第十三話「製鉄魔法」
―王国歴19年 月輪の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村・ドワーフ工房 ジョウイチロウ・クガ
「ふーーーむ…」
「うぬぅ…これは…」
「なるほどのぉ…こっちは…ほう」
6人来たドワーフ達のうち3人のひげもじゃが唸りながら工房の炉を見ている。
炉の中を覗いたり、送風口を確認したり、箱ふいごを動かしてみたり…色々いじくり回している。
「あの人達何やってんの?」
「あやつらは炉作成の専門家じゃて、一番右がトーレル、真ん中がドーリル、一番左がマーリルじゃ」
名前の最後がルなのはなんでなんだ?
まぁ、いっか。
「ちなみに儂はドノヴァンじゃ」
「ル終わりじゃねぇのかよ!」
「ルで名が終わるのは炉の一族じゃい!製鉄の一族がヴァンじゃ!」
知るかよそんなの……。
「じゃあ残りの二人は?」
「奴らは鍛冶の一族じゃな、カナンとダナンじゃ」
「ン終わりなのか?」
「真ん中にナじゃな」
「わかりにくい!」
「儂もそう思うわい!」
ガハハと豪快に笑う。
つまり、炉の専門家が3人、鍛冶の専門家2人、製鉄の専門家が1人来てくれたってことか……
結構貴重じゃないのか?
特に炉の専門家はありがたい。
「ふむ…見てみたけどなぁ…坊主、これで鉄鉱石から鉄を取るのはちょっと厳しいぞい」
「そうなの?」
「これは鍛冶炉じゃ。鉄を赤く熱して叩くための炉じゃな」
「じゃあ製鉄には使えない?」
耐火レンガと耐火粘土で相当高熱まで耐える仕様にはなっているはずなんだけどな
「無理じゃな。製鉄用の炉はもっと別物じゃ」
「別物?」
「鉄鉱石と木炭を入れて、ふいごで風を送る。中で鉄を作って、最後に塊を取り出すんじゃ」
「なるほど。ブルームを作る炉ってことか」
原始的な製鉄炉…か。
この世界では原始的じゃないのか。
ホントに製鉄業だけ遅れちゃってるんだな…
「……ぶるーむ?」
「いや、こっちの話」
「まぁ、そんな感じじゃ」
「じゃあ、これをもっと大きくして……」
「待て待て。何をする気じゃ?」
「鉄鉱石を溶かしたい」
鉄鉱石をどうにかして鉄にできればいいじゃん。
だいぶ雑な製鉄だけどね…
まぁブルマリー炉で鉄を作るのも少量ならいいだろう
ゴーレムハートで自動ハンマーとか作ろうか?
「…………」
「…………」
「坊主」
「はい」
「お主、変なこと考えとらんか?」
失礼な。
変な事なんか考えてないやい!
自動ハンマーの図面を頭の中でちょっと引いただけだい
「はぁ……とにかく、用途が違うわい…ここで暮らしていたドワーフは鍛冶の出だったんじゃろうな。鉄を打つ為の炉じゃなこれは」
「溶かすのは厳しい…と」
「多分じゃが、鉄は製鉄魔法の魔法作っておったんじゃろうな」
「製鉄魔法…ねぇ」
さっきも聞いたけど何だろうその魔法
「ほうじゃ、坊主に教えておくかの。
製鉄魔法はドワーフにしか扱えん秘技じゃ
人族や他の種族では扱えん。鉄鉱石から鉄を取り出す魔法じゃて」
「何その便利魔法!製鉄炉いらないじゃん!」
「故に土と石の部門は育たなんだ」
「あー、なるほど」
鉄器はドワーフの専売。
石から鉄を取り出す必要が無かったんだな。
技術は広まらなければ進まない。
結果としてドワーフの人達が鉄器の進みを抑えてしまったのか。
「わしらもそれはダメじゃと分かっておる。しかしの、方法がわからんのじゃよ。わいらは魔法で鉄を産み、打って鉄を使える様にするしか出来ぬ。若いドワーフ衆なぞ再利用の方法しか知らぬ」
どこか悲しげにドノヴァンは呟く。
「製鉄魔法自体の使い手が少なくなってきておるしな」と続けた時は完全にしょぼくれてる。
髭おじさんのしょぼくれはなかなか哀愁が凄い。
「ドノヴァン…」
「じゃがそんな時に!小僧!お主からの手紙よ!いやぁ…100年生きてるがこんなに興奮したのは初めてよ!!!!ガッハッハッ!」
感情ピーキー過ぎねぇか?
0から100まで一気にいったよ…
「その便利な魔法が誰でも使えればもっと広がるだろうけど…うーん」
「ふむ、秘術と言ったが教えぬとは言ってないぞ?誰もドワーフについて行けぬだけよ!ガッハッハッ!」
ガッハッハッじゃねぇよ…
でも、まぁ、わかる。
関わるのが面倒なんだよね、きっと…工場にいた爺さんがこんな感じだった。
THE 職人!って感じで給料日に全部酒と女と博打に溶かしたって聞いた時に妙な格好良さを感じたことを思い出した。
「じゃあ、その製鉄魔法?って言うのを見せてもらってもいい?」
「おう、構わんぞ」
そう言って持ってきたリュックみたいな袋から折りたたまれた紙?違うな、布かな?を広げた。
「お、製鉄か?」
「炉の確認はあとじゃな」
「炉より製鉄じゃ」
「あの炉は後回しじゃな」
わらわらとひげもじゃ達が集まってくる。
工房の片隅に積み上げられていた赤鉄鉱を手に取りドノヴァンに渡す。
なかなか質が良いのぉ…としげしげと赤鉄鉱を眺め、布の真ん中に置く。
「ドワーフの祖よ、土の民よ、石の声を、石の魂を、この身許に届けよ……製鉄魔法っ」
布に書かれていた模様…あれ文字だな…が光り輝き、真ん中の赤鉄鉱に吸い込まれていく。
あれ?なんかおかしいな…文字だよな?
何故か読めるから文字なんだろうけど……
んん??
とにかく、赤鉄鉱が光に包まれ、ややあってコロンと鉄塊が生まれた。
一回り以上小さい鉄塊だ。30%くらい小さくなってないか……?
「これが製鉄魔法よ」
ぜぇぜぇと肩で息をしながらドノヴァンがどや顔を決める。
髭のおっさんのどや顔とかなかなか厳しいものがあるなぁ…
俺の怪訝そうな顔を見ながら6人のドワーフが不思議そうな顔をする。
「なんじゃちぃとも驚かんの」
「面白くないやつじゃ」
「ほうじゃほうじゃ、リアクションが薄いんじゃ」
口々に俺への不満を口にする。
いや、驚いているけど……それ以上に疑問だ。
「ドノヴァンさん……その魔法、鉄だけしか使ってないの?」
「そりゃそうじゃ、製鉄魔法じゃからの」
「……魔法陣見せてもらってもいい?」
「ん?構わんぞ……なんじゃ素っ頓狂な顔して」
素っ頓狂ってなんだよ失礼なひげもじゃだな……
ちょっとムッとしつつ魔法陣を覗く。
魔力を流すと光る仕様のようで、薄く文字が書かれている。
ふむふむ……なるほど……
これは……もしかして、もしかするか?
「ドノヴァンさん、これ……製鉄魔法じゃ……ないよ?」
―王国歴19年 月輪の月
ミドガル王国/クガ男爵領/コルト村・ドワーフ工房 製鉄の士族・ドノヴァン
製鉄魔法じゃあ、ないぃ!?
なんじゃそりゃ、驚きすぎて顎が外れるかと思ったわい。
他の5人も儂と同じような顔をしておるわ。
「坊主…一体どういう意味だ?」
驚いて固まってても埒が明かねぇ。
もし儂らの事を謀ってるならシメなきゃあならん。
製鉄魔法は儂らの誇りと負債よ。
舐めてもらっちゃあ困る。
「えと、使い方自体は多分問題ないし、鉄を抽出して再生成って感じかな?だから、製鉄魔法と言えば製鉄魔法なんだと思う」
なぁに言ってンのかわかんねぇな
「ほら、ここ」
坊主が模様の1箇所を指差す。
魔法陣の丁度真ん中、鉄鉱石を置くべき場所だ。
「ここに書いてあるのは"鉄”じゃないんだよ…
これは”抽出”、こっちは”再生成”、んで!こっちが”物質化”」
一つ一つを指差しながら丁寧に伝えてくる。
鉄…じゃない…?
「じゃあなんて書いてあるんだ?」
「えーっと……」
坊主がひと息つき、続ける
「"物”、もしくは”物体”…かな」
なんと…本日2度目の顎が外れるかと思ったわい。
他の5人も同じ顔しておる。




