第十話 第二都市アクエリウス
十話更新。
時間がかかってしまって申し訳ありません。
第二都市へと辿り着いたほのか達。無事、第三都市へと帰れるのか?
では本編をどうぞ。
今回、新キャラ登場です。
第二都市アクエリウス。
魔法共和国の北にある山脈、『ノーム山脈』より流れる水が集結し巨大な大河となったものが下流にある共和国の各都市やその近辺にある町村へと流れている。
その際、途中で幾つかに枝分かれする方と一つの川の形で流れる方の二種類の川に分かれる。
アクエリウスはその一方の一つの大きな川の近くに建てられた都市である。
その川は第二都市を通り過ぎ、第三都市、第四都市と続いてその後、第一都市から第五都市まで流れていくもう一方の複数に枝分かれした川と合流し、海へと流れている形だ。
ノーム山脈より流れ出る水は豊富な栄養を含んでおり、それを食す為にプランクトンが集まる。
そんな微生物を食べようと小魚が集まり、更にそれを捕食する大型魚がやって来る。
そして、その魚を人が漁で捕まえて食べる。そんな食物連鎖がこれまで連綿と続いて来たのだ。
現在は技術の進化で大型船もでき、それに人を乗せたりして上流から下流まで、物資や人の移動にも使われてきている。
尤も、水の上とて安心は出来ない。漁をしたり船で移動する人を時々、水棲モンスターが襲撃してくるので輸送時には必ず魔物除けの札だけでなく有事の際に動くSCCAの者達か、依頼を受けた冒険者が同伴する事が多い。
そして、その大いなる川の恩恵を受ける第二都市は、水産業が非常に盛んである。
流れる二つの川の内、此方の川の方が養分が濃いのも理由の一つだが主に漁師や海女が多いのもある。
魚介類を擦り潰して調味料を混ぜ、簀巻にして蒸したり焼いたりした食品『蒲鉾』などはこの都市の特産品として有名で、旅行者の多くはこれを買って帰る事が多い。
また、魚介類の養殖業も盛んで全都市の中ではトップクラスの技術を誇る。
正に水の恩恵を強く受けている所なのだ。
そう言った事もあってか、周囲の魔力素も水属性が強く、モンスターもまた水属性なのが殆どだ。
故に、水属性の魔法士や水属性モンスターの弱点属性の一つ……レア属性の雷属性持ちもまた有利な場所であるのだ。
そんな大都市、アクエリウスの城門前に四人の人影がある。
その者たちこそ、紆余曲折あって此処に辿り着いたほのか達であった。
門の前に辿り着いたバルドは振り返ってからほのかとフィリスへ向いた。
「街に入る前に一つだけ忠告するぞ。勝手な行動はすんな。常に俺の傍にいろ」
「ふえ? なんで?」
「知らない土地でウロウロすると誰に目を付けられるか分からねえからな。旅行者の中に、一人でウロウロして被害にあった奴は少なくねえぞ。特に餓鬼のお前らなんか恰好の獲物だ」
何処の都市でも人による犯罪は発生する。窃盗や強盗などがそのいい例だ。
それを少しでも減らそうとSCCAも警備を強化している。
そのお陰で被害も少しずつ減ってはいるがそれでも危険なものは危険なのだ。
「だから、絶対に俺の視界から消えたりすんなよ?」
「うん。分かったの」
元気のいい返事を貰ってよしと言って頷いた後にバルドは空を見上げる。
雲の少ない青空が広がっており、太陽はほぼ真上に昇っていた。時刻は大体お昼辺りになっているのを感覚で知る。
「昼になったな。先に昼飯でも食ってから買い物するぞ」
「うんっ!」
「歩きっぱなしでもうお腹すいたよ……」
「アシュトン、お前も来い。昼飯、奢ってやるからよ」
「あ、ありがとうございます!」
素直に頭を下げて礼を述べる彼に、バルドはフッと笑ってから三人を連れて都市に入る手続きを終えてから中へと入って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼が過ぎて―――
「嫌だね。行くものか……」
彼は眉間に皺を寄せて彼女達の提案を却下した。
「ダメッ!! 一緒に行くの!」
しかし、ほのかがそれを拒否して彼の服の袖を掴んで引っ張る。
そして、同じく反対側もフィリスが掴んで引っ張る。
「アホ抜かせ!! なんで俺が行かなきゃならねえんだ!? お前ら二人でいけよ!?」
「駄目だよバルド。バルドも一緒に行かないと行けないんだって!?」
「金なら持たせたろ! 二人で行って来いよ!?」
「未成年だけだと身分証明書を出さないとあそこは入れないの! でも、大人の人とならパスできるの!」
「今、私達は身分証明できるものを持ってないからバルドもいないと駄目なんだよ」
強く引っ張る。何処にそんな力があるのか、幼き二人の少女に彼の体がぐぐっと動く。
それに負けじと彼も地面を踏みしめて対抗する。
[若、そろそろ諦めて同伴して入るべきですよ?]
[大丈夫だって相棒。ちょっと入っていい気分に浸れる機会じゃねえか? 男ならスパッと入れって]
「アホか! テメーの判断基準と俺の判断基準を一緒にするな! 誰が……誰が好き好んで『ランジェリーショップ』に入るかっての!!」
彼が抵抗している理由……それは目の前にある女性用の下着店だった。
入るのが嫌で彼は彼女達にお金を渡したのだが、何とそこは身分証明がないと子供だけでは入れないという条件付きの店だった。
しかし、大人がいればOKという事から彼女達は身近な大人……つまりバルドをその魔窟へと誘ったのだ。
「大丈夫なの! バルドさんに見られるくらいなら、私は平気だから!!」
「テメーは大丈夫でもフィリスは駄目だろ!?」
「わ、私も……大丈夫、です////」
「顔を真っ赤にしてる時点で説得力に欠けるわ!! アシュトン!! お前も黙ってないで何か言え!!」
「え、えっと……。あっ、僕はもう実家に帰りますね! 此処まで一緒に連れて来てくれてありがとうございました!! それではっ!!」
「あっ、こらテメッ!! 上手く誤魔化して逃げんな!?」
顔を真っ赤にして逃げたアシュトンにバルドが声を張り上げるも、彼の姿は街角に曲がってしまった事で見えなくなってしまった。
結局――――
「………………」
「あの、お客様? あの子たちは御子さんですか?」
「…………姪だ(嘘)」
「そ、そうですか~……」
仏頂面のバルドは店内の試着室の前の椅子に座っていた。
その彼に話しかける女性店員だったが、その放たれる不機嫌オーラに営業スマイルも崩れそうだった。
何処に目を向けてもあるのは女性用の下着の群れ……。男からしてみれば正に魔窟だった……。
「ったく、あいつ等は何時まで人を待たせるんだか……」
「女性は色々と時間が掛かるものなんですよ」
「あいつ等は女性のじの字も出てないがきんちょだ」
「あ、あははは……」
彼からしてみれば早くこんな所から出ていきたい心情だった。
でも、脱出できない状況に頭が痛くなる。時折り通り過ぎる女性達はヒソヒソ話をしたり、或いは彼のその容姿を見て心を奪われたりと反応は様々だった。
(い、居ずれぇ……)
周りから時折り来る視線に彼は何とも言えない気分だった。
ハッキリ言ってモンスターの殺気を数百ほど浴びても動じない彼でも耐えきれそうもない。
その時、一つの試着室のカーテンが開いた。
「ええっと……どう、かな?」
そこにいたのはほのかで、身にまとっているのは白い下着だった。
可愛らしいリボン付きのパンツと赤い紐をリボン結びで留められているブラ。
それを着てモジモジしながら意見を聞くほのかがそこにはいた。
その少女の姿を軽く一瞥の後に彼は早々に答えを出した。
「それでいいのか? ならとっとと買って来い」
「ふええっ!? よく見ないで言われたの!?」
ガビーンっという音が聞こえそうな感じで驚いているほのか。
「もうもうっ!! バルドさん、ちゃんとした意見を言ってなの!!」
「アホか。何で男の俺が女の下着に対しての意見を言わにゃならねえんだ。気に行ったんならそれでいいだろ」
「こういうのは見た目が大事なの! バルドさんから見て似合ってるかどうか聞きたいの!?」
「子供が色気づきやがって。……つーか、何でブラが紐なんだよ? ホックの方でいいじゃねえか」
「これがセットだったの」
「セットじゃなくてもいいだろ、別に……」
プンプンと怒っているほのかに呆れた様子でもう一度目を送る。
その瞬間に彼は動きが凍った様に固まった。
「おい、ほのか。それ以上は動くな」
「ふえ? なんで?」
「いいから動くな。そして、店員。あいつのあれを早く直してやれ」
指差す先には彼女のブラがある。それを留めているのは正面にあるリボン状の紐で、なんと留め方が緩かったのか解れている。
もし、また動いた瞬間……解けそうだ。
店員も気づいてハッとなり動く。
だが、ほのかがバルドの指の先を追って視線を下へと下ろしていき……
「にゃっ///!?」
気付いたほのかが体をビクッとさせた。
その瞬間、絶妙な位置で留まっていたそれが解けて……
―――外れてしまった。
慎ましやかな胸を隠していたブラが、ずれ落ちていく。
「きゃ~~!? バルドさんのエッチ~~////!!」
「アホか!? 如何見てもお前が悪い!!」
湯ダコの様に顔を真っ赤にして慌てて右手で胸を隠し、左手でカーテンを引っ張って体を隠してそんな事をのたまう。
店員がその後に素早い手つきで留め紐をしっかりとつけ直して事なき(?)を得た。しかし、彼は顔を片手で覆って天井を見上げる。
(だから入りたくなかったんだよ……面倒くせえ)
結局その後、幾つかの下着などを選んで彼が代金を払って店を後にするのだった。
ちなみに、フィリスは恥ずかしくて出るに出られず、バルドに席を一度外してもらってほのかに見て貰ったのは言うまでもないだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ったく、だから入りたくなかったんだよ……」
「えっと、ごめんなさい……」
心底嫌そうに愚痴を零すバルドに取り敢えず謝っておく。
今、彼女達は昨日まで着ていた服から一新して新しく買ってもらった服を着ていた。
ほのかもフィリスも丈の長いスカートを穿いている。互いに白と水色のワンピースだ。
それと、動きやすいタイプの半袖半ズボンも買ってもらった。
「ありがとうバルド。でも、こんなに買っても良かったの?」
他にも色々と生活用品等も買ってもらってそれを詰めるバックも購入したりと諸々のものをそろえて貰ってフィリスは申し訳なさそうに聞いてみた。
「気にすんな。金なんぞ腐るほどある。どうせ使い道もねえんだ、此処で使っても大した出費じゃねえよ」
「バルドさん、お金持ちだったの!?」
「金持ちかどうかは分かんねえよ。ただ、生きるに十分な金は持ってるのは確かだ。まあ、殆どが討伐依頼とかの報奨金なんだけどよ」
[まあ、鋼殻蟹『アイアンシザリガー』や鋼鉄一角獣『バファロン』なんつーAAA級のモンスターがざらだしな~ウヒャヒャ!!]
[最近ではS級のモンスター……水牙龍『アクエリアスプルート』とも殺り合いましたものね?]
「まあな~」
彼が普段どれだけ難易度の高い依頼を受けているのか垣間見る会話だった。
そんな会話にほのかもフィリスも引き攣った笑みを零した。
「まあ、俺の仕事の内容なんぞ如何でもいいとしてだ。今は少し、気になる事がある」
「ふえ? 何が?」
「この第二都市の事だ。前に来た時は、この道路は乾いてた」
なのに……。と続けて彼は足下を見る。
彼女達もつられて地面を見ると、辺り一帯の道路は全て濡れているのが分かった。
「此処に入ってからずっと気になっていた。地面がこんなに濡れてるのが不思議でな」
「誰かが打ち水でもしたとか、雨でも降ったんじゃないの?」
「いや、まずねえな。打ち水をしたにしたってこんな道路全部を濡らす必要はない。それに、雨が降ったなんて事もないだろ。周りの建物を見てみな。全然濡れてねえだろ? あと此処に来るまでに雨雲もみなかったしな」
見渡してみれば、彼の言うとおり建物自体が上から水を被っていたという様子は見受けられない。
それにこの都市に来るまで雨雲を見たり雨が降った事はない。
一体、如何いう事なのだろうか?
思考を巡らせてみるが、これといった原因は思いつかない。考え込みながら街中を歩いていたその時だった。
突然、前方から爆発音が響いて、続けて何かが大量に噴き出す様な轟音が聞こえてきた。
「爆発!?」
「何が起きたの!?」
「広場の方だな……。何かまたトラブル臭がしてきやがった」
「行ってみるの!!」
「あ、待ってよほのか!!」
行きたくなさそうにしているバルドを余所に、ほのかとフィリスが駆け出して先へと向かって行ってしまった。
「お、おいっ!! 待てお前等!! ……ったく、あんのトラブル娘共め!!」
[どんなに頑張っても……ほのかの嬢ちゃん達のトラブルには巻き込まれるんだね~ウヒャヒャヒャ!!]
[若、残念ですが諦めた方が良いかと……]
「あ~、ったくもう!! 行けばいいんだろ行けばっ!!」
半ば自棄になった彼もまたほのか達の消えた先に向かって駆け出していく事になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一足先に駆け付けた二人の眼に飛び込んできたのは、大量の水が噴き出る噴水の光景だった。
「大変だ!! また噴水が壊れたぞ!!」
「急いで元栓を止める様に水道局に連絡を回すんだ!!!」
「手の空いてる奴は水を汲み上げる作業の手伝いだ! 早くしないと、また一帯が浸水するぞ!」
大勢の人が集まり、大騒ぎだった。更には周囲の民家の二階からもその様子を見ている者達もいる。
そんな大混乱状態の現状にほのかとフィリスは驚いていた。
「これって一体どういう事なの?」
「なんか、噴水が壊れたって言ってたような……?」
聞こえてきた言葉を拾っていたフィリスが首を傾げる。
気になった彼女達は近くで同様に野次馬として見物していた住民の女性に聞いてみる事にした。
話によれば、噴水の様子がおかしくなったのは此処最近の様で、何の前触れもなく突然水を噴き出すのだそうだ。
最初は直ぐに治まったのだが、徐々にその勢いは増す一方で時々建物と同じくらいの高さにまで水が噴き出した事があったそうだ。
その所為で、路面に水が溜まり一時期床下浸水を起した事がらしい。
それを聞いてほのかとフィリスはあの時の路面が濡れていた原因はこの噴水の暴走なのかと気付いた。
それについて質問をしてみると、やはりそうであるらしく。長時間水が止まらないと都市全体に広がるらしい。
更に問題は内だけではなく、外にもあるという。
此処最近になって川の水位が上昇傾向らく、何時、限界水位を超えて溢れだすか分からないのだという。
しかも、おかしな事に水位の上がっているのはこの都市だけの様で、隣の都市に連絡を回したら水位の変化はなかったそうだ。
そこまで話した後に女性に声が掛けられて、話を切り上げて彼女もまた排水作業の手伝いに回っていった。女性が去った後、二人は今の話を整理してみる事にした。
「水道が壊れたのはここ最近の事だったね?」
「うん。それに川の水位が上がったのも同じ時期だって聞いたの」
「この二つって、何か関係があるのかな……?」
どちらにせよ、ただの水害とは思えない。そう結論付けるフィリスは思考を巡らせる。
何の前触れもなく普段は出さない量の水を噴き出す噴水、水位の上昇していく川の水。
この両者は最近起きたのだという。
最近と言っても、恐らくそれは此処三日四日前の話だろう。
何か……何か原因がある筈だ。
唸りながら考え込む二人。その背後からぬっと腕が伸びて来て、二人の首根っこを掴んで持ち上げられた。
「にゃっ!?」
「ひゃっ!?」
「勝手に行動すんじゃねえよ、トラブル娘共!」
突然掴まれて体を震わせて慌てて首だけを後ろに向けると、大層ご立腹のバルドが立っていた。
そのお怒りのご様子に二人は冷や汗を流して引き攣った笑みを見せた。
「あ、バルドさん……」
「お前らな……。早速、俺の忠告を破りやがって……」
「「あ……」」
勝手な行動はするなと、そう言えば街に入る前に言われていたのを思い出して思わず声が出る。
「少し、説教が必要な様だな。行くぞ」
「ま、待ってなの! せ、せめてあの人達の手伝いをさせてなの~~!」
「やかましい。余所は余所だ。俺達には関係はねえよ。ってか、話を逸らそうとすんな!!」
「にゃ~~!?」
持ち方を変えられて、両脇に抱えられる体勢となる。
ジタバタする二人をバルドはしっかりと抱えて噴水の間から去って行った。
少しして、二人は彼にこっ酷く叱られて尚且つ頬をぐにぐにと引っ張られてから説教から解放された。
「うぅ……酷い目にあったの」
「ま、まあ……私達が悪いのは間違いないね」
「ったく、分かってんなら最初からすんな!」
「にゃははは……ごめんなさい」
苦笑してから素直に頭を下げて謝る。
そんなほのかを見てもう怒る気はしなくなったのか、彼は軽く息を吐いてやれやれといった風に肩を竦める。
「まあいい。それよりも、宿を探すぞ。明日の昼には定期船が出るからな」
「それに乗って行けば、帰れるの?」
「そうだ。船に揺られて二日もすれば帰れるぞ。これで、俺も子守りから漸く解放されるって訳だ」
皮肉を込めた言葉に二人はぷくっと頬を膨らませてバルドを見る。
そんな可愛らしい睨みを彼は軽く流して歩く。
「早いとこ泊まる場所を探すぞ。日が暮れた頃じゃ間に合わねえからな」
「あっ、それなら局長から第二魔導研究所に知り合いがいるからそこを頼れって言われてたよ」
「また研究所に泊まんのかよ……」
めんどくさそうな顔をする彼の背中を押しながら、フィリスの案内の下、第二都市アクエリウスにあるという魔法共和国第二都市設立第二研究施設に向かって歩み出すのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕方頃になって、第二研究所に付いた三人をそこにいる研究員が歓迎し、局長室へと招き入れた。
局長室にいたのは、二十歳半ばに見える男性で名を『オルソン』という。
如何やらオズワルド局長とは昔、精霊の存在定義についての話で盛り上がり仲良くなった間柄で今も時々は彼と交流を交わす関係だという。
それだけではない。
彼は如何やら他の研究所の殆どの局長とも顔が利くらしく彼を慕っているとか……。
ちなみに、バルドはオズワルドの事を爺と呼んでいるが、彼の実年齢はまだ三十代である事を此処に明かしておこう。
あの爺、何者なんだよ……。とバルドが呟き、ほのかとフィリスも同様に苦笑いした。
取り敢えず、三人は今晩だけは此処でお世話になる事になった。
それに礼を言ったあと、ほのかとフィリスが家族や友達、研究仲間などに連絡を回して今日の出来事を一杯話した。
「んで、明日の定期船は動くんだろうな?」
その様子を見守りながら、バルドは隣にいる局長へと尋ねる。
しかし、それにオルソンは難しそうな表情を見せた。
「それが……ですね。今は定期船が動かせないんですよ」
「はあ? 如何いう事だよ?」
突然の事態に彼は眉を顰める。
なぜその様な事になっているのか、オルソンは説明を始めた。
「数日前に起きた大地震の翌日から水棲モンスターの動きが活発化してきているんです。討伐に此処のSCCAの皆さんが向かったんですが……」
そこで言葉を切ってから息を整え、続きを話す。
「そこには、今まで見た事のないモンスターがいて、全員返り討ちにあったそうです」
その結果、向こうの怒りを買ったのか時折り水棲モンスターが此方に上陸する事もしばしばあるという。
その所為で、漁師達も船を出せないし定期船も出せないのだとか……。
「おいおい……。此処まで来てそれはねえだろ」
「あのモンスターさえ何とか出来ればいいんですけど……。あまりにも強過ぎて歯が立たないというのが現状ですよ……。今は水際ギリギリで抑え込んで中央都市からの増援が来るまで持ち堪えようとはしてますが、何時まで持つか分かりません」
「そこまで強いのか? おかしいな……ここいらの敵はFからE級のモンスターしか出てこないんだけどな?」
どの程度の部隊を送ったのかは分からないが、SCCAの部隊を負かす強さだ。最低でもC級のモンスターだろう。
だが、さっきも言った様にこの近辺は第三都市と同じ様にFからE級のモンスターが殆どだ。
C級レベルまで行くとこの付近では逆に早々お目にかかれないだろう。
「もし、そいつを倒したら船は動くと思うか?」
「さあ……? 我々では判断しかねます」
難しい質問に彼は言葉を濁す。
それにバルドはやれやれと後頭部を掻いて肩を竦めた。
「はぁ……。早いとこ、この二人を家に帰さなきゃならねえってのによ。しょうがねえな、今回の件。面倒くせえが俺も参加させてもらうぜ」
「しかし、SCCAの皆さんには何と言えばいいんですか? 彼等が快く思ってくれるとは思えないのですが……」
「そこんところはこっちが無理に顔を突っ込んで来たと言えばいいさ。我々は関係ありませんとも言っとけ」
「は、はあ……?」
魔法共和国内、その中でも都市の守護に携わるSCCAとバルド達の様な外の世界で生きる冒険者達の関係は悪い。
守られる側の筈の市民が武装してこっちの仕事を取っている様なものだから、いい気はしないのは当然だろう。
「バルドさん、なんのお話をしてたの?」
そこに、通信を終えたのだろうほのかとフィリスが傍に寄って来た。
彼女達にも一応、話しておくべきかと思った彼は今の会話を纏めて二人に語った。
「それってつまり、この街を襲うモンスターがいるって事?」
「簡単に言えばそうだな。その所為で船も出せないし、定期船も出ない」
「ここの人達の日常を壊すなんて許せないの!! バルドさん、私達も協力しようなの!!」
「私達が手伝えば、もしかしたら何とかなるかもしれないよ?」
自分達も手伝うと意気込む二人。そんな彼女たちの意見を彼はバッサリと切り捨てた。
「アホか。お前等は此処で待機だ」
「ええっ!? なんでなの!?」
「こういうのは、冒険者の仕事だ。子供は大人しく家にいろ」
「昨日は一緒に戦ったじゃない!?」
「それはそれ、これはこれだ。兎も角、お前等は此処で待機してろ。すぐに片付けて帰してやっからよ」
今日はもう休んでろと言って二人を充てられた部屋へと行くように促す。
それに二人は何とも言えない顔をしまま部屋へと入って行った。
[いいのかい相棒? ほのかの嬢ちゃん達は納得してない感じだったけどよ?]
その彼の隣に虚空よりケルベロスとバハムートが姿を見せ、彼に問う。
「いいんだよ。あいつ等はまだ幼い。決意を固めるにはまだ早過ぎんだよ」
若干小学四年生のまだ幼い少女。そんな子供に戦う決意を作らせるのは早過ぎる。
[決意を固める時期ってのは人それぞれさ。ほのかの嬢ちゃん達は、もしかしたら今なのかもしれないぜ?]
[人は生まれながらにして、その命の灯、消えるまでが戦いである……。それを理解するしないで人とは大きく変わるものですよ若。若とて、あの日よりずっと戦う事を決意したではないですか?]
「俺はいいんだよ。けど、あいつ等は一般人だ。そんなもんは要らねえんだよ」
[まっ、嬢ちゃん達には素直に育ってほしいもんな~。将来、超~美人になるぜ~あの子たちはよ? ウヒャヒャヒャ!!]
[駄犬の戯言はさて置き。若、モンスターの討伐は如何するのですか?]
ケラケラと笑うケルベロスを無視してバハムートが問いかける。
それにバルドは少し考える素振りを見せてから、質問に答えた。
「今日は一応休む。明日、早朝から一人でSCCAの奴らが向かった場所にでも行ってみるさ」
窓から外を見る。夕闇に染まり始める景色。今晩は綺麗な星空が見えるだろう。
「今夜は、満月か……」
[満月は良いね~。人もモンスターも酔わせる神秘の光を放っててよ~。地獄じゃ見られねえ景色だから、俺は好きだぜ~ウヒャヒャヒャ!!]
[夜天に煌めく黄金の光。その輝きは千年の時を越え、連綿と紡がれる。その輝き、天地に降り注ぎ這う者達を恐慌へと誘わん。…美しくも生物を狂わせる光は何とも栄えますね]
満月は人を狂わせる。それはモンスターも同じだ。
幾星霜、悠久の時を……夜の世界を月は見守り続ける。
その光は、人間やモンスター達の心に安息や恐慌を与える。
果して、今晩はモンスター達は大人しくしてくれるだろうか……?
「今晩辺りは、何事もなければいいんだけどな……」
夜空の見え始める窓の外を見て、一抹の不安を抱えながら彼は小さく呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
第二都市の船着き場、その少し離れた水中……その底に青く光る欠片はあった。
それは、直後に輝きを増し光の中に包み込まれる。
周囲が泡立ち、水泡に包みこまれていく中で、それは血走った様な赤い眼を開いた。
川の底より立ち上がったそれが都市のある方角を見る。
[オォ……。エル……エル……レム……!!]
そして、大凡人の言葉とは思えない単語を口にしてから再び水中へと消える。
それと時を同じくして周囲の水面から溢れるは無数の殺気。
その全てが、第二都市の方へと向けられ、水中で無数の影が蠢いた。
無数の影は、真っ直ぐに第二都市の方へと向かっていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜空が広がり、街が明かりを灯す。
柔らかな光が暗い世界に色を与え闇という恐怖から人を守る。
そんな夜の帳から少し離れ、壊れた廃墟の建物の上に一人の影が月の光を背に見つめていた。
[マスター、この都市の付近より特定の魔力周波数を感知しました。おそらく、ターゲットです]
「ん……」
彼女の手に持つ剣より、落ち着いた口調の女性の声が聞こえる。
その剣は、刀身が金色の魔力光を放ち柄が黒色でその中央には金色の宝石が埋め込まれていた。
宝石が点滅しつつ語りかけると、持ち主であるその者が小さく答えた。
「強い…魔力反応がある……」
[感知してます。数は三つほど……。一か所に留まっている様ですが? 場所は、検索した結果、研究所の様です]
「そう……。フォルテ、同業者だと思う……?」
[その可能性は否定できません。油断は禁物です]
「ん……」
フォルテと呼ばれた剣が答えるとその者は静かに頷いた。
声からしてまだあどけない小さな少女だ。
月の光でを背にしている所為で、影となっているその顔は見えず。
しかし、その容姿はハッキリと見える。
まだ幼い小さな体、腰近くまで伸びているツインテールの煌めく金髪。
紅い双眸はまるで宝石の様に綺麗だった。その少女はただ静かに喧騒の届かぬ廃墟の建物から見つめていた。
「今晩、来る……捕まえるよ」
[了解です、我がマスター]
それを最後に少女の姿は忽然と姿を消す。
夜は………始まったばかりだ。
案の定、またもトラブルの匂いがぷんぷんと漂い始める第二都市。
バルドの安息の時は何時になったら来るのだろうか……。
そして、最後に現れた彼女は果たして何者なのか……。
それでは、今後とも宜しくお願いします。
では(゜∀゜)ノシ!!




