第八話「島の話」
島に、しばらく滞在することになった。
父の商談があったからだった。
ミナは、島を歩いた。
ハルも、次の航海まで島にいた。
二人で、島を歩くことがあった。
山の上から、海が見えた。
サルガッソとは違う海だった。
青く、波があり、風があった。
しかし、遠くに、緑がかった場所があった。
「あそこですか」とミナは言った。
「あの方向です」とハルは言った。「見えるかどうかは分かりませんが」
「見えます」とミナは言った。「緑の海が、遠くにあります」
「本当ですか」
「本当です」とミナは言った。「見えます、少し」
ハルは、同じ方向を見た。
「見えるかもしれません」とやがて言った。「あなたには、見えるんですね」
「サルガッソの色を覚えているので」とミナは言った。「目が、探してしまいます」
「航海士でも、陸からサルガッソが見えると言う者は、少ない」とハルは言った。
「好きになったものは、見えます」とミナは言った。
ハルは、ミナを見た。
「サルガッソだけが、好きになったものですか」と言った。
ミナは、遠い海を見たまま言った。
「サルガッソだけではありません」と言った。
「他には」
「嵐の後に風が来ると言った人も、好きです」とミナは言った。「先に言ってしまいますが」
ハルは、しばらく黙っていた。
「先に言われてしまいましたね」とやがて言った。
「言いたかったので」とミナは言った。
(第八話 了)




