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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第9話 人気者


 ゼフィラと世界の一端に触れた夜を越え、ひとまず僕もフラウの村のエルフたちも、平穏な日常を過ごしていた。

 新たに知見を得たゼフィラは、古くからの言い伝えや古文書などを調べたりと、ここ最近は精力的に動いているようだ。

 対して僕は……


「やあ、おはようケイ」

「おはよう、エーリカさん。今日は早いね」


「ケイくん、ティリアちゃん、美味しいパンを焼いてるから、帰りに寄っていってねぇ?」

「ミモザさん、ありがとう。学校終わったら寄ってくね」


 ティリアに抱かれて歩きながら、村人のみんなに手を振って、愛想を振りまく。

 日々の訓練により、自由に身体を動かせるようになった僕は、ゼフィラの協力もあり、ついに『声』を手に入れていた。

 そして、例の小人お化け騒動を終わらせるために、僕は自分の正体をゼフィラが作った魔法人形として、村人みんなに明かしている。

 

「ケイちゃん、人気者になったねー」


 僕を抱いたティリアが、しみじみと言う。

 ちなみに、僕が歩けるようになっても、ティリアと一緒に出かける時は、ティリアの腕の中が僕の定位置だった。

 一度、自分で歩けると言った際に、ティリアが本気で泣きそうな顔になったので、僕は甘んじてこの場所に居座ることにした。


「まあ、魔法で動く人形っていうのが珍しいだけだよ」


 流暢に発せられる僕の声。これは人形の顔のあたりの糸を風魔法の応用で振動させることで、人の可聴域内の音波へと変換している。

 ちなみに声の高さは、何度もチューニングを施すことにより、少しハスキー気味な少年の声をイメージした音程になっていた。男性を知らないエルフ達に最初は驚かれたが、今ではなかなか好評価をいただいている。


「うーん……それだけじゃないと思うけど……」


 ティリアがちょっと複雑そうな顔で首を傾げていると、聞き慣れた足音が駆け寄ってきた。


「ティリアちゃん、ケイちゃん、おはよう!」


「あ、おはよー。リーリちゃん!」


「おはよう、リーリ」


 走ってきたせいで少し息を弾ませたリーリは、ティリアの横に並んで歩き始める。


「ねえ、ティリアちゃん、私にもちょっとだけケイちゃん抱っこさせて?」


「うーん……じゃあ学校に着くまでね?」


 両手で差し出される僕を、リーリは「ありがとう!」と、大事そうに受け取る。

 そのまま優しく僕を胸に抱きしめ、僕の頭にスリスリと頬ずりするリーリ。


「えへへ……フワフワだあ」


 まあ自慢のウール100%ボディだからね!

 最近、色々な人に抱かれることが増えた僕は、抱かれ心地マイスターを自認している。

 リーリは、おなじみエルフっ娘四人組の中でも小柄な方であるが、ある一部分に関してだけは、最も発育が良い。

 

 魔力操作がうまくなった僕は、触覚の扱い方にも慣れ、リーリに抱かれる感触を堪能する。

 優しい性格ゆえの丁寧な抱き方。細身ながらも柔らかな身体に包まれ、後頭部がわずかに沈み込むふくらみの感触。うん、なかなかの高得点だ。

 

 ……あれ?僕だいぶ気持ち悪いこと言ってない?

 いやいや……仕方ないんだって。いろいろな幼女に取っ替え引っ替え抱っこされている僕の精神を安定させるには、そんなことでも考えるか、心を無にするしかないんだ……

 

 そんな益体もないことを考えているうちに、僕たちは学校へと辿り着いた。

 そしてそこにも、いつも通りに仲良しエルフの二人組がいる。


「お、来たなー」


「ティリア、リーリ、おはよう」

 

 カレンとルティスが、僕たちに気付いて挨拶してくる。そのまま、ルティスがススっとリーリに近づき、僕に向かって手を広げた。

 

「私にも、ケイに朝の挨拶させて」


 えー……私も抱っこしたばかりなのにー、と少し口を尖らせながらも、僕の身柄はルティスの腕の中へと引き渡される。

 ふむ、四人組の中では一番細身のルティスだが、そのしなやかでバランスのとれた……いや、やめよう。これ以上続けると、本当に自分がヤバい奴に思えてくる。


 素直にルティスに抱かれて、頭を撫でられている僕に、チラッ、チラッとカレンの視線が送られてくる。

そっぽを向いて、口では何も言わないが、その視線だけで考えていることは丸わかりだ。

 まったく、仕方ないなあ!


「ルティス。ちょっと降ろしてもらっていい?」


 無言で僕を撫でくりまわしていたルティスに声を掛け、しぶしぶながら地面に降ろしてもらう。

 トテトテと地面を歩き、切り株のイスに座ってソワソワしているカレンの膝の上へと飛び乗った。


「おはよう、カレン」


「……あ、お、おう。おはよう……ケイ」


 途端にデレッとした顔になり、膝の上の僕をキュッと抱くカレン。

 まったくカレンは素直じゃないんだから。こういう時は、お兄さんの僕の方から、ちゃんと抱かれに行ってあげないとね!

 

 ……我ながら、ちょっと何言ってるか分かんないけど、まあカレンが嬉しそうだから、良しとしておこう。

 

 やがていつものようにアルメリア先生がやって来て、僕はティリアの元へと戻された。受け取ったティリアが僕を少し強めに抱きしめる。


「どうしたの、ティリア?」


「ううん……わかんないけど……ちょっとだけ、気持ちがモヤモヤしちゃって……なんだろう?自分でもよくわかんない……」

 

 自分が抱いた感情が何なのか分からず、僕を抱いたまま首を傾げるティリア。

 

 ――それは、もしかして……

 僕はティリアを安心させるように、毛糸の手でその腕をポンポンと叩く。

 

「大丈夫だよティリア。僕の居場所はココだから。ずっと一緒にいるから安心して?」


 少しだけ不安げに揺れていたティリアのアクアマリンの瞳が、僕の言葉に安堵したように落ち着いていく。


「……うん。ケイちゃん、ずっと一緒にいようね!」


 ニヘッと、いつもの人懐っこい笑みを浮かべるティリア。

 僕はティリアが生まれて初めて抱いた『やきもち』であろう感情を微笑ましく思い、そしてその成長について親心ながら嬉しくなるのだった。

 


 さて、今日のアルメリアの講義は『魔獣』について。


 魔獣とは、この世界で害獣認定されている生き物の総称で、まあ僕の知識的にはモンスターとでも呼べば大体合っているだろう。

 ただ僕の想定と少し違う所は、よくあるゴブリンだのスライムだのというカテゴリに収まるものではないらしいということだ。基本的に魔獣とは、一体一体が全て別の個体であり『種族』としての区別は無い。

 

 もちろん、個体毎に人型だったり、4足の獣型だったりと、特徴別に大まかな分類をされることはあるが、エルフや人間のようなハッキリとした区別はなく、生態も不明なものが多いらしい。

 魔獣が魔獣たる、ただ1つの共通点は、エルフや人間などを襲い、傷付け、時に食い散らかすという残忍な習性のみだ。


「魔獣の中には酷く手強く、討伐の手を逃れて多くの人種を襲い続ける『忌み名付き(ネームド)』と呼ばれる個体が存在します。この忌み名付き個体の凶暴さは群を抜いており、残念ながらエルフにも数多くの犠牲者が出ています」


 アルメリアは真剣な表情で生徒たちを見回す。

 魔獣の存在は、深刻になっている人口減少の大きな要因の1つでもあるため、子供たちへの注意喚起には力を入れているようだ。


「特に注意が必要なのは『エルフ喰い』の忌み名をもつ、4つ目の巨大狼でしょう。その魔獣は特にエルフを好んで襲う習性があり、近隣の村も合わせると10人以上ものエルフが襲われて、命を落としています」


「そいつ、先生たちでも退治できないほど強いの?」


 カレンが若干怯えた声で尋ねる。


「強い……のはもちろんですが、何よりとても賢いと言うべきでしょうか。一度、エルフの各村合同で魔獣狩りの討伐隊が組まれたことがあるのですが、『エルフ喰い』は見事に逃げおおせました。その際、目の1つに傷を負わされたことで、特にエルフを恨んでいる節があります」


 アルメリアは生徒たちを見回す。

 一様に強張った顔をしている子供たちに、少々脅しが効きすぎたかしら、と真面目な表情を少し緩めた。


「ですが、この村には私を含め魔法に長けた者が多く、何よりゼフィラ様がいます。不用意に村の外へ出るようなことさえ無ければ安全ですので、あまり心配しすぎる必要はありません」


 くれぐれも注意を怠らず、身を守るための魔法の練習を怠らないでくださいね?とアルメリアは締める。

 

 最近の村の生活で、ちょっと頭が麻痺していたが、村の外は思ったより危険なようだ。幼いうちから子供たちに魔法を教え込むのも、こういう環境だからなのだろう。

 まぁ……ちょっと魔法狂い気味の人たちが多すぎるのはどうかと思うけどね……



 本日も授業が終わり、解散の時間となる。

 リーリが近寄ってくるので、これはいつものお誘いかな?と思っていると、ちょっと悩ましげな表情。


「ティリアちゃん、今日の水浴びどうしようか……?さすがに、ちょっと寒いよね?」


 このエルフの森は基本的に、常時温和な気候だ。

 ただ、そんな中でも晴れていたり曇りだったり、山の方からの吹き下ろしの風だったりなどで、気候の変動はある。

 今日の空は曇っていて、雨までは降らなそうだが、少し肌寒い。さすがに水浴びなどしたら風邪をひきそうだ。


 残念そうなリーリに、僕はかねてから思っていたことを聞いてみる。


「ねえリーリ、エルフってお風呂には入らないの?」


「おふろ……?お風呂ってなに?ケイちゃん」


 ふむ、薄々気付いてはいたけど、エルフにはお風呂文化が無いらしい。


「簡単に言えば、お湯でする水浴びみたいなものかな?お湯に浸かって身体を温めたりするんだ」


「お湯に……?茹で上がっちゃうよ?」


 リーリは、少し怯えたような表情になる。

 おそらく沸騰したお湯にでも突っ込まれるのかと思っているのだろう。


「そうじゃなくて、もっとぬるめのお湯だよ。そうだな、じゃあちょっと河原で試してみようか」


「面白そうな話をしていますね?」


「うわびっくりした!」


 いつの間にか、音も無く、僕の背後にアルメリアが立っていた。


「興味があります。私も交ぜてください」


 そんな、遊び仲間に入れて、みたいな言い方しなくても……

 まあ、別に断る理由も無いし、いいか。


「よし、じゃあいつもの水浴び場に行こう。みんなの魔法を使えば、お風呂だって簡単に作れるよ」

 

 いつものメンバーにアルメリアを加えた僕たちは、連れだって川辺へと向かった。


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