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第二話「漂流の始まり」
男の名は、ハルといった。
スペインのセビリャから来た航海士だった。
二十八歳だった。
この航路を、三度渡ったことがあった。
「サルガッソ海は、以前も通りましたか」とミナは言った。
「二度」とハルは言った。「しかし、こんなに深くは入らなかった」
「出られますか」
「出られます」とハルは言った。「風が来れば」
「風が来なければ」
「来ます」とハルは言った。「この海には、必ず風が来ます。ただし、いつ来るかは分からない」
ミナは、海を見た。
海藻が、水面を揺れていた。
波がなかった。
揺れているのに、波がなかった。
「不思議な海ですね」とミナは言った。
「サルガッソという名前は、海藻の名前から来ています」とハルは言った。「ポルトガル語で、ブドウの一種という意味です」
「海藻がブドウに見えますか」
「見えなくもないです」とハルは言った。「緑の粒が、連なっているので」
ミナは、海藻を見た。
確かに、粒があった。
緑の小さな粒が、連なっていた。
「本当ですね」とミナは言った。
夕方になった。
風は来なかった。
船は、動かなかった。
夜、星が出た。
サルガッソの空に、星が満ちた。
(第二話 了)




