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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第52話 新しい生命2


 ノニはその後しばらくしてから、フラウの村へとやってきた。

 初めての子供を宿したゼフィラの体調管理のためと、僕の身体で生成される生殖用ナノマシンの研究のためである。

 まあ、もちろん本来の目的はそれらであるが、しばらくの間フラウ村に仮住まいを設けて、僕と一緒に過ごせるという事が嬉しそうだった。


 ノニや僕が日々見守る中、ゼフィラのお腹の子供の成長は順調だった。

 最初の数ヶ月は、その事を知るのは僕たちと四賢者、各村の族長くらいだったが、半年を過ぎる頃にはゼフィラのお腹も目立つようになり、皆に隠し通すことが難しくなってくる。

 そのタイミングで、ゼフィラはエルフの皆に対して、全てを公開した。


 僕がついに、エルフの女性たちに子供を宿す能力を得たこと。

 ゼフィラがその最初の被験者として、妊娠をしていること。

 もしこのまま無事に子供が生まれるようなら、希望者は誰でも僕と子供を作れるようになること。

 ただし、愛情を伴わない行為については原則禁止とし、基本的には女性側からの希望を優先すること。

 

 最後の項目は僕の希望で付け加えてもらった。いくら人口減少を止めるためとはいえ、望まない子供を作るのは避けたい。

 その代わりに僕との子供を望んでくれる女性には、分け隔てなく、全身全霊の愛情を注ぐつもりだ。

 

 エルフは長寿だ。まだそこまで焦る必要もないだろう。

 人口減少を止める方法の目処はついたのだ。

 後はゆっくりと愛情を育み、もし僕を求めてくれる人がいれば、少しずつでも子供を増やしていければいいと思う。

 

 そして何よりも、これから生まれてくる子供たちの性別によっては、僕の役目自体が不要になる可能性だってある。

 ホムンクルスの身体の設計がどうなっているのか、まだ完全に解明できたわけではない。

 少なくとも『生命の揺り籠』から生まれ落ちるホムンクルスは、全て女性になるよう設計されているのは間違いない。では、そのホムンクルスが持つ生命の卵から、正式なプロセスを経て生まれる子供はどうなのか?

 それがもし何の制約もなく、僕の知る人間と同じ過程を経て、生まれる子供の性別が決まると言うことであれば……


 この世界に純粋な『男性』が生まれるかもしれない。


 そうなれば僕のような、言わば世界の異物の如き存在の手など借りる必要は無くなり、このユーフォニアという世界は、純粋にホムンクルスたちの営みだけで回っていく事ができる。

 だから、みんなが皆、わざわざ急いで僕と子作りをする必要まではないだろう。

  

 ……などと思っていたのだが、ゼフィラによると、大半のエルフが僕との子供を望んでくれているらしい。

 それは僕の想像を遥かに超える出来事であり、僕は思わずゼフィラに、「みんなエルフ族の将来のためにとか考えて、無理してないかな?」と確認してしまった。


 そんな僕に対し、ゼフィラは呆れたような笑みを返す。

 

「そんなわけないじゃろう? 皆、お主との愛の証を求めているのじゃよ」


 1言で切って捨てると、「さすがに人口急増を抑えるために、種付けのタイミング調整くらいは行う必要があるかのう?」と、各村の食料状況などを真剣に調べ始めていた。

 

 みんなが僕に対して少しでも愛情を感じてくれていて、その延長として子供を求めてくれている……

 それだけで、僕のやってきたことは間違いでは無かったと思うことができ、今までの苦労の全てが報われた気がした。

  

 とは言え、さすがにまだゼフィラの出産も終わっていない現在は、悪い言い方をすれば、治験段階とも言える。

 だからエルフという人種が、確実にそして安全に子供を産むことができると証明されるまでは、希望者に対する種付けは待ってもらうことにしていた。

 

 特に僕と結ばれることを強く望んでくれているティリアとは、じっくり話し合っているところだ。

 エルフの中でも最年少ということもあり、身体的なものに関してもキチンと安全性を確認してからでないといけないと思う。

 まあ最年少と言っても、そもそもエルフ族のほぼ半数は幼女(の見た目)であり、ゼフィラを妊娠させている時点で今更ではあるのだが……

 


 さて、そんなある日。

 

「とは言え、今後のことを考えると、女性の身体や安全な妊娠の仕組みを明らかにするためには、治験対象を増やす必要があります」


 ノニがもっともらしく、そう告げる。

 確かに、その意見自体に異論は無い。

 無いのだが……


 僕はフラウの村でノニが仮住まいとしている家のベッドに、押し倒されていた。

 

「これは、どういう状況……?」


「正直、もう我慢できません」


 僕は仰向けに寝転がされた自分の身体に、跨るように乗っかったノニの華奢な身体を、下から見上げた。

 ノニの瞳は熱っぽく潤み、その呼吸も若干荒くなっている。

 

 まあ実際のところ、僕とノニは各種実験のためと称して、最後の1線……いや、もはや0.1線くらいのギリギリまでは何度も経験済みだった。

 女性の体内の変化、生命の卵への影響などを確認するため、裸で抱き合い、お互い隅々まで触り合い、さらにはノニの中に押し入って、その最奥を刺激しての反応確認まで、ありとあらゆる調査を行なっている。 

 その結果分かった事としては、エルフの女性の持つ生命の卵は、通常は休眠状態になっており、格納された体内の臓器の入口が男性からの刺激を受けて開放されることで初めて活性状態となり、受精への受け入れ態勢が整うという事だった。


 一応、全て真面目な検証であり、お互い研究のために身を捧げている……という建前はあったものの、そもそも好き合った者同士だ。いつかはこうなるであろうことは想像に難(かた)くなかった。

 それでも、今はゼフィラの身を最優先に考え、2人とも何とか堪えてきたのだが……


「ケイさんとの度重なる確認で、私の受け入れ態勢が完全に整ってしまっています……このまま放置したら、その後どうなってしまうかわかりません。もしかしたら生命の卵が排出されて使えなくなってしまう恐れもあります」


 それも、研究としては行うべきなのかもしれませんが……と、ノニは切なそうな瞳で僕を見つめる。


「私は、ケイさんとの子供が欲しいです……」


「ノニ……」


「今はゼフィラ様の身体が最優先なことはわかっています。そちらを決して疎かにはしないと約束します。だから……お願いですケイさん、私にも……んむっ!?」


 僕の唇がノニのそれを塞ぐ。

 体勢を入れ替え、僕がノニの上にのしかかる。


「ノニ……僕だって、ずっと我慢してきたんだ。そこまで言うからには、覚悟はできてるんだね?」


「はい……もちろんです。この身で味わう最後の実験です。思う存分、容赦せずにお願いします」


 頬を紅潮させて、満面の笑みを浮かべるノニに、僕は心の赴くまま覆い被さった。

 

 

 その日ついに、ノニは女性として男性からの真の愛の証をその身に受け入れるという、最後の実験を完遂した。 

 後にノニは、自身のまとめた研究結果レポートに、以下のように記している。

 

『かの行為は男女の愛情の究極型であり、幸福の具現化に等しい。ただし、何度行っても途中で意識が飛んでしまい、最後まで記憶を保てないのが難点である。 

注釈:たぶんケイのが大きすぎるのが悪い』


 

————————————————


  

 その後、ゼフィラに正直にノニと結ばれたことを伝えたところ。

 

「なんじゃ、ようやくか。ここまでよく我慢したものだの」と、笑っていた。


「心配せんでも大丈夫じゃ。もう儂も安定期?というやつらしいし、ノニも自分の身体で体験することで、さらに知識も技術も上達することじゃろうよ」


 寛容に微笑むゼフィラに、僕は胸を撫で下ろす。

 長老として、エルフ全体の幸せを考えているゼフィラは、やっぱりさすがだと思う。

 何となく自分が1番最初だったからという、正妻としての余裕みたいなのが垣間見える気がするけど……まあ、気のせいだろう。


「それから、ノニの言っていた被検体を増やす話とやらも、数人なら構わんじゃろう。今のところ儂の身体にも特に問題は見られんし、希望者を何人か見繕って種付けを行なってみたらどうじゃ? まあ、さすがに儂が身重じゃから四賢者あたりは控えてほしいがの」


「…………」


「……おい、ケイ。なんじゃその沈黙は? 何か隠し事をしとるな……?」


 いや、隠し事と言うか……ちゃんと今から言おうと思ってたんだよ?

 ちょっとだけ言い出しにくかっただけで……

 不信感のこもったゼフィラの視線に晒されながら、心の中で言い訳をする。

 

 そして、僕は昨日の夜の出来事を思い返した。



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