第10話 お風呂を作ろう
いつもの川辺にやって来た僕ら。
僕は、いつも天日干しされている大きな石によじ登り、みんなを見回す。
「では、今からお風呂づくりを開始します!」
「「おー!」」
目の前に並ぶは、ティリア、リーリ、カレン、ルティスの四人組に、しれっと交ざったアルメリア。
興味を持ったことには、何のためらいもなく、真っ直ぐ突き進む先生である。
「じゃあ、まずお風呂……この場合は露天風呂だけど、湯船となる部分を作ろう」
普通なら苦労する作業だが、魔法が使えるこの世界では、それほど難しいことではない。
ティリアたちの土魔法をうまく使用し、川の一部、他の人の邪魔にならない浅瀬の位置を区切り、川辺を少し削って広げる形で湯船となる部分を作っていく。お試しなので、形の歪さなどは気にしない。
また、火魔法の得意なアルメリア先生とカレンには、河岸の石を魔法でガンガン焼いてもらう。
どのくらいの量が必要になるかわからないので、このあたりは適当に、多めに用意してもらった。
小一時間ほどの作業で、きれいな川の水で満たされた浴槽部と、真っ赤に焼き上がった石の準備が完了する。
「さて、じゃあこの焼けた石を、少しずつ浴槽の端っこに分けたエリアへ入れてくれるかな。火傷しないように気をつけてね」
「私がやりましょう」
アルメリアが軽く腕を振ると、焼けた石がひとかたまり持ち上がり、ゆっくり宙を舞って水に飛び込んだ。
ジュウッ!!と、水が激しく蒸発する音と共に石が水底に沈んでいく。
興味深くティリアたちが見守る中、僕は湯船に手を突っ込んで温度を確認しつつ、アルメリアに追加の焼け石を投入してもらう。
ちなみに僕の腕、というか身体は、魔力を通すことで耐水性も増しており、毛糸でありながら抜群の強度を誇っているので、長時間水に浸かっても安心だ。
「うん、ひとまずはこんなもんかな。さて、誰から入る?」
お互いの顔を見合わせる、エルフ幼女組。
さすがに初めての体験に、4人とも少し腰が引けているようだ。
そして、そんな時にはもちろん……
「私から入りましょう」
好奇心に瞳を輝かせたアルメリアが、名乗り出る。
……というか、既に服を脱ぎ始めていた。
あっという間に全ての衣服を脱ぎ去ったアルメリア。
最近、僕も水浴びなどで少女たちの裸は見慣れてきていたとはいえ、ティリアたちと違ってアルメリアの体型は、背こそ低めではあるが、きちんと成熟した女性の身体つきをしている。
その輝くように滑らかな肌と、スリムながら美しい曲線を描く裸体を惜しげもなく晒す姿に、僕は久しぶりに動揺してしまう。
「あ、う、うん、じゃあアルメリア先生、どうぞ」
「では、失礼して……」
アルメリアは、お手製の露天風呂に近づき、ゆっくりと細い足先をお湯の中へと沈ませていく。
つま先がお湯に触れた瞬間、ビクリと身体を震わせるが、そのまま両足を湯船に沈め、ゆっくりとしゃがみ込んで、その細い腰、形の良い胸、続けて肩まで湯船に浸かった。
そして、ひと息ついた後……
「ふわああぁぁ……なにこれぇ、気持ちいいぃぃ……」
アルメリアが蕩けた。
今にも昇天しそうな表情と口調で、露天風呂に首までどっぷり沈み込む。
「ケイ、なんですかこれは、なんなんですか、気持ちよすぎます」
完全に弛緩した体勢で湯船に沈むアルメリアを見て、ティリアたちの表情が変わる。
「せ、先生!交代!交代してください!」
「いやです。先生は今日からここに住みます」
「ずるいです!先生!」
大人げなく場所を譲ろうとしないアルメリアに、しびれを切らしたリーリが、ササッと服を脱ぎ去り、アルメリアの反対側から露天風呂に入り込んだ。
「…………」
ひとときの沈黙。
「んんんっ……!あああっ……!これ、しゅごいぃぃ……」
なんだかヤバい表情で、ビクンビクン身体を震わせるリーリ。
ちょっと、大丈夫か?いろいろとギリギリだぞ?
アルメリアと一緒に、完全に脱力して動かなくなってしまったリーリを見て、残されたカレンとティリア、そしてルティスが頷き合う。
「行くぞ、ティリア、ルティス」
「うん!」
「もう待てない」
速攻で素っ裸になる3人。
相変わらず健康的で瑞々しい肢体をさらけ出し、ついでに僕を拾い上げてその胸に抱いたティリアは、露天風呂へと突撃した。
「はいはい、つめてつめてー!」
カレンが、ふにゃふにゃに腑抜けているリーリをアルメリアの方に押し込み、無理矢理3人分のスペースを開けると、それぞれの身体を押し込んでいく。
かなり窮屈ではあるが、小さな露天風呂に5人のエルフ(+人形一体)が、入ることができた。
「ふわ~……確かにこれは気持ちいいねぇ」
狭いので、膝を立てる形で温かなお湯に浸かっているティリアが、頬を染めてうっとりとした表情になる。
カレンもルティスも、同じように「ふおぉぉー」と、声とも溜め息ともつかないものを口から吐き出して、肌を包むお湯の感覚を楽しんでいるようだ。
これだけ一気に人が湯船に入れば、お湯の温度も下がりそうなものだが、いつの間にか、宙に浮いた焼け石がこまめに投入されて温度調整されている。
間違いなく、アルメリアの仕業だ。
そして僕はと言えば、あまりに女の子密度の高い湯船の中で、既にお湯の温かさを感じているのか、人肌の温かさを感じているのか、よくわからない状態となっていた。
まあ、とにかく気持ちいいことは確かだから、どっちでもいいか……
「ケイちゃん、お風呂ってこんなに気持ちいいものなんだねぇ……これなら毎日だって入りたいよ」
ふにゃふにゃと蕩けた笑みを浮かべ、火照った身体で、僕を柔らかく抱きしめるティリア。
「気に入ってくれたなら良かったよ。他にもお湯に薬草を入れれば薬湯風呂とかもできそうだし、やろうと思えば、自宅用のお風呂だって作れなくもないと……」
「「詳しく!」」
おおう……アルメリアとリーリの圧が強い……
僕は自分の知る限りのお風呂情報を、アルメリアたちに伝える。自宅用のお風呂については、浴槽の下で火を炊くタイプのものについても教えておいた。
僕の話に、興味深く聞き入っていたエルフっ娘たちだったが、気づくとそこそこの時間が経っており、ティリアの顔が真っ赤になってきていた。
「ケイちゃん……なんか……クラクラする……」
うわ、完全にのぼせてる!
ヤバいヤバい、早くお風呂から出てー
急いで風呂から出したティリアを横たわらせると、冷たい水で濡らした僕の腕を額に乗せてあげる。
「えへへ……ケイちゃんの手、冷たくて気持ちいいー」
うーむ、これは湯あたりとか、注意点もしっかり伝えておかないと危ないなあ……
特にそこ!アルメリアとリーリ!
いつまでも浸かってると、のぼせるし、ふやけちゃうからね!
――――――――――――――――――
それから数日後、フラウの村のエルフたちの間で、お風呂が大流行することになる。
僕たちが作った露天風呂はいつの間にか大幅に拡張され、屋根と脱衣場が取り付けられていた。
さらに川から水を取り込む水路と、アルメリアと道具屋のエーリカが共同考案した魔法風呂釜(魔力を込めることで、お湯を沸かす魔法具)が設置され、エルフたちの憩いの場となっている。
今までエルフたちがお風呂という文化をまったく知らなかったのを疑問に感じないでもないが、まあ世界が違えばそんなものなのだろう。
ちなみに、お風呂第一人者となったアルメリアと、その補佐リーリで『お風呂研究会』が立ち上げられ、家庭用風呂の普及も始まっているらしい……
「ケイよ……あの薬湯風呂とかいうやつ、何かヤバい草でも入っておらんか?中毒性があるんじゃが……」
――ああ、ゼフィラ、お前もか……




