第6話 成長
それから数日後。
今日も楽しい学校生活。
世界の歴史の授業では、この世界で時折発見される「遺物」と呼ばれる存在について教えてもらった。
とは言え、以前ゼフィラに聞いたこともあるが、そもそも使用目的も存在意味も全く不明な謎の物体についての総称を遺物と言うらしい。
山奥や、あまり人の踏み入らない場所などで、時折見つかったりするそうだ。
この村で遺物について一番詳しいのは、やはりゼフィラだとのこと。
忘れていたけど、僕が呼び出された時に見せてもらった謎の物体とか、興味があるので今度見せてもらおう。
そんな座学が終わり、今は再び魔法の練習の時間。
ティリアたちは、それぞれ熱心に魔法の練習をしている……かと思いきや、何やら噂話にかまけているようだ。
「なあ、最近村の中で話題になってる、お化けの話、知ってる?」
カレンが火の玉を作る練習をしながら、ティリアに不穏な話をしているのが聞こえてくる。
「えー、なにそれ?リーリちゃん知ってる?」
「う、うん……謎の小人の話でしょ?」
「そう、それそれ!最近、夜中になると村の中をたどたどしい歩き方で彷徨う小人の幽霊が出るんだって」
「私も聞いた。ボロ布をまとった小人がフラフラと裏道を歩いているのを見た人がいるって」
リーリやルティスも加わり、謎の怪談話に花を咲かせている。
「で、追いかけようとすると、すごい勢いで飛び掛ってきて、そのままどこかに消えるんだって!きっとエルフに恨みをもつ小人のお化けだよ!」
へー……おっかないねー。
ところで……アルメリア、その目はなんだい?
何か僕に言いたいことでもあるのかな?
「ケイ……むしろ、何か言うことはない?」
『…………』
「…………」
『ごめんなさい。僕です』
「やっぱり。というか、もう歩けるようになったんですか?」
一応、ティリアたちに聞こえないように、アルメリアは小声で会話を続ける。
『まあ、なんとか歩けるくらいには。でも力加減が難しくてさ、ちょっと魔力を込めすぎると転んだり、飛び上がったりしちゃうんだよね』
そう、だから別に飛び掛かってるわけじゃない。ただ走って逃げようとして失敗してるだけなんだ……
『それで、転んでも汚れないように布切れをまとって、夜な夜な練習がてら散歩してたら、なぜかそんな話に……』
「ティリアにも秘密にしていたのですか?」
『うん……せっかくなら、ちゃんと動けるようになってから驚かそうと思って。ティリアが寝てから練習してたんだけど……』
チラリと、熱心に話し込んでいるカレンとルティスに目をやる。
「やばいよな?今度、大人たちが夜中に見回りして退治するとかって話も出てるらしいよ」
「そんなお化け、アルメリア先生の魔法なら、一発で消し炭」
話が……大きくなってきている……
「正直に白状した方がいいのでは?それとも、消し炭にしてもいいですか?」
『あとでゼフィラに言っとくから……消し炭は勘弁してください……』
よろしい、と言いつつ、クスリと笑うアルメリア。
「それにしても、もうそこまで魔力操作に慣れるとは、本当に素晴らしいです」
アルメリアが僕を切り株の上に置き、僕に向かって手を伸ばした。
その意図を汲んで、握手するように毛糸でできた手を伸ばしてアルメリアの指を掴む。
そのままヒョイと立ち上がると、ゆっくりと身体を動かしてアルメリアの腕にしがみつき、ヨロヨロと懸命に腕をよじ登って、その細い肩に腰掛けた。
『ふう……こんな感じかな、どう?』
「……ケイ、本気で私の所に来ませんか?キレイな洋服をいっぱい着せて、可愛がってあげますよ……?」
『なんか……この前と目的変わってない?』
そんなことをしているうちに、練習を終えたティリアが戻ってきた。
「ケイちゃんただいまーって、あれ?先生、ケイちゃん肩に乗せてるの……?」
「ええ、ここの方が、あなたたちの練習がよく見えると思いまして」
「あーなるほど!ありがとう先生!」
アルメリアがうまく誤魔化してくれた。とりあえず、僕の秘密はまだ黙っていてくれるらしい。
そのお礼に、僕を肩に乗せてるのをティリアに見つかって、ちょっと耳が赤くなってたのは黙っていてあげよう……
その後、家に帰ってから、こっそりゼフィラに全て白状したところ、一瞬驚いたような顔をした後、大爆笑していた。
くっそ……いまに見返してやるからな!
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その夜。
ティリアが早々に眠りについた後、ベッドを抜け出した僕は、さすがに今日は表を出歩くのは控えたほうがいいかなと、家の裏庭で身体を動かす練習をしていた。
「ほう、本当に動けるようになっとるの」
いつの間にか、家の玄関先に腰掛けたゼフィラが、僕の練習を眺めていた。
「たった数日でそこまで魔力を扱うようになるとは……やはり、お主には何かありそうじゃのう」
『そんなこと言われてもなあ、やっと歩ける程度になっただけだし……』
「ふむ……と言うか、その動き……お主、元々あった視覚や聴覚だけでなく、触覚も戻っておらんか?」
……鋭いな。さすがゼフィラ、見抜かれているか。
実は、身体に魔力を行き渡らせる練習を始めた頃から、だんだんと触れたものの感触や温度などを感じるようになってきていた。
まだ完全に戻ったというわけではないが、魔力の込め具合によっては、結構ハッキリと触れた感覚を感じ取れるため、身体を動かすのに役立っている。
まあ、とは言え身体自体が毛糸製なので、なかなか感覚が掴みきれずに苦労しているところだ。
『そうだ、ゼフィラ。魔力の使い方で聞きたいことがあるんだけど……』
「ふむ?なんじゃ?」
僕は、いま考えていることについて、できるだけやりたいことが伝わるようにゼフィラに説明する。
「魔力を込めた糸を、一定の周波数で震わせる?空気に振動を伝えて音を出したい……と?」
少し首を捻った後、何かに気付いたような顔になるゼフィラ。
「お主、まさか……ふっ……くふふふ……面白い。面白いのう。本当にお主と話していると飽きんわ」
ゼフィラは心底楽しそうに笑みを浮かべる。
「よかろう、少しだけ時間をくれ。儂の名にかけて、なんとかしてやる」
『おお、さすがゼフィラ。頼りになるね』
そういえば……と、僕はゼフィラに何個か聞きたいことがあったのを思い出す。
『ところで、ゼフィラって四賢者っていうやつの1人なの?』
「む?違うが?」
違うんかい……
てっきり、この村最強の魔法使い、四賢者が1人のゼフィラ!みたいなのかと思ったのに。
じゃあ、四賢者って誰だ?
「アルメリアの他には、道具屋のエーリカ、パン屋のミモザ、あとはティリアの母シレネが、一応、四賢者と呼ばれとるのう」
『え!?ティリアのお母さんって四賢者の一人なの!?』
いつもニコニコと、優しそうに微笑んでる印象しかないんだけど……
「まあ、あれでも儂の一番弟子じゃからのう。それなりの実力はあって当然じゃな」
『そんな偉そうなことを言われても……じゃあ、その師匠であるゼフィラは何なのさ?』
「儂か?一応周りからは、大賢者と呼ばれとるの」
まだ上があった!
えっと、さらに上に超賢者とかいないよね?
「何を言っとるんじゃお主は。そんなものはおらん。まあ、これでも儂は『長老』を引き継ぐ者じゃからな……」
ん……?何か今、言葉のニュアンスがおかしくなかったか?
聞き返そうかとも思ったが、何だかゼフィラの雰囲気がそれを拒んでいる感じだった。
なんとなく聞きづらくなり、僕は話題を変えることにする。
『そうだ、もうひとつ。遺物ってやつについて知りたいんだ。できれば見せてもらえないかな?』
「ふむ、そうじゃの。儂もそろそろ、その辺りの話をしたいと思っておった」
ゼフィラは座っていた玄関先の石段から立ち上がり、お尻についた砂埃をポンポンと軽く叩く。
そして地面に立っていた僕を、両手で抱き上げた。
「では、ちょっとばかり夜の散歩といこうかの」




