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第九話 黒蠍のビアンカ

第九話更新。


いつも以上に時間がかかってしまい申し訳ありません。


最近のリアルの忙しさは異常。

そんな中での投稿です。上手く文を纏められませんな……。


では、本編をどうぞ。






「ひゃっほ~~!!」

「ちっ!」


静かなる森の中を賑わす激しい音。刃と刃が激突する金属音が響き渡る。

両陣営の間で二人の影が高速で交わっている。


 十合、二十合……いや、それ以上の戦いが繰り広げられている。

もし、此処が闘技場か何かであったならば間違いなく両者には拍手喝采はくしゅかっさいが送られていただろう。


ビアンカと呼ばれる女性は、バルドが強い相手だと分かるとその攻撃性を更に高めて素早く、そして変則的な攻撃を仕掛けてくる。


 そんな彼女の攻撃を身の丈よりも大きく重量もある大剣を軽々と振るって弾き、受け流していく。

しかし、嬉々として斬りかかってくる相手とは裏腹にその表情は逆にめんどくさそうなものだった。


 彼にとってこの戦いなど、めんどくさい以外の何物でもない。

さっさと終わらせるか、軽くあしらってからとんずらした方がいいと思っている。


だが、それには時間が僅かに足りない。


 円月刀の一撃を受け止めてからチラリと後ろを見る。

そこにはほのかとフィリス、そしてアシュトンがハラハラしながらこっちを見ているのが見えた。


そう、今の彼は単独行動ではない。

単独行動だったら逃げる事など造作もないのだが、後ろには三人の少年少女がいる。

彼女達を連れて撤退するには相手の隙が少なさ過ぎた。


「いい加減、鬱陶うっとうしいんだよ!! 黒狼斬!!」

「きゃははは!! 上がってきたあぁぁ!! 地裂衝!!」


 相手の武器を押し返してから地を掛ける黒い斬撃を飛ばす。

それに対してビアンカも着地後に素早く斬撃を放ち、両者の攻撃は中央で激突し、爆ぜて相殺される。


「空中からこんにちわっ!! 空衝撃!!」

「っ……!!」


直後に土煙を突き破ってビアンカが跳躍し、空を蹴って、空中から一気に急降下。

刃が振るわれる。煌めく黒き光の線がバルドの脇を斜め上から下へと奔って、直後にビアンカが着地する。


その瞬間、彼の右腕に傷が入り血が滲んだ。


「バルドさん!!?」

「掠り傷だ、心配すんな!!」

「きゃははは~~!! どんどん上げてくぜ!!」

「なめんなよ……小娘が!!」


 更に速さを上げる相手にバルドが咆え、来る攻撃全てを素早く動いてさばいていく。

途中で飛び退き、木の幹を蹴って飛び掛かって来た相手に逆にタイミングを合わせ、回転斬りを繰り出して弾き飛ばし、地面に叩き落とす。


 すぐに黒炎の弾丸を生み出して一斉に降らしてその周囲一帯を爆発で包み込んだ。

だが、土煙の中からビアンカは飛び出し、再び空中にいるバルドへと跳躍して突撃する。

それにバルドも剣を構えて応え、突撃。両者が激しく空中で交わった。


「つっよいな~、お前!! あたしは楽しいぜえぇぇ!!」

「俺は、面倒くせえがな!!」


 心底楽しそうにするビアンカと、心底めんどくさそうな顔をするバルド。

相手の攻撃を押し返し、バルドは着地する。

空中に浮き上がったビアンカが体勢を整えて、目標を補足した獣の様にバルドを狙う。


「もう一度、くらえよ!! 空衝撃!!」


猛スピードで落ちてくるビアンカ。

それを前にバルドはゆっくりとバハムートを構え、狙いを定める。


(このタイミングは外さねえよ……)


むしろ、相手がその攻撃を仕掛けてくるのを待っていたのか不敵な笑みを浮かべた。

黒き炎がバハムートの刀身に宿り、燃え上がる。


 その彼に向かって深い笑みを浮かべたビアンカが刃を振り下ろす。

だが、その一撃を彼は逆手のケルベロスでしっかりと受け止めたのだ。

そして、剣越しに彼の鋭い眼が相手を射抜く。


「邪魔だ……!! 裂旋衝!!!」

「っ!!」


 相手の攻撃を押し返し、右足を軸に回転し反対の手に持っていたバハムートで回転斬りを繰り出す。

空気が音を立てて切り裂かれ、邪魔する全てを叩き潰さん勢いでバハムートが迫りくる。

それにギョッとした顔になったビアンカは直ぐに空いていたもう一方の武器を前に出して受ける。


だが、力の差は歴然。

あっさりと彼女の身体は後ろへと吹っ飛び、木々を突き破って奥へと消える。


「やった!」


 相手を倒したと思ったほのかが小さく声を上げる。

彼の勝利を確信していた三人だったが、しかし彼は未だにその鋭い眼を相手の消えた森の奥へと向けたまま、大剣を下ろすことなく見つめていた。


それに三人が疑問を感じて首をかしげ、バルドの視線の先を追う様に見る。



そして――


「はは……。いいねいいね~……さいっこうだよ」


 なんと森の奥からバルドに弾き飛ばされたビアンカがゆっくりと姿を見せた。

戦闘服には彼の一撃が僅かに通ったのだろう、上着にある鎖帷子に斬撃の入った跡が残されていた。

しかし、そんな事など如何でもいいのか、ビアンカはバルドを見て更に笑みを深くして見つめていた。


「こんな戦いは久しぶりだ!! 上がってくるよ、もっと、もっと上がるよ! きゃはははは!!」


姿勢を低くし、獰猛どうもうな猛獣の様な瞳でバルドを狙う。そんな彼女を前に、彼は静かに大剣を向ける。


「さあ、もっと楽しく戦おうぜ!!!」

「……わりぃがそんな気はさらさらねえよっと!」


両者が同時に動き出し、高速で交わる。

薄暗い森の中で激突する刃。激しく散る火花と激しい金属音が響き渡る。


 ビアンカが大きく踏み込みつつ円月刀を振るう。

それを彼は後ろに飛び退いて避け、次の一歩で今度は前へと出て斬り掛かる。

だが、相手は素早い身のこなしでそれを避けるとその場で姿勢を低くして足払いを繰り出す。


大剣を振り下ろした勢いに逆らう事なく、剣を地面に突き刺して上へと跳躍して相手の背後に着地、直ぐに身を捻ってバハムートを振り下ろす。

ビアンカは横に転がる様に飛んでそれをかわし、全身をばねの様に動かしてバルドに飛び掛かり両手の円月刀を同時にクロスする様に振るった。


 ケルベロスで受け止め、押し返した後に地面に叩きつけて黒い衝撃波を飛ばす。

地面を抉りつつ迫るそれに彼女もまた衝撃波を飛ばして相殺し、爆発させた。


二人の姿が砂煙の中に消える。

そして、その中で激しく両者が激突する音が聞こえ、直後に剣圧で砂煙が吹き飛び、姿が再び現れた。


「す、すごい戦いだね……」


そんな彼の戦いを初めてみたアシュトンはそう声を零した。

それにはほのかもフィリスも同意して頷く。


ただ、彼女達は一つ。彼の事を見て分かった事があった。


それが――


「バルドさん、すごくめんどくさそうな顔してるの……」

「うん。私もそう見えるね。まだ彼の戦いを見たのは数回だけだけど、何となく分かるよ」

「え?」


 そう、彼女達にはバルドがこの戦いを凄くめんどくさがっている様に見えた。

鍔迫り合いになる時に動きが止まるのでその表情が見えるのだが、その表情が凄く気だるそうな顔に見えたからそう思った理由だ。


まあ実際、そうな訳だが……。


「バルドさん、きっと私達がいるから戦ってるの」

「そうなの?」

「短い間だったけど、バルドってすごく面倒事が嫌いみたいなんだ。だから、きっとこの戦闘も早く有耶無耶うやむやにして逃げたいと思ってるよ」

「でも、私達がいるからバルドさんはきっと戦っているの」


間違いなく足を引っ張っているのは自分達だろう。故に彼は逃げずに戦っているのだ。


 だからといって、彼に全てを任せるのはよくない。

それに、彼女達はこのままジッと彼の戦いを見ている気はなかった。


 あの戦いは間違いなく殺し合いの戦いだ。

本当は怖い。けど、大事な人を助けたい。それが今の彼女達の思いだった。

ギュッと自分の相棒を握り、彼女達はドキドキと緊張で高鳴る心臓をなだめながら強張った顔で前に出ようとする。


「二人とも、如何する気なの!?」

「バルドさんを……助けるの!」

「危険だよ!!」

「それは分かってるよ。でも、少しでも隙を作れればバルドならきっと何とかしてくれる」


ホンの少しでもいい。自分達で隙を作れば、バルドは彼女を如何にかしてくれる筈だ。

だから、自分達でそれを作ろうと思った。


「……待って二人とも。それなら、僕も手伝うよ」

「アシュトン君?」

「僕に考えがあるんだ。一瞬でも隙を作れればいいんだよね?」


彼はおもむろに持っていた杖を構えた。

何をするのかとその動向を彼女達は見守ると、彼の足元より、不思議な文字の描かれた魔法陣に似たものが展開されたのだ。


「これって……魔術陣!?」

「アシュトン君、魔術士だったの!?」

「まあ、ちょっとね。まだまだ未熟なんだけど……」


驚いた表情を見せる二人に、彼は苦笑して答えた。そして、魔術陣を展開させたまま二人に話しかける。


「僕が魔術を使ってあの人達を全員足止めするよ。だから、魔術が発動するまでの間、一瞬でいいからバルドさんと一緒に時間稼ぎを頼んでもいいかな?」

「うん! 任せてなの!!」

「出来るだけ、頑張って見るよ!」


そんな会話が行われている前方でバルドとビアンカは戦闘を続けていた。


「もっと、もっと上げようか~~!! この殺し合いはたのしいね~!!」

[こいつ、戦闘狂じゃん。面白い相手だね~相棒、ウヒャヒャヒャ!!]

「俺からしたらめんどくさい以外のなにものでもねえがな!!」


 そろそろ、彼女との一対一が飽きてきた彼はそう相棒へ叫ぶ。

そんな彼の心情を知らず、ビアンカは更に楽しそうな表情を見せ、相手の命を刈り取らんと変則的な攻撃の嵐を繰り出してバルドを襲う。


「断殺刃っ!!」

「ちっ……!! 獄炎剣!!」


 高速回転する円月状の斬撃がバルドに向かって放たれる。

飛んでくる斬撃を前に舌打ちをしてからケルベロスに黒き炎を纏わせて地面に叩きつける。


前方に爆発が巻き起こり、相手の斬撃を消し飛ばす。

その爆炎を利用してビアンカが頭上へと跳躍し、バルドの上を取る。


「きゃははは!! その命、もらった~~!!!」


空気を蹴って弾丸の様に落ちてくる彼女。

それを見上げる形で彼は両手の大剣をしっかりと握って迎え撃つ体勢に入った。


そして、両者の距離があと少しで互いの攻撃範囲に入る正にその瞬間だった――


「フォトンブレイザーーーッ!!」

「おおっと!?」


 横合いから飛んで来た桜色の砲撃。それがビアンカに向かって飛んで行く。

それに気付いた彼女が身を捩じってそれを回避して地面に着地、後方へと下がった。

絶好の機会を逃したのに目を見開いた彼だが、それ以上に後ろから来た攻撃にもっと驚かされる事になった。


「バルドさんを、これ以上傷つけさせないの!!」

「ほのか、手筈てはず通りに行くよ!!」

「うんっ!!」


何と、ほのかとフィリスが戦いに参戦してきたのだ。

それにはバルド自身、驚きを隠せずにいて唖然としていた。


そんな彼の心情を知らずに彼女達が魔法を行使、周囲に多数の魔力弾を形成し出した。


「痛かったらごめんなさい!! シャインバレット、シューーット!!」


最初に謝っておきながら、彼女は魔力弾を斉射する。

降り注ぐ弾幕が後退したビアンカを含め、彼女の部隊にも迫る。


「じゃ…まっ!!」


その降り掛かる魔力弾を彼女を含め全員が持っている得物で弾き飛ばす。

そして、攻撃を仕掛けてきたほのかへギッと鋭い目で睨みつける。


「お前……生意気!! ぶっ殺してやるよ!!」

「そうはさせないよ!! 撃ち抜け水流、アクアスパイク!! シューーット!!!」


続けて今度はフィリスが魔力矢を頭上に向けて発射。大量の矢が山なりに飛んで頭上より落ちる。


しかし、それは全てビアンカ達へと届くことなく地表に落ち――――


爆発の衝撃で彼女達の前方に大量の砂塵を巻き起こしたのだ。


「っ……!! 目晦めくらましなんて――!!」


その程度の攻撃なんぞ、と思ったのも束の間だった。

突如、彼女達の足下に土色の不思議な文字の描かれた陣が展開されたのだ。


「なっ!? これは……魔術!!?」

「襲い来るは足掬う大地。絡め取れ、ドラグスワンプ!!」


 同じ魔術陣を展開していたのは他でもないアシュトンだった。彼が魔術の詠唱を口にして完成させ発動。

直後に、ビアンカ達のいる足場が一斉に軟化して沼地へと変貌を遂げた。


 驚異的な早さで足場が無くなって行き、ビアンカ達は自分達の足場を失っていく。

沈みゆく自分達の足場を見て彼女達は慌てた様子を見せた。


「な、なんじゃこりゃ!?」

「ビ、ビアンカ様!! 敵の魔術です!!」

「くっそーー!! 早く抜け出すぞ!!」

[おっ、相棒。何だかこれはチャンスなんじゃね?]

[上手い具合に相手の隙が出来ましたね]

「なら、話は簡単だ。これ以上の戦闘は面倒だ。さっさと逃げるぞ!!」

「なっ!! 待てよテメー!! 逃げんのか!?」


 叫ぶ相手に背を向けてバルドは駆け出し、直ぐにほのかとフィリスを抱えてアシュトンへと合流。

そして、フィリスの方を彼へと押しつけてから振り返り、左手に持つバハムートを振り上げる。


「悪いな。俺は面倒事が大嫌いなんでね。ふんっ!!!」


 そう言い残して彼が全力で地面にバハムートを叩きつける。

衝撃で大量の砂塵が巻き起こり、彼等の姿を完全に覆い隠した。


ビアンカは何とか先に一人脱け出して煙の立ち込める先へと飛び込んで刃を一閃した。

空気が裂かれ、煙が吹き飛ぶ。


しかし、そこには既に誰もおらずバルド達の姿は忽然こつぜんと消えていた。


「~~~~っ!!」


 逃げられた事に激しい怒りを覚える。手に持つ円月刀の柄を強く握り、歯ぎしりする。

遅れて魔術の効果が失われて部下達も脱出し、彼女の下へと集結する。


「周囲の魔力反応に先ほどの反応はありません。相手に逃げられたかと……」

「んな事は分かってる!! おい、まだそこまで遠くには逃げてねえ筈だ!! 探すぞ!!」

「はっ!!」


怒鳴る形で彼等に命を下す。

それに逆らう事なく、部下達は返事を返して森の暗闇の中へと消えていった。


「絶対に逃がさねえぜ……。お前はあたしが殺してやるよ…」


脳裏にバルドの姿を思い浮かべてニタリと深い笑みを映して、彼女もまた彼等の後を追う様に森の闇の中へと姿を消していった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





一方その頃、バルド達はなんとか森の外へと脱出していた。

彼の両脇には少女二人が荷物の様に抱えられていて、遅れてアシュトンも彼の隣に追い付き激しい息切れを起していた。


「追手は……来てないか」


背後にある森を見てバルドは追手の有無を確認する。無事に相手を撒いたのに彼は小さく息を吐いた。


「ったく、変な奴らに目を付けられたもんだ……」


 まあ今はそんな事は如何でもいい。

問題は……今、自分が両脇に抱えている少女二人だった。

二人を降ろし、彼は表情を険しくさせて彼女達を見下ろした。


「おい、お前等。一体、如何いった考えであんな馬鹿な真似をしやがった……」

「だ、だって……」

「だってもクソもねえよ。さっきの行動がどれだけ危険な事なのか、分かってるのか?」


 低い声で言われ、彼女達は何も言い返せずうつむく。

その二人を見てアシュトンが二人を庇う様に前に出て弁護しようとした。


「待ってよバルドさん。二人は何も悪くないよ。悪いのは、僕で――」

「アシュトン、お前もだ。その歳だったら自分のする事の危険さぐらいは分かってるだろ? お前はコイツらよりは少しは賢いと思ってたんだがな。俺の見間違いか?」

「っ……」


ギロッと目を向けられて彼は言葉を詰まらせた。そして、言い返す事も出来ず彼も顔を俯かせる。

三人の取ったあの行動は、自身の命を危険にさらす行為だ。

相手はその戦いぶりから察する様に殺しに何の躊躇ためらいもない。


 『クロス王国』のビアンカ隊は魔術国家、魔法国家双方でも有名な戦闘部隊で、王国の部隊の中でも最も攻撃性の強い者達が集っている。

特に部隊長を務めるビアンカと呼ばれる女性は、相手を殺す事になんの躊躇ちゅうちょもせずその刃でほふる事で冒険者たちの間では有名だ。


 そのさっきの戦いから分かる様に強者を見つけるとより好戦的に、そして苛烈な戦闘を仕掛ける。

また、彼女は部下にも刃を向ける事があるという噂もある。

何にせよ、子供である彼女達が牙を向けるにはあまりにも危険すぎる相手なのだ。


そんなビアンカ隊にほのか達はあろう事か、魔法で、魔術で攻撃を仕掛けた。

結果、そのお陰でバルドも彼女達を連れて逃げるという選択を選べた訳だが……。


「俺がお前等に言いたいのは……戦う覚悟もない奴らが、人間相手に牙を向けんじゃねえよ」


 バルドが言いたいのはそれであった。

戦う意志もないのに、人に向かって魔法を使うのはあまりにも危険な行為だ。

それが、自分よりも強い相手に向けたとなれば尚更である。


言われた二人はバッと顔を上げて彼に反論をする。


「そ、そんな事ないもん!! 私だって、バルドさんを守る為なら戦えるもん!!」

「俺が言いたいのはそういう事じゃねえよ」


勘違いしているようなのでバルドはため息を吐いた。

そして、此処で言っておくべきと判断し、落ち着いた口調で話し始めた。


「戦うって事はだな、誰かを必ず傷つけるって事だ。誰一人傷付かねえで笑顔ではいお終いって訳にはいかねえんだよ。さっきの戦いは、そういう類の戦いなんだよ。お前等には、その覚悟がねえ」

「………」

「お前等は始まりの洞窟で戦う決意をしたのは分かってる。だけどな、今の戦闘とあの時の戦闘は似ていてて違うんだよ。洞窟での戦いは、誰かの為、都市の為……つまりは他者の為の戦いだ」


 戦いには幾つか種類が存在する。

その中で代表的な戦いと言えば、『誰かの為に戦う』、『個人の目的で戦う』の二種類だ。


 守りたい者を守る為、その身の危険を顧みずに戦うのが『誰かの為に戦う』種類だ。

逆に、己の欲を満たす為に強者を探し戦いを仕掛けるのは『個人の目的で戦う』種類のものだ。


 他者の為か、または己の為か……。

これだけでも戦うという意味は大きく分かれる。


勿論、モンスターを相手に戦う理由にこれが当てはまるのも当然だ。


 ほのかとフィリスは、始まりの洞窟で確かに人の為に戦う決意をしてモンスターに挑んだ。

だが、今度の相手はモンスターではない…人間だ。野生本能に従って動く獣ではないのだ。


「あのビアンカって奴は個人の目的で戦う種類の人間だ。お前らみたいな自己犠牲野郎とは違うし優しさなんぞ持たねえ。守りたいって思っただけじゃ、あの戦いに入んのは危険なんだよ」


そこで一度言葉を切り、一息吐いてから再び言葉を発する。


「守りたい、守ってあげたい。その覚悟があるのは分かる。だがな、それとこれとは全くの別物だ。守りたいから戦うだけじゃ足りねえんだよ。守りたいから、相手を傷つけてでも……殺してでも戦う。さっきの戦いは、そういった覚悟が必要なんだ」

「傷つける、覚悟……?」

「そうだ。守りたいから戦う覚悟だけじゃ駄目だ。その先にある、他者の為に他者を傷つけても守る覚悟が必要だ」


まあ、お前等には難しい話か……。と彼は呟いて後頭部を掻いて溜息を吐いた。


「でも……」

「ん?」

「それでも、私は戦うの……。だって、そうしないとバルドさんもフィリスちゃんもアシュトン君も傷付くと思ったから……だから、また同じ事があったら私は、戦うの」


それだけは伝えようと思ったのか、ほのかは真っ直ぐにバルドの方を見てそう言った。

その眼は揺れる事なくバルドの眼に映る。


それをしばし見つめていたバルドだったが、腕を組み目を閉じる。

少しして再び目を開き彼女へ言葉を返す。


「お前の覚悟は分かった。だがな、忘れるなよ。覚悟を持つって事は、それによってお前の周りにも少なからず影響を与える。その事を考え責任を持つ、それも一種の覚悟だ。お前等はそこが抜けてるぞ」

「え……?」

「どういう事?」

「お前等は、一人でこの世に生きてるのか?」

「あ……」


言われて彼女はハッと気付いた。

その表情でほのかが悟ったのを分かったのかバルドは続きを話す。


「お前には家族がいる。覚悟ってのは一人で背負いこむものもあれば、周りにも影響を与える事もある。相手に恨みを買う様な事があれば、その時、家族や友達に報復があるかもしれない。そこんところも、よく考えておくんだな」


話は終わりだ。

そう言って彼は、言われて俯く二人の少女の間を通り抜けて先へと進んだ。


「バルドさんは……」

「あ?」

「バルドさんは、その覚悟を持って戦ってるの?」


しかし、その背に向かってほのかは問いかける。

歩みを止めて彼はほのかとフィリスに目線だけ向ける。

少女の眼差しを受け、彼は彼女の瞳をらす事なく見つめて返事を返した。


「当然だ。じゃなきゃ冒険者なんぞ出来るかよ。俺は、自分の信頼している奴らは絶対に守る。例え、世界を滅ぼす結果になろうと、俺自身がこの世界から消える事になったとしてもな。それが……俺の過去からの約束だ」


 世界を敵に回したとしても、自分の手の届く範囲にいる大事な人達は絶対に守ってみせる。

そう言って彼は再び一人先に進み始めた。


 その大きな背中をほのかはフィリスと一緒にその場で立ち尽くして見つめるしかなかった。

そんな二人の肩に手が乗る。振り返るとアシュトンがいた。


「行こう、二人とも。置いてかれるよ?」

「う、うん……」


彼にうながされ、二人は沈んだ気持ちのままアシュトンと一緒にバルドの後ろに付いていく。


 少し気まずい空気が漂う中、彼女等の前にアスファルトで舗装された一本道が現れる。

その道の先に視線を送ると、巨大な城壁に囲まれた都市の姿がぼんやりと見えた。


「あっ、あれがもしかして…」

「第二都市『アクエリウス』だ」


 第二都市アクエリウス。主に脇を流れる巨大な川を中心に発展した都市で、水の魔力素が多く満たされている所でもある。

水産業も盛んに行われており、水に関する恩恵を強く受けているのである。

その都市を見てから彼は小さく嘆息する。


「まさか、また此処に帰ってくるとはな……」

「え? もしかして、バルドさんが出張でいなかったのは此処に行ってたから……なの?」


おずおずと聞いてくるほのか。それに彼は普段通りに応えてくれた。


「まあな。最近、ここいらのモンスターがまた勢力拡大を始めたから、規定数まで減らす依頼があってな。此処に来ていたんだよ。それと……別に俺はもう怒ってねえからそんなに怯えんな」

「でも……」


俯くほのかを見て彼は彼女の頭に手を乗せて少し乱暴に撫でる。


「さっきは俺も言い過ぎた。けどな、それ位に大事な話なんだよ。取り敢えずは頭の何処かにでもいいから留めておけ」


フィリスもアシュトンいいな? と彼女の方にも目を向ける。

それにフィリスもアシュトンもまたしっかりと頷いて返事を返した。


「えっと、さっきモンスターを規定数まで減らすって言ってたけど如何いう事なの?」

「モンスターは時々、その個体数を大幅に増やす時がある。それを放っておくと他の生態系にも影響を与えるからな。それで、決められた数を討伐する依頼がSCCAと冒険者の両方に時々来るんだよ」

[相棒の手にかかりゃ、ひと月は掛かる討伐も一週間だぜ。ウヒャヒャヒャ!!]

[その結果、仕事が早いという理由で他のモンスター討伐の依頼が殺到してましたね。ふふっ、若の名声が更に広がりましたよ?]

「月に十件もモンスター討伐の依頼を受ける羽目になったけどな!」


心底うんざりした様な顔になった彼を見て、彼女達は苦笑いするしかなかった。

そこにまた足を入れるのだからめんどくさがるのも無理はないとは思うが……。


「でも、そんなにモンスターの討伐依頼って多いの?」

「時々はある。大量発生した時や一時的な異常気象で活性化するモンスターなんかが出るときは結構な依頼が入るな。最近起きた異常気象っていや……」

「あの大地震なの……?」

「その予兆を感じて暴れ出したのかもな。どっちにしろ傍迷惑な話さ。俺は面倒事が嫌いだってのによ……」

「でも、バルドさんはそんな事言ってもちゃんと手伝ってくれるのを私は知ってるの!」


 どんなに面倒な事でも、彼は知り合いの頼みは断った事はない。

それは身近で接していたほのかやマリナ、舞華は知っている。


 そこが、彼の良い所の一つだと時々話し合った事もあった。

褒められて彼とて嬉しくない訳はない。それには素直に礼を述べた。


「おう、サンキュー」

「でも、私達に対して意地悪な所もあるの! そこは直した方がいいと思うの!」

「………………」


 しかし、続けて言われた発言にバルドは口を閉ざす事になった。

そんな彼を見て虚空よりケルベロスが姿を見せ、ゲラゲラと笑う。


[おぉ~、持ち上げてから一気に落とす!! さっすがだぜ、ほのかの嬢ちゃばすっ!?]

「悪かったな~意地悪な兄さんでよ~? そんなお前にはご褒美に頬っぺたつねってやるよ」

「にゃ~~~!?」


 ケルベロスが余計な事を言って殴られて沈黙。

その後にほのかの両頬を摘まんでぐにぐにと引っ張り始める。


彼の攻撃にほのかは成す術なく、両手をブンブンと振るしか出来なかったのだった。

『口はわざわいかど』とはよく言ったものだ。


しばらく彼女の柔らかな頬を弄って遊んでいた彼はようやく手を離した。


「あぅ~……酷い目にあったの……」

「最後に余計な事を言うからだ」


 頬を押さえて頬を膨らまして怒っている仕草を見せる。

その彼女の頭を軽くポンポンと叩いて宥めておいて話を変えて街に入ってからの事を話す。


「まあいい。取り敢えず街の中に入ったら昼飯を食うぞ。その後は買い物だな」

「何を買うの?」

「決まってんだろ。お前等の生活用品だよ。流石にその服を何時までも着てられないだろ? 船が出るのは明日の昼だ。その前に買っておいた方がいいんじゃねえか?」


確かに、昨日も着ていた下着や服を着ているのは若干の抵抗感がある。


それには大いに賛成の声を上げた二人の少女。

元気良く返事を返してきた彼女達に今度はバルドの方が苦笑いして、三人と共に第二都市『アクエリウス』に向かって歩み始めるのだった。




という訳で、次回は第二都市が舞台となります。


戦闘描写は難しいです……。もっと精進せねば。


今後も黒蠍の人達とはエンカウントしそうなフラグががががっ!!

こんな人たちにはもう金輪際、出会いたくはないですな。


それでは、次回も宜しくお願いします。


では(゜∀゜)ノシ!!



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