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異世界転移したらハズレスキル《ゴーレムハート》でした ~辺境から始める民間軍事会社経営~  作者: 東雲


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第九話「平和主義の領主サマ」

―王国歴18年 終の月

ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 ジョウイチロウ・クガ


傭兵団【明日への希望(ピースメイカー)】と契約して一ヶ月が経った。

正確には三週間くらいだろう。

団長のヒビキさんは、なんと異世界人だった。

隣国で召喚されて十年間、兵として働いたそうだ。


細かくいろいろ話を聞いてみると、同じ日本なんだけど全く違う日本出身らしい。

ヒビキさんの居た日本はなんと日本帝国のままらしい。


だから若干話しが噛み合わない。

徳川幕府とか無かったらしいしね。

東京じゃなくて央京なんだってさ…


さて、それはそうとして、我々コルト村は今危機に瀕している。

食糧問題はマクセルさんのお陰で解決した。

交通事情はティール爺が上手く纏めた。

カナさんは今日も傭兵団を引き連れて、獣の間引きに行っている。

さて、何が危機なのかと言えば……


「やはり挙兵の様ですな」


戦争問題だ。


―王国歴18年 終の月

ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 ティール・


ふむ、やはり挙兵か……少々目立ち過ぎたかもしれん。

王都から届いた手紙と辺境伯から届いた手紙。

さらに、マクセルに頼んでおいた食糧の推移。

それらを照らし合わせると出てくるのは南の領地【ザントリーフ】の挙兵。


「どう思うかの?」

自室に呼び寄せておいたマクセルとヒビキに茶を薦めながら尋ねる。


「まぁ、十中八九、戦争…と言うか挙兵でしょうな……相手はクガ領(うち)で間違いないかと」


ヒビキが茶を啜りつつぶっきらぼうに言う。

この男、かなり戦術眼に優れておる。

何を隠そう食糧と資源……特に石の値動きには注意をはらってくれと進言したのはこの男だ。


戦争を始めたい連中は、まず石を買い集めるそうだ。

城壁の補修、投石、砦の築造、街道封鎖……石は戦場で最も消費される資材の一つだという。


「狙いは、陶器……いや、違う……道路でしょうね」


マクセルも出された茶を飲み口を潤す。


今回の動きは、マクセルのお陰でかなり早かった。

ほんの僅かな値の動きを掴み取り、儂に提言してきた。

調べて欲しい事がある。と……


先週に比べて麦の値がほんの5ベリスあがった。

しかも一瞬だけの高騰。

そこで異変に気が付ける者もなかなか居らぬ。

儂も気が付けなかった。


「道路か」


思わず重いため息を吐いてしまう。

あれは、閣下が村民の暮らしが少しでも良くなればと、思い付いて最初に行った事業じゃ。

それが戦争を引き寄せてしまうとは……閣下の胸中はいかなものか……


その時扉がノックされる。


「ティール爺、ヒビキさんいる?」


扉を開けるとそこには閣下がおった。

相変わらずのんびりとした、見る者によっては腑抜けに見える、そんな青年がそこにはおる。

この顔を曇らせるわけには……いかんなぁ?


「おう、旦那。どうした?」

「あ、いたいた……この間話してたやつ。目処が付きそうなんだけど、見てくれない?」

「この間……あぁ、駆動馬車か。もうできたのか?」


また良く分からない名前が飛び出したもんだ…一体今度は何を作り出したのだろうか…?


―王国歴18年 終の月

ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 ヒビキ・ヒタチ


「旦那……こりゃ……」

今、俺の目の前にトラックがある。

鉄板やゴムなんかは使われていない。木製だが、馬車よりも遥かに大きい。


「色々やってみたんだけど、なかなか効果が出なくてさ……

 今はまだ馬を動力に使うって感じかな。将来的に…ってかギアが安定して作れる様になれば動力も【ゴーレムハート】でイケるかな」

「運搬能力はどんなもんで?」

「まだその辺りは未検証だけど…10トンから15トンくらいなら運べると思う」


十分過ぎる性能だ。

帝国の四頭引きの軍事馬車で5トン程度だったと考えれば…倍

ごくりと生唾を飲み込む。

これは……兵站が変わるぞ。


「速度も馬次第だけど俺の愛ロバ(ロシナンテ)ですら結構な速度が出た。前の幌馬車の倍が三倍くらいの速度出てたかな?」

「積載は?どんなもんでその速度が?」

「えっと……石材をギッシリ積んでかな?10トンは積んで無いと思う」


ふむ…補助駆動ってレベルじゃねぇな…


「旦那、前に頼んでた馬はどうなってる?」

「辺境伯からの手紙に送ったと書いてあったわ。

 2〜3日内には届くじゃろ」


ティール翁が合流しながら説明してくれた。


「あ、そんな早く来れるんだ……じゃあ3~4台は実働出来るかな」


分かってなかったのかよ旦那…


「それとマクセルさん。例の金属加工の職人何とかなりそう?」

「若さま、私のことは呼び捨てで……」

「慣れないんだよねぇ…まぁいっか。で職人は?」

「厳しいですね……挙兵間近だと特に」

「木製歯車だと強度に問題があるんだよねぇ…駆動馬車にも使ったけど、摩耗が激しすぎる」


うーん、と唸る旦那。


「うちの手先が器用な連中を数名、旦那に預ける。歯車の交換を教えて貰うことは出来ねぇか?」

「あー、そっか何も俺が全部やらなくてもいいのか…そうなるとメンテナンス性を確保して…あ、でもメンテナンスが簡単になると強度が…」


故郷にもいたなぁ、こういうタイプ。

思いついたらどんどん作り出すんだこの手の輩は…


「旦那、もう一つ。

 コイツに装甲を付けることは可能か?」

駆動馬車のシャフトと駆動部を覗き込んで唸っている旦那に声を掛ける。

「強度はこっちを強くして 

 ……ん?装甲?鉄板とかは今は無理だね。加工技術が無い」

「木盾でも構わん。矢が防げればいい」

「じゃあ大丈夫。ちょっと積載量は落ちるけど」


よし、ならば装甲車として運用が可能だ。


「問題ない。人間4~5名乗せれればいい」

「あぁ、タンクデサントみたいな運用か……じゃあ全然大丈夫。クロスボウは必要?」

「あるのか?」

「今から作る」


こいつ……もしかしてすげぇ馬鹿なんじゃないのか……?


「閣下。そこまで急がなくても大丈夫かと」

「ん?なんで?」

「今は終の月、あと1週間もすれば始の月となります。明の月は新年を祝うのが慣習…挙兵は恐らく再来月の凍の月か、2ヶ月後の天蛇の月になりましょう」

「…なるほど。じゃあその間俺たちは準備に回せる……と」


恐ろしいヤツだ。

駆動馬車ですら1ヶ月程度で作り上げたのに、この化物に2ヶ月も猶予を与えるのか…


「車載クロスボウだったら……巻き取り機構と安全装置か……」


ブツブツと物騒な事を呟いている。

コイツは…放っておくのは危険かもしれんな……。



―王国歴18年 終の月

ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 ジョウイチロウ・クガ


さてと……残り二ヶ月、か。

短いと見るか、長いと見るか。難しいところだな。

戦争の準備期間って考えると短いのか?

でも、駆動馬車の開発期間を考えると、まぁまぁ時間がある気もする。

なんにせよ、基本は発展と改良だ。

色々と洗い出しをしておこうかな。


一つ、ろくろの連動。

これは板ゴマと皮ベルトで何とかなった。

低速回転だから連動させられる。

歯車を噛ませるとたまに動かなくなるからここは要検証だな。


二つ、木製歯車の増産。

ろくろの時に概要を話したら作り上げてきた歯車。手作業なのにかなりの精度なんだけど…なんせ弱い。

大型機械なら何とかなるが、小型となるとお手上げだ。

鉄が何とかなればいいんだけどなぁ…


三つ、高温窯の安定化。

これは…配合が中々上手くいかない。

粘土に岩石を砕いた砂を混ぜて、配合を変えて焼いて……

なかなか思うような耐火性が得られない。

これが出来れば鉄器の扱いが出来るはずなんだが…


「はぁ……上手くいかないもんだなぁ……」

「上手くいったらいったで文句言うくせに」


うお、いつの間にかカナさんが部屋に居た。

あー、びっくりした……。


「いつの間に……」

「難しい顔して資料と睨めっこしてたから、話し掛けないでおいたのよ」


ありがたいお気遣いに涙出ちゃう。


「もっと悩んでるかなって思ったんだけど……大丈夫そうね?」

「悩んでるよ?鉄の入手方法とか歯車の正確性とか…あ、動力としての馬やら牛やらの入手も,悩んでる」

「いや、そうじゃなくて……他領と事を起こす……戦争よ?」


あー、そっちか。


「お前の物が必要、だから寄越せ。断る。じゃあ殴り合い……これ自体はさ、別にいんじゃね?って思ってるんだよね。巻き込まれる方はたまったもんじゃないだろうけど」


カナさんが驚いたような顔で目を見開いた。


「驚いた。もっと平和主義だと思ってた」

「平和主義さ。

 平和を維持するには武力が必要とは思ってるけどね」


自分でも驚くほど戦争に忌避感は無い。

歴史シミレーションゲームの影響かとも思ったんだけど、多分違う。

責任ってヤツなんだと思う。

うっかり領主ってやつになって流されるように村を発展させた。

しかし、この国の…いや、この大陸の状況をティール爺に教わって気が付いた。


この大陸、三国志とか戦国時代並みに戦が多い。

もうあっちこっちで火が出てるし、火種はずっと燻ってる。

火薬庫の前でファイヤーダンスを踊ってるようなもんだ。

何その絵面おもしろい……


曲がりなりにも領主になったからには領民を守る責任ってヤツが出てくる。

責任を取らずに逃げたあの工場長(バカ)みたいにはなりたくない。


だからやると決めたら徹底的にやる。

鉄器が少ない、加工技術が拙いってなら俺が押し上げる。

ろくろでゴーレムハートが工業に使えることは分かった。

旋盤でもフライス盤でも作ってやろうじゃねぇか


「で、我らが領主サマは次に何をしでかそうとしているの?」

「まずは駆動馬車の安定化、次いで高温窯の試行錯誤かな…王様にもそう伝えていいよ」


あ、カナさんがびっくりしてる。

スパイなんじゃないか?って疑ってないなんて誰が言ったんだよ全く。

そもそも王国と敵対する必要は今(・)の(・)所(・)ないからね。

むしろ仲良くしておきたいとも思ってる。

辺境伯って人もまだ会ったこと無いけど同じく。


「密偵って…疑ってたの?いつから?」

「そりゃ最初から」

「呆れた……密偵かもって疑ってたのにあんなに堂々と機密情報を扱ってたなんて」

「いやいや、別にバレても良い事しかしてねーから」


全く分かってないなぁ……。

しょうがない、説明してやるか…。


「バレてもいい事ってのは俺の技能(スキル)が軍事転用出来るって所。

 これは別にバレても何の問題もない。

 敵に回すとめんどくさいなこいつ等。って思って貰えるのが一番いい」


その辺にあった立派な石を手に持ち魔力を込める。

バチンと魔力が弾ける音がしてゴーレムハートが生成される。


「こいつも別にバレても問題ない。扱えるなら扱えばいいと思ってるよ俺は。

 例えば俺を暗殺したとしても――」

「ゴーレムハートは消えない……他の技術者が発展させるかもしれない…か」


お、分かってきたかな?


「そうそう。技術ってのは失敗と改良で進むものだからね、俺が殺されたら失敗する人が一人減る。その分技術は遅れるよ」

「……」

「それでもいいなら殺せばいいさ。抵抗はするけど……カナリアさんに抵抗が意味あるとは思えないけどね」

「死んでもいい、と?」

「いやぁ……死ぬのは嫌だよ。この技能《スキル》の検証も終わってないし、ティール爺の講義もたくさん残ってる。

 マクセルに、金の稼ぎ方だって教わってる。やりたいことだらけだからね。死ぬのは嫌だね」


そこで一息入れる。

わざと隙を見せるとも言えるかな。


「でも責任放り出して死ぬのが一番嫌だね」


カナさんの目が驚きに染まる。


「あなた、何者なの?」

「異世界から召喚された元町工場の無職。今はク(・)ガ(・)領(・)の(・)領(・)主(・)だよ」


「……呆れた。本当に、呆れた」

心底呆れたと言った声でカナさんは俺を見る。

「普通の貴族はね、領民がどうなろうと自分の尊い血(ブルーブラッド)を残す事に必死なのよ?

 それを自分の命まで賭けに使う貴族(ヒト)見た事ない」


「貴族歴3ヶ月なもんで…それにさ」


「本当に尊いのは連綿と技術を繋いできた人達だよ。血だけじゃ意味がない」


だからこの村に納得もいかないんだよね…

技術を途絶えさせてんじゃねーよ。って

木工は凄いんだけどね。


「クガ男爵。貴公への危険は二度と起きない。

 貴公への害は私が全て排除する。森に、風に、精霊に誓おう」


そう言ってカナリアさんは胸に手を当てて次に額に手を当てた。

エルフ特有の挨拶なのかな?

綺麗な動作だなぁ


「ありがとう。

 ………ところでさ?ドワーフの知り合いとかいない?」


真面目な顔したカナリアさんがプッと吹き出した。

なんだよ真面目な相談だってのに…!


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