第十五話 続く旅路
十五話更新
閑話より本編へと戻ります。
次なる目的地、中央都市へと向けて第二都市を後にする一行。
彼女達の冒険はまだまだ続きます。
では本編をどうぞ。
ギラギラと地上を照りつける太陽の光が降り注ぐ。
時刻は午後に差し掛かる所で、もう少しでお昼になろうとしていた。
そんな時間帯の中、平野を歩く四つの影があった。
「おい、お前等。大丈夫か?」
「だ、大丈夫なの!」
「まだまだいけるよ」
長い時間歩きっぱなしだったので気を遣ったバルドが後ろにいる三人に声をかける。
それにほのか達は、まだまだ大丈夫だと返事をかえしてきた。
現在、第二都市より第一都市へと向けて出発した四人は平野を歩き続けていた。
都市で必要な物を購入して荷物を纏めた彼女達は第二研究所の面々と別れを惜しみつつも別れて再び旅に出る。
その際に一度、両親や友達に第二都市で起きた出来事とその後に発生した問題で帰れなくなった事を告げ、新たに第一都市を経由して中央都市へと向かいそこから列車に乗って帰ると伝えた。
両親も親友たちもモンスターが原因なら仕方がないと思ったのか、気を付けて帰って来るようにと言われ、それに元気よく返事を返して通信を切った。
「…………」
「まだ繋がらねえのか?」
「うん……局長達、どうしたんだろ……?」
しかし、如何いう訳かフィリスの方は第三都市に連絡してもコール音を一回鳴らした後に直ぐに切れてしまうのだ。
「心当たりはねえのか?」
「多分……新しい研究が始まったと思う。研究は最初が肝心だ、って局長は言ってたし、その時は通信の一切を切って研究に没頭するから……」
「あそこの連中らしいな」
仕事熱心でいい事で……と呟いて呆れた表情を見せるバルド。それに苦笑するフィリス。
きっとその内、連絡は繋がるだろうと彼女は一端連絡する事を諦めた。
だが、この時―――。
既に第三都市の研究所ではクラスト率いる第七番隊タスクフォースによってオズワルド局長が連行されてしまっているという大事件が起きているという事実を彼女達が知るのは後の事である。
「まあ、俺達はさっさと目的地に着いて帰る事だけを考えとけばいいさ」
目的地とは当然のことながら中央都市である。
しかし、第二都市でそのルートを検索した結果。現在その両方のルートが使用不能状態だったのだ。
原因としてはあの大地震である。
落盤や落石などで道が使い物にならない状態になったり、モンスターがその活動を活発化させている所為で使用不能になっていたりと様々だ。
結論として、彼等はこのまま北上し第一都市を経由して中央都市を目指す事となったのだ。
無論、第二都市から第三都市へ徒歩で帰ろうとも思った。
だが、残念な事にその道すら先の地震で使えない状態で諦めざる負えなかった。
「第一都市は、地属性の強い所だっけ?」
「そうだな。北にある『ノーム山脈』が近いだけに地の魔力素が強い。逆に雷属性の魔力素と風の魔力素は少ない傾向にあるな」
鉱脈や貴金属類が多く出土するノーム山脈。
現在はただの山が連なる山脈だったらしいが、元は活火山が幾つもあった土地らしい。
しかし、地属性の力が強くなっていった事で火山が徐々に力を失っていきマグマは地中深くに沈んで行って消えていったそうだ。
だが、火山のあった時代が長かった事から周囲には大量の鉱脈が発見され、それを採掘して加工技術を発展させていったのが第一都市の最初の姿だ。
[まあ、今じゃ有名なIT企業や金属、電子部品の生産がトップクラスの都市だけどな。ウヒャヒャヒャ!!]
[最近ですと、どうやら戦艦の開発にも着手しているとか噂が上がっている様ですよ?]
ケルベロスやバハムートの言うとおり、現在の第一都市は金属製品や電子系統の機械……家電製品などで有名な都市だ。
また、各都市で有名な名のある企業の殆どもこの第一都市に集中している。
更に重工業なども盛んに行われていて多くの機械系統も此処で開発されている。
噂では戦艦の開発にまで乗り出しており、着実にその成果を伸ばしている様だ。
そして、この都市の製品は隣の大国……魔術大国でも有名で電化製品を求めて買いに来る者も少なくないという。もしこの都市が崩壊した場合、魔術大国は経済的大打撃を受けるという専門家の話もあった。
故に、この都市の事を魔法共和国の人達は『共和国の財布』と皮肉った名前で言う時がある。
[ですが、第一都市は少々問題があります]
「ふえ? 問題って?」
「あそこの都市はな、治安が結構悪いんだよ。なんでも、犯罪件数は都市の中では一番だとさ」
企業の集中する所、必ず闇はある。他企業を蹴落とす為に平気で金が行き来する事もある。
金が潤うという事は、犯罪もまた増えると同義である。
その結果、人の心は荒み、未成年でも犯罪を起すし他のところよりも素行の悪い者……つまりは不良達が跋扈する都市となったのだ。
壁に落書きをする、ゴミを平気でポイ捨てする。人からカツアゲをしたり、暴力を振るったりとさまざまだ。
「そ、そんなに酷いの?」
「噂だがな。けど、火のない所に煙は立たねえって言うしな……。判断しがたいもんだ」
「でも、SCCAの人達が頑張ってると思うの!!」
(だといいがな……)
純粋な目をして言ってくるほのかを見て、バルドは内心そう呟いた。
果して、そんな都市の中で只管に真面目に公務に励む人間が何人いるか……。
《若、第一都市での悪い噂は耐えません。恐らくは派遣されたSCCAの者達も……》
《かもな。多分、賄賂でも貰っているかもしれねえ》
彼の脳に直接バハムートの声が響いた。
知己の間で行う事の出来る特殊な会話手段、『念導式通話魔法』。
略して『念話』と呼ばれる魔法士や魔術士の技術だ。
これは特定の人物同士で他の者に会話を聞かれない様にする為の技術で主に任務や業務での会話で活用される事が多い。
《取り敢えず、この念話の技術を教えといた方がいいぜ相棒?》
《かもな。それと近辺のモンスターの事とギルド、第一都市での行動は細心の注意を払う様に言っておくか》
《一応、第二都市でオルソン局長が言ってましたね? 第一都市の研究所には近づかない方がよいと……?》
《その事についても、ほのか達には近い内に説明をした方が良いな。どっちにしろ、向こうでもめんどくせえ臭いしかしなくなってきやがったぜ……》
《それが、相棒の生まれた星の下なんだろうぜ~ウヒャヒャヒャ!!》
《激しく泣きたい星の下だな……》
「バルドさん? どうしたの?」
「何でもねえよ……」
渋い顔をしていた彼に気付いてほのかが見上げて聞いてくる。
それに彼は疲れた顔のまま返事を返して彼女の頭を軽く撫でてあげた。
「もしかして……私達のせいなの?」
「はあ?」
「私達がいると……やっぱり迷惑だよね」
しゅんとして俯く。如何やら渋い顔をさせていた原因が自分達にあるのではないかと勘違いをしてしまっている様だ。
二つに結った髪もそれに合わせて力なく垂れ下がる。
フィリスも何やら思う所があるらしく、しょげていた。
「……ホントに面倒くせえ奴らだ」
そんな二人を見て小さく呟くが、その表情は柔らかなものだった。
歩みを止めて落ち込む二人の方を振り向き、頭に手を乗せる。
「別にお前等の事で悩んでた訳じゃねえからそんなに落ち込むなって」
「でも……」
「それはもう今更の話だろ? お前等を無事、親の下に届けるのは俺に課せられた任務みてえなものだ。どんなトラブルに巻き込まれても、最後まで見捨てねえで傍にいてやるから安心しろ」
「バルドさん……あ、ありがとう!!」
「ありがとう、バルド……」
真っ直ぐな瞳で見つめられて言われたのに二人は顔を少し赤くしてお礼の返事を返す。
それに、よしっと笑って頭を撫でてあげた。
大きな頼りになる手に彼女達は目を細めてされるがままの状態になる。
それを旅に同行する事になったアシュトンは不思議そうな顔で見ていた。
「ん? 如何したアシュトン?」
「……ずっと気になってたんですけど。バルドさんとほのかちゃん達って如何いった関係なんですか?」
三人の関係が全くの謎な事に首を傾げるアシュトン。
それに、彼は至極簡単な返答を返した。
「トラブルを持ちこむ娘っ子二人と、その被害を被る男っていう関係だ」
「にゃっ!? さっきと言ってる事が全然違うの!?」
「それはそれ、これはこれだ」
「一緒なの!!」
「アホ抜かせ。傍にいてやるとは言ったがトラブルに巻き込まれているのは間違いなく俺だ。被害者だぞ俺は?」
「屁理屈なの!?」
「屁理屈も理屈だ。ただ理屈に屁が付いただけだろうが。どっちもどっち……五十歩百歩だろ」
「また難しい事を言うの!?」
「こういうのは言ったもん勝ちなんだよ」
「もうもうっ!! バルドさんのバカバカバカ~~!!」
ポカポカと彼の胸を叩く彼女にハハハと勝者の笑いを上げるバルド。
何時の間にか自分もトラブル娘という一括りの仲間入りしている事に呆然とするフィリス。
そんな何とも不思議な光景がアシュトンの前で繰り広げられていた。
(ああ……そういう関係ね)
それを見て彼は何かを納得したように心の内で呟くのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日の晩。
彼等は川原に野宿を決めキャンプの準備をする。
バルドが川へ水を汲みに行く間にほのかとフィリスは協力して手頃な薪を拾って来て焚火の用意をする。
二人が集めている間にアシュトンがキャンプセットを取り出して組み立てる。
水を汲みに行ったバルドが戻って来て薪に火を付けてそこで夕飯の支度を始める。
今回は第二都市で十分に食材を買いそろえた為、簡素なシチューではなくハンバーグを作る様だ。
手早く料理を始める彼は、自分の事をジッと見てくる三人へ今後の方針を決める為に声をかけた。
「お前達に先に言っておく事がある。第一都市に向かう道中での注意点だ」
「ふえ? 注意点?」
「ああそうだ。今から言う三つの注意点は絶対に忘れんじゃねえぞ」
首を傾げる三人に頷いて彼は空いている右手を上げて三本の指を立てた。
「一つは、モンスターについてだ。地属性のモンスターのその大半は防御力が高い。生半可な攻撃じゃあいつ等は簡単には倒れないからな」
「うっ……。それって、私みたいな攻撃魔法が苦手な人は相性が悪いって事……?」
「だな。フィリスはアクアスパイクしか使えねえしな……もう一つくれえ強めの魔法を覚えねえと駄目だ」
牽制くらいなら役立つが、大したダメージにはならないぞ、っと付け加えておく。
それにフィリスはショックを受けたのか落ち込んだ様子で両手を地面につけた。
そんな彼女をほのかがフォローする様に宥める。それを無視してバルドは話を続けた。
「二つ目もモンスターだ。地属性のモンスターの中には質量兵器を搭載した『機甲型』モンスターが存在する」
「機甲型……ってなんなの?」
聞き慣れない言葉にほのかが首を傾げ、落ち込んでいたフィリスも顔を上げた。
「人工物が命を宿した奴らの事だ。例えるなら……石像が勝手に動いたり踊ったりとかだな」
「凄いシュールな光景だね……」
思い浮かぶのは動く筈のない石像が勝手に動いて質量兵器をばら撒きながらパラパラを踊っている……。
何ともシュール過ぎる光景だった。
「まあ、こういった類の奴らは古代遺跡の方に行かなきゃ出て来ねえから安心しろ。ただ、出会った時には気をつけろよ。あいつ等は全身武器庫だ。銃弾にミサイル、時にはレーザーを使う奴もいるからな」
「ホントに生きてるの? それ……?」
「動力炉をぶっ壊せば動かなくなるけどな。ただ、実力はこの周辺だとCランクが多いから気を引き締めねえとこっちが木端微塵に吹き飛ばされる事になるからな」
ゾッとする様な事を言ってくる。
三人が思い浮かべるのは、なんとも恐ろしい形をした巨大な機械モンスターだった。
全身武器庫という事は、歩く要塞か何かなのではないか?
そう思うと身震いすら覚える。
「最後に気を付けておく事がある。ギルドの連中には不用意に近づくな」
「ギルド……?」
「えっ? 第一都市にはギルドがあるの?」
始めて聞くその情報にほのかとフィリスは首を傾げた。
また、アシュトンの方はよく分かっていない様で疑問符が浮かんでいる。
それにバルドが『ギルドは何でも屋とでも思えばいい』と軽く解説を加えてくれた事で彼も少しは納得したように頷いた。
「話を戻すぞ。ギルドってのはそれぞれがそれぞれの縄張りを持ってる。そこにはギルド間同士で『不可侵条約』が結ばれている」
「不可侵条約?」
「互いに自分達の領土を侵略したり、足を踏み入れない事を約束する条約の事だよ。起用していると言えば、主に国同士で交わすものだね」
[ギルドにゃあプライドの高い奴等が多いからな。そんな風に約束を交わしとかねえと、ことある毎に喧嘩が起きるからな~]
[ギルド長としてもそれは避けたいものです。ですから、互いが決めた領土からその先には有事の際以外は誰も足を入れない様に約束を交わすのですよ]
「ふえ~……。そんな約束があるんだ…」
感心した様に呟くほのか。
国だけでなく、組織間でもその様な条約が交わされているとは思ってもみなかった。
「まあ、例外としては『モンスター情報交換条令』や『団結令』ってのもある。この二つが発令した時は『不可侵条約』を無効化してギルド同士が一か所に集まる」
モンスター情報交換条令はそのままの意味で。
毎月の折り返しに集会所に集まって互いにその日まで討伐や撃退、調査したモンスターの情報を交換し互いのギルドメンバーの生存率を上げる為のものだ。
人とモンスターの間の抗争は長きに渡るが、人はモンスターの全てを確認している訳ではない。
毎年、数百体の新種のモンスターが目撃されており、それによる被害が多いのだ。
ギルドとしては、少しでも依頼モンスターの特徴などのデータが欲しいのでこういった情報を交換する事で少しでもメンバーの命を守る事に繋げようと必死なのだ。
次に『団結令』だが、これは一ギルドでは討伐や撃退が困難な時に発令するもので大体Sランク以上のモンスターに及ぶと発令する事がある。
時々だが、都市やその近隣の村や街には人里にはあまり現れない強力なモンスターが出現する。
その実力があまりにも高過ぎて一ギルドでは手に負えないと判断すると、各地方のギルドが集結し互いに協力し合って戦うという条令だ。
この他にも幾つか例外措置があるが、今は省く事にしよう。
「あれ? でも、それとギルドに気をつけないといけないのは関係あるの?」
真剣になって聞いていたほのかがふと疑問に思った事を口にする。
その彼女の疑問に答えるべくバルドは話を続けた。
「さっきも言ったがギルドの連中は縄張り意識が強い。もし、その近辺で街の連中じゃない見慣れない奴等がうろついてみろ」
「「あ……」」
「そっか、不審に思われて目を付けられるんだね?」
ほのかとフィリスが声を上げ、アシュトンが代表して答えを言う。
それにバルドが頷いて正解だと言った。
「普段は住民とかからの依頼を受けて行動する良い奴らだが、縄張り周辺で見慣れない奴らを見ると警戒すんだよ。何処かの間諜じゃねえかってな……」
[第一都市で一番気を付けなきゃならねえのは『アンフィスバエナ』っつーギルドだぜ]
「あそこが第一都市内では実力と名声が最近になって上がってきたギルドだ。その支配エリアも一番広い。不用意にそこには近づくなよ?」
「分かったの!」
三人が納得して返事を返した事にバルドもよしっと頷く。
それと同時に食事の準備も完了したので四人は仲良く夕飯を食べ始めた。
余談だが、バルドの料理を初めて食べたアシュトンは前回の二人と同様に危うく箸を落とす所だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食事を終えて食器などを川の水を汲んで綺麗に洗い終え、バルドが再び寝ずの番を買って出て、三人は眠りについていた。
「んん~……」
しかし、ほのかは一人寝付けず寝袋の中で寝がえりを何度もしていた。
眠れない理由……。
それは第二都市で出会った少女の事であった。
あの少女、リースリットは如何してあれを集めているのか。
それが気になって中々眠れないのだ。
寝つける体勢を探して早数分。彼女は遂に寝袋から体を起した。
「眠れないの……」
小さく呟いてから周りを見る。
テントの中には自分以外にもフィリスとアシュトンが寝ている。
今晩はモンスターの遠吠えが聞こえないからかフィリスもぐっすりと眠っていた。
一回起きた方がいいと思った彼女は寝袋より脱け出してテントから出る。
それにテントの向かいで大きめの石に背を預けて腰を降ろしていたバルドが気付く。
「なんだ? まだ起きてたのか?」
「うん……眠れなくて。バルドさん、隣いい?」
「……好きにしろ」
場所を少しずれて座り直す。その空いた所にほのかは腰を降ろした。
膝を抱えその上に顎を乗せて座った。
虫の奏でる歌が周囲から聞こえ、穏やかな風が葉を揺らす音と混じり合う。
それを耳にしながら、ほのかはジッと焚火を見つめていた。
時折り、パチパチと薪の爆ぜる音が聞こえる。
「……何を悩んでんだ?」
「え?」
急に声を掛けられて彼女は膝から顔を上げてバルドを見上げる。
見つめてくる彼女を、バルドは見る事無く薪を一本持って焚火に焼べた。
「大方、あのチビッ子の事でも考えてたんだろ?」
「ど、どうして分かったの!?」
自分が悩んでいる事を看破されて驚く。
そんな自分に向かってバルドは脇に置いてあった枝を持って薪を軽く突きながら答えてくれた。
「顔に書いてあるぞ。“今、私はあの子の事で盛大に悩んでます!!”ってな」
「ふえぇっ!?」
言われた彼女はビックリして自分の顔をぺたぺたと触る。
だが、別に何か変化がある訳でもないのに首を傾げる。
「アホ。直接書いてある訳ねえだろう」
そんな彼女の様子を、漸くこっちを向いてツッコミを入れる。
それもそうかと彼女自身も納得し、さっきの自分の行動に恥ずかしさで顔を赤くして舌を出した。
「お約束のボケをどうもな。んで、あのチビッ子について何を悩んでんだ?」
天然ボケをかましてくれた彼女に皮肉った礼を言ってから質問する。
それにほのかは再び表情を暗くして今度は自分からバルドから視線を外し顎を膝の上に置いて焚火の方を見る。
「ずっと考えてたの。どうしてリースリットちゃんはあの欠片を集めてるのかなって……」
「如何して、か……」
「それに……リースリットちゃんは私に似てたから」
大空を舞いながら戦った時に見た彼女の瞳。ルビー色に光る瞳は綺麗だと思った。
けど……その奥は薄暗く輝きが消えていた。
その眼は嘗ての、過去の――――友達がいなくて一人ぼっちだった自分にそっくりだった……。
あの時、意識を失う最後の瞬間に見た顔は何処か寂しげで何かを求めている目だった。
「それが、気になって眠れなかった理由か?」
「うん……」
顔を隠す様に俯いて膝に埋める。よく分からない感情がグルグルと回っている。
暗く、先の見えない迷宮を彷徨っている様な気がして気持ちが悪い。
答えの見えない感情に如何していいのか分からなくなっていた。
そんな彼女の様子を見てバルドはその頭に手を軽く乗せた。
「ほのか、一つ聞いていいか?」
「ふえ……?」
「お前は、さ……。あのチビッ子を見て如何思ったんだ?」
顔を上げて彼を見上げる。
その金色の瞳は、まるで自分の探し求めている答えを知っている様に見える。
そして、それと同時にその切っ掛けを教えてくれている様にも見えた。
「よく、分からないの……。でも……」
「でも、なんだ?」
「でも……もっとお話ししたいと思ったの」
自分の今、思っている気持ちを素直に伝えてみた。それが答えを導き出してくれる様な気がした。
「……それでいいんじゃねえのか?」
「え……?」
「まずは今の自分の気持ちに素直になったらいい。悩んだ末の答えなら、それに向かって真っ直ぐに進むだけだ。そうすれば、今のほのかの気持ち……その本当の気持ちが何時かは分かる様になる」
「私の…本当の気持ち?」
自分の本当の気持ち。それは一体何なのだろうか?
彼女を見て自分が何をしたいのか。考えても分からない。
でも、自分の今の気持ちなら分かる。
自分は、彼女と……リースリットともっとお話がしたい!!
見えない先が少しだけ明るくなった気がした。
そして、それと同じく自分がすべき事が何なのかが少しだけ見えてきた。
「バルドさん……」
「ん?」
彼を真っ直ぐに見つめる。それにバルドも目を逸らす事なく見つめ返す。
「私に、戦い方を教えてなの」
それには彼も予想外だったのか軽く目を見張った。
驚いた様子のバルドにほのかは今の自分の考えと思いを伝えた。
「今の私じゃ全然ダメなの。今の私じゃ、リースリットちゃんとお話が出来るだけの強さが足りないの。だから、もっと強くなりたい。強くなって対等な立場でお話がしたいの!」
こんな弱い自分では駄目だ。
もっと、もっと強くならないと彼女には話すら聞いてはもらえない。
彼女と沢山の話がしたい。
なら、強くなるしかない。
「だから、バルドさん。私を鍛えて欲しいの!」
「……如何したもんか」
「お願いバルドさん!! こんな事、お願い出来るのはバルドさんだけなの!!」
「……………」
[いいじゃねえか、相棒。ほのかの嬢ちゃんの頼みだ、聞いてやるのが筋ってもんだろ?]
思案顔になるバルドの近くの虚空よりケルベロスとバハムートが姿を見せた。
そして、あろう事かほのかの意見に賛同したのだ。
「ケルベロスさん……」
「ことはそんな簡単に済む話じゃねえんだぞ」
[ですが若。此の侭ほのかさん達のレベルが上がらなければ後の旅に危険が生じます。確かにほのかさん達は強いとは思いますが、実戦が浅すぎます。ここは、若が教鞭を取るべきではないでしょうか?]
[相棒がほのかの嬢ちゃん達を危ない目に合わせない様に努力してんのは分かるんだけどよ。けど、このままだと後で大きな障害が現れた時に真っ先に嬢ちゃん達の身に危険が及ぶぜ? これからの事も考えて鍛えてやった方が相棒の為にもなると思うんだけどな?]
今のほのか達は確かに一般のSCCAの魔法士よりは強いだろう。
しかし、所詮はそれは魔力量で勝ってるからだ。
実戦経験の多い向こうの方がどちらにしろ彼女達よりも一枚も二枚も上手だろう。
強くても弱い……。
それが今のほのか達の実力だった。
この先、強力なモンスターが多く姿を見せるだろう。
その時に、果して今の状態のままで彼女達が無事でいられるかどうか……。
(……結局、答えは一つしかねえのか)
やや諦めたように彼は心の中で溜息を吐いた。
前々から思ってはいたが、今のパーティでまともに戦闘が出来るのは自分だけだ。
ほのかもフィリスも戦闘経験はないに等しいし、新たに加わったアシュトンもまた戦いを知らない。
ただでさえ、少女二人を守りながらの戦闘で大変だと言うのに中学生男子も加わって更に忙しくなった。
そろそろ、潮時かもな……と彼は心中で思いその重い腰を漸く上げる事にした。
「……分かった」
「…ふえ?」
「確かに今の状態じゃ危なくなってきた感じだしな。そろそろ頃合いだと思ってたところだ」
「そ、それじゃあ!!」
「いいぜ。俺でよければこの旅の間だけ、教えてやるからよ」
それに彼女は明るい表情を見せて満面の笑顔を見せた。
嬉しそうに笑う彼女に、彼はフッと表情を少し崩して笑みを見せ彼女の頭を撫でた。
「ただ、教えるからには指導は厳しくするからな。覚悟しとけよ?」
「はいっ!! これからは、宜しくお願いしますなの!!」
自分に指導をしてくれる事になったバルドにしっかりと頭を下げてお願いするのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、少し二人で話をしていたが悩みが少し解消されたおかげか睡魔に襲われたほのかはテントへと戻り、再びバルドは一人となる。
「まさか、あいつに教鞭を振る事になるとはな」
[いいじゃねえか、相棒。ほのかの嬢ちゃんは優秀だぜ。少し教えりゃ上達するってウヒャヒャヒャ!!]
「まあ、弱いままで旅をさせるよりはマシか……」
第一都市の周辺からモンスターのランクも上がり始める。
今まではFからEランクのモンスターが主体だが、今度はEからDランクのモンスターが蔓延っている環境になる。
ほのか達も少しずつだがレベルは上がっているだろうが、ここいらで大きく上げる必要がある。
「問題は二つだな」
鍛えるにあたって彼女達の課題となるのは二つ。
これをどう教えるかがカギとなるだろう。
一つ目は直ぐに解決できるが、もう一つは難しいだろう。
「のんびり……とまではいかねえが、少しずつ教えてくか」
教えてやれるのは中央都市までだが、それまでには彼女達は今以上の実力を身につけれるだろう。
[にしてもよ、あの嬢ちゃんは強かったな~?]
[あの歳であの実力……相当な実力者の下で教鞭を受けねばああまではいかないでしょう。若は、如何思いますか?]
相棒の大剣二本が語るのは金の少女の事だろう。
ほのかとフィリスと同い年だろうあの子はそこいらのSCCAの魔法士よりも強い。
実戦経験も恐らくはほのか達よりはあるだろう。
「それは今考えるべきもんじゃねえよ。憶測を連ねたって何も見えねえよ」
問いかけるバハムートに彼はそう言って明確な答えを避けた。
今はそれを考えるには材料が少な過ぎる。
幾ら考えようと答えはハッキリとはしないだろう。
それよりも、今最も重要なのは世話の掛かるトラブル娘の訓練メニューを如何するかだった。
(俺が人にものを教えるとはな……)
世の中、何が起きても不思議じゃないな。と彼は心の中で呟いて苦笑する。
そして、明日から始まるだろう特訓に何を組み込もうかと朝が来るまでの時間潰しに考え始めるのだった。
念話時の会話には《》を使用していきます。
中央都市に向かう為に、第一都市を経由する事になったほのか達。
この先、一体どんな出来事が彼女達を待っているのか。
自分の非力さを痛感したほのかは、リースリットとお話がしたいが為にバルドに教導をお願いする。果たして、彼女はレベルアップをする事が出来るのか。
リアルが忙しくて今回は内容がいつも以上に薄い気がする。
次回で挽回せねば……!!
それでは、今後とも宜しくお願いします。
では(゜∀゜)ノシ!!




