第六話「道路です」
王国歴18年 獅子の月末
ミドガル王国/クガ男爵領/マクセル・スカイ
驚いた。
前に来た時よりも道が整備されている。
何をどうやったのか想像もつかないが、道が平らなのだ。
轍や凹みなんかも無く、歩きやすさが段違いだ。
前に来たのは天馬の月より前だから大体2ヶ月前か。
新領主が着任したのが天馬の月だからひと月か、精々ふた月程度でここまで整備したのか…
これは通行税をかなり取られる可能性があるな…
少し歩きコルト村の村門が見えてくる。
衛兵っぽい格好をした男に尋ねた。
「お疲れ様です。通行税と入村税はいかほどで?」
そうとう吹っ掛けられるだろうが、個人的な《《お土産》》で優遇してもらえればいいとしよう。
「ん?あんた見ない顔だね…通行税は無くなったよ! 入村税は……見たところ行商かい? ギルド組員なら銅貨5枚さ」
銅貨5枚…!?いや、それもだが通行税無税…!?
「ここの領主様は何を考えて…?」
「いやー、ジョウさんは何も考えてねぇと思うぞ?あんたここでそんな驚いてたら村に入ったらひっくり返っちまうよ」
心底楽しそうに笑いながら木片を渡してくる。
「そいつを首から下げておきな!来村者ってすぐ分かるから何かしらの優遇があるさね」
身分証代わり…か?これもよく出来ている。
首から下げていればよそ者か否かがわかるのか。
門扉をくぐり、村へ入る。
再び驚く。
前に立ち寄った時は特に見るものもない寒村だった。
それがどうだ。
道は整備され、歩きやすい。
露天も疎らだが数名いる。
何より通行人の顔に精気が満ちている。
一体何があったというのだ…?
王国歴18年 獅子の月末
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 ジョウイチロウ・クガ
ろくろ作製から1ヶ月とちょっとが過ぎた。
ゴーレムハートの有用性がわかり始めたのでとりあえず作れる範囲で作ってる。
作ってるのだが……
「閣下、道路の転圧?でしたか。村の東部からも依頼が来ております。増産は出来ませぬか?」
「領主様ぁ!ろくろが足りません!!台と丸板はもう準備出来ています!あとは領主様のゴーレムハート待ちです」
「ジョウさん?警ら班から苦情です。ロードローラー?の音がうるさくて襲撃と勘違いするそうです。消音化を」
みんな好き勝手に言うよネ。
「だからゴーレムハートは3日に一個しか作れないんだって!魔力尽きたら死ぬんでしょ!?」
「魔力循環を覚えればいいのでは?多少は回復速度が上がると思いますが…」
「なにそれ!?」
「指南書をギルドで配布していますが…あぁ、ギルド行ってないんでしたっけ」
「チュートリアルスキップしてるって事!?え、損してるじゃん!」
衝撃の事実……
王様も大臣も教えてくれなかった……くそう
「一つのハートを複数のろくろにつなげることは出来ないんですかね?」
村人くんがボソリと言った。
「出来なくはないけど…ベルトドライブもギアも今のところないからねぇ…」
軸付きゴーレムハートは作れたからな…その辺の試行をやってもいいかもしれない。
えーと……元の世界の工場を思い出せ……原動機から……うーん。
「いや、領主さま…そんな難しく考えないでくだせぇ…おいらは学がねぇからよ
ロープでつなぎゃいいんじゃねぇかって思っただけでさ」
ロープ…そうだよな、ベルトドライブが一番だよ。そうなんだ…
ん?ロープ?ベルトドライブ…?
回転を伝えればいいんだよな…
「あ、ベルトとプーリだ」
「は?」
「ぷーり?なんですかそれ」
えーっと説明するには…そうだ
「滑車ってある?こう丸くて…溝が彫ってあって…」
「井戸にくっついてるやつですかね?ドワーフが作り方を教えてくれたって聞いたことありますが」
ドワーフ便利過ぎる。
「滑車なら私もってるわよ?」
カナリアさんが背嚢から滑車を取り出す。
ロープで荷物を吊り上げたり、崖を降りる時の支点に使ったりするらしい。
ダイナミックアクロバットエルフお姉さんだからなカナさん。
「ほら。これでしょ滑車」
背嚢から取り出したのは小ぶりな木製の滑車だった。
太い竹を輪切りにし、中央に木製の軸受けを嵌め込んだ簡素な滑車。
原始的だけど立派な滑車だ。
竹あるのか……竹欲しいな…あの植物は色々便利だって前にネットで見た。
「そうそう!これだと少し小さいし、軸受けも簡単な作りだから綺麗には回らないけど…ろくろくらいならこれでいけるかな…」
いや、ロープとプーリならこれでもいけるか?軸を滑車に刺して、滑車にロープ通して…
あ、駄目だ。
これ、滑車の輪っかだけ回って軸は回らない。
荷物を吊るにはそれでいいけど、動力を伝えるなら輪と軸を固定しなきゃ駄目だ。
「滑車じゃダメか…うーん」
いいとこ着いたと思ったんだけどなぁ
「ふーむ…かっしゃと言うのは初めて見たが…コマみたいじゃのぉ」
ティール爺が滑車を興味深げに手に取る
「こ、ま?」
「うむ、コマじゃな。懐かしい子供の頃よく遊んだわい」
「コマってあの円錐に棒刺してあるあのコマ?」
あのコマだろうが一応確認をする。
「円錐の物はあまり見かけんかったの…基本は板に棒刺して回すやつじゃな」
板独楽…か!?
「それって作るの難しい…?」
恐る恐る聞いてみる。回り方が歪だったりしたら機械の部品としては使い物にならないからな
「村の子供でもできるわい。都市住まいだった儂にも作れるくらいじゃからな…この村の住人だったらもっと精巧じゃろう」
よっしゃ!あとは実際にどの程度力が伝わるか…試作してみるしかないな!
「大工衆に…そうだな大きさが20センチくらいのと15センチくらいのと10センチくらいの3パターン作ってもらおう!どれが一番使いやすいか試してみよう!」
やっべ楽しい…超楽しい…テンション上がってきた
「その前に……ろーどろーらの消音化お願いね」
それもあった…消音化なんて綿でも詰めておけぇい!!
王国歴18年 獅子の月末
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 ジョウイチロウ・クガ
独楽の量産は本当にあっという間だった。
マジで大人から子供まで作れるの異常だろこの村…
板を厚くしてくれとか、もっと薄くしてくれとかいう注文にもあっさり対応する。
そして出来上がったのが大小さまざまな板独楽の数々…。
んで、この独楽にロープを掛ける溝を一周ぐるっと彫って!って言ったら…
これもあっという間にやったよ。
人力で。
旋盤も、ドリルもない。木工道具だって割と粗末なものなのに…
この人たちにちゃんとした道具を持たせたらどうなんだろう。興味湧くわ…
今も物凄い勢いで板独楽とろくろを接続させてるもんなぁ…
うわ…台にも加工してる…軸を抜けるようにしてるのか…メンテナンスもしやすくなるな
「あの……すみません。ここに来れば領主さまにお会いできると聞いたのですが」
振り向くと金髪のイケメンが立っていた。
イケメンなんだけどなんつーか嫌味っぽいのは感じられない。
目が優しげなのかな?あ、でもこの人目の奥笑ってないわ……。
営業さんでいたなぁこのタイプの人……めちゃシゴデキなんだよな
「えと…領主なら―――」
「領主さまは現在席を外しておりますのぉ、一体何のご用で?」
俺だけどと答えようとしたらティール爺が割り込んできた。
「あぁ、私は行商を営んでおります。マクセル・スカイと申します。
こちらがギルド証。よろしければ、ご確認を……。
この村に《《とうき》》というモノがあると聞いてここまで来たのですが…」
「陶器は現在減産中ですな。いやはや、遅かったのですかなぁ?」
「減産…つまり生産自体は可能ということですか…では、これから値が上がりましょうね…」
「どうですかの?世の中に認められればよいのですが」
「ご冗談を……見たところあの《《とうき》》であれば少額の投資で相当の利益が出ましょう」
「はっはっはっはっ……生産も販売ルートもまだまだですわい」
何この二人怖いんだけど……
こういうのなんて言うんだっけ…丁々発止?違うか?
背中に虎と龍のオーラが見えるよ……虎も竜もそろばん持ってるけど。
「生産のお手伝いは出来ないかもしれませんが…販売ルートであれば、私にも伝手がいくつかございます」
「これは大店の店主殿なのかな?」
「いやいや、まだまだ若輩です。
ですが、この大陸以外にも伝手がある。とだけ」
あ、ちょうちょだ。
「ほう……それは素晴らしいですな。《《本当のことなら》》のぉ」
「……私にその商売に噛ませていただきたく存じます。腹の探り合いはよしましょう。この《《とうき》》は相当な利益になるでしょう。私の商人の勘がそう申しております。
私は稼がなければならないのです」
「なるほどの、勝てぬと判断した相手には交渉ではなく情に訴えるか……お主やり手じゃなぁ」
ティール爺がほっこりしてる。
どこにほっこり要素があったのか、俺にはさっぱり分からん。
「お恥ずかしい限りです……ですが、これが膨大な利益を生むと考えているのは本当です。
いったいどこの誰がこんなモノを思いついたのか…」
「誰が思い付いたのかは知らねーけど、うちじゃこれは普通だったよ?」
思わず口を挟んでしまった。
あ、ティール爺が呆れてる。俺なんかやっちゃいました?
「……丁稚や奉公人に扮して様子を見る。なるほど、領主どのもかなりのやり手と見えます」
金髪イケメンが膝をついて頭を下げた。
「不肖、マクセル・スカイ。ぜひ貴方の下で商いをさせていただきたく存じます」
なにこれ??なんで???
「閣下、判断はお任せいたします。
この者には見所があるように思えますな。
現在この領地に不足している人材…とも感じます。
なに、このジジイがこの者を立派に育て上げてみせましょう」
判断任せるって言ったのに育て上げるって言ってるじゃん!
……いや、待てよ?
「そしたらさ、雇用試験じゃないけど……陶器以外でこの村で売れそうなものってあるか探してみてよ!期間はそうだな…2週間以内」
商売人の視点から見ればなにか見つかるかもしれないしね!
「……それであれば既に一つございます」
なん……だと……
「ほぅ……」
ティール爺の眉がピクリと動く
「道路です」
ん?どういうこと?土木工事編スタート?




