第十話「臆病者の戦争準備」
―王国歴19年 天蛇の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村より南の平野 ジョウイチロウ・クガ
「ゴーレム補助駆動戦車、2両が戻りました」
木製の戦車と言って差し支えない馬車が陣に戻ってきた。
二門のゴーレム補助車載大型投射機を搭載したこの世界、この時代では化物級の馬車だ。
あくまで馬車。
だってメインエンジンは馬だからね。
「続けて、ゴーレム補助駆動装甲車4両出撃です」
1両につき6人の精兵が乗り込む。
全部で24名。
相手の軍の総数が1000名くらいって話だけど、チャリオットで半数くらいに減らしたって言ってたから…まぁ、大丈夫かな?
「えっと、念の為、地引網も出撃で。
一気に捕獲したほうが手っ取り早くない?」
「りょ…了解。
大型地引網車両3台…出撃させます…!」
あれ?指揮官さん若干引いてない?
「旦那、一気に蹴りつける気かい?
銀弓が乗ったタンクがありゃ500人程度、ただのカカシだろうさ」
「俺はね、臆病者なんだよ」
「こんだけの兵器を作り出しておいて…臆病とは笑わせてくれるぜ」
「殴られるのは怖いから殴られる前に殴ってるだけだよ」
「臆病者が聞いてあきれるぜ」
そうかな?
やられる前にやるって徹底的な臆病だと思うんだけど…
遠眼鏡で戦場を確認する。
うわ……カナさん無双してるじゃん。
某ゲームみたいになってる。
え、人間って宙を舞うものなの……
「敵軍、撤退します!」
「追うかい?」
「いや、いいよ。 こっちも撤収しましょう」
さてなんでこんなことになったのかと言うと……
―王国歴18年 終の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 ジョウイチロウ・クガ
ドワーフ工房から見つかった資料からいくつか再現が出来た。
一番の成果物はやっぱり耐火レンガだろうか。
耐火性の高い粘土を探すんじゃなくて、耐火性の高い石を砂にして混ぜたら上手くいった。
焼く工程自体は陶器作りとほぼ変わらないのでレンガ自体は量産体制に入れる。
問題は窯だった。
とりあえずは工房の窯を修復して製鉄炉として使うんだけど
窯が小さい。
陶器窯の時もそうだったけど、水分が残ってたりすると爆発するんだよね…。
今のこのタイミングで作り出すと乾燥が間に合わない。
仕方ないから鉄の精製は小さい窯でやる事にした。
しかし鉄鉱石は見つかっても、精製出来るのは極僅かだった。
矢じりとかその程度にしか使えないかなぁ…?
本当なら板ばね位は作りたかったんだけど…やっぱり鉄を扱える技師が欲しいなぁ…
無いものねだりをしても仕方ない。
とりあえず矢じりは鉄製に出来るってのが大事だ。
駆動馬車の改良もまぁまぁ上手くいった。
ほんとこの村の人は木工技術がずば抜けている。
簡単に……って訳じゃないけどメンテナンス性能を上げた駆動馬車MarkⅡが完成した。
ティール爺が手配してくれた軍馬に曳かせてみたらかなりの速度が出た。
木製歯車で駆動補助をして、装甲を木で作って……
そうそう、装甲もかなり凄いものになった。
ただの分厚い板を付けるだけだと重量が嵩んでしまい、駆動補助の意味が無くなってしまった。
そこで中空加工をしたり、薄い板を何枚もずらして張ってみたりしたらかなり軽量で頑丈になった。
鞣した皮を内側に張ったのが良かったみたいで耐火性もそこそこ優れている。
火矢で撃たれた位じゃ燃えない、流石に火炎放射器とか火の魔法とかだと厳しいと思うけど…
クロスボウの製造はまぁ…何とかなっている。
鉄が扱えないからトリガー機構だとかは作れないかなぁ…と思ってたけど
それらを全部ゴーレムハートに代用させた。
軸にフックを付けて巻き上げ、巻き上げ停止をゴーレムハートで代用。
高トルクなのでかなり引ける事がわかった。
歯車で同じこと出来ないかな?ってやってみたら軸が折れた。
夢の連射弩は現段階では無理だとわかった。
クロスボウって言うよりも投石器に近いかな?
陶器の球に油を大量に入れて相手にぶちまけて火矢で着火とかしたらエグい事になるだろう。
投射機だから連射速度はかなり劣るけど…そこはゴーレムハート。
普通に人力で巻き上げるよりも速いし、場所も取らない。
このゴーレムトレビュシェットは今後も改良していく余地がありそうだ。
「んんんんー」
大きく伸びをする。
薄い木版に図面を引いて、その木版を削って書き直して…ってやってたので
結構疲れている。
紙…欲しいなぁ…
作るか。
結論として紙は簡単に作れた。
木を繊維にして煮て柔らかくして…ってだけのものだから真っ白な上等紙!って感じじゃないけど
木版よりはよっぽどマシだった。
そもそも紙づくりって別にそこまで秘匿技術って訳じゃなかったみたいだしね。
よく考えればマクセルが手帳とか持ってるくらいなんだから紙自体はあるんだよね。
ガリ版印刷とかは今後考えればいいか…
木工技術に優れてる人がいっぱいいるんだから版画…と言うかスタンプにしてもいいかもしれない。
さてそんなこんなで技術発展と新発明…正確には新再現を繰り返して1ヶ月が過ぎたころだ。
―王国歴19年 明の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 ジョウイチロウ・クガ
「宣戦布告が出されましたな」
ティール爺が重々しく切り出した。
今この場に居るのは領主の俺、軍事担当としてヒビキ、兵站・経済担当としてマクセル、実働隊長としてカナリアの5人だ。
元村長さんも来なよって誘ったけど恐れ多いとか言ってた。
軍事会議に来なよって誘うのはちょっと違う気もするけど……。
「敵はザントリーフ子爵か……我々より上位貴族だな」
ヒビキが重々しく…もないか、呟いた。
「豆くらいしか特産物の無い領…ですね」
呆れたようにマクセルも続く
「……誰が来てもクガ領に侵略はさせないわよ」
美人でにこやかなのに一番物騒だよねカナさん……。
「まぁ、俺たちも特産物は陶器くらいだからねぇ……それにうちも戦力もそんなにないでしょ?」
真ん中の椅子にどかりと座って俺がボヤく。
そうなのだ。
この領地の大問題は、戦力不足。
この世界の戦争は農兵が8割、職業軍人が1割、残りは傭兵で埋められている。
元寒村だけあって農民がほぼいないこの村に置いて農兵は揃う事は無い。
ぶっちゃけ戦力として当てになるのは元【明日への希望】の30名。
それと”銀弓”と恐れられているカナさん。
大工衆の数名……総戦力50名位だ。
どう考えても戦力差がありすぎる……。
「行商の方に聞いた情報、ティール翁の情報、兵站の量から察するに敵は1,000名程度の軍かと」
戦力比いくつだよ…数えるのも馬鹿らしくなるな。
「1,000対50ねぇ…どうだ?いけそうか?」
「私一人で50やれば1,000対100になるわね、10倍位なら問題ないんじゃない?」
「剛毅なこって……」
ホントだよ…剛毅って言うか馬鹿の発想だよそれ…
「でも、まぁ、その通りだな」
え!?その通りなの?
「駆動鎧の一つでもありゃ俺も前線行けたんだがなぁ…そしたら100はやれるぜ」
「あら。じゃあ私が一人で150いきましょうか?」
物騒過ぎないこの人たち…
「って……駆動鎧ってなに?」
「あ?お前の世界には無かったのか?人が乗り込んで機械駆動で動く鎧」
パワードスーツじゃん…アニメじゃないの?
ホントの事なの??
……開発してぇ……
「そんなのは無かったかなぁ…あ、でもゴーレムハートなら作れるかも?」
「お。マジか…期待してるぜ旦那」
あれをこうして…あ、この技術は使える…高トルクだから…ん?行けるか…?
「ごほん」
ティール爺の咳払いで現実に引き戻される。
開発、実証実験、発展をする時間は無いから今は諦めた方が得策だな。
あれ?でも補助くらいなら……
「閣下」
おっといけない、今は目の前の問題に対処しなければ…。
「とにかくザントリーフからの宣戦布告にどう答えますかな?
恐らくですが彼奴等の目的は転圧馬車と陶器でしょう。差し出しますかな?」
「ザントリーフ領主に手紙だして」
「内容は?」
「金額次第では売ってあげるよ?奪うって言うなら容赦はしない。柱の飾りにしてやろう」
どよめきが走った。
「閣下。それは敵対者への最大級の侮辱ですぞ」
あれ?このくらいの時代の言い回しってこんな感じじゃないの?
「旦那……歴史シミュレーションゲームのセリフそのままだろ」
「え、あぁ…そうだよ?」
「最大の侮辱だぜそれ」
「そうなの?」
「して、そのまま送りますか?」
少し悩む。
豆かぁ……豆は別にいらないからなぁ……領地奪った所でなぁ……
ん?
豆…?
油とれんじゃね??
「マクセルさんや?」
「敬称は不要と伝えましたが…何かございますか?」
「隣の領地の豆って……油とれたりしない?」
「……油分は豊富と聞きますが…搾油はどうでしょう…植物から油が取れるのですか?」
「結構上質なものが取れる…はず?」
搾油機なんてゴーレムハートなら簡単に作れるな……
待て待て…植物油がこの世界は無いのか?じゃあ豆の特産地って金の生る木じゃん?
「……話が変わってきました。何としてでもザントリーフ領が必要になります」
マクセルの目がべリスになってる。
金勘定したなコイツ。
よし、じゃあ積極的に領土貰いに行こうかな。
「ティール爺、宣戦布告してきた相手の領土を《《合法的に》》奪う方法は?」
「いくつがございますが…
戦争賠償で割譲させる。
領主の首を取り、空白地にして実効支配する
この二つが主ですな」
「どっちも物騒だが…戦争賠償の方がいいか」
「平和的と言えば平和的でしょうな」
「捕虜の交換の代わりは?」
「代官や大名であれば可能でしょうね」
ふむ……じゃあ非殺傷武器を開発した方が良いか?
ボーラ、うるし爆弾、投網…
さすまたと盾もありだな…
「……どうやら我らの大将閣下はもういくつか思い付いたようだな」
ヒビキが呆れたように呟く。
カナさんがうんうん、と頷いている。
「まぁ、いくつか思い付いた。
ヒビキ、信号弾に使ってた煙出す装置ってまだ作れる?」
「あんなもん簡単に作れるぞ?」
「じゃあ急ピッチで…そうだな、とりあえず100。打ち上げ機構は要らないから煙撒くだけのやつ」
「了解、一週間もあれば作れる」
「カナさん、弓隊はどれくらいいる?」
「狩人衆が10名、元傭兵で弓の使い手が5名、私含めて16人ってトコかな?」
ふむ、50名中16人…か。
「あと4人、この際投石紐でいいから50m先に確実に飛ばせる人材鍛えて」
「了解です。ヒビキ、何人か近接衆から目のいいの見繕うわね」
「おう、オススメが3人いる。あと1人は自分で探してくれ」
よし、50人中20人遠距離いければ…これならいけるな。
あとは開戦まで装備を整えるとしようか。




