表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/97

第十一話 襲撃

十一話更新。


夜が深くなる時間帯。

静かなる水面より、敵はやって来る。


遅れに遅れて十一話を投稿します。

では、本編をどうぞ!



夜も深くなり始め、住宅の明かりも消え始める頃――

船着き場周辺ではSCCAの一個小隊が川の警戒にあたっていた。


「今日は月が明るくて警備がしやすいな」

「だな。雲も一つもないし、これならモンスターも発見しやすいってもんだ」


月の光で水面が透けて見える。

今日は一段と月の輝きが強くて街の明かりが殆ど落ちた時間だというのによく見える。


これなら向こうもそう簡単に此方へ攻め込む事はないだろう。

そんな風に思っていると、人とは気が緩むというもの。意識せず、彼は隣の仲間に声をかけた。


「にしても……。最近のモンスターの活動の活発化は異常だな?」

「第二都市の方じゃ、空から隕石が公園に落ちて来てそこから火を吐く獣が出たらしいぜ?」

「なんじゃそりゃ? 唯の噂じゃねえのか?」

「そうでもなさそうだぞ。実際に見たって人がかなりの数いたらしいし」

「マジかよ……。隣の都市だけに少し不安だな」


身震いする一人の隊員。それに相方の隊員は笑って話す。


「まあ、こっちにはこないだろ。むしろ、単体のそれよりも数で攻めてくる水棲モンスターの方が来ないでほしいぜ」

「だな」

「こらっ、お前達!! 喋ってないで警備に集中しろ!!」

「「す、すみません!!」」


隊長からの叱責に頭を下げ、慌てて警備に集中する。一応、交代は二交代制なので休憩は入る。

ただ、ずっと立ちっぱなしなので足が疲れるのは当然の事だが……。


そんな感じで見張りを続ける隊員達。相変わらず水面は穏やかに揺らめいているだけだ。

だが、彼等は一つ大きな間違いを犯していた。


それは……


「ん?」

「如何した?」

「いや、何か――」

[シャーーーッ!!!]


自分達がよく見えるということは向こうからもよく見えているという事だった。


 突如として一体の蛇型のモンスターが水面から一気に飛び出し、口を大きく開けてそこから強力な水ブレスを吐いた。圧縮された水が驚異的な破壊力を従えて正面にいた三名の隊員を捉えた。


「ぎゃあーー!?」


成す術なく押し飛ばされる隊員達はそのまま近くの倉庫の壁を破ってその向こうに姿を消してしまった。

敵の強襲に隊員の一人が声を上げる。


「モンスターだぁ!!」

「各員迎撃を開始しろ!!」


一斉に武器を構え、魔力弾や魔力刀を駆使してそれと対峙する。

長い胴体を巧みに動かし、口からはブレスを吐いてそのモンスターは激しい抵抗を行う。


「捕縛班!! 奴の動きを抑えろ!!」

「了解!!」


 複数人の魔法士が捕縛魔法を発動。無数の帯状の魔力が伸びてモンスターの動きを封じ込める。

身動きが取れなくなり、怒りの咆哮を上げるそれに向かって一斉に斬りかかる。


 最後に隊長が足裏に魔力を込めて跳躍し、相手の頭上から剣を振り下ろして頸部けいぶを両断。

ビクンッと体を痙攣けいれんさせてからそのモンスターは絶命し、体を伸ばして倒れた。


「ふぅ……。何とかなったか」


一息吐いて倒したモンスターを見る。

見た所、サイズは大きいがFクラスのモンスターだ。

息絶えたモンスターの体が泡になって消えていく様を見届ける。


「隊長、あのモンスター……この近辺では比較的大人しいモンスターだった様な気がしますが?」

「ああ、そうだな。なぜ、この街を襲いに来たのか……」


 顎に手を当てて考え込む。

先ほど倒したモンスターは、人間との間の争いを避ける事が多い大人しい種類だった筈。

それが今までにない攻撃性を見せてこの地に襲撃に来たのに疑問を持った。


「あの地震以降、おかしな事ばかり起きる。何かの前触れか……それとも」

「隊長……」

「ああ、すまない。詮索した所で如何にかなるものではないな。各員は負傷者の救助、及び警戒を続行するぞ」


水面から背を向け、先ほど打っ飛ばされた隊員達の救助に向かおうとした。

その時だった。水面が再びざわめきを見せ始め、大きくうねり出す。

それに一同は再び武器を構え、警戒態勢に入った。


「新手か!?」

「総員、警戒しろ。もしかしたら、次は本命かもしれん!!」


 身構える彼等。その額より汗が伝う。

一人のそれが地面に落ちた瞬間、水面よりその生物はゆっくりと姿を見せた。


[ラー……アルム……トール。ラー……アルム……トール]


謎の言葉を発しながらそれは姿を見せる。

その全長は先ほどの蛇型モンスターを優に超えるでかさで、体長は目算で大凡六メートルは行っているだろう。


 青き皮膚に強靭な腕、その手に持つのは大きな鉈の様な剣。血走った様に赤く染まった鋭い眼。

下半身は黒い毛で覆われ、蛇の尾を生やし、頭は牛の様な形をしている。


「な、なんだこいつは!?」

「今までに見た事もないモンスターだぞ!?」


過去に見た事もない怪物を前にうろたえる。

そんな彼等を睥睨へいげいした後に、そのモンスターは街の方を見る。

そして、一点を見据えると同時に激しい怒気を放出させる。


[グゥウ……!! エル……エル……レム!!! エル…エル……レムゥゥゥゥゥッ!!!]


青き魔力を全身より放出させて夜空に向かって咆える。

相手が魔力を持っている事に彼等は一様に驚きの表情を浮かべた。


「このモンスター……魔力を持ってます!!」

「嘘だろ!? そんなモンスター、今まで見た事がないぞ!?」

「総員、落ち着け!! どちらにしろ、この場を突破されては街に被害が及ぶ!! 何としても抑え込め!!」


それにハッと呆然とした状態から意識を戻す。

既に相手は水面より出ようと此方に進んで来るのが見える。

それだけで周囲の水面は激しく揺れ、船が発生した波にさらわれ転覆したり、陸に打ち上げられたりする。


あれに上陸されては危険だと分かった彼等が急いで迎撃しようと魔力弾の弾幕を張る。

しかし、そのモンスターはまるで意に介していないのかその動きを止める事なく進んで来る。


「隊長!! こいつ、魔力弾が効いてません!!」

「動きを抑えろ!! 捕縛班!!」

「了解!!」


再度、動きを封じようと今度は捕縛魔法を仕掛ける。

難なく相手に巻き付きその身体を雁字搦がんじがらめに抑え込んだ。

それには流石に歩みを止め、動かなくなる。


「やった、あいつの動きが止まった!!」

「今の内に――」

[……ウルオォォォ!!!]


 だが、次の瞬間。相手が全身に力を込めると捕縛魔法があっさりと粉砕されてしまった。

破壊され、破片となって散っていく魔法の残滓を呆然とした面持ちで見つめる一同に向かって殺気を全開にしてその赤い双眸を向ける。


そして、右手に持つ巨大な鉈の様な剣に魔力を通す。

鈍い銀色の刃に青い魔力光が宿り、それを大きく振り上げた。


[ラー……アルム、トール!! コール……クアスッ!!!]


 振り下ろされる剣が水面に打ち付けられて斬撃が放たれた。

川の水が衝撃で真っ二つに割れ、衝撃波となって正面にいる彼等に突っ込み船橋を巻き込む形で爆発を起こした。


 もろにくらった彼等は全員が吹っ飛ばされて地面に転がる。

皆、強い一撃をまともに受けた事で戦闘不能に近い状態だった。隊長ですら、その一撃を受けきれず地面に倒れ伏す。


「バ、カな……!? この実力……もはや、AA級では……ない、か……」


圧倒的、その言葉に尽きる。

現在、駐在する者では歯が立たないと彼は恐怖を覚えた。


[ウルオォォォォッ!!!]


その化け物がまたも咆哮する。

それに呼応して水面より次々に水棲モンスター達が飛び出してきて陸地に上がってきた。

全員が全員、血走った目をしており、かなりの興奮状態に陥っているのが見えた。


そして、直後に都市内の幾つもの個所で爆発音と共に大量の水柱が建物の高さを超えて噴き出してきたではないか。


「そ、そうか……! この一連の水害に襲撃……原因は……奴なのか」


討伐に向かった者達が大怪我を負って帰って来たのも頷ける。

その強大なモンスターを霞みゆく意識の中で最後まで見上げ…彼は意識が真っ暗になった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



都市内にけたたましい警報の音が鳴り響く。

それに眠っていた人達が一斉に飛び起きて何事かとラジオやテレビなどを点ける。


『緊急連絡をお伝えします!! 先ほど、第四船着き場よりモンスターの襲撃が発生!!! 住民の皆さんは直ちに最寄りの避難施設に避難をして下さい!! 繰り返しお伝えします! 先ほど――』


その情報に住民は大慌てで避難所に逃げだし始める。

彼等の避難誘導に多くのSCCAの隊員が動き出して、必死の作業を行う。


その間にも小型のモンスターが、壊れた噴水より噴き出して路上に流れる水と共に次々に都市の奥へと侵攻を始めて来て隊員達と応戦を開始、激闘が繰り広げられる。



場所は変わって、第二研究所。

警報の音で目が覚め、直ぐに窓の外の様子をバルドは見て舌打ちをした。


「やっぱり暴れやがったか……!!」

[此処からでも分かるぜ~。結構な数のモンスターが侵入したっぽいぜ?]

[此処は若の出番の様ですが? 如何致しますか?]

「決まってる。静かなる夜に暴れる奴らには仕置きが必要だ」


両手に相棒である二振りの大剣を握り、窓を開けて足を掛ける。

その時、騒ぎで目が覚めたのだろう。ほのかとフィリスが目を覚まして飛び起きた。


「ふえっ!? 何の音!?」

「警報……? バルド、何が起きたの!?」

「十中八九、モンスターの襲撃だろうな。しかも、今回はちょいとヤバそうだ」


モンスターの襲撃……。

それに二人はぼんやりしていた思考を急速に覚まさせて慌ててベッドより飛び起き、彼の下に駆け寄る。


「待って、バルドさん!! 私達も行くの!!」

「止めとけ、お前等は今回は待機してろ」

「なんで!?」

「今回のは敵の数が多い。前回みたいに前だけ見てれば大丈夫って訳じゃねえんだ。まだ卵のお前等には早過ぎる」


 今回は都市内での戦闘だ。入り組んだ地形はハッキリ言って向こうにとっては好都合。

相手の死角より飛び出し、襲ってくるだろう。

そんな戦場に近い場所に彼女達を入れる気はさらさらない。


 逆に、ほのか達は如何して自分達を加えてくれないのか分からなかった。

確かに彼の言うとおり、自分達はまだまだ子供でこんな事するべきじゃないとは思う。


 でも、そうだとしても自分達は魔法が使える。この力を、誰かの為に使うべきだと思う。

困ってる人を放ってなど……出来ない!!


「私達にも出来る事がある筈なの!! お願い、バルドさん!! 私、自分に出来る事があるならそれをやって皆を守りたいの!!」

「ほのか……」

「……………」


真剣な眼差しで自分の眼を見つめてくる彼女を、バルドは静かに見つめ返す。

まだ幼いながらも、その瞳には折れぬ意志が宿っているのが窺える。


(これまでの短い旅で、一皮剥けたって事か……)


 若干十歳……いや、まだ誕生日が来ていないから九歳か。

その幼き少女はその身で外の世界を短いながらも体験し、学んだ。


 そして、自分にできる事を探そうと必死にもがいている。

なら、それに少しでも手を貸してあげるのが筋というものなのかもしれない。


「……行動は住民の避難を最優先にしろ」

「ふえ……?」

「俺が侵攻してくる雑魚を粗方あらかた片付ける。その間にお前等は住民の避難の手伝いでもしてろ」

「っ!! うんっ!!」


それに弾けるような笑顔を見せる。

そんな少女たちを見て、自分も随分と甘くなったもんだ、と心の中で苦笑する。


「途中までは一緒だ。それからは別行動になる。自分の身は全力で守れよ」

「「はいっ!!」」


元気よく返事を返した二人を見た後に彼はオルソンへ連絡を回し、出撃する旨を伝えてから二人と共に夜空へと飛翔した。


満月照らす都市の上空を飛ぶ三人の眼下には幾つもの水柱と無数のモンスターが蔓延っているのが見えた。


「街の中にモンスターの群れが……!!」

「あそこにいる奴らは無視だ。あそこにはもうSCCAの奴らがいる。俺達はもっと先に行くぞ」


彼に先導される形で先へと進むと、前方から強力な魔力反応を感じ取った。


[マスター、前方より強大な魔力反応!! これは、あの欠片と同じ反応です!]

「えっ!?」


それに驚いて前を見ると、そこには全長六メートルはあろうか巨大な化物が悠然と佇んでいるのが見えた。


「なにあれ!?」

「あれから、凄い魔力を感じるよ!! +AAはいってる!!」

[あのモンスターよりクトゥグハと同様の反応があります]

「それじゃあ、あのモンスターもあの時のと同じで欠片のモンスターなの!?」

[可能性は高いかと思います]


 まさか、一つだけだと思ってた欠片は二つもあるのかと驚く。

だが、そうだとすれば早く如何にかしないといけない。

真っ先にそこに向かおうとした二人だったが、それをバルドが制した。


「待て。あいつの相手は後回しだ」

「な、なんで!?」

「このままだと、都市の中で暴れるかもしれないんだよ?」

「親玉を叩くのは定石な考えだが、いまあいつはジッとしてんだ。無理に刺激して暴れられたら余計に厄介だ。先に手下の方を片付けるぞ」


 その時、眼下でモンスターに囲まれている住民数名を確認する。

避難中に追われたのだろう、周囲にSCCAの者達が見当たらない。


「此処で一度、別れるぞ。行って来い!!」

「うん! バルドさん、気を付けてね!!」

「それはこっちのセリフだ。避難させ終えたら取り敢えず待機してろ。いいな? 絶対に動くなよ?」

「分かった!!」


ほのかとフィリスが高度を一気に落として急降下、市民の救助に向かう。


「シャインバレット、シューーット!!」


魔力弾を放ち牽制を仕掛ける。

上から来た攻撃に魚型のモンスターが空中を素早く泳ぐように動いてかわす。


[フィリス。此処のモンスター情報機関にアクセスして調べたところ、あれは『フライングフィッシュ』と呼ばれる水属性のF級モンスターです。特徴は、水中だけでなく空中でも素早く動ける事みたいです]

「ありがとうメロー。ほのか、気を付けて。相手の数は六体。数で連携を仕掛けてくるかも!!」

「うん、分かったの。フィリスちゃん、援護をお願い!!」

「任せて!!」


上から仕掛けてきた二人を見て敵と認識したのか、三体がグループより離れてほのか達へ向かって飛翔した。

 その動きは、まるで水中にでもいる様に素早い。鋭い牙の生えている口を開けてそこから水弾が発射される。三つの水弾を二人は避けて、そのまま相手の間を通り抜けていく。相手は直ぐに反転し、彼女達の後を追いかける。


「アクアスパイク……シューーット!!」


前に進みながら身を翻して弓から複数の魔力矢を発射。弾幕が相手に襲いかかる。

それをう様に器用に泳いでかわして再び水弾を撃ってくる。


 身を捻って避け、高度を落として低空飛行をする。地面スレスレを飛行し、正面にあるビルに向かって飛ぶ。

撃ち出される水弾の雨をかわしつつ、彼女達は一歩手前でビルの壁と平行に飛ぶ。


そして、素早くほのかが身をひるがえしてウィルを構えた。


「ブライト…キャノン!!」


圧縮された魔力弾が放たれる。

高圧縮された砲弾クラスの一撃は真っ直ぐに落ちていき、彼女達の後を追おうと、ビルの壁に平行に泳ごうとした彼等の前に着弾。


桜色の爆発に呑まれ、吹っ飛んだ。


「ごめんなさい。でも、人に危害を加える貴方達は許せないの!!」


 謝りつつも、その表情は真剣そのものだ。

平穏な時間を過ごす住民に危害を加えてくる相手には、流石にほのか達とて容赦は出来なかった。

仲間がやられたのに残りの三体が戦闘に続けて参戦。仇と言わんばかりに激しい水弾の雨を放ってくる。


「どうしてこんなことするの!! 私達は、ただ平和に暮らしたいだけなのに!! 私達から平和な時間を取らないで!!」

「それを壊そうとするなら、戦う覚悟はもう出来てる!! 私は、もう躊躇ためらわない!!」


 人間とモンスターは互いに己の縄張りの境界線をしっかりと守りながら暮らしてきた。

時には衝突もあるだろう。

しかし、それでも全面戦争に至らないのはきっと太古の昔より続いてきた互いの境界線が今も根付いているからだ。


平和な時間が確立されて、幾星霜いくせいそう。自分達は長い時間をかけて先人たちの作った大事な時間を生きているのだ。


だが、それが今、壊れようとしてる。

そうはさせない。人を、都市に生きる人達を傷つけたくない。守ってあげたい。


その力を自分達は持っている。

ならば、自分達に出来るなら……戦う!!


二人の少女の後ろに大きな紋章が浮かび上がる。

翼を生やした女神に、羽帽子を被った人魚の紋章が大きく展開され、彼女達の魔力が溢れだす。


「痛かったら、ごめんなさい!! シャインバレット、シュートッ!!」


魔力弾が複数展開され、放たれる。

正確に狙いを絞った一撃は一体ずつ見事に命中し相手は仰け反る。

その隙にフィリスが捕縛魔法をかけて動きを封じ込める。


同じ水属性ではあるが、此処は水の魔力素が強い土地。

彼女の水魔法のレベルも上がるので同属性の相手でも少しは効いた。


「これで終わりなの!! フォトンブレイザーー!!」


放たれる強力な砲撃。それが見事に相手を飲み込み、撃破した。

他に敵はいない事を確認してから二人は地上に下りて集まっていた人に駆け寄る。


「大丈夫ですか!? ここは危険です、早く避難所の方へ!!」

「あ、ありがとうございます。ほら、皆急いで行くぞ!!」


 擦れ違う人達が口々にお礼を行って去るのを見て、人助けをしたという実感が持てた。

全員が避難所へと駆けこんで行ったのを上空に飛んで確認した後、バルドに言われたとおりにその場で待機して周囲の様子を窺う。

屋上から見える範囲には、モンスターらしき姿は見えなかった。


「周りにモンスターはいないみたいだね」

「でも、ここのモンスター達はどうして暴れてるんだろ……?」

「それは分からない。けど、この暴走に関連するものと言ったら……」


フィリスが視線を向けた先、そこには船着き場で立っているあの巨大なモンスターだ。

それは未だにジッとその場で立って状況を見据えている様に見える。


「間違いなく、あれだね」

「あれも欠片の力で具現化したモンスターなのかな?」

「かもしれないね。魔力量は+AAクラス、かな」


あれもクトゥグハと同等の力を持っているという事だろう。

その時だった。前方にいた巨大なそれの様子が変化した。


[オオォォォ!! エル……エル……レムゥゥゥゥ!!!]

「ふえっ!?」

「動き出した!?」

[マスター、あのモンスターの付近に魔力反応。恐らく魔法士です]

[それも、一人の様です。真っ直ぐにあちらに向かってます]


 予想外の事態に二人は驚きの表情を見せる。

たった一人であれに立ち向かおうとしている者がいる。それは、あまりにも危険な行動だ。


「フィリスちゃん、急いで止めよう!!」

「うん、そうだね! メロー、案内をお願い!!」

[分かりましたフィリス!!]


バルドとの言い付けを結果的には破る形となってしまうが、きっと彼ならこういった状況なら許してくれる筈。

言い付けを破る事に心の内で謝罪をしつつ、二人はその場から敵の親玉に向かって真っ直ぐに飛行していくのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




一方その頃、バルドは一人、襲い来るモンスターの群れを大剣を振りまわしてぎ倒して行っていた。

「ったく、前に倒した奴ばっかじゃねえか」

[規定数減らしたんだけどな? 結構な数だぜ、こりゃ?]

[予想以上の大量発生という事なのでしょうか? しかし、それにしても多いですね?]

「まあ、F級モンスターはそんなもんだろ。モンスター界では最底辺だしな、数も多くて当然だ」


 魚型のモンスターやカエル型モンスター、蛇型モンスターと多種多様な水棲モンスターが飛び掛かってくる。それを黒き炎を刃に纏わせ問答無用で叩き潰していく。


「SCCAだけじゃ、これはキツイだろうな」

[駐屯してる此処の魔法士じゃ、半分減らせるのが関の山だろうぜウヒャヒャヒャ!!]

「俺の他にも、冒険者の奴がいたのが幸いだな」


 彼が視線を横に向ける。そこには、複数人の男女が統一された服を身にまとってモンスター相手にある程度、余裕をもって戦闘をしている姿があった。

その肩には胴の前後に頭を持つ蛇の紋章が描かれている。


「ギルド『アンフィスバエナ』だな」

[そこそこ有名なギルドの奴らじゃん。こりゃ儲け~ウヒャヒャヒャ!!]


ギルド名『アンフィスバエナ』。


“双頭の蛇”という意味を込められた腕の立つ冒険者が揃うギルドだ。

その意味の通り、ギルドのリーダーを担っているのが二人の男女で、その実力も中々のもだ。


男の方が攻撃力の高い斧を使い、女性の方が回復魔法と素早く攻撃できるレイピアを使いこなす。

正に、正反対の特性を持っている事から双頭という名のこの蛇の名を付けられたのだという。


「まあ、見た感じあいつ等は構成員のもんだな」

[確か、拠点は第一都市の方だもんな。こっちにいるって事は、食材調達やモンスター情報とかだろ。此処にはギルドがないしな~]

[どちらにせよ。この都市に丁度良くいてくれたのはラッキーでしたね]

「そうだ、なっ!!」


 背後から飛び掛かって来た一体を振りかえりざまに斬り捨てる。

その彼の頭上より、何やら黒い影が落ちてくる。


瞬時に反応して飛び退き、かわすと遅れてそれが地面に落ちた。

ベチャッと液体の様な音がして落ちたそれ……青い色をしたゲル状の物だった。


「スライムか」

[ランクはF……雑魚っちゃ雑魚だな]

「ただ、面倒な事に物理攻撃には結構耐性を持ってるんだよな」


 そのスライムが体を縮めたと思った瞬間、弾丸の様に自らを飛ばしてきた。

迫るスライムの突進を体を逸らして避け、擦れ違いざまに一太刀入れる。


真っ二つに斬れたそれがベチャチャと気色悪い音を立てて落ちる。

しかし、斬れた部分より再び結合を開始、あっという間に元の姿に戻った。


[やっぱ、斬撃は効かねえな?]

「だろうな。面倒くせえし、此処は魔術で一気に倒すか」


足下に漆黒の魔術陣が展開、詠唱に入る。

その彼に向かってスライムが再び自らを飛ばして突っ込んで来る。


「闇より来たりし炎、ナイトメアフレイム!!」


彼の前に一つの陣が出現、そこより直線状に黒き闇の炎が放たれる。

その中に突っ込む形でスライムは呑み込まれ、その身をあっという間に蒸発させて消滅した。


「焼却完了っと……「うわあぁぁぁ!? こ、こっちに来るな~~!?」…ん?」


 周囲の敵を片付け、一息吐いた彼の耳に最近、聞き慣れた声が聞こえた。

もしやと思って声のする方へ駆け付けると、そこにいたのは杖をブンブンと振ってフライングフィッシュを追い払おうと必死になっているアシュトンだった。


 そんな彼を嘲笑うかのように相手はその振り回される杖の攻撃をすいすいと避けて、アシュトンを馬鹿にしている様に彼の周りを執拗に回っている。


「何やってんだ、あいつ……?」

[おやおや、随分と場違いな場所に、場違いな少年がいるね~?]

[呑気な事を言ってる場合ですか!? 早く助けましょうよ!?]

「へいへいっと」


地を蹴って駆け出し、相手との距離を詰める。

自分達に近づいてくるバルドを眼の端で捉えた彼等は向き直り、一斉に水弾を発射。


 襲い来る弾幕を姿勢を低くして、二本の大剣を巧みに振るって弾き接近する。

取り敢えず、追い払う為にケルベロスを振るって牽制を仕掛けると向こうは散開して距離を取った。


「よお、アシュトン。また会ったな?」

「え……? あ、バルドさん!?」


 命の恩人が知り合いだった事に驚きの表情を見せる。

ポカンと口を開けて自分を見てくる彼を見て、バルドは少し意地悪をしたくなった。


「あの時はよくも逃げてくれたな? あの後、俺は大変な目にあったんだけどな?」

「あ……、ええっと、その……」

「折角、助けてやったのに……フォローもしないで一人で先に逃げてよ」

「あ…うぅ……」


大げさに肩をすくめて溜息を吐くと、居た堪れなくなったのか彼は俯いてしまった。

それを見て幾分か昼の出来事の鬱憤うっぷんを晴らせた彼はくくっと笑い、彼の頭をガシガシと少し乱暴に撫でる。


「まあ、今のは冗談だ。俺はそこまで根に持つ人間じゃねえよ」

「そ、そうなんですか? よ、良かった……」


言われてホッとしたのか胸を撫で下ろすアシュトン。

そこに先ほどのフライングフィッシュが襲いかかって来た。

バルドは素早くアシュトンを脇に抱えて跳躍し、突進をかわして離れた位置に着地する。


「アシュトン。実家に帰ったんだろ? お前のじいさん達は元気だったか?」

「はい、モンスターの襲撃のしらせが来た時に『ワシも出るぞ!! 久々に狩人の血が騒ぐわい!!』なんて言って……ライフル銃片手に家を飛び出そうとしたので慌てて止めました」

「……お前の母親の家系は皆そんな感じなのか?」

「お恥ずかしい限りです……」


 一応、祖父母共々元気だったそうだ。

住んでいる場所が危ないので、SCCAの隊員に頼んで避難所へ連れて行ってもらい、その後に他の人の避難誘導を手伝っていたら襲撃されたそうだ。


「子供が前線で避難誘導すんなっての……」

「すみません……」

「まあいいや。取り敢えず、こいつらをのんびり片付けてほのか達と合流するぞ。ケルベロス、ほのか達はちゃんとあの場所にいるよな?」

[………………]


しかし、返って来たのは無言の返答だった。


「おい、如何したんだよ?」

[なあ、相棒。すんげー言い難い事なんだけどよ……]

「あ? 何したってんだ?」

[若、怒らないで下さいね? ……ほのかさん達、移動してます。それも、あのモンスターの下に向かって]

「…………………」

[その先にもう一つの反応があんだけどよ。きっと、嬢ちゃん達はそいつを止めようと思って向かったんじゃねえかな?]

「……あんのトラブル娘共は!! 毎回毎回、面倒事ばっか増やしやがって!!!」


 もう慣れたと言っても、やっぱり面倒事が大嫌いなバルド。

ほのか達がまたしてもトラブルを起している事に髪をガシガシと掻きむしる。


その間にも、フライングフィッシュが増援を呼んで、数が更に増えていた。

無数に宙に漂う魚の群れを前に、バルドの怒りは最高潮になる。


「邪魔くせえ!! おい、アシュトン!! お前も手伝え、さっきの発言はなしだ!! こいつらを瞬殺すんぞ!!」

「ええっ!? 僕も戦うんですか!?」

「ったりめえだ!! 此処にいるからには戦ってもらうぞ!! 足止めでいい、その間に俺が叩き潰す!!」


 二振りの大剣を構え、大層不機嫌なオーラを全開にした状態のバルドが敵陣へ単身突っ込む。

その彼を援護する為に、アシュトンは慌てて魔術の準備を開始。


二人に向かってモンスターの大群が襲いかかる。

そして……夜空の下、モンスター達の断末魔が響き渡った。



フライングフィッシュ


Fランクの水属性のモンスターで、名前の通り『飛ぶ魚』。

飛行する事が可能で、水中にいる時と同等の速さで飛行可能。

空戦時は口から水弾を飛ばしたり、体当たりで相手を攻撃する。

個体自体は大した事はないが、群れで行動するので舐めてかかると痛い目にあう。

水属性だから『雷属性』に滅法弱く、当てればほぼ勝利は確定である。



スライム


言わずと知れたジェル状のモンスター。無属性のFランクモンスター。

相手を捕まえると強酸性の体で包み込み、瞬時に溶かして消化する。外見とは裏腹に恐ろしいモンスターである。

ランクはFだが、斬撃及び打撃耐性が非常に高くて物理攻撃では倒すのが難しい。

ただし、『属性耐性が皆無』に等しく、低レベルの属性攻撃を当てただけでも撃沈するほど。

半径三メートル範囲に入らなければ自身の攻撃が届かず、その間はノロノロとした動きなので五メートル以上離れて攻撃すれば無傷で勝てる。

主に待ち伏せが多いので、洞窟などではレベルの高い灯火魔法を準備して、頭上からの不意打ちに注意すべし。


都市を襲撃するモンスター達。

そして、それを操る(?)のはクトゥグハと似た反応を持つ巨大モンスター。

この後一体どうなるのか!!


それでは、次回も宜しくお願いします。

では(゜∀゜)ノシ!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ