第8話 進展
「よし、ではこの機会になるべく情報を得ることにしようかの」
いつも通りの調子に戻ったゼフィラが、僕を抱いたまま石板に話しかける。
「そのホムンクルスとやらは、誰がどうやって生み出しているんじゃ?」
≫ アクセス権の無いユーザーからの質問は受け付けられません。
「つれないのう……」
ゼフィラの視線を受けた僕が、質問を繰り返す。
『ホムンクルスについての詳細を教えて』
≫ 情報レベル「Confidential」
≫ 要求権限レベル不足により、開示できません。
『つれないなあ……』
僕とゼフィラは、その後も色々と質問を繰り返したが、開示されたのはこの世界の中でも知り得る情報ばかりで、重要な部分のほとんどが権限不足を理由に回答を得ることができなかった。
もちろん、僕が最も知りたかった、男が存在しない理由についても不明なままだ。
現状得られたわずかな新情報としては、この地域周辺のエリア情報くらいだろうか。しかし、それらからも推測できることはある。
≫ エリアD
≫ Homunculus Type-D 管理エリア No.1〜3
≫ 統括権限名 Digger
≫ エリアE
≫ Homunculus Type-E 管理エリア No.1〜3
≫ 統括権限名 Elder
≫ エリアF
≫ Homunculus Type-F 管理エリア No.1
≫ 統括権限名 Figment
≫ エリアG
≫ Homunculus Type-G 管理エリア No.1
≫ 統括権限名 Greater
≫ エリアH
≫ Homunculus Type-H 管理エリア No.1〜10
≫ 統括権限名 Honer
ゼフィラの知識とも照らし合わせると、Type-Dはドワーフ種、Type-Hは人間種であることは間違いない。
Type-FやGはゼフィラもハッキリとは分からないとのことだが、管理エリアが1つしかないことからも、おそらく存在がほとんど確認されていない少数の種族、フェアリー(精霊)や、ジャイアント(巨人)ではないかとのことだった。
が、実はこの2種については、石板に表示されている文字がグレーアウトされており、もしかしたら既に存在していない……絶滅種である可能性もある。
『それともう1つ分かったことは、この世界の人間種もエルフたちと同じくホムンクルスで、いわゆる創造主の類ではないということだね』
「そうじゃの……まあ、むしろ手がかりがなくなったとも言えるがの」
『うーん……できれば、ホム……いや、エルフたちの数が減っている理由や、それを解決する方法とか知りたかったけど……』
≫ 情報開示のための権限レベルが不足しています
『これだからなあ……その権限レベルとやらを上げることはできないの?』
何気ない僕の言葉に、石板が反応を示した。
≫ 権限レベルの上昇手段には以下の手段があります。
≫ Administrator権限保持者による権限付与
≫ システム貢献度による認可
≫ 統括権限保有者による認証
僕とゼフィラは顔を見合わせる。
この情報、よく分からない上の2つの選択肢については置いておくとして、見るべきは3番目だ。
エリア情報の記載を見るに、「統括権限」とは、つまりゼフィラの持つ「Elder」のようなものを指すようだ。
先ほどのアカウント申請時のやり取りの時も、ゼフィラの権限の認証を得る形で、何とかアカウント入手に至ったように見えた。
そしてその「統括権限」持ちは、他の種族にもいるだろうと推測できる。もしかしたら、それらの権限持ちとの接触で、何か進展があるのではないか?
全て仮定の話ではあるが、道標が何もないよりはマシだ。ひとまずは頭に入れておこう。
『ふむ。今日のところはこのくらいにしておくか。そろそろ夜も明ける頃じゃ』
おっと、もうそんな時間だったのか。
うん、また何か思いついたら来ればいいんだし、今日のところは帰るとしようか。
『じゃあね、また来るよ』
≫ ……またのご利用をお待ちしております。
特に返事は期待していなかったが、律儀に返答が返ってきた。
AI……なのかな? 色々と言動が人間くさいし。
まあ、権限権限とお硬いところは、お役所仕事っぽいけど。
僕は再びゼフィラに抱き上げられ、祠を後にする。
この場所には、きっと近いうちに、また訪れることになるだろう……
白み始めた空を眺めながら、僕らは村の中、ゼフィラの家に向かって歩き出した。
「ケイ。今日知った件についてじゃが……」
『わかってる。僕からは誰にも話さないよ。然るべき時が来たら、ゼフィラからみんなに伝えてあげてほしい』
「うむ……さすがに内容が内容だからの。しばらくの間は公言せずに、情報の裏付けについてや、今後の対応方法などを考えていかねばならんだろう」
そう語るゼフィラの表情に、すでに悲観的な陰はない。
これからのエルフの未来を切り開こうという強い意思で、奮起しているように見える。
『うん。一緒に頑張ろう』
「くふふふ……ケイが来てから、停滞していた状況が一気に進んでおる気がするの。おかげで毎日、本当に新鮮な体験ばかりじゃよ。年甲斐もなくドキドキしておるわ」
クスクスと笑うゼフィラの顔を、昇りはじめた朝日が照らしだした。
白く美しい髪の毛が黎明の光を反射し、虹色の輝きをまとう。
暖かな光に照らされたその頬は、まるで憧憬の念を抱く幼い少女のように、ほのかに紅潮していた。
――――――――――――――――――――
「あー!ケイちゃんいたー!」
家に帰った僕を待っていたのは、半ベソをかいたティリアだった……
ベッドで目を覚ましたら、いつも隣にいるはずの僕がいないことに気付き、家中を探し回っていたらしい。
「ほら言ったでしょ?たぶんゼフィラ様が持って行ってるんだって」
母親のシレネが、しょうがない子ねえと、ティリアをなだめている。
いつもは夜の魔法練習に抜け出しても、ちゃんと朝までにはベッドへ戻って、ティリアの腕の中に潜り込んでいたからなあ……
「いや、すまんの、ちょっとケイを借りておった。ええと……そう、ちょっと魔法の掛かり具合を調べようと思っての」
「うう……グスッ……」
いつも素直で元気なティリアには珍しく、ちょっとグズり気味の様子。まあ、それだけ僕に愛情を注いでくれているのだと思うと、心が暖かくなる。
ティリアは一度寝付いたら、朝までグッスリのタイプなので、今まで夜に抜け出してもバレたことはなかったのだが、まあいつかはこうなっていただろう。
仕方ない。予定より少し早いが、お披露目といこう。
『ゼフィラ、床に降ろしてくれる?』
僕の言葉に、ゼフィラは僕をそっと床に降ろす。
そして僕はそのまま、しっかりと床で立ち上がった。
「あらあら、まあ……」
シレネが目を丸くしている。
ティリアはうつむいていて、まだ僕の動きに気付いていない。
僕は一歩一歩、ゆっくりと歩いてティリアに近づいていく。
『ティリア、こっち見て?』
「……?ケイちゃん?」
ティリアが顔を上げる。零れそうな涙で潤んだ瞳に、僕の姿が映る。
そして、その口がポカンと開かれた。
「ほえ……?ケイちゃんが……歩いてる?」
ヒョコヒョコとそのままティリアに近づき、たどり着いた白く細い脚に、キュッとしがみつく。
『どうかな?実は、夜の間に練習してたんだ』
ティリアは、自分の脚にしがみついている僕に手を伸ばすと、そのまま震える手で僕を自分の顔の前に抱えあげた。
「す……す……すっ……」
『す?』
「すごーい!!ケイちゃん動けるようになったの!?すごいすごい!やったあ!」
大はしゃぎのティリアは、僕を抱きしめて、踊るようにクルクルと回る。さっきまでの泣きべそなど、一瞬でどこかに消え去っていた。
ティリアに振り回されて目を回す僕を、シレネとゼフィラが並んで微笑ましげに眺めている。
「ゼフィラ様、あれは魔法で身体を動かしているのですよね? いつの間にそんなに精密な魔力操作を? ゼフィラ様が指南されたのですか?」
「いや、アルメリアが言うには、一度やり方を見せただけで、すぐに動けるようになったらしいのう」
「へえ……たった一回で?……それは興味深いですねえ……」
前言撤回。
ぜんぜん微笑ましくない。なんかシレネの目が怖い。
いつもニコニコしている細い目の隙間から、アメジスト色の瞳が怪しい輝きを放っている。
ちょっとこの村の人たち、魔法に関しては人が変わりすぎなんですけど……
「ケイちゃん!これでもっといっぱい遊べるね!」
うん、ティリアは素直で可愛いな。
このまま、すくすく純粋に育ってね……




