第五話「回り始める村」
王国歴18年 獅子の月
ミドガル王国/商業都市ベゼル マクセル・スカイ
「昨日仕入れたばかりの逸品だ!さぁ!見ていってくれ!」
「安いよ!うちは安いだけじゃなくて品質も王国一さ!さ、見ていってくれ!」
ベゼルの自由市は今日も賑やかだ。
活気があって商人だけじゃなく道行く人も笑顔だ。
その国の様子は自由市を見ればだいたい分かるというのは私の商人としての経験だ。
滅びかけの国や腐敗した国は市がめそめそしている。
その点この国は素晴らしい。
ふと露天で足を止める。器だろうか?木製ではなく…これは?
「主人、これは何だ?」
「お、旦那。良いところに目を付けたね!これは北の辺境地コルト村での新名産にする予定の器だよ!陶器ってぇ珍しいもんさ!」
手に取りまじまじと眺める。
木製の器よりも重い…が
「主人…これは割れやすいのではないか?こんなものを流通させて大丈夫なのか?」
「旦那…よく見てらっしゃる!これはね、”すやき”ってヤツらしくてねぇ…木の器の半値以下なのさ!ゆうやく?ってのを見つけたらもっと綺麗な器になるんだとよ!」
半値以下…?割れたとしてもだいぶ利益がでるぞ…?
「コルト村と言ったか?北の辺境地だとここから徒歩で2日ってところか…?」
「旦那、地理が頭に入ってるのかい?凄いねぇ…その通りさ、街道をまっすぐ北に向かえばコルト村にたどり着くよ。オイラも道中2枚ほど割っちまったが、この値段でも全く問題ねぇ」
露天商はひそひそ声で話してくれる。
商人がそんなにおいしい商いを教えていいのか?
少し疑念が浮かぶ。
その様子を表情から汲み取ったらしく露天商は続けた。
「あぁ、怪しい商売じゃあねぇんだ!売ってくれた領主さんは…なんつったっけかな?こましゃる?って言ってたか?できるだけ商人に拡げてくれってよ」
なるほど、宣伝効果を狙ったか…面白い領主みたいだ。
コルト村……行く価値はありそうだな。
王国歴18年 天馬の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 ジョウイチロウ・クガ
さて困った事になった。
豚貴族を捕らえて、村の人を皆助け出して、裏帳簿も見つけて
王国審問官ってのに引き渡しをした。
そこまでは順調だった。文官爺ちゃんが相当シゴデキジジィだったらしく全部滞り無く進んだ。
困ったのは村に帰ってからだった。
まず村人の態度が好転した。
そりゃそうだろ、とも思うけど物凄く感謝された。
一応新領主なんですよって話をしたら大歓声とともに迎え入れてくれた。
そして次の困ったことは、村の食料事情だ。
畑は水が来てなくてカラカラ、食うものに困って労働力の牛やら馬やらも食っちまったらしい。
水路は素掘りで草やら土やらで埋まっている。
ほぼ詰んでるじゃんか……
で、仕方なしに食料を買う必要が生まれた。
もちろん金はない。ほぼ豚貴族に接収されたらしい。
まず金策が必要だ。
爺ちゃんが言ってた粘土を調べにきた。
結論、わからん。
この粘土が火に強いのかどうかもわからん。
粘土だなぁくらいは分かるがこれは火に強い!とかは全く分からん。
さてどうしたもんかと唸りながら村に戻る。
戻る途中にだいぶ道から外れた場所にポツンと家?小屋?とにかく建物があった。
粘土の場所まで案内してくれた村人さんに尋ねる。
「あそこはオラが産まれるずっと前に鍛冶屋があった場所でさ」
素朴な若者が教えてくれた。
年の頃二十五くらい……
ってことは、少なくとも二十五年以上前にはもう廃業してたってことか?
「前の領主様が村内での鍛冶禁止とお触れを出して、そん時に出て行っちまったんだ」
「こういう聞き方で合ってるかわからないけど…人間族だったの?」
「いんや、オラ達はドワーフって聞いてるだ」
ドワーフ鍛冶師の元工房……粘土は関係ないかもだけど、気になる
「行ってみても?」
同じく同行していたカナリアさんに尋ねてみる。
ファンタジー作品ってエルフとドワーフ仲悪いからね
「……?構わないと思いますよ?」
なんでそんな事聞くの?と言わんばかりにコテンと小首を傾げられた。
あらかわいい。
いや、今はそれどころじゃない。
ドワーフ鍛冶師の元工房なんて夢も広がるし金にもなるかも知れない。
オリハルコンの製造方法とかミスリルの原石とかあるかもじゃん!?
よし、突撃だ
王国歴18年 天馬の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村・朽ちた鍛冶場 ジョウイチロウ・クガ
草木が鬱蒼と生い茂り、玄関?に辿り着くのも苦労した。
辿り着いて、建付けの悪くなった扉を開くと……物凄いホコリだ。
埃ってこんな積もるんだ…
皆がそれぞれホコリ対策にマスク代わりに布を巻く。
大して広い建物でもないので3人で手分けして物色する事にした。
ふむ……ここはキッチンかな?水瓶とカマドがある。
水瓶は巨大な木をくり抜いて作ってある。
やっぱり陶器はないんだな…カマドも比較的簡素で石を積み上げてるだけだ。
この地方の粘土はやっぱり耐火性低いのかもなぁ
粘土が採れる地域なのに粘土を使った文化・文明があまりに少ない。
精々土壁に使うくらいしか粘土を活用してない。
歴史的何かがあるのか?宗教上粘土使っちゃ駄目とか?
うん。わからん…爺ちゃんに聞いてみるのが一番かもしれない
「領主様ぁ〜!ちょっときてくだせぇ〜」
中庭の方から村人さんの声が聞こえる。
お、なんか見つけたか?
声のする方に向かうと離れの様な小屋が建っていた。
鍛冶場だろうか?大きな煙突が突き出している。
小屋の中から村人さんが顔を出す。
「こっちです。オラにはなんの設備かさっぱりでさ」
薄暗い小屋を覗くと立派な鍛冶場がある。
簡易な炉じゃない。……製鉄炉なのか?なんか授業で見た炉に似てる気がする。
風送りの《《ふいご》》も原始的ながら箱ふいごだ。
木工技術の素晴らしさが光っている。
煤に塗れた炉を見る。
汚れてはいるけど形はしっかり残ってる。
手入れすれば使えるかもしれないぞこれ……。
そしてこんだけの炉を作れるって事は…耐火レンガはここの地域で作れる可能性がある。
「村人さん……!これは大発見だよ!」
「そ、そうなのか?」
「何か見つかったのかしら?」
二人で騒いでいたせいで二階を探索していたカナリアさんが様子を見に来たようだ。
「カナさん!!みてこれ!製鉄炉!あと耐火レンガ!!これなら!」
興奮して言葉が出てこない。
「……?私には何がすごいか分からないけど……二階で見つけた書類よりはいいものなのかしら?」
カナリアさんがばさりと紙束を差し出す。
「ん?何これ……えーっと…高炉作成に必要な素材につ…い…て?」
うわーーーーーーーー!!!!!!
え!?まじ??レンガの素材が採れる場所まで事細かく書いてるじゃないか!!!
「耐火煉瓦、耐火粘土、珪砂、石英……マジか…マジか!!」
「ちょっとまって男爵さん……」
「ん?どうしたの?あ、さっきは咄嗟でカナさんって呼んじゃった…ごめんなさい」
名前を大事にするとかあるのかな?
「あなた、それ……読めるの?古ドワーフ語よ?」
「え?」
普通に読めるんだけど…
王国歴18年 天馬の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村・朽ちた鍛冶場 カナリア・エイスース
二階を探索して見つかったのは、紙束くらいだった。
紙束というか粗雑な走り書きというか…古ドワーフ語で書かれているので重要な資料なのだろう。
私にはミミズが這いまわった模様にしか見えないけどね。
念のためにと下で騒いでいる男爵に渡すと大興奮している。
けいしゃ?せきえい…?一体何のことだろうか…?
いや、それよりも、だ。
「あなた、それ……読めるの?古ドワーフ語よ?」
「え?」
鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている。
今まで古ドワーフ語を読めた人にドワーフ以外で会ったことがない。
「普通に読めるんだけど……ここには石英の採掘場所が、ここは花崗岩の採れる場所が…」
模様を指差しながら説明を続ける男爵。
やっぱり私には模様にしか見えない。
ちょっと試してみようかしら……?
地面に古エルフ語で風と書いてみる。多分知らない人は同じく模様にしか見えないだろう。
「これ、読めますか?」
「風?」
殆ど考えずに読んだ。では、これはなかなか難しいけど
古エルフ語の詩の一節を書く
「これは?」
「古き森の民、烈風の如き森を駆ける。矢は光、矢は陰、過ぎ去りし時は一瞬…?
あ、違うか古き森の民、烈風の如き森を駆ける。光陰矢の如し。かな」
背筋に冷たいものが走る。
これを解読するのはエルフ族でもごく少数。しかもだ、慣用句を言い直した。
本当に読めている。
「何で読めるの……?いや、光陰矢の如しって言葉は聞いたことないけど、光と陰は矢のように飛ぶ…だから合ってるのよ。え、こわ」
ちょっと引いてしまう。男爵はそんなこと言われても…と不満げだ。
「あれかな? 転移してきた時に『世界接続を確認』とか、『祝福と技能を与えます』とか言われたけど…… 」
世界接続…?聞いたことのない技能だ。
ゴーレムハート作成といい世界接続といい…この男爵は面白いかもしれない。
王国への謀反を考えはじめたら……悩むわね。
この人、消すには惜しい人材だわ
王国歴18年 天馬の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村・村役場 ジョウイチロウ・クガ
カナリアさんが見つけてきた紙束と村の地図を大きな机に広げる。
「これがもしかしたら一大産業になるかもしれません!みなさんご協力お願いします」
役場と言っても大きめの小屋みたいなもので、そこに村の住民何人かに来てもらっている。
お爺ちゃんに聞いてみたら古ドワーフ語は読めないと言われ、現段階で読めるのは俺だけみたいなので読み上げて地図に書き込んでもらう事にした。
「えーっと…まず石英産出地、北の一本松を東に行った滝の裏」
「一本松ってあれかね?あぁ確かに滝があるね…ここだよ」
肝っ玉母ちゃんって感じのおばさんが地図に丸を付ける。
「次が花崗岩の豊富な川……この付近なら耐火粘土が採れるって書いてあるな……南の小川の上流」
ここだここだ!そういえばココにこんな石が落ちてたな。爺さんが言うにはここの山は昔、火を噴いたとか言ってた…
などと騒がしくなり始める。耐火レンガが作れるようになったとして、コークス……いや、まず木炭だな。 炭焼き窯ってどうやんだっけ…えっと空気を抜いて…?まぁいいか
鉄鉱石も出てくれれば有り難いが基本最初は買うことになるだろう……よし。
「よし、まずは村はずれのドワーフの工房を一度きれいにしよう!
そこで特産品……陶器を作る!」
上手く量産できれば、木の器よりずっと安くできるはずだ。
半値以下で商人に卸して宣伝してもらおう。
なんだっけこれ薄利多売?いや、宣伝費込みの安売り?
よし、やる事が多くなってきたぞ……
水路の復旧と畑仕事に必要な人を残して、動ける人の半分は工房の掃除。
残りは粘土の採取に行ってもらう。
陶器作りは昔実習で経験済みだ!ろくろがあればあんなもん……
ろくろ…?無くね??
ろくろの基本構造を思い出す。
踏板式ってあったよな確か…単純な構造だった気がする。
ここの人たちの木工技術なら……
いや、待てよ…?回ればいいんだよな?
ポーチに入ってた最初に作ったゴーレムハートを見る。
これでいけんじゃねぇか?
「あのさ爺ちゃん…」
「ティール・ドゥールと申します…如何なされた?」
爺ちゃん結構かっこいい名前だな。今後はティール爺と呼ぼう。
「ろくろって…知ってる?こう、回るやつ」
身振り手振りでろくろを伝える。
ティール爺の知識量なら知ってる可能性が結構ある。
「古ドワーフの遺跡で似たようなものを発見したと報告は入ったことがありますがの…儂は見たことはありませんな……」
「似たようなもんはあるんだよね。あと丸板の作成ってどれくらい大変?」
「丸板なんぞこの国の子供でも作れますぞ?」
すげーな木工大国……。
「じゃあこれくらいの大きさで丸板をそうだな…3~4枚、それを載せる机…台でもいいやそれを同じ数って納期どれくらい?」
ふむ……と顎をさするティール爺。
えれぇ絵になるな…かっこいい……
「2日くらいかの?
今は村人たちも飢えて力が出ないだろうからその程度じゃろうな」
いやいや、20cmの丸板と乗せる台を3〜4台作るの2日で終わるの!?俺のゴーレムハートの方が生産量少ないじゃん!!
「と、とりあえずろくろを試作したいから…大工さんって何処にいるんだろ?」
「そこら中におりますわい」
あ、そうだった。この国では木工が出来るのが普通なんだ。
なんとか上手い事木工も商売に出来ないもんかな。
王国歴18年 天馬の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村・村役場 ティール・ドゥール
いやはや若者は面白い。
いや、若者が面白いのかこの男が面白いのか…
分かってない事を素直に聞けるのはかなり好感が持てる。地方貴族にも見習って貰いたいもんじゃ
さて、閣下は陶器を作るとの事なので儂も今出来ることをしておくとするかの……
確か中央商業ギルドは代替わりしたんだったか
あの小僧に手紙でも出しておくか。
それと……あぁ、そうじゃ…東の辺境伯にも手紙を出しておくか。
あの坊主にも乗るなら今の内じゃぞと伝えておかないとな
王国歴18年 天馬の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 ジョウイチロウ・クガ
ろくろの試作だ!とか思ったが何も難しい事はなかった。
一番苦労したのはゴーレムハートの軸をどうするか?だった。
作成したあとのゴーレムハートは物凄く硬く、加工はほぼ不可能だったのだ。
ノミが欠けたもんな……こりゃ厳しい。
ゴーレムハートにする前なら?と石と棒をくっ付けて作成。
これも失敗だった。
石は石で、棒は棒でゴーレムハートになった。
しかもそれぞれ勝手に回り始める。
「違う違う!棒には回ってほしいんじゃなくて、石と一緒に回ってほしいの!」
最後に石へ穴を開け、棒を深く差し込んでから作成してみる。
今度は――棒を含めて一つのゴーレムハートとして認識された。
石が回る。それに合わせて棒も回った。
「おお……成功じゃん!」
よし、これで軸付きゴーレムハートになったぞ!動力取り出すのがグッと楽になった。
軸付きゴーレムハートと丸板、台を接続する方法にもっと困るかと思ったけど腕の良い大工のお陰であっさり接続できた。
大工っていうかこの人も普段は畑耕して麦作ってるらしいけど…
うーん、非効率。
そこで、技能検定を行うことにした。
木材加工の速度、正確さの上位10人を領主専属の大工にする事にした。
税金は物納で成果物もそれに含める事にする。
大工仕事に専念してもらう間、彼らの畑は農作業の得意な人に任せることにした。
もちろん収穫の取り分はちゃんと保証する。
ろくろを3台揃えるのに10日かかったからそろそろ月も変わると言ってた。
どうやら暦は12か月で時間も24時間っぽいな。
時計欲しい…現代文明が若干恋しくなってきた。
ろくろと粘土を使って陶器の作成は着々と進んでいる。
1人目の商人がやってきたから試作品の素焼き陶器をほぼ無料で渡しておいた。
どっかで誰かの眼に止まればいいんだけどね。




