第47話 母親1
僕とエーリカで作り上げたバイク型の乗り物、フェザーは晴れて僕の私物となった。
エーリカ曰く「こんなピーキーな乗り物、ケイしか扱えないよ」とのことなので、遠慮せず、ありがたく頂戴しておいた。
ついでに少し本体をいじって、更に自分好みに改良しておく。
目立つところでは本体後部横にサイドバッグを追加してみた。本来はちょっとした荷物や小物などを入れる用途を想定していたのだが、取り付けた翌日にフタを開けたらK1からK4までが並んで中に入っていた。
……うん、最近放置し過ぎてたな。わかったよ、お前らも連れて行くから、そんな無言の圧力をかけるんじゃない。
そんなわけで、サイドバッグの1つはKsに明け渡すことになったが、僕はようやく本来の目的のためにフェザーを活用することにした。
僕がフェザーのような乗り物が欲しかった本当の目的は……
「なに? フェザーに乗ってフルツやアニムまで行ってくるじゃと…?」
僕の目的を聞いたゼフィラは渋い顔をする。
まあ、ゼフィラの気持ちもわからないでもない。でもこれは先日、歩いてフルツとアニムに行った時から決めていたことだ。
「ゼフィラが心配してくれてるのはわかるけど、森の中でのフェザーの運転にも慣れたし、エルフの秘匿ルートを使えば道に迷うこともない。たぶんだけどフェザーの速度なら半日も掛からないで行けるはずだよ」
「うーむ。じゃが、最近はだいぶマシになったとは言え、魔獣に遭遇することだってあるのじゃぞ?」
「もし魔獣に出会ったとしても、フェザーの速度なら振り切れるよ。それに自惚れるつもりは無いけど、今の僕なら普通の魔獣程度は何とでもできると思ってる」
むう……じゃが、万が一ということも……と、それでも渋るゼフィラ。
まあ、ここまでは想定内。だから最後の一押し。
「じゃあ、フェザーの後部にはもう1人乗れるから、誰かに着いてきて貰うならどう? 魔獣とかトラブルがあった時の安全性も高められるし、まあちょっとした僕と2人の小旅行みたいな感じで」
「む? ケイと2人で……?」
ピクリとゼフィラが反応する。
実はこの前僕がエーリカを後ろに乗せてから、同じようにフェザーに乗りたがる人が増えているのだ。
だから荒っぽい運転の練習をする時以外は、希望者を後ろに乗せてあげているのだけど、これもなかなかの人気を博していて、僕がフェザーに乗り始めると、あっと言う間に順番待ちの行列ができてしまう。
お風呂の湯女番に次ぐ人気コンテンツ(?)だ。
立場上、あまり他の人達を差し置いて乗りたいなどとは言えないのだろうが、ゼフィラがちょっと羨ましそうに見ていたのにも気付いている。
それが、護衛や視察のためという理由を付けて、堂々と僕と一緒にドライブデートできるという魅力的なお誘いだ。この誘惑に抗えるかな?
「ま、まあそういうことなら、良かろう」
よし、堕ちたな。
……って、別に悪いことしてるわけじゃないからね?
他の村との迅速なやり取り、連携を行うための試験と、女性に男性とのデートを体験させるという一石二鳥の妙案だ。
「ありがとう、ゼフィラ。じゃあ早速だけど明日フルツに行こうと思うんだ。僕の男性機能についての研究も最終段階に来ているし、ノニに相談したい事があるんだ」
「うむ。ならば今回は儂が一緒に着いていくと……」
「お待ちください。ゼフィラ様」
ウキウキした様子で同行を申し出ようとしたゼフィラを遮る声。
その声の主はシレネだった。
今、僕たちは自分の家で話をしている。家には当然シレネやティリアもおり、2人で夕食の準備をしていたのだが、いつの間にかそのシレネが僕たちの傍らに来ていた。
「ゼフィラ様には、明日は外せない用事があるはずですが?」
「ふぁ? そ、そうじゃったかの?」
「はい。最近外出が多かったですから、明日はさすがに村に居てもらわないと困ります」
「む、むぅ……」
ああ、ゼフィラがショボンとしてしまった。
とは言え、最近シレネに代行を任せっきりだったからなあ……もう、どっちが族長かよく分からなくなってるし。これは仕方ないか。
「えっと、じゃあ僕は誰と一緒に行けば?」
僕の言葉に、台所から顔を出したティリアが、目をキラキラさせてハイハイ!と手を挙げる。
シレネはチラリとそちらに視線をやった後、小さくため息をついた。
「さすがにティリアには早すぎます。私が行きましょう」
えー!と不満そうなティリアと、恨みがましい目で見ているゼフィラをピシャリと制止し、シレネが自ら名乗りをあげた。
そう言えば、シレネは最近ずっと留守番だったもんな。さすがにそろそろ鬱憤が溜まっているのではないだろうか?
「そんなことはないですよ。私はティリアの側にいてあげることが1番の望みですから」
シレネはティリアを微笑んで見つめ「ティリアは、もう少し実力が付いてからね?」と優しく諭した。
「はーい」と、残念そうだが素直に返事をしているティリアの頭を撫でてやる。
「ティリアはまた今度、近くの森の中を走る時に乗せてあげるから」
「うん! 楽しみにしてるね!」
ゼフィラの視線が「ズルい」と訴えているが、まあ今回は仕方ない、諦めてもらおう。
どちらにしろ、他の村との折衝など、ゼフィラでないと対応できない件も多いのだから、すぐに次の機会があるはずだ。
「じゃあ、明日よろしくね、シレネ」
「はい、わかりました」
シレネはいつもと変わらない様子で頷いた。
シレネと2人きりなのは、何気に初めてかもしれない。
せっかくだから、この機会にシレネとも、もっと仲良くなれればいいと思う。
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翌朝、早い内に僕とシレネは村を出発した。
さすがに初めての長距離ドライブであるので、少しでも時間に余裕を持ちたかったというのが主な理由だが、今回はその他の人たちに何も説明しないで出発を決めてしまったので、見つかると時間を取られそうというのも、ちょっとだけあった。
フェザーのサイドバッグには、本当に最低限の荷物しか入っていない。
僕としては、最悪フェザーが故障でもしたら野宿をする羽目になるかもしれないので、それなりの準備が必要と考えていたのだが、シレネにすれば、この森で遭難するようなエルフなど居ないそうだ。
ルベルムの行商隊のように、大量の荷物を大人数で安全に運ばなければならないともなると、それなりの準備が必要になるが、基本的にはエルフたちはナイフ1本あれば、森で飢えることも寝場所に困ることもないらしい。
さらに言えば土魔法の達人であるシレネには、そのナイフすら不要だとのこと。
幼い頃から森と共に育ち、森の恵みを得て生きることを教え込まれているエルフならではだ。
だからこそ、最近の魔獣大量発生以前は、もっと気軽に各村との交流があったらしい。
まあ、そうは言っても、少し前の『エルフ喰い』騒動……魔獣の大侵攻があって以来は、魔獣の被害もぐっと減っており、この前の侵攻時にほぼ討伐し尽くたのではないかと考えられていた。
まだ安心はできないが、このまま昔のように他の村との密な交流ができればいいと思うし、このフェザーでの移動も、その一端を担える事を目指している。
村を出発した僕らは、森の中でフェザーを走らせる。
僕の知識にあるバイクと違って、地面から浮いて移動しているので、小さなデコボコなどは全くものともせず、スムーズな走行だ。まあ、そうは言っても森の中だからアップダウンはあり、それなりに揺れる。
「シレネ、大丈夫? しっかり掴まっててね?」
「はい。これくらいなら問題はないですよ」
とりあえず速度は控えめにしているが、ある程度の大きさの段差があると、やはり車体が跳ねたりする。
一応は安全のため、落ちない程度に僕の身体と固定しているが、シレネはしっかりと僕の身体に掴まってくれていて、むしろ一緒にバランスをとってくれているようで、すごく安定して運転しやすい。
「ケイが危なくないなら、もっとスピードを出しても平気ですよ」
「そう? じゃあちょっと速度を上げるよ。怖かったり危なそうなら言ってね」
僕は魔力を調整して、さらにアクセルを開いた。
軽快に速度を上げるフェザーを操って、木立の間を走り抜けて行く。
シレネは僕の行きたい方向が分かるのか、見事な体重移動で運転をサポートしてくれる。どうやら僕の魔力の流れを見ているようだ。
「あ、そこの道は右に行った方が良いですよ。距離は少し伸びますが、そちらの方が道が平坦なので速度を出せると思います」
などと、進む道についてアドバイスまでしてくれる。
僕はだんだんと楽しくなってきて、いつの間にかクロスカントリー的な運転までし始めるが、シレネはむしろ楽しそうにナビゲートしてくれていた。
運転に夢中になってしまい、気づけば大分時間が経っていた。日の高さからして2時間くらいは運転していただろうか。
「えっと、ここはどの辺りだったかな……」
「フルツまでは、もう半分以上来ていますね。あまりの速さに驚きました」
「え、もうそんなに? ごめん、ちょっと休憩しようか」
僕はちょうど走っていた小川沿いの道から、河原に降りてフェザーを停止させた。
僕は身体の作り的に、魔力さえあればそんなに疲れたりはしないけど、シレネは別だ。本当はもう少し休み休み移動するつもりだったんだけど……
「全然問題ないですよ。とても楽しかったので、まだまだ行けましたよ」
シレネはフェザーから降りながら、軽く伸びをしている。気を使っているわけではなく、本当に平気そうだ。
そう言えば土魔法の使い方を習っている時にも、とんでもなく大きな岩の剣を振り回していたし、身体能力も高いのだろう。
「ケイ、最近土魔法の訓練はしていますか?」
綺麗な小川を覗き込んでいたシレネが、僕の考えを読んだかのように問いかけてくる。
シレネは僕の土魔法の先生でもあるが、最近はなんやかんやで、あまり直接指導は受けていなかった。
「うん、ちゃんと練習してるよ。シレネから岩の剣の作り方を習ったおかげで、アニムでリオンともいい勝負できたしね。僕には土魔法が向いてるみたいだし、もっと腕を磨きたいと思ってる」
「そうですか。何か困ったらいつでも相談してください。ケイには、いつかティリアと一緒に私の技術を受け継いでもらえると嬉しいです」
本気か冗談かよく分からない微笑を浮かべるシレネ。
まあシレネのティリアに対する愛情を見ていると、少なくともティリアに跡を継がせたいとは思っていそうだ。
「そう言えば、シレネは随分ティリアを可愛がってるよね」
まあ自分の子供を可愛がるのは当たり前と言えば当たり前なんだけど。
それにしても、この世界の特殊な親子関係を考えると、他の家族に比べても顕著な気がする。
「……そうですね。もしかしたら、私が幼い頃の反動なのかもしれません。元々私の親だった人は、あまり子供に関心を持たない人でした。特に私に魔法の才があると分かってからは、むしろ目の敵のように思われていた節すらあります」
シレネが何げない様子で話し始めた内容は、僕を驚かせるものだった。




