第十七話 第一都市 ノーザングロウ
十七話更新です。
季節は冬へと向かう最中――
私は見事に風邪を拗らせる……orz
皆様は体調管理に気をつけましょう!
っと、そんな中での更新です。
では、本編をどうぞ。
風邪を引こうが引くまいが、gdgdな展開は変わらぬか……。
第一都市『ノーザングロウ』。
多くの企業が集中し発展を続ける大都市で、さまざまな商品が日夜開発され、店頭に並んで行く。
他の都市と比べるとその発展のレベルは非常に目まぐるしく、技術レベルは中央都市に次ぐと言われている。
車輌や航空機、船といった物を造るだけでなく、最近では航行艦といった大型戦艦の開発にまで乗り出しているとか……。また乗り物系だけでなく電子機器なども開発しており、その性能の良さから遠くからわざわざ買いに来る者も多い。
多くの者がそれらを買う事で金は潤っていて、もしこの都市が崩壊すれば共和国の経済は大打撃を受けるだろうとの見解も上がる程だ。
そういう噂もある事から『共和国の財布』と言われる事もしばしばある。
そんな輝かしい功績がある表とは逆に、裏ではよくない噂も上がっている。
賄賂が行われたり横領があるなどと噂は後を絶たず。
表立って言えないが、駐屯しているSCCAの派遣部隊も買収されているとも言われている。
そんな何とも怪しげな都市にほのか達は、翌日辿り着き、その中へと足を踏み入れた。
「ふえ~……すごいの」
都市に入って開口一番、彼女は口をポカンと開けて目の前の建物を見上げる。
十メートル以上はあるだろう高層ビルが幾つもずらりと並んでおり、ピカピカに光る窓が太陽の光を反射して煌めいていた。
「すごいね。発展しているって聞いた事はあるけど、ここまでなんて思ってなかったよ」
大体の他の都市でも高層ビルは建ってはいるが、これ程の規模ではない。
彼女達の目の前にあるのはビル、ビル、ビル……大体六割ほどが高層ビルであった。
「車も多いね?」
「気を付けないと危ないかも……」
他の都市と比べて車の往来が激しい。
特に大型トラックなどの輸送車輌が道路を走っているのが目につく。
その代わり、横断歩道や高架橋などしっかりとした舗装がされていて人と車の境界線がしっかりとしていた。
「まずは宿を探して先に予約するか。街中で野宿なんて事になったら洒落にならねえしな」
一同は街道を進んで宿……ホテルへと入り上の階の一室に泊まる手続きを済ませておき、それから荷物などを置いて再び外へと出た。
「さて、此処に来た事だし何か買い物でもするか?」
「え、いいの?」
「丁度、旅の食料もなくなりかけてたところだしな。そのついでだ。んで、何か買いたいものはあるか?」
「う~~ん……あっ! バルドさん。私、お菓子とかを作りたいの!!」
「菓子?」
「うん! お母さんの手伝いをした事があるから簡単なお菓子とかしか作れないけど皆に食べて貰いたいの!」
彼女の両親は喫茶店を経営している。
その手伝いを彼女は時々手伝っている事から簡単な菓子などを作れる。
そんな自分の作ったお菓子を皆に食べて貰いたいと、彼女は前々から思っていたのだ。
「そうか……。つまり、その材料と調理器具が欲しい訳だな?」
「うん。だめ…かな?」
「いや、面白いじゃねえか。いいぜ、買ってやるよ。ただその時はあまり嵩張らないものを選んでくれよ?」
「やった! バルドさんありがとうなの!!」
「フィリスは何が買いたい?」
「私は……考古学の本とか魔法書とかかな? 前に読んでいたのは全部読み終えちゃったし、そろそろ新しいのを読みたいなって思ってたんだ」
「本だな? 了解だ。あとは、アシュトン。お前は何が欲しいんだ?」
「えっ、僕!?」
自分に声をかけられるとは思ってもみなかったのだろう。
彼は酷く驚いた様子でバルドの方を見ていた。
「他に誰がいるんだよ? アシュトンは何が買いたい? 買える範囲のものなら金を出してやるから買っていいぞ?」
「それじゃあ……笑わないでね?」
暫し考えて、欲しいものが決まったのか彼はバルドに告げた。
「第一都市限定『何でも出来るもん』っていう裁縫セットを買ってもいい?」
「…………は?」
「ふえ? 裁縫……?」
「セット……?」
ポカンとするほのか達。暫し彼等の間に静寂が漂った。
微妙な空気になり始めた状況の中でバルドが徐に口を開いた。
「……男で裁縫したいとか言う奴、今まで見た事ねえぞ?」
「言うと思ったよ!? 恥ずかしさ堪えて言ったけど言うと思ってたよ!?」
「逆に俺の方がビックリしたけどな」
予想通りの答えが返って来て思わずツッコミの声が上がる。
「わぁ~、アシュトン君って裁縫が出来るの? すごいの~♪」
「私もすごいと思うな~」
純粋な目でアシュトンの事を褒めるほのか達。それにアシュトンは幾分か気持ちが楽になる。
「ほのか達がいなかったら今頃、すごく気まずい空気だったよ……」
「おっ、それならよ。お前が今度からほのか達の服を見繕ってくれればいいんじゃねえか? そうすれば服代浮くしよ」
アシュトンの意外な特技に目を付けたバルドが思いついた様に提案をしてみる。
すると、彼はキョトンとした顔になる。
「え、いいの?」
「いいかどうかは着る本人次第だけどな。別にいいだろ、お前等?」
「うん! 大丈夫なの!!」
「寧ろ、アシュトンの作る服ってどんなのか気になるな。今度、作ってよ?」
「ま、任せてよ!!」
二人から了承を得た事で彼は己の裁縫魂(?)に火が付いたのだろうか、やる気に満ち溢れた表情で拳を作って返事を返した。
「けど、下着を作るのはなしだからな?」
「わ、分かってるよそれくらい/////!?」
「「////////」」
最後に当たり前のことを言われて顔を真っ赤にして慌てて返したのは言うまでもないだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから少し時間は流れ、彼等は順に買い物を済ませるべく都市の中を歩き回った。
最初にほのかの言う調理器具を買うべくショップに入ってそれらを見て回る。
「品揃えが良いな」
「あっ、これなんていいかも?」
「それならこっちの方なんかどうだ? 形も似てるし、丈夫だぞ」
ショップについて早々にほのかとバルドが商品の器具を前に互いの意見を出し合っている。
それは周りから見てみれば兄妹が仲良く買い物をしている様で何とも微笑ましい光景だった。
「へぇ~、色んな器具があるね。あっ、これなんか面白い形してる」
フィリスもまた見た事のない様なものに目を輝かせて手にとって観察していた。
「あっ、あっちにあるのは……」
その時、ふと聞き覚えのある男子の声が聞こえた気がした。
気のせいかなと思った彼女はそのままバルド達と一緒に楽しい時間を過ごして行った。
それから少しして、一行が買い物を済ませてショップから出る。
「さて、次はフィリスの方だな」
「うん、お願いねバルド」
「そんで最後はアシュトンだな?――ん?」
返ってくる筈の返事が返ってこない……。
それに彼が後ろを振り返ってみると黒髪のメガネの少年の姿がなかった。
「おい、アシュトンは何処に行った?」
「ふえ? あれ、そう言えば……」
「フィリス。確か、お前の傍にいなかったか?」
「さっきまで一緒にいたのに!? ……あっ!!」
忽然と消えた彼に首を傾げる三人。
何処で居なくなったのか、頭の中で時間を遡ってみると買い物をしていた最中に聞こえた聞き覚えのある声。それがもしかするとアシュトンだったのかもしれない。
「もしかしたら、あの時に逸れたのかも……」
「おいおい、ほのかとフィリスが迷子になる前にアシュトンが迷子になったのかよ」
「私達、迷子になる前提なの!?」
バルドの聞き捨てならない発言に彼女はビックリした顔をする。
二つのおさげが如何やったらそうなるのかピンと上を向いているのはこの際、無視しよう。
「めんどくせえが、探すしかないか……」
「手分けして探そう!!」
「いや、お前達は二人で行動しろ。街ん中は危険が一杯だからな。一応、ウィル達にはほのか達を守る準備をしていてくれ。もし、危ない奴が声をかけて来たと思ったら問答無用で叩け」
[了解しました]
[任せて下さい。フィリスには指一本触れさせませんよ]
「後は、そうだな……。ケルベロス、バハムート」
彼の呼びかけに虚空より二振りの大剣が姿を見せる。
[ほいほい、何か用かい相棒?]
「悪いが、一時的にほのか達についてやってくれ。有り得ないかもしれないが、もしもの時は頼むぞ」
[分かりました若。ほのかさん達はウィルさん達と一緒にお守りします]
「え、バルドさん。ケルベロスさん達を置いていくの?」
「危ないよ?」
「お前らよりは危なくねえよ。腕っ節には自信があるしな」
[相棒が喧嘩したら相手が病院送りだもんな、ウヒャヒャヒャ!!]
[その前に、お相手が生きてるかどうか分かりませんがね]
何やら物騒な事を言うケルベロス達に、彼女達は思わず彼に向かって無言で視線を投げかける。
じ~~っと見つめる二人の瞳からその意図を汲んだのか、彼は両手を上げた。
「分かった分かった。喧嘩沙汰になってもそこまでの事はしねえよ」
それを聞いてホッとする。
そしてほのかとフィリス、バルドは何かあったら念話で連絡するという事を約束してから一度、別れてアシュトンを探しに動き出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃、当の本人はというと……
「あれ……? ここ何処?」
―――――絶賛迷子中だった。
紙袋に大量の毛糸玉を入れてよたよたと歩きながらほのか達を探している。
さっきまで一緒だったのに、質の良い毛糸玉を見つけた事でついついそちらに足が動いてしまい気付けば皆いなくなっていた。
(ど、どうしよう……。逸れちゃった…!!)
見知らぬ土地で迷子になるという嘗てない危機(魔物の住む森で迷子になってた方がだいぶ危険である)に焦りの色が見え始める。
(こういう時はどうすればいいんだっけ!? ……あっ、そうだ!! 宿に戻って待ってればいいんだ!!)
緊急時の対処方法を脳裏で高速で検索して答えを導き出す事に成功した。
向こうで待ってればもしかすれば皆が帰っているかもしれない。
そう思った彼は紙袋を抱え直して急いで戻ろうとした。
だからだろうか。
ドンッと右肩に誰かの肩がぶつかってしまったのだ。
「あっ、す、すみませ――」
「ってーな……。何処に目を付けてんだよオメェ……」
反射的に謝ろうとしたアシュトンの声を遮ってぶつかった相手が睨みつけて来た。
裾をボロボロにした学ランに、金色に染めた髪はツンツンにしてワックスか何かで固めている様だ。
明らかに普通ではない出で立ちの彼。
その彼の周りには取り巻きと思われる似た様な恰好のいかにも素行の悪そうな男子達がいた。
今は学校のある時間だ。
それなのに、学ランを着た学生が普通、こんな所にいる筈がない。
(まさか……不良……!!)
彼等の姿を確認した途端に彼は背筋がゾッとした。
絡まれること自体は今回が初めてなのだが、絡まれるとどうなるかは容易に想像が出来る。
「おいおい、兄ちゃんよ~? 人に肩パンとか喧嘩売ってんのか?」
「俺達に喧嘩売るとか、いい度胸してんなお前……んん?」
取り巻き達がアシュトンを囲んで威圧してくる。
全方位を囲まれてしまい、逃げ道のない状態に思わず返答に声を詰まらせる。
「ちょいとツラ貸しな。此処じゃ人目につくしよぉ?」
そして、彼等に囲まれたままアシュトンはリーダーと思わしき人物に襟首を掴まれてビルとビルの間の路地裏に引っ張られていく。
その時、幾つかの毛糸玉が袋より落ちる。
何度か跳ねた後にコロコロと転がるそれは、歩いていた一人の足にぶつかる事で止まる。
「……………」
それをその者は拾い上げると、ヤンキー達とアシュトンの消えた路地裏の方を見る。
暫し、ジッと見ていたその者はその足を路地裏の方へと向けて歩きだした。
アシュトンは絶賛大ピンチだった。
(ど、どどどどどうしよう!!)
不良の、それも複数人に囲まれるなど人生初めての経験だ。
(寧ろ、一生経験したくなかったよ!!)
「おい、兄ちゃん。返事をしねえでシカトとかどういう神経してんだよ?」
「え?」
如何やら自分で思った事に自分でツッコミを入れている間に何かを言っていたらしい。
返事に窮するアシュトンの直ぐ傍のゴミ箱をその者は強く蹴る。
甲高い音が鳴り響いて思わず彼は体を竦ませた。
「おい、調子に乗んのもいい加減にしろよ? こっちはぶつけられた側なんだ。被害者だぞ俺達はよ?」
「怪我させられてんだ。相応の謝罪ってのがあんだろ?」
「そうだそうだ。俺達を怪我させてんだからな?」
(ぶつかったのは一人だけだった気がするんだけど!?)
内心、彼等の言い分にツッコミを入れてしまう。
しかし、嘗てない状況にアシュトンは完全にパニクってしまい如何すればいいのか分からない状態だった。
「これも無視かよ……。いい度胸してんだな…」
「うぐっ!?」
胸倉を掴まれて軽く壁に押し付けられる。顔を近くまで寄せてギロッと睨みつけてくる。
「こちとら、最近の地震で中々眠れなくてよぉ……。イライラしてんだ。悪いなぁ兄ちゃん、ちょいと此処で鬱憤晴らさせろや」
「そ、それは僕と関係ないn――」
「うっせぇぞこらぁ!!! 人様にぶつかっといて生意気言ってんじゃねえぞ!!」
相手の腕が大きく上がった。
――――殴られる!!
そう思って思わずアシュトンは目を瞑ってしまった。
そして、次の瞬間――
「ぎゃああ!?」
「な、なんだてめーhっがは!?」
「おまっ、まさがあっ!?」
拳が飛んでくる事はなく、次々と聞こえるのは不良達の断末魔。
そして、同時にアシュトンの体も開放され地面に尻餅をつく。
「………え?」
何時まで経っても来ない衝撃に、ふと気が付いてギュッと閉じていた目を開ける。
その彼の目に飛び込んできた光景に目を見開いて呆然とした。
吹っ飛ばされボロボロの学ランを更にズタズタにされて地面に倒れ伏す不良達の中に――
「……………」
一人の女の子が佇んでいた。
その女の子はゆっくりと此方を振り返る。
揺れる髪は金髪で地面に転がっている不良達とは違い、本物の輝きを放っている。
首には少し肌寒い気温の為かマフラーが巻かれており、上はジャージで下はミニスカートを穿いている。
そこから生える白く瑞々しい太腿が露わになって見える。
少々キツイ目をしていて何者も寄せ付けない様な雰囲気を醸し出している。
しかし、その瞳はとても綺麗な青い瞳をしていてそれに思わず見惚れてしまった。
そして、頭には二つの突起状の何かが生えていて。まるで、二本の角を生やしている様に見える。
その少女の姿にアシュトンは声も出す事が出来ずただ、見つめるしかなかった。
「……オイ」
「え?」
「おめェ見てェな奴が一番キライだ」
そう言い残して、彼女は礼を言う暇も与えずに背を向ける。
ジャージのポケットに両手を突っ込んで金髪を揺らしながら彼女はそのまま路地裏から出て行き、一歩手前で止まる。
「これ……落ちてたぜ」
背を向けたまま彼女が何かを放り投げる。
何度かバウンドしてアシュトンの前に転がってきたもの、それは彼の買った毛糸玉だった。再びポケットに手を突っ込んだ後、今度は止まらず角を曲がって姿を消してしまった。
彼女の居なくなった方向をアシュトンは尻餅をついて呆然とした状態のまま身動き一つせずに見つめていた。
彼の網膜には彼女の姿が焼き付いていた。揺れる金髪に綺麗な青色の瞳。
ミニスカと黒いソックスの間から見える健康的な太腿。
気付いた時には周りの不良を蹴散らして目の前に立っているその姿は、例えようのない輝きを放っていた。
「やっと見つけたぞ、アシュトン!」
「え?」
その声にハッとなって我にかえる。
視線を上に上げると、目の前には何時の間にかバルドが立っていたのだ。
「バ、バルドさん!?」
「ったく、探したぞ。何処をほっつき歩いてやがった」
「す、すみません! ちょっと毛糸玉を買ってたら逸れてしまって……」
「はぁ~……、しょうがない奴だな。まあ、見つかった事だしまあいいか」
呆れた顔をされて申し訳なく思って俯き加減に立ち上がる。
そして、視線を戻すとバルドが周りを見渡しながら問いかけて来た。
「こいつ等をボコったのはお前か?」
「え~っと……一人の女の子がやりました」
「……はあ?」
「信じてくれないかもしれないんですけど……」
怪訝そうな顔をするバルドに、アシュトンは事の顛末を話す事にした。
逸れた後に不良に絡まれた事、殴られそうになった所で一人の金髪の女子が現れて不良達を蹴散らして去っていった事。
見た事を伝えてみた。
「そうか。俺達から逸れた後、めんどくさい目にあってたんだな?」
「でも、その子のお陰で助かったんですよ。お礼を言う前に去っちゃいましたけど……」
自分みたいな奴が嫌いだと言い残して去っていった彼女。
せめて、お礼くらいは言いたかったなと心の中で思った。
「にしても、この惨状を起したのが一人の女子だってんなら相当なもんだぞ?」
「え?」
「周りの壁を見てみな」
バルドに言われてアシュトンは辺りを見渡し、広がる光景にギョッとした。
彼等の前に広がる光景、それは――――
周囲の壁には大きな爪痕が残っており、コンクリートで出来ているであろう建物の壁に爪で引き裂いた様な大きな傷跡が幾つも残されていたのだ。
「こんだけの一撃を出しながら相手を殺さねえとか随分味のある攻撃だな」
大きな爪痕を残したその人物に向けて称賛するバルド。
よく見れば鉄のパイプすら綺麗に切断されているのが分かった。
あの子がこの状況を作ったのだと今更ながらに気付いたアシュトンは最初以上に呆然としていた。
「そろそろ行くぞ。ほのかとフィリスが俺と同じくお前を探してるしな」
アシュトンを探しているだろう二人の事も心配だ。
早い内に連絡を取って合流しようと念話をかける。
《ほのか、聞こえるか?》
《ふえ? バルドさんなの?》
彼の念話にすぐにほのかが返事を返して来た。
念話の使い方をしっかりと覚えていてくれた事に少しホッとしつつ、彼はアシュトンを見つけた事を伝える。
《迷子の迷子のアシュトンはこっちで捕まえた》
《アシュトン君が見つかったの? よかった……》
《お前達は今何処にいるんだ?》
《え~っと……。居住エリアの方なの》
彼女達と別れたのはショップエリアだ。
現在バルドのいる場所とは逆の位置で、如何やら反対方向に向かっていた様だ。
《なら、さっき別れたショップの前で集合だ。さっさとそこから戻ってこい》
《分かったの!》
念話を切ってアシュトンへと向き直り、ほのか達と先ほどのショップ前で合流する事を伝えた。
アシュトンを連れてその場を後にする。路地裏より出ると明るい日差しが目に刺さる。
まだ日は高い位置にあり、これなら問題なく彼女達と合流できるだろう。
ただ、バルドは何やらしっくりこない気分だった。
(な~んか嫌な予感がするな……)
陽気な日差しの降り注ぐ中、バルドは胸中に嫌な予感がしていた。
急いで戻ろうと思い、アシュトンに声をかける。
「アシュトン、少し早く行くぞ」
「え? あっ、は、はい」
彼の様子が変わった事に首を傾げながらも、少しだけ足を速めるバルドにアシュトンは慌ててついていくのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃、ほのかとフィリスはバルドに言われたとおりに最初のショップのある場所に向かって戻り始めていた。
「アシュトン君が見つかって良かったの」
「そうだね。知らない都市で迷子になるのは大変なことだもんね」
ともかく、彼が無事で何よりである。そんな話をしている時だった。
「……?」
「ほのか? どうしたの?」
ふと彼女は何かを感じて歩みを止めて振り返る。
しかし、目に映るのは世間話をしている二人組の女性や買い物帰りの者といった民間人しか見当たらない。
「さっき、誰かに見られてた様な気がしたの」
「それ、ホント?」
「分からないの。う~ん……気のせいだったのかも!」
「知らない都市の中だし、知らない内に緊張して間違えたんじゃない?」
「そうかも」
気のせいだったとほのか自身も思い直し、フィリスと一緒に再び歩き始める。
その時、楽しく談笑しながら二人は道を進んでいると前方で一人の少年が道の真ん中で立って泣きじゃくっている姿を見つけた。
背恰好からして自分達よりも幼い男の子だと分かり、その泣いている子に二人は駆け寄って声をかける。
「ねえ、ボク。どうして泣いてるのかな?」
「ふえ……。おかあ……さん、どっか行っちゃった……」
その子の身長に合わせて軽くしゃがんで目線を合わせ、なるべく優しく声をかけて質問する。
如何やら、親と逸れてしまった様だ。
周りを見渡すも人の姿はない。
不安と独りぼっちの怖さからか再び泣きだしそうになる子にフィリスが優しく声をかける。
「大丈夫だよ。私達も一緒に探してあげるから。だから泣かないで、ね?」
「う、ん……」
愚図りながらも、泣く事を止めるその子を見てフィリスはよしよしと頭を撫でてあげる。
そして、二人は手を繋いで上げて一人の寂しさを紛らわせてあげる。
「どっちから来たの?」
「あっち……」
人の温もりを感じる事が出来たおかげか、ほのかの質問に正直に答えてくれた。
彼の指さす方向は、さっきまで自分達がいた方角で再び居住エリアのところへ戻る形となる。
ふと、先ほどの視線を感じた事を思い出すも……あれは気のせいだから大丈夫だとほのかはその考えを否定し、迷子の子と一緒に居住エリアの奥へと足を踏み入れていく。
整然と並ぶ家々の間にある道路を歩き続ける事、早十分。
突当たりに差し掛かり、左右に道が分かれていた。
片方は居住区と標識が建っていて、もう一方は標識はなく何も置かれていない。
「どっちから来たのかな?」
「……こっち」
少年は迷う事なく居住区の方を指さす。
並んで歩きながら親を探しつつ道を歩いていくと……
「あっ!!」
少年が何かに気付いて声を上げ、二人の手を離して一人駆け出して行った。
その先を見ると、そこには一人の女性がおり自分へ駆けてくる少年に気付いて目に涙を浮かべ少年の名を呼んで両手を広げる。
その人に少年もまた涙を流しつつ抱き付いた。
「お母さんに会えたみたいだね」
「よかった……これで安心なの」
親に出会えた事に安堵の表情を見せる二人。
その彼女達に少年が振り返って手を大きく振ってきた。
そして、母親の方も二人を見て深く頭を下げる。
「ばいば~い、お姉ちゃん!!」
「今度はお母さんから離れちゃ駄目だよ~!」
「元気でね~!!」
彼女達も手を振って別れの言葉を言ってから親子に背を向け、自分達の帰る場所に向かって歩きだした。
「お母さんに会えて本当に良かったね」
「うん、そうだね。あのまま一人だったら危なかったと思うよ。だから、親に会えてホッとしたよ」
そんな話をしながら二人は来た道を戻る。
迷子の少年の親も見つかった事だし、今度は自分達が帰るべき場所に帰る番だと彼女達は道を歩き続ける。
そして、先ほどの分かれ道へと辿り着いた。
「そう言えば、この道ってどこに繋がってるんだろ?」
「標識もないし……。何もないのかな?」
[おおっと、嬢ちゃん達チョイ待った。それ以上は近づかない方が良いぜ?]
その道に足を踏み入れようとしたその時、ケルベロスとバハムートが二人の前に姿を見せて制止の声をかける。
「ふえ? ケルベロスさんにバハムートさん?」
「この先に何かあるの?」
[此処から先は、ギルドの縄張りです]
[それも、最近実力を上げている『アンフィスバエナ』って集団のだ]
第一都市で最近になってその頭角を現し始めたギルド。
その組織の縄張りだと聞いて二人は少しだけ下がった。
ギルドの者達は皆、プライドが高いと聞く。見知らぬ者が近づけば不審に思われて狙われてしまう。
そう、前にバルドに言われた事を思い出した二人は、それ以上は近づこうとは思わなかった。
「ほのか、急いで戻ろうか?」
「う、うん。これ以上ここにいたら怪しまれちゃう」
ケルベロス達の忠告に従って二人は急いでその場所から離れて早く帰ろうと踵を返して足早にその場を去っていった。
――――しかしこの時、物陰から二つの双眸が監視する様に見つめていたのに、彼女達は気付く事はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日の晩、無事に合流してホテルへと戻ったほのか達はふかふかのベッドに体を倒していた。
「にゃふ~♪ ふかふかのベッドなの~♪」
ふわふわした布団と枕に頬ずりする。
久々の布団の感触を堪能するほのかの傍ら、フィリスはベッドで本を読んでいた。
「多角幻獣『タイラントホーン』に翔炎紅竜『ファイアドレイク』、海斬魔獣『ランパード』……。モンスターってこんなにいるんだ……」
「フィリスちゃん、何を読んでるの?」
何やら関心した様に呟く友達に気付いたほのかがフィリスの傍に寄る。
彼女の問いにフィリスは自分の持っていた本を一度、閉じてその表紙を見せた。
「『モンスター図鑑 初級編』?」
「F級からC級までのモンスターの情報が載っている図鑑だよ。今まで発見されて討伐された事のあるモンスター達の色々な情報が書かれてるんだ」
本を開き、今度は内容を見せる。
そこには相手の得意属性や弱点属性、対処法や生息地などが事細かに書かれ記載されていた。
「ふえ~…すごいページなの」
「内容が濃いだけあって、厚さもあるね」
閉じた時のその厚さは並みの辞書が二冊並ぶと丁度良いくらいの物だった。
故に両手で持つには今の彼女では難しく、こうしてベッドで横になりながらページを捲っているのだ。
当然そのくらいの厚さがあるという事は値もかなり張るという事で、この本を最初に見つけて値段を見た時には彼女はビックリした。
なんせ、ゼロが五つ並んでいたのだ。驚かないのも無理はないだろう。
バルドがそれを買うと言った当初は遠慮して断ったのだが、“今後の勉強にもなるから買っておけ”と言い返されて結局、購入という形となったのだ。
けど、今となっては彼には感謝している。
こんなにも沢山のモンスターがこの外の世界には生きているという事が分かって彼女の探究心が大きく擽られたのだから。
「フィリスちゃんは研究所の方でこんな感じの本を読まなかったの?」
「う~ん、読んだ事はあるんだけどそれは第三都市の周辺の事しか書かれていなくてもっと深いところまで載っている本は時々、局長から借りて読んでただけだったんだ」
「ふえ~、そうなんだ」
「よかったら、ほのかも一緒に見てみる?」
「え、いいの?」
それにフィリスは勿論と言ってほのかの為に少し場所を空ける。
その場所にほのかがフィリス同様ベッドに横になり二人は仲良く本にあるモンスターの絵を見ながら楽しく時間を過ごして行った。
ほのか達が二人で楽しくお喋りしながら本を読んでいる頃、窓際でアシュトンはぼんやりと夜空を眺めていた。
(あの子……どうしてるのかな?)
思い出すのは自分を救ってくれた少女。
結局、あの後も会う事はなくお礼を言えずじまいで今日が終わってしまう。
(明日……会えるかな?)
明日になってしまえば、きっと自分達はこの都市から出ていく事になるだろう。
出来れば、もう一度だけ彼女に会ってあの時のお礼を言いたいなと思った。
(また会えるといいな……)
そんな事を思いつつ、アシュトンはただジッと夜空を見上げるのだった。
夜が深くなり始めた頃、ホテルの屋上に一人、バルドは立って街並みを見下ろしていた。
他の都市よりも深夜だというのに街の明かりはあまり落ちていない。
「残業で残された奴等がまだ頑張ってんだな」
[人間ってのは無理ばかりするねえ~。本来なら夜には寝るのが普通なのにな~。自分達の体を虐めても、手に入るものなんて所詮は埃程度なんだけどな~ウヒャヒャヒャ!!]
[人は金という物が生み出されたその時からその魔力に魅入られ、利益を求める様になった。その結果がこれという訳です。金を求めるが故に、利益を求め過ぎたが故に、その身を滅ぼす時間を早めているというのに……哀れに感じますね]
「言うな。それでも人は今を、この一瞬を全力で生きてんだよ。働いてる奴も、そうでない奴もな」
魔剣達の嘲笑や憐みの言葉に彼等を見ず街並みを見下ろしたままで返事を返す。
例え、それだけであろうとも人にとっては価値のあるものだ。
[さてさて相棒。この街からはさっさと出て行く予定なのかい?]
「ああ。こんなきな臭い都市には長居はしたくねえな」
ケルベロスの質問にバルドは迷う事なく答える。この都市の中には多くの思惑が渦巻いてる。
企業にしろギルドにしろ、多くの見えざる思惑が交錯している。
明日の朝一にはさっさとこの都市から去るべきだろうと彼は思っていた。
(だが、なんだこの感覚は? 何かが俺を引き止めようとしてる。此処にまだ俺のやるべき事があるってか……?)
彼はこの都市についてから、ずっと変な感覚を感じていた。
頭上を見上げる。そこには夜天に輝く満月があった。その輝きはまだ、此処に留まりやるべき事がある。
そう物語っている様な気がする。
「月が俺に残れって言ってやがるな……」
[おやおや、珍しい事があるね?]
[闇の海に抱かれし星が語りかけるとは、若に何かを伝えたいのでしょうか?]
「それまでは分からねえ。ただ、やるべき事が残ってるのは間違いなさそうだ」
有力候補となるのは先の地震だろう。
この都市の付近に入ってから立て続けに強弱を繰り返す地震が発生している。
それが恐らく自分が残ってすべき事なのだろうと彼は思っていた。
暫し眼下の世界を目を細めて見てから彼は背を向け、自室へと戻ろうとした。
しかし、その時。再び大きな地震が発生する。
「っ!! この気配はっ!!」
その揺れを感じた瞬間に、彼は全身に駆け抜けた気配を感じ取って振り返る。
視線は眼下の街ではなく、真正面に見える大きな山脈『ノーム山脈』へと向けられていた。
「今のは……魔力か!?」
[大型の魔力反応でしたね。明らかに魔力素の暴走とは違います]
「……調べに行く必要があるな」
直ぐにその場より彼の姿は消えて、次の瞬間にはほのか達のいる部屋に現れた。
さっきの地震でビックリしてあたふたしていた彼女達は、バルドがいきなり現れたのに驚いたが直ぐに駆け寄ってきた。
「バルドさん!? どこに行ってたの!?」
「悪いな、ちょいと屋上にいた。ほのか、フィリス、アシュトン悪いが野暮用が出来た。少し外に出る」
「それなら私達も……」
「駄目だ。今回だけは大人しく待ってろ」
何時になく真剣な目を向けられてほのか達は息を呑んだ。
反論を封殺してバルドは窓を開けてそこに足をかける。
「いいか。不測の事態が起きるまで、絶対にこのホテルから出るなよ。ケルベロス、お前は此処で待機だ。ほのか達を守ってろ」
[あいあい、任せろって相棒。ウヒャヒャヒャ!!]
「バルドさんは!?」
「俺なら大丈夫だ。直ぐに……戻る。アシュトン!」
「は、はい!!」
急に呼ばれて彼はビックリして背筋を伸ばした。
「もしもの時は、ほのか達を守ってやれよ。お前は先輩なんだからな?」
「わ、分かりました!!」
返事を返す彼を見てバルドはフッと笑い。
ほのか達に軽く手を上げて挨拶してから窓を蹴って夜空へと飛び立つ。
その背中はあっという間に闇夜の世界に消してしまった。
一体何に気付いたのだろうか?
ほのか達はバルドの出ていった窓を見つめながら思わずにはいられなかった。
アシュトンの意外な特技判明。その名も『裁縫』。
そして、新たに出てきた金髪青眼の少女。
バルドは一体何に気づいて出て行ったんでしょうか。
それでは次回も宜しくお願いします。
では(゜∀゜)ノシ!!




