第六話「海を抜けた先」
サルガッソ海を抜けた。
抜けた先の海は、違った。
波があった。
風があった。
色が、違った。
サルガッソの緑ではなく、深い青だった。
ミナは、甲板から海を見た。
「違いますね」と言った。
ハルが来た。
「違います」と言った。「これが、普通の海です」
「普通の海の方が、荒々しいですね」
「そうです」とハルは言った。「サルガッソは、静かすぎました。こちらは、生きています」
「サルガッソも、生きていましたよ」とミナは言った。「ただ、別の生き方で」
ハルは、ミナを見た。
「サルガッソが好きになりましたか、本当に」と言った。
「なりました」とミナは言った。「あの海藻の緑が、忘れられません。静かな水面が、忘れられません」
「多くの航海士は、嫌います」とハルは言った。「止まるから。出られないかもしれないから」
「止まることが、嫌いな人は多いですね」とミナは言った。「しかし、止まらないと見えないものがあります」
「サルガッソで、何が見えましたか」
ミナは、少しの間、考えた。
「海が広いということが、見えました」とやがて言った。「動いている時は、次の場所のことを考えます。しかし、止まっていると、今いる場所を見ます。サルガッソでは、ずっと今いる場所を見ていました」
ハルは、ミナを見た。
「それは」と言った。「航海士が、何度海に出ても、学べないことかもしれません」
(第六話 了)




