第51話 新しい生命1
初めて僕とゼフィラが結ばれてから2週間後。僕たちはフェザーに乗って、フルツの村を訪れていた。
ゼフィラは、フェザーに乗るのがあまり得意ではないので、速度は控えめにゆったりとした走行だったが、それでも半日もあればフラウからフルツ間は充分踏破できるようになっている。
急に訪れた僕とゼフィラを見たノニは、それだけで何かを察したようだった。
ていうか、僕の周りの人って察しが良すぎてちょっと怖いな。隠し事なんてできやしない。
「ケイが分かり易すぎるだけだと思うがの」
と、苦笑するゼフィラに、ノニが大きく頷いていた。
解せぬ。
そしていつものようにノニの診療所兼研究室に通された僕らだったが、建屋の扉を閉めるや否や。
「それで、うまくいったのですか?」
ノニが興奮を隠せない様子で、僕ににじり寄る。
まあ落ち着いてとノニを制し、僕とゼフィラはいつものイスに腰を下ろした。
「たぶん、成功したと思う。今日はその確認に来たんだ」
そうですか、ついに……と、ノニが目を輝かせる。
そしてゼフィラの元へと歩み寄ると、その前にかがみ込んで、手の平をゼフィラの下腹部へと押し当てた。
「ゼフィラ様、失礼します」
ノニの手から温かな光があふれ出すと、ゼフィラの腹部に吸い込まれるように消えていく。
目を瞑って何かを確かめるようにそっと手を動かしていたノニが、大きく息を吐いて目を開いた。
「なにぶん初めてのことですので、絶対とは言い切れませんが……」
神妙な顔での前置き。
そしてノニの表情が柔らかな笑みに変わる。
「おめでとうございます。ゼフィラ様の中に、確かに新たな魔力の波長が生まれたのを感じます」
そうか……良かった。
僕の研究は、生命の誕生の為の努力は、成功したということか。
ホッとした僕の手に、ゼフィラの小さな手がそっと重なる。
「だから言ったじゃろう?心配はいらぬと」
「そうは言っても、さすがに完璧な自信なんてなかったよ」
僕を安心させるようなゼフィラの笑顔に、ここ数日ずっと感じていた緊張感が、やっと解けていくのを感じる。
ノニはそんな僕を、感心したように見つめていた。
「それにしても、さすがですねケイさん。男性機能を完全に復活させたうえに、たった1回でゼフィラ様に生命を宿らせることに成功するとは……」
「……」
「……」
黙り込む僕とゼフィラ。
「……え? どうしたんですか? 私、何かおかしいことを言いましたか?」
「いや、その……1回じゃないんだ」
「ああ、なるほど。恥ずかしがることはありませんよ。初めて試す行為なのですから、念を入れて試行回数を増やすのは当然のことです。それで、何回ほど行為を行ったのですか? 2回、いや3回くらいでしょうか?」
「えっと、20回くらい?」
「……やり過ぎです。何を考えてるんですか?」
ノニからの冷静なツッコミが入る。
うん、そりゃそうだよね。
「初めて行為を行ってから、まだ2週間ですよね? 何で経過日数よりも多くやらかしてるんですか?」
「い、いや、だってゼフィラがハマっちゃって、何回も求めてくるから……っ!」
「はぁっ? な、何を言っとるんじゃ!ケイが絶倫すぎて、毎度、何回も注ぎ込んだんじゃろうが!」
不毛な言い合いを始める僕とゼフィラに、青筋を立てたノニの氷のような視線が突き刺さる。
「どっちでもいいです……ちっ……盛りやがって……」
「い、今、舌打ちしたな! エルフの長老の儂に向かって何と失礼な……」
「うるさいですよ。全くうらやましい……あんまり無茶なことしてると、身体を壊しますよ!」
「うむ……ケイが毎回あまりにも激しく求めてくるので、本当に壊れてしまうかと思ったのう」
「それ以上喋ると、その口を縫い合わせますよ?」
ヤバい、ノニがガチギレだ。
僕は何とかノニをなだめすかして、機嫌をとり、診察を続けてもらう。
「まったく……うん、でも心身ともに問題は無さそうですね。ケイさんの知識だと、子供が生まれるのには10ヶ月必要なのでしたっけ?」
「うん。でもホムンクルスの身体はどうなのかまでは分からないからね……今後慎重に経過観察しないとかな」
「そうですね。それに、まだ生命の卵については判明していないことも多いです。特に排卵と呼ばれるものがどのタイミングで行われて、どのタイミングなら受精と呼ばれる現象が可能なのかといった疑問については、検証の数を増やしていくしかないですね……」
ノニの言うとおり、ホムンクルスの身体についてはまだ分からないことも多い。
実は先日、例の『祠』……システムコンソールでも色々聞いてみたりしたのだが、「前例が無いため不明です」と返ってきた。
その時対応してくれたのはいつものスュンだったのだけど、「回答不可」ではなく、一応きちんと回答が返ってきたことに、逆に驚いた。
最近、システムコンソールで回答してくれる内容が増えた気がしている。何か権限やガイドラインの変更でもあったのだろうか? 少なくとも僕の権限レベル自体は上がってないはずなんだけどな……
「まあ、まずは儂の身体を調査するがよい。エルフの未来のためじゃ。協力は惜しまん」
「はい。その件についてなのですが、私はこれからしばらく、フラウの村で暮らそうかと考えています。まずはゼフィラ様の体調管理が第一ですし、そろそろ弟子のライムとリチェに経験を積ませたいと思っていましたので、村の運営を任せてみるのも良いかと」
「ふむ。あの双子には、よい経験になるかもしれんが……ちと時期尚早ではないか?」
「ケイさんのフェザーがあればすぐに往復もできますし、いい機会でしょう。まだ私が身軽な身体のうちに慣れてもらわないと困りますし」
僕に向けて、含みのある笑みを浮かべるノニ。
それを見たゼフィラは少し複雑そうな表情を浮かべるが、特に何も言わなかった。
「ケイさん、このあと是非例のナノマシン物質について、お話を聞かせてもらいたいのですが」
「うん、今日は泊まらせて貰うつもりだし、問題ないよ。ゼフィラはどうする?」
「……ふむ、そうじゃの。湖のコテージは空いておるな?せっかくじゃからライムたちと話でもしながら、ノンビリとさせてもらおうかの」
そう言ってゼフィラは立ち上がると、チラリと僕を見て部屋を出ていった。
ゼフィラといいシレネといい、ハッキリと僕に好意を示してくれているノニには、随分と気を使ってくれる。
まったく色々と言ってたくせに、優しいなあ。
「ケイさん……」
「ノニ……」
そして僕らはお互い見つめ合い……
「出してください」
「……ん? 何を……?」
「だから、例のものです。研究材料として採取しますから! お腹の中にストックはあるのでしょう? ほら、早く!」
急かすように僕のズボンに手を掛けるノニ。
力付くでズリ下ろされそうになるズボンを、必死に押さえる僕。
「ちょ、ちょっと待ってノニ! そんな簡単に出せって言われても……」
「何を言っているのです? ゼフィラ様には散々出したのでしょう? それなのに私には出してくれないって言うのですか?」
ノニの目がすわっている。
あ、コレはまだ根に持ってるやつだ……全然機嫌は直ってなかったらしい。
そんなことを考えた僕の隙をついて、ノニの手が僕のズボンをズルリと引きずり下ろしてしまった。
「さあ、早……く……」
勢いよく僕のズボンを下ろしたままの勢いで、僕の前に屈み込んだノニの目が真ん丸に見開かれる。
「え?……なんで……大きくなって……?」
「そりゃあ、自分の好きな子にそんなことされたら、当然そうなっちゃうよ……」
さすがに恥ずかしそうに笑う僕に、ノニは無言で瞳を潤ませる。
そしてノニは、目の前で猛々しく主張する熱量の塊にそっと手を伸ばした。
「……!?」
「すみませんでした、ケイさん……教えてください、どうしたら良いですか? どうしたらケイさんを喜ばせることができますか?」
「ノニ……」
ヒンヤリとしたノニの細い指先の感触を感じる。
そして僕は、ノニの甘やかな手の動きに身を委ねていった。
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数時間後、ノニの家に戻って来たゼフィラが見たのは、ゲッソリとソファに横たわるケイと、目の前に液体入りの試験管を何本も並べて、爛々とした瞳で研究に耽るノニの姿だった。
「何をやっとるんじゃ、お主らは……」
「ああ、ゼフィラ様。ちょっと今いいところなので、しばらくお待ちください」
「……何か、また髪が短くなっておらんか?」
「ええ、ちょっと採取量が足りなかったので、提供しました」
「ええー……」
ゼフィラはグッタリとしているケイと、脇目も振らず研究に没頭するノニを交互に見やってから、盛大にため息をついた。




