第62話 約束の日
ゼフィラ達からの働きかけで、ドワーフや人間種との同盟が決まった。
ドワーフ達は既にフラウ村の隣に居留地を作っているし、人間種に関しても森の入り口近くにある花園に、居留地を建設予定になっている。
今現在、この世界の種族を救うことができるのは僕だけだ。
まだ実際に生まれたエルフの子供は3人だけだが、その後にもう30人くらいに種付けを行っている。程なく子供も増えていくだろう。
そしてゼフィラと同じように、男の子が生まれてくれれば、いずれ僕がいなくてもこの世界は正常に回っていってくれるはずだ。
さらに言えば、ドワーフとも先日初めて種付けを行った。相手はラピスだ。
行為自体は無事に……いや、無事と言えるのかな、あれは?
ひとまず最初はやっぱり怖いと泣き出し、中盤は何これ凄すぎると泣き出し、最後にはもう2度と離れたくないとダダをこねて泣き出し、結局最初から最後までべしょべしょに泣き続けるラピスをなだめすかしつつの交わりとは、一体どんな特殊プレイなのかと……
危なく変な性癖に目覚めそうになってしまった。
そう言えばラピスといえば、この前エーリカから話を聞いたと目をキラキラさせて、僕の愛機フェザーを見せて欲しいと言って来た。
ちょっと見るだけだというから、フェザーを停めている場所に案内してあげたのだけど、数分目を離した隙にフェザーがバラバラに分解されていたのには心底驚いた。
呆然とする僕の前で「あ、すみません。すぐ戻しますから」と言って、本当にあっという間に元のフェザーの姿に組み上げていくのを見て、更に驚くことになった。
しかも、ただバラして組み直しただけなのに、何故かフェザーの速度、馬力共に明らかに向上していたことには、もはや驚きを通り越して呆れてしまったものだ。
ドワーフって、結構凄い種族なのかもしれない。
まあとにかく、ノニの見立てではラピスの妊娠も間違いないとのことだし、後は無事に子供が生まれてくれるのを待つばかりだ。
これが上手く行けば、他のドワーフの娘たちとも種付けの機会を増やしていきたいし、その次には人間種……ニースとの子作りも控えている。
何とか、僕の男性としての能力を使って世界を滅びから救うための道筋が、見えてきた気がする。
それもこれも、全てゼフィラ達がうまく主導していってくれているおかげだ。
先日、ゼフィラから「ケイの負担を増やしてしまって申し訳ない」と謝られたが、何を言っているのやらだ。
むしろもっと僕をうまく使って事を進めていって欲しいと思っている。それに……あんまり大きな声で言うことでもないけど、色々な女の子たちと仲良くなれる事は僕も嬉しいしね。
そんなことを思いながら、僕は自分の家で、フィルがスヤスヤ眠る揺り籠をゆっくり揺らしていた。
僕の隣ではティリアが、いつものように僕の大好きな笑顔で、ニコニコと微笑んでいる。
「ねえ、ケイちゃん。いよいよ今日だよ、やっとだね?」
実は、今日はティリアの20歳の誕生日だった。
そして……僕とティリアが子作りをすると決めていた日でもある。
最近は僕専用になりつつある温泉宿も、ちゃんとティリアのために予約してある。念を入れて3日ほど。
「ついに、ケイちゃんと結ばれることができるんだね」
頬を染めて僕に身を寄せるティリア。
僕は優しくその肩を抱き寄せる。ティリアは嬉しそうに僕に頬を擦り寄せてきた。
最近ティリアが妙に大人びてきているように感じる時がある。見た目はもちろん幼女の姿のままなのだけど、フィルの面倒をみるようになってからだろうか、何と言うか母性に目覚めてきたような雰囲気をたまに感じていた。
でも、こうして僕に甘えている姿を見ると、やっぱりティリアはティリア。僕と出会った頃の可愛い女の子のままなんだと、少しだけ懐かしく思う。
「リーリたちは今日のこと知ってるんだっけ?」
「えへへ……うん。みんな早くケイちゃんとの子供が欲しいって羨ましがってたよ? リーリちゃんは誰よりもアルメリア先生のとこのステラちゃんを可愛がってるし、ルティスちゃんとカレンちゃんは、どっちが先にケイちゃんと子作りできるか競争するって言ってた」
おう……なんかそれでいいのかって気がしないでもないけど、僕との子供が欲しいって言ってくれるのは単純に嬉しいな。
僕がまだ小さな人形の姿だった頃から一緒にいた仲良し4人組のことは僕だって大好きだ。いつかはあの子たちとも子供を作ることになるだろう。
でも、今はティリアのことだけを考えよう。一途に僕のことを想い続けてくれ、今日まで待たせてしまった、愛しい女の子を心から愛そう。
僕はティリアの柔らかな頬に手を添えて、少し上を向かせると、その小さく可憐な唇を奪う。
「んっ……」
塞いだティリアの口から、くぐもった甘い声が漏れる。その甘い吐息ごと受け入れるように、僕はゆっくりと、長く、深く、柔らかな唇と舌を吸い上げた。
「ふ……はぁっ……ケイちゃあん……」
ティリアが瞳を熱っぽく潤ませて、強く抱きついてくる。
僕もティリアの小さく柔らかな身体を受け止め、彼女の全ては自分のものだと示すように、しっかりと抱きしめる。
ティリアの身体が熱い。早く僕を受け入れたいと全身で求めてくれているのがわかる。
僕とティリアの視線が熱く絡みつく。
もう我慢しなくてもいいんだよね?
ティリアの瞳は雄弁にそう語っていた。
再び僕たちの唇が近づいたその時……
「ふぇ……うやゃああー!」
不意にフィルが泣き出した。
僕とティリアは顔を見合わせ、どちらともなく、クスリと笑い合う。
「あとちょっと……夜まで我慢……だね?」
ティリアが少しだけ残念そうに、僕の唇に軽くキスをした。
僕も苦笑して頷くと、抱きしめていたティリアをそっと離して、代わりにフィルを抱き上げる。
「よしよし、どうしたフィル。お腹でも空いたのか?」
なかなか泣き止まないフィルをあやしていると、その声を聞きつけたゼフィラが地下の研究室から出てきた。
「なんじゃ、もう腹が減ったのかの? むう、タイミングが悪いのう」
「タイミング? どうかしたの?」
「うむ、ちょうど今イングリットの指輪の反応があっての。どうやら花園に着いたようなのじゃ。会議からそろそろ一ヶ月じゃから、居留地建築の準備かもしれんの」
ああ、なるほどね。ゼフィラとしてはちょっと様子を見に行きたいところなのだろう。
「じゃあ、代わりに僕が行って話を聞いてくるよ。フェザーで飛ばして行けば10分も掛からないしね」
「む? ううむ……そうか。では、悪いが頼もうかの。イングリットが同行しているなら心配はないと思うが、一応気をつけての」
「うん、任せて。じゃあちょっと行ってくるね」
僕は抱いていたフィルをゼフィラに手渡した。
いつもいい子のフィルが今日は妙にグズっているが、母親のゼフィラに任せておけば安心だろう。
「ケイちゃん、気をつけてね?」
お預けを食らう形になってしまったティリアが、少しだけ切なそうに僕の袖を引く。
僕はティリアの頭を優しく撫でて微笑んだ。
「うん。ティリアは先に温泉宿に行ってて? ……帰ってきたら、さっきの続きをしよう」
「……うん。待ってるね」
頬を染めて頷くティリアに軽く手を振り、僕は家を出た。
庭先に停めてあるフェザーに跨り、ハンドルを握って魔力を流すと、フェザーの心臓部である風魔法の魔動機が快調に起動する。
ハンドルから魔力を一気に注ぎ込み、アクセルを開いてスムーズな加速で発進。そのまま庭から飛び出すと、僕は森の花園へと向かって出発した。
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村の中を通り抜けるように流れる小川。
そのほとりに建つ『温泉宿』と呼ばれる宿泊所。
宵闇が迫る時刻、ティリアはその温泉宿の居間で、1人外を眺めていた。
サラサラと流れる小川の心地よい音と、備え付けの風呂にお湯が流れ込む水音だけが部屋に響く。
今夜、ティリアは大好きなケイと結ばれるのだ。
ケイを大好きな気持ちは村の誰にも負けない、自分こそが1番ケイを愛しているという自信がティリアにはある。
でも、ケイはティリアの幼い身体のことを第一に考えて、2人で子供を作ることを後送りにしていた。
それは優しいケイからの愛情を感じられて嬉しい反面、他の人たちにどんどんと先を越されていくという寂しさも感じさせるものだった。
ケイちゃんが好き。大好き。
だからケイちゃんとの赤ちゃんが……愛の証が欲しい。
そう思い続け、想い焦がれてきた。
でも、やっと今日、ケイとの子作りのために、真の愛を確かめ合う行為を行うことができる。
「ケイちゃん、早く帰ってこないかなぁ」
ティリアは温泉宿の窓から外を眺める。
愛しいケイが、いつものように優しく微笑みながら、彼女の元へ帰ってくるのを待ちながら。
——その日、ケイはエルフの森から姿を消した。




