第十八話「軍事演習②」
―王国歴19年 獅子の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村・演習場 辺境伯カイゼル・グラードン
とんでもない兵器の数々に笑いを堪えるのが大変だ。
上空から撃ち出される網、面制圧が可能な射撃武器、馬車より圧倒的な速度、高威力で高連射なクロスボウ……
兵器史どころか戦場の仕組みが変わってしまう。
既存の兵器思想とまるで違う。
いや、発展思想なのだろうか?
安心材料としては王国に弓引くつもりが男爵には無いという事くらいか。
まぁ、それもいつまでか分からん。
王都貴族の盆暗どもはあの技術欲しさに男爵と敵対しようとするかもしれん。
余計な事ばかりするからなあやつらは……。
しかし、ティール師の助言を聞いておいて正解であったわ。
コヤツ等は敵対するより味方に居たほうが圧倒的にこちらが得をする。
「カイゼル卿……どう見ますか?」
「どう…とは?」
南領のナガワ子爵が声を潜め尋ねてくる。
顔色は悪い。恐らくだが此奴もクガ領を狙っていたのだろう。
戦争と交易で天秤が揺らいているか…?
「この兵器の数々をどう見ましょう」
「素晴らしい技術と手放しで称えたいと思うが?貴公は違うので?」
「い、いや、その…」
そこで口ごもるから子爵程度で収まっておるのだ。
私もそう思いまする。どのように交易すればよいのかとでも言えば良いものを…
「……これは親切心から貴公に伝えるがな、王都の馬鹿共が唆したとしても乗るでないぞ?」
「はぁ」
「敵対したり敵愾心を持つなと言っている。その場合この辺境伯カイゼル・グラードンも貴公の敵に回ると心得よ」
少し圧を加え声にする。
ナガワ卿以外の地方貴族達も背筋が伸びている。
「さて、続いては何が出るか楽しみにしようじゃないか」
パンと一つ手を叩き、こちらに向いた注意を演習場に向かわせる。
さて、何が出るか楽しみよ。
―王国歴19年 獅子の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村・演習場 ジョウイチロウ・クガ
機甲師団…ヒビキの一党の出番が終わったらお次はハサンの出番だ。
これは俺も楽しみな兵装なんだよね。
ドワーフ衆とクラフトワーカーズが相当頑張っていたからな。
イメージ的には補助腕とか隠し腕みたいなイメージだったのだけどどうやら違うみたいだ。
「歩兵隊、全体進めッ!」
さっきの機甲部隊よりも幾分か上品な号令と共に集団が現れる
一人の重鎧を中心に、軽鎧三名と革鎧十二名。十六名一組の部隊が五つ、合計八十名だ。
重鎧の肩から二本の異質なアームが生えている。
軽鎧の首の後ろにも一本のアームがやはり搭載されている。
クラフトワークスとドワーフ衆の合作ゴーレム補助アーム。
正式名称が「ナイトアーム」と決まった。
ハサンは通常の鎧で八十人を見渡せる位置に陣取り、大音声を上げる。
「重兵要塞展開!」
ガシャン、と機械仕掛けが動く音が一斉に響き
二本のアームが、身長程はある大盾を前方に構える。
軽鎧は先程の改良クロスボウを盾の間から銃口を向ける。
ファランクスにも似た完全防御の陣が完成する。
「要塞一から三は前進。四,五は堅牢を維持」
「一から三前進!」
三人が二枚ずつ、計六枚の塔盾を構え、横側は革鎧衆が木盾で防備している。
その塊が、動き出す。
同時に貴賓席から興奮とも動揺とも取れる声が上がる。
「なんなのだあれは…」
よし、今だ!もう一回驚かせよう。
俺はヒビキに合図を送る。
「礫弾!撃てぇ!」
ガシャンとロックが外れる音が響き
要塞に向かって先程の礫弾が容赦なく射出される。
ジリジリと進む要塞に全弾が命中する。
―――が、その歩みは止まらない。
ガン、ガンと金属にぶつかる音が響くが身じろぎ一つせず進む。
「おー、流石、高炉鉄だ」
おもわず声が漏れた。
呆気にとられている貴族の一人…辺境伯さんがこちらに体ごと向けて話し掛けてくる。
なんなら上段から降りてきてるよ…
「高炉鉄とはどういう意味なのだね!?
見る限り普通の鉄製品とは堅牢さ、頑丈さ、頑強さが比べ物にならんぞ?」
「あー、その辺はあとで説明しますが…簡単に言いますと古代ドワーフの技術を再現しました?」
「古代ドワーフ……!?」
すっごいびっくりしてる。
顎外れるんじゃない?ってくらいびっくりしてる。
「男爵、その盾は売ってもらえるのか?」
「いやぁ…販売は私では判断出来ませんねぇ…」
変な事言ってマクセルに怒られるのも嫌だし…
コホンと一つ咳払いが聞こえる。
「販売は可能ですが…恐らく、あの盾は常人には構える事さえ出来ませぬ」
噂のマクセルさんが説明してくれる。
そうなんだよなー
あの鉄盾、めっちゃ重いんだよな…
軽量で頑丈なのが目標なんだけど薄くすると以前の盾と同じくらいの強度しか保てない。
かと言って厚くすると…めっちゃ重い。
ナイトアーム無しだと多分運ぶことさえ出来ない。
150kgくらいあるんじゃないかあれ…
「構える事さえ出来ぬ…と?」
ちらりと演習場に目を向ける。
うん、構えてるよね。
わかる。
じゃあなんで?って言いたいんだよね?
「はい、あれはナイトアームと呼ばれている特殊装備と組み合わせて初めてあの様に運用出来ます」
「ではそのナイトアームごと…」
「申し訳ありませんがそれは出来かねます」
ピシャっとぶった切ったのはマクセルではなく、ティールだ。
「ティール師…で、ですが」
「それは、出来ぬと申し上げました」
うわすっげぇ…完全シャットアウトだ…
あれ怖いんだよなぁ…
何言っても「出来かねますな」って言われるヤツ。
「カイゼル伯、あまり駄々をこねないようお願い申し上げます」
「むぅ……」
辺境伯さんが怒られた子供みたいにバツが悪そうにしてる。
ティール爺何者なんだよ一体…
ふと王様を見てみる。
あ、あれ笑い堪えてるな……なんとなくだけどこの三人仲良しなんだろうなって分かった。
「まぁまぁ……派遣とかなら出来るので……あ、でもそれだと同盟とかになるのかな?」
「同盟か……うぅむ……」
「閣下、安易に提案しないでくだされ」
「あ、はい……ごめんなさい」
ティール爺に割とマジトーンで怒られた。
まぁ政治的になんとかってのがあるんだろう。
「派遣……戦力派遣、ですか……アリですね」
ボソリとマクセルが呟く。
あ、なんか新しい商売を思いついた顔してるなぁ…
まぁ、その辺はマクセルとティールが上手くやるだろう。
そんな事より軍事演習の続きを見よう!
要塞の移動から堅牢さをアピールしてるな。
よし、じゃあ次は歩兵の攻撃力を見せてやろうじゃないか。
俺はハサンに手信号…っても上げた手を握りしめてガッツポーズみたいな形を作っただけだが…を送る。
ハサンがこちらを確認して、コクリと頷く
「要塞四から五は総員抜剣!強襲!」
前方の重騎士の盾がガシャン、と音を立てパージされる。
鉄盾は外部装甲みたいにかぶせてあるだけなのでパージすると軽くなる。
二枚の盾の内一枚はナイトアームが保持し、革鎧衆がもう一方のナイトアームに槍を持たせる。
余った1枚の盾は軽騎士のナイトアームに装着され、軽騎士衆は両手に鉄剣を持つ。
「強襲陣形、全軍突撃!」
前方の重騎士が走り始める。
かなり重い鎧なのだが、ナイトアームの原動機に接続した補助筋肉のお陰で常人の駆け足以上の速度が出ている。
その塊が二つ、要塞の脇から現れる。
「ちぇえええい!!」
咆哮が響き、目標とする案山子に鎧を着せたものに飛び掛かる。
初撃で盾が真っ二つに切り裂かれ、兜ごと案山子の頭が真ん中から割れる。
観客席からは大歓声が上がる。
剣戟は派手だからね……大熱狂してる。
貴賓席からは数名の貴族が目を輝かせ前のめりになってるよ。
剣は分かりやすくていいね。
ふと貴賓席の真ん中くらいに座っているマグン子爵さんに目をやるとふぃっと目を逸らされた。
目がきつめだけど美人さんなんだよね。
逆方向に座ってるラギー伯爵さんは真剣な顔をしている。
変な方向に覚悟決めてなければいいんだけどなぁ…
「なんなのだあの剣は!!!」
辺境伯さんが大爆笑しながら手を叩いて大騒ぎしている。
酒は出してないよな?酔っ払ってないのにあのテンションなの?こわ……。
「クガ男爵!ティール師!同盟の話アリかもしれんな!!はっはっはっは」
「そんな重大な事をこの様な場所で決めないでください!」
従者の人が必死で止めている
うん、まぁ、聞かなかったことにするよ……
と、まぁこんな感じで軍事演習の第一部は無事に終了したのであった。




