第十三話 光の魔法少女と雷の魔法少女
十三話更新。
二人の少女は夜空を舞う。
暗き闇夜を彩る桜と金の光。
果たして勝敗やいかに!
では、本編をどうぞ!!
夜空に奔る金と桜色の閃光。
暗い世界に煌めく星達よりもなお明るく輝くそれ等が空を彩る。
空を飛び交うのは二人の少女だった。
一人は白い服を基調としたマジックアーマーを身に纏い、桜色の魔力で出来た小さな翼を両手足首に生やしている。
その手に持つのは赤い宝石がはめ込まれた杖でそれをもう一人の相手へと向ける。
「シャインバレット、シューット!!」
幾つもの魔力弾が放たれる。
しかし、相手は身を捩じる事でかわし逆に彼女に向かって金の魔力弾を形成し展開した。
「貫け、サンダースピア……」
放たれる金の弾幕。それをほのかも上手く身を捻りかわす。
彼女の相手、金髪のツインテールの少女は全身を黒を基調としたマジックアーマーで統一しており、動きやすさを求めたのか所々肌が露出している部分があった。
スカートも短めに出来ていて太腿が露わになっている。
しかし、それに見合うだけの速さと運動性を彼女は見せていた。
飛行速度は明らかにほのかを超えており、幾ら振り切ろうとしても彼女はピッタリとほのかの背後を付いてきた。
(速い……!!)
その様子を首だけを動かして見て思った。
自分と同じくらいの歳なのに……その実力は遥かに高かった。
複数の雷槍が展開されて一斉に放たれる。
それを身を捩じってかわした後に反撃の魔力弾を放つ。
しかし、彼女は華麗にその攻撃を避けて距離を取ろうと速度を上げるほのかの後を追尾し続ける。
建物の間を二人は高速で飛び交い、魔力弾の応酬を続ける。
「シャインバレット!!」
「アクセラレート……」
ほのかが魔力弾を再び放つと同時に少女は魔法を発動。
彼女背後で戦乙女の紋章が展開される。
彼女の姿が一瞬で背後から消える。
目標を失った魔力弾が何もない空間を飛び抜ける。
そして、次の瞬間にはほのかの進行方向の前に少女は姿を見せたのだ。
「ふえっ!?」
何時魔にか自分の前にいる彼女に驚く。
そのほのかに向かって彼女は容赦なく金に輝く刃を持つ剣を振るってきた。
咄嗟に魔法障壁を張って防御。接触個所で激しい火花が散り、激突する。
「つっ……くぅっ!?」
(……堅い)
[シャインバレット]
衝撃に歯を食いしばるほのか、その彼女の張る障壁はしかし、一向に壊れる気配はない。
予想以上に彼女の張る魔法障壁の堅牢さに少女は内心驚いていた。
マスターであるほのかを助けようとウィルが自動詠唱で魔力弾を生み出して相手に向かって放つ。
直ぐにほのかから離れて攻撃を回避してほのかの張る魔法障壁を分析する。
「高レベルの防御魔法……それも、全方向を守れる万能タイプ」
[属性解析完了。あの子の持つ属性は『光属性』の様です]
「そう……」
[少々厄介ですね。マスターと同じくレア属性、それも他の属性を負かす光属性とは……]
「問題、ない……。勝負は、属性だけじゃない……」
彼女の言うとおり、戦いとは属性で全て決まる訳ではない。
例え弱点である属性相手でも戦い方で勝つ事も可能だ。運も入るだろうが、それでも必ず負けるという事はまずない。
「相手も……ターミナル持ち」
[その様ですね。先ほどの魔法、あの子が詠唱したものではないでしょう。恐らく、私と同じく自動詠唱の出来る存在……ターミナルである事に違いないかと]
高レベルの突破しがたい防御魔法に光属性。それだけでも十分に厄介な存在だろう。
一方、ほのかの方も彼女を防御魔法を解除して見つめる。
「すごい速い……」
[属性解析完了。あの子は同じレア属性、その中の『雷属性』持ちです]
「電気なの?」
[そうですね。マスターの方が属性では有利です。ですが、油断してはいけませんよ?]
「うん、分かってるの」
前に教わっている。属性はあくまで勝つ為の一つの要素に過ぎない。
その他の要素も合わさる事で初めて勝利に繋がるのだ。
そう思っていると、相手が魔力弾を飛ばしてきた。慌てて身を捻じって回避、再び空戦を再開する。
少女が高速で接近してきて剣を振るう。
それをほのかは後方に下がる事でかわし、下がりつつ杖を相手に向けた。
「輝いて、光の砲弾!! ブライトキャノン!!」
圧縮された一発の魔力弾が発射される。
通常の魔力弾とは違って威力、移動速度共に大幅に上昇している。
「っ!!」
飛んでくる砲弾の様な魔力弾に少女は驚いた表情を見せる。ほぼ反射的に体を捻ってそれを回避する事に成功する。
外れた砲弾に近い魔力弾は建物に着弾し、大爆発を起して建物に大穴を開けた。
それを見るだけで、目の前の少女の持つ魔法の攻撃力の高さを感じ取る。
当ったら危なかった……。
内に秘めている魔力量の大きさに冷や汗を掻きつつも少女はほのかから視線を外さない。
両者の背に女神と戦乙女の紋章が大きく展開され、二人の体を桜と金の輝きが包み込み二つの閃光となった彼女達が空を駆ける。
「あなたは……一体!?」
「…………」
激しく空戦を繰り広げる二人。
しかし、素人目から見てもほのかが明らかに劣勢だった。
放つ魔力弾は悉く外れ、隙を突かれては防御魔法で受けるを繰り返していた。
もともと戦い方すら知らない彼女は戦略すら持っていない。
兎に角、目の前の少女を止める事しか考えていない。
だから、放つ魔力弾は魔力配分も考えないムラの多いもので消費量は此方の方が大きなものだった。
逆にツインテールの少女は冷静に状況を見ながら魔力配分を考えて行使しているのかほのかと違って疲れている様子は見受けられない。
動きの鈍ってきたほのかを見て好機と考えた少女が高速移動で接近してきて剣を振り下ろす。
それにほのかは防御魔法を展開して受け止めた。
「つっ……!?」
魔力が少なくなってきて守りの壁にも綻びが生まれる。
薄い所を叩かれ彼女の表情が苦虫を噛み潰したようになる。
それを見逃さなかった少女は、持っていた剣に魔力を通した。
バチバチと飛ぶ火花の量が多くなってきてほのかの体が僅かに押し返され始める。
「アクセラレート……」
そして次の瞬間、高速移動魔法を発動。
ほのかの反応速度を超えた速さで視界から掻き消え、距離を一度とる。
死角より一気に距離を詰め、頭上をとった彼女はフォルテを振り上げる。
刀身に雷が纏い、輝き迸る。
そして、目を見開いて此方を見上げる少女に向かって――
「レイジングスマッシュ……!!」
全力で振り下ろした。
彼女の強固な守りが……砕け散った。
「きゃああああああぁぁぁぁぁ!!?」
防御壁が砕け、爆ぜる。その衝撃を諸に浴びてほのかは空中から墜落、地面に落ちた。
「あぐっ!?」
全身に来る衝撃に痛みが襲う。
大部分をマジックアーマーが受けてくれたのだが、それでも衝撃全てを吸収は出来なかった。
揺らぐ意識の中、彼女は自分の前にゆっくりと降り立つ少女を見上げる。
「あなたは……誰、なの……?」
消えゆく意識の中、せめてもと彼女は少女の名を問う。
それをジッと見下ろして見ていた彼女がその小さな口をゆっくりと開いた。
「…リースリット……。リースリット・ピステール……」
その言葉を最後に、ほのかの意識は暗転し思考は途絶えたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目の前で倒れている少女の様子を確認する。
ピクリとも動かないが、如何やら気を失っている様だ。
その事に小さく息を吐いてホッとする。
二人の少女を倒した少女こと、リースリットは背を向けて放置していた欠片の下へと向かう。
そして、それに手を伸ばそうとした時だった。
「ほう、この二人を倒したのはお前か?」
「っ!!」
突然、背後より声を掛けられてビクッと体を震わせて素早く振り返る。
そこにはさっきまでいなかった人物がいた。
倒れている少女二人を壁際に置いて容体を確認している人物。
此方に背を向けている者と、自分を睨みつける何とも弱そうな男子がいたのだ。
「息はしてるか……。気絶だけさせてるのは大したもんだ」
そんな評価を下して来る者。声からして恐らくは男性。
全身を覆える黒のロングコートを着こんでいて、まるで自分と同じく闇夜に紛れる恰好だった。
そんな事を一瞬だけ思ったあとに、彼女はふと気付いた。
――この人達は、如何やってこの中に入ったのだ?――
封鎖結界、または封鎖魔法は外部との空間を遮断する魔法だ。
つまり、内部から使用者が解除しない限りは外界との空間は断裂した状態なのだ。
外部から侵入するには、結界自体を力技で砕くか、それ以上の技術を持って侵入する以外にない筈。
だというのに、彼等は壊す事も解除する事もなくこの内部に侵入しているのだ。
「だ、れ……?」
緊張で声が若干裏返る。感じ取れる魔力はそこまで高くない。
だが、そうだというのに自身の本能が警鐘を鳴らしていた。
この人は……危ない、と……。
少女の質問に、背を向けていた男性は今、気付いた様な声を出す。
「あ~、そういや質問するには先ず自分から名乗んのが礼儀だったな」
ゆっくりと立ち上がる男性。それが此方に振り返った。
「あ……」
その顔を見た時、少女は少なからず鼓動が跳ねた気がした。思わず声が零れる。
血の様に真紅の髪を持ち、満月の様な綺麗な金色の目を持った男性が立っていたからだ。
その金色に輝く眼は見る人を吸い込む様な気がして、実際彼女もそれから目が離せなくなっていた。
闇より深い黒の服を着こんでいる事がそれをより強調させていて彼女はその瞳に魅入られていた。
(綺麗……。お月様みたい……)
「俺の名はバルドだ。フリーの冒険者をやってる。姓はねえから好きに呼びな。んで、質問だ。こいつ等を倒したのはお前か?」
「…………」
「だんまりか……。ってことは、肯定って事でいいな?」
それにハッとなって慌てて意識を集中させてバルドの問いに対して無言を貫く。
一瞬だけ、相手の眼に意識を持っていかれたが再び彼女は油断無く構えた。
(隙がない……)
ただ、目の前にいる男性は体から力を抜いている状態だというのに一切の隙が見えない。
その眼はまるでこっちの意図を読んでいる様な気さえしてきた。
「まあ、このチビッ子どもがやられたのは当然としてだ……」
「そ、そんな事言っていいの!?」
バルドという男性の言葉に隣にいたひ弱そうな眼鏡の少年が驚いた表情で声を上げた。
「ああ? 当然だろお前。こいつ等はドが付く素人だぜ? 負けんのは当たり前だろ」
「少しは心配したらどうなのバルドさん!?」
「心配はしたさ。けどまあ、こうして生きてんだ。それだけで十分だ。つーか、人との約束破ったこいつ等が悪い」
気絶してる二人に向かって指を指して平然とそんな事をのたまう。
仲間じゃなかったのか……?とリースリットは疑問に思ってしまった。
「まあ、それは置いておくとしてだ……。お前は、その欠片が欲しいのか?」
「…………」
青い欠片を見てから彼女へと問いかける。
だが、彼女はそれにも答えようとはしなかった。
警戒の色が濃い彼女は低く身構える。何時、何が起きても素早く対応しようとする。
もしもの時は、目の前の二人を相手に戦って何としてでも振り切って逃げるだけだ。
そう考えてフォルテを強く握りしめて意識を集中させる。
「欲しいならくれてやるよ」
「……え?」
しかし、返って来たのは予想外の答えだった。
自分の思っていた返事とは真逆の言葉に彼女は目を丸くした。
「いい、の……?」
「ああ、いいぞ」
聞き間違いかと思って再度聞いてみるが、返って来たのは同じ返答だった。
そんな彼の返答に隣の男子も驚いたのか声を上げて見上げる。
「バルドさん!? あれは危険なものじゃないの!? 渡しちゃっていいんですか!?」
「じゃあ聞くが。此処であれを巡って戦うとしよう。その時、必ずどっちかが倒される事になるぞ? その時、誰が三人を介抱する気なんだ? いや、違うかあの子も混ぜて四人か……」
「そ、それは……」
「俺は嫌だからな。面倒くせえし……。つーか、四人も担げるかっての」
理由は単純明快。面倒だから……。
その理由にリースリットも力んでいた力が一気に緩む形となった。
「本当に…いいの?」
「何度も言わせんな。別にくれてやるから早く何処かに行きな。早くしねえと……めんどくせえ軍勢が来るぞ」
彼の言うめんどくさい軍勢、それはSCCAの事だろう。
確かに、追いかけ回されるのは面倒である。
「ん……」
SCCAのことは知ってるだろう。短く答え、少女は青い欠片を手に取って彼等から背を向ける。
その彼女にバルドは思い出したように声をかける。
「ああ、そう言えば……。お前の名前を聞いてなかったな。名前はなんて言うんだ?」
「リースリット……。リースリット・ピステール……」
「リースリットか……。いい名だな。大事にしろよ?」
「ん……」
「そんなリースリットに最後にもうひとつ質問だ。その欠片、何ていう名前か知ってるか?」
小さく首を縦に振る。
そして、瑞々しい小さな口を動かして彼女はその名を語った。
「秘石『ニーベルンゲルゲン』……」
「ニーベルンゲルゲンか。オーケー、分かった。ありがとうな、リースリット。道中は気をつけろよ。その欠片を狙ってめんどくせえ奴等が動いてるからな」
「…………」
「また会う時もあるだろう。その時は、まあ仲良くしてやってくれ」
「…………」
それには何も言わず少女の姿は掻き消える。
彼女の反応が消えると同時に張られていた封鎖結界は解除され、元の空間に戻って行った。
「さて…と。スヤスヤ眠ってるトラブル娘をさっさと連れて帰るとするか」
そんな事を言って彼は二人を担ぎ、研究所の方へと向かう。
それにアシュトンも同行し、その日はそこで一夜を過ごす事になるのだった。
かくして、都市全体を混乱に陥れたモンスター襲撃事件は幕を閉じ。
都市全域に張られていた緊急避難勧告も遅れて解除される事となった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
長き夜が終わりを告げ、朝日が昇る。
命に目覚めを与える光は大地を照らし、空に広がる闇を消しさる。
昨晩の襲撃の後、都市内には大量の水が入って来て半分以上の建物が床上まで浸水。
排水作業が行われる。その後の調査で川の水位も下がり、噴水の異常も検知されなかった。
負傷した警備担当をしていた隊の部隊長の情報などから、これまでの異常現象は全てあの巨大モンスターの仕業と断定、それの調査が始まる事となった。
「んん……」
朝日が第二魔導研究所の一室に入り込んで、そこにあるベッドに寝かされていた少女の顔を照らした。
眩しさに閉じていた瞼がゆっくりと開く。
「あ、れ……? ここ、は……?」
「よお。目が覚めたか?」
その声に首を動かして横を見ると、椅子に座って何やら難しそうな本を広げて読んでいるバルドの姿がそこにあった。
「バルドさん……?」
「起きなくてもいい。そのまま横になってな」
持っていた本を閉じて脇に置いてから彼は椅子を引いて彼女の隣に座りなおした。
反対側を見てみれば、自分と同様にフィリスが安らかな寝息を立てている。
それを見て昨夜の出来事を思い出した。
「私達……どうなったの?」
「一言で言えば、こっ酷くやられて仲良く気絶ってところだな」
「そう……なんだ」
あの子、リースリットと言った少女との戦いに負けて自分も気を失った事を今になって分かった。
圧倒的な速さと機動性を誇る彼女に自分は何も出来ずに敗北したのを実感した。
「あの子……」
「ん? ああ、リースリットとかいう奴か?」
「うん……。リースリットちゃん、すごく速かったの。私……全然追い付けなかったし振り切れなかった」
「まあ、あいつは見たところ『雷属性』だからな。この手の属性は機動力と速度は他の属性の追随を許さねえからな。実質、雷属性は全属性の中でもトップクラスの速さを持ってる。運動神経ドベのお前にはまず付いてけねえだろうな」
『雷属性』は、総じて機動性などが他の属性よりも高い。
更に火属性には劣るものの火力も高く攻撃力も高い。
バルド曰く、雷属性は理想的アタッカーらしい。
ただし、その速さを求めるあまり他属性よりも基礎防御力が低く打たれ弱いのだという。
また、地属性や相反する水属性の相手には相性が悪く弱点属性らしい。
確かにリースリットの見た目は守りが薄い感じがしていた。
素肌の見える個所が多く、軽装な感じからして彼の言う事は正しいのだろう。
「向こうは実戦経験があったみたいだしな。経験浅いお前等には勝てる相手じゃなかったな」
「あの、バルドさん。欠片は……?」
ふと、あの青い欠片の事を思い出して行方を聞いた。
しかし、彼は首を横に振って持っていない事を主張する。
「残念だが、あれはあいつにやった。お前等の安全を確保する為にもその手が良いと思ったからな」
「そう、なんだ……」
[ちなみに、一番の理由が手に入れた後の事後処理がめんどくさいってのが主な理由だったりするぜ?ウヒャヒャ―ブルァ!?]
「いきなり湧いて出て来てくんな、殴るぞ?」
[な、殴ってから言うんじゃねえよ……]
虚空より姿を見せ、余計な一言を言ったケルベロスがまたもバルドに殴られて沈黙する。
そんな光景に苦笑い。それから暫くはその後の街の様子などを聞いたりした。
幸いにも被害は最小限で収まったらしく、船着き場周辺が大型モンスターとの戦闘で大打撃を受けたが民間人に被害は出なかったらしい。
そんな話をしている内に隣で眠っていたフィリスも目を覚まし、ほのかと同様の事をバルドは話した。
それから暫くして、部屋のドアが開いてアシュトンが入って来た。
「あ、アシュトン君……」
「ほのかちゃん、目が覚めたんだね? よかった……」
彼女が無事に目を覚ました事にホッと息を吐く。
その後に、彼はバルドに顔を向ける。
「バルドさん。言われたとおりに第三都市の研究所に連絡は入れて来たよ」
「おう、サンキュー。悪いな、知らねえ研究所さ代わりに連絡させてよ?」
「あはは……。最初、連絡を入れた時、“誰だこいつ?”みたいな顔されたよ……。その後にバルドさんの名前を言ったら局長室に回線を回してくれたけどね」
「あの爺なら何か知ってるだろう。直ぐに返答が来ると思うぜ?」
「ふえ? バルドさん、何を連絡したの?」
首を傾げてキョトンとする二人を見て、彼はそう言えばまだ話していなかった事を思い出した。
「ああ、あの欠片の名前が分かったんだよ」
「えっ!?」
「それ、本当なの!?」
その話に二人は驚いて彼の方を見つめる。
それに彼はゆっくりと頷いた。
「ああ。なんでも秘石『ニーベルンゲルゲン』って名前らしいぞ」
「ニーベルンゲルゲン?」
変な名前だ、とほのかは心の中で素直な感想を思った。
しかし、そんな彼女とは逆にフィリスは何かを考える仕草を見せた。
「フィリスちゃん。どうしたの?」
「ニーベルンゲルゲン……? 何処かで聞いた事ある様な……?」
「なんだ? 知ってんのか?」
「うん。けど、こう…喉までは出かかっているんだけど思い出せないんだ」
何か重要な物だった様な気がするのだが……。
如何しても思い出せなかった。
う~~んっと暫し唸っている彼女にバルドはポンッと頭に手を乗せた。
「まあ、無理に思い出さなくてもいいんじゃねえか? 重要なもんならその内思い出せるだろ」
「そう、かな……?」
「そういうもんだ。それよりもだな……」
突然、彼の纏う雰囲気が重くなる。その重圧に二人はビクッと体を震わせた。
そんな彼女達をバルドは椅子から立ち上がって見下ろして来る。
「昨日はよくも約束を破って勝手な行動しやがったな……?」
「え? ……あ」
此処に来て、漸く自分達が取った行動を思い出した。自然と冷や汗が出て来て背筋が冷える。
その彼女達の様子を見逃さなかったバルドは低い声で話しかけてきた。
「その様子を見るに、今思い出したみたいだな?」
「え、えっと……にゃははは」
「あ、あははは……」
最早、乾いた笑みしか浮かばない。
今、自分の前には夜叉が…般若がいる。
これから起こるだろう未来が容易に想像できた。
だから、ほのかは出来る限り涙目に上目遣いで彼を見つめた。
「や、優しくしてなの……」
「うるさい黙れ。昼まで少し時間があるからな。覚悟しろよ……」
残念。
ほのかの最終手段は彼には通じなかった。
結局、彼女達は小一時間ほどバルドにこっ酷く叱られる事になる。
一時間ほど過ぎて……漸くバルドの説教は終わりを迎えた。
「うにゅ~。また怒られたの……」
「嫌なら勝手な行動をすんな」
怒られて落ち込むほのかにさらりとそんな事を言い放つ。
それにはムッとして頬を膨らませてバルドを見るが、彼はそんな彼女の睨みを何処吹く風といった感じでスルーする。
「まあ、こんな冒険ももう終わりだ。今日の昼には船で帰るぞ」
「うん……」
何気なく言われたそれに彼女達は一気に気持ちが沈んだ。
もう、こんな風に旅をするのも終わりなのかと……。
「でも、バルドさん……。まだ、この欠片の事、何にも分かってないの」
「それなのに、私達が投げても…いいのかな?」
引っ掛かるのはそこだった。
中途半端な形で終わらせてしまうのが、彼女達にとっては心残りだった。
そんな彼女たちのは分からなくもない。しかし、それとこれとは別なのだ。
「あのなあ……。俺は確かに調査と護衛を任されたけど、その依頼は洞窟までだったんだぞ。それが此処まで延びたのは俺の失態でもあるから文句は言わねえけどよ……。本当なら、お前等はもうとっくに家に帰っている頃なんだぜ?」
「それは分かるよ。でも……」
「こんな中途半端じゃ、終われないの……。それに、あの子とも…もう一度会いたいの」
あの子、リースリット・ピステール。彼女は如何してこの欠片を集めているのか?
如何して自分達と同い年なのにこんな危険な事を単独で行ってるのか?
知りたい事は山ほどある。でも、尤も重要なのはそれではない。
ほのかから見て、彼女は何処か寂しそうに見えた。
まるで――
過去の自分に重なって見える。
しゅんとする彼女を見て、バルドは彼女が何を考えてるのか察しが付いた。
彼女とはそこそこ関わりを持っている彼は、彼女の二~三年前の出来事を知っている。
虐めを受けて一人ぼっちだった自分と、一人で危険な戦いをしているリースリットを重ねてしまったのだろう。
だから、このままで終わりにしたくないとでも考えている。
彼としてもその気持ちは分からなくないでもないが、しかしこれ以上ほのかとフィリスを危険な冒険には付き合わせる訳にはいかないのだ。
今はまだ最底ランクのF級モンスターが殆どだからいいものの……これがB級、A級ともなれば危険度は数倍に跳ね上がる。
そんな場所に実戦経験もなく、それどころか喧嘩もした事もない彼女達を連れていくのは危険すぎるのだ。だから、まだ安全な内に彼女達を故郷へ帰してやりたいと思っていた。
しかし――――
彼のその願いは、脆くも崩れ去る形となった。
トントンと部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「誰だ?」
「私です。局長のオルソンです」
局長自らが足を運ぶとは……。予想外の出来事にバルドは軽く目を開く。
入ってもいい旨を伝えると、ドアが開いて確かにオルソンがそこには立っていた。
「少し、時間はよろしいですか?」
「ああ、いいぞ。丁度、説教も終わって船に乗る準備をさせようと思ってたところだ」
「その船についてお話があるのですが……」
「あ?」
何やらバツの悪そうな顔を見せる彼に、バルドだけでなく他の三人も首を傾げた。
口を開いたり閉じたりを繰り返した後に、オルソンは意を決したように言葉を発した。
「その……船は出せなくなったんです」
「…………は?」
一瞬、何を言ってるのか理解できなかったバルドはポカンと口を開けた。
バルドが普段見せない表情に、ほのかは笑いそうになったが必死に堪える。
稍あって彼は思考回路を正常に戻した様で、事の詳細を聞いた。
「如何いう事だよ?」
「昨晩、強力な魔力を有するモンスターがいましたよね?」
「ああ、いたな。それがどうしたんだ?」
「如何やら、そのモンスターが暴れた際に定期船が縦に真っ二つにされたらしく……船は沈没、回収及び修復には数カ月の時間を要するという訳でありまして」
*詳しくは前話のリースリットとノーディアスの戦闘を参照。
「つまり、船には乗れないと?」
「そうなりますね」
そこまで聞いて一時、静寂が部屋を包み込んだ。
そして、バルドは何を思ったのかスッと立ち上がって窓の方へと歩きだす。
その様子を一同は見守っていると、彼は徐に窓のカギを外し開ける。
そして、大きく息を吸って――――
「ふっざけんなーーーーーーーー!!!」
都市全体に響く様な大声で叫んだのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「此処に来て船に乗れねえとか、有り得ねえだろ……」
暫くして落ち着いたバルドが椅子に力なく座って頭を抱えていた。
まあ、その心中は尋常ではない心労があるのを察しておこう。
「徒歩で山を登って第三都市まで行くか……?」
[相棒、あの大地震の後に山登りはちょいと危ねえんじゃねえか?]
[崖崩れの可能性もあります。それに道が寸断されている可能性も……]
「畜生……。別の移動手段を考えねえといけねえのかよ……」
ぐったりとした状態のバルドがほのかのベッドの方に頭を落とす。
ぼすっと間抜けな音が何とも彼の苦労を嘲笑っている様にも聞こえる。
そんなバルドの苦労を察して、ほのかが自身の前に落ちている彼の頭をそっと撫でてみた。
「……なんだよ?」
「え、えっと……疲れてそうに見えたから」
「あんがとよ~……」
力なく返事を返す。それから暫くして、彼は漸く回復して体を起した。
「しょうがねえな。他のルートを使うか……」
「他にあるの?」
「ああ、中央都市に行く」
「中央都市に?」
思いもよらない答えに彼女達は首を傾げた。
その彼女達にバルドは次の提案を口にしたのだ。
「中央都市から高速列車に乗って第三都市に行く」
「……列車?」
中央都市からは各都市に向けて列車が走っている。
レールとその周囲は全てモンスター除けの魔法式が施されていてモンスターによる事故をなるべく減らそうとしている。
実際、効果はそこそこで安全性は保証はされている。
しかし、国からは完全な安全が確保できない事から利用本数は極力少なくせよと言われているようで、未だに本数は少ないのが現状である。
「列車に乗るの?」
「ああ、じゃねえと他に思いつく事がねえんだよ」
「でも、確か運賃は安くなかったはずだけど……?」
「まあ、今のポケットマネーじゃ無理だな。金下ろさねえと無理だ」
現在、高速列車は多くの車輌の中で一番早く目的地に着ける乗り物として知られている。
それ故に運賃はかなり高めだ。
そんな発言を聞いて、彼女達は改めてバルドが金持ちなのだと実感する。
流石は冒険者……。
危険な仕事をしている分、その見返りは大きいという事なのだろう。
「さてと……それじゃあ中央都市が次の目標場所になるな」
[出発は明日にしようぜ~。ほのかの嬢ちゃん達にも色々と準備があるだろうしな~]
「え?」
「それって……!!」
「ふぅ~……。まさか、此処に来てまだこいつ等と冒険を続ける事になろうとはな……」
諦め半分で言う彼を見て二人の顔が一気に明るくなる。
まだ、冒険を続けられる。まだ、一緒に旅を続けられる。
それが嬉しかった。
「ついでだ。アシュトン、お前も来いよ。魔術大国まで行くには中央都市を使わねえといけねえんだろ? おまけでその護衛もやってやるよ」
「あ、ありがとうございます!!」
「気にすんな。この二人を連れて帰る序だしな」
なんて事ないといった感じで彼は手を振って応える。
かくして、第二都市から今度は中央都市に向かう為に彼等はその道筋を探る事になるのだった。
新キャラ。その名も『リースリット・ピステール』です。
得意属性は雷で、非常に高速で移動可能。装甲の薄い装備なので防御は低いですが、それでもお釣りが出るほどの速さと高い攻撃力を持ってます。
欠片を集める目的は現在のところ不明。
そんな新キャラにほのかは撃墜されてしまいました。
まあ、初めはそんなものでしょう。
そして、欠片の名前が判明しましたね。
定期船で帰ろうかと思ったら先の戦闘で船が沈没、帰れなくなりましたww
結果、今度は中央都市に向かってそこから列車に乗って帰るという選択に……。
ほのか達の冒険は、まだまだ終わりそうにはないようです。
今回はちょっと急ぎ過ぎたかな?
それでは、今後とも宜しくお願いします。
では(゜∀゜)ノシ!!




