第九話「次の航海」
次の航海の日が、決まった。
ハルが、乗る船の出発日が。
ミナは、それを聞いた。
港でハルに会った時に、聞いた。
「いつ出発しますか」と言った。
「十日後です」とハルは言った。
「どこへ」
「スペインへ戻ります」とハルは言った。「この島からの荷物を持って」
「サルガッソを、また通りますか」
「通ります」とハルは言った。「帰りも、同じ航路です」
「また、止まるかもしれませんね」とミナは言った。
「止まるかもしれません」とハルは言った。「しかし、今度は一人です」
ミナは、港の海を見た。
「私も、いつかスペインへ行きたいと思っています」と言った。
「スペインへ」
「父の商売で、いつか行くことになるかもしれません」とミナは言った。「その時は、サルガッソを通る船に乗りたいです」
「またサルガッソに入るつもりですか」
「入りたいです」とミナは言った。「あの静かな海を、もう一度見たい」
「危ないですよ」
「危なくても」とミナは言った。「見たいものは、見たい」
ハルは、ミナを見た。
「スペインへ来る時は」と言った。「教えてください」
「教えます」とミナは言った。「案内してもらえますか」
「喜んで」とハルは言った。「セビリャの街も、港も、全部」
「全部、案内してください」とミナは言った。
港の風が、来た。
次の航海に向かう風だった。
(第九話 了)




