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第十四話 水面下で蠢く影

十四話更新。


世界の歯車が動き出すと同時に、人という歯車もまた静かに動き出すものである。

今回は、ほのか達が第二都市での戦いを終えた後、その閑話的なお話です。


では、本編をどうぞ。




魔法共和国には九つの代表的な都市がある。

第一都市から第八都市までが点在し、それらに囲まれた中央の位置にあるのが中央都市……共和国の要となる大都市である。


 各方面の都市から来る物資を仕入れ、他とは比べ物にならないくらいの発展を見せるところだ。

豊かに潤う都市は魔法と科学技術を発展させ、各地からそれを学ぼうと人が集まる。

現在は人口が他の都市より1.5倍であるが、十年も経てばその数は倍近くに及ぶというのが専門家の推測である。


 そんな大都市には各都市にある研究所と同じく中央魔導研究所というものが存在している。

数々の発明をして、なお且つモンスターの生態の調査も担うこの施設は特別災害対策本部SCCAの指揮下に入っている。

そして、この中央都市より各方面に存在する研究所に研究事案が発信される形となっている。


 つまるところ、SCCAが必要とする魔導機を開発要請するパイプとしても使われている…なんとも損な役割も担う機関なのだ。

 そんな中央都市の研究所の局長を務めている者はさぞや渋い顔をした御老体なのだろう、と思うが実はそうではないのが現実だ。


 局長室、そこには大量の本棚にそれ以上の本が並べられている。

そこそこ広い空間に高価そうな絨毯が床一面にしかれている。


 その奥で仕事机に数枚の書類を広げて落ち着いた様子で読んでいる見目麗し女性がいた。

ライトグリーンの長髪に、整った彫刻のように綺麗な顔立ち。まだ幼さを抜けきれないその顔は多くの男を惹き付けるに十分な容姿だった。


彼女の名はエメローネ・アルトワルツ。

若干二十歳で中央都市の局長の座に就いた女性である。


若くして彼女がこの地位に辿り着いた経緯は今回は伏せて置く事にしよう。

そんな彼女は手にとって読んでいた書類を机に置き、険しい表情になっていた。


「やっぱり、あの時の地震はこれだったのね」


小さく嘆息する彼女の持つ書類には『遺跡調査報告書』と書かれたタイトルとことの詳細が書かれた文章が連なっていた。


「けど……どうして? あの封印は数世紀先まで壊れるはずはなかったのに……」


呟く様に声をこぼして彼女は思案顔になる。

今、彼女の読んでいる報告書はある遺跡に封印されていた代物の調査結果である。


「古代遺跡の封印の破損……。あの地震と何か関係が……?」


それを考えているところでドアをノックする音が聞こえ彼女は顔を上げた。


「どうぞ」

「失礼します」


 返事を返すとドアを開けて一人の男性が入って来た。

薄い紫色の短く揃えた髪に同じく黒色の鋭い眼を持つ人物だった。


その彼は膝をついて忠義の礼をしてから彼女へ内容を話し始めた。


「エメローネ様。調査に向かわせた先遣隊からのデータを解析しました所、先のデータと一致。古代遺産が目覚めたのは確実の様です」

「そう……。御苦労さま、シーガル。徹夜なんてさせてごめんなさいね?」


微笑みと共に向けられた労いの言葉。

シーガルと呼ばれた男性はそれに頭を垂れた形で返答する。


「いえ、この程度の事なら問題ありません。それよりも、エメローネ様こそお休み下さい。倒れられては困ります」

「もう……大丈夫よ。私は丈夫ですから、そう簡単には倒れません!」


 頬を膨らませて彼を睨むその仕草は男を骨抜きにするには十分な破壊力を持っていた。

しかし、それを見てもシーガルは全く表情を変えることなく顔を上げて彼女を見ていた。


「ですが、かれこれ二日も夜遅くまで仕事をなさっているではないですか。少し、お休みになられた方がよいと思います」

「そうそう、堅物の言うとおりだぜ姫さんよ。アンタはちょいと働き過ぎだ」


二人しかいない空間に突然、別の人物の声が聞こえる。

その方向――エメローネの背後にある窓の方を振り返る。


閉まっていた窓が開いており、そこには一人の男性が枠に背を預けてくつろいだ体勢でいた。


 艶のある綺麗な背中まで伸びる黒髪、整った中性的な顔立ち。

アメジストの様な綺麗な紫眼は何処か人を惹き付ける要素を含んでいる。


 その男、名をクロウと呼ぶ。彼はエメローネが此処、魔導研究の職に就いてからの知り合いで主に裏方に回って仕事をしてくれる彼女のもう一人のパートナーである。


実戦経験も豊富で、彼女よりも二つ年上だというのにその実力は中々の物である。

表の仕事の手伝いをシーガルが行い、裏の仕事をクロウがする。


 そんな影の立役者の彼だが、正社員ではない。

規則などに縛られるのが嫌いなのか正社員としては入っておらず、魔法も使えない事からSCCAからはただの傭兵という形で見られている。


エメローネの事を『姫さん』と呼ぶ理由は、何となくだとか……。

危なっかしくて放っておけない所が理由だとか……。

そこらへんだという。


そんな窓枠でのんびりしている彼を見て彼女が小さく息を吐いて呆れた顔をする。


「……クロウ、また貴方はそこから入ってきて」

「まあ、いいじゃねえか。別に悪い事はしてねえぜ?」

「クロウ…貴様。またエメローネ様の許可なく部屋に入って来たか!」


 くつろいでいる男性、クロウと呼ばれた人物にシーガルが鋭い眼つきで睨みつけてくる。

それを彼は涼しげな表情のまま顔だけを向けた。


「別にいいだろ? ここは姫さんの部屋だけど、寝室じゃねえし。それよりも、姫さん。此処のガードは緩すぎるぜ? 俺が狙撃手なら狙い撃ちだ」


 そう言ってその場を指差してのんびりと忠告する。

自分の話に真面目に聞こうともしない彼の様子にシーガルは顔をしかめるがそれすらクロウにとって如何でもよさそうだ。


「そう。わざわざ教えてくれてありがとう、クロウ。今度、そこを補強しておきますね」

「ん、そうしときな。んで、俺からも報告だ。良い情報と悪い情報……どっちもあるが如何する?」


クロウはそう言って目を細める。

その目つきは仕事に入った時に見せるもので、何時もとは違った雰囲気をかもし出して来る。


「重要度の高い方からお願い」

「んじゃ、まずは良い方からだな。第三都市と第二都市でモンスターの襲撃があったらしいが、両方とも討伐されたって話だ」

「……そう。誰が倒したのか分かるかしら?」

「残念ながら分からねえな。ただ、向こうで駐屯しているSCCAの連中より強いのは間違いない」

「冒険者というかしら?」

「かもな。んで、悪い情報だ。そいつらが倒された後に二つの秘石の欠片の反応が消えたぜ」

「……なんですって!?」


それには驚きを見せて椅子ごと彼の方を向いた。


「まさか、欠片に眠るガーディアンが倒されたって事なの!? でもあれは、+AA級のレベルの存在よ。そう易々と倒せる訳が……!?」

「んな事オレに聞かれてもな。暴れてたモンスター事態がそれな訳だし、倒したんだから出来たんだろ」

「+AA級モンスターを相手に勝てる人物なんてそう簡単にはいない筈……。近いレベルの実力者、またはそれを凌駕りょうがする戦闘能力を持つ人を調べる必要があるわね」


 現在確認されている+AAクラスの実力を持つ者は三百名に届くかどうかの人数しかいない。

その内の誰か、いや……その者達を含めたそれ以上の実力者を含めた中の人物の仕業という事になる。


「エメローネ様。もしもの際は、我々が鹵獲ろかくに向かいます」


一人で呟きながら思案する彼女にシーガルが申し出る。

それに彼女は神妙な顔で頷いた。


「お願いねシーガル。もし、その人が欠片を所持していて悪用にでも使われては大変。もしもの時に備えて、その時はクロウも一緒に行ってちょうだい」

「おいおい、姫さん。オレは姫さんの護衛をやってんだぜ? それが持ち場を離れたら不味いだろ」

「それ以上の問題って事にして。秘石は全部回収してもう一度封印すべき遺産なの。あれが使われたら最後……大戦争時代よりも酷い事になるかもしれない」


 大戦争時代とは、彼女達の歴史書に残された古代人の隠し残した書物に残っている時代の事だ。

遥かに発展したその時代は繁栄の時を過ごしていたが、何時しかそれは余所の国を侵略する為に使われ始めた。


 魔科学を使った魔導兵器などそこらじゅうにあったという。

世界は荒廃してゆき、豊かな地を手に入れる為により一層、戦いは激しさを増して行った。

そして、結局それが自分達の首を絞める事となってある日の夜、彼等は忽然と姿を消し、人類は一度滅んだのだ。


それが何が原因かは記されていない。そもそも、その著者自身が当時の人間だ。

発見された書は、中途半端な所で書き終っている。


「古代遺産『オーパーツ』……。大昔に作られたあれ等も全部、地中深くに眠っているべきなのよ……」


古代遺産とは先人達が作り出した超高度な技術の結晶で生み出された危険な遺産で、今では現代の人の手に余る力を秘めた謎の遺産の事を言う。


誰が何のために生み出し、何を目的として誕生したのか……殆どのオーパーツはその目的、用途、誕生理由などが不明だという。

故に破棄する方法も見つけられず、暴走などさせない為に先人達が後世の為を思ってなのか封印式が施されていて多くのそれ等は今も長い長い眠りに就いている。


「とにかく、シーガルは欠片を所持していると思われる人物の調査をお願い。クロウは要請があるまで待機していて」

「はっ!!」

「了解」


 二人は返事を返してシーガルが部屋より退出する。

それを見計らって、クロウが彼女の方へと近寄り、耳打ちを始める。


「姫さん。悪いがもう一つ悪い情報だ」

「何かしら?」

「タスクフォースの連中が、動いたぞ」

「……タスクフォースが?」


 SCCAでも屈指の実力を持ち、尚且なおかつ中心的存在の名高い実力者達がそろう部隊。

魔法共和国の中では治安維持に関わるSCCA……その中央組織の一角、治安維持特別対策本部『タスクフォース』。


そんな彼等が動いた事に彼女は怪訝けげんな表情を浮かべた。


「どうしてタスクフォースが……?」

「行き先を確認したが、第三都市の方っぽかったぞ」

「先生のいる都市に……? ――っ!! まさか!?」


 何かに気付いたのか、今度は椅子を勢いよく蹴って立ち上がる。

彼女の様子がおかしい事に今度はクロウの方が怪訝けげんな顔になった。


「ん? 姫さん、如何したんだ血相けっそう変えて?」

「クロウ!! 今すぐに先生の下に行って!! お願い!!」


 急に彼女はクロウの方へと詰め寄って服を掴みガクガクと揺さぶって来るではないか。

血相を変えて自分を揺さぶって来る彼女を見て彼は先ず落ち着かせようと肩を掴んだ。


「お、おい姫さん!? 一体如何したってんだ。教えてくれなきゃ分からねえって?」

「タスクフォースの狙いは……先生の作ってるターミナルよ!」

「ターミナルって言うと……数年前から開発が進められて、二年前から此処を中心に実装が始められている魔法士専用のサポート機械だっけか? 確か、姫さんも開発に協力してたって言ってたよな?」


記憶を辿たどりながら彼は聞く。それに彼女は頷いた。


「彼等はきっと先生の作ったターミナルと発掘されたターミナルを狙ってる……。お願いクロウ…貴方にしか頼めないの。私はSCCAから監視も受けてる。自由に動ける貴方にしか頼めないの」

「……緊急事態って事でいいのか?」

「ええ……」


見上げて彼の問いに答える。その表情は真剣そのものだった。


「……了解だ姫さん。けど、そうなると秘石の欠片を持ってる奴の方にはオレは同行は出来ないからな?」

「分かってるわ。別の人を充てておきます。だから、先生をお願いね」

「今から行って間に合うか分からねえが……。まあ、色々と考慮しながら行くか。んじゃ、姫さん。ちょいと出掛けてくるわ。あんまし根つめて倒れんじゃないぞ?」


 彼女の両肩を掴んでいた手を優しく離して背を向けて窓枠に足を掛ける。

そして、顔だけを彼女の方に向けて軽く挨拶してから彼は……十階から飛び降りた。


重力に従って落ち行く体。その途中で、彼は壁を力一杯蹴り、重力から反発して水平に跳躍して別の建物の屋上に着地。

その後も屋上から屋上へと軽々と飛んで行くクロウの姿は中央都市を守る強固な城壁の向こう――


モンスター達の住まう外の世界へと消えていった。


「お願い、クロウ……。先生をどうか守って……」


 外へと消えた彼の姿を、彼女は胸に手を当てて見つめ続けかつての恩師を頼む様に呟いた。

その時、彼女の部屋のドアが再びノックされる。


「エメローネ局長、タスクフォース総隊長様がお見えになっております」

「……そう、分かったわ。通しなさい」


直ぐに不安な顔は下がり、表情を引き締めて仕事の顔へと戻す。

そして、彼女は窓を閉めてから部屋に来る人物を迎え入れるのだった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




一方、その頃……


第三都市『コーネリア』の第三研究所では局長であるニコラス・オズワルドが机に書物を広げて独自に調査をしていた。


「まさか、あの古代遺産が封印から解き放たれ目覚めるとは……」


そして、何かを確信したように彼は呟く。

事態が深刻なものなのか、彼の表情はかなり険しいものだった。


「エメローネ君からも聞いてはいたが、先ほどの連絡で確定したな……」


今朝方来たアシュトンという少年からの通信もあってか彼は直ぐにその正体を突き止める事が出来た。


「秘石『ニーベルンゲルゲン』……。よもや、これが目覚めたとはな。つまりは、あの欠片はニーベルンゲルゲンの一部分か……」


 彼の開いているページには多角形の星の様な形をした複数の色を放つ宝石が描かれていた。

赤、青、緑、黄、紫、白、金、黒。八つの色で構成された宝石だった。


「だが、一体如何いう事なのだ……? あの封印は先人が残したものの中では最高級の強度を誇っていた筈。数世紀先まで安泰あんたいと言われる封印魔法だったのに、なぜ今になって壊れた?」


高度な技術を持っていた時代からその危険性ゆえに封印された秘石は現在の魔法学ではまず解除するにはほぼ不可能と言われる。

各属性に耐性を持つ魔力障壁も張られており、八大属性ではまず突破は不可能だ。


「いやしかし……希少属性ならば魔力障壁を突破できるかもしれん。だが、その先には豊富な知識が必要とされる」


希少属性持ちの尚且つ自分達の様な魔法学に精通している者であれば―――


「ん? いや、まて……!? 希少属性持ちの魔法学に詳しい者……!?」


それに彼は一人の人物を思い浮かべる。

その人物ならば、もしや……いやしかし、まさか!?


「まさか……君なのか?」


思わず口からこぼれる。

それが外れであってほしい事を願いつつ、彼はその人物の下へと通信を開こうとした。


しかし、それは叶う事はなかった。


「局長!! 局長、いますか!!」


ドンドンと激しくドアを叩き、続けて職員の声が聞こえる。

それに彼は、前にも似た様な事があった様な……っと軽くデジャブを感じつつ通信しようとしていた作業を中断して、ドアを開けた。


「なんだね? ドアを叩くならもう少し静かにしてくれないか?」

「す、すみません……!! ですが、火急お知らせする事が……!!」


 此処まで全力疾走してきたのか、彼は激しく息切れをしていた。

それに怪訝な表情を見せるオズワルドだったが、直後に放たれた言葉に驚く事になる。


「中央都市から、治安維持特別対策本部『タスクフォース』の一団が到着しました!」

「なに……!?」

「現在、大門より此方に真っ直ぐに向かってる途中です! 何やら物々しい雰囲気をかもし出してるとか!?」


 治安維持を名目とするタスクフォースがなぜこの様な場所に……?

そう考えていたオズワルドだったが、直ぐに彼等の目的が思い浮かんだ。


「『ターミナル』か……」

「局長、それは一体如何いう事なんですか?」

「ターミナル開発を依頼してきたのは、元々は彼らだ」


―――時は今から数年前に遡る


 SCCA本部よりオズワルドは招集を受けて数年前からこの計画は始まった。

優秀な研究員を集め、中央都市で研究がすすめられる事となる。


*この時に、オズワルドは現在各都市の局長を務めている者達、その多くと親しくなり交友を今まで深めて来た。


 開発の理由は『この組織で働く全ての魔法士の任務の安全性を高める為、より一層の研鑽を積ませ技術の向上を図り、最終的には一般の魔法を使える者にも普及できるようにする』事を目的としたものだった。


 しかし、ある事件を境に計画は一時頓挫。開発は凍結されてグループは解散となった。

だが、オズワルドはその後も計画を続け、それに参加した紅一点のエメローネと少数の職員と共に開発を続行。


 結果月日を費やしそれは完成する。現代で初めてターミナルを作り出した父となった。

補足として、エメローネは紅一点だったのでターミナルを作り出した母という事になり本人は非常に喜んでいたのは記憶に新しい。


完成したのが、研究が凍結して長い時間が経った此処最近だ。

SCCAにはこの結果を包み隠さず報告し処分を受けるつもりだった。


*この時、彼は報告書の参加者名簿に敢えてエメローネの名前を出さずに伏せた


理由としては、彼女を余計な事に巻き込んで将来を壊させたくなかったからである。


しかし、処分は下されず。その機密を厳密に保管せよとの厳命が下され、一部の者にプロトタイプのターミナルを提出するに終わった。

それからしばらくして、あの大地震が起きてほのか達がターミナルを使う事となったのだ。


「用があるのは私の方だろう。君、悪いが少し此処で待っていてくれ」


 何かを思い至ったのか彼は職員を待たせて一度部屋に戻る。

そして、暫くして再び出て来てひと束の書類を渡してきた。


「これを……。もし、フィリス君が戻って来た時に渡しておいてくれ」

「フィリスちゃんにですか?」

「ああ……。だが、もしもの時もある。もし、わしが捕まる様な事になった場合…君は裏の隠しドアからこの研究所を脱出して第二都市に連絡を回しなさい」

「えっ!?」


 突然の発言に職員は驚いた。なぜ、彼が捕まるのか?

その原因が皆目見当かいもくけんとうもつかない。しかし、言われたからには従わなければいかないだろう。


「頼むぞ」

「わ、分かりました……」

「うむ。さて……そろそろ彼等も此処に着く頃だろう。その顔をおがみに行くとするかな」


職員の肩を軽く叩いて横を通り過ぎ先に歩んで行く。

その後を彼もまた、慌てて追いかけていく。



 彼が研究所の入口に着いて相手を迎え入れる準備が整ったと同時に彼等、特別治安維持部隊タスクフォースが所内に入って来たのだ。

その彼等に向かってオズワルドは研究員を代表して頭を下げ、礼をする


「ようこそお出で下さいました。此処の研究員一同歓迎します」

「当然だね。僕が直々に此処に来たのにこれ位の歓迎をしてくれなきゃ割に合わないね」


 礼儀正しく言ったオズワルドに対して、先頭に立っていた青年が尊大な言葉で返してきた。

それには、オズワルドを除いたその場にいる研究員一同が表情を何とか保ちつつも心の中では嫌悪していた。


 何とも無礼なこの青年は腕を組んで何とも偉そうな顔をしている。

そんな彼の後ろには同様に構える部下達がいる。その彼等をチラリと頭を下げた状態から確認する。


(SCCA所属特別治安維持部隊『第七部隊』の者達か。確か、隊長の彼の名は、クラスト・シームレス。魔法共和国で五指に入る富豪家、シームレス家の嫡男ちゃくなんだったかな……?)


 シームレス家は魔法共和国内で屈指の富豪家だ。

金使いは非常に荒く、それでも掃いて捨てるほどあるという何とも羨ましく思う家系だ。


その嫡男ちゃくなんたる彼も親の姿を見て、金がある事は偉大な事であると思っている様でその力を借りて隊長格まで上り詰めたとか……。


 しかし、彼の実力は確かなものである。話によれば、彼の魔力量はAAA。

それも原因だろう、彼を更に増長させる事になったのだから始末におえない。


「して、この様な場所にどのような用件で?」

「決まってるだろ? お前の開発しているターミナルとその研究資料全部を回収に来た」


その言葉に研究員たちがざわめき出す。

まさか、彼の研究資料や開発したターミナルを回収しに来たとは思ってもみなかったからだ。

ざわめく研究員たちの中でしかし、オズワルドは至って落ち着いた表情だった。


「ふむ。ターミナルとその研究資料ですかな?」

「そうだよ。二度も言わせるんじゃないよ」

「失礼しました。何分、歳も取り始めて耳が遠くなり始めておりまして……。しかし、一体如何してこの時期に? 確か、本部では厳密に管理せよと言われた筈なのですが?」

「それが急遽変更になったのさ。今の状況はどう見ても自然災害とは呼べない事態だからね。だから、お前の作ったターミナルを使う時が来たんだよ。今あるプロトタイプだけじゃ心もとないしね」

「そうですか……。SCCA本部からの要請ならば従いましょう」

「局長!?」

「何を驚く必要がある? こういった事態に備える為に開発したターミナルなのだよ。ならば、喜んで輩出はいしゅつしようじゃないか」


元からそういった目的で開発をしていたものだ。

別に彼等が使おうと、結果的に正しい使い道に基づいた使い方をしてくれれば何も言わない。


 そう思って、彼は今まで作った非人格型ターミナルの貯蔵施設に案内しようとした。

その時、クラストは彼に顔を近づけて耳打ちする。


「で? あれはあるんだろうな?」

「あれ……と申しますと?」


それには予想外だったのか彼は本当に怪訝な表情を浮かべた。

そんな彼にクラストはニヤッと深い笑みを見せて更に言葉を綴った。


「決まってるだろ? お前の発掘したターミナルと、それを基に作ったお前のターミナルだよ」

「っ!!?」


 それには今度こそ、彼の眼が大きく見開いた。

なぜそれを!? それは秘密裏に発掘し、開発したものだ。

報告書にも載せてない極秘中の極秘の情報を……なぜ、外部の人間であるこの者は知っているのだ!?


驚愕の面持ちのままに相手の顔を見る。そこにあるのは余裕の表情、勝者の顔だった。

それを見て彼はある答えに辿り着いた。


(まさか……当時の発掘チームを金で脅したというのか!!! おのれ、いやしい真似を……金の亡者め!!)


金による権力の前に膝を屈するしかなかっただろう当時の発掘メンバーの姿を思い浮かべて彼は心の中で激しい怒りを炎の様に滾らせた。

心の内で歯軋りしつつも、表面上は平静を保とうと必死になる。


「何の事ですかな?」

「とぼけんなよ? 僕がその気になれば知らない事なんて何一つないんだよ。ターミナルの中でも最優の位を持つIPターミナルは何処だ?」

「……」

「早く言えよ。あれはね、僕達みたいな優秀な魔法士が持つべく生まれた道具だ。さっさと僕達に明け渡せ」

「……っ!!!」


それに彼は思わず拳を振りかざそうになったが、グッと堪えて何とか耐える事が出来た。


なんと……なんと傲慢ごうまんな者達だ!!

噂には聞いていたが、まさかこれ程に酷いとは……!!


金の権力とは恐ろしきものだ。あればあるだけ、人間を狂わせる。

他者を不幸におとしいれる、心を黒く塗りつぶす。


だが、問題は金だけでない。それを使う者自身の心にも問題がある。

何にせよ、こんな者達に絶対に渡してはならん!! そう心の内で結論に至った彼はついに決心する。


「……残念ですが、あれはもうこの研究所にありません」

「……はあ?」

「あれは危険なものと判断して破棄致しました。現在は、優秀で頼りになる者に任せて処分に行かせてます」


キッと鋭い視線を向けて堂々とした口調で返答する。

それに一瞬だけ呆けた顔をしたクラストだったが、次の瞬間――


「へぇ……そう。なら……おい、お前等――」


背後で控えていた部下に視線を向けてその後に、オズワルドへ人差し指で指差した。


「―――こいつを、逮捕しろ」

「はっ!!」


 次の瞬間、彼はとんでもない事を言ってのけたのだ。

それに部下達が一斉に動き出して彼を取り押さえたのだ。


「局長!!?」

「来るな!! 君達も巻き込まれるぞ!!」


事態が深刻なものになり始めているのに、彼と共に日々研鑚を積んできた研究員たちが駆け出そうとした。しかし、それに彼は声を上げて止めさせた。


「虚偽容疑と特別緊急通達無視の容疑で逮捕ね」

「そんな報告、通ると思うか?」


鋭い眼つきで睨むオズワルド。

そこには先ほどまでの穏やかな様子は一切ない。

まるで、優しく包み込む風が……人の歩みを拒む荒れ狂う暴風雨へと変化した様だ。


そんな彼の睨みに一瞬だけ怯んだものの、クラストは勝者の顔で語った。


「通るさ。IPターミナルを命令通り渡さない事がまず緊急通達を無視した事になる。それと、破棄したっていうのも虚偽の事実だろ? ホントは何処かに隠してるんだろ!?」

「あれは、おぬしには使いこなせぬよ……。あれは、持つべき者が持つに相応しい」

「そういうのは後で聞いてやるよ。おい、連れていくぞ。お前等は研究資料と此処最近の通信情報を探しな。それで、IPターミナルを持ってる奴の足取りを調べる」

「はっ!!」


それに部隊が二つに分れ、半数がクラストと共にオズワルドを連れて研究所の外へと連行していく。


「局長!!」

「後は頼む!! 自身が何を成すべきか、それを考える時だ!!」


それを最後に彼は外へと連れて行かれた。理不尽な現実に腹が立つ。

そして、それを生み出した彼等を研究員たちは敵意を持って見るが、部下の彼等は全く気にしている様子はなかった。


 これが……治安維持だというのか!! これが、許されるべきなのか!!

怒りに燃える彼等だったが、その脳裏に尊敬する男性の姿が浮かんでその言葉が再びリフレインする。


「おい、さっさと案内しろ。我々は、こんなゴミ溜めに長くはいたくないからな」


 偉そうな顔で言う彼等を見て、寧ろ研究員たちの頭は冷静さを取り戻していく。

局長の言うとおり、資料は渡そう。しかし、自分達はただでは転ばない!!


 一同は互いの顔を見た後に頷き、彼等を更に半々に分けてそれぞれ案内させる。

資料は纏めて何時も保管しているので特に漁る必要はなく直ぐにそれを見せる。


それに意識が集中している間に、案内していた研究員の一人がその場から抜け出して急いで情報管理室へと駆ける。

そして、情報管理室に入ったその者は急ぎ通信系統を管轄している部屋をモニターし状況を確認する。


そこに、通信系統の管轄かんかつをしている部屋に部下の半数を連れて研究仲間が入ったのを確認、その者達と目が隠しカメラ越しに目が合う。


「見てろよ……。あんた等が言うゴミ溜めに住む人間の底力を見せてやるよ」


指をポキポキと鳴らしてから指の柔軟をして、彼は情報管理室に備えられている電子キーを起動。

宙に各管轄の情報が出てきた。


そして――物凄い速さでキーを叩き始めた。


 実は彼……この研究所では有数の情報操作のプロフェッショナルだ。

一昔前に、ハッカーをやっていた時期があってその実力をオズワルドが見抜き、此処に抜粋した。


相手がどんな経歴だろうと、手を差し伸べ自分の下に引き込む。

それが、オズワルドという人物の最強の武器だった。


彼の操作の効果は直ぐに現れた。

通信系統を管轄しているところで調べ物をしていた隊員たちのモニターに突然、大量の赤いエラーが出て来たのだ。


「な、なんだこれは!?」

「い、いけません!! これは……またハッキングを受けてます!!」


 それに同僚達が息を合わせて演技を始める。

迫真の演技で血相を変えた職員達を見て彼等が声を荒げた。


「なんだと!? 如何いう事だそれは!!」

「此処はオズワルド局長がいる有名な第三研究所。その情報を盗もうと、毎日の様にこういったハッキングがあるんです!! 早く解除しないと全てが持ってかれますよ!!」


それでは此方の知りたい情報も持っていかれるのかもしれないと思った隊員たちは急いでウィルスの排除を始める。しかし、排除する速度よりも倍の勢いでエラーの文字が出て来て処理し切れなかった。


「ええい、くそっ!!」

「何をしてるんですか!? 早く除去しないと完全掌握されますよ?」

「だったら貴様がやれ!!」


業を煮やしたのか彼等は全員投げ出して研究員たちに任せた。


これを待っていた彼等は、直ぐに座って隊員たちよりも速い指遣いでキーを叩いて次々に除去――――していると見せかけて、過去の通信履歴を削除していた。


 実はこのエラー……唯の見掛け倒しでコンピュータ事態に全く影響を与えない代物だ。

画面上がエラーコードで一杯に埋め尽くすだけという悪戯心で出来ているもので、目晦まし程度の効果しかない。


 故に、操作事態は何の問題もなく行えるのでエラーコードに隠れて彼等は一斉にIPターミナルを所持している少女達――ほのかとフィリス達の情報を全て削除していく。


 ついでに、他の情報も別の端末へと移動させて恰も全ての情報を持っていかれた様に見せ掛けた。そして、最後のエラーコードを解除して彼等は大きく息を吐く演技をする。


「排除完了……」

「おい、情報は如何した!!」

「残念ですが……対応が間に合わず全て持っていかれましたね」

「ちっ、役立たず共め!!」

「おい、如何する? これじゃあ、何の情報も掴めないぞ?」

「こうなったら仕方がない。おい、貴様らには後で事情聴取があるからな。それまで、此処で大人しくしてろ!!」


そう言って彼等は靴音を鳴らしながら一度部屋を出ていった。

それを見計らって、研究員……オズワルドよりある書類を任された研究員が動き出す。


「今がチャンスだな。俺は、これをフィリスちゃんに渡しに行く」

「気をつけろよ? 外は危険なモンスターで一杯だ」

「ああ、けど大丈夫さ。局長の為にも、俺は何としてもこれをフィリスちゃんへ届けるんだ」

「今、情報管理室にいるあいつにも逆探知をされない程度で局長の知り合いに向かってランダム救難信号を送らせる。けど、情報の網を潜って送るから誰かに届くのは何時になるか分からない」

「気を付けてね?」

「ああ、任せろ!!」


 同じ研究所で働く仲間達に見送られ、彼は局長室へと上手く隠れつつ侵入。

そこから局長の仕事机の下を動かして隠し通路を開き、飛び込むと同時に閉じる。


そして、研究員は誰にも気づかれる事なく外へと脱出してフィリス達のいるだろう第二都市に向かって先を急ぐのだった。



「参ったね……最悪の事態が起きちまったか」


それと同時刻、研究所から連れていかれるオズワルドの姿を大木の影からある人物が見ていた。


「姫さんの予想は的中か……。この後、如何するか……」


思案顔になる男……クロウは眼下にいる一団を見つめながら今後の行動を計算する。


「まっ、見捨てるって事はないな……」


そして、結論を見つけた彼は再び姿を消したのだった。



新キャラ続々登場。


不穏な動きを見せるタスクフォースの一部隊。

捕まってしまったニコラス局長。


SCCAという大規模な組織になると流石に一枚岩とまではいかなくなるようです。


恒例のキャラの暴走でこのような事態に……。

ニコラス局長は実は現代ターミナルの開発の創始者だったという事実。

そして、『オーパーツ』と呼ばれる太古の遺産の一角、秘石ニーベルンゲルゲン。


多数の伏線が今回出てきました。

全部回収できるかどうか不安です……。


それでは、今後とも宜しくお願いします。


では(゜∀゜)ノシ!!


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