第十六話 特訓
十六話更新。
前回、バルドに教導を願い出たほのか。
彼は彼女をどのように指導するのか……。
では、本編をどうぞ。
翌日、一行は朝食を済ませて第一都市に向けて河原から平原に出て先を進んでいた。
歩き続ける事数時間が経ち、一同は広い平原へとたどり着く。
頭上を見上げれば日が高く昇り始めて、時刻はお昼に近づいているのが分かった。
「さて、ほのか。準備は良いな?」
「うん、大丈夫なの!!」
そんな中、先に進むのを一時中断してバルドはマジックアーマーを展開したほのかと一定の距離を開けて向かい合っていた。
そう、昨晩決めた特訓を行おうという訳だ。
何時の間にかその話が進んでいたのにフィリス達は驚いていたが、今ではどんな特訓をするのか興味が湧いた様で二人から少し離れた場所にある大きな石の上に座って見学していた。
ほのか自身はバルドがどんな訓練をさせてくれるのかドキドキしていた。
「まず、質問だ。お前は、今の自分に何が足りないと思う?」
「ふえ? 足りないもの……?」
気合い十分だった彼女は突然の質問に首を傾げる。
自分に足りないもの……? はて、それはどんなのだろうか?
唸って考え込むも、思い浮かばない。
そんな彼女を見かねてバルドは答えを教えてくれた。
「お前の攻撃魔法はシャインバレット、ブライトキャノン、フォトンブレイザーだったな?」
「うん、そうなの」
「ハッキリ言おう。今のお前は攻撃の種類が少な過ぎる。あと二つか三つは必要だ」
一つ目の問題点。それは攻撃の種類の少なさだ。
射撃系の射撃魔法シャインバレット。炸裂系の単発魔法ブライトキャノン。
一撃必殺級の威力を誇る砲撃魔法のフォトンブレイザー。
見方によってはバランスの取れた攻撃だと思うが、これだけではこの先の戦いは苦しくなるだろう。
攻撃魔法の数をもう少し増やす必要がある。
防御魔法に至っては全体防御系のディフェンシブ一つしかないが、防御力が高いので今はそのままでもいいと判断する。
「射撃魔法には幾つも種類がある。弾幕系、拡散系……上げれば限がない。使い手に合わせて攻撃の形が変わるのが射撃魔法の特徴だ」
そう言いながら彼は右手に闇の炎を纏わせる。
「ほのか、上手い具合に避けろよ? はっ!!」
そう言うやいきなりバルドがその手から黒き火球を放って来た。
一発の弾丸は真っ直ぐにほのかへと飛んで行く。
「ふにゃあっ!?」
驚いた彼女は慌てて飛行魔法を発動、上空へと逃げた。
外れた弾丸は誰もいない空間を飛んで行って爆ぜて消える。
「な、なにするの!?」
「今のが、単発式の魔力弾だ。これの進化系が弾幕系の射撃魔法になる」
「えっ、バルドさん魔法も使えるの!?」
「俺の事は後回しだ。説明を続けるぞ」
非常に気になる事をスルーしてバルドは再度、闇の弾丸を幾つも展開した。
「射撃魔法は魔法士にとって初歩の初歩だ。一般のSCCAの魔法士もこの程度なら普通に使える。それに追加能力を加えるのが基礎の魔法になる」
「追加能力?」
[例えば誘導性能を加える、相手を後ろに吹き飛ばすノックバックといった効果の事ですよ]
「ウィルの言うとおりだ。追加能力を加える事で新しい魔法を編み出し、それを行使する。それが魔法士の基本だ」
そして――
「これが、魔法士の基礎中の基礎。誘導弾だ!!」
放たれる幾つかの炎弾。それがほのかに向かって飛んで行く。
彼女は避けようとして横に飛行して回避を試みたが……。
なんとそれは彼女の動きに合わせて軌道を修正して飛んで来るではないか!?
「ふええっ!?」
慌てて身を捩じってギリギリ回避する。
しかし、外れたそれらはUターンして再び此方に飛んで来た。
それには彼女も打ち消そうと魔力弾を複数展開して発射。
光の魔力弾が闇の炎弾と激突し、爆ぜて相殺する。
「す、すごい……」
「他にも魔法攻撃を抑制する守りを張る相手に攻撃を届かせる『多殻式魔力弾』や、素早い相手の動きを封じる『設置型魔力弾』と……考え方次第で魔力弾ってのは色んなバリエーションがある。それをどう発想し使いこなすかは、お前次第だ」
「どうすればできるの?」
「一番手っ取り早いのはイメージする事だな。漠然としたものじゃなく、ハッキリとした形にしないといけないけどな。後は地道に練習していくしかない」
此処から先は自分の力で何とかしないといけないんだ、と彼女は思ってウィルの持つ手に力が篭った。
その彼女へ、次の問題だ、とバルドが話を続ける。
「俺は近接型だからお前みたいな砲撃型の魔法士に教えるのは向かないんだけどな。まあ、基本的な戦い方を教えてやるよ」
そう言うと彼は、ケルベロスを取り出しほのかに向かってその切っ先を向けた。
「ほのか、今から俺に全力で攻撃を仕掛けて来い」
「えっ!?」
突然の事に驚きの声を上げる。
仲間に向かって全力で攻撃を仕掛けると言う事に彼女は躊躇いを覚えた。
もし、何かの間違いで彼に怪我をさせてしまったら如何しようなどと彼女は心の内で心配する。
そんな彼女の様子を見て、心配など杞憂だと言わんばかりに彼はフッと笑う。
「大丈夫だって。怪我なんてしねえからよ。気にせず全力で来い」
そう言ってこっちを見上げてくるバルドに彼女は少なからずムッとする。
幾ら自分が実戦経験が豊かだからってそうまで言われると彼女だってムキになる。
「本当に、全力で行っていいんだね?」
「ああ、今のお前に足りないものが何なのかを教える為だしな」
「なら……遠慮はしないの!!!」
彼女の全身より魔力が放出される。そして背後に大きく女神の紋章が出現する。
その女神は目を開き、大きく翼を広げていてそれはそれは綺麗な光景だった。
「今の私の全力を見せてあげるの!!」
「こい、ほのか。俺に一撃でも掠める事が出来ればお前の勝ちだ。その実力……俺に見せてみろ!!」
[ウヒャヒャヒャ!! こりゃぁ面白い展開になって来たぜ~~っ!!!]
[ほのかさん。此方は気にせず貴方の持てる力を最大限に使って下さい]
バルドの全身より闇より深き黒い魔力が噴き出す。
まるで、それそのものが生きているかの様に蠢く様は、正に蛇の様だった。
「えっ!? なにこの展開……!?」
[摸擬戦の様ですね? フィリス、一応封鎖結界を張った方がよいかと思うのですが?]
「そ、そうだね! このまま二人が戦ったらこの周囲一帯が焼け野原だよ」
慌てて彼女は自分にできる事を始める。
あのリースリットほどではないが、彼女も封鎖結界は使う事が出来る。
彼女は直ぐに封鎖結界を発動。
ほのかとバルドを中心に世界との空間を切り離す。
「ふぅ~……間に合ったかな?」
[半径二百メートル。上出来ですよフィリス]
「これが封鎖結界って言うんだ~」
フィリスとメローの会話にアシュトンが加わる。
彼は初めて見るのだろうその結界を前に興味津々(きょうみしんしん)の様だ。
「アシュトンは、結界を見た事がないの?」
「魔術界では結界を使える人は少ないからね。魔術士の場合は空間隔離とかじゃなくて護身術や周囲の味方を守る様なタイプなんだ」
魔術士の使うのは補助魔術の一種として認識されている。
指定された者を守る結界『バリア』や指定範囲にいる者達を守る『ラムパルドサイン』、特定の対象の防御力を大幅に上げる『オーバーガード』といったものがそれに当たる。
「そっちじゃ結界に種類があるんだね?」
「僕はまだまだ未熟だから使えないんだけどね……でも、その内使えるようにしたいな」
苦笑して肩を竦める。互いの分野の相違に二人の会話は華を咲かせたように続く。
そうこうしている間に、結界内でほのかとバルドの摸擬戦が始まった。
「シャインバレット、シューット!!」
先に先制をしかけたのはほのかだった。
女神の紋章が出現し、煌めく桜色の魔力弾が幾つも生み出されて一斉に放たれる。
「黒き炎弾、ダークファイヤーボール」
しかし、それにバルドは魔術を発動させ闇の炎弾を幾つも飛ばして彼女の魔力弾にぶつけて相殺した。
攻撃が効いてない事を確認したほのかが次の動作に移ろうとした。
「自分の攻撃の効果を確認してから攻撃を再開するな!!!」
「にゃあっ!?」
しかし、それにバルドが声を発して黒い斬撃を彼女に向かって飛ばした。
迫りくる攻撃を前にほのかは慌てて後方に飛んでかわし難を逃れる。
「先制を仕掛けたからには相手に反撃の隙を与えるのは極力減らせ!! でないと、折角の攻撃のリズムが崩されるぞ!!」
「くっ……!! 弾けて、光の砲弾、ブライトキャノン!!」
圧縮した魔力弾を発射。
放たれた時に強烈な反動で彼女の持つ杖が大きく跳ね上がる。
砲弾となったそれは高速で杖より放たれ、空を駆けてバルドへと飛来する。
それをバルドはケルベロスに黒い炎を纏わせて斬り上げる。彼女の砲弾が弾かれてあらぬ方向に落ちて爆散する。
「隙の大きい魔法は単発で使用するな! 射撃魔法の合間に撃ち込め!!」
如何やらバルドは、この摸擬戦を使って彼女の戦いの時の問題点を指摘している様だ。
こうして戦いながら彼女の動きを逐一確認して問題となる動きを見つけては注意をかけている。
ただ、当の本人はその話の殆どが耳に入っておらず、バルドに一当てしようと必死になっていた。
「フォトンブレイザーーー!!!」
目を開き、右手に杖を持った絵柄となった女神の紋章が出現。
彼女お得意の砲撃が放たれる。
空気を震わせながら地上にいるバルド目掛けて桜色の閃光が落ちてくる。
「その砲撃も……単発で使うな!!! 淵王灰塵破っ!!!」
振るわれる一撃、扇状に広範囲に広がる黒き炎の斬撃がほのかの砲撃と激突した。
闇と光……相反する属性同士がぶつかる事で行き場を失ったエネルギーが大地を浮かせる。
そして、蓄積された力が許容をオーバーし爆発を起こした。
「きゃあっ!?」
発生した爆風がほのか自身に襲いかかる。
強烈な風圧に彼女はバランスを崩して空中より墜落しかける。
ウィルが上手く制御を代行してくれたお陰で何とか彼女は地面に落ちる前に体勢を整えた。
「あ、ありがとうウィル」
[マスターのサポートをするのが私の務めですので]
礼を言うと赤い宝石を点滅させて返事を返してくれる。
彼女は高度を上げて再びバルドの上を取る。そして再度、砲撃を加えようと杖を構えた。
「もう一発、行くの!! フォトンブレイザー!!」
再び放たれる桜色の砲撃。
それはバルドに向かって真っ直ぐに落ちていく。
「……ふっ!」
しかし、迫りくる攻撃に向かってバルドは跳躍。
直撃寸前で身を捩じってその攻撃をスレスレでかわして来た。
「うそっ!?」
予想外の出来事に彼女の動きが遅れる。
その一瞬の隙が決め手となり、彼女の前に手が翳される。
「っ!!」
「勝負ありだ」
翳された手越しに言われて彼女は素直にウィルを降ろし、二人はゆっくりと地上に降りる。
それと同時に彼女達を覆っていた封鎖結界も消えて元の景色に戻った。
「摸擬戦はこれで終わりだ」
「うぅ……一発も当らなかったの」
「当たり前だ。俺とお前じゃ戦歴が違うからな、そう簡単に一撃貰ってたまるかよ」
「でも、もう少し出来ると思ってたの」
「理想と現実は違うもんだ。経験を積んで強くなりゃいい」
一撃も当てられずに勝負を決められて、上手くいかない自分の戦いに彼女は凹んだ。
バルドはそんな彼女に何事も経験と言って何時もの落ち着いた表情を少し崩し、笑みを見せ、落ち込むほのかの頭に手を乗せて宥める様に撫でてやるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
摸擬戦の後に昼食を摂って暫しの休憩の後に彼等は再び第一都市に向かって歩き始めた。
周囲を見渡してもモンスターの姿なく、旅は順調に進んでいた。
「ねえねえバルドさん」
「なんだ?」
「バルドさんは、今まで何処まで旅したことあるの?」
「あっ、それ私も気になってたよ。バルドって随分と土地に詳しいみたいだけど、どこまで旅した事があるの?」
ずっと気になっていた。バルドは随分と知識が豊富だ。
一体、何処まで旅をしていたのだろうか?
この際だから聞いてしまおうと思った二人はバルドに質問を投げかける。
「何処までって……世界中だが?」
そして、なんて事はない感じで返って来たのはとんでもない答えだった。
それにはほのかとフィリスだけでなくアシュトンも驚いた顔になる。
「バルドさん、世界を旅してたの!」
「えっ? って事は、魔術大国まで行ってた?」
「ああ。魔術だけじゃねえ、科学の進歩した西の大陸にも足を運んだ」
パルティナには主に三つの勢力で出来ている。
魔法共和国に魔術大国、科学新統合国家の三つが大きな勢力として君臨している。
彼はその三大国を旅していたと言うのだ。
「別に驚く必要はねえぞ。その気になれば、誰だって出来るしな」
「あはは……その人はすごくお金持ちじゃないと出来ないと思うけどね」
世界旅行など、金持ちのする事だろうと内心思った三人。
まあ、バルドの場合はきっと金ではなく己の足でひたすら大地を歩き続けたのだと思う。
それだけでも随分と時間が掛かる様な気がするが……。
「やっぱり、他の国は此処とは違うの?」
「そうだな……。各国、それぞれの特徴を発展させたもんだったとしか言えないな。ただ、これだけは言える」
「何を?」
「何処に行っても、人は人だ。顔や肌の色が違くても皆、根っこは一緒って事だな」
肩を竦めて言う彼に三人は苦笑する。
バルドにとって、何処の国の人だろうと全員が同じ様に見えるのだろう。
差別や偏見を持たず、ただその国の生き方を見て感じる。それが彼の良い所だ。
「バルドさんらしいの~♪」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
「いいな~。私も他の国とかに行ってみたいな。そこで、どんなものがあるのか見てみたいな」
「今よりも安全性が確立されてきたら何時かは行けるだろうぜ」
まあ、その時は冒険者やギルドに護衛依頼もなくなるから廃業になるだろうな。
そんな事をおどけて言う彼に彼女達はくすくすと笑う。でも、その時が本当に来ればいいなと思う。
そうすれば、こうして彼が危険な事をしてまで旅する事もないし誰も傷付く事もなくなるからだ。
(バルドさんは、どうするのかな?)
もし、それが現実のものとなったら彼は如何するのだろうか?
自分達の都市に残っていてくれるのだろうか、それとも外の世界でこれまで通りに旅を続けるのだろうか?
(出来れば……残っていて欲しいな)
頼りになる彼にはこれからも自分達を導いて欲しい。
道に迷った時、自分達に進むべき道を教えてほしいなと思う。
彼の横顔を見上げる形で見つめて考えていた時、その視線に気付いたのかこっちを向いた。
「ん? 如何したほのか?」
「にゃっ!? な、なんでもないの!」
自分の方をジッと見つめていた少女に怪訝な表情と共に声をかける。
それに慌てて首を横に振って何でもないと答える。
少しだけ頬を朱に染めるそんな彼女の様子に“変な奴……”と言って再び視線を戻した。
気付かれなかった事に少しホッとする。
そして、考えていた事を頭の片隅に置いて今は旅を楽しもうと意識した。
その時だった。
遠く地平線の先から低い重低音が聞こえてきた。
それに気付いた瞬間、自分達の立つ大地が大きく振動して来たのだ。
「にゃっ!?」
「地震!?」
強く揺れる大地にほのか達は慌てる。
そんな三人をバルドが手を伸ばして順々に捕まえて自分の方に寄せる。
「あんまり慌てて動くな。こういう時はジッとして治まるのを待て」
暫し続いた揺れだったが、徐々に弱くなって漸く止まった。
「もう大丈夫だ」
「すごい揺れだったね……」
「震度は大体4くらいだな。そこそこ強い揺れだったな」
揺れが止まった事でホッと息を吐く三人と揺れの強さを分析するバルド。
ともかく、地震も止んだのだから先へと進もうと再び一同は歩み始めた。
だが、安心したのも束の間だった。またも同じ位の地震が発生したのだ。
「ふにゃあ!?」
「ま、またぁ!?」
「同じくらいの揺れだよ!?」
「これは……」
最初の地震ほど長くは揺れなかったが、それでも激しい揺れに彼女達はビックリしていた。
「二回連続で地震が起きるなんて……」
「び、びっくりしたの……」
「僕も初めての体験だったよ……」
二回も同じ大きさの、しかも断続的に起きた地震に彼女たちは心臓がバクバクと鳴っていた。
「………」
「バルドさん? どうしたの?」
そんな自分達を余所に彼はただ一人、鋭い眼を先に向けていた。
その表情は険しく、何時もの彼とは違う雰囲気を纏っている。
まるで、戦闘に入った時と同じ雰囲気を……
「バルドさん……?」
「……ああ、わりぃ。少し考え事してた」
それに不安になってほのかが声をかける。
その声で漸く気付いたのかバルドは何時もの表情に戻って何でもないと返事を返した。
「地震も治まったな。取り敢えず、何時までも此処に突っ立ってる訳にはいかねえし、さっさと移動するぞ」
傍にいる彼女達の頭を順に軽くポンポンと撫でた後、彼は一人、先に歩き出す。
それに続いてほのか達もその後を追って、再び一行は先へと進み始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時は進み、再び夜がやって来た。
何もない草原で野宿を決める一行はキャンプを建ててそれぞれが寝るまでの時間をのんびりと過ごしていた。
フィリスは研究所の方から持って来たのだろう幾つかの難しい書物を読んでいて、アシュトンも同様に魔術学の書物を開いて読んでいた。
バルドは見張りの役目をしており、小高い岩の上に胡坐をかいて座って遠くの景色を見つめている。
そんな中、ほのかはというと……
「……えいっ!!」
新しい魔法の練習をしていた。
今日の夕飯で使った中身のなくなった缶詰を相手と見立てて魔力弾を当てていた。
精神を集中して一発の魔力弾を生み出し、それを放つ。
放たれたそれは空き缶を見事に捉えるとそれを上に弾き上げる。
宙を舞い上がる缶に向かって魔力弾はその軌道を大きく変えてUターンし再びそれを弾き上げた。
カンッという乾いた音が夜空の下で響き、再び缶は上に弾き上がる。
彼女はそこに来て魔力弾の制御に更に力を入れる。
大きくターンするそれをだんだんと間隔を狭め始める。
必然的に上から下に落ちようとする缶はその場で停滞して下には落ちられなくなる。
打ち上げる回数が三十を超え、もう少しで五十回まで行けそうだった。
しかし――
「…あっ!」
如何やら操作を誤った様で彼女の魔力弾は缶を掠める様に通り過ぎてしまい重力に従ってそれが地面に落ちて転がってしまった。
[三十九回。目標の五十回まであと十一回です]
「うにゅ~…失敗なの」
今、彼女のしているのは誘導弾の練習……その前段階だ。
現在、十回ほど失敗を繰り返している。
誘導弾のイメージとしては相手をしつこく追いかけるものだが、それをイメージするというのは中々に難しい。
そこで、彼女は空き缶を打ち上げ自分の操作する魔力弾を何度も当てる事でイメージをより分かり易く、より明確にする事を考えついたのだ。
現在は一つの魔力弾で行っているが、最終的には複数の魔力弾を作り出し、一つの魔力弾が空き缶を弾きながら逃げる役目を担って残りの魔力弾がそれを追いかけるというものにしたい。
直ぐにできると思っていたのだが
しかし、現実はそう簡単にはいかず彼女は最初の目標すら達成できてなかった。
「バルドさんはすごく簡単に作ってたからすぐにできると思ってたのに……」
[大丈夫ですよマスター。感覚は掴めているみたいですし、きっと出来ますよ]
上手くいかずに落ち込むほのかを元気付けるウィル。
まだ彼女は魔法が使えるようになってから一週間も経ってないのだ。
逆にここまでの成長を見せる方が珍しい方である。
ただ、ほのかとしては早く上達して彼女……リースリットと話が出来る位にレベルアップしたいのだ。
「いま、何時だっけ?」
[九時三十分近くですよ]
「それじゃあ、あと三十分だけ頑張るの!」
[了解しました、マスター]
相棒の了承も得た事でやる気を取り戻した彼女は落ちた缶を拾って所定の位置に戻し、再び練習を始めた。
今度も最初はゆっくりから始め、徐々にその速さを上げていく。
一定の速度に達したら速度を上げるのを止め、その速さをキープして缶を打ち上げ続ける。
順調に回数を重ねて行ってさっきの三十九回を超える事に成功した。
(あと少し……あと少し……!! 落ち着いて……落ち着いて……!!)
逸る気持ちを抑え込み、彼女は空中でぶつかる度にクルクル回転する缶に魔力弾を当て続ける。
「ラストッ!!」
そして、最後の一発が命中すると共に散々魔力弾を当てられ続けた缶が遂に破損して半ばから二つに割れて地面に転がった。
息を乱しながらそれをジッと見ていたほのかだったが――
「や、やった!」
遅れて、成功した事に感情が湧きあがって歓喜の声を上げて跳びはねた。
魔力制御による魔力弾の五十発命中。
何度も失敗を繰り返して成功しただけあってその嬉しさは当の本人しか分からないだろう。
「ウィル!! 私、出来たの!!」
[おめでとうございます、マスター。イメージは固まりましたか?]
「うんっ!」
イメージは固まった。
あとは、これを魔法として展開して完全なものにするだけだ。
「わぁ……缶が真っ二つになってる」
「あ、フィリスちゃん」
その時、何時の間にかフィリスがいてさっきので割れた缶を拾い上げて驚いた様子で呟いた。
「ほのかは、すごいね。もうこんな魔法制御が出来るんだ」
彼女の成長の速さはすごいものだ。
バルドに言われた事を直ぐにイメージし、それを実践して着実に会得に近づいている。
自分とは大きく違う彼女に少しだけ羨ましく思う。
「フィリスちゃんだって出来るはずなの。今度は一緒にやってみようよ?」
「え、私も?」
そんな風に考えていたフィリスにほのかが誘いの声をかけてきた。
それに一瞬キョトンとした顔をして直ぐに掌の上にある二つに割れた缶に視線を落とした。
「出来るかな……」
「出来るか出来ないかなんてやってみないと分からないの。諦めたらそこで終わりだ、ってバルドさんが言ってたの」
「…ふふっ、バルドらしい言い方だね?」
彼なら言いそうな発言だ。それにフィリスもくすっと笑う。
「そこまで言われたらやるしかないね。ほのか、私も混ざってもいい?」
「うんっ!! 一緒に頑張ろう!!」
それから二人は新しい魔法の開発の為に仲良く魔法の練習を始める。
そんな光景を近くで本を読んでいたアシュトンは一度、そちらを見て表情を崩し、微笑んで再び本へと集中した。
―――――ちなみに如何でもいい報告だが。
その後、彼女達は訓練を楽しみ過ぎて夜中の11時近くまで魔法練習をやってしまい、バルドに軽く叱られた事を此処に記しておこう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
中央都市の中枢に置かれる巨大な建物。
そこには魔法共和国のあらゆる災害から市民を守る為に活動する組織SCCAの本部が設置されている。
その本部の最上階でとある会議が深夜、粛々(しゅくしゅく)と開催されていた。
「第二都市の駐屯部隊から、報告があった。第二都市で正体不明のモンスター率いる大量のモンスターによる襲撃事件があったそうだ」
「それが姿を消したと同時に彼等は戦意を失って逃げたとも報告が上がっている」
縦長の机を囲む様に座るのは八人の人物。
皆、何処か食えない雰囲気を纏っており近寄りがたい空気を放っている。
「その三日前には第三都市の方で空から隕石と思われるが落ちて来てそこよりモンスターが姿を見せたそうだ。幸いにも隊員達が怪我を負っただけで市民には被害は出なかったそうだが」
「問題はそこじゃねえだろ。そいつは研究所に襲いかかったらしいじゃねえか。運良く追い返せたは良いが、俺達が止めなくて如何すんだっての!」
落ち着いた声で話す五十代くらいの者に向かってまだ若そうな男性が机を叩き勢いよく立ちあがって声を荒げる。そんな彼に別の者が代わりに落ち着かせる様に話す。
「それは我々の落ち度なのは間違いないだろう。故に今後、訓練を強化するべきとの決議も決まっている。そうカリカリするな」
「……けっ!」
それには心当たりあるのだろう彼は椅子にドカッと座り腕を組んだ。
黙った彼を見てから会議は続く。
「昨日、第七タスクフォースを第三都市に派遣したのだが……。如何やら向こうで反乱が起きたとの報告がある」
「……ほう、反乱とな?」
「すぐに鎮圧して首謀者を確保。罪状は虚偽容疑と特別緊急通達無視容疑だそうだ。現在、その者を本部へと移送中との事だ」
「第七っていやぁ……クラストの奴か。俺はあいつは嫌いだな」
「おい、口を慎め。仲間を嫌う奴があるか」
再び、口を開いてぼやいた彼に別の者が注意をかける。
しかし、それを意に介さず彼は椅子を少し傾けて片足だけ浮かせる。
「だってあいつ、何かにつけて金で解決しようとするし如何もいけ好かねえ。ホントによくあいつは此処――『タスクフォース』に入れたよな」
「うむ、それは私も思う所があるな」
「おい、お前まで同僚を疑うな。内輪揉めして何になる」
「その話は後にしろ。報告の続きを聞くぞ…」
騒ぎ始めた室内を御する声が一番奥に座っている者から放たれる。
それに、一斉に彼等は黙り話を聞く姿勢に戻った。
彼等の様子を見て、大丈夫だと判断してから奥にいた者が話を促す。
「容疑者の名は……『ニコラス・オズワルド』。あの第三研究所の局長です」
「まさか……!?」
「なんと……!! あの御仁がか!? 何かの間違いではないのか!?」
彼を知る者は驚き、互いに顔を見合わせる。
一体どういう事なのか、彼等はその話に集中する。
「開発されたターミナル……その最優とされるIPターミナルの提供を拒んだとか。また、それを何者かに渡して処分させたと虚偽の供述などもしているとの事だそうだ」
「ううむ……。事態は一刻を争う事態だというのに、最優とされるターミナルを提供せんとは」
「残るは、各々のモニターに報告書を転送するので各自見ておいておきたい。私からは以上だ」
「他には、誰か報告はあるか?」
「では、ワシからご報告を……」
誰も手を上げない中で一人だけ上げる。
六十はいっているだろうその者が立ち上がり報告を始めた。
「現在、第一都市で地震が多発。平均震度は4程度で最小震度が3、最大震度は6となっております」
「マジかよ……」
「なお、調査の結果。地震の加害範囲は第一都市の北……『ノーム山脈』を中心に半径五十キロ圏内までしか及んでない様で、それ以上離れると地震は感知できないとの事じゃ」
「なんとも不思議な地震ですな。とても自然現象とは思えない」
「調査が必要であるな。頼んで良いか?」
「お任せあれ、くっくっく」
奥にいた男性がそう問うと快く承諾の声が返ってくる。
そしてこれ以上はないと座る事で意志表示を示し、他にいないかと問うと誰も手を上げる者はいなかった。
「では、これにて会議を終了とする。各自、持ち場となる都市へと帰還し警戒を怠るな」
「イエッサー」
彼の言葉を締めくくりに会議は終了。それぞれが自らの都市へと帰還していく。
「……ターミナルの量産化を急ぎ行う必要があるな」
最近のモンスターの活発化は異常な数値を見せている。
このままでは、いずれ隊員達どころか市民にすら危険が及ぶ。
すぐそこまで迫っている危機を一刻も早く脱却する為には何としてもターミナルの開発は必要事項なのだ。
「オズワルド殿。IPターミナルを一体、誰に託したというのだ……。我らよりも優秀という事なのか? それとも、別の考えがあっての事なのか……」
彼が破棄したというのは嘘であろう。
今もそれは何者かの手にある筈なのだ。
「まあいい。いずれ、その者は必ず此処に来る事になるだろう。その時までの楽しみとして待たせて貰うとするか」
先の未来が見えているのか、にやりと口の端を上げる。
そして、椅子から立ち上がって会議室の出口へと歩き出す。
「さて、研究所の彼女にターミナルの開発を急がせるとしよう。一刻も早く周辺で暴れまわるモンスター共を殲滅せねばならないしな」
研究所にいるある人物に再び会う為に彼もまた会議室より出ていった。
バルドの指導の下、少しずつだが着実に成長を見せ始めるほのか。
今後、どのように成長するのか楽しみですね。
それと、良い子は夜更かしは厳禁ですよww
訓練のしすぎで軽く怒られる二人に合掌~。
それにしても、バルドさんは魔術だけでなく魔法も使える御様子……。流石は万能魔剣士か……。
それでは、今後とも宜しくお願いします。
では(゜∀゜)ノシ!!




