来ている服にあしらわれているのは梟の羽の様だ。
そして、頭から生えている翼もよく見れば梟のそれに見えた。
興味深そうに見つめてくるリースリットの視線に気付いたのかアウルが彼女の方へ目を向ける。
「ぬ? この童はなんじゃ?」
「そいつがお前を此処に呼んだ理由だ」
怪訝な顔をするアウル。
そんな彼女に向かってバルドは命を下した。
「アウル、主として命を下す。本日より俺との契約を破棄し、新たにその子、リースリットの使い魔として今後は行動しろ」
「いやじゃ」
しかし、彼の命令を彼女は却下した。そっぽを向いて目だけをギロッと少女へと向ける。
「なにゆえ、わっちがこの童と行動を共にせねばならぬ? 見たところ、ぬしよりも弱いではないか。そんな者の使い魔になろうとは思いやせん」
「あのなあ……。主の命令は絶対だぞ。いいからリースリットの使い魔になれっての」
「いやじゃ。そもそも、わっちはぬしの使い魔として誕生した筈じゃ。それを如何してこの童の使い魔となって行動せねばならぬ?」
「騙されたと思ってなってみろよ? もしかしたら、予想以上に面白い事が待ってるかもしれないぜ?」
ツンとするアウルにバルドは不敵な笑みを見せて言う。
それに腕を組んだ状態でチラリと彼を見る。
「本当じゃな?」
「俺が言うんだ。間違いはねえよ」
互いに見合う両者。それが暫くの間続いて、アウルの方が息を吐いた。
「ぬしがそう言うのなら仕方がないの……。本当に良いのじゃな?」
「ああ、構わない。今度から、リースリットを支えてやれ」
「承知した」
彼から背を向けて彼女はリースリットの前に立つ。
見上げるリースリットを見下ろす形でアウルは腕を組んで胸を張って尊大な態度で語った。
「感謝せよ童、いや……新たなるぬしよ。わっちがこれよりぬしの使い魔となろう」
契約の印がリースリットの前で行われる。
粛々(しゅくしゅく)と行われるそれをリースリットはジッと見つめていた。
「では、新たなぬしよ。此処に印をしてくりゃれ」
「ん……」
少し緊張気味に指を動かして目の前に描かれたアウルの印に自分の印を書き加える。
それが完成すると同時に契約の印が光って消える。
「契約完了じゃ。これより、わっちは主の使い魔として行動する」
その光景をバルドは静かに眺めていたが、徐にアウルが振り返って彼の前に立つ。
身長差がある為に見上げる形でアウルがバルドを不敵な笑みを見せて語った。
「ぬしよ……。いや、元ぬしかの。これでわっちは新たなぬしの下で行動する様になった訳じゃ」
「それでいい」
「今度会う時はもしかすれば、敵かもしれぬがの? クックック」
「そん時は全力で来いよ。相手してやる」
互いに深い笑みを見せて静かに笑う。
「さて、今夜はゆっくりと休め。俺が代わりに見張りをやってやるからよ」
言われてリースリットは起していた体を横にして布団を被る。
そのベッドの端にアウルが腰かけた。
「安心して眠るがよい。わっちがこうして傍にいるからの」
新たな使い魔となったアウルを一度見て小さく頷き目を閉じる。
何時もは警戒を絶やす事なく浅い眠りしか出来なかった彼女は今日、初めて誰かに見守られているという安心の下で深い深い眠りにつくのだった。
「しかし、元ぬしも人が悪いの?」
「なんだ、藪から棒に?」
「ぬしを泊めているこの宿………『ラブホテル』ではないか?」
「……ここしか空いてる場所が他になかっただけだ。これでも他の部屋よりも一般の寝室に近いものを選んだんだぞ」
「穢れを知らぬ純白の少女を連れ込むとは……この変態め。くっくっく♪」
「何度も言うが、俺はそんな特殊な性癖は持ち合わせてねえっての!!」
暫くして、元使い魔であったアウルにあらぬ疑いをかけられ額に青筋を立てるバルドがそこにいた。
尤もアウル自身は分かってて言っているようで、単にからかっているだけだったりする。
彼の反応を見て面白くなったアウルがその後暫く、彼をからかう事を止める事はなかったのだった。
モンスター紹介
ガジェット
機甲型モンスターの中で最も最弱の機甲型モンスター。
個体数は多く、主に遺跡に生息する。人型で戦闘時には腕をレイピアに変えて突撃してくる。その他にも幾つかの形態があるとの噂あり。
地属性だが、金属なので雷に滅法弱い。
物理攻撃には強いので魔法や魔術がオススメ。意外と俊敏なので油断せずに戦おう。
マーダー
ノーム遺跡の祭壇の間に石像として封印されていたモンスター。
黄の欠片の力により目覚める。地属性であるが機甲型モンスターという事もあって雷属性に弱い。
欠片にその後、システムを乗っ取られたのか新たに対雷装備を展開出来るようになる。また、本来は質量兵器のみを扱うモンスターだったが、欠片の力により魔法攻撃が出来るようになる。
ちなみに『Murder』は和訳で『殺す』という意味を持つ。
基本的に主語は『人』に限定され使用される。
強力な敵を前にリースリット敗北。
間一髪のところ救助され、新たに梟の使い魔アウルを得る。
今後この子の活躍にも期待ですね。
それでは、次回も宜しくお願いします。
では(゜∀゜)ノシ!!




