第七話「街道の先」
王国歴18年 獅子の月末
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 マクセル・スカイ
ティール翁にも驚いたが、クガ男爵にも別の意味で驚いた。
あそこまで街道を整備しておいて領土的野心はほぼ持ち合わせていない。
攻めやすくするため、行軍しやすくするために街道整備ではなく、歩きにくいから整備…とは。
呆れというかなんというか…
しかし、あの街道の整備技術は相当の利益を生み出す。
整備してやるから同盟を結べ。同盟は五分もしくは六四でいけるだろう。
街道を握れば商人も来やすくなる。しかもクガ領の税は安い。
人口だって増えていくだろう。
男爵曰く「街道整備なんてそんな難しくないよ?障害物をどかすのが一番苦労する」だそうだ。
ティール翁も一種の化物だ。
あのやり取りの後に辺境伯、商業ギルド、王都冒険者ギルドへ手紙を書いていた。
道路が売れると言う私の提案を即応的に採用。
辺境伯へは許可か提案か……下手すれば恫喝外交の可能性もある。
商業ギルドは恐らく誘致、冒険者ギルドは警備依頼か?
わからない。あの翁の考えの奥が読めない。
「おい、坊主。手伝え」
翁から声を掛けられ執務室…と言うか簡素な小部屋に通される。
「閣下はあの通りのお方じゃ。儂の仕事手伝えぃ」
ほれ、と紙束を渡される。
この村の現在の状況、財務諸表である。
「こんな重大なものを……新参の私が?」
裏切ったらどうするつもりなのだろう…
「マクセル・スカイ、23歳。妻子はおらず、妹が重い病気。ふむ、治療費が嵩むか…。主に取り扱う商品は食料、薬、武器に日用品…手広くやっておるようじゃな」
背中に冷たい汗が流れる。
「情報を他所に売る可能性もあるにはあるが、人柄は良し…か。信用に値する情報だの」
報告書なのか紙を捲りながら翁は私に目をやる。
知られている…のか?
「ぬっはっはっは――王国の行商人を調べておくのは常識じゃよ」
いや、それは分かるが……私のような木っ端の商人まで?
「いや―――」
「自身の評判を正しく知る。それも大事じゃ、商売も、政治も、のぉ?」
心を読む技能でも持ってるのか…?
王国歴18年 獅子の月末
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 ジョウイチロウ・クガ
「盗賊集団……ですか……?」
カナリアさんと数名の村人……元狩人や、カナリアさんの腕前に惚れ込んで付いてきた豚貴族の元護衛たちが報告にやってきた。
この人たち…カナリアさんを含めてだが、致命的に生産活動が出来ない。
なのでこの村の警備や巡回を担ってもらっている。
なんで畑で的当てしてるんだよ……。
「はい、東方面に道路を伸ばすために魔物や動物の《《間引き》》をしてたのですが…その時に商隊が盗賊に襲われてました」
「東方面……ですか。
東方ですと、絹や香辛料、”ぎやまん”なんかの輸送商隊ですかね…」
金髪のイケメンことマクセルさんが呟く。
ぎやまんってガラスだっけ…?珪砂があるからうちでも生産できるかも?
あーでも高温窯の製造が先か……耐火レンガが中々上手くいかない。
「東と言えばロップ男爵の領地じゃな…あそこは絹の貿易で儲けている。
男爵が差し向けた…とは考えにくいのぉ。なんなら交易路を作れと文を寄越したくらいじゃからな」
ティール爺が貴族、政治側からマクセルさんの情報を補足する。
なに交易路って知らんぞ俺。
「閣下。現在我が領地には大量の文が届いております。
交易路を作れと言うのが半数、もう半数は陶器の利益を寄越せ、作り方を教えろ。と言うものです」
「教えちゃえば?」
「……閣下?」
「いや、なんでもないです」
コエーよこの妖怪ジジイ……
「こほん、でさ、盗賊はどうしたの?」
カナリアさんに向き直る。
「盗賊は一人残らず殲滅……とはいきませんでした。申し訳ありません」
こわっ
「妙に組織立って動く連中でして……今仲間の元狩人が追跡しています。
”巣”を発見次第、駆除に参ります」
物騒過ぎないこのエルフさん……鬼島津か?グイン・シーマンズかよ。
島津家のことは漫画でしか知らないけどね……。
王国歴18年 獅子の月末
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村東の森 ヒビキ・ヒタチ
さて、少々困ったことになった。
王国に来ればもう少し稼げるかと思ったが……貴族が腐りすぎだろ。
傭兵団の俺等「明日への希望」が今となっては札付き一歩手前か。
はるばるミドガル王国までやってきたってのに、残念なこった。
まぁ、それでも南のデミオ帝国に比べればマシだ。ずいぶんマシだ。
俺は異世界出身だ。
せっかくの休暇中にこの世界に連れてこられて…10年前だったか?
それから帝国の力になってやろうと必死に働いたが、あの国は俺達を使い捨てやがったからな……
あの豚の首に剣を突き刺すのを楽しみに生きている。
ま、そこまで生きてるかが微妙な所だがな……。
「頭ぁ!商隊がやってきやしたぁ!荷物満載でさぁ!!」
物見から報告が入る。
無線も光信号も無いこの世界じゃ物見斥候が重要になる。
「頭じゃねぇ!キャップと呼べ!
いいか?奪って良いのは飯だけだ。金銀財宝や女に目を眩ませるなよ?
金と女は身を滅ぼすぞ!!」
「そりゃ前の街の女のことですかい!?」
「うるせぇってんだよ!状況開始っ!総員配置に付け!」
「頭はフラレたばかりで機嫌が悪ぃや!全員背中に気をつけろよぉ!」
まったく緊張感の無い野郎どもだ。
だが、俺を信じて付いてきてくれた奴らだ。
放っておけねぇ……。
「対象確認!総員包囲戦に移行する!いいか一人たりとも殺すな!殺したら俺達はクズに堕ちるぞ!」
「おうさ!」
「あいよ!」
商隊を囲むように兵を配置する。
相手はまだ気が付いていない。
部下の一人が天に信号筒を向ける。こいつは俺の《《お手製》》だ。
ポンッと軽快な音を立てて赤い煙が天に昇る。
その瞬間、狼のように商隊に襲いかかる。
いつもの作戦だ。これで馬と護衛に怪我でも負わせりゃ相手も命がけでは来ねぇ
「ぎゃっ!」
「いてぇっ!」
仲間から悲鳴が上がる。
商隊からの反撃じゃない…街道の先、西のクガ領の方から何人かやってきてる。
仲間たちの手を見ると矢が突き刺さっている。
嘘だろおい…距離200mはあるぞ…
矢を撃ったであろう弓師を見る。
白木の弓を構える、銀髪のエルフ……!!
「銀弓だ!!!!総員撤退!!!ヤベェやつがいるぞ!」
腰につけた発煙筒を放り投げながら叫ぶ。
もうもうと白い煙があたりに立ち込める。
くそ、なんでこんなど田舎にビッグネームがいるんだよ!
王国歴18年 獅子の月末
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 カナリア・エイスース
「巣の発見って…害獣じゃないんだからさぁ…」
あら?ジョウ男爵は呆れている。何故かしら?
盗賊なんて害獣と大して差がないのに…。
まぁ、いいかと窓の外に目をやる。
窓、と言っても木枠があって採光が出来るだけなのだけれど。
王都と違ってケットシーガラスの普及はまだまだみたい。
ややあって窓に一羽の鳥がとまる。
足に手紙を付けている。元狩人の伝書鳥みたいね。
手を出すとその上に鳥がとまる。
「いい子ね…」
文に書かれているのは、【山、東、ミキシ―の竪琴】の三語だけ。
ミキシ―の竪琴は…あぁ、あそこの崖下ね
「男爵、追跡者から情報がきました。
東の山の滝が盗賊の潜伏先みたいですね…処断許可を」
「いやいや!物騒過ぎるだろ!!
前の領主か豚貴族の所為で盗賊になった人たちかもしれないだろ!?」
だからと言って処断しちゃいけない理由にはならないでしょうに…。
「じゃあ、殺さない?」
コテンと小首を傾げる。
「あらかわいい!じゃなくて、生け捕り!もしくは俺が話を聞いてみるよ!」
「ふむ、ではマクセル、お主も同行せよ。
この領地は現在兵力不足じゃ。
盗賊を討って終わりではなく、使えるモノか見極よ…閣下、これを試験としてもよろしいですか?」
「あ、うん。それでいいんじゃない?」
相変わらず軽い返事。
うーん、ちょっと甘過ぎる気がするのよね…
まぁ、もう少し付き合ってみようかしら。
王国歴18年 獅子の月末
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村東の森 ジョウイチロウ・クガ
獅子の月の次が末の月。末の月の次が始の月で新年祭があるそうだ。
つまり今は元の世界で言うところの11月末…か。
そりゃ寒いよね!!
召喚された時に着ていたライダースのお陰でマシだが、馬車の御者台はやはり寒い。
「あら、ジョウくん…寒そうね?」
「カナさんに比べたらめちゃ着てるのにね…」
そう言えば、雑談の時なんかはカナさん、ジョウくんと呼び合うようになった。
整備されている道を馬車で進むが、やはり遅い。
やっぱロバだろ…ロシナンテ…ガンバれ!お前も我が領民だ!
ある程度進むとカナさんが脇道に逸れた。
脇道と言うか獣道だ。仕方無しに馬車から降りる。
マクセルさんも御者台から降りる。
御者してたのはマクセルさんだけどね…俺はなんとなくそこに乗ってみたかっただけさ
「こっから先は喋らないで……斥候の基本。ハンドサインでやりとりします」
小声で注意を促すカナさん。
ハンドサインなんてわかんねぇよ……。
まぁ、とりあえず黙って付いていくしかない。
道なき道ってヤツは歩きにくいし異常に疲れる。
それをスイスイと登っていくカナさんはすげぇなって思ってたら金髪イケメンも平気な顔で付いてきている。
異世界人すげぇな……。
ややあって森の奥の滝壷にたどり着いた。
ゴロツキというには違和感がある。妙に装備の統一された集団がそこにはいた。
滝壺周囲には簡単な柵の様なものもある。
「これ…ホントに盗賊団?」
思わず小さく声に出てしまった。
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