第十四話「魔導高炉」
―王国歴19年 月輪の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村・ドワーフ工房 ジョウイチロウ・クガ
「これ…素材から欲しい物質を抜き出す魔法なんじゃないかな?」
「ぶっ……なんじゃって?」
あー、そこからか。
そりゃそうか……分子原子なんて分からんよな…
ぶっちゃけ俺もよく分かってないし
「えーっと…鉄鉱石…赤鉄鉱に鉄が含まれてるのはわかるよね?」
「そりゃそうじゃろ!じゃねぇと鉄は取れん」
「若造でも知っとるわいそんなこと!」
「ほうじゃほうじゃ!馬鹿にするなよ!」
「じゃあなんで石の中に鉄があるの?」
一同黙る。
なんでだっけ?
俺も黙る。
「なんでなんじゃ?」
「なんでだろうね?」
「お前ぇ!!!」
「仕方ないだろ!!忘れたんだよ!!!とにかく!!混ざってるのよ!石の成分と鉄の成分と諸々いろんなのが!」
雑に説明する
「そうか、混ざってるのか。混ざってるなら仕方ないのぉ…」
「混ざってるなら取り出すの大変じゃのぉ」
「ほうじゃ、粉々にしてみたらどうじゃ」
「いや、混ざってるんだから…ほうか!」
「「「一度溶かして鉄だけ出すのか」」」
うわすげぇあの説明でそこまで辿り着けるんだ…
「鉄がやわっこくなるのはのは橙火からじゃな」
「白火だとどうなるのかの?」
「そもそも白火が出る炉なんぞ古代ドワーフの炉くらいなもんじゃろ」
こいつら…研究者気質強すぎだろ……
若干引いてきた。
「ほんで、坊主。お前の高炉ってぇヤツは白火まで出るのか?」
「多分?」
「自信ないのけ!」
「そりゃそうだよ!やったことないんだから」
「ほうかほうか、じゃあ儂らと一緒じゃな!」
「この瞬間のために生きてるまであるのぉ」
……製鉄魔法の事すっかり忘れてないか…?
大丈夫なのかなこの人たち…刹那的に生きすぎてない?
「とりあえず大型高炉を作る前に中から小型で試作したいんだって!」
「そうじゃな!まずは試作じゃ試作!」
「ほうじゃほうじゃ!まずは試作じゃ」
あー、話が進まない。
俺も技術話してる時こんな感じなのかな…気をつけよ。
「その前に技術的に解決しなきゃいけない問題があるんだって!」
「なんじゃなんじゃ!」
「はよう言えい」
「問題解決するのは得意じゃで」
「ガッハッハッハッハッ!技術で解決できる問題ならなんでもこいじゃわ」
……言ったな?
言質取ったぞ。
「まず1つ目、箱ふいごに変わる大型送風機。これはプロペラを作って回すのを考えてる。
羽根の枚数とか回転速度でどの程度風量が出るのか?を確かめたい
2つ目、金属部品の作成。歯車とかシャフトを金属にしなきゃ強度的に不安が残る。
3つ目、燃料の問題。今は木炭を使ってやってるけど、多分木炭じゃ足りない。高火力で長い時間安定する燃料を探さなきゃいけない。石炭とかコークスみたいなやつ」
「ぷろ…?しゃふ…?」
「なんじゃコークスって!」
「石炭?なんじゃ燃える石って!燃石の事か!?」
「燃石は使ってると具合わるくなるぞ!」
えぇい!一気に喋るな!!!
―王国歴19年 月輪の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村・ドワーフ工房 ジョウイチロウ・クガ
あれから2週間と少しが経った。
ドワーフ衆は水を得た魚のようにどんどんと色々なものを作り出しては失敗している。
成功したのもいくつかある。
例えば大型プロペラによる送風機。
扇風機の大型版なんだけど、上手い事風が送れるようになった。まだ微風だけど火力上げるには充分。
それとなんとコークスを作り上げた。
これには俺もかなり驚いたが、木炭に慣れ親しんだ彼らにしてみれば、そんな難しい事では無かったようだ。
コークスの副産物でコールタールも入手できた。
色々出来たら油やガスも入手出来るか?これは後で検証だな。
てか科学技術の分野だから俺はさっぱりだ。
あと歯車もなんとか鉄製が出来たし、シャフトもなんとかなった。
炉造りの3人が耐火レンガの強度も上げた。
燃料、部材が揃ったので高炉造りはかなり進ませる事が出来た。
やはり現場の職人さんがいるといないとじゃ大きく違ってくるなぁ…
火の月も半ばを過ぎ、コルトもだいぶ暖かくなってきた。
「だぁっ!暑い!!」
「もう火の月ですからね…そろそろ麦の種まきもし始めなければ」
製鉄に全振りしてたので色々と手間取っている。
高炉制作に向かおうとしていた所をマクセルにみつかり、今日は…今日こそはこちらに。と圧をかけられた。
こわ…どんどんとマクセルがティール爺並の迫力を身に付けている。
「しかし…随分狭いんだね」
「今年は若手が少なかったですからね」
「あー、そっか……労働力の問題、ね…」
ふむ……トラクターとは言わないけど馬力耕運機くらいならあっても良いと思うけど…
うーん、なんとかなる……か?
「ねぇマクセル……」
「構いませんよ。
必要な物は工房の方に届けさせます」
おぉう……こいつ心を読む能力者か…!?
―王国歴19年 月輪の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 ティール・ディール
「耕運機…ですか?」
またうちの領主さまが面白い物を持ってきおった。
「うん、簡単な物だけどね…小型転圧機のローラーにクワ…とまでいかない刃を付けて魔力で回す物…これなら魔力があれば誰でも扱える」
「なるほど…?」
よくわからん…
いや、物自体は分かる。
王都の方では馬に曳かせる物があったはずじゃ……それを人力?
流石に無理じゃろうて
「試作機をドワーフ連中と作ったから見てみてよ。領内の農作物が増えればみんな楽に暮らせるでしょ?」
「構いませんが…何故儂なのですかな?」
「……?実体験の方が王様に報告しやすいでしょ?」
なるほど、この若者…意外と抜け目ないのぉ
「そうですな……幾らで売りに出す予定で?」
「領民にはリース……貸出料として銀貨5枚を貰うのがいいんじゃないかってマクセルが」
「領外には?」
「うーん、ゴーレムハートの量に限りがあるから……お高めかな?金貨10枚くらい?」
「妥当ですな」
「あ、王様には献上とかした方が良い?」
「ふむ……しておいた方が波風は立たないでしょうな」
先々の事も多少は考えておるのか、初めて献上等と言う言葉を聞いたわい。
今までは儂が先んじて献上しておったからの
「では参りましょうか」
自宅の裏庭で、試作品と言う耕運機を使わせてもらった。
一言でいうと―――これは凄いものを考えおったな。
作り自体は単純。
動力を確保さえすれば本当に誰でも扱える。
軍事転用は出来ないが、糧食は増えるじゃろうな。
人の土台は食。
その食まで手を伸ばしたか……王はともかくとして周囲の貴族は黙っておらんだろうな…
さて、どう抑え込んで、どう利用してやろうかのぉ…。
―王国歴19年 火の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村 マクセル・スカイ
「マクセルさまぁ!こいつぁ凄いですぜ!」
畑を耕していた老人が手を止めてこちらに満面の笑みを浮かべている。
……とんでもないものを開発したものだ。
あの老人一人でこの広大な畑を耕したと言うのだから、この技術はとんでもない。
通常であれば3~4人の若い衆が2~3日掛けて行うような畑を老人一人で1日もかからずやってのけている。
「それは…よかった。閣下にもそうお伝えしておきます」
「よろしくお願いします!いやぁ…クガ男爵のお陰で色々便利になってていい村になっただ」
確かに、道は転圧機で硬く歩きやすい、農道も小型転圧機のお陰でかなり歩きやすい。
産業面もろくろと小型炉お陰で陶器が領内外問わず飛ぶように売れる。
最近は、木炭も売りに出せる程増産されている。
それも大本を辿れば、クガ男爵がこの村に来てから始まったことだ。
他にも領民の為になる技術はどんどんと生まれている。
コークス?と言う燃料が生まれたことによりベルトコンベア式の焼き窯を作れると言っていた。
生産量が爆増する!と息まいていた。
他にも高炉が上手くいけば馬無しの馬車が作れる…らしい。
メルセ魔導国ですらまだ作られていない物を…しかし、夢物語ではない。図面を引いているのを見た。
「恐ろしい方に仕えることになったのかもしれないな」
ふぅと息を深く吐く。
「あ、いたいた!おーいマクセル!」
遥か先の農道から閣下が声を掛けてきた。
あの声の弾みよう、表情から察するに…何かに成功したのだろう。
「閣下、領民の前です。走ったりするのは…」
「っと……威厳ね、イゲン。大事だね……それよりも!工房の方来てくれ!ついに完成したんだ」
「工房…と言いますと?」
「完成したんだよ!鉄鉱石から鉄を製鉄する炉が!」
「……なんと」
「行こうぜ!ほら!」
ぐいと腕を掴み、引っ張る閣下。
弟が居た経験は無いが、居ればこんな感じなのだろうか。
ならば、弟を守るのは兄の仕事だ。
私は、この方を守るためならば、竜にだって立ち向かおう。
―王国歴19年 火の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村・ドワーフ工房 ジョウイチロウ・クガ
経済面からマクセル、政治面からティール爺、軍事面からヒビキ、治安面からカナリア
この村の重要人物がぞろぞろと工房に集まる。
もちろんドワーフ衆も全員いる。
元村長の息子…今は村民のまとめ役を行ってるおっさんも来た。
大工衆の棟梁の姿も見える。
つまりこの場にいるのは、コルト村の中心人物だ。
「旦那、面白いもんってのは何が見れるんで?」
ヒビキが気怠げに尋ねてくる。今朝方まで飲んでたとか言ってたっけ…。
まぁ、ヒビキが暇なのは良い事だ。忙しいって事は開戦前って事だからね。
「ふっふっふ……我々クガ領コルト村は遂に製鉄を可能となる可能性がかなり若干結構高い!」
「自信ねぇのかよ…」
いや、バチクソドヤ顔して集めたけど失敗したらどうしようって気持ちはあるのよ。
「製鉄…?鉄が作れるようになると何が起きるの?今までみたいに買うのじゃ駄目なのかしら?」
カナさんがコテンと小首を傾げる。
かっわいい〜!なお、中身はオーガの方が優しい。
「製鉄出来るようになると…鉄を使えるようになります!」
「それは今も使ってるじゃない?」
「もっと使えます!」
「多く買うのじゃ駄目なのかしら?」
「駄目じゃないです!」
「閣下?」
マクセルがジト目で圧を掛けてくる。
反応速度ハンパネェなコイツ……。
「あ、いや、駄目じゃないけど…もっと色んな事に使えるようになるのよ!農具とか道具とか……矢じりとか!」
「矢じりが鉄になるのはいいわね……小刀も新調できるの?」
「えーっと…?」
くるりとドノヴァンを見る。
見事なサムズアップ。
いい笑顔だ。
カナンとダナンが一歩前に出てくる。
「まだここで出来た鉄を触っておらんから何ともいえんがの」
「実験段階で作った鉄でナイフを一本打ってみたら今までのモンが玩具に思えるほどのものが出来おったわ」
「と、言う事は?」
「成功しておったらナイフでも短刀でも打っちゃるわい」
「さ、早く進めて、何してるのジョウくん、急いで、ほら」
この人多分、宝飾品より武器を喜ぶタイプだよね。
女子力ゥ……。
ふぅ…と一息入れる。
「ドノヴァン!」
「火入れは完了しておるわい!鉄鉱石にも熱を加えてある!いつでもええど!」
「よし!鉄鉱石投入!」
「投入じゃい!」
ガラガラと上部のハッチの様な扉から鉄鉱石が入れられる。
ゴーレムハートに魔力が注がれ、下部に設置された大型ファンが唸りながら回転を始める。
ドノヴァンが隙間から内部を覗き込み合図を送る。
これで現在炉内の温度は1500℃〜1800℃位になっている……よな?よくわからないけど、きっとそう!
ファンへの魔力注入係を入れ替わりながら鉄が溶けるのを待つ。
内部を覗いているドノヴァンが再度合図を送る。
魔力注入をしていた二人が底部のハッチを開ける。
鉄が流れてくる。
真っ赤になり半液状になった鉄だ。
「これは……」
「これが…鉄…?」
「やったぁぁぁぁぁ!!!成功だぁぁぁぁ!!!!」
いやっほぉう!!と思わず飛び上がる。
やったぜ!!!これで!これで工業化が一歩前進だ!!!




