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エルフの森で人形は目覚める 〜男がいない世界で、人形の僕だけが男でした〜  作者: 那霧 たすく


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第48話 母親2


 フェザーでフルツの村に向かう途中、僕は小川のほとりで休憩しながら、シレネの話に耳を傾けていた。


「私の親だった人は、あまり子供に関心を持たない人でした。特に私に魔法の才があると分かってからは、むしろ目の敵のように思われていた節すらあります」


 シレネが何げない様子で話し始めた内容は、僕にとっては衝撃的だった。

 みんな仲が良さそうに見えるフラウの村でも、そんなことがあるのか……? 


「私の親は心の病だったのだと思います。ほとんど放置されている私を見かねてゼフィラ様に引き取られてからは、幸せな日々を送らせてもらいましたし、その親も早逝して、もういません。病床を見舞った際には、憑き物が落ちたかのように、しきりに私に謝っていました」

  

 シレネは自嘲するように笑った。

 

「たぶん私は親の愛情というものに飢えていたのかも知れません。だからこそ、自分の娘にはできるだけ愛情を注ぎたいし、幸せになってもらいたい。そのためだったら労力は惜しみません」


 いつも優しそうにティリアを見守っていたシレネ。

 まあその反面、ティリアに害を及ぼすものには容赦がなかった訳だが、それにはそう言った理由があったのか。


「ケイ、私はあなたも自分の子供のように思っています。ですから、どうか幸せになってください。ケイがたくさんの女性たちを幸せにしたいと考えて頑張ってくれていることは知っています。ですが、そのせいで自分が不幸になるような選択肢だけは取らないで欲しい」

 

 シレネは真剣な瞳で、僕を見つめる。


「そして、わがままを言わせてもらえるなら、ほんの少しでいいから、他の人よりティリアを優先してあげて欲しい。身勝手なのは重々承知していますが、私にとってはティリアの幸せが最優先なのです」


「シレネ……」


「そうしてもらえるなら、私はどんなことでもします。もし邪魔をする者がいるようなら、全力で叩き潰しましょう。そう言えば、最近少しエーリカの様子がおかしい気がします。早めに対処しておいた方がいいでしょうか……」


 あっれー?

 さっきまでいい話だった気がするんだけど……

 

 拓けた河原を吹き抜ける風が、シレネの髪を靡かせる。

 流れる金色の輝きが光を反射して煌めいた。

 

 面と向かって年齢を聞いたことはないが、髪色と身体つきからして、シレネは200歳前と言ったところだろう。

 エルフの中ではまだ若い方であり、逆に肉体的には1番成長している時期だ。とは言え人間換算では20代程度だが。


 そんなシレネだが、先ほどからの話を聞いていると、既に老成した考え方をしているように感じた。

 親としてティリアの幸せを1番に願い、自分のことは特に望まず、二の次としている。


 ティリアを、そして僕の幸せを考えてくれるのは、とても嬉しいことだし、尊い考え方だとは思う。

 でも、本当にそれだけでいいのだろうか?

 シレネ本人の幸せについては、どうなってしまうのか?


 幼い頃に親の愛を受けられず、愛情に飢えていたシレネ。

 もちろんゼフィラからは愛情を持って接してもらえていたのだろうが、それはある程度成長してからの話らしいし、幼い頃にできてしまった心の隙間が本当に埋められたのかは疑問だ。

 だからこそ、ティリアに愛情を与えることで、擬似的にその穴を埋めようとしているようにも思える。


 だから、僕は決心した。


「シレネ、僕はちゃんとティリアを幸せにする。それは約束するよ」


「そうですか。ありがとうございます。私もティリアのために、これからも……」


「でも、僕はシレネも幸せにする」


「……はい?」


 シレネが、キョトンとした顔で僕を見つめる。

 こんな表情をしたシレネを見られるのは、中々のレアケースだ。


「な、何を言っているのですか? ああ、ティリアを幸せにするから、安心して欲しいという意味ですね?」


「違うよ。僕はシレネ本人も必ず幸せにする。もう寂しかった昔のことなんて思い出さなくなるくらい、僕のありったけの愛情を注いで、幸せにしてみせる」


 呆気に取られていたシレネの表情に、徐々に朱がさしてくる。

 な、何を馬鹿なことを……などとワタワタと慌てふためく様子が妙に可愛らしい。


「ケイ、先ほども言った通り、私はティリアさえ幸福ならそれでいいのです。私は母親としてそれを見守りますから」


「別に母親だからって、幸せになってはいけないなんて道理はないでしょ? 僕はシレネも大好きだよ。だから母娘(おやこ)そろって幸せにしてみせるよ」


「け、ケイ、あまり困らせないでください。私はケイのことも、私の子供同然に考えていると言ったはずですよ……」


「それでもいいよ。自分の子供同然に思っていた男の子から、女性として愛情を向けられるのは嫌?」

 

 僕の言葉に、シレネは顔を真っ赤にして、口をパクパクしている。あまりの事に、なんと答えていいか分からないみたいだ。

 

 うん、僕の記憶にある世界の常識で考えたら、だいぶ倒錯的な事を言っているな。その自覚はある。

 でも、そんなことは知ったこっちゃない。

 ここは女性しかいない世界で、僕はたった1人の男として、できる限りの女性を幸せにする事を目標にしているんだ。

 母親だろうが娘だろうが、好きなものは好きなんだから、まとめて愛してみせる。 

 僕は挙動不審な様子で狼狽えているシレネに近づき、そのまま抱きしめた。


「好きだよシレネ。別にティリアをおろそかにするわけじゃない。都合が良すぎる言い方かもしれないけど、2人とも幸せにするから、僕を受け入れてくれないかな?」


「け、ケイ……私は……その、ちょ、ちょっと考えさせてください!」


 真っ赤になったシレネが、素早く僕の腕からすり抜けて距離を取った。

 明らかに動揺しており、息も乱れている。


「うん、もちろん無理強いはしないよ。僕の気持ちは伝えたから、後はシレネが判断して?」


「わ、わかりました。さ、さあ、そろそろ出発しましょうか」


 そうだね、と僕は明らかに挙動不審なシレネを可笑しく思いながらフェザーに跨る。

 シレネも先ほどまでと同様に座席の後ろに跨ると、僅かに逡巡した後、僕の腰に手を回してしっかりとしがみついた。


 僕はフェザーを起動させて、フルツへの行程を再開した。

 今までと変わらず、シレネは僕の運転をサポートしてくれ、フェザーは快調に進んでいく。

 

 ただ、シレネが僕を掴む腕の力だけが、さっきまでより少しだけ強くなっているような気がした。



 ————————————————



 休憩からさらに1時間強くらい、フラウを出発してから大体4時間程度で、僕たちはフルツの村に到着した。

 元々歩きで野営をしながらだと、3日程かかかっていたことを考えると、格段の進歩だ。


 突然、見たこともない乗り物に乗った僕とシレネが現れたことで、村人たちが騒然とする。


「何事ですか!?」


 村の奥からフルツの族長であるノニが、慌てた様子でやって来た。

 僕は村人に囲まれたフェザーの傍らで、ヒラヒラと手を振る。


「やあ、ノニ。約束通り来たよ」


「ケイ……さん?」


 ノニの目が真ん丸に見開かれる。

 そのままフラフラと僕に近寄ると、本物かどうか確かめるように、僕の頬に触れた。

 そしてその手がそのまま僕の首の後ろに周り、ギュッと抱きついてくる。


「お待ち……していました……会いたかったです」


「うん。僕も会いたかったよ」


 僕も両腕をノニの背に回して抱きしめ返す。

 ノニが甘えるように僕に身体を擦り寄せる。

 2人の視線が絡み合い、顔が近付く。


「おほん!」


 シレネの咳払い。

 ハッと気付いて周りを見ると、フルツのエルフ少女たちが、キャアキャア言いながら、興味津々の様子で僕らを観察していた。

 

「あっ!し、失礼しました! こ、こんなところでは何ですから、私の家にどうぞ」


 羞恥で顔を真っ赤にしたノニが、慌てて僕から離れると、何とか取り繕おうとする。


「ええー、おわりー?」


「ノニ様、自宅に連れ込んで何する気ー?」


 囃し立てる村人たちに「な、何もしませんっ」とムキになって答えながら、ノニはそそくさと前に立って歩き出した。


「ケイ、私たちも行きましょうか」


 シレネに促され、僕もノニについて歩き出す。

 その際、フェザーのサイドバッグからK1たちを出して、村人たちへ愛想を振りまいておいてもらう。

 この村では以前来た時からKsたちの人気が高いので、ちょっとしたサービスだ。


 少女たちが歓声をあげてKsたちと遊び始めるのを横目に、僕はシレネと並んでノニの住宅兼診療所へと向かった……のだが。


「シレネ? なんか機嫌悪い……?」


「いいえ。そんなことはないですよ」


「そうかなあ……」


 ほら、早く行きますよと、さっさと歩いていくシレネに着いていく僕。

 その前方でノニが、何気ないフリをしてチラチラと僕らを気にしている。

 

 うん、まあ、何だ。

 さすがに気をつけよう、色々と。



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